輸出が伸び悩む理由について 会合後の記者会見で黒田総裁は 海外生産シフトといった構造的要因があるとしながらも 1ASEAN 景気の弱さ 2 米国の寒波や東アジアの春節の影響 3 駆け込み需要への対応から企業が国内向け出荷を優先する動きが見られることを挙げ 一時的な要因も相応にあると説明した 今後 先

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経済・物価情勢の展望(2018年1月)

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

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黒田総裁が 10 月 6 7 日の金融政策決定会合や 直前の参議院財政金融委員会 (10/28) でも物価目標達成への自信を示していたため 市場では今回は追加緩和が行われないとの見方が大勢であった 追加緩和は市場にとってサプライズとなり 株高 円安が進展することとなった 日銀は 追加緩和を行った理由

金融政策決定会合における主な意見

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

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当面の金融政策運営について(「量的・質的金融緩和」を補完するための諸措置の導入、12時50分公表)

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

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日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

わが国の経済・物価情勢と金融政策

資料1

経済学でわかる金融・証券市場の話③

Microsoft Word ECB利下げ.doc

3. 資産購入プログラムの円滑な実施に向けた選択肢が検討されることに上述の通りECBの景気 物価見通しがほぼ変わらない中 記者会見においてドラギ総裁は 実施期間の延長や購入規模の拡大などは議論していない ことを明かした 理事会の前には 9 月理事会で資産購入プログラムの実施期間が延長されると予想する

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第1章

PowerPoint プレゼンテーション

マイナス金利付き量的 質 的金融緩和と日本経済 内閣府経済社会総合研究所主任研究員 京都大学経済学研究科特任准教授 敦賀貴之 この講演に含まれる内容や意見は講演者個人のものであり 内閣府の見解を表すものではありません

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

タイトル

< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入

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グローバル・マクロ・ウォッチ

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

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チーフエコノミスト : 高田創 [ 経済予測チーム ] 山本康雄 ( 全体総括 ) 米国経済小野亮 山崎亮

証券市場から見た消費税引上げを巡る論点

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

2. 消費税率引き上げが個人消費に与える影響 (1)1997 年度の消費増税時のレビュー ~ 大きかった駆け込み需要の影響消費税は 89 年 4 月に税率 3% で導入され 97 年 4 月に 5% に引き上げられた 89 年度の導入時は従来の物品税廃止によって自動車など耐久財の多くが実質減税となっ

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

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エコノミスト便り

4月CPI~物価は横ばいの推移 耐久財の特殊要因を背景に、市場予想を上回る3 ヶ月連続の上昇

○ユーロ

PowerPoint プレゼンテーション

金融テーマ解説

平成30年全国証券大会における挨拶

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短期均衡(2) IS-LMモデル

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

経済:マーケット・フォーカス

実際 円安に伴う原材料コストなどの上昇を背景に 食品メーカー各社は1 月以降の値上げを表明している ( 前頁図表 1) 即席めんや冷凍食品 アイスクリームなど幅広い品目が値上げ対象となっている模様である 日銀短観の2014 年 12 月調査によると 食料品製造業の想定為替レート (2014 年度 )

Economic Indicators   定例経済指標レポート

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

中小企業の動向

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月例経済報告

消費増税と原油高でデフレ脱却とインフレ目標はどうなる?

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

PowerPoint プレゼンテーション

(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

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1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

受益者の皆様へ 平成 28 年 2 月 15 日 弊社投資信託の基準価額の下落について 平素より弊社投資信託をご愛顧賜り 厚くお礼申しあげます さて 先週末 2 月 12 日 ( 金 ) 以下のファンドの基準価額が 前営業日の基準価額に対して 5% 以上下落しており その要因につきましてご報告いたし

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PowerPoint プレゼンテーション

平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

低インフレ 乏しい利上げ観測労働市場に目を向けると 8 月の失業率は約 年ぶりの低水準となる5.3% に低下した 雇用者数も伸びており 一部では技術者不足の声も聞かれる RBAは今後数年 失業率は自然失業率とされる5.% を目指して低下が続くとの見方を示している ただ 賃金の上昇率は ~ 月期が前年

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

退職等年金給付積立金 平成30年度第2四半期運用状況

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Microsoft Word - jp1309(インターネット用).docx

長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

12月CPI

平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

平成28年度公金管理運用計画

経済金融・情勢資料  15年7月 

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マネーマーケットマンスリー

【16】ゼロからわかる「世界経済の動き」_1704.indd

Microsoft Word - 15_2

実際 ドル円相場と日米金利差の推移をみると概ね相関していると言え その相関係数は振れを伴いながらもとりわけ高い相関を示している時期もあることが確認できる ( 前頁図表 1 2) 一方 最近みられる傾向として注目されるのがドル円相場と日本株の相関の高さである 2. ドル円相場と日本株の関係 (1) 高

平成23年11月1日

PowerPoint プレゼンテーション

共働きは 収入源の分散化や世帯所得の増加をもたらすことから 基本的には消費に対する自由度を高めるものと予想される つまり 配偶者収入も含めて 収入が消費に結びつきやすくなる可能性があるということだ しかし 実際には 共働き世帯が増加しているにも拘わらず 家計は消費に対して慎重になっているようだ 世帯

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経済見通し

別紙2

平成22年7月30日

MONEX 個人投資家サーベイ 2016年2月調査

米国株 投資家心理が落ち着けば 上昇基調に回帰と想定 株式市場 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 長期金利の上昇を契機に急落米国株式市場は下落しました 月初に発表された1 月の雇用統計において 時間当たり賃金が市場予想を上回る伸び率となったことを受けて 長期金利が約 4 年ぶ

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個人消費活性化に対する長野県内企業の意識調査

第 1 四半期運用実績 ( 概要 ) 運用利回り +1.54% 収益率 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1.02% 実現収益率 ( )) 運用収益額 +3,222 億円 総合収益額 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1,862 億円 実現収益額 ( )) 運用資産残高 ( 第 1 四半期末 )

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Transcription:

みずほインサイト マーケット 2014 年 3 月 18 日 期待マネジメントに挑む黒田日銀 4 月以降夏場にかけての追加緩和を予想 市場調査部シニアエコノミスト野口雄裕 0335911249 takehiro.noguchi@mizuhori.co.jp 日本銀行は 3 月の金融政策決定会合で金融政策を据え置く一方 景気判断では輸出を下方修正した 黒田総裁は経済 物価見通しに強気の見方を示しているが 市場の追加緩和期待は根強い状況だ 黒田総裁は 追加緩和の可能性に言及しつつも 現時点での追加緩和は不要と発言している 追加緩和をできる限り温存しながらインフレ期待を高める戦略と考えられる 物価目標 2% を 2 年で達成するとの目標を掲げる限り 日銀の追加緩和は避けられないだろう 4 月以降夏場にかけての金融政策決定会合で追加緩和が行われると予想する 1. 輸出の判断を下方修正日銀は 3 月 10 11 日の金融政策決定会合で金融政策を据え置く一方 輸出の判断を下方修正した 黒田総裁は物価目標達成への強気の見方を示しているが 市場での追加緩和期待は根強い状況だ 今次会合では金融政策の変更はないとの見方が多かったため 会合後の市場の反応は限定的となった 景気判断については 総括判断は 緩やかな回復を続けている と前月から変更はなかったが 輸出は前月の 持ち直し傾向にある から このところ横ばい圏内の動きとなっている と下方修正された ( 図表 1) 他方 設備投資判断は 持ち直している から 持ち直しが明確になっている と前進した 最終需要項目での下方修正は 昨年 4 月の量的 質的金融緩和後初めてとなった 図表 1 日銀の景気判断 ( 総括判断 設備投資 輸出 ) 2013 年 4 月 総括判断下げ止まっており 持ち直しに向かう動きもみられている 5 月持ち直しつつある 設備投資非製造業に底堅さがみられるものの 全体として弱めとなっている 非製造業が引き続き底堅く推移するなか 全体としても下げ止まりつつある 下げ止まっている 6 月持ち直している 持ち直しつつある 7 月緩やかに回復しつつある 企業収益が改善するなかで下げ止まっており 持ち直しに向かう動きもみられている 持ち直している 8 月 輸出 2014 年 9 月緩やかに回復している 企業収益が改善するなかで 持ち直しつつある 持ち直し傾向にある 10 月 企業収益が改善するなかで 持ち直している 11 月 12 月 1 月 緩やかに回復を続けており このところ消費税率引き上げ前の駆け込み需要もみられている 2 月 3 月 ( ) 記載がない欄は判断が据え置かれたことを示す ( 資料 ) 日本銀行よりみずほ総合研究所作成 企業収益が改善するなかで 持ち直しが明確になっている このところ横ばい圏内の動きとなっている 1

輸出が伸び悩む理由について 会合後の記者会見で黒田総裁は 海外生産シフトといった構造的要因があるとしながらも 1ASEAN 景気の弱さ 2 米国の寒波や東アジアの春節の影響 3 駆け込み需要への対応から企業が国内向け出荷を優先する動きが見られることを挙げ 一時的な要因も相応にあると説明した 今後 先進国の成長率が高まっていけば輸出も増加していくとの見方だ 一方 消費者物価上昇率 ( 除く生産食品 ) は 昨年 1 月に掲げた目標の前年比上昇率 2% に対し 今年 1 月には前年比 +1.3% まで高まっている 日銀の展望レポート (2014 年 1 月 ) における 2013 年度の物価見通し+0.7%( 政策委員見通しの中央値 ) の達成は確実な状況だ 食品及びエネルギーを除く消費者物価上昇率も+0.7% となり 1998 年 8 月以来の水準となっている 黒田総裁は 2014 年度後半から 2015 年度前半にかけ 消費者物価上昇率は 2% に達する と強気の見方を示している しかしながら 消費者物価はエネルギー価格による押し上げ効果が剝落し 今後 上昇幅が鈍化することが見込まれる 日銀は今後の物価見通しについて 2014 年前半は1% 台前半で推移し その後再び上昇傾向に復し 2% に到達するとの見方を示している 日銀と民間の 2014 年度の物価見通しは乖離しているが 消費増税後の物価上昇スピードに対する見方の違いが要因と思われる 当社の見通しでは 年前半は消費税を除くベースで 1% 台前半での推移となるものの 年後半は 1% を下回ると予想している ( 図表 2) 2 年で 2% の物価目標を達成することは困難で 日銀は早晩追加緩和を行うとの見方が大勢だ 2. 期待のマネジメントに挑む黒田日銀黒田総裁は 経済 物価見通しに強気の見方を示しながらも 追加緩和の可能性も否定していない 追加緩和策をできるだけ長く温存しつつ 量的 質的金融緩和の目的であるインフレ期待を高めるための戦略と考えられる 追加緩和期待の高まりに対し 黒田総裁のコメントは首尾一貫している 物価見通しについては 2% の物価安定目標実現への道筋を順調にたどっている と強気の見方を示す一方 追加緩和の可 ( 前年比 %) 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 図表 2 消費者物価上昇率の見通し 食料 ( 酒類 生鮮食品除く ) 米国基準コア CPI エネルギーコア CPI 1.0 12/1 12/7 13/1 13/7 14/1 14/7 ( 資料 ) 総務省 消費者物価指数 よりみずほ総合研究所作成 見通し 2

能性については 日銀の見通しの下振れリスクが顕在化する場合は 躊躇なく現在の量的 質的金融緩和の調整を行う と否定していない 量的 質的金融緩和の目的はインフレ期待を引き上げることにあるが そのためには将来物価が上昇するとの期待が高まることに加え 実際に物価が上昇していくことも重要だ 日銀は インフレ期待の形成メカニズムについて 将来の物価上昇期待である 合理的期待形成 による部分に加え 実際の物価上昇による影響 つまり 適応的期待形成 による影響が相応にあるとしている しかしながら 2% 達成に依然距離がある中では 実際の物価上昇だけでなく 日銀が 2% の物価目標達成への強いコミットメントを示し続け 期待に働きかけることにより さらに引き上げていく必要がある これまでのところ日銀の想定通り物価が上昇していることもあり 日銀としては なるべくぎりぎりまで追加緩和を温存してインフレ期待を引き上げたいというのが本音だろう 黒田総裁の発言は こうした狙いを踏まえたものと考えられる 日銀による期待のマネジメントが量的 質的金融緩和成功の鍵を握っている それでは インフレ期待は実際に上昇しているのであろうか 量的 質的金融緩和における期待への働きかけの問題点は 期待の高まりをどのような指標で検証するのかが不明確な点だ 日銀は家計の予想物価上昇率や物価連動国債のBEIなど 様々なデータを示し期待が高まっていると主張している 債券市場参加者が予想する物価上昇率見通しを見ると 中長期的な物価見通しである今後 10 年の物価見通しは 昨年後半以降緩やかに上昇してきたが 未だ 2% を下回っており 足元は横ばい推移となっている ( 図表 3) 2 月の金融政策決定会合で決定された貸出支援措置の延長 拡充は 期待への働きかけの好事例と言える ( 図表 4) このスキーム自体は 企業の資金需要が高まることが前提であり 効果は未知数だ しかしながら 貸付枠を 2 倍にするなど 量的 質的金融緩和のキーワードである 2 倍 という表現が盛り込まれたことで 市場の追加緩和期待を高め 会合後に円安 株高が進んだ 年初以降の新興国不安が落ち着いた後 米国株に対し日本株の戻りが鈍くなっており 1 月以降 海外投資家 (%) 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0.5 図表 3 市場参加者のインフレ期待 今後 10 年 今後 2 年 今後 1 年 物価目標 2% 1.82 1.0 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 2011 年 2012 年 2013 年 ( 月 ) ( )CPIコア変化率の見通し( 消費税含む平均値 ) ( 資料 )QSS 月次調査 ( 最新調査 :2014 年 3 月 3 日 ) 1.72 1.36 貸付限度額 貸付条件 図表 4 貸出支援措置 ( 貸出増加を支援するための資金供給 ) 変更前変更後 金融機関の貸出増加額相当額 ( 無制限 )( 1) 年 0.1% 1 年 2 年又は 3 年 最長 4 年まで借換可能 金融機関の貸出増加額の 2 倍相当額 ( 無制限 )( 2) 4 年固定 0.1% 1 年毎に金融機関のオプションによる期日前返済可 87 先 50,843 億円 (2013 年 12 月貸付残高 16 日時点見込み ) ( 1) 直近の貸出増加額を踏まえた資金供給額想定は15 兆円 ( 2) 直近の貸出増加額を踏まえた資金供給額想定は30 兆円 ( 成長基盤強化を支援するための資金供給 ( 本則 ) ) 貸付限度額 貸付条件 変更前 総枠 :3.5 兆円 対象金融機関毎の上限 :1,500 億円 年 0.1% 原則 1 年 3 回まで借換可能 ( 最長 4 年 ) 71 先 32,393.4 億円 (2013 年貸付残高 12 月 6 時点見込み ) ( 資料 ) 日本銀行よりみずほ総合研究所作成 変更後 総枠 :7 兆円 対象金融機関毎の上限 :1 兆円 4 年固定 0.1% 1 年毎に金融機関のオプションによる期日前返済可 3

の日本株売り越しが続いていることなどを踏まえると 海外勢を中心にアベノミクス相場の持続性に対する懐疑的な見方が台頭している可能性は否定できない 日銀は 市場の不安に先行的に対応し 期待の維持を図ったものと考えられる 2 月の金融政策決定会合の議事要旨では 多くの委員が 金融機関の一段と積極的な行動や企業 家計の前向きな資金需要の増加を強力に促し 日本銀行としての 強い意思 を示す観点から 資金供給と規模と期間の面で 思い切った拡充を行ってはどうか との発言も見られた 3.4 月以降夏場にかけての追加緩和を予想日銀の追加緩和の目的がインフレ期待の引き上げであることを踏まえると 市場に対して後手に回らない政策対応がポイントとなる 日銀は 市場の期待をつなぎとめながら インフレ期待を引き上げる最適なタイミングで追加緩和を行うだろう 追加緩和のタイミングとしてまず考えられるのは 4 月 30 日の金融政策決定会合である 当会合では 展望レポートの発表が予定されており 2016 年度までの経済 物価見通しも示される予定だ 4 月の消費増税による景気下振れへの対応を前倒しで行うというものだ 日銀は展望レポートで消費増税による影響は織り込み済であるとしているものの 10~12 月期の実質 GDP 下方修正を受け 黒田総裁は 4 月の展望レポートで今後の経済 物価見通しを再度検証する旨発言をしている 日銀の 2013 年度の成長率見通し+2.7% は下方修正される可能性が高く 2014 年度以降の経済見通しも見直される可能性がある 通常の金融政策運営であれば 消費増税の影響を経済指標で見極めてから対応すると考えられる 4~6 月期の成長率を確認して対応するのであれば 8 月ということになる しかしながら 期待のマネジメントの観点でいえば 事後的な追加緩和は 市場が追加緩和を織り込んでからの対応となり インフレ期待を引き上げる効果は限定的となるだろう インフレ期待は 4~6 月期の景気下振れにより低下する可能性があり これを回避するには早期の対応が効果的だ 市場に サプライズ を与えることも期待の引き上げには効果的であることを考えると 市場の緩和期待が後退している時期こそ むしろ追加緩和の好機と言えよう 日銀の森本宜久審議委員は 2 月 20 日の記者会見で 足元と先行きの状況を見通して 見通しの基本的なパスに変化が生じているのかどうかという点を毎回見極める とし 予防的な対応の可能性を否定していない 但し 追加緩和を何度も行うと期待に働きかける効果が低下しかねない 追加緩和の必要がないと判断した場合は追加緩和策を温存し 市場の期待をつなぎとめる何らかのメッセージを出すといった対応も考えられる 4 月の対応が見送られた場合も 2014 年度後半に物価上昇率が 2% に達するとの目標を掲げる限り 早晩追加緩和は避けられないだろう 次のタイミングは夏場までに開催される金融政策決定会合だ 7 月会合では 4 月に発表される展望レポートの中間評価が行われる 安倍政権は年末にも 2015 年度の消費税率引き上げ (8% 10%) の判断を迫られることになる 消費税率引き上げを決断するには 7~9 月期の成長率が持ち直し その後も成長が持続していくことが見通せることが必要だ 消費増 4

税が実現できなければ 財政悪化懸念から長期金利が上昇し 景気が下振れる要因となり得る 夏場に追加緩和を行うことで 金融政策面から 2015 年の消費増税の実現をサポートすることも考えられる 政府の新成長戦略も 6 月末に発表される予定であり 同時期に追加緩和を行えば 更に期待を押し上げる効果も期待できるだろう 物価目標 2% を 2 年で達成する必要はなく 経済成長に見合った物価上昇が維持されていれば問題ないとの見方もある しかしながら 黒田総裁は 消費者物価指数は実態よりも高めに出る傾向があり ある程度ののりしろが必要 と述べており 2% の物価目標を簡単には引き下げないだろう 2016 年度には 5 年ごとの消費者物価指数の改定が予定されており 過去の経緯を踏まえると改定のタイミングで物価上昇率が下方修正される可能性がある 物価が上昇し 2% が見通せるようになれば 人々の物価観が変化し 実体経済を変化させる可能性も考えられよう 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります 5