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寄稿記事液晶テレビ用 LED バックライトの現状と将来動向 御子柴茂生 電気通信大学電子通信学部電子工学科教授 液晶テレビ用バックライトとして冷陰極蛍光管, 外部電極蛍光管, 有機 EL など種々の技術がある が,LED を用いたバックライトは他の技術では替え難い特徴を有する 動画表示時に発生するぼや けや色分離を減らすためには正確なタイミングでのバックライト点滅が必要であるが, 応答の速い LED を用いれば比較的容易に実現できる 消費電力を低減し, またコントラストを高めるには, 赤, 緑, および青色発光 LED をそれぞれ独立に調光することが必要である これは白色発光の蛍光管で は実現できない また低輝度レベルにおける正確な LED の輝度コントロールにより, 多階調表示が 可能となる 色再現範囲も他の技術に比べて優れている 欠点は,1 台のセットに多数の LED を要 すること, すなわちコストである 1 ルーメン *1 を発生するのに冷陰極蛍光管では 7 円程度かかる のに対し,LED はその 20 倍である 1. はじめに 液晶素子はバックライト光のシャッターとして機能し, これにより画像を表示する ただし, シャッターを最大限に開いても, わずか 5% の光しか透過しない, 極めてエネルギー効率の悪いデバイスである 原因は RGB 光の平均透過率が 1/3 であるカラーフィルタや, 白色光の透過率が 1/2 である偏光フィルタの使用, さらに薄膜トランジスタ (TFT) により開口率が制限されるためである 発光効率改善のために種々の策が採られてきたが, バックライトによっても効率の改善が期待できる 画質の改善も見込まれる 表 1 に液晶テレビに必要な改善項目を挙げる バックライトユニット (BLU) の出荷台数は, 図 1 に示すように 4 年でほぼ倍増のペースである LED を用いた BLU の成長は, これよりもさらに早い 表 1 LC-TV に必要な改善項目 動画のぼやけ, 色分離低減 暗室コントラスト改善 中間調表示特性改善 消費電力低減 色再現範囲拡大 対環境性 価格低減 1 エスペック技術情報 No.52

図 1 バックライトユニットの出荷台数 2. 動画像の乱れ低減 LCD に動画像を表示すると, 画像にぼやけが発生する v [pixel/tv field] を 1TV フィールドの時間内に画像が何画素分動いたかという速さ,T [TV field] を何 TV フィールド間画素の発光が続いたかという発光期間とすれば, ぼやけの幅は vt [pixel] で表すことができる 通常,TFT-LCD の発光時間 T は 1TV field,16.7ms である したがって, たとえば速度 v が 10[pixel/TV field] である画像を表示すると, ぼやけ幅は 10 画素の範囲に広がり, 解像度は大きく低下してしまう ブラウン管の蛍光体発光時間は 1μs 程度であるため, このぼやけ幅は画素サイズの 0.1% 程度にしかならず, したがってブラウン管にぼやけは発生しない この例が示すように, ぼやけを低減するにはバックライトの発光時間を短縮すれば良い 図 2 中最上行は表示したいパターン, 第 2 行はこのパターンが動いたとき網膜に映る像の時間的変化, 最下行は視認されるパターンである 左図のバックライトが常時点灯している場合は, パターンが著しくぼやけ, コントラストが低下している 右図は発光時間を 1/8 に短縮した場合であり, ぼやけは著しく改善されている 実際には液晶が十分に立ち上がったときにバックライト光も立ち上がっているように調整することが必要である 1) この点,LED は冷陰極蛍光管 (CCFL) と異なり立ち上がり時間が無視できるため調整が比較的容易である 図 2 動画像のぼやけ エスペック技術情報 No.52 2

図 2 の例では, ぼやけは改善されるが表示画像の輝度が 1/8 に低下してしまう この対策としては, フレーム周波数を高くすればよい NHK は 480Hz を提案している またフィリップスは standard definition では 120Hz,high definition では 200Hz,1080p 駆動の full-specification high definition (FHD) では 325Hz を提案している 昨今市販され始めた 120Hz 駆動 FHD は, 未だ十分に改善された画質にはなっていない たとえば 6 倍速の高周波駆動する場合, 図 3 に示すように 2 つのフィールド間に新しい画像を 5 枚内挿しなければならない これには画像の動き検出が必要である しかし, 例えば MPEG2 の検出法は, テレビ表示には不十分である 図 4 の例をみると, 同一輝度のまま単に上下左右に平行移動するならば検出は容易であるが, 実際にはズームイン / アウト, フェードイン / アウト, あるいは笑うときに眉毛が上がり目頭が右にずれ目尻が下がる, など微妙な顔の表情の変化を検出するのは容易ではない 信号処理によるノイズが混入する場合もある 図 3 高周波駆動と新しいフィールドの内挿 図 4 動き検出の困難な例 3 エスペック技術情報 No.52

3. コントラストの改善 LCD の明室コントラストは高い カラーフィルタと偏光フィルタが外光を吸収するためである しかし, 暗室コントラストは高くない これは,LCD 信号電圧を 0 にしても, 液晶の透過率が完全には 0 にならないためである 暗室コントラストは, バックライト発光面をいくつかのマトリクス状ブロックに分け, それぞれのブロックの明るさをテレビ信号に応じて調光するローカル ディミングにより大幅に改善することができる 図 5 の例において, 説明上分かりやすいようバックライトを上のブロックと下のブロックの 2 つに分ける 上のブロックには明るい太陽があるため, バックライトが最高輝度で点灯する 一方下のブロックに発光する物体はないため, バックライトの輝度を 0 とする この結果, コントラストは無限大となる 図 5 ローカル ディミングと黒レベルの不均一性 実はこの方式には落とし穴がある 白線のすぐ上の黒い部分は, 液晶の光のリークのため, 輝度は 0 とならない 一方白線のすぐ下の黒い部分の輝度は 0 である したがって, 白線をはさんで一様な黒とはならない これを補うためには誤差拡散 *2 やディザー *3 などの追加手段が必要となる エスペック技術情報 No.52 4

4. 中間調表示 図 6 は, 線形入力信号に対して線形出力を有するデバイスの輝度特性である 縦軸の出力輝度 B は, 輝度計などで機械的に測定している このディスプレイを人間が観測すると, 図 7 のように視認輝度 P が高輝度部で飽和する 例えば天井に照明用蛍光灯が 100 本並んだ部屋を考えよう 最初の 1 本を点灯すると, 未だ暗いが物が見え, さらにもう1 本点灯すると倍の明るさになる しかし 99 本点灯した状態で 100 本目を点灯しても, その差は殆ど分からない 室内入力信号レベル 254 と 255 の視認輝度 P の差を d としたとき, 入力信号レベル 0 と 1 の視認輝度差は d の 84 倍となる つまり眼は低輝度レベルの明るさに対して極めて敏感なのである したがって, 階調表示特性として 8 ビット,256 階調では低輝度レベルにおいて量子化ノイズが発生してしまう 図 6 線形入力に対し輝度計で測定した出力輝度 図 7 線形入力に対する視認輝度 5 エスペック技術情報 No.52

液晶分子や TFT は非線形特性を有するため, 例えば 11 ビットの多階調表示をすることは困難である ところが LED バックライトの輝度レベルに 3 ビットを与えて 8 ビット表示の LCD と組み合わせれば, 合計 11 ビット表示が可能となる 図 8 に 8 ビットおよび 11 ビット表示をしたときの輝度の実測値を示す 2) 中央の縦破線は, バックライト輝度を変えた信号レベルを示している 破線の前後で表示輝度はジャンプも反転もしていないことが判る 図 8 液晶とバックライトを組み合わせた 11 ビット中間調表示 さらに 8 ビット入力信号に対して例えば 11 ビット表示の能力がある場合, ガンマ特性をいろいろと変えることができる 図 9 左図は入力と出力とが比例した,γ=1 特性による表示である 右図は, 逆 S 字型のγ 特性を与えており, 特に低い輝度レベルと特に高い輝度レベルに対する階調表示特性を強調した例である このように画像の表現能力が増大する 図 9 ガンマ値の最適化による画質改善 エスペック技術情報 No.52 6

5. 色再現範囲 図 10 に通常の CCFL,LED, および RGB カラーフィルタのスペクトルを示す 3) 図中に示した 2 つの丸印は,CCFL に対して混色が発生し, 色純度が低下してしまう原因を示している LED に対してはこのような混色が発生せず, したがって色再現範囲は図 11 に示すように広い 3) 図 10 CCFL,LED, およびカラーフィルタのスペクトル 図 11 CIE 色度図上の色再現範囲 7 エスペック技術情報 No.52

6. 消費電力低減 入力テレビ信号に適応して調光を行うローカル ディミングによる消費電力低減の原理を図 12 を用いて説明する 4) 図の最上行は, 高輝度画像を表示する場合である 入力信号, バックライト輝度, 表示輝度, およびバックライトの消費電力を 100% とおく 2 行目の, たとえば入力信号が 25% の輝度レベルを表示する場合, 従来の方式ではバックライト輝度を 100% に保つため, バックライトの消費電力は 100% のままである 3 行目のローカル ディミングにおいては, 信号レベルを 4 倍の 100% に拡大し, 同時にバックライト輝度を 1/4 に落とす すると表示輝度は 25% のままであるが, バックライト電力が 25% に低下する 図 12 ローカル ディミングによる消費電力低減の原理 ローカル ディミングには, 図 13 に示すように 0 次元 (0D),1 次元 (1D), および 2 次元 (2D) ディミングがある 0D ディミングは例えば平板状蛍光ランプに,1D ディミングは,CCFL,EEFL などの線状ランプに, また 2D ディミングは LED やマトリクス構造を有する OLED などに用いることができる それぞれのディミングの方法を用いて図 14 の Sunset および Statue of Liberty と称する 10 秒のサンプル動画に対するバックライト消費電力を試算したところ, 表 2 の結果が得られた 5) それぞれの動画のガンマ補正後の時間平均 APL は 10.3% および 8.0% である Sunset は,0D ディミングでは電力は低減されていない 画像に極めて明るい点が存在するためである また 2D ディミングでは, 画面内明暗変化の穏やかな Statue of Liberty に比べて変化の激しい Sunset の方が電力低減が大きい OD,1D,2D を比べると, いずれの動画に対しても 2D ディミングで最も大きく電力が低減されている したがって LED バックライトは重要である ただし 2D においても消費電力と APL 値との差はまだ大きく, さらに消費電力低減の努力が必要である 図 13 0D,1D, および 2D 構造バックライト エスペック技術情報 No.52 8

図 14 2 つのサンプル動画 表 2 2 つのサンプル動画に対する平均消費電力 0D dimming Sunset 100% (no power saving) Statue of Liberty 83% 1D dimming 72% 71% 2D dimming 43% 50% post-gamma APL (averaged over 10s) 10.3% 8.0% 7. おわりに LED バックライトは高速応答,2D ディミング,RGB 独立制御, 温度による特性変化少, 輝度の微細な調整可, 色再現範囲が広い, 水銀を含まず環境に適合するなど,CCFL や EEFL や OLED では置き換えることのできない特性を有している 一方, 表 3 に示す欠点がある バックライト点滅による輝度の低下を防ぐためには高輝度化が必要であるが, そのためには発光効率も高めねばならない 100 lm/w 以上が望ましい LED 毎に輝度と色がばらつくため LED の選択が必要であるが, このプロセスは無くしたい LED の輝度および色は温度, 電流, あるいは経時変化に依存するため, それぞれの LED に受光素子を設けてフィードバックによる発光の制御が必要である LED は点光源であるため,RGB の 3 色を混合するためには,BLU にある程度の厚みが必要となる LED BLU の部品点数は極めて多く, 例えば 40 型 LCD-TV には,2000 個の LED が必要である この結果, コストが上昇してしまう しかし, 多数の研究が勢力的に行われている また,2017 年には照明用 LED が 5000 億円市場に発展するとの予測もある このこともコストダウンの追い風となろう 表 3 LED バックライトユニットの欠点 低発光効率 LED 毎の輝度と色のばらつき 輝度と色の温度, 電流依存性 輝度と色の経時変化 色混合のため,BLU に厚み要 部品点数大 高価格 9 エスペック技術情報 No.52

将来のバックライトユニットのキーワードは, インテリジェント バックライト であろう 図 15 に示すように,LCD とバックライトの両者をテレビ信号でコントロールすることにより, 高画質, 低消費電力のテレビを実現することができる 図 15 バックライトユニットの将来 急速な LCD 技術の発展に対応して, 国際標準化が進んでいる 6) 動画像評価法の標準化など 15 の文書が発行されている また BLU の標準化も予定されている エスペック ( 株 ) 技術開発本部 ( 受賞当時 ) ご所属の池田あゆみ殿はその活動の中心的人物であり, 多大な功績により 2007 年 10 月 15 日に経済産業省から 国際標準化奨励者表彰 を受賞された [ 用語解説 ] *1. ルーメン光束の単位 1 秒間に放射される光の量 *2. 誤差拡散元画像と比べて実際に表示した画像輝度の誤差を周囲の画素に拡散させ この誤差を目立たなくする手法 *3. ディザー擬似的に より多くの階調を表現するための画像処理手法 参考文献 1)K. Kalantar, et al., JSID Vol. 14, pp. 151-159,(2006) 2)S. Shimizukawa, et al., IDW 06, pp. 1743-1746, (2006) 3)S. Y. Lee, LCD Backlights, Sci. Tech. Co., Ltd., p. 13,(2006) 4)T. Shiga, et al., SID 03 Digest, pp. 1364-1367, 2003. Also T. Shiga, et al., SID 05 Digest, pp. 992-995,(2005) 5)T. Shirai, et al., SID 06 Digest, pp. 1520-1523,(2006) 6)http://www.iec.ch/cgi-bin/procgi.pl/www/iecwww.p? wwwlang=e&wwwprog=tcboard.p&progdb=db1&committee=sc&tc=110&submit=ok エスペック技術情報 No.52 10