Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

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なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

Microsoft Word - 【最終】リリース様式別紙2_河岡エボラ _2 - ak-1-1-2

研究の背景 B 型肝炎ウイルスの持続感染者は日本国内で 万人と推定されています また, B 型肝炎ウイルスの持続感染は, 肝硬変, 肝がんへと進行していくことが懸念されます このウイルスは細胞へ感染後,cccDNA と呼ばれる環状二本鎖 DNA( 5) を作ります 感染細胞ではこの

Microsoft Word 「ERATO河岡先生(東大)」原稿(確定版:解禁あり)-1

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大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

生物時計の安定性の秘密を解明

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され


報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

背景 これまで遺伝子治療には DNA が用いられてきましたが DNA は生体内 DNA への取り込みによる発がんの危険性や 導入に用いるウイルスベクターによる感染の危険性があり 実用化には至っていません そこで DNA に代わって登場してきたのが mrna( 注 1) です mrna は 遺伝子 D

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Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

スライド 1

た遺伝子を切断し修復時に微小なエラーを生じさせて機能を破壊するノックアウトと 外部か ら任意の配列を挿入して事前設計した通りの機能を与えるノックインに大別される 外来遺伝 子をもった動物の作成や遺伝子治療には後者の技術が必要である しかし 動物胚への遺伝子ノックインには マイクロインジェクション法

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

Microsoft Word フ゜レスリリース.docx

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

Microsoft Word - PRESS_

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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記 者 発 表(予 定)

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

平成 30 年 9 月 5 日 国立研究開発法人海洋研究開発機構 国立大学法人筑波大学 海洋微生物の中に隠された新しいウイルスワールドを発見 ~RNA ウイルス網羅検出技術の開発と海洋微生物への適用 ~ 1. 概要国立研究開発法人海洋研究開発機構 ( 理事長平朝彦 以下 JAMSTEC という) 海

Microsoft Word CREST中山(確定版)

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Microsoft Word - 新学術用まとめ.docx

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研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

PowerPoint プレゼンテーション

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

長期/島本1

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

多様なモノクロナル抗体分子を 迅速に作製するペプチドバーコード手法を確立 動物を使わずに試験管内で多様な抗体を調製することが可能に 概要 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻 植田充美 教授 青木航 同助教 宮本佳奈 同修士課程学生 現 小野薬品工業株式会社 らの研究グループは ペプチドバーコー

生物の形質改良を加速する新しいゲノム改良技術の発明 大規模ゲノムシャフリング技術 TAQing システム 1. 発表者 : 小田有沙 ( 東京大学大学院総合文化研究科特任助教 ) 中村隆宏 ( 東京大学大学院総合文化研究科助教 ) 太田邦史 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授東京大学生

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

Microsoft Word - Seminar14.doc

平成14年度研究報告

東京医科歯科大学医歯学研究支援センター illumina Genome Analyzer IIx 利用基準 平成 23 年 10 月 1 日医歯学研究支援センター長制定 ( 趣旨 ) 第 1 条次世代型シークエンサーはヒトを含むあらゆる生物種の全ゲノム配列の決定 全エキソンの変異解析 トランスクリプ

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

ポイント 先端成長をする植物細胞が 狭くて小さい空間に進入した際の反応を調べる または観察するためのツールはこれまでになかった 微細加工技術によって最小で1マイクロメートルの隙間を持つマイクロ流体デバイスを作製し 3 種類の先端成長をする植物細胞 ( 花粉管細胞 根毛細胞 原糸体細胞 ) に試験した

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

創薬に繋がる V-ATPase の構造 機能の解明 Towards structure-based design of novel inhibitors for V-ATPase 京都大学医学研究科 / 理化学研究所 SSBC 村田武士 < 要旨 > V-ATPase は 真核生物の空胞系膜に存在す

DVDを見た後で、次の問いに答えてください

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

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いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. 発表者 : 山田泰広 ( 東京大学医科学研究所システム疾患モテ ル研究センター先進病態モテ ル研究分野教授 ) 河村真吾 ( 研究当時 : 京都大学 ips 細胞研究所 / 岐阜大学

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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インフルエンザウイルスの遺伝の仕組みを解明 1. 発表者 : 河岡義裕 ( 東京大学医科学研究所感染 免疫部門ウイルス感染分野教授 ) 野田岳志 ( 京都大学ウイルス 再生医科学研究所微細構造ウイルス学教授 ) 2. 発表のポイント : インフルエンザウイルスが子孫ウイルスにゲノム ( 遺伝情報 ) を伝える仕組みを解明した 子孫ウイルスにゲノムを伝えるとき 8 本のウイルス RNAを 1+7 という特徴的な配置 ( 中心の 1 本の RNAを 7 本の RNAが取り囲む配置 ) に集合させる過程が重要であることがわかった さらに ウイルス RNAが足りないときには 1+7 配置にまとめるために感染細胞の RNAを奪う仕組みがあることがわかった インフルエンザウイルスの遺伝に関する巧妙な仕組みを解明した点が重要であり 今後はウイルス RNA の集合を阻害する新規抗インフルエンザ薬の開発につながることが期待される 3. 発表概要 : 河岡義裕教授 ( 東京大学医科学研究所 ) と野田岳志教授 ( 京都大学ウイルス 再生医科学研究所 ) らの研究グループは インフルエンザウイルスが子孫ウイルスに遺伝情報を伝える仕組みを明らかにしました あらゆる生物において 子は親からゲノム ( 遺伝情報 ) を受け継ぎます ウイルスも同じく 子孫ウイルスは親ウイルスからゲノムを受け継ぎます インフルエンザウイルス ( 注 1) は 8 本の RNAをゲノムとして持っていますが 8 本に分かれた RNAがどのように子孫ウイルス粒子に伝えられるか その仕組みの詳細は明らかにされていませんでした 本研究グループは以前 子孫インフルエンザウイルス粒子の中の RNAの解析を行い 子孫ウイルスが 1+7 という特徴的な配置 ( 中心の 1 本の RNAを 7 本の RNAが取り囲む配置 ) をとった 8 本の RNAを取り込むことを明らかにしました ( 図 1 左 ) 今回はさらに ウイルス RNAを1 本欠き 7 本しか RNAを持たない変異子孫ウイルスにも 1+7 配置にまとめられた 8 本の RNAが取り込まれることを明らかにしました ( 図 1 右 ) 興味深いことに 8 本目の RNAとして取り込まれたのはインフルエンザウイルスの RNAではなく 感染細胞のリボソーム RNA( 注 2) でした ( 図 1 右 ) 今回の発見から インフルエンザウイルスが子孫ウイルスにゲノムを伝えるとき 8 本の RNAを 1+7 に集合させる過程が重要であることがわかりました さらに ウイルスの RNA が足りないときには 1+7 配置にまとめるために感染細胞の RNAを奪う仕組みを持つことが明らかになりました 本成果は ウイルス RNAの集合を標的とした新規抗インフルエンザ薬の開発に繋がることが期待されます

本研究成果は 2018 年 1 月 4 日 ( 日本時間午後 7 時 ) に英国科学雑誌 Nature Communications で公開されました なお本研究は 東京大学 京都大学 米国ウィスコンシン大学が共同で行ったものです 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 AMED 革新的先端研究開発支援事業 文部科学省新学術領域研究 ネオウイルス学 : 生命源流から超個体 そしてエコ スフィアへ ウイルス感染現象における宿主細胞コンピテンシーの分子基盤 科学技術振興機構さきがけ ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術 などの一環として得られました 4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点種を存続させるためには ウイルスもゲノム ( 遺伝情報 ) を子孫ウイルスへと伝えなければいけません インフルエンザウイルスは 8 本に分かれた RNAをゲノムとして持ちます したがって 感染細胞から新たに作られるウイルス ( 子孫ウイルス ) は その粒子の中に 8 本に分かれた RNAをもれなく取り込む必要があります しかしそのメカニズムの詳細はわかっておらず 8 本の RNAを効率よく子孫ウイルスに取り込ませるような特別な仕組みがあるのかどうか 長年の論争となっていました 本研究グループは以前 電子顕微鏡解析 ( 注 3) によって 8 本のウイルス RNAが 1+7 という特徴的な配置 ( 中心に1 本の RNAがあり 7 本の RNAが中心の RNAを囲むような配置 : 図 2) に集められ子孫ウイルス粒子に取り込まれることを明らかにしました (Noda et al. Nature, 2006: Noda et al. Nature Communications, 2012) しかし ウイルス RNAが 1+7 という配置をとることにどのような意義があるのか よくわかっていませんでした 2 研究内容本研究では 次世代シークエンス解析 ( 注 4) と電子顕微鏡解析によって 子孫インフルエンザウイルス粒子の中に取り込まれている RNAを調べました 通常の子孫ウイルス粒子には 8 本のウイルス RNAが 1+7 という配置をとって取り込まれていました また ウイルス RNA 以外の RNA( 感染細胞の RNA) は ほとんど取り込まれていませんでした 次にリバースジェネティクス法 ( 注 5) を用いて ウイルス RNAを1 本欠き7 本しかウイルス RNA を持たない変異ウイルスを人工合成し その変異ウイルス粒子の中に取り込まれた RNAを解析しました 予想に反して 7 本しかウイルス RNAを持たない変異ウイルスにも 1+7 に束ねられた 8 本の RNAが取り込まれていました 興味深いことに この変異ウイルスに取り込まれた 8 本目の RNAは インフルエンザウイルスの RNAではなく 感染細胞に存在するリボソーム RNAでした 今回の発見から インフルエンザウイルスが子孫ウイルスにゲノムを伝えるとき 8 本の RNAを 1+7 に集合させるステップが重要であることがわかりました さらに ウイルスの RNAが足りないときには 1+7 に集合させるために細胞のリボソーム RNAを奪い取る仕組みを持つことが明らかになりました

3 社会的意義 今後の予定本成果は インフルエンザウイルスの遺伝に関する巧妙な仕組みを明らかにしたという点で重要であり インフルエンザウイルスの増殖機構の理解に大きな知見を与えました 今後 ウイルス RNAが 1+7 に束ねられるメカニズムがより詳細に明らかにされたら インフルエンザウイルスの RNAの集合を標的とした ( すなわちインフルエンザウイルスの 8 本の RNA の集合を阻害するような ) 新しい作用機序の抗インフルエンザ薬の開発へと繋がることが期待されます 5. 発表雑誌 : 雑誌名 :Nature Communications(1 月 4 日オンライン版 ) 論文タイトル :Importance of the 1+7 configuration of ribonucleoprotein complexes for influenza A virus genome packaging 著者 :Takeshi Noda*, Shin Murakami, Sumiho Nakatsu, Hirotaka Imai, Yukiko Muramoto, Keiko Shindo, Hiroshi Sagara, Yoshihiro Kawaoka* 6. 問い合わせ先 : < 研究に関するお問い合わせ> 東京大学医科学研究所感染 免疫部門ウイルス感染分野教授河岡義裕 ( カワオカヨシヒロ ) Tel:03-5449-5310 ( 海外出張中のため なるべくメールでお問い合わせください ) E-mail:kawaoka@ims.u-tokyo.ac.jp 京都大学ウイルス 再生医科学研究所微細構造ウイルス学分野教授野田岳志 ( ノダタケシ ) Tel: 075-751-4019 E-mail:t-noda@infront.kyoto-u.ac.jp < 報道に関するお問い合わせ > 東京大学医科学研究所国際学術連携室 URA Tel:03-6409-2027 経営企画部企画 広報グループ Tel:03-6870-2245 <AMED の事業に関するお問い合わせ > 創薬戦略部医薬品研究課

100-0004 東京都千代田区大手町 1-7-1 Tel:03-6870-2219 E-mail:iyaku-leap@amed.go.jp 戦略推進部感染症研究課 100-0004 東京都千代田区大手町 1-7-1 Tel:03-6870-2225 E-mail:kansen@amed.go.jp 7. 用語解説 : 注 1: インフルエンザウイルスインフルエンザの原因となるウイルス A 型インフルエンザウイルスと B 型インフルエンザウイルスが毎冬にヒトで流行する A 型ウイルスと B 型ウイルスは 8つに分節化した一本鎖マイナス鎖 RNAをゲノムとして持つ 注 2: リボソーム RNA 細胞のタンパク質合成を担うリボソームを構成する RNA 通常は rrna と表記される 真 核生物の細胞には 28S rrna 5.8S rrna, 5S rrna, 18S rrna が存在する 注 3: 電子顕微鏡解析 光ではなく電子を用いて試料を観察する顕微鏡 光学顕微鏡よりも分解能が高く 直径が 1/10,000mm 程度のインフルエンザウイルスの微細な構造も詳細に観察することができる 注 4: 次世代シークエンス解析 DNA や RNA などの塩基配列情報を網羅的に解析する手法 DNA や RNA の塩基配列を同定 するだけでなく どれくらいの量の遺伝子が存在するかを定量的に解析することもできる 注 5: リバースジェネティクス法インフルエンザウイルスの 8 種類の遺伝子をコードするプラスミド DNAを培養細胞に導入することでインフルエンザウイルスを合成する方法 1 種類のプラスミド DNAを欠損させることで 7 本しかウイルス RNAを持たない変異インフルエンザウイルスを合成することができる

9. 添付資料 : 図 1: 本研究で解明されたインフルエンザウイルスの遺伝の仕組み 電子顕微鏡解析によって 3 次元的に作られた子孫ウイルス粒子とウイルス RNA のモデル図 子孫ウイルス粒子の中には 8 本のウイルス RNA が存在する 中心の 1 本の RNA( 黄色 ) が 7 本の RNA に取り囲まれるように 1+7 配置に束ねられている 図 2: 子孫ウイルス粒子内のウイルス RNA のモデル図