2019年の日本経済

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2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

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けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

Economic Indicators   定例経済指標レポート

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

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( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

2016年冬のボーナス見通し

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金融市場2018年12月号

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統計から見た三重県のスポーツ施設と県民のスポーツ行動

資料1

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Economic Indicators   定例経済指標レポート

1. 自社の業況判断 DI 6 四半期ぶりに大幅下落 1 全体の動向 ( 図 1-1) 現在 (14 年 4-6 月期 ) の業況判断 DI( かなり良い やや良い と回答した企業の割合から かなり悪い やや悪い と回答した企業の割合を引いた値 ) は前回 ( 月期 ) の +19 から 28 ポイ

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2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

中国:PMI が示唆する生産・輸出の底打ち時期

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当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

タイトル

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[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

関西経済レポート (2019 年 9 月 ) 令和元年 (2019 年 )9 月 30 日 ~ 輸出減少が継続 インバウンド消費はプラスの伸びを維持 ~ 足元の経済情勢と当面の見通し 関西経済は輸出 生産が斑模様であるが 内需が下支えとなり底堅く推移している 企業部門では 輸出は中国経済の減速等によ

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2018~2019年度日本経済見通し|第一生命経済研究所|新家義貴

物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

月例経済報告

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○ユーロ

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金融政策決定会合における主な意見

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月初の消費点検(3/4)~消費税増税の判断を控えて~

チーフエコノミスト : 高田創 [ 経済予測チーム ] 山本康雄 ( 全体総括 ) 米国経済小野亮 山崎亮

< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

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ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

2017年上半期の為替相場展望

長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

Invesco Premia Plus Fund

定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

月例経済報告

2018・2019 年度 経済見通し(1 次改訂)

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Microsoft Word ECB利下げ.doc

FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

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経済情報:日銀短観(2011年6月)の結果について.doc

第1章

第 2 四半期累計として 連結の売上高 営業利益 経常利益 四半期純利益とも 過去最高 上期で初の売上高 1 兆円を達成 4 月 27 日に発表した連結業績予想数値との比較でも それぞれプラス 事業環境に関する認識と確認 ( 物流業界の状況 ) 国内外ともに 景気の回復基調は続き 荷動きは おおむね

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(10月号)~輸出はスマホ用電子部品を中心に高水準を維持

平成10年7月8日

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別紙2

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各商品の動きについて 新規出店を含めた全店ベースの前年比でみると 衣料品の減少と飲食料品の増加がここ数年のトレンドとして定着しており 7 年も衣料品は減少し 飲食料品は増加した 衣料品が減少傾向にあるのは 販売形態の多様化により 購入先として衣料品専門店や通販 インターネットショッピングなどの選択肢

関西の景気動向 2013 年 11 月株式会社日本総合研究所調査部関西経済研究センター 1. 景気の現状関西の景気は 持ち直しのペースがひところと比べて鈍化している 輸出 ( 円ベース )

低インフレ 乏しい利上げ観測労働市場に目を向けると 8 月の失業率は約 年ぶりの低水準となる5.3% に低下した 雇用者数も伸びており 一部では技術者不足の声も聞かれる RBAは今後数年 失業率は自然失業率とされる5.% を目指して低下が続くとの見方を示している ただ 賃金の上昇率は ~ 月期が前年

平成 25 年 3 月 19 日 大阪商工会議所公益社団法人関西経済連合会 第 49 回経営 経済動向調査 結果について 大阪商工会議所と関西経済連合会は 会員企業の景気判断や企業経営の実態について把握するため 四半期ごとに標記調査を共同で実施している 今回は 2 月下旬から 3 月上旬に 1,7

ニュースリリース 食品産業動向調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 2 6 日 株式会社日本政策金融公庫 食品産業景況 DI 4 半期連続でマイナス値 経常利益の悪化続く ~ 31 年上半期見通しはマイナス幅縮小 持ち直しの動き ~ < 食品産業動向調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日

2018 年 10 月号 中国の金融経済動向について 中国の AI 動向について 千葉銀行上海駐在員事務所

平成14年1月20日

中国:なぜ経常収支は赤字に転落したのか

現代資本主義論

ニュースリリース 農業景況調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 1 8 日 株式会社日本政策金融公庫 平成 30 年農業景況 DI 天候不順響き大幅大幅低下 < 農業景況調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日本政策金融公庫 ( 略称 : 日本公庫 ) 農林水産事業は 融資先の担い手農業者


[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

建設経済モデルによる建設投資の見通し

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月初の消費点検(1/4)~消費税増税の判断を控えて~

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サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

名目国内総生産 ( 兆円 ) 実質国内総生産 ( 兆円 ) 内 需 民 間 需 要 図表 年度経済見通し 2018 年度予測 2019 年度予測 前回 上期 下期 2018 年 5 月 上期 下期

( 公社 ) 近畿圏不動産流通機構市況レポート市況トレンド /1 年 7~9 月期の近畿圏市場 1. 中古マンション市場の動き 成約価格は前年比で 3 期連続上昇 1 年 7~9 月期の近畿レインズへの成約報告件数は,9 件と 前年同期比で 1.% 増加した (P1 図表 1) 新規登録件数は 15

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Transcription:

201 8 年 12 月 2 6 日 経済レポート けいざい早わかり (2018 年度第 4 号 ) 2019 年の日本経済 調査部主席研究員小林真一郎 目次 Q1. 国内景気の回復力が弱っていますね p.2 Q2. 戦後最長の景気拡大記録を更新することは可能でしょうか? p.3 Q3.2019 年中に景気が腰折れする懸念はありますか? p.4 Q 4. 米中貿易摩擦は国内景気にどのように影響しますか? p.5 Q5. 消費税率引き上げにより国内景気は悪化しますか? p.7 1 / 7

Q1. 国内景気の回復力が弱っていますね 国内景気は 夏場以降 一時的に回復の勢いが弱まりましたが これは天候不順や自然災害の発生という下押し要因の発生によるものです 具体的には 7 月の西日本豪雨や全国的な酷暑 9 月の大型の台風 21 号の直撃や北海道胆振東部地震などが挙げられます こうした一時的なマイナス要因を除けば 景気回復の動きは維持されています 天候不順や自然災害の影響を特に受けたのが個人消費であり レジャー関連を中心にサービスへの支出が低迷したほか 生鮮食品の高騰や原油価格上昇によるガソリン価格の値上がりも支出を抑制する要因となりました また 物流の寸断 停電の発生などにより 企業の生産活動にも被害は及びました 中でも関西国際空港が一時的に利用不能となった影響は大きく 生産や輸出の落ち込みにつながりました 加えて 相次ぐ自然災害の発生によって外国人旅行客が減ったことも 景気にとってマイナスとなりました こうした景気の一時的な弱さは数字にも表れており 7 ~ 9 月期の実質 G D P 成長率は前期比でマイナス成長に陥りました ( 図表 1 ) しかし 10~ 12 月期は 一時的な下押し要因が剥落し 再びプラス成長に転じると見込まれます 夏場の遅れを取り戻すための輸出増加や挽回生産の動き 自然災害からの復旧 復興需要の盛り上がりなども 景気の押し上げに寄与するでしょう こうした動きは すでに発表された 10 月以降の経済指標でも確認されています たとえば 10 月の貿易統計では関西国際空港の閉鎖の反動などから輸出が急増しているほか 同月の鉱工業生産指数も堅調に増加し 同月の百貨店販売などでも天候回復の効果による持ち直しの動きがみられます また 外国人旅行客も再び増加に転じています 図表 1. 実質 GDP 成長率 ( 四半期 ) ( 前期比 %) 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0-0.2-0.4-0.6-0.8 16 17 18 ( 年 四半期 ) 2 / 7

Q2. 戦後最長の景気拡大記録を更新することは可能でしょうか? 戦後最長の景気拡大期は 主に小泉政権時にあたる 2002 年 2 月から 2008 年 2 月までの 73 カ月です 足元の景気拡大期は 2012 年 12 月から始まっており 2018 年 12 月まで景気の回復が続いていれば戦後最長記録に並んだことになります 政府は 12 月 20 日に月例経済報告を発表しましたが その中で景気の基調判断を 緩やかに回復している と 12 カ月連続で据え置きました 景気の回復 後退のタイミングは 内閣府が開催する景気動向指数研究会での議論を踏まえて認定されるため 正式な決定は 1 年以上先のことになる見通しですが 茂木経済財政 再生相は月例経済報告発表時の記者会見で 戦後最長期間に並んだ可能性が高いとみられる との見解を示しています このまま景気回復が続けば 2019 年 1 月には新記録を更新することになりそうです ただし 天候不順 自然災害の影響を除いても 景気回復のペースが鈍化していることも確かです このため 記録を更新できるのか 更新できても順調に記録を伸ばし続けることができるかどうか 国内景気は正念場を迎えています 成長ペースが鈍化した理由は 主に輸出の伸び悩みによるものです 2016 年初めから 2017 年秋まで景気は順調に持ち直しており この期間の実質 G D P 成長率は年率で+1.8% まで拡大していました ( 図表 2 ) しかし 2017 年冬以降はプラス成長とマイナス成長が交互に繰り返されており この期間の実質 G D P 成長率は年率で + 0.1% と 成長がほとんど止まっています 図表 2. 実質 GDP の水準と最近の伸び率の比較 ( 兆円 ) 540 回復ペースの鈍化 535 順調に持ち直し 530 525 横ばい 520 駆け込み需要 515 反動減一巡安倍政権誕生 510 505 消費税率引き上げ 500 495 12 13 14 15 16 17 18 ( 年 四半期 ) ( 年率換算 %) 2.0 1.5 1.8 1.0 0.5 0.0-0.5-1.0 16.1Q~17.3Q 個人消費設備投資政府消費輸出実質 GDP 輸出の寄与が縮小 0.1 17.4Q~18.3Q 住宅在庫公共投資輸入 3 / 7

輸出の中でも 特に中国向けの動きが弱まっています これは 世界的にスマートフォンの需要が一巡したため その部品である電子部品 デバイスの輸出が鈍ったためです 加えて 米中貿易摩擦がエスカレートする中で 中国経済の先行きに対する懸念が強まっていることを背景に設備投資に慎重な姿勢が広がりつつあり 中国における機械類の需要が後退していることも一因です 米中両国の関税引き上げ合戦に伴う経済の悪化や その影響によって日本からの輸出が落ち込むといった目立ったマイナス効果は今のところみられませんが 2019 年になってから徐々に影響が広がるリスクがあります こうした外需の弱さを原因として輸出の落ち込みが深まるようであれば 景気後退期に突入する危険が高まります Q 3. 2019 年中に景気が腰折れする懸念はありますか? それでも 2019 年中に景気が腰折れすることは回避できそうです これは 第一に企業の設備投資が活発であるためです 業務の効率化 情報化 人手不足への対応のための投資に加えて A I や I o T の活用を促進させるための研究開発投資についても増加が見込まれます また 東京オリンピック パラリンピックの開催を控えてインフラ建設などの需要の盛り上がりが続くほか 首都圏での再開発案件や 次世代移動通信システムである 5Gの導入など通信インフラ整備のための投資などが景気の押し上げ要因となると期待されます また 一部には能力増強のための大規模な投資も増えています 企業業績も 先行きについて慎重な見方が強まっているとはいえ 増益傾向が維持されています さらに 業績を圧迫する要因となっていた資源価格の上昇も 足元で原油価格が大幅に下落しており いずれ業績改善に寄与すると見込まれます このため企業の設備投資意欲が急速に後退する懸念は小さそうです 第二に 足元で労働需給が一段とタイト化しており 名目賃金の伸び率も徐々に高まっています また 夏のボーナスに続き 冬のボーナスも堅調に伸びたと見込まれています こうした雇用 所得情勢の改善を背景に 個人消費は均してみれば底堅さを維持できるでしょう このように 2019 年に入ってからも景気の回復基調は維持されると予想されます 実質 G D P 成長率は 年度でみれば 2018 年度の前年比 + 0.6% に対し 2019 年度は同 + 0.8% と 5 年連続でプラスを達成できる見込みです ( 図表 3 ) それでも 次に挙げる 2 つが景気下振れの大きなリスクとして存在します 4 / 7

図表 3. 実質 GDP 成長率の予想 ( 年度 ) ( 前年比 %) 3.5 3.0 2.5 3.3 2.6 予測 2.0 1.5 1.9 1.0 1.3 0.5 0.0-0.5 0.5 0.8-0.4 0.9 0.6 0.8-1.0 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 ( 年度 ) Q 4. 米中貿易摩擦は国内景気にどのように影響しますか? 2019 年の国内景気の下振れリスクとして 第一に通商政策を巡ってトランプ政権と各国との対立が激化し それをきっかけに世界経済が悪化することが挙げられます 中でも米中貿易摩擦の行方が重要です 米中貿易摩擦については 2019 年 3 月 1 日まで中国への追加関税引き上げを猶予したうえで 対立解消に向けて協議することとなっています しかし 米国の要求は 対中貿易赤字の縮小のみならず 中国製造 2025 の見直し 国有企業への政府補助金停止 中国の知的財産権侵害や外国企業への技術移転強要といった不公正な取引慣行の是正 など広範囲にわたっています また 米国はかねてから中国が産業スパイやサイバー攻撃を行っていると批判し 国内の通信産業から中国企業の締め出しをはかっており 中国は猛反発しています このように米中貿易摩擦は 財の取引だけでなく ハイテク分野の覇権争いにまで発展しており 対立が長期化する可能性が高まっています 各国で企業のグローバル化が進んだ結果 国際間で最適なサプライチェーンが構築されており これを再構築するには相当の手間とコストが発生します このため 対立のエスカレートや長期化は 輸出減少や輸入コスト増加を通じて 両国の景気にマイナスとなり それが世界経済を悪化させるリスクがあります 一方 2019 年に開始される日米間の物品貿易協定 ( T A G ) の締結に向けた交渉の行方も 景気の波乱材料となる可能性があり要注意です 交渉中は 米国が現在検討している自動車への追加関税は実施されないことになっています しかし 日本が関税の引き下げ 撤廃を協議する場と位置付けているのに対し 米国はサービス分野も協議するとしており 協議が不調となった場合に実施に踏み切ることも考えられます 5 / 7

その他 中東 北朝鮮情勢などの地政学リスクの高まり 欧米の政治的な混乱 米国の金利上昇による国際金融市場の動揺などのリスクもあります これらのリスクが顕在化し 世界経済が悪化すれば 輸出の減少を内需の持ち直しではカバーできず 景気は後退局面入りすることになりかねません すでにこうした可能性を織り込みつつ 秋以降 世界的に株価が下落基調に転じています ( 図表 4 ) さらに年末にかけては 中央銀行である F R B に対するトランプ大統領の避難や トランプ大統領と議会の予算を巡る対立などが米国株価の下落要因となり それが各国の株価にも影響しています 株価の下落が続けば リスク回避の動きが強まり 世界経済の悪化につながる危険があります 図表 4. 日米の株価の推移 ( 2 0 1 8 年 1 月 ~) ( 円 ) ( ドル ) 25000 27000 24000 26000 23000 25000 22000 24000 21000 20000 日経平均株価 ( 左目盛 ) NY ダウ工業株 30 種平均 ( 右目盛 ) 23000 22000 19000 21000 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 ( 日次 ) ( 出所 ) 日本経済新聞 Wall Street Journal Q 5. 消費税率引き上げにより国内景気は悪化しますか? 二つめの国内景気下振れリスクが 2019 年 10 月実施予定の消費税率引き上げによる景気の悪化です 増税前の駆け込み需要の反動減に 実質可処分所得が落ち込むことによるマイナス効果が加わり 需要低迷が長期化する危険が指摘されます もっとも 引き上げ幅が 2% と前回引き上げ時と比べて小幅であること 外食 酒類を除く飲食料品 新聞購読料が引き上げの対象外となること 住宅ローン減税の強化 自動車税制の見直し プレミアム商品券の導入 中小小売店でのキャッシュレス決済時のポイント還元など 増税ショックを軽減する諸策が実施されることから 押し上げ 押し下げ効果とも前回と比べて小規模にとどまると予想されます 6 / 7

また 消費税率引き上げによる増収分の一部が幼児教育の無償化などに充当されることも 家計の負担軽減につながる見込みです さらに 2020 年夏に東京オリンピック パラリンピックの開催を控えていること 雇用 所得情勢の改善が続いていることもあって 消費者マインドの悪化も一時的なものにとどまりそうです このため 消費税率引き上げ後は 駆け込み需要の反動減によるマイナス成長は 1 四半期で終了すると見込まれ 増税による景気の腰折れは回避される可能性が高いと考えられます ( 図表 5 ) 図表 5. 実質個人消費の予測 ( 前期比 %) 3 2 1 0-1 -2-3 1997 年度 2014 年度 今回 -4-5 -4-3 -2-1 増税 1 2 3 ( 四半期 ) - ご利用に際して - 本資料は 信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが 当社はその正確性 完全性を保証するものではありません また 本資料は 執筆者の見解に基づき作成されたものであり 当社の統一的な見解を示すものではありません 本資料に基づくお客様の決定 行為 及びその結果について 当社は一切の責任を負いません ご利用にあたっては お客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます 本資料は 著作物であり 著作権法に基づき保護されています 著作権法の定めに従い 引用する際は 必ず出所 : 三菱 U F J リサーチ & コンサルティングと明記してください 本資料の全文または一部を転載 複製する際は著作権者の許諾が必要ですので 当社までご連絡ください 7 / 7