リハビリテーション科専門研修プログラム2017

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総合診療

診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

( 様式 1-1) 日本専門医機構認定形成外科専門医資格更新申請書 20 年月日フリガナ 氏 名 生年月日年月日 所属施設 ( 病院 医院 ) 名 勤務先住所 連絡先 ( 電話 : - - ) ( FAX : - - ) アドレス 1: アドレス 2: 専門医登録番号 - 医籍登録番号

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

高齢化率が上昇する中 認定看護師は患者への直接的な看護だけでなく看護職への指導 看護体制づくりなどのさまざまな場面におけるキーパーソンとして 今後もさらなる活躍が期待されます 高齢者の生活を支える主な分野と所属状況は 以下の通りです 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 脳卒中発症直後から 患者の

賀茂精神医療センターにおける精神科臨床研修プログラム 1. 研修の理念当院の理念である 共に生きる 社会の実現を目指す に則り 本来あるべき精神医療とは何かを 共に考えて実践していくことを最大の目標とする 将来いずれの診療科に進むことになっても リエゾン精神医学が普及した今日においては 精神疾患 症

訪問リハビリテーションに関する調査の概要

リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

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平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

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1. 東京医科歯科大学リハビリテーション科専門研修プログラムについて 東京医科歯科大学リハビリテーション科専門研修プログラム ( 以下 PG) は 将来の日本のリハビリテーション医療を支え 新たな専門医の育成を行う指導的なリハビリテーション専門医を育てる教育システムを構築しています またリハビリテー

摂食嚥下訓練 排泄訓練等を開始します SCU で行うリハビリテーションの様子 ROM 訓練 ( 左 ) と端坐位訓練 ( 右 ) 急性期リハビリテーションプログラムの実際病棟訓練では 病棟において坐位 起立訓練を行い 坐位耐久性が30 分以上となればリハ訓練室へ移行します 訓練室訓練では訓練室におい

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研修プログラム関係 Q_ 副分野の研修は 30 時間程度となっています これは 30 時間を超える必要があるという意味でし ょうか A_ 時間は目安です 各プログラムで十分な研修効果が上がることを前提に 研修を計画してください Q_ 研修プログラムの実施状況について 協会への報告が求められるのでしょ

リハビリテーションマネジメント加算 計画の進捗状況を定期的に評価し 必要に応じ見直しを実施 ( 初回評価は約 2 週間以内 その後は約 3 月毎に実施 ) 介護支援専門員を通じ その他サービス事業者に 利用者の日常生活の留意点や介護の工夫等の情報を伝達 利用者の興味 関心 身体の状況 家屋の状況 家


山梨県地域医療再生計画 ( 峡南医療圏 : 救急 在宅医療に重点化 ) 現状 社保鰍沢病院 (158 床 ) 常勤医 9 名 実施後 社保鰍沢病院 峡南病院 (40 床 ) 3 名 市川三郷町立病院 (100 床 ) 7 名 峡南病院 救急の重点化 県下で最も過疎 高齢化が進行 飯富病院 (87 床

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一般会計負担の考え方

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平成 24 年度診療報酬説明会リハビリテーション関連 平成 24 年 4 月 21 日 公益社団法人 高知県理学療法士協会 医療部

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第三内科(糖尿病・内分泌内科、腎臓内科) 後期研修プログラム

理学療法士科 区分 平成 30 年度教科課程 開講科目名 必修授業 ( 英語表記 ) 選択形態 時間数 ( 単位数 ) 講義概要 心理学 Psychology 必修 講義 15 (1) 認知 思考 行動などにおける心理の過程を知り 人の内面を見る手がかりとする 教育学 Pedagogy 必修講義 1

NAGOYA EKISAIKAI HOSPITAL 名古屋掖済会病院

岸和田徳洲会病院 当院では以下の研究に協力し情報を提供しております この研究は 国が定めた指針に基づき 対象となる患者さまのお一人ずつから直接同意を得るかわりに 研究の目的を含む研究の実施についての情報を公開しています 研究結果は学会等で発表されることがありますが その際も個人を特定する情報は公表し

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体制強化加算の施設基準にて 社会福祉士については 退院調整に関する 3 年以上の経験を有する者 であること とあるが この経験は 一般病棟等での退院調整の経験でもよいのか ( 疑義解釈その 1 問 49: 平成 26 年 3 月 31 日 ) ( 答 ) よい 体制強化加算の施設基準にて 当該病棟に

医療連携ガイドライン改

I. 臨床神経生理学とは? リハビリテーション ( 以下リハビリと略す ) 医学は,dysmobility( 動きにくくなること ) を診断, 評価そして治療する医学である. 脳卒中をはじめとして, 脊髄疾患, 神経筋疾患, 骨関節疾患, 小児疾患, 心疾患や呼吸器疾患などさまざまな病気により, ヒ

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2) 抄読会への参加 発表 4) 優良歯科医講習会に参加 1 本会 ( 月 1 回開催 ) に参加し 歯学日本歯科放射線学会教育委員会主催領域の知識や情報を獲得するとともエックス線優良歯科医講習会に参加に 論文作成法について学ぶ し 撮影原理 解剖 診断の基礎を学 2 発表経験を通して プロダクトの

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Ⅰ 通所リハビリテーション業務基準 通所リハビリテーションのリハビリ部門に関わる介護報酬 1. 基本報酬 ( 通所リハビリテーション費 ) 別紙コード表参照 個別リハビリテーションに関して平成 27 年度の介護報酬改定において 個別リハビリテーション実施加算が本体報酬に包括化された趣旨を踏まえ 利用

点検項目 点検事項 点検結果 リハビリテーションマネジメント加算 Ⅰ 計画の定期的評価 見直し 約 3 月毎に実施 リハビリテーションマネジメント加算 Ⅱ ( リハビリテーションマネジメント加算 Ⅰ の要件に加え ) 居宅介護支援事業者を通じて他のサービス事業者への情報伝達 利用者の興味 関心 身体

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3. 本事業の詳細 3.1. 運営形態手術 治療に関する情報の登録は, 本事業に参加する施設の診療科でおこなわれます. 登録されたデータは一般社団法人 National Clinical Database ( 以下,NCD) 図 1 参照 がとりまとめます.NCD は下記の学会 専門医制度と連携して

図表 リハビリテーション評価 患 者 年 齢 性 別 病 名 A 9 消化管出血 B C 9 脳梗塞 D D' E 外傷性くも幕下出血 E' 外傷性くも幕下出血 F 左中大脳動脈基始部閉塞 排尿 昼夜 コミュニ ケーション 会話困難 自立 自立 理解困難 理解困難 階段昇降 廊下歩行 トイレ歩行 病

認知症医療従事者等向け研修事業要領

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7 対 1 10 対 1 入院基本料の対応について 2(ⅲ) 7 対 1 10 対 1 入院基本料の課題 将来の入院医療ニーズは 人口構造の変化に伴う疾病構成の変化等により より高い医療資源の投入が必要となる医療ニーズは横ばいから減少 中程度の医療資源の投入が必要となる医療ニーズは増加から横ばいにな

居宅介護支援事業者向け説明会

リハビリテーション歩行訓練 片麻痺で歩行困難となった場合 麻痺側の足にしっかりと体重をかけて 適切な刺激を外から与えることで麻痺の回復を促進させていく必要があります 麻痺が重度の場合は体重をかけようとしても膝折れしてしまうため そのままでは適切な荷重訓練ができませんが 膝と足首を固定する長下肢装具を

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

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地域医療構想の概要 1 地域医療構想の位置づけ 平成 25 年 3 月に 医療法に基づき 本県の疾病対策及び医療提供体制の基本方針である第 6 期岐阜県保健医療計画を策定した 平成 27 年 4 月に施行された改正医療法に基づき 保健医療計画の一部として 将来 (2025 年 ) あるべき医療提供体

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

資料1_事業実施計画書

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

は関連する学会 専門医制度と連携しており, 今後さらに拡大していきます. 日本外科学会 ( 外科専門医 ) 日本消化器外科学会 ( 消化器外科専門医 ) 消化器外科領域については, 以下の学会が 消化器外科データベース関連学会協議会 を組織して,NCD と連携する : 日本消化器外科学会, 日本肝胆

1. 香川県立中央病院整形外科専門研修プログラムにおける基本理念 特色 < 理念 > 整形外科は 骨 関節 筋肉 脊椎脊髄 神経など の運動器の疾病 外傷などの疾患を取り扱う診療科です 近年 急激に進む高齢化社会と並行して整形外科で診療する患者の数は増加の一途です 整形外科専門研修プログラム ( 以


木下俊介 医局長 助教 神経内科 内科学会認定医 指導医 総合内科専門医プライマリケア連合学会認定 小林威仁 病棟医長 助教 呼吸器内科内科学会認定医 呼吸器学会専門医 アレルギー 学会専門医 プライマリ 住所 連絡先 埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷 38 総合診療内科電話 :049

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2019 年度 コース履修の手引 教職コース 司書教諭コース 学芸員コース

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小児外科学 (-Pediatric Surgery-) Ⅰ 教育の基本方針小児外科は 子供 (16 歳未満 ) の一般外科と消化器外科を扱う科です 消化器 一般外科学並びに小児外科学に対する基礎医学から臨床にわたる幅広い知識をあらゆる診断 治療技術を習得し 高い技術力と探究心及び倫理観を兼ね備えた小

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1. はじめに近畿ブロック ( 福井県 滋賀県 京都府 奈良県 和歌山県 ) で指定を受けた小児がん拠点病院 ( 以下 拠点病院 ) は 京都府立医科大学附属病院 京都大学医学部附属病院 立こども病院 大阪市立総合医療センター 立母子保健総合医療センターの 5 施設 ( 順不同 ) であり 全国 7

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介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

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知症など脳疾患としての精神科疾患の評価と医学的治療 職場や学校での不適応や幼少時の生育歴に由来する心の悩みへの心理的なサポート 社会資源を利用しての生活指導まで多岐にわたっている そのため 多様な価値観とトレーニングを経て来た多様な人材がそれぞれの持ち味を生かしながら診療をしていくことに大きな意味が

診療所ごとの診療状況 一方 診療所では 外来診療を実施 と回答した診療所は 73 か所 (36.3%) 入院診療を実施 と回答した病院は 2 か所 (1.0%) となっており いずれも実施していない との回答が 124 か所 (61.7%) であった 診療所のてんかん診療実施状況 ( 有効回答数 =

要望

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平成26年度診療報酬改定 <リハビリテーション>

( その 1) 履歴書 記入例 履歴書 記入例 (No. 1) フリガナ 英字氏名 氏名 生年月日 ( 年齢 ) 昭和 年 月 日 ( 満 才 ) ( - ) 性別 男 女 現住所 県 市 区 - - 本籍地又は国籍 都道府県名 ( 外国籍の方は国名 ) を記入 T E L - - ( 携帯電話 -

Transcription:

リハビリテーション科専門研修プログラム (2017 年度 ) Ⅰ. リハビリ科専門研修プログラムの目標本プログラムの目標は リハビリ科専門医資格の取得とその後のキャリアサポートです 専門医受験資格取得には初期臨床研修 2 年に引き続くレジデント 3-4 年間 合計 5-6 年間が最低限 必要となります その間に 日本リハビリ医学会が定める内容の研修 業績をクリアしなければなりません 専門医資格の取得は 1 つの区切りですが 肩書だけを得ればそれで終わりというわけではありません 関連病院で臨床経験をさらに深め 病院の中のリハビリ部門統括者として活躍することもキャリア形成には重要です 専門医資格を取得した後 チャレンジではありますが将来的には学位取得 留学という道もありますし 訪問や通所リハビリを柱とした開業も時流の 1 つです 医師としての様々な社会的使命を果たすために必要となる基礎を身につける研修を心掛けています Ⅱ. リハビリ医学の展望と杏林大学での位置付け 1. リハビリ医学についてリハビリ医学は比較的歴史の浅い学問ですが 麻痺や高次脳機能障害などの機能障害 (impairment) と それによって起こる歩行障害や日常生活動作困難などの能力低下 (disability) に関わっています その主体は能力低下の方にあり 機能障害も能力低下につながるものに焦点を当てます つまり 身の回り動作自体の障害とその原因を作った麻痺等を扱う実用医学です これら障害を分析し 評価 (grading) し 治療計画を立て 理学 作業 言語療法を中心としたリハビリを行うわけです もちろん 一般的な画像診断 生理機能検査なども基礎にします 特に重要なのが 動けないこと (dismobility) に関連する診断や予後判定で 筋電図を初めとする電気診断やボツリヌス毒素を使ったブロック また ADL に直結する嚥下や排尿評価 管理は歴史的にも大きな位置を占めています 2. 対象疾患についてリハビリという言葉を用いるのはリハビリ科の世界に限りません 眼科や精神科でも用いられますが リハビリ科では身体障害を起こす疾患が対象の中心になります これは全世界共通です 日本リハビリ医学会は おもな疾患別の領域として (1) 脳血管障害 脳外傷 (2) 脊髄損傷 脊髄疾患 (3) 関節リウマチを含む骨関節疾患 (4) 脳性麻痺を含む小児疾患 (5) 末梢 中枢神経を含めた神経筋疾患 (6) 切断 (7) 呼吸器 循環器疾患 を挙げています なお 身体障害は活動低下を介して 付加的な問題として廃用症候群を惹起します それゆえに リハビリ科では昔から廃用症候群の予防に力を入れています 廃用は 身体障害を生じる疾患に限らず 多くの急性期疾患や術後病態においても 特に高齢者では大きな課題になります 3. リハビリ科医師について日本リハビリ医学会は 1963 年に創設されましたが 当初は整形外科や内科医がリハビリ科に転向して始まりました そのため年輩のリハビリ科医においては 整形外科疾患のリハビリ処方は書けますが 内科系疾患はわかりません 脳卒中片麻痺はいいですけど 脊髄損傷対麻痺のリハビリはわかりません というように 対応できる診療が偏ることがありました しかし リハビリを片手間にやる時代は終わり 米国を例にした専門医制度が発足した 1980 年以降は病院のリハビリ部門が単独の診療科として独立し また講座を構える大学も増えてきました 2000 年以降もその傾向は続き 新専門医制度の開始へ向けて地方でのリハビリ科専門医育成の機運も高まっています 高齢化社会を迎え 脳卒中による障害者の増加 急性期在院日数の短縮圧力 回復期リハビリ病床の増加を反映して 病院におけるリハビリ科専門医の需要は急増している現状にあります リハビリテーション科専門研修プログラム 1

脳卒中から義足まで 学会の掲げる全疾患のリハビリの理屈がわからなければ 療法士スタッフから信頼されません 病院経営の面からも特定の疾患しか診られないのでは雇用効率が悪いといえます 4. 杏林大学医学部附属病院におけるリハビリ科の実績と展望杏林大学医学部において リハビリ専門医による 2 つの柱 すなわちリハビリ医学教室と付属病院リハビリ科は 2001 年 7 月に創設されました 付属病院の看板である救急医療には歴史があり 全国ランキングでもトップに位置していますが 救急が入口であれば 障害をもった患者にとってリハビリ科は出口にあたります とくに医療費抑制のための入院期間短縮という社会的要請があり リハビリ主導で早期離床を行うことが急性期病院に求められています 図 1 は当院のリハビリ科新患数の推移ですが 年々増す一方で この 10 年間で 3 倍近くなり それに連れて診療報酬も急上昇しています 対象疾患も図 2 のごとく多様で 専門医研修に必須な領域をすべて満たしています 療法スタッフ数は現在 PT 20 名 OT 9 名 ST 6 名と大学病院の中では多い方に位置づけられます 保健学部に療法士を養成する学科が作られ 高い入学倍率となっていることも強みと考えています 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 人 外来 入院 0 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24年 図 1. リハビリ新規依頼患者数 ( 入院 外来 ) の動向 循環器 骨関節 その他小児神経 摂食末梢神経呼吸器 熱傷膠原病 中枢神経 廃用症候群図 2. リハビリ患者の疾患別内訳 (24 年度 ) 付属病院脳卒中センターは 2006 年 5 月に開設されましたが リハビリスタッフの積極的な介入と病棟チームワークによって短期間で効果的なリハビリを展開し 全国でも高い評価を得ています また脳外科病棟においては癌患者のリハビリの一環として脳腫瘍リハビリに焦点をあてた積極介入を行っています 一方 付属病院が位置する東京西部では 高齢化社会に加えて病院淘汰の時代に至ったことを睨んで 一般病床を回復期リハビリ病床や療養型病床に変更する病院が多くなってきています しかし リハビリ専門医の供給は足りないため 回復期リハビリ病床にもかかわらず専門外の医師が専任しているという病院も少なくありません 現在は回復期リハビリ病床も急性期病床と同じように質が問われる時代となっており リハビリ科専門医の需要にも拍車がかかっている状況です 急性期の効率的リハビリ また回復期での質の高いリハビリを主導できる専門医を育成するのが我々の目標です リハビリ医学は実践医学であり 杏林大学医学部が従来 掲げている 臨床家を育成する という理念が正に反映される領域といえます Ⅲ. リハビリ専門医制度の概観 1. リハビリ専門医の動向 2014 年 5 月に第三者機関としての日本専門医機構が設立され リハビリ科は内科 外科 小児 13.3% 13.8% 8.6% 25.8% 32.9% リハビリテーション科専門研修プログラム 2

科などと並んで 医学として基本的な 19 領域の 1 つとされました したがって 今後 リハビリ科専門医は学会ではなくて内科や外科と同様に客観的な立場で専門医機構が認定することになり その専門性は機構が保証するものとなるわけです 現在 リハビリ医学専門医数は 2002 人 (2015 年 3 月時点 ) と人口比を加味しても米国の専門医の約 7000 人に比べ少ない状況にあり 需要 > 供給は救急科以上ということがマスコミで話題になったこともありました ( 朝日新聞 2010.9/29, 9/30) 需要を喚起した要因の 1 つは 2001 年度に国が設けた 回復期リハビリ病床 という集中的なリハビリを行う専門病床の存在にあります リハビリのニードが高まり リハビリ専門医の絶対的不足に拍車がかかることになりました 内科や外科医師がリハビリ科に転向して リハビリ病床を担っているという例も多くなっていますが 適切なリハビリ計画 処方が出せず 療法士任せとなってしることが問題視されています なお 2006 年の診療報酬改正ではリハビリの診療報酬に勾配が設けられ ハード面でのリハビリ基準を満たしても 疾患ごとにリハビリ医療の経験を証明できない非専門医がリハビリ医療に携わっても報酬は安くなることになりました つまり リハビリ専門医資格が診療報酬上も重視されるようになっています 2. 日本リハビリ医学会専門医試験試験は筆記と口頭試問からなります 受験資格では 医師免許取得後 5 年以上 ( 初期臨床研修を含む ) 学会入会後 3 年以上の経験が必要で 実質的には取得まで 6 年かかります また 日本リハビリ医学会学術集会での主演者発表 2 回が課せられ 指導医になるにはさらにリハビリ医学に関する筆頭著者論文の業績がなければなりません 対象疾患の項で記した 7 大疾患について 各最低 3 症例 全体として 30 症例のリハビリ経過報告書とともに 申請します 最近の試験合格率は 70~80% です なお 試験の詳細については 学会の URL:http://www.jarm.or.jp/ を参考にしてください 次年度以降は日本専門医機構が定める規定に則り 認定を受けることになります Ⅳ. 研修目標 1. 一般目標 : 一言で言うなら リハビリ医学に精通した臨床医になる ということです 1) 日本リハビリ医学会が掲げる疾患 病態における障害の構造を理解できる その疾患患者の診察を通して 機能障害 / 能力低下を分けて 定量的に評価できる それをもとにリハビリ実施後の機能予後を判定できる それに向けて リハビリ処方を記述できる 2) 上記 1) に関連して 急性期 - 回復期 - 維持期の病床役割分担や家庭や家屋状況などの環境因子もリハビリ計画 処方に反映できる また 患者 家族の障害受容の心理過程を理解して 適切に応対できる 3) リハビリコメディカルの手技 技術について EBM の観点で科学的に説明できるリハビリ基礎医学の知識をもつ また リハビリチームリーダーとしてコメディカルを統括できる 4) 維持期については 障害者の社会的支援として介護保険サービス 福祉としての身体障害者認定などを理解し それに関わることができる 2. 行動目標 : 目標を達するために 何を行うべきか です 1) 脳血管障害 脳外傷 脊髄損傷 脊髄疾患 関節リウマチを含む骨関節疾患 脳性麻痺を含む小児疾患 末梢 中枢神経疾患 筋疾患 切断 呼吸器 循環器疾患の主治医 担当医 コンサルタント医となる 2) 上記疾患について目標を示した段階的なリハビリ処方を出すとともに フォローアップして リハビリコメディカルとカンファレンスをもち 適宜 修正する 3) 神経伝導 針筋電図検査を解釈もしくは実施し 病巣診断 重症度診断 予後判定を行い コメントを記載する 4) 嚥下造影 内視鏡検査や膀胱機能検査結果を解釈し 患者 家族に説明し 結果に応じたリハビリ処方を出す リハビリテーション科専門研修プログラム 3

5) 痙縮に対して 適切な内服薬投与やボツリヌス毒素などによるブロックを実施する 6) 主だった装具 義足の処方と適合判定を行う 7) 肢体不自由の身体障害者手帳意見書など リハビリに関連する公的書類を書く 8) 日本リハビリ医学会専門医受験資格に合わせて 学術集会において リハビリ症例報告と臨床研究報告を最低各 1 回づつ行い 何れかについて筆頭著者として論文を執筆する Ⅴ. 杏林大学での研修システム 1. 教室専門医スタッフの陣容リハビリ医学教室は 2001 年 7 月に創設されましたが リハビリ科が対外的に独立したのは 2002 年 11 月からになります 2016 年 8 月現在 診療科長 / 教授 1 名 医局長 / 准教授 1 名 レジデント 2 名 非常勤講師 3 名 専攻医 2 名 ( 関連病院出張 ) とスタッフは少ないですが 大学常勤職員は学位を有するリハビリ専門医 指導医です リハビリ医学の中でも 運動学 (kinesiology) 麻痺電気診断 ADL 評価などが得意な領域で 疾患単位では脳卒中 頭部外傷 脊損 廃用症候群 末梢神経障害などに特に精通しています 診療科長 医局長は日本リハビリ医学会のなかでは編集委員会 教育委員会 国際委員会 広報委員会 専門医試験特別委員会などに所属した経歴を有しています 専門医氏名 職位 出身 専門領域 岡島康友 教授 診療科長 慶応大学卒 (S55 年 ) リハ全般 電気診断 脊損 山田深 准教授 医局長 慶応大学卒 (H9 年 ) リハ全般 ADL 脳卒中 川上純範 非常勤講師 杏林大学卒 (S53 年 ) リハ全般 整形疾患 2. 研修施設 ( 関連病院 ) と待遇大学病院勤務中の待遇は病院の規程に従います 大学病院以外の研修病院として 現在 山梨リハビリテーション病院 多摩北部医療センター 永生病院などが受入れ対象ですが 今後の展開でさらにいろいろの選択肢ができてくると思われます いずれの病院でもリハビリ科への配属であり 待遇は個々の病院の規定によります なお 大学病院は急性期のみのリハビリにしか関与できず またリハビリ科専用入院床がないので レジデント 3 年間のうち少なくとも 1 年は関連病院での研修を予定しています 3. 大学病院での研修大学病院リハビリ科週間スケジュール (2016 年 4 月現在 ) 月 火 水 木 金 土 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 時 脳卒中カ外来 入院患者リハビリ入院患者フンファレンス診察および計画 処方ォロー 筋電図検査 医局勉強会 脳卒中カ外来 入院患者リハビリ神経内科カンフ小児神経カンファ嚥下カンフ新入患診察ンファレンス診察および計画 処方ァレンスレンスァレンス 脳外科カ外来 入院患者リハビリ学生実習 SU 病棟症例リハ科診 / 研修者勉強会ンファレンス診察および計画 処方筋電図検査検討会 脳卒中カ外来 入院患者リハビリンファレンス診察および計画 処方 嚥下センター VFG 検査 装具外来 脳卒中カ外来 入院患者リハビリ病棟看護 -リハ室 カンファ新入患診察嚥下センター VE 検査ンファレンス診察および計画 処方レンス 脳卒中カ 外来 入院患者リハビリ ンファレンス 診察および計画 処方 リハビリテーション科専門研修プログラム 4

大学病院ではリハビリ医学の基礎的知識 技術を得るとともに 障害を適切に診断 評価する診察法を習得し 機能予後診断 リハビリの計画と処方に精通します 筋電図等の電気診断技術の修練も大学病院が主な場となります 入院についてはコンサルタントあるいは併診医としてリハビリに関するすべてを担当します 主な病棟は脳卒中科 脳神経外科 整形外科 神経内科 高齢医学科です とくに脳卒中センターはリハビリ科が密に関与する病棟となっています 主治医 病棟看護 療法士を一同にしたカンファレンスは方針の統一の観点でも重要で 脳卒中科 脳外科など複雑な病態患者の治療にあたる病棟では頻繁に行います なお大学病院では急性期の廃用予防 早期離床といった単純ですが効率のよいリハビリを展開する必要があります 機能障害より能力低下に重点をおいたリハビリの場であり じっくり気の済むまで というリハビリは許されません 外来については週 1~2 コマを担当してもらいます 入院から外来に移行した患者については適切な外来リハビリを組んでフォローアップします なお 脳卒中センターでは一時的に脳卒中科に属して 脳卒中を基本から学ぶことも検討します 4. 外部研修病院での研修外部研修病院は回復期リハビリ病院あるいは一般病院ですが そこではリハビリ科の主治医となり入院医療に携わります リハビリ科といっても大学病院のように専門領域だけを診るという訳には参りません 一般医としても対処する必要があります そのベースは初期臨床研修 2 年間ですが その後の経験も重要であり 絶えず自分が一般医である自覚のもと修練していく必要があります もちろんリハビリ医学と関連診療科領域については一層の磨きをかける場でもあります なお 一般病院のリハビリ科は回復期と比べ 療法士数は少なく 規模は小さいのが通例です 研修の身とは言え そこではリハビリ部門管理者としてリハビリコメディカルを統括する立場を与えられることもあります 臨床におけるリハビリチームリーダーの役割と同様 部門の収支管理などの経営的側面も研修の一部として重要な内容です Ⅵ. レジデント研修の評価目標が 1 つ 1 つ達成されることが評価になります 研修後の区切りとなる目標は専門医試験ですが 1 年ごとに目標を定めて研修する手順が日本リハビリ医学会の 専門医取得のための研修手帳 として示されています 大学病院では症例報告など学会活動 電気診断検査の習熟 リハビリ室勉強会発表 外部研修病院ではまとまった数の症例経験 地域リハビリ啓発活動 ( リハビリ講義など ) 論文執筆などを個別の単位としてクリアしていくのも良いです Ⅶ. レジデント終了後の進路専門医取得後 希望によっては学位取得も可能です 絶対ではありませんが 公的病院の多くで部長クラス以上の職位条件に学位取得が挙げられることがありますので 足の裏の米粒 ではありますが 取得も一考に値します 大学病院もしくは関連病院で臨床を続けながら 研究活動を行いますので長期にわたって 多少の負担増は仕方ありません 短期に集中して学位研究を行おうとするのが大学院ですが リハビリ科は臨床色の濃い診療科であり 臨床抜きのリハビリ医学研究は基本的に考えていません 一方 専門医取得後に開業の道を歩むことも選択肢で リハビリクリニック として開業形態をとる専門医も見られるようになりました 通常 理学療法士は病院勤務志向ですが 理学 作業 言語療法が何たるかを理解している専門医のもとで働くなら開業医でも安心ということで 療法士をリクルートしやすいのもメリットだと思います なお 開業医院では主として維持期のリハビリを担うことになります リハビリテーション科専門研修プログラム 5

Ⅷ. 研修プログラムへの応募 1. 募集期間 2016 年 9 月 1 日 ~11 月 30 日まで ( 杏林大学付属病院前期臨床研修医は 2017 年 1 月 31 日まで ) 2. 選考方法 : 面接 ( 定員 :2-3 名を予定 ) Ⅸ. 教室連絡先病院代表 (0422-47-5511) を通して 直接 岡島科長 (PHS7452) もしくは山田医局長 (PHS7476) までお電話ください 日程を調整の上 お会いして個人的な説明会をもつことも可能です リハビリテーション科専門研修プログラム 6