リハビリテーション科専門研修プログラム (2017 年度 ) Ⅰ. リハビリ科専門研修プログラムの目標本プログラムの目標は リハビリ科専門医資格の取得とその後のキャリアサポートです 専門医受験資格取得には初期臨床研修 2 年に引き続くレジデント 3-4 年間 合計 5-6 年間が最低限 必要となります その間に 日本リハビリ医学会が定める内容の研修 業績をクリアしなければなりません 専門医資格の取得は 1 つの区切りですが 肩書だけを得ればそれで終わりというわけではありません 関連病院で臨床経験をさらに深め 病院の中のリハビリ部門統括者として活躍することもキャリア形成には重要です 専門医資格を取得した後 チャレンジではありますが将来的には学位取得 留学という道もありますし 訪問や通所リハビリを柱とした開業も時流の 1 つです 医師としての様々な社会的使命を果たすために必要となる基礎を身につける研修を心掛けています Ⅱ. リハビリ医学の展望と杏林大学での位置付け 1. リハビリ医学についてリハビリ医学は比較的歴史の浅い学問ですが 麻痺や高次脳機能障害などの機能障害 (impairment) と それによって起こる歩行障害や日常生活動作困難などの能力低下 (disability) に関わっています その主体は能力低下の方にあり 機能障害も能力低下につながるものに焦点を当てます つまり 身の回り動作自体の障害とその原因を作った麻痺等を扱う実用医学です これら障害を分析し 評価 (grading) し 治療計画を立て 理学 作業 言語療法を中心としたリハビリを行うわけです もちろん 一般的な画像診断 生理機能検査なども基礎にします 特に重要なのが 動けないこと (dismobility) に関連する診断や予後判定で 筋電図を初めとする電気診断やボツリヌス毒素を使ったブロック また ADL に直結する嚥下や排尿評価 管理は歴史的にも大きな位置を占めています 2. 対象疾患についてリハビリという言葉を用いるのはリハビリ科の世界に限りません 眼科や精神科でも用いられますが リハビリ科では身体障害を起こす疾患が対象の中心になります これは全世界共通です 日本リハビリ医学会は おもな疾患別の領域として (1) 脳血管障害 脳外傷 (2) 脊髄損傷 脊髄疾患 (3) 関節リウマチを含む骨関節疾患 (4) 脳性麻痺を含む小児疾患 (5) 末梢 中枢神経を含めた神経筋疾患 (6) 切断 (7) 呼吸器 循環器疾患 を挙げています なお 身体障害は活動低下を介して 付加的な問題として廃用症候群を惹起します それゆえに リハビリ科では昔から廃用症候群の予防に力を入れています 廃用は 身体障害を生じる疾患に限らず 多くの急性期疾患や術後病態においても 特に高齢者では大きな課題になります 3. リハビリ科医師について日本リハビリ医学会は 1963 年に創設されましたが 当初は整形外科や内科医がリハビリ科に転向して始まりました そのため年輩のリハビリ科医においては 整形外科疾患のリハビリ処方は書けますが 内科系疾患はわかりません 脳卒中片麻痺はいいですけど 脊髄損傷対麻痺のリハビリはわかりません というように 対応できる診療が偏ることがありました しかし リハビリを片手間にやる時代は終わり 米国を例にした専門医制度が発足した 1980 年以降は病院のリハビリ部門が単独の診療科として独立し また講座を構える大学も増えてきました 2000 年以降もその傾向は続き 新専門医制度の開始へ向けて地方でのリハビリ科専門医育成の機運も高まっています 高齢化社会を迎え 脳卒中による障害者の増加 急性期在院日数の短縮圧力 回復期リハビリ病床の増加を反映して 病院におけるリハビリ科専門医の需要は急増している現状にあります リハビリテーション科専門研修プログラム 1
脳卒中から義足まで 学会の掲げる全疾患のリハビリの理屈がわからなければ 療法士スタッフから信頼されません 病院経営の面からも特定の疾患しか診られないのでは雇用効率が悪いといえます 4. 杏林大学医学部附属病院におけるリハビリ科の実績と展望杏林大学医学部において リハビリ専門医による 2 つの柱 すなわちリハビリ医学教室と付属病院リハビリ科は 2001 年 7 月に創設されました 付属病院の看板である救急医療には歴史があり 全国ランキングでもトップに位置していますが 救急が入口であれば 障害をもった患者にとってリハビリ科は出口にあたります とくに医療費抑制のための入院期間短縮という社会的要請があり リハビリ主導で早期離床を行うことが急性期病院に求められています 図 1 は当院のリハビリ科新患数の推移ですが 年々増す一方で この 10 年間で 3 倍近くなり それに連れて診療報酬も急上昇しています 対象疾患も図 2 のごとく多様で 専門医研修に必須な領域をすべて満たしています 療法スタッフ数は現在 PT 20 名 OT 9 名 ST 6 名と大学病院の中では多い方に位置づけられます 保健学部に療法士を養成する学科が作られ 高い入学倍率となっていることも強みと考えています 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 人 外来 入院 0 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24年 図 1. リハビリ新規依頼患者数 ( 入院 外来 ) の動向 循環器 骨関節 その他小児神経 摂食末梢神経呼吸器 熱傷膠原病 中枢神経 廃用症候群図 2. リハビリ患者の疾患別内訳 (24 年度 ) 付属病院脳卒中センターは 2006 年 5 月に開設されましたが リハビリスタッフの積極的な介入と病棟チームワークによって短期間で効果的なリハビリを展開し 全国でも高い評価を得ています また脳外科病棟においては癌患者のリハビリの一環として脳腫瘍リハビリに焦点をあてた積極介入を行っています 一方 付属病院が位置する東京西部では 高齢化社会に加えて病院淘汰の時代に至ったことを睨んで 一般病床を回復期リハビリ病床や療養型病床に変更する病院が多くなってきています しかし リハビリ専門医の供給は足りないため 回復期リハビリ病床にもかかわらず専門外の医師が専任しているという病院も少なくありません 現在は回復期リハビリ病床も急性期病床と同じように質が問われる時代となっており リハビリ科専門医の需要にも拍車がかかっている状況です 急性期の効率的リハビリ また回復期での質の高いリハビリを主導できる専門医を育成するのが我々の目標です リハビリ医学は実践医学であり 杏林大学医学部が従来 掲げている 臨床家を育成する という理念が正に反映される領域といえます Ⅲ. リハビリ専門医制度の概観 1. リハビリ専門医の動向 2014 年 5 月に第三者機関としての日本専門医機構が設立され リハビリ科は内科 外科 小児 13.3% 13.8% 8.6% 25.8% 32.9% リハビリテーション科専門研修プログラム 2
科などと並んで 医学として基本的な 19 領域の 1 つとされました したがって 今後 リハビリ科専門医は学会ではなくて内科や外科と同様に客観的な立場で専門医機構が認定することになり その専門性は機構が保証するものとなるわけです 現在 リハビリ医学専門医数は 2002 人 (2015 年 3 月時点 ) と人口比を加味しても米国の専門医の約 7000 人に比べ少ない状況にあり 需要 > 供給は救急科以上ということがマスコミで話題になったこともありました ( 朝日新聞 2010.9/29, 9/30) 需要を喚起した要因の 1 つは 2001 年度に国が設けた 回復期リハビリ病床 という集中的なリハビリを行う専門病床の存在にあります リハビリのニードが高まり リハビリ専門医の絶対的不足に拍車がかかることになりました 内科や外科医師がリハビリ科に転向して リハビリ病床を担っているという例も多くなっていますが 適切なリハビリ計画 処方が出せず 療法士任せとなってしることが問題視されています なお 2006 年の診療報酬改正ではリハビリの診療報酬に勾配が設けられ ハード面でのリハビリ基準を満たしても 疾患ごとにリハビリ医療の経験を証明できない非専門医がリハビリ医療に携わっても報酬は安くなることになりました つまり リハビリ専門医資格が診療報酬上も重視されるようになっています 2. 日本リハビリ医学会専門医試験試験は筆記と口頭試問からなります 受験資格では 医師免許取得後 5 年以上 ( 初期臨床研修を含む ) 学会入会後 3 年以上の経験が必要で 実質的には取得まで 6 年かかります また 日本リハビリ医学会学術集会での主演者発表 2 回が課せられ 指導医になるにはさらにリハビリ医学に関する筆頭著者論文の業績がなければなりません 対象疾患の項で記した 7 大疾患について 各最低 3 症例 全体として 30 症例のリハビリ経過報告書とともに 申請します 最近の試験合格率は 70~80% です なお 試験の詳細については 学会の URL:http://www.jarm.or.jp/ を参考にしてください 次年度以降は日本専門医機構が定める規定に則り 認定を受けることになります Ⅳ. 研修目標 1. 一般目標 : 一言で言うなら リハビリ医学に精通した臨床医になる ということです 1) 日本リハビリ医学会が掲げる疾患 病態における障害の構造を理解できる その疾患患者の診察を通して 機能障害 / 能力低下を分けて 定量的に評価できる それをもとにリハビリ実施後の機能予後を判定できる それに向けて リハビリ処方を記述できる 2) 上記 1) に関連して 急性期 - 回復期 - 維持期の病床役割分担や家庭や家屋状況などの環境因子もリハビリ計画 処方に反映できる また 患者 家族の障害受容の心理過程を理解して 適切に応対できる 3) リハビリコメディカルの手技 技術について EBM の観点で科学的に説明できるリハビリ基礎医学の知識をもつ また リハビリチームリーダーとしてコメディカルを統括できる 4) 維持期については 障害者の社会的支援として介護保険サービス 福祉としての身体障害者認定などを理解し それに関わることができる 2. 行動目標 : 目標を達するために 何を行うべきか です 1) 脳血管障害 脳外傷 脊髄損傷 脊髄疾患 関節リウマチを含む骨関節疾患 脳性麻痺を含む小児疾患 末梢 中枢神経疾患 筋疾患 切断 呼吸器 循環器疾患の主治医 担当医 コンサルタント医となる 2) 上記疾患について目標を示した段階的なリハビリ処方を出すとともに フォローアップして リハビリコメディカルとカンファレンスをもち 適宜 修正する 3) 神経伝導 針筋電図検査を解釈もしくは実施し 病巣診断 重症度診断 予後判定を行い コメントを記載する 4) 嚥下造影 内視鏡検査や膀胱機能検査結果を解釈し 患者 家族に説明し 結果に応じたリハビリ処方を出す リハビリテーション科専門研修プログラム 3
5) 痙縮に対して 適切な内服薬投与やボツリヌス毒素などによるブロックを実施する 6) 主だった装具 義足の処方と適合判定を行う 7) 肢体不自由の身体障害者手帳意見書など リハビリに関連する公的書類を書く 8) 日本リハビリ医学会専門医受験資格に合わせて 学術集会において リハビリ症例報告と臨床研究報告を最低各 1 回づつ行い 何れかについて筆頭著者として論文を執筆する Ⅴ. 杏林大学での研修システム 1. 教室専門医スタッフの陣容リハビリ医学教室は 2001 年 7 月に創設されましたが リハビリ科が対外的に独立したのは 2002 年 11 月からになります 2016 年 8 月現在 診療科長 / 教授 1 名 医局長 / 准教授 1 名 レジデント 2 名 非常勤講師 3 名 専攻医 2 名 ( 関連病院出張 ) とスタッフは少ないですが 大学常勤職員は学位を有するリハビリ専門医 指導医です リハビリ医学の中でも 運動学 (kinesiology) 麻痺電気診断 ADL 評価などが得意な領域で 疾患単位では脳卒中 頭部外傷 脊損 廃用症候群 末梢神経障害などに特に精通しています 診療科長 医局長は日本リハビリ医学会のなかでは編集委員会 教育委員会 国際委員会 広報委員会 専門医試験特別委員会などに所属した経歴を有しています 専門医氏名 職位 出身 専門領域 岡島康友 教授 診療科長 慶応大学卒 (S55 年 ) リハ全般 電気診断 脊損 山田深 准教授 医局長 慶応大学卒 (H9 年 ) リハ全般 ADL 脳卒中 川上純範 非常勤講師 杏林大学卒 (S53 年 ) リハ全般 整形疾患 2. 研修施設 ( 関連病院 ) と待遇大学病院勤務中の待遇は病院の規程に従います 大学病院以外の研修病院として 現在 山梨リハビリテーション病院 多摩北部医療センター 永生病院などが受入れ対象ですが 今後の展開でさらにいろいろの選択肢ができてくると思われます いずれの病院でもリハビリ科への配属であり 待遇は個々の病院の規定によります なお 大学病院は急性期のみのリハビリにしか関与できず またリハビリ科専用入院床がないので レジデント 3 年間のうち少なくとも 1 年は関連病院での研修を予定しています 3. 大学病院での研修大学病院リハビリ科週間スケジュール (2016 年 4 月現在 ) 月 火 水 木 金 土 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 時 脳卒中カ外来 入院患者リハビリ入院患者フンファレンス診察および計画 処方ォロー 筋電図検査 医局勉強会 脳卒中カ外来 入院患者リハビリ神経内科カンフ小児神経カンファ嚥下カンフ新入患診察ンファレンス診察および計画 処方ァレンスレンスァレンス 脳外科カ外来 入院患者リハビリ学生実習 SU 病棟症例リハ科診 / 研修者勉強会ンファレンス診察および計画 処方筋電図検査検討会 脳卒中カ外来 入院患者リハビリンファレンス診察および計画 処方 嚥下センター VFG 検査 装具外来 脳卒中カ外来 入院患者リハビリ病棟看護 -リハ室 カンファ新入患診察嚥下センター VE 検査ンファレンス診察および計画 処方レンス 脳卒中カ 外来 入院患者リハビリ ンファレンス 診察および計画 処方 リハビリテーション科専門研修プログラム 4
大学病院ではリハビリ医学の基礎的知識 技術を得るとともに 障害を適切に診断 評価する診察法を習得し 機能予後診断 リハビリの計画と処方に精通します 筋電図等の電気診断技術の修練も大学病院が主な場となります 入院についてはコンサルタントあるいは併診医としてリハビリに関するすべてを担当します 主な病棟は脳卒中科 脳神経外科 整形外科 神経内科 高齢医学科です とくに脳卒中センターはリハビリ科が密に関与する病棟となっています 主治医 病棟看護 療法士を一同にしたカンファレンスは方針の統一の観点でも重要で 脳卒中科 脳外科など複雑な病態患者の治療にあたる病棟では頻繁に行います なお大学病院では急性期の廃用予防 早期離床といった単純ですが効率のよいリハビリを展開する必要があります 機能障害より能力低下に重点をおいたリハビリの場であり じっくり気の済むまで というリハビリは許されません 外来については週 1~2 コマを担当してもらいます 入院から外来に移行した患者については適切な外来リハビリを組んでフォローアップします なお 脳卒中センターでは一時的に脳卒中科に属して 脳卒中を基本から学ぶことも検討します 4. 外部研修病院での研修外部研修病院は回復期リハビリ病院あるいは一般病院ですが そこではリハビリ科の主治医となり入院医療に携わります リハビリ科といっても大学病院のように専門領域だけを診るという訳には参りません 一般医としても対処する必要があります そのベースは初期臨床研修 2 年間ですが その後の経験も重要であり 絶えず自分が一般医である自覚のもと修練していく必要があります もちろんリハビリ医学と関連診療科領域については一層の磨きをかける場でもあります なお 一般病院のリハビリ科は回復期と比べ 療法士数は少なく 規模は小さいのが通例です 研修の身とは言え そこではリハビリ部門管理者としてリハビリコメディカルを統括する立場を与えられることもあります 臨床におけるリハビリチームリーダーの役割と同様 部門の収支管理などの経営的側面も研修の一部として重要な内容です Ⅵ. レジデント研修の評価目標が 1 つ 1 つ達成されることが評価になります 研修後の区切りとなる目標は専門医試験ですが 1 年ごとに目標を定めて研修する手順が日本リハビリ医学会の 専門医取得のための研修手帳 として示されています 大学病院では症例報告など学会活動 電気診断検査の習熟 リハビリ室勉強会発表 外部研修病院ではまとまった数の症例経験 地域リハビリ啓発活動 ( リハビリ講義など ) 論文執筆などを個別の単位としてクリアしていくのも良いです Ⅶ. レジデント終了後の進路専門医取得後 希望によっては学位取得も可能です 絶対ではありませんが 公的病院の多くで部長クラス以上の職位条件に学位取得が挙げられることがありますので 足の裏の米粒 ではありますが 取得も一考に値します 大学病院もしくは関連病院で臨床を続けながら 研究活動を行いますので長期にわたって 多少の負担増は仕方ありません 短期に集中して学位研究を行おうとするのが大学院ですが リハビリ科は臨床色の濃い診療科であり 臨床抜きのリハビリ医学研究は基本的に考えていません 一方 専門医取得後に開業の道を歩むことも選択肢で リハビリクリニック として開業形態をとる専門医も見られるようになりました 通常 理学療法士は病院勤務志向ですが 理学 作業 言語療法が何たるかを理解している専門医のもとで働くなら開業医でも安心ということで 療法士をリクルートしやすいのもメリットだと思います なお 開業医院では主として維持期のリハビリを担うことになります リハビリテーション科専門研修プログラム 5
Ⅷ. 研修プログラムへの応募 1. 募集期間 2016 年 9 月 1 日 ~11 月 30 日まで ( 杏林大学付属病院前期臨床研修医は 2017 年 1 月 31 日まで ) 2. 選考方法 : 面接 ( 定員 :2-3 名を予定 ) Ⅸ. 教室連絡先病院代表 (0422-47-5511) を通して 直接 岡島科長 (PHS7452) もしくは山田医局長 (PHS7476) までお電話ください 日程を調整の上 お会いして個人的な説明会をもつことも可能です リハビリテーション科専門研修プログラム 6