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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

1.若年性骨髄単球性白血病の新規原因遺伝子を発見 2.骨髄異形症候群の白血病化の原因遺伝子異常を発見

大規模ゲノム解析から明らかとなった低悪性度神経膠腫における遺伝学的予後予測因子 ポイント 低悪性度神経膠腫では 遺伝子異常の数が多い方が 腫瘍の悪性度 (WHO grade) が高く 患者の生命予後が悪いことを示しました 多数検体に対して行った大規模ゲノム解析の結果から 低悪性度神経膠腫の各 sub

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

平成14年度研究報告

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生物時計の安定性の秘密を解明

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

PowerPoint プレゼンテーション

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

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図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

学報_台紙20まで

Microsoft Word - PRESS_

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

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Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

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汎発性膿庖性乾癬の解明

第6回 糖新生とグリコーゲン分解

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

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東京大学医科学研究所 The Institute of Medical Science, The University of Tokyo ポスト 個別化 京 重点課題 (2 ) 予防医療を支援する統合計算生命科学 ポスト 京 重点課題 2 個別化 予防医療を支援する統合計算生命科学 がん細胞が免疫か

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

第6回 糖新生とグリコーゲン分解

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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スライド 1

博士学位論文審査報告書

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

論文の内容の要旨

2011年度版アンチエイジング01.ppt

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

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学位論文の要約

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

スライド 1

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背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

Microsoft PowerPoint マクロ生物学9

Transcription:

クッシング症候群の原因となる遺伝子変異を発見 1. 出席者 : 本間之夫 ( 東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学教授 ) 小川誠司 ( 京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座教授 ) 佐藤悠佑 ( 京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座特定助教 ) 2. 発表のポイント ACTH 非依存性クッシング症候群の原因となる遺伝子変異を発見し 副腎腫瘍からコルチゾールが持続的に産生されるメカニズムを解明した ACTH 非依存性クッシング症候群の原因はこれまで知られていなかったが PRKACA 遺伝子が高率に変異していることを見出し その結果生じる機能的な異常も明らかとした 本研究の成果が ACTH 非依存性クッシング症候群の診断や治療に活用されることが期待される 3. 発表概要 : クッシング症候群は 副腎から持続的かつ過剰にコルチゾール ( 注 1) が分泌されることにより 糖尿病や高血圧など多彩な症状を引き起こす疾患です このうち副腎腫瘍が 脳下垂体からの制御に従わず勝手にコルチゾールを産生するタイプを 副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) 非依存性クッシング症候群と呼びますが これまでその原因は分かっていませんでした 東京大学大学院医学系研究科 ( 医学部附属病院泌尿器科 男性科 ) 教授本間之夫および京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座教授小川誠司を中心とする共同研究チームは ACTH 非依存性クッシング症候群の半数以上において PRKACA 遺伝子の変異が生じていることを明らかとし さらにこの変異によって副腎腫瘍が持続的にコルチゾールを産生するメカニズムを解明しました 本研究の成果は 2014 年 5 月 23 日 ( 米国東部時間 ) に 米国科学雑誌 Science 電子版にて公開されます なお 本研究は 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究 システム的統合理解に基づくがんの先端的診断 治療 予防法の開発 ならびに内閣府 / 日本学術振興会最先端研究開発支援プログラム (FIRST プログラム ) の一環として行われました 4. 発表内容 : 研究の背景 クッシング症候群は 副腎からコルチゾール ( ステロイドホルモンの一種 注 1) が過剰かつ持続的に産生されることにより 多彩な症状を引き起こす疾患で 20 代 ~40 代の女性に多く発生します コルチゾールは生命活動の維持に必須なホルモンであり 起床時に多く分泌され 就寝時には分泌量が低下します ところが クッシング症候群では常に多量のコルチゾールが分泌されてしまい それによって糖尿病や高血圧 肥満 骨粗鬆症 うつなどのさまざまな症状が出現します コルチゾールは 脳下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) によって副腎が刺激を受けた時に産生されます そして クッシング症候群での持続的なコルチゾール分泌には大きく分けて次のような2つのパターンがあります 1つ目は脳下垂体の腫瘍が原因となり ACTH が多量に分泌され それに反応して副腎がコルチゾールを産生するタイプで これを

ACTH 依存性クッシング症候群と呼びます ( 図 1) もう 1 つは 副腎腫瘍が原因となり ACTH による刺激がなくても勝手にコルチゾールを産生するタイプで こちらを ACTH 非依存性クッシング症候群と呼びます ( 図 1) ACTH 非依存性クッシング症候群において どのようなメカニズムでコルチゾールが持続的に産生されているのかは これまで明らかではありませんでした 研究内容 今回 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻 ( 医学部附属病院泌尿器科 男性科 ) 教授本間之夫 京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座小川誠司を中心とする研究チームは ACTH 非依存性クッシング症候群をきたした副腎腫瘍を対象として遺伝子変異解析を行い 半数以上の症例に生じている遺伝子変異を同定しました さらに 変異した遺伝子の機能の変化を明らかとすることにより コルチゾールが持続的に産生されるメカニズムを解明しました <ACTH 非依存性クッシング症候群の変異解析 > ACTH 非依存性クッシング症候群の原因となる遺伝子変異を明らかにするために まず 8 例の DNA( 副腎腫瘍から採取 ) について タンパク質をコードする領域 ( エクソン ) の全塩基配列を解読し これらの症例において 副腎腫瘍で生じている遺伝子変異を検索しました その結果 8 例中 4 例に PRKACA 遺伝子の変異を検出しました PRKACA 遺伝子はプロテインキナーゼ A(PKA 注 2) の触媒サブユニット (PRKACA) をコードしています PKA は 2つの PRKACA と 2 つの調節サブユニットから成り PRKACA が活性化することで細胞の代謝の調節などに関与します 通常 PRKACA は調節サブユニットが結合することで不活性の状態となっていますが ACTH の刺激により細胞内のサイクリック AMP(cAMP 注 2) の濃度が上昇すると 触媒サブユニットが調節サブユニットから離れることによって活性化した状態となり コルチゾールの産生を促すと言われています ( 図 2) また camp の産生に関わる遺伝子である GNAS 遺伝子の変異を 8 例中 1 例に認めました GNAS 遺伝子は 他の疾患ではしばしば変異することが知られており 変異によって細胞内の camp の濃度が持続的に上昇すると言われています ( 図 2) そこで これら 2 つの遺伝子に注目し さらに 57 例を追加して ( 合計 65 例 ) 変異の有無を調べました すると 65 例中 34 例 (52%) に PRKACA 遺伝子の変異を 11 例 (17%) に GNAS 遺伝子の変異を認めました 両者の変異が共に生じている症例はなく 合計で 45 例 (69%) の症例に camp と PKA を介する経路の異常が生じていることが示唆されました また 興味深いことに PRKACA 遺伝子の変異は特定のアミノ酸 (206 番目のロイシン ) に対応する塩基にのみ生じていました ( 図 3) < 変異型 PRKACA の機能 > そこで研究チームは PRKACA 遺伝子の変異により どのようにしてコルチゾールが持続的に産生されるのか そのメカニズムを解明するために 野生型 PRKACA タンパク ( 変異なし ) および変異型 PRKACA タンパクを用いた実験を行いました 野生型 PRKACA は 調節サブユニットを加えると両者が結合して PRKACA の活性が下がり これにさらに camp を加えると調節サブユニットが離れ 再び PRKACA が活性化することが確認できました ( 図 4) これに対して 変異型 PRKACA の場合は 調節サブユニットを加えても結合せず camp の有無に関わらず PRKACA が活性化した状態を維持していることが分かりました ( 図 4) このことから ACTH 非依存性クッシング症候群のうち半数以上の症例では PRKACA 遺伝子

が変異することにより 調節サブユニットによる PRKACA の抑制が不可能となるため ACTH の刺激による camp 濃度の上昇がなくても持続的にコルチゾールの産生が促されるものと結論付けました ( 図 2) 本研究の成果をふまえ 今後の研究により ACTH 非依存性クッシング症候群の新たな診断方法や治療法の開発が進んでいくことが期待されます 本研究は 京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座小川誠司教授 東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科本間之夫教授 同病理学専攻深山正久教授 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻濡木理教授 東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター宮野悟教授らによる共同研究チームによって遂行されました 5. 発表雑誌 : 雑誌名 :Science( 電子版 )2014 年 5 月 23 日号に掲載予定論文タイトル :Recurrent somatic mutations underlie corticotropin-independent Cushing s syndrome 著者 :Yusuke Sato, Shigekatsu Maekawa, Ryohei Ishii, Masashi Sanada, Teppei Morikawa, Yuichi Shiraishi, Kenichi Yoshida, Yasunobu Nagata, Aiko Sato-Otsubo, Tetsuichi Yoshizato, Hiromichi Suzuki, Yusuke Shiozawa, Keisuke Kataoka, Ayana Kon, Kosuke Aoki, Kenichi Chiba, Hiroko Tanaka, Haruki Kume, Satoru Miyano, Masashi Fukayama, Osamu Nureki, Yukio Homma* and Seishi Ogawa* 6. 注意事項 : 日本時間 5 月 23 日午前 3 時 ( 米国東部時間 5 月 22 日午後 2 時 ) 以前の公表は禁じられています 7. 問い合わせ先 : < 研究内容についてのお問い合わせ> 京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座教授小川誠司 ( おがわせいし ) < 取材についてのお問い合わせ> 東京大学医学部附属病院パブリック リレーションセンター ( 担当 : 小岩井 渡部 ) 京都大学渉外部広報 社会連携推進室広報企画掛

8. 用語解説 : < 注 1: コルチゾール> 副腎皮質から分泌される代表的なステロイドホルモンの 1 つ 糖やタンパク質の代謝に関与し 生体にとって必須のホルモンである < 注 2: サイクリック AMP/ プロテインキナーゼ A> サイクリック AMP は アデニル酸シクラーゼによって ATP( アデノシン三リン酸 ) から合成される 細胞に対する外部からの刺激 ( ホルモンなど ) によって合成が促され それを細胞内に伝達することから セカンドメッセンジャーと呼ばれる プロテインキナーゼ A はサイクリック AMP によって活性化される代表的な分子で 標的となるタンパク質をリン酸化することで細胞の代謝の調節などに関与する 9. 添付資料 : 図 1 クッシング症候群の 2 つのタイプ

図 2 コルチゾールの合成経路と PRKACA/GNAS 変異

図 3 PRKACA に生じていた変異 図 4 変異型 PRKACA は調節サブユニットを加えても 活性が抑制されない