日本看護評価学会誌 Journal of the Japan Academy of Nursing Evaluation, Vol. 4, No. 1, 41 48 (2014) 第 4 回日本看護評価学会学術集会 セミナー Ⅰ 看護管理者のコンピテンシー モデルを使った評価 看護管理者のコンピテンシー モデルを使った評価 宗村美江子 国家公務員共済組合連合会虎の門病院副院長 看護部長 ₁. コンピテンシーとはコンピテンシーの説明には氷山モデル ( 図 ₁ ) がよく用いられます. 人は知識や技術だけでなく, 特性や価値観と合わせて行動しており, 目に見える知識, 技術 や 目に見えない価値観, 特性 をそれぞれ単独としてではなく, それらすべてを統合した結果としての行動 を重視するという考え方です. 知識や技術に加えた価値観や特性を含めた全体を反映した行動のうち, 成果につながる行動がコンピテンシーです. 表層に位置する知識と技術のコンピテンシーは目に見えやすく, 訓練により比較的開発されやすい. 氷山の底に位置する中核的人格にある動因と特性は, 評価することも開発することも最も難しい. ₂ つの中間に位置するのが自己イメージに関するコンピテンシーで, 訓練などの積極的な開発経験を通じて変容が可能, とされています. 次に, コンピテンシーの概念の定義についてです. 研究者によって様々に定義されており混乱状態にありますが, 大きく分けて 能力 行動 思考 に分類できます. 我々がコンピテンシー モデルを開発するにあたっては, 行動 に着目し行動特性というキーワードを使って ある職務や状況において, 高い成果 業績を生み出すための特徴的な行動特性 と定義しました. なぜなら, 概念として特性, 動因, 自己イメージ, 価値観を含むことは理解できても, これらは目に見えにくく測定が難しいため, 実際にコンピテンシーの考え方を活用するには, 測定可能な行動によって表現することにより評価が可能となると考えたからです. したがって, 開発したコンピテンシー モデルは, 高い成果 業績を生み出すための看護管理者の行動モデルということができます. ただし, コンピテンシー イコール 行動 という限定的な解釈をすることなく, 行動を裏付ける思考パターン 中核的 ( 開発が困難 ) 技術 技術知識自己イメージ特性動因 自己イメージ 特性動因 態度 価値観 知識 表層的 ( 開発が容易 ) 出典 :Spencer, L. M., & Spencer, S. M.(₁₉₉₃). Competence at work. John Wiley & Sons.( 梅津祐良 成田攻 横山哲夫 ( 訳 )(₂₀₁₁). コンピテンシー マネジメントの展開 完訳版, 生産性出版.)( 一部改変 ) 図 ₁. コンピテンシーの概念図 41
を含む総合的な能力を見極めるということを決して忘れてはなりません. ₂. コンピテンシー モデルを使った評価の意義個人的に使う場合と組織的に使う場合とに分けて説明します. まず, 個人的に使った場合の意義として以下の ₄ つがあります. ₁ ) 看護管理者に必要なコンピテンシーを理解できるモデルを理解することで, どう行動すれば成果につながりやすいかがわかります. 最初はモデルにある行動を真似ることから始まり, 使い続けることでだんだん計画的, 意図的に行動することができるようになります. また, 必要なコンピテンシーを理解すると, 周囲で成果を上げている他の看護管理者の行動や思考を理解しやすくなります. ₂ ) 自分の成果を意識化できる過去の成果をモデルに当てはめることで, 自身のどのような行為が成果をもたらしたか, なぜ成果を出せたかが明らかになり, 次の成果を上げるための行動につなげることができます. ₃ ) 自分を客観的に評価できる自分の強みとなるコンピテンシー, 弱点であるコンピテンシーがわかり, 看護管理において自分の長所をさらに伸ばし, 弱点を克服するための行動修正に役立てることができます. ₄ ) 自己研鑽の道標になるモデルは段階的になっているので, 目標設定して取り組むことで自分の成長を実感したり確認したりすることができ, 自身のマネジメントへの自信につながります. 次に, 組織的に使った場合の意義を ₄ つ挙げます. ₁ ) 看護管理者に目標を明確に示せる看護管理者として必要な行動を明確に伝え, 次の段階へステップアップするよう促すことに活用できます. また, 組織として強化したいコンピテンシーや目指すレベルを設定するなど方針を明確に示すことが可能となります. ₂ ) 看護管理者への客観的なフィードバックができる上司である評価者が, モデルに照らして看護管理者の行動を判断しフィードバックすることが可能となります. さらに, どのように行動すれば成果につながるか具体的にアドバイスを与え指導できます. ₃ ) 看護管理者選出の基準にできるたとえばレベル ₀ を主任の選出基準とするなど, モデルを用いて候補者の評価を行うことにより, 上司との相 性などの影響を少なくし, より公平性, 透明性の高い選出が可能になります. また, 任命の際に選出理由を伝えることで, 本人の納得が得られやすくモチベーションの向上につながりやすいといえます. ₄ ) 効果的な看護管理者の配置に役立てる師長, 主任を互いのコンピテンシーを補完し合うように組み合わせることで, 看護管理チームとしての成果を高めることが期待できます. あるいは, 看護管理者の強みとなるコンピテンシーを活かして適材適所の配置が行 主任経験年数 表 ₁. インタビュー内容とコンピテンシー数 人数 事例 コンピテンシー数 成功失敗個数平均 ₁ 年目 ₃ ₁ ₃ ₁₂₉ ₄₃ ₂ 年目 ₃ ₅ ₂ ₁₅₄ ₅₁ ₃ 年目 ₄ ₆ ₆ ₁₃₉ ₃₅ ₄ 年目以上 ₆ ₉ ₈ ₃₂₉ ₅₅ 計 ₁₆ ₂₁ ₁₉ ₇₅₁ ₄₇ クラスター 表 ₂. 抽出されたコンピテンシー コンピテンシー 達成重視 ; 成果重視, 効率重視, 基準の遵守 イニシアチブ ; 他の人をリードする, 行動を起こすことへの強い関心 情報探究 ; 深い掘り下げ, 問題の特定 対人関係理解 ; 他の人の感情, 態度, 考え方を理解する 顧客サービス重視 ; 支援とサービス重視, 患者の満足への関心 ; 他の人に影響を及ぼす, 組織に影響を及ぼす 他の人たちの開発 ; 部下の成長と開発を促す, サポートの提供 指揮命令 ; パワーの活用, 指揮をとる チームワークと協調 ; 他のメンバーと助け合う, グループ機能の促進 チームリーダーシップ ; リーダーとしての役割を担う, 責任を担う 分析的思考 ; 原因と結果の関係を解明する, 問題 状況を理解する 概念化思考 ; パターン認識, 既存の概念の適用 セルフコントロール ; 冷静を保つ, 簡単には怒りを表明しない 自己確信 ; 自身の能力に対する確信, すぐれた自己イメージ 柔軟性 ; 対立意見を理解 評価する, 変化に自身を適応させる 組織へのコミットメント ; 組織目標を追求し, 個人の行動を整合させる 42 J Jpn Acad Nurs Eval Vol. 4 No. 1 (2014)
いやすくなります. ₃. コンピテンシー モデル開発のプロセス開発したコンピテンシー モデルは, レベル ₀ から ₅ までの ₆ 段階で評価します. 開発にあたってはまず, 経 ₁ 験年数に応じて順調に成長している主任看護師注)を ₄ 段階 ( ₁ ₂ ₃ 年目, ₄ 年目以上 ) のレベルごとに選出し, 計 ₁₆ 名にインタビュー ( 半構造化面接 ) を行いました. 具体的には, 最近 ₁ ~ ₂ 年の主任としての経験のなかで最も重要な出来事, 成功した出来事, 失敗した出来事 ( その状況, そこに誰がいたか, 被面接者が考えたこと 行ったこと, 結果 ) について聞き取りを行いました. そしてその内容を分析し,₇₅₁の行動を抽出しました ( 表 ₁ ). さらに抽出された行動を, スペンサーの コンピテンシー ディクショナリー ₁ ) ( コンピテンシーごとにその力量をレベル付けした尺度 ) に準拠して分類しま した. その結果,₁₆のコンピテンシーが抽出され( 表 ₂ ), ₄ つのコンピテンシー ( 表 ₃ ) が抽出されませんでした. 次いで, 各コンピテンシーを ₄ 段階のレベルに分け, さらにその上下に ₁ 段階ずつ整合するコンピテンシーを付加して ₆ 段階 ( レベル ₀ から ₅ ) のコンピテンシー クラスター 表 ₃. 抽出されなかったコンピテンシー コンピテンシー 秩序 クオリティ 正確性への関心 ; 環境における秩序を保持する, 曖昧さを除去し, 明確さを求める 組織の理解 ; 組織の命令系統 風土 文化を理解する 関係の構築 ; 職務に関連する目的から友好的なネットワークを築く 技術的 / 専門的 / マネジメント専門能力 ; 職務に関連する知識の習得 活用し, 発展させる 表 ₄. コンピテンシー モデル クラスターコンピテンシーレベル ₀ レベル ₁ レベル ₂ レベル ₃ レベル ₄ レベル ₅ 達成重視 イニシアティブ 情報探求 対人関係理解 顧客サービス重視 a a a 業務の無駄や非効率 効率よく仕事をしてを見つけ, 問題提起いるができる b 自己の目標達成に向けて前向きに取り組んでいる 業務の無駄や非効率を見つけ, 業務改善を効率的に進める b b チームの目標達成に 部署の目標達成に向向けて取り組んでいけて取り組んでいるる 障害や反対を克服す 監督されなくても仕るために粘り強く行事を遂行する動する 自分が把握すべき情 正確な情報を求めて報を認識する質問する 他の人たちの感情を 他の人たちの感情と 理解する 考え方を理解する 患者 家族の根底にあるニーズを把握しようとする意欲がある 患者 家族の根底にあるニーズを把握する 現在の状況を把握し, 問題解決のための行動を起こす 特定の問題について, その問題に深い関わりを持つ人たちに質問する a a 目標達成のため, システム, 慣習を変更し, チーム力を高める b 目標達成のために, スタッフそれぞれに達成目標を提示する c チャレンジングな目標を設定し, 達成に向け努力する 切迫した問題を解決するために, 迅速に問題解決の行動を起こす 問題の根幹を探り, 本質に迫るための質問をする a a a 言葉で示されていな 積極的に他の人たちい他の人たちの問題の理解に努めるに気づく b b b 他の人たちの反応を 自分の感情, 考えを予測しながら傾聴す表出するる 患者 家族の根底にあるニーズに応えるために, ルーティン以上の対応をする ( 通常の努力の ₂ 倍まで ) 患者 家族の根底にあるニーズに応えるために, 多大な努力をする ( 通常の ₂ ~ ₆ 倍の努力 ) 目標達成のために影響力のある上司, スタッフを見極め, 協力体制をつくる 目標達成のため, 障害を乗り越え, 長期 b リスクを解明し, 最小限に抑えるアクションを起こす 確固たる態度で, 新しいプロジェクトを遂行する 状況に関わりを持たない人たちにも接触し, 彼らの見解, 情報を活用する 間にわたり, 懸命の努力を維持する 新しいプロジェクトに他の人たちを巻き込み, 目標を達成する 必要なデータとフィードバックを得るために調査する 他の人たちが自分の問題に気づくように反応しながら傾聴す る 他の人たちの長期 他の人たちの具体的な長所, 短所に気づき, 根底にある問題を理解する a 患者 家族のニーズに応えるために, 周りの人たちにも多大な努力に参加させる b 患者 家族のニーズに応えるために, 迅速かつ非防衛的に対応する c 患者 家族のニーズに応えるために, 通常の職務をはるかに超えた努力をする 的, 複雑な問題を理解し, 解決できるよう支援する 患者 家族のニーズに応えるために, 組織的な問題に対して非防衛的に対応する 43
他の人たちの開発 自分の考えをもち, 他者にインパクトや 他の人たちに自分の影響力を与えたいと考えをアピールするいう意欲をもっている 他の人たちの興味やレベルに合わせて自分の考えをアピールする a a 他の人たちに前向きの期待を示す 他の人たちの能力や 具体的な支援的助言潜在的可能性に対しを行なうて前向きに関わる b 他の人たちに問題点を指摘する 指揮命令 - 自己表現 重要な長期的な業務力と地位に伴うパ 適切な日常的指示を 状況の変化に応じてに取り組めるようにワーの活用出す詳細な指示を出す指示を出す チームワークと協調 チーム リーダーシップ 分析的思考 概念化思考 セルフ コントロール 自己確信 柔軟性 組織へのコミットメント チームづくりに対す チームメンバーに対 チームに適切で有用る前向きな意欲があして前向きな期待をな情報を共有するる表明する 意思決定から影響を 時間をコントロール チームのメンバーを受ける人たちに情報し, 役割を割り振る公平に扱うを伝える 他の人たちへの影響を計算して, 自分の考えをアピールする 他の人たちの能力開発のために課題を与える c b 理由と根拠を伴った指示を与え, 見本を示す a しっかり自己主張する b 達成基準を設定し, 厳しい態度で対応する チームのメンバーすべてが意思決定に参加できるように働きかける チームメンバーのやる気と生産性を高めるよう働きかける a 具体的な効果を上げるために計画的なア クションを起こす 第三者を活用し, 高 b 影響を考えて, ₂ 段階に分けてアクションを起こす 度で段階的なアクションを起こす a 他の人たちの能力開発のために多元的フィードバックを行 a なう 他の人たちが自信を b 他の人たちが失敗したとき, 安心感を与えるように関わる 人格を否定せず, 行動に対してネガティブフィードバックを行なう 業務上の問題について公に議論する 築けるような成功体験を積ませる b 部下のコンピテンシーを評価し, 得意な方法で業務を遂行できるように権限と責任を委譲する ルール遵守に導くために, コントロールされた怒りや強制的な態度を効果的に活用する a 他の人たちを励まし, 重要であると確 信するよう導く チーム内の対立を公 b 協力して目標に向かうチームを築く a チームの利益を守るために役割を果たす b リーダーとしてポリシーを表明し, メンバーがそれに賛同するように導く の場に持ち出して解決する 人を動かす強力なビジョンを伝え, チームの力を引き出す 多岐にわたる複雑な 問題解決の障害を予 一元的な問題に気づ 原因と結果の簡単な 問題や状況の複雑な問題や状況を系統的測し, 前もって解決く関係を理解する関係を理解するに分解し, いくつか策を考えておくの解決策を見出す 常識, 過去の経験を活かして状況を把握する 感情をコントロール 衝動的行動をしないする 自分自身を評価する 現状と過去の経験の間に重大な差を発見する 強度の感情をコントロールし, 冷静に議論やその他のプロセスを続ける a 自分自身で意思決定する 自分で意思決定し, 実行する b 自分の責任を認める 他の人の意見に含ま 仕事の変化を受け入れる妥当な部分を認れるめる 他の人が与えられた 身だしなみなどの組タスクを完遂するこ織規範を守るとを助ける 他の人の反応に応じて自らの行動を変更する 目的意識を明確にし, コミットメントを示す 学習した複雑な概念 複雑な状況に重要なを適用し, 調整する課題を見つける 効果的にストレスをマネジメントする 強度のストレスをコントロールし, 問題の原因に対して前向きに対応するためのアクションを起こす a 自分の失敗原因を理解し, 解決策を見出 す 自分の判断, 発言に b 自分の能力, 判断に自信をもっている 状況に合わせて自らの行動や方法を変える 自分の専門職としての興味よりも, 組織のニーズを満たすことを優先させる 自信を持って主張する 状況に合わせて目標達成に向けた戦略を修正できる 組織に利益をもたらす意思決定は断固として守り抜く 他の人にはあいまいに見える問題や状況について, 新しい見方を示す 自らの感情をコントロールするだけでなく, 他の人たちの冷静さを取り戻す 上司などに対して自分の意見, 立場をはっきり自信あふれる態度で表明する 状況に伴うニーズに合わせて組織変革を進める 組織の長期的利益に対しては, 自部署の短期的利益を犠牲にする 44 J Jpn Acad Nurs Eval Vol. 4 No. 1 (2014)
インパクト影響力 1 年目 とアクション 2 年目 3 年目 4 年目以上 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 図 ₂. 主任経験年数別クラスター割合 マネージャー 主任 4 年目以上 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 出典 :Spencer, L. M., & Spencer, S. M.(₁₉₉₃). Competence at work. John Wiley & Sons.( 梅津祐良 成田攻 横山哲夫 ( 訳 )(₂₀₁₁). コンピテンシー マネ ジメントの展開 完訳版, 生産性出版.)( 一部改変 ) 図 ₃. 人的サービスのマネージャーと主任 ₄ 年目以上とのクラスター割合比較 モデルが完成しました ( 表 ₄ ). 抽出されたコンピテンシーを主任経験年数別にクラスター割合で比較 ( 図 ₂ ) すると, 経験年数が増すにつれ,,, が増加し, が減少する傾向が確認できまし ₂ た. また, スペンサーによる調査)で明らかになった看護職を含む人的サービスのマネージャーのクラスター割合と当院の主任経験 ₄ 年目以上のクラスター割合を比較 ( 図 ₃ ) すると, 当院の主任は, の割合が少なく, との割合が多い傾向が認められました. 注 注 ₁) 当時, 当院の管理体制は ₂ ~ ₄ の複数病棟を管理する管理看護師長の下, ₁ 病棟に ₂ 人の主任看護師が配置され, それぞれが看護師長と主任の中間的な役割を担っていた. 現在は, 管理看護師長体制は変わらないが, 各病棟に ₁ 人ずつ看護師長と主任がいる体制となっている. 文献 ₁)Spencer, L. M., & Spencer, S. M.(₁₉₉₃). Competence at work. John Wiley & Sons.( 梅津祐良 成田攻 横山哲夫 ( 訳 )(₂₀₁₁). コンピテンシー マネジメントの展開 完訳版,pp. ₃₁ ₁₁₅, 生産性出版.) ₂) 同上,p. ₂₅₄. 45