塩害等による構造物 環境影響に関するシンポジウム 社会インフラの維持管理のために 2014.1.17( 金 ) 札幌エルプラザ 鉄筋コンクリート建築物の塩害 室蘭工業大学大学院くらし環境系領域 濱幸雄
講演の内容 コンクリートの耐久性 塩害のメカニズム 塩害の種類と被害事例 内在塩害と外来塩害 飛来塩分について 飛来塩分量の推定方法長崎県端島 ( 軍艦島 ) における事例 飛来塩分に対する対策 高耐久化仕様 塩ビサイディング アクリルゴム系塗膜日本建築学会 JASS5.25 節の規定
コンクリートの耐久性 コンクリート構造物の耐久性 気象作用 化学的浸食作用 機械的摩耗作用 その他の劣化作用などに抵抗し 構造物に要求される力学的ならびに機械的な性能を長期にわたって保持しうる能力 耐久性を損なう劣化原因 1) 化学的なもの塩害 中性化化学的侵食アルカリ骨材反応 など 2) 物理的なもの凍害すりへり作用 など 3) 複合劣化
コンクリート内部 への塩化物イオ ンの浸透状況 塩化物イオンは, コンクリート表面から細孔を通じて内部へ浸透 拡散する 駆動力は, 濃度差および水の移動などである (EPMA による分析 )
コンクリート中への塩化物イオンの浸透 拡散 海水 海水飛沫 融氷塩 コンクリート中の細孔を通って Cl の浸透 セメント水和物による Cl の化学的な固定化 フリーデル氏塩 (C 3 A CaCl 2 nh 2 O) の生成 可溶性塩化物のコンクリート中への拡散 可溶性 Cl が鉄筋周辺まで達しその量が許容値を超えると 鉄筋腐食が始まる
塩害 塩害によるコンクリート構造物の劣化過程 コンクリート (ph 12.5) 塩化物イオン 水 ひび割れ O 2 鉄筋 不働態被膜 不働態被膜の破壊 腐食生成物 ( 体積変化 ) 剥離 剥落
コンクリート中への塩化物の浸透 フィックの拡散方程式 Cl 濃度 t 1 < t 2 < t 3 : 構造物の材齢 t 1 t 2 t 3 コンクリート表面からの深さ (x) erf ( s) 2 s 0 e 2 d C C t 方程式の解 C 0 D 1 erf 2 C x C: 深さ x 時間 t における Cl 濃度 D: 拡散係数 x Dt C 0 : コンクリート表面の Cl 濃度 2 2
許容塩化物量 コンクリート中の鉄筋に対して コンクリート質量比で 0.05% の Cl 量 = 使用セメント質量比でセメント 0.4% の Cl 量 or コンクリート 1m 3 あたり 1.2 kg/m 3 の Cl 量 コンクリート中の PC 鋼材に対して コンクリート質量比で 0.025% の Cl 量 = 使用セメント質量比でセメント 0.2% の Cl 量
海塩粒子, 海水 コンクリート Cl - H2O O2 Cl - O2 H2O Cl - O2 H2O さび Fe(OH) 2 O2 H2O OH - Fe 2+ OH - 不働態皮膜 e - e - 鉄筋 カソード Fe アノード カソード コンクリート中の鉄筋腐食機構 Corrosion Mechanism by salt attack
到達 外部からの塩分浸入による劣化進展曲線
総節点数 48095 z ひび割れ節点数 3583 y x 鉄筋節点 : コンクリート節点 =3769:44326 : コンクリート内部節点 : コンクリート表面節点 < ひびわれ進展図 >
塩害の種類と被害事例
塩害の原因 ( 塩化物イオンの存在 ) 1. 海砂や混和剤等から練り混ぜ時に混入する場合 ( 内在塩害 ) * 日本では 20 年前に内在塩害が社会問題となった 対策として,1986 年に塩化物総量規制で, コンクリート中の塩化物イオン量が 0.3kg/m 3 以下と定められた 2. 海水滴や飛来塩分, 凍結防止剤によるもの ( 外来塩害 ) * 現在においては外来型塩害による事例が多数報告されている
内在塩害の事例 ( 除塩されていない海砂使用による ) 写真 1 柱部の内部塩害例 写真 2 軒下の内部塩害例
外廊下崩壊 09.9.3
海砂除塩 : 浸水法
除塩 散水法
外来塩害の事例 ( 飛来塩分 飛沫による ) 写真 3 柱 梁の外来塩害 写真 4 橋梁の外来塩害
鋼橋の塩害による落橋 鋼橋の塩害による落橋の連続写真 * * 辺野喜橋 ( 無塗装仕様の耐候性鋼道路橋 ) は全長 35m, 全幅 6.5m で, 昭和 56 年に供用を開始し, 約 28 年後の平成 21 年 7 月 15 日に腐食劣化が原因で崩落している ( 平成 16 年より全面通行止め ) * 著しい腐食の原因は, 無塗装仕様の耐候性橋梁の適用可能地域の目安である 0.05mdd をはるかに超える飛来塩分量によるものとされている * 下里哲弘, 村越潤, 玉城喜章, 高橋実 : 腐食により崩落に至った鋼橋の変状モニタリングの概要と崩落過程 崩落から見える地方の橋梁維持管理の実態, 橋梁と基礎, 2009 年 11 月号 pp.55 60. より引用
落橋の 2 年前
鉄筋腐食量内在塩害 : 外来塩害 : 塩害による構造物劣化過程 内在塩害の場合外来塩害の場合 進展期 加速 劣化期 潜伏期 進展期 ひび割れ発生腐食量経過時間鉄加速 劣化期 飛来塩分量によってこの期間の長さが異なる
飛来塩分について
気象観測 ( 環境評価をめざして ) 風向 風速計 雨量計 飛来塩分捕集器 ( 土木研究所式 ) 温湿度計 計測装置およびデータ転送装置 ソーラーパネル
飛来塩分捕集器 ( 土研式 )
海岸からの距離と飛来塩分量 飛来塩分量 [mg/dm²/day] 8 7 6 5 4 3 2 1 0 辺野喜 * 各地点から汀線までの最短距離の方角の塩分量を使用 昭和製紙 防風林のため海は見えない 田原コンクリート中部生コン 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 汀線からの距離 [km] JASS5 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 琉球大学
塩害環境評価 ( 飛来塩分解析による ) Y 方向 Y 方向 X 方向 解析対象空間 海 X 方向 陸上
陸上 u c x w c y y k y c y Q : 移流拡散方程式 1 高さ y における水平方向の平均風速 2 沈降速度 3 乱流拡散係数 k y u * y 4 障害物による遮蔽項 海 海塩粒子 沈降粒子 風により運ばれる粒子 捕捉粒子 風速場は対数則
50 40 30 20 50m 100m 300m 500m 海岸からの距離 10 0 0 1 2 3 4 5 飛来塩分量 :(Cl - :μ g / m 2 / sec) 図 -1 飛来塩分量の計算結果
解析値 (mg/dm 2 /mon) 解析値 (mg/dm 2 /mon) 解析値 (mg/dm 2 /mon) 40 30 20 10 0 40 30 20 10 40 30 20 10 0 0 昭和製紙北東 ( 遮蔽考慮 ) A 地点 NE 0 10 20 30 40 B 地点 NE 田原コン北東 方位考慮全方位 0 10 20 30 40 C 地点 NE 中部生コン北東 方位考慮全方位 方位考慮全方位 0 10 20 30 40 実測値 (mg/dm 2 /mon) 40 30 20 10 0 40 30 20 10 0 40 30 20 10 0 昭和製紙南東 A 地点 SE 方位考慮全方位 0 10 20 30 40 B 地点 SE 田原コン南東 方位考慮全方位 0 10 20 30 40 C 地点 SE 中部生コン南東 方位考慮全方位 0 10 20 30 40 実測値 (mg/dm 2 /mon) 飛来塩分測定値と解析値の比較
建物周りの飛来塩分挙動 3 次元シミュレーション 建物に付着する飛来塩分 * 風上側の軒下に多く付着する 建物周りの飛来塩分
建物周りの二次元モデル 10m 建物 4 階 12m 10m 捕集器設置場所 9m 建物 2 階 6m 建物 2 階 6m 北西側 ( 海側 ) 南東側 ( 陸側 ) 12m 12m 34m 解析で与えた風向 HSMAC 法による風速場の計算結果
60m 1 0.95 0.9 0.85 0.8 0.75 0.7 0.65 0.6 0.55 0.5 0.45 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 60m 1 0.95 0.9 0.85 0.8 0.75 0.7 0.65 0.6 0.55 0.5 0.45 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 0m 60m 120m 北西側 ( 海側 ) 南側 ( 陸側 ) 0m 60m 120m 北西側 ( 海側 ) 南側 ( 陸側 ) 60m 1 0.95 0.9 0.85 0.8 0.75 0.7 0.65 0.6 0.55 0.5 0.45 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 60m 1 0.95 0.9 0.85 0.8 0.75 0.7 0.65 0.6 0.55 0.5 0.45 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 0m 60m 120m 北西側 ( 海側 ) 南側 ( 陸側 ) 0m 60m 120m 北西側 ( 海側 ) 南側 ( 陸側 )
経験則による飛来塩分推定式 数値計算もよいが, 手軽に使える ( 敷居の低い ) 飛来塩分推定式も便利である
分飛来塩分の発生と輸送の模式図小飛来塩風況 発生飛来塩分 陸 海 大 大 飛来塩分 小
飛来塩分量 A 0 は, 海風の積算風量 V s の 2 乗則で表わされる 発生飛来塩分量 A 0 (mg/dm²/day) 10 7.5 5 2.5 0 実測値式 (1) 0 500 1000 1500 2000 積算風量 V s ( 3600(m)) [1]
飛来塩分は海岸からの距離や標高の上昇につれ減衰していく 飛来塩分量は海岸からの水平距離 D(m) および標高 H(m) の積 D H(m 2 ) のべき乗則の相関がある 10 飛来塩分量 A (mg/d m2 /day) 1 0.1 うるま A うるま B うるま C 琉大 0.01 1.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 1.E+06 D H( m2 ) 図 3 飛来塩分量と積 D H(m 2 ) の関係 (12 月 )
任意地点における飛来塩分量 A の推定式 式 [2] において, 基準地点の発生飛来塩分量を A 0 として任意地点の D H を基準地点の D 0 H 0 で除している ここで D 0 および H 0 は基準地点の海岸からの水平距離および標高を表す
1 減衰係数 α R² = 0.8169 0.1 0.1 1 10 100 発生飛来塩分量 A0(mg/d m2 /day)
長崎県端島 ( 軍艦島 ) における飛来塩分 環境から飛来塩分の輸送特性を学ぶ
端島 ( 軍艦島 ) の概況 軍艦島周辺の地理 (Google マップの地図を使用 )
端島 ( 軍艦島 ) の航空写真 北西側の航空写真 南東側の航空写真 引用 : 軍艦島保存活用技術検討員会報告書, 平成 17 年 12 月
軍艦島の飛来塩分量測定地点 N 51 号棟屋上地上 飛来塩分捕集器のみ飛来塩分捕集器と百葉箱飛来塩分捕集器とWEBモニタ 30 号棟 端島病院 3 号棟 0 40 80 100 200 (m) 飛来塩分捕集器 百葉箱 WEB モニタ設置場所
軍艦島の飛来塩分量特性 ( 標高と距離の影響 ) 低い <== 標高 ==> 高い 塩分量減少 近い <== 海岸からの距離 ==> 遠い
軍艦島の飛来塩分量 6 他地域との比較 10000 1400.000 飛来塩分量 (mg/d m2 /day) 1000 1200.000 1000.000 100 800.000 10 600.000 400.000 1 200.000 0.1 0.000 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 軍艦島飛来塩分量 辺野喜飛来塩分量 野母崎積算風量 辺野喜積算風量 辺野喜病院と辺野喜 ( 沖縄 ) の飛来塩分量比較 積算風量 ( 3600(m)) 軍艦島 ( 左 ) と沖縄県辺野喜 ( 右 ) の海岸の状況 * 軍艦島は辺野喜に比べ積算風量が大きい また, 海岸の状況も軍艦島は水深の深い外洋に面しているのに対し, 辺野喜は砂浜海岸であることが影響しているため飛来塩分量が多い
飛来塩分に対する対策
土木構造物の塩害対策事例 本橋は高耐久化への最近の社会状況を勘案して, 目標耐久年数を 100 年として設計 施工等を行っている. 具体的には以下に示すような塩害対策を講じている. 1) かぶり増 ( 下部工 90mm, 上部工 70mm) 2) エポキシ樹脂塗装鉄筋の採用 3) エポキシ樹脂塗膜 PC 鋼材の採用 4) ポリエチレンシースの採用 5) グラウト施工の徹底した施工管理 写真古宇利大橋
高い 耐久性レベルのイメージ 耐久性レベル 飛沫帯 スーパー塩害対策 現行塩害対策 C=5 7 S59 通達以前 C=3.5 低い 0 100 300m 塗装 PC 鋼材耐食シース塗装鉄筋高耐久性コンクリート etc. かぶり増による対策 道路橋示方書 C=3.5 :50 年 海岸線からの距離 :100 年 C : かぶり (cm) 単位水量の検査かぶり厚の計測 第 7 回シンポジウム 沖縄の自然環境と構造物の耐久性 より引用
( 写真の引用元 ) http://www.j siding.com/work/work.html http://www.zeonkasei.co.jp/product/c/intro.html
2009 年 7 月より沖縄県 ( 国頭村辺野喜暴露場 ) および北海道 ( 泊村暴露場 ) において長期暴露試験を実施 沖縄県国頭村辺野喜暴露場 北海道泊村暴露場 塩化物イオン浸透試験 鉄筋腐食診断 飛来塩分の測定 ( 沖縄 ) 電位差滴定装置 鉄筋腐食診断機 飛来塩分捕集器
海 側(西)に面した試験面 陸 側(東)に面した試験面 塩化物イオン濃度 (kg/m 3 ) 塩化物イオン濃度 (kg/m 3 ) 塩ビサイディング表面被覆なし (N 試験体 ) 塩ビサイディング表面被覆あり (SS 試験体 ) 3.00 3.00 沖縄 1 年目沖縄 1 年目 2.50 2.50 北海道 1 年目北海道 1 年目 2.00 沖縄 3 年目 2.00 沖縄 3 年目 1.50 北海道 3 年目 1.50 北海道 3 年目 1.00 1.00 0.50 0.50 0.00 0.00 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 N 試験体 かぶり (cm) 0 1 2 3 4 5 かぶり (cm) 沖縄 1 年目北海道 1 年目沖縄 3 年目北海道 3 年目 塩化物イオン濃度 (kg/m 3 ) 塩化物イオン濃度 (kg/m 3 ) 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 かぶり (cm) 0 1 2 3 4 5 かぶり (cm) SS 試験体 沖縄 1 年目北海道 1 年目沖縄 3 年目北海道 3 年目 シーリング
アクリルゴム系塗膜の遮塩性効果 RC 構造物の暴露試験状況 ( 本部町備瀬 )
化物イオン量塩化物イオン浸透状況塩無塗装であった半年の間に入った塩分量 ( 左図参照 )
表面被覆材による外来塩害の防止 写真万座ビーチホテルの外観
JASS5 25 節海水の作用を受けるコンクリート 25.1 総則 a. 本節は, 海岸地域に建設する建築物の海水に接する部分に使用するコンクリート, 直接波しぶきを受ける部分に使用するコンクリートおよび飛来塩分の影響を受ける部分に使用するコンクリートに適用する. 適用箇所は特記による. c. 構造体の計画供用期間の級 : 塩害環境 : 短期 準塩害環境 : 短期, 標準, 長期 d. 長期, 超長期の構造体を用いる建築物において, 海水および飛来塩分の作用を受ける部分は, 建築物の供用期間中に著しい劣化がないか, または容易に維持管理ができる構造になっているものとする.
JASS5 25 節海水の作用を受けるコンクリート 塩害環境の区分 塩害環境の区分海水に接する部分飛来塩分の影響を受ける部分 重塩害環境 潮の干満を受ける部分波しぶきを受ける部分 25mdd を超える例 : 日本海側で汀線から 20m 程度 塩害環境 準塩害環境 常時海中にある部分 建築物が遮蔽物で囲まれて海に面していない場合は, 1 重塩害環境 塩害環境 2 塩害環境 準塩害環境 3 準塩害環境 対象外と考えてよい 13mdd を超え 25mdd 以下例 : 同 20~70m 程度 4mdd 以上 13mdd 以下例 : 同 70~150m 程度 (mdd:mg/dmmg/dm 2 /day)
表 25.2 最小かぶり厚さと耐久設計基準強度 塩害環境の区分 塩害環境 準塩害環境 計画供用期間の級 短期 短期 標準 長期 最小かぶり厚さ (mm) 50 60 耐久設計基準強度 (N/mm 2 ) 普通ポルトランドセメント 36 33 高炉セメント B 種 33 30 40 30 24 50 * 24 * 21 * 40 50 60 * 36 33 30 * 33 30 24 * 50 36 33 60 * 33 * 30 * 注 )* 海中にある部分に適用する.
塩害の防止方法 (1) 除塩した骨材を用いる 塩化物イオンを多量に含む混和剤を用いない (2) 水セメント比を低くして, コンクリートを密実にする (3) コンクリート表面を塗膜やタイルで覆うなどする (4) かぶりを厚くする (5) 高炉セメントやフライアッシュセメントを使用する (6) 混和剤 ( 防錆剤 ) および混和材 ( フライアッシュ等 ) を使用する (7) 防錆鉄筋を使用する
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