内膜中膜複合体厚 intima-media thickness (IMT) 測定の意義 (101005) 以前 首の血管を診てもらったので そろそろ再検査した方が良いですか? 内膜中膜複合体厚の測定は心血管イベントの代替エンドポイントとして評価されることが多いと思うが 定期的に IMT を測定することには意味があるだろうか つまり リスクファクターとしてフォローするのが有用かどうかということである 血圧や脂質 体重のように 治療によりリスクの増減の目安になる 分かりやすい指標が数多くある中で あえて ( 数値的な ) 変動が少ない IMT をフォローアップ指標に追加することで得られるメリットがあるのかどうかを一度自分なりに考えてみたいと思う 論文の前に IMT に関する基本的な部分を勉強 B モード上で頸動脈を描出すると 血管内腔に二層構造の膜様にみえる部分があり これが IMT である 5) ( 参考文献 5 より引用 ) 内膜 中膜 外膜という筋性動脈の3 層構造のうち 粥状動脈硬化病変の首座となるのは内膜および中膜であり IMT はその肥厚を高い精度で反映する ただし 内膜と中膜の密度変化はさほど大きくないため エコーでは両者は一体化して描出される 内膜中膜複合体とは あくまでもエコー画像上の概念であり 解剖学的な名称ではない 6) 総頸動脈遠位側の後壁 (far wall) で評価することが一般的 6)
IMT は頸動脈の内膜中膜複合体の肥厚度を超音波断層装置で測定する方法で 1.1mm 以上を異常とする 4) 総頸動脈の IMT は 1.0mm 以下を正常とし 年齢とともに 0.01mm~0.015mm/ 年増加する 5) IMT の計測については Max-IMT CCA mean IMT mean max IMT など種々の方法が提唱されている 5) ( 参考文献 5 より引用 ) 頸動脈病変の意義は 脳血管障害の直接的な原因病変であり 脳血管障害のマーカーであ ること 冠動脈を含む全身の動脈硬化のマーカーであることの二つがあげられる 5) 参考文献 1 を見ると IMT は確かに心血管イベントのリスクファクターとなっている 心筋梗塞 脳卒中 複合血管イベント ( 心筋梗塞 脳卒中 死亡 ) などとの関連が指摘されている IMT at all carotid segments was highly predictive of all end points (eg, hazard rate ratios [HRRs] per 1 SD CCA-IMT increase were 1.43 [95% CI: 1.35 to 1.51] for MI, 1.47 [1.35 to 1.60] for stroke, and 1.45 [1.38 to 1.52] for MI, stroke or death; all P_0.0001). Even after adjustment for age, sex, and vascular risk factors, the predictive value of CCA-IMT and bifurcation IMT remained significant for MI and the combined end point.
( 参考文献 1 より引用 ) 参考文献 2 も IMT と心血管イベントの関連を検討したメタアナリシスであるが この論文でも IMT の増加は心血管イベントのリスクファクターであることが示されている The age- and sex-adjusted overall estimates of the relative risk of myocardial infarction were 1.26 (95% CI, 1.21 to 1.30) per 1 standard deviation common carotid artery IMT difference and 1.15 (95% CI, 1.12 to 1.17) per 0.10-mm common carotid artery IMT difference. The age- and sex-adjusted relative risks of stroke were 1.32 (95% CI, 1.27 to 1.38) per 1 standard deviation common carotid artery IMT difference and 1.18 (95% CI, 1.16 to 1.21) per 0.10-mm common carotid artery IMT difference.
( 参考文献 2 より引用 ) 上記の 2 論文から IMT が増加しているという状態は心血管イベントのリスクの可能性が通常より高い状態であるこということは言えそうだ ただし ここで問題になるのは 今までの指標に IMT を追加する意義である 参考文献 3 のように IMT はイベントのリスク評価に有用としながらも 今までの指標に追加することによるメリットは少ないとする論文もある The ROC area of a model with age and sex only was 0.65 (95% CI, 0.62 to 0.69). Independent risk factors were previous myocardial infarction and stroke, diabetes mellitus, smoking, systolic blood pressure, diastolic blood pressure, and total and HDL cholesterol levels. These risk factors increased the ROC area from 0.65 to 0.72 (95% CI, 0.69 to 0.75). This model correctly predicted 17% of all subjects with coronary heart disease and cerebrovascular disease. When common carotid IMT was added to the previous model, the ROC area increased to 0.75 (95% CI, 0.72 to 0.78). When only the IMT measurement was used, the ROC area was 0.71 (95% CI, 0.68 to 0.74), and 14% of all subjects were correctly predicted. There was no difference in ROC area when different measurement sites were used.
( 参考文献 3 より引用 ) Model 1 has the independent predictors added, such as previous coronary heart disease and cerebrovascular disease, diabetes mellitus, smoking, systolic and diastolic blood pressure, and total and HDL cholesterol. Model 2 is the same model extended with the CCA IMT. そのほか 参考文献 5 6 を読んで参考になった点は以下の点 IMT に及ぼす 2 種のスタチンの効果を比較検討した Arterial Biology for the Investigation of the Treatment Effects of Reducing Cholesterol(ARBITER 研究 ) では アトルバスタチン高用量群で IMT が退縮したのに対し プラパスタチン通常用量群では不変であり アトルバスタチンの強力介入による有意なプラーク退縮効果が認められた IMT はこのように動脈硬化の指標としてはなくてはならないマーカーであるが その値はたかだか 1mm 程度であり 変化量も 0.1mm 単位である MRI や CT 血管撮影など他の検査法では描出することも困難であり IMT 関連の研究においては超音波検査の独壇場となっている 5) IMT の経年変化量はせいぜい数 10μm 程度であり 到底一般臨床の場で正確に測定し 追跡できるレベルの変化ではない したがって IMT の年次変化は あくまでも研究のための概念と考えたほうがよい 6)
確かに IMT 測定時点におけるリスクが評価できる点では有用といえる ただし 個人的にはフォローにはなかなか使いにくいと思う IMT が治療によって減少するという試験もあるようだが 経年変化量が少ないうえに 私のように技術に不安がある場合には誤差が大きくなるだろう 1mm 以下 ときには 0.1mm 単位の変化をフォローしていくのは難しい というか 私には無理と思う 既存のリスクファクターに追加する意義もはっきりしていないようなので 積極的にフォローアップ目的に施行することはあまりないかもしれない もちろん 絶対に施行しないというわけでもないが 患者に説明して同意を得られる場合のように かなり限定的な機会に施行することになると思う まあ 侵襲がほとんど無いところは優れている点と思う ちなみに 決して安い検査では無い 簡便で 侵襲が少ないところまでは良いと思うが これで 安ければ 検査を行う機会も増えるかもしれない いや 増えることは無いかも 2 断層撮影法 ( 心臓超音波検査を除く ) イ胸腹部 530 点 ロその他 ( 頭頸部 四肢 体表 末梢血管等 ) 350 点 参考文献 1. Lorenz MW, von Kegler S, Steinmetz H, Markus HS, Sitzer M. Carotid intima-media thickening indicates a higher vascular risk across a wide age range: prospective data from the Carotid Atherosclerosis Progression Study (CAPS). Stroke. 2006 Jan;37(1):87-92. 2. Lorenz MW, Markus HS, Bots ML, Rosvall M, Sitzer M. Prediction of clinical cardiovascular events with carotid intima-media thickness: a systematic review and meta-analysis. Circulation. 2007 Jan 30;115(4):459-67. 3. del Sol AI, Moons KG, Hollander M, Hofman A, Koudstaal PJ, Grobbee DE, Breteler MM, Witteman JC, Bots ML. Is carotid intima-media thickness useful in cardiovascular disease risk assessment? The Rotterdam Study. Stroke. 2001 Jul;32(7):1532-8. 4. 小野久米夫ら. 動脈硬化指標はイベント発症を予測できるのか? 治療, 88 : 602-605, 2006. 5. 永野恵子ら. 頸動脈病変のマーカー (IMT, プラークスコア, プラーク輝度 ).The Lipid, 21(1) : 66-72, 2010. 6. 石津智子. IMT/ 確率ではなく個々のリスクを反映 テーラーメード治療のための指標. 筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科ホームページ http://www.md.tsukuba.ac.jp/clinical-med/cardiology/01_jyunnai/10gyouseki/100325%20isizu.pdf