名古屋文化短期大学研究紀要第 35 集 (2010 年 ) 入学式服における実態調査 二村佐和 小野幸一 Actual Condition Survey of Clothes Worn at Entrance Ceremony Sawa Futamura Koichi Ono 1. はじめに フレッシャーズ 需要は マザーニーズ 需要と共に春における一大市場を形成している オケージョンには オンタイム と オフタイム に区分され 入学式は オンタイム に区分され その装いは従来から改まったものであると考えられてきた しかし服装は時代と共に変化するものであるから 入学式の服装においても いつの時代も同じというわけではない 現在 アパレルファッション 繊維 流通業界には大きな変化が起きている 一昨年から続く世界的な景気悪化を受けた大手百貨店の倒産や経営統合 H&MやFOEVER21の参入など かつてない変化が起きている 筆者らはすでに入学式における服装と意識について調査 1) 2) を行い 入学式のファッションがその時代の状況やファッション傾向に大きく影響を受けるという結果を得ることができた そこで本論では 入学式において服装と意識の現状を把握すると共に 前回調査との対比を行いながらどのように変化したのか考察を行なう 2. 調査方法 2-1 調査方法対象として 平成 21 年度名古屋文化短期大学ファッションビジネス専攻入学生 74 名とした 調査時期は 2009 年 5 月で 調査方法は記名式アンケート方式で行った 着装式服については 入学時に学内で写真撮影を行った 2-2 分析方法質問項目は1 式服購入について 2 感覚 着こなし分類 3 式服の特性( 色柄 素材取り扱い表示 ) である 尚 組織表示 混用率表示 取扱い表示についてはアンケート調査前にあらかじめ調べさせ そのまま記入させた 色に関しては流行色協会の JAFCA COLOR CODE 40 に基づいて分類を行った 集計は各質問項目ごとに単純集計とクロス集計を行った 表 1は対象者の出身地域を示したものである 表 1 出身地域 出身地域人数 ( 人 ) 名古屋市 24 名古屋市以外愛知 34 岐阜 10 三重 5 その他 1 合計 74 3. 結果及び考察 3 1 式服購入について 1) 新規購入の意識図 1は新規購入状況を示したものである 2009 年では入学式服として新規に購入した学生は 73.0% 一部購入した学生が 14.9% であり 合計 87.9% となる 新規購入においては 1993 年の 90.0% から約 17% 1994 年からは約 2.6% 減 図 1 新規購入 29
表 2 購入地域 単位 ( 人 ) 購入地域 出身地域名古屋市名古屋市以外の愛知県 岐阜県 三重県 その他 無回答 合計 名古屋市 15 3 1 1 1 21 名古屋市以外の愛知県の愛知県 8 17 1 4 30 岐阜県 1 1 4 1 2 9 三重県 2 3 5 その他 1 1 合計 26 21 4 4 3 8 66 少していることから 現在の経済状況を大きく反映していることが推測される 2009 年において新規購入していない 12.2% の学生は 母親や姉から借りたなどが主な理由であった また 2009 年新規購入をした学生のうち靴や鞄を同時に購入した学生は靴が 58.1% 鞄が 24.3% という結果が得られた 購入時期は3 月が全体の 83.3% を占め 1993 年の 65.2% 1994 年の 68.3% から増加していることから 短期間に集中し なおかつ直前の購 入をしていることがわかる 2) 購入地域表 2は 2009 年新規購入 ( 一部購入を含む ) の地域を示したものである 表から名古屋市に住み名古屋市で購入者は 71.4% で割合が高いが 名古屋市以外の愛知県では地元で 56.7% 岐阜県 44.4% 三重県 60.0% 購入していることが明らかとなった 図 2は購入店舗の業態を示したものである 図 2 購入業態 図 3 購入金額 30
2009 年では専門店 39.6% 量販店(SCを含む) 37.7% 百貨店( インショップを含む )17.0% ファッションビル 3.8% その他 1.9% の順である 1993 年 1994 年では百貨店 ( インショップを含む ) がそれぞれ 37.8% 38.7% と最も割合が高く 1993 年では次いで専門店で 30.0% ファッションビル 26.7% 1994 年では次いでファッションビル 33.3% 専門店 19.8% である 共に量販店は低い割合である 1993 年 1994 年当時の量販店はGMS(General Marchandise Store) と呼ばれており あまりファッションナブルなアパレルは展開されていなかった 2009 年ではイオンを中心としたSC 形式であり 業態の変化が結果に影響していると考えられる また 専門店においても 2009 年では 洋服の青山に代表に されるような紳士服専門店での購入が多いのも特徴である ファッションビルの割合がかなり減少していることから トレンドに左右されないトラディッショナルな式服を購入していると考えられる 4) 購入金額図 3は購入金額を 1993 年 1994 年と比較して示したものである 2009 年は 1 2 万円未満のプライスゾーンが一番多く全体の 25.5% を占めており 次いで 2 3 万円未満が 21.6% 1 万円未満と 3 4 万円未満が同じ割合で 17.6% という結果であった 比較すると 1 万円未満 1 2 万 2 3 万の 3 プライスゾーンでいずれも増加している 特に 過去 2 年の調査では10% 未満であった 1 万円未満 1 2 万円未満の低額プ 図 4 購入決定要因 表 3 購入アイテム スーツ その他 アイテム 1993 出現率 (%) 1994 出現率 (%) 2009 出現率 (%) テーラードジャケット+スカート 56.5 35.8 42.9 テーラードジャケット+パンツ 4.3 5.3 48.1 テーラードジャケット+キュロット 3.3 5.3 - テーラードジャケット+ワンピース 1.1 0.9 - ノーカラージャケット+スカート 6.5 0.9 - ノーカラージャケット+キュロット 4.3 - - ノーカラージャケット+パンツ - 0.9 - ノーカラージャケット+ワンピース 2.2-1.3 その他の衿のジャケット+スカート - 18.4 1.3 その他の衿のジャケット+パンツ - 0.9 - その他の衿のジャケット+ワンピース - - - ワンピース 4.3 11.4 - アンサンブル 6.5 3.5 - ニットスーツ 3.3 - - ブラウススーツ - 0.9 - 単品組み合わせ 7.7 15.8 6.5 合計 100.0 100.0 100.1 31
ライスゾーンの大幅増加が特徴的である また 6 7 万円未満の高額プライスゾーンではわずか 2.0% 7 8 万 8 万以上では 0.0% という結果から 現在の経済状況を大きく反映していると言える また 2009 年購入資金の出資者は親が 71.2% 自分が 12.1% 親戚が 6.0% であった さらに平均購入金額はおよそ 23,650 円という結果であった 5) 購入決定要因新規購入の際の購入理由を上位から順番にまとめたのが図 4である 1993 年 1994 年は デザイン 色 柄 がそれぞれ 53.0% 39.0% と 37.3% 23.1% と感性重視の購入姿勢が顕著である 2009 年では デザイン が 66.2% と第一位ではあるが 次いで 価格 が 40.5% となっており 1994 年の 5.2% から約 35.3% 増加しているのが特徴としてあげられる また 就職 については過去の項目にはあげていないが 37.8% と高い割合になっていることから ファッション性よりも就職活動を意識した式服選びが購入決定要因に大きく影響していると言える 式服を購入する際 以前はあまり価格を意識せずデザイン 色 感覚が気に入れば購入していたが 今年は就職活動時にも着られるデザイン選びと 価格重視という意識が働いていることがわかる このことは購入金額に於ける低額プライスゾーンの増加結果と一致している 3-2 式服の着装形態 1) 購入アイテム表 3は購入アイテムをまとめたものであるが 前回の調査と比較すると組合わせアイテム数の減少が顕著である 中でもテーラードジャケットのスーツに集中している点が特徴としてあげられる テーラードジャケット+スカート が 42.9% テーラードジャケット+パンツ が 48.1% と全体の9 割をしめており ワンピースやキュロットとの組み合わせが見られないことから ベーシックなスーツを選ぶ傾向にあるといえる ボトムのシルエットとして スカートではタイト パンツではストレートやブーツカットと シンプルなものが多くみられた インナーとしてはシャツブラウスが多く 衿のデザインとしてはシャツカラーが多くみられた 上記 5) 購入決定要因でも明らかなように これらは就職 表 4 使用繊維 単位 :% 繊維 1993 年 2009 年毛 ( 他の獣毛を含む ) 34.4 28.6 ポリエステル 32.2 20.4 ポリエステル レーヨン 4.4 22.4 綿 1.1 6.1 他 27.9 22.5 合計 100 100 活動を意識した式服選びが影響しているといえる 特にパンツスーツの割合が大幅に増加し 活動的でマニッシュなデザイン選びをしており 将来働くことに対して活動的な意識がうかがえる またその他では 単品組み合わせの割合は 1994 年の 15.8% から 6.5% に減少している ワンピース や アンサンブル においては 2009 年では 0.0% となっている点も特徴のひとつである 2) 色 柄 1993 年では無地が 93.3% で 22 色が出現し BL5( こい青 ) が 19.4% NE5( 黒 )13.3% であった 1994 年は無地 87.7% とやや減少し 21 の色が出現し NE5( 黒 )25.4% 次いで BL5( こい青 ) が 14.7% であった 2009 年では出現色は 7 色で 圧倒的に NE5 ( 黒 ) が 77.9% と多いのが特徴である NE5( 黒 ) NE4( にぶい灰 ) NE2( 白 ) 以外の色は 5.2% と少なく 購入決定要因や購入アイテムからもわかるように 式服としてだけでなく就職活動を意識した式服選びをしたため 黒が多く出現したと思われる 柄としては無地が 72.7% で 1994 年で 10.0% だったストライプが 22.1% と 約 12.1% 増加している 3) 着こなし分類 1993 年 1994 年には ベーシックタイプ ゴージャスタイプ トレンディータイプ フェミニンタイプ の4つに分類して分析を行った 2009 年においては ベーシックタイプ が 85.7% と圧倒的に多く見られた その代表的な着こなしを写真 1-5 に示す 各タイプ別の特徴を見ていくと 写真 1 2 で示したように ベーシックタイプ のほとんどがテーラーカラーのジャケットを着用し 色も黒と灰色でありベーシックタイプに集中してい 32
る だが 前回の調査で多く見られた衿の折れ先が首につまったデザインはみられず また大きく開いたものも少ない傾向にある 着こなしとしては スーツのインナーとして多くがシャツカラーブラウスを着用していることが特徴としてあげられる ベーシックタイプで着用しているボトムはスカートとパンツのみとなっており そのシルエットもシンプルなもので スカートではタイト パンツではストレートやブーツカットがほとんどであった 前回までの調査でみられたキュロットは一人もおらず トレンディータイプ フェミニンタイプ では ボトムのデザインに特徴がみられる 写真 3 の トレンディータイプ では ノーカラージャケットやダブルのテーラージャケットがみられた ボトムはスカートが多くプリーツスカートやギャザースカートなどで 他のタイプにはみられないワンピースが出現している また ミニ丈のボトムが目立つことから 前回の調査同様にボトムの丈に特徴があるといえる トレンディータイプでは他のタイプよりも単品組み合わせが多いためか 色や柄にも特徴がみられアクセサリーなどを使い流行を取り入れた着こなしが目立った フェミニンタイプ の特徴として 写真 4 のようにスーツのインナーにタイカラーやボーカラーのブラウスを組み合わせていることがあげられる ボトムはスカートで Aラインのシルエットのセミフレアースカートやプリーツスカートであった 写真 5 の ゴージャスタイプ は 1.3% と少ない傾向にある 4) 素材と品質表示表 4は 1993 年と 2009 年のスーツを中心として使用されている繊維の割合を示したものであ る 1993 年では 毛 ( 他の獣毛を含む ) とポリエステル その他が 34.4% 32.2% とほぼ1 /3 を占めていた 2009 年では毛 ( 他の獣毛を含む ) とポリエステルは 28.6% 20.2% と割合が低下しているが ポリエステル レーヨン 一般的に業界でT / Rと呼ばれている繊維が 22.4% と高い割合を示している これまで一般的に毛 100% は高価であり T / Rはその代用品として使用されてきた 現在のヤングファッションではどちらかというとシーズンを通して毛は好まれていないのが現状である また 2009 年スーツ ボトム素材としてT / Rが売れ筋素材であることから ファッション素材傾向が式服にも表れていることがわかる ブラウスを中心としたインナーでは 綿が 34.0% ポリエステルが 30.0% 綿 ポリエステルが 20.0% の順でありその年のファッション素材傾向をよく反映していることが明らかである 4. おわりに 2009 年における入学式服に関する調査を行い 1993 年 1994 年と比較をすることによって下記のことが明らかになった 1) 入学式のために新規購入者は 73.0% で 1993 年の 90.0% 1994 年 75.6% と比較して減少している 靴で 58.1% 鞄では 24.3% が同時に購入している 購入時期は 2009 年で 83.3% が3 月であり 1993 年の 65.2% 1994 年の 68.3% から増加しており直前に購入している 購入場所としては名古屋が 40% で最も多い 購入店舗の業態として 1993 年 1994 年では百貨店 ( インショップを含む ) と専門店とファッションビルの割合が高かったが 2009 年では専門店 39.6% 量販店 (SCを含む)37.7% 百貨店( インショップ 着こなし分類 写真 1 ベーシックタイプ 1 写真 2 ベーシックタイプ 2 写真 3 トレンディタイプ 写真 4 フェミニンタイプ 写真 5 ゴージャスタイプ 33
を含む )17.0% ファッションビル 3.8% その他 1.9% の順であり 大きく変化していることが明らかである 具体的には洋服の青山に代表にされるような紳士服専門店での購入が多いのも特徴である 購入金額の最も割合が高いプライスゾーンでは 1993 年では 3 万 ~ 6 万が 65.1% 1994 年では 3 万 ~ 4 万で 29.7% であるが 2009 年では 1 万 ~ 2 万 25.5% である 平均購入金額は 23,650 円である 購入時の決定要因として 1993 年 1994 年は デザイン 色 感覚 と感性重視の購入姿勢が顕著であるが 今年は 価格 が 40.5% となっており また 就職 37.8% と就職活動を意識したものと思われる 2) 購入アイテムでは 1993 年 1994 年 2009 年ともスーツの割合がそれぞれ 78.2% 68.4% 93.6% と高い割合を示す 組み合わせとしてテーラードジャケット+スカートが 1993 年 1994 年が最も高い割合を示しているが 2009 年ではボトムがパンツである割合が 48.1% とスカートの 42.9% より高い割合を示している 3) 着こなし分類として 1993 年 1994 年には ベーシックタイプ ゴージャスタイプ トレンディータイプ フェミニンタイプ の4 つに分類して分析を行った 2009 年においては ベーシックタイプ が 85.7% と圧倒的に多く見られた 4) 式服のスーツ類に使用される繊維として 1993 年 1994 年では 毛 ( 他の獣毛を含む ) とポリエステル その他が 34.4% 32.2% とほぼ1/3 を占めていた 2009 年では毛 ( 他の獣毛を含む ) とポリエステルは 28.6% 20.2% と割合が低下しているが ポリエステル レーヨン 一般的に業界でT / Rと呼ばれている繊維が 22.4% と高い割合を示している ブラウスを中心としたインナーでは 綿が 34.0% ポリエステルが 30.0% 綿 ポリエステルが 20.0% の順でありファッション素材傾向をよく反映していることが明らかである 参考文献 1) 鈴木妃美子 小野幸一 芳賀利江 入学式服における実態調査 名古屋女子文化短期大学研究紀要第 20 集 1994 年 111-119 項 2) 鈴木妃美子 小野幸一 芳賀利江 入学式服における着装形態の変化 名古屋女子文化短期大学研究紀要第 21 集 1995 年 109-116 項 34