1 部基調講演 改めて問い直す 協働の要 とは ~ 区自治協議会二期 4 年間の取組みをもとに~ 新潟大学産学地域連携推進機構産学地域連携推進センター教授松原幸夫氏 松原でございます 本日は足元の悪い中 多数ご参加くださいましてありがとうございます このような機会を与えていただきまして大変感謝しております お手元にある資料に基づきながら 補足説明をするかたちで進めさせていただきたいと思います では 講演に入らせていただきます まず自治協議会の設置の背景についてですが 長寿少子化社会を迎え 国の財政が非常に逼迫してきた中 行政と地域による協働の取り組みが必要ということで 国全体が大きくそちらに動いていきました 国の施策を受け 平成 17 年度に新潟市は大規模合併を行い 平成 19 年には政令市に無事移行することができました 自治体の規模が大きくなるとともに その一方で 地域で解決できる よりきめの細かいまちづくりを目指して 自治協議会 コミュニティ協議会がつくられました これに基づいて 新新潟市合併マニフェストが作られました このマニフェスト中で特に重要なものは 学び合い 共に育つ というキーワードだと思っております このキーワードは私たちの先輩が考えてくれたものですが コミュニティ協議会 自治協議会会長会議 自治協議会委員研修会のすべてにおいて このキーワードが一番要になるのではないかと思います また 分権型政令市ということで 本格的な地域主権時代をリードするため 新潟市は 当初より 全国の先駆け となることを目指して 非常に高い志を持ってまちづくりに取り組んだのです 西区の自治協議会委員が先進地域の視察で 先日浜松市とさいたま市に行ったところ 現地の委員から とんでもない 一番進んでいるのは新潟市だ ということでした さいたま市も浜松市も新潟市の自治協議会議事録をいつもウォッチングしているというお話でした われわれは2 期のこの4 年間 暗中模索で進んできたのですが そういう話が県外の方から聞けるようになったということは 日本をリードする という目標も少しは達成できたのかなと考えております 4
次に合併後のまちづくりについてです これは先ほどと同じですが 政府の財政事態により地方分権の時代になったということですが 本当に地方分権が力を発揮できるようにするためには 大幅な権限委譲と財源移譲が必要になると思います これはまだ十分なされているとはいえませんが 今後皆さんの力で 円滑に 適正に権限委譲 財源移譲が 区役所 自治協議会 コミュニティ協議会においてなされることがこれからの大きな課題だろうと思います 新潟市は政令市になり 八つの区に分かれて その区ごとに自治協議会を設けられましたが このコミュニティのかたちを法的に保証するために 2つの法律が作られております 一つは新潟市区自治協議会条例 もう一つは自治基本条例で 実は自治基本条例が作られてから自治協議会条例が作られるのが本来の姿ですが 成り行きで自治協議会条例のほうが先にできてしまいました 内容はどちらも大筋では非常にいいものだと思いますが 細かい点では問題があります 実際に私どもが4 年間やってみますと 例えば委員の代理出席はできないとか 部会や検討会の費用弁償が十分手当てされないなど 細かいところで今後マイナーチェンジが必要になると思っております この点につきましては これから皆様で少しずつ変えていただき 使いやすい制度にしていただければと考えております 次に自治協議会の役割ですが 地域の総合的な審議機関として 地域の意見やアイデアを市政に届けるということがあります もう一つは 今日のテーマでもあります 協働の要として地域と行政をつなぐことだと思います 市議会の役割は市の政策を審議決定することです 実際に予算を確定する機能と 市長等の執行機関を監視する機能があります 自治協議会とはかなり役割分担が違います 一見すると市議会より自治協議会が見劣りするようにも見えますが 自治協議会はまちづくりの現場に密着していて 軽いフットワークでいろいろな方が参加でき メリットも多いと思います 実際に西区においても 自治協議会で決議したことがさまざまなかたちで行政や民間団体を動かすことができました 自治協議会はいろいろなことができる機関だと思っております 次に自治協議会の4 年間の取組みを見てみます 審議機関としては区ビジョン まちづくり計画 特色ある区づくり予算など さまざまな取組みがなされております 協働の要については その活動をはかる1つの指標として どの程度の意見書 要望書が出されたかを見てみます 第 1 期が8 区全体で3 件に対して 第 2 期が8 区全体で 27 件と9 倍に増えております これを見ましても 第 1 期が話し合いのかたちづくり 第 2 期に入って 5
実際の地域課題の具体的な解決に入りだしたと見ることができると思います 今日は新旧の自治協議会の会長さんがいらっしゃっておりますが 8 区の自治協議会の 会長をメンバーとする会長会議が約 3 カ月に 1 回開かれております そこでは 各区の地 域課題の共有と先進事例の学び合いが行われております ともに学びともに育つ という マニフェストがございましたが まさにそのとおりのことをやっておりました 私も小川 会長はじめ錚々そうそうたる会長の皆様方の中で勉強させていただき 多くのことを学ぶことがで きました また 会長の皆様方と親睦を深めることができました この成果としては 例 えば西蒲区の JR 越後線増便の際も 西蒲区の如澤会長と電話 1 本でつながることができ 大きな動きができました 2 期目の最後の年である昨年の今頃 会長会議において ただ単に話し合うだけでなく 話し合うかたち を次の世代に伝えたいという気持ちも込めて 会長会議プロジェクト というものを起こしました 四つの重点テーマについて各区からエキスパートが選出され すばらしい報告書をまとめることができました 会長会議プロジェクトの各ワーキンググ ループでは各区の専門部会の部会長や副部会長といった一番熱心に活動している中核の方 が委員となり 非常に質の高い議論がなされたと思っております この委員研修会や会長会議プロジェクトをもう少し拡充し 8 区定期連絡会 を設立す ることが 私が実現したくてできなかったテーマです 8 区の委員の皆さんがテーマ別に 定期的に集まり 情報を交換し 具体的な共通課題については提案もできるような場をつ くることを 今後皆様方に是非ご審議いただければと思います ここまでは 8 区全体の話でしたが 次に西区の取組みについてお話ししたいと思います 西区は 坂井輪 内野 黒埼 赤塚という 四つの地域があります それぞれの地域が一 つの県くらいのいろいろな 豊かな 異なる文化を持っています 例えば関東ですと 東 京 神奈川 千葉 埼玉といってもそんなに県民性を感じませんが 人口 16 万の西区の 中では多様な文化が展開しています それをどう融合していくかということが 非常に大 きな課題でした 一体感を醸成するにはどのようにしたらいいかということですが 各地区の地元の皆さ んから尊敬されている長老の方を中心に非常に統率が取れたコミュニティを作っており 豊かな文化を持っていると私は感じていました また 各地区の長老の皆さん同士が政令 市になり区制が導入される以前から お互いに普段から尊敬し合っておりました そのた め 一体感を醸成することは 当初の予想に反し 非常に順調にいったのではないかと思 6
います また 区役所が様々な一体感醸成のためのイベントを後押ししてくれたことも役に立ったと思います 話し合いのかたちを作る ということですが 当初私が会長に就任したとき 自治協議会とはどんなものか ということが どうも判然としませんでした 市議会でもないし自治会でもない 市議会と自治会の中間的なものじゃないかというのが一つの答えでした わからないことがあっても 地方自治法に規定はあるものの 実際の事例としては 全国で初めてで 真似するところは全国にどこもにもないという状態でした これはもう自分で考えるしかないんだということで 手探りでみんなで議論を重ねながら自治協議会を作ってきました 次に自治協文化の継承についてお話したいと思います 昨年の4 月に自治協議会委員の 70% が入れ替わったということで かなり混乱しているとお聞きしております このことは会長会議でも 西区の自治協議会でも非常に大きな課題として当初から捉えておりました 特に2 期目の最後の4 年目は これをどうするかということが重点テーマになっておりまして そのシステムを作りあげていくことに力を入れてまいりました 話し合いのかたちを作る ということについては 西区役所の方に聞きますと 例えば税法など何か新しい制度が導入されると 新潟市の原課に来る苦情や質問などの8 割が西区からのもので 西区というのは大変なところだと聞かされておりました そこで自治協議会でどのように意見集約をしたらいいかということが大きなテーマでした 実際に自治協議会が始まってみますと 10 分 20 分話される方が多数いました 10 分 20 分話されますと だいたい何を言っているかわからなくなるし 聞くほうも何がポイントだったかわかりません 仮にポイントがつかめても 人によってそのいくつかのポイントのどこが重点かについては 理解は全然異なります その一方で 少し気の弱い方は 時間がなくて発言が全くできなくなることもよくありました これを解決するために3 分間ルールというものを設けました 1 発言 3 分間でベルを鳴らします たくさんしゃべりたい方は 提案シートに文章で簡潔にまとめて事前に提出するようにしました これでずいぶん議論が整理されたと思います 20 分しゃべる方も 提案シートをまとめるときには考えが練られて整理され 非常にわかりやすいものに変わってきます これはよかったかと思います 4 期目の最後のほうでは このルールがほとんど浸透していたと思います 意見の集約が非常に難しい案件も 3 分ずつ 10 人近くの人がさまざまな意見を出し 7
ていくと落としどころは見えてくるものです その議論の紆余曲折を共有する中で 自然に全員のコンセンサスが得られてくるのです 2 番目は 筋を大切に ということです 自治協議会の委員にはいろいろな方がいらっしゃるのですが よくよく聞いてみますと皆さん言っていることは各々非常に筋が通っています ですから いろいろな方の話の 筋 をきちんと見定めて話をまとめると 非常にうまくいくことがわかりました また 話し合いの単位を小さくするために 部会 プロジェクトチーム 検討会 それから目線合わせの会という四つの会を設け きめ細かい話し合いをできるようにしました 東区自治協議会で 自治会運営の充実に向けて というマニュアルを作っております これは大変すばらしいもので ぜひ皆さんも参考にしていただければと思います 西区でも 自治協議会の運営指針 というものを作り 話し合いのかたちが少しでも伝承されるように話し方のガイドシートを作っております また 南区自治協議会では 傍聴者意見感想シート というものがありますが これを参考に西区でも同じようなものを作ったり 委員の方が活動しやすいように自治協議会の委員の名刺を作ったりと 様々なことをしました このスライドの一番下に ガチンコシンポジウム とありますが これは北区で市議会議員と自治協委員の討論会があり 私もコーディネーターとして呼ばれましたけれども こういう話し合いのかたちも非常におもしろい取り組みだと思います 次に まちづくりのポイント としては 小さな声を大切に ということと まずは自助 自分でやってみるということです 自分の経験で言いますと 菜の花プロジェクト というのを起こしたことがありました 国への研究助成金の申請書を出すときに 1,000 万円と試算して書いて不採択となりました その後 自分の友人のつてで 無償で畑を借りたり JAやボランティアの支援を受けてやってみると 実際は 40 万円でプロジェクトができるということがありました 不動産会社を通して借りると数百万円かかるものも 国の助成なしにやろうとすると 無償で借りることができるのです 今は耕作放棄地や施設 人など いろいろなチャンスにあふれているため 自助というものが予想外にいいものだということを身をもって体験しました 西区の自治協議会の特徴ですが 後任の岡本会長も言っていますが 区役所と区民がいつも同じ目標を目指しています 腹の底で思っているところは 区役所と自治協議会がいつも同じでした たぶん市民の目線というところで両者が合っていたのだと思うんですが それでさまざまな提言が実際に一つひとつかたちになっていったのではないかと思います 8
地域課題は数百あります それを片付けようとすると大変なのですが 一つひとつできるところからやって そのプロセスを楽しんでいくことが大事ではないかと思います それから 私は自治協文化の伝承が非常に大きなテーマだと思っております 西区の場合 岡本会長がちょうど2 年前に入られて 前の2 期目の自治協議会を知っているため 大変理想的なかたちでバトンタッチできました こういうことがされれば 文化の伝承がスムーズにできるのではないかと思います もう一つは 自治協議会に代理出席やオブザーバー参加ができるようになれば 次の方への伝承がうまくいくのではないかと思います また 西区では 新任委員オリエンテーション ということで ワークショップ形式で 4 月に新任研修を実施し 非常に今の委員会活動の活性化に役立っていると聞いております また この2 月 27 日には 西区で 協働についての意見交換会 が開かれると聞いております ご要望があれば岡本会長のほうにオブザーバー参加するように申し入れていただければと思います 次に西区の大きな取組みについてお話ししたいと思います まず区役所整備問題です 今日東区の区役所の建物を見て庁舎の素晴らしさに本当に驚いてしまいました 西区も新しい場所に大きなものを造るか 現状維持で整備するかの意見を集約するためにプロジェクトチームを設置し 西区全世帯アンケートを実施しました これは自治協議会で決めたことですが そのあと区役所の皆さんが大変な努力をして また各コミ協の会長さん 役員の方が大変な思いをしてこのアンケートを配布 回収し実施することができました アンケートの自由記載欄にも 区民の皆さんから熱いメッセージをたくさんいただきました 区民の皆さんの関心も高かったです そこで得た結論は われわれが当初予定していたものとは少し違うものでした このように国が苦しい時期にそんなに大規模なものを作らなくても 今のものをできるだけ生かしてやってはどうかという意見でした 民意が非常に成熟していて 逆に教えられることが多かったと思います 3 月には西区の市議会議員団との意見交換会も実施して 市長へ4 月に要望書を提出しております 本来は大激論で自治協議会で意見が分かれるような案件ですが 区民アンケートのおかげで意見集約することができました 次にJR の越後線増便ですが 西蒲区の如澤会長からお話があり 西区もそれにすぐ応じて急きょ両自治協議会で決議して各コミ協に署名を呼びかけ 両区で4 万人の署名が集 9
まりました これを添付して両自治協議会から市長へ要望書を提出しました その後 市長と一緒に JR に行き 去年の1 月に JR に要望書を提出して一段落しました 1 年経った今 来月 ( 平成 24 年 3 月 ) よりダイヤ改正による増便ということで 現実に要望書が形になっていったということは 非常にうれしいことであります ウェルサンピアの存続問題 については 厚生年金関連の採算が合わない事業について国が整理していく中で この施設はなかなか買い手が付きませんでした あと数カ月で買い手がなかった場合 プールや宿泊施設等全部取り壊してしまうということになるところで 委員からの課題提起により 自治協議会から市長へ要望書を提出しました 最後の入札のときに明和工業さんが手を上げてくださったため この施設を取り壊さずに済み 地元従業員も継続雇用ができました ひまわりクラブの整備充実 については 小学校が終わったあとの低学年の児童の居場所として この施設が非常に手狭で問題がありました これも委員の方から問題提起され 現地視察し 市へ要望書を出しましたが 今年の秋に内野小学校にプレハブが増設されるというかたちで 実際にかたちになりました 要望書を提出した後 PTA 内野小学校 教育委員会 西区役所の皆様のご支援をおかげで実現できました 日本文理の夏の甲子園での奇跡の猛反撃があったのもちょうど任期中でした この時は自治協議会で万歳三唱を決議しました なつかしい思い出です それから その他の特色ある活動についてです 今までは要望書に関連する活動をご紹介しましたが 本来それは例外的な活動であって まちづくりにおいては日々の スライドに書いてあるように様々な小さい活動が本当のまちづくりだと思いますが 今回は時間がないため 目次だけで発表は控えさせていただきます 次に自治協議会の現状認識ですが 審議機関としての機能は達成できたのではないかと思います 今後の課題としては 自治協議会の協働の要のかたちづくり それから 自治協文化の伝承 があります かなりやったつもりでしたが 今回の2 期から3 期への文化伝承に関しては やはり問題があったかと思います 先ほど申し上げました 8 区自治協議会連絡会 のようなものができますと 仮にどこかの区で自治協議会の運営ノウハウの伝承に失敗しても 他区の自治協議会委員から話を聞くことができます 伝承機能を相互に補完することができると思います また 協働の要のかたちづくりの中で現在問題となっているのは コミ協会長への仕事の一極集中 人 もの 金の不足 財源移譲 それから話し合うかたちのさらなる整備というところだと思いますが このへんも今後皆様で 10
引き続き取り組んでよいものにしていただければと思います これからの自治協議会ということですが 鉄は熱いうちに打て ということわざがあります 新しい自治協議会 コミュニティ協議会が制度として定着し この8 年間で 50 年 100 年伝承されるような基本型を作らないといけないと考えております ぜひ皆様で 私どもがやり残した最後の仕上げをやっていただいて 次の世代に伝承していただきたいと思います それから 自治協精神を伝承しようということですが どうしてもマニュアルや制度ということになりますが 実際それだけでは伝わらないものが多くあると思います 佐渡高校野球部の 選手心得 60 カ条 というものがあります 自治協委員心得 というものを作成すれば それを読み返すことで精神が伝承できるのではないかと考えております そのための参考資料として 終わりに先人の言葉をつけています 第一部の現代編は北区の前小川会長の著書から引かせていただきました また後半は 江戸時代の山田方谷 二宮尊德ほかの皆さんの言葉の中からまちづくりの参考になるものを引かせていただきました 最後に 一つの言葉をご紹介したいと思います これは 自助論 というもので イギリスのお医者さん スマイルズが書いたものです 明治 4 年に 西国立志編 として日本語訳が出され 明治の青年たちにひどく読まれ 天は自ら助くる者を助く という独立自尊のスローガンが明治の青年を奮い立たせたと言われております 自助とは 勤勉に働いて自分で自分の運命を切り開くこと つまり 他人や国に頼らないことである 外部からの援助は人間を弱くする 自助の精神こそ その人間をいつまでも励まし元気づける いつの時代にも 人は幸福や繁栄が自分の行動によって得られるものとは考えず 制度の力によるものだと信じたがる だが どんなに厳格な法律を定めたところで 怠け者が働き者に変わったりするはずはない われわれ一人ひとりがより優れた生活態度を身につけない限り どんなに正しい法律を制定したところで人間の変革などはできないであろう 国家の価値や力は国家の制度ではなく 国民の質によって決定される というものです 今 国が非常に困難な時代を迎えておりますが この自助の精神こそ次の時代を切り開くものだと思います これで私の話を終わります 長時間 ご清聴 ありがとうございました ( 拍手 ) 11