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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

研究成果報告書

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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平成24年7月x日

生物時計の安定性の秘密を解明

研究成果報告書

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

平成14年度研究報告

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

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Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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博士学位論文審査報告書

報道関係者各位

いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

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研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

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図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

学位論文の要約

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< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

Transcription:

ポイント 炎症が RNA 分解により制御されるメカニズムを解明 -2 つのブレーキが炎症を巧妙にストップする - Regnase-1 と Roquin という2つの蛋白質が 炎症性サイトカインの RNA を分解することで炎症のブレーキとして働いています Regnase-1 と Roquin は同じ RNA 構造を認識しますが その機能する空間 / 場 時期 メカニズムがそれぞれ異なることを解明しました 炎症性サイトカインの過剰な産生で引き起こされる炎症性疾患の病態解明への貢献が期待されます JST 戦略的創造研究推進事業において 京都大学ウイルス研究所の竹内理教授らの研究グルー注プは 病原体感染などに対する炎症反応が RNA 分解酵素 Regnase-1 1) と RNA 結合蛋白質 Roquin 注 2) という 不必要な mrna を分解する 2 つのブレーキシステムにより巧妙に制御されていることを 解明しました 3) 病原体感染に対する炎症反応は マクロファージなどの自然免疫注担当細胞が炎症性サイトカイン注 4) を分泌することにより引き起こされます 炎症の活性化と抑制がバランス良く調節されていますが このバランスの破綻が 免疫不全症や 自己免疫疾患を始めとした炎症性疾患の原因となると考えられています マクロファージから分泌される炎症性サイトカインの量は mrna 産生と分解により厳密に制御されていることが知られています これまで Regnase-1 Roquin という蛋白質が mrna に結合し分解すること これらの分子をマウスで欠損させると自己免疫疾患を発症することが分かっていましたが その詳細な機構は不明でした 本研究では 2 つの異なる RNA 結合蛋白質 Regnase-1 と Roquin が 1) 炎症性サイトカイン mrna に存在する同じステムループ構造を認識し分解することで炎症性サイトカイン量を制御しているこ 5) と 2) しかし機能する空間 / 場 分解する mrna の翻訳注状態や分解のメカニズムが異なること 3) 分解する時期も それぞれ炎症早期 後期と異なることを解明しました 本研究は 過剰もしくは慢性的な炎症で生じる炎症性疾患の病態解明や 新たな治療法の開発につながることが期待されます 本研究は ドイツマックス デルブリュック分子医学センター (MDC) 近畿大学 大阪大学 東京大学 オーストラリア国立大学と共同で行ったものです 本研究成果は 2015 年 5 月 21 日 ( 米国東部時間 ) 発行の米国科学誌 Cell に掲載されます 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました なお 平成 27 年 4 月 1 日に日本医療研究開発機構 (AMED) が設立されたことにともない 本課題は AMED に承継され 引き続き研究開発の支援が実施されます戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 研究領域 : 炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出 ( 研究総括 : 宮坂昌之大阪大学未来戦略機構特任教授 ) 研究課題名 : 自然免疫における転写後調節を介した慢性炎症抑制メカニズムの解析 研究代表者 : 竹内理 ( 京都大学ウイルス研究所教授 ) 研究期間 : 平成 24 年 10 月 ~ 平成 30 年 3 月上記研究課題では 自然免疫細胞の活性化調節メカニズムを 転写の観点だけでなく 転写後制御の観点から再定義して 新規炎症制御法開発につなげていくことを目指します 1

< 研究の背景と経緯 > 細菌やウイルスなどの病原体が感染すると マクロファージなど自然免疫担当細胞により Toll 様受容体 (TLR) を介して最初に認識されます マクロファージは病原体を貪食するとともに 炎症性サイトカインという蛋白質を分泌し これが周りの免疫細胞を活性化させたり 免疫細胞の炎症局所への集積を促すなどして いわゆる炎症を引き起こします この炎症は 病原体の排除に重要な免疫反応ですが 過剰 もしくは慢性化した炎症は敗血症性ショック 自己免疫疾患 動脈硬化 代謝性疾患などさまざまな病気の原因となります そのため 生体には 炎症を精緻にコントロールする機構が備わっており その破綻が炎症性疾患の発症に関連すると考えられています 中でも 炎症性サイトカインの量が 炎症の調節において中心的な役割を果たしています 炎症性サイトカインは 感染に伴いマクロファージ内で DNA から mrna が転写され 次に mrna から蛋白質が翻訳されるというステップで作られますが mrna は単に転写で作られるだけでなく 分解されることでその量が調節されています 我々は 以前 RNA 分解酵素 Regnase-1 を発見し この分子が炎症性サイトカイン産生調節に重要であることを報告してきました (Nature 2009; Nature Immunology 2011; Cell 2013) また 他の研究グループにより RNA 結合蛋白質 Roquin も炎症性サイトカイン mrna 分解や自己免疫疾患発症抑制に重要であることが報告されています しかしながら Regnase-1 の標的 mrna の特異性や作用機構および Regnase-1 と Roquin の制御メカニズムの関係性は分かっていませんでした 本研究では 2 つの異なる RNA 結合蛋白質 Regnase-1 と Roquin が時空間的に異なるメカニズムで共通の炎症性サイトカイン mrna を制御していることを解明しました < 研究の内容 > Regnase-1 がどのような mrna をどのような目印を通じて認識するかという事を明らかにするために Regnase-1 と結合する mrna を RNA-immunoprecipitation sequencing (RIP-Seq) により網羅的に同定するとともに Regnase-1 の結合領域を high-throughput sequencing of RNA isolated by crosslinking immunoprecipitation (HITS-CLIP) により網羅的に同定しました ( 図 1A) その結果 Regnase-1 は多くの炎症に関わる mrna のうち 3 非翻訳領域に存在するステムループ構造 ( 図 1B) に結合すること 加えて Regnase-1 に結合するステムループ構造のループ部分は UAU/UGU loop 配列を持つことが判明しました 興味深いことに このステムループ構造の特徴は Roquin が認識するステムループ構造と類似しており Roquin と結合する mrna を RIP-seq により網羅的に同定した結果から Regnase-1 と Roquin は同様の標的 mrna を認識していることが分かりました また標的となるステムループ構造を持つ RNA を細胞に発現させると Regnase-1 によっても Roquin によっても分解されたことから Regnase-1 と Roquin は同じステムループ構造を持つ mrna を分解していることが分かりました つまり このステムループ構造は Regnase-1 と Roquin という 2 つの異なる蛋白質により共通して読み取られる認識構造 ( シスエレメント ) であるという事です では Regnase-1 と Roquin はどのような関係性をもって炎症関連 mrna を制御しているのでしょうか まず Regnase-1 と Roquin の細胞内局在を調べると Roquin は RNA 分解に関わる酵素が豊富なストレス顆粒 (SG) や processing bodies (PBs) に局在するのに対し Regnase-1 は粗面小胞体 (ER) に多く存在し 蛋白質翻訳装置であるリボソームと共局在する事が判明しました ( 図 2) この Regnase-1 と Roquin の細胞内局在の違いは機能する 空 2

間 / 場 が異なることを示唆しています 実際に Regnase-1 の発現を低下させると翻訳を活発に行っている mrna が増加するのに対し Roquin を欠損させると翻訳活性がほとんどない mrna が増加しました 更に Regnase-1 が標的 mrna を分解するには 翻訳装置 ( リボソーム ) が働いていることが必須であることが分かりました これまで 異常 mrna を蛋白質翻訳により検出して分解するシステム (Nonsense-mediated decay) が知られていますが このシステムに重要な蛋白質 UPF1 と Regnase-1 が相互作用すること Regnase-1 による mrna 分解に UPF1 が必須であることを見出しました この結果は Regnase-1 による炎症関連 mrna 分解のシステムと 異常 mrna を分解するシステムの共通性を示しています 次に 同じ標的 mrna に対して異なるメカニズムにより mrna 安定性制御を行なっている Regnase-1 と Roquin が生物学的に異なる役割を担っているか検討するために 注 Regnase-1 欠損および Roquin 変異マクロファージの免疫刺激 (LPS 6) による TLR4 刺激 ) に対する炎症性サイトカイン mrna の発現を確認しました その結果 Regnase-1 欠損マクロファージでは免疫刺激 (LPS 刺激 ) の早期において Roquin 変異マクロファージでは LPS 刺激の後期において標的 mrna の発現が亢進していました これは異なるメカニズムで作用している Regnase-1 と Roquin がそれぞれ時間的に異なる炎症の早期と後期において機能していることを示しています 次に Regnase-1 と Roquin が RNA 分解能において重複性を有するか検討するために Regnase-1 と Roquin の二重変異 (Regnase-1 / /Rc3h1 san/san ) マウス由来の線維芽細胞 (MEF) において Regnase-1 と Roquin の共通の標的 mrna (IL6 TNF PTGS2) 量を調べたところ それぞれの単独変異の MEF における mrna 量よりも増加していました ( 図 3) これに対し Regnase-1 Roquin いずれの標的でもない mrna(nfkbia) は正常でした また Regnase-1 Roquin の単独変異はそれぞれ LPS 刺激後早期 後期における標的 mrna 量を増加させました ( 図 3) この結果は Regnase-1 と Roquin は RNA 分解能において重複性を有し この重複した mrna 安定性制御が正常な遺伝子発現において重要であることを示しています 以上の結果より Regnase-1 と Roquin は共通のステムループ構造を認識するが時空間的に異なる RNA 分解の制御因子として機能している事が明らかとなりました ( 図 4) < 今後の展開 > 本研究では Regnase-1 と Roquin は共通のステムループ構造を認識するが時空間的に異なる RNA 分解の制御因子として機能することにより 炎症を制御している事を解明しました 今後 ヒト自己免疫疾患や炎症性疾患における Regnase-1 Roquin の機能を検討することで これらの疾患の病態解明につながることが期待されます また Regnase-1 Roquin の機能を変化させることは 自己免疫疾患や炎症性疾患などの創薬ターゲットとなることが期待されます 本研究では,Regnase-1 は Roquin と共通のステムループ構造を認識して UPF1 依存的にタンパク質翻訳の終結反応と共役し翻訳を活発に行っている mrna を分解していることを明らかにしました しかしながら Regnase-1 がどのように UPF1 依存的に mrna 分解を生じているのかまだ分かっていません また Regnase-1 と Roquin はマクロファージなどの自然免疫担当細胞だけでなく 獲得免疫 T 細胞においても重要な役割を担っているため T 細胞における Regnase-1 と Roquin による RNA 安定性制御も重要であると考えられます また Regnase-1 Roquin の RNA 結合を調節する小分子をスクリーニングすることで 炎症の制御法の開発につなげていきたいと考えています 3

< 参考図 > 図 1. Regnase-1 と Roquin はステムループ構造を認識する. 図 2. Regnase-1 と Roquin は ER とストレス顆粒 P body にそれぞれ局在する. 4

図 3. Regnase-1/Roquin 変異 MEF の LPS に対する応答. 図 4. Regnase-1 と Roquin のサイトカイン mrna 分解機構モデル. 5

< 用語解説 > 注 1) Regnase-1 IL6 や IL12p40 などのサイトカイン mrna の分解を行うことで過剰な免疫応答を抑制するサイトカイン産生のブレーキ役を担っている RNA 分解酵素 注 2) Roquin(Rc3h1, Rc3h2, RING finger and CCCH zinc finger protein) Icos やTnf など炎症に関わる蛋白質をコードする mrna 分解を誘導することで自己免疫疾患となることを防いでいることが知られている RNA 結合蛋白質 注 3) 自然免疫病原体の侵入を最初に検知して免疫システムを活性化させる マクロファージや樹状細胞などの自然免疫担当細胞により担われ 病原体を検出した自然免疫担当細胞は炎症性サイトカインを産生 分泌して炎症を誘導する 注 4) 炎症性サイトカイン炎症に伴い細胞から分泌される蛋白質のうち 細胞同士の信号伝達に重要なものがサイトカインであり 中でも炎症を引き起こすものを炎症性サイトカインと呼ぶ これにはインターロイキン 6 (IL6) インターロイキン 1(IL1) 腫瘍壊死因子(TNF) などがあげられる 注 5) 翻訳 mrna に記述されたコドン情報に基づいて 蛋白質を合成する反応 mrna にリボソームと呼ばれる蛋白質複合体が結合することにより蛋白質鎖が作られ mrna の終止コドンを認識して終結する 細胞内小器官である粗面小胞体にはリボソームが付着しており サイトカインなど細胞外に分泌される蛋白質の翻訳を担っている 注 6) リポポリサッカライド (LPS) グラム陰性細菌の細胞外膜に存在するリポ多糖であり TLR4 により認識される LPS によりマクロファージは多量の炎症性サイトカインを産生し 敗血症性ショックなどの原因となる Bruce Beutler は LPS 受容体としての TLR4 の発見により 2011 年ノーベル生理学賞を受賞した 6

< 論文タイトル> Regnase-1 and Roquin regulate a common element in inflammatory mrnas by spatiotemporally distinct mechanisms (Regnase-1 と Roquin は時空間的に異なるメカニズムで共通の炎症性 mrna を制御する ) DOI:10.1016/j.cell.2015.04.029 著者 : Takashi Mino, Yasuhiro Murakawa, Akira Fukao, Alexis Vandenbon, Hans-Hermann Wessels, Daisuke Ori, Takuya Uehata, Sarang Tartey, Shizuo Akira, Yutaka Suzuki, Carola G. Vinuesa, Uwe Ohler, Daron M. Standley, Markus Landthaler, Toshinobu Fujiwara, Osamu Takeuchi 7