わが国の次期大綱では そういった戦略環境の大きなランドスライド ( 地滑り ) にともない 第 1 に基盤的防衛力構想から脱却した 日本の戦略の根底的見直し 第 2 に 今ある危機 への対処のための 南西シフト に言及しなければならない 基盤的防衛力構想からの脱却 - 日本の戦略の根底的見直し 日本

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また 前提となる衝突や紛争といった脅威が不明確であり 在日米軍 海兵隊の出動が見込まれる事例をはじめ 具体的な説明がなく 抽象的である このような内容では 県外移設 ができない理由が説明されているとは言えず 県民の納得のいくものではない 鳩山前総理は 昨年 5 月の記者会見において 何とか県外に見つ

  策定された危険な新防衛大綱

泥沼化したアフガニスタンと悪化する米国経済オバマ大統領は2010年8月31 日 イラクでの戦闘終了を宣言し 次の対テロ戦争の主な舞台はアフガニスタンへと移った アフガニスタンではタリバンが勢いを増し 戦況はますます泥沼化している 米国が9 11 テロ以降 対テロ戦争に費やした戦費は1兆ドル(約87

新 日米防衛協力のための指針 ( ガイドライン )

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新たな防衛計画の大綱 中期防衛力整備計画 ~ 統合機動防衛力 の構築に向けて ~ - 目次 - Ⅰ 戦略 大綱 中期防の位置付け等 2 Ⅱ 我が国を取り巻く安全保障環境 10 Ⅲ 我が国の防衛の基本方針 16 Ⅳ 防衛力の在り方 26 Ⅴ 防衛力の能力発揮のための基盤 43 Ⅵ 中期防衛力整備計画

か A: これは 受け入れがたい内容 という私の発言にすべて帰着することだと思っています Q: それは控訴する方向ということでよろしいでしょうか A: あくまでも 受け入れがたい内容 でありますので 関係機関と調整の上 適切に対応してまいりたいと思います Q: 飛行差止めに関してなのですが これは戦

ている これに加えて 中国は 軍の艦艇や航空機による太平洋への進出を常 態化させ 我が国の北方を含む形で活動領域を一層拡大するなど より 前方の海空域における活動を拡大 活発化させている こうした中国の軍事動向等については 我が国として強く懸念してお り 今後も強い関心を持って注視していく必要がある

自衛隊に導入いたしまして船舶として運用することから 陸上自衛隊の使用する船舶につきましても 海上自衛隊の使用する船舶と同様に船舶安全法等の適用を除外することなどを内容としてございます また 先ほどございましたように 本法案に直接の規定ではございませんが 平成二十九年度末におきまして 万が一島嶼部を占

Taro-文書1


あなたやあなたの子どもが 国外の戦争で殺し・殺される!? 安倍政権の戦争法案

新たな防衛計画の大綱に向けた提言

Microsoft Word 米中東戦略

2 各国の動向 米国 : 世界最大の総合的な国力 中露等との 戦略的競争 同盟国等に対し 防衛のコミットメントを維持するとともに 責任分担の増加を要求 NATO: ハイブリッド戦 への対応 国防費を増加 中国 : 透明性を欠いた軍事力の強化 新領域の優勢確保を重視 一方的な現状変更の試み 東シナ海で

平和安全法制などの整備法整備の経緯 図表 Ⅱ 閣議決定 の概要と法制整備 閣議決定 の項目 概要 法制整備 警察や海上保安庁などの関係機関が それぞれの任務と権限に応じて緊密に協力して対応す 治安出動 海上 1 武力攻撃に 至らない るとの基本方針の下 対応能力を向上させ連携を強化するな

インド洋におけるテロ対策海上阻止活動及び海賊行為等対処活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案要綱

2 新中期防の意義 防衛力整備は 最終的には各年度の予算に従い行われるが 国の防衛が国家存立の基盤であるとともに 装備品の研究開発や導入 施設整備 隊員の教育 部隊の練成などは短期になし得ないことなどを考えれば 防衛力整備は 具体的な中期的見通しに立って 継続的かつ計画的に行うことが必要である この

防衛計画の大綱に向けた提言

朝日 TV 2015/4/18-19 原発政策安倍内閣は 今後の電力供給のあり方について検討しているなかで 2030 年時点で 電力の 2 割程度を 原子力発電で賄う方針を示しています あなたは これを支持しますか 支持しませんか? 支持する 29% 支持しない 53% わからない 答えない 18%

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強敵中国に対処する列島防衛戦略の復活 ( 米国有名シンクタンク CSBA の新戦略 海洋プレッシャー戦略 ) 元東部方面総監渡部悦和 2019/06/07 ワシントン DC に所在の有名なシンクタンク 戦略予算評価センター (CSBA) が 米国のアジア太平洋地域における戦略として 海洋プレッシャー

防衛関係予算のポイント 30 年度予算編成の基本的な考え方 1. 中期防対象経費については 中期防衛力整備計画 に沿って 周辺海空域における安全確保 島嶼部に対する攻撃への対応 弾道ミサイル攻撃等への対応等に重点化を図るとともに 装備品の調達の効率化等を通じてメリハリある予算とする 2. 防衛関係費

日本は BMD には欠かせない早期警戒衛星からの情報を米軍に頼っている そのこともあり 今後は グアムを含めた日本駐留の米 BMD 部隊を束ねる防空作戦司令部が日本国内にできたこ とで BMD での日米一体化をさらに進めることが課題である BMD での日米一体化における課題は どこにあるか 日米防衛

テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案要綱


目 次 安全保障戦略のイメージの一例 1 統合的安全保障戦略 2 現大綱 (16 大綱 ) における我が国の安全保障の基本方針 3 16 大綱までの防衛力の役割の変化 4 現大綱 (16 大綱 ) における防衛力の役割 5 自衛隊の体制の考え方と任務の変化 6 自衛隊の体制の変化 7 戦略環境と我が

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奮戦

権の場合には政権発足後 13 か月目に QDR が発表されることとなる そのため 本来戦略文書の最上位文書にあるはずの NSS よりも早く QDR が公表されるという状況が発生していた ブッシュ政権最初の QDR が公表されたのは9 11テロ事件直後の 2001 年 9 月 30 日であったが 先制

I. 集団的自衛権 A. 集団的自衛権とは集団的自衛権は 国際連合の成立の際に 初めて国際法上で創設され 国連憲章第 51 条に明文化された権利である 具体的には 自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を 自国が直接攻撃されていないにもかかわらず 実力をもって阻止する権利 であり 日本政府もこの

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briefing

1 自衛隊に対する関心 問 1 あなたは自衛隊について関心がありますか この中から 1 つだけお答えください 平成 30 年 1 月 関心がある ( 小計 ) 67.8% 非常に関心がある 14.9% ある程度関心がある 52.9% 関心がない ( 小計 ) 31.4% あまり関心がない 25.9%

過去に官邸対策室を設置した事例 2 平成 18 年 7 月 5 日 北朝鮮による飛翔体発射事案に関する官邸対策室設置北朝鮮による弾道ミサイル発射事案に関する官邸対策室に名称変更 10 月 9 日 北朝鮮による核実験実施情報に関する官邸対策室設置 平成 19 年 3 月 25 日 石川県能登を中心とす

スライド 1

平成 31 年度以降に係る防衛計画の大綱について 位置付け 意義 防衛計画の大綱 ( 大綱 ) は 各種防衛装備品の取得や自衛隊の運用体制の確立等は一朝一夕にはできず 長い年月を要するため 中長期的見通しに立って行うことが必要との観点から 今後の我が国の防衛の基本方針 防衛力の役割 自衛隊の具体的な

しかし 15 年前の 95 年の大綱も 上記のように 我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよ りも と わが国への本格的な武力侵攻は考えられないと言っている なのに なぜ 今頃になって基盤的防衛力構想を捨てたいというのか 理由は 定義 のアンダーライン部分の後の方にある つまり 必要最小限の基盤的

防衛力整備計画の系譜 ( 年度 ) 33 ~ ~ ~ ~ 元

Security declaration

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2019 年度予算 ( 案 ) 概要 平成 30 年 12 月内閣官房

平成 31 年度防衛関係費 ( 概算要求 ) 等について 平成 3 0 年 9 月 防衛省

わが国の防衛産業政策の確立に向けた提言 2009 年 7 月 14 日 ( 社 ) 日本経済団体連合会 本年 4 月 北朝鮮が国連安全保障理事会の決議に違反して長距離弾道ミサイルを発射し 5 月には地下核実験を行うなど 北東アジアの安全保障環境は緊迫化している こうした安全保障環境のもとにおいて 防

三衆議院議員稲葉誠一君提出自衛隊の海外派兵 日米安保条約等の問題に関する質問に対する答弁書一について1 我が国が安全保障理事会の常任理事国となるためには 国連憲章の改正が必要であるが 安全保障理事会の常任理事国は 国連憲章の改正についても いわゆる拒否権を有しており 一般的にいつて 国連憲章の改正に

はじめに 2013( 平成 25) 年 12 月 17 日 政府は 我が国として初めて 国家安全保障戦略 ( 戦略 ) を決定しました また この 戦略 を踏まえ 新たな 防衛計画の大綱 ( 防衛大綱 ) と 中 期防衛力整備計画 ( 中期防 ) も決定しました 我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳

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平成 29 年 ( ワ ) 第 125 号安保法制違憲 国家賠償請求事件 原 告 阿部裕ほか224 名 被 告 国 準備書面 (3) ( 朝鮮半島有事の際の新安保法制による米軍への軍事的支援活動と他国間戦争にまきこまれる具体的現実的危険 ) 宮崎地方裁判所 民事第 2 部合議係御中 2017( 平成

2 マイケル マクデビット加藤洋一 望を持たせる兆候となる しかし その一方で 北朝鮮が長い間にわたり核開発計画を放棄してこなかった長い歴史を振り返れば 今後 北朝鮮が再び深刻な挑発に走ることを なお考えないわけにはいかない とりわけ もし北朝鮮の核とミサイルの能力が 抑制を受けないまま野放しとなれ

日米同盟:

目 次 1. 改訂の趣旨 1 2. 宇宙開発利用の特性 意義及び課題 1 3. 昨今の防衛省の取組 2 4. 防衛省の宇宙開発利用に関する基本方針 3 ⑴ 宇宙空間に対する考え方 3 ⑵ 統合機動防衛力 の構築に資する宇宙開発利用のあり方 3 ⑶ 今後の重点的な取組 4 ア.3 つの視点に係る取組

その人が 米中戦争 日中紛争の有事が起きやすい場所としてあげているのは 南シナ海の南沙諸島 台湾周辺 そして 東シナ海の尖閣諸島 南西諸島です 南西諸島といっても 有事になりやすいのは島ではなく 宮古海峡などの戦略的に重要な水路です 尖閣諸島 宮古海峡 そして台湾も 確かに石垣島に近いですね 日本の

特集平成 30 年度予算特集 2 図表 1 防衛関係予算の推移 ( 億円 ) 54,000 52,000 50,000 48,000 中期防対象経費 (SACO 米軍再編経費等を除く防衛関係費) SACO 米軍再編経費 政府専用機関連経費 50,541 49,801 (+1.5%) ,8

JEGS は英語版が正文である JEGS 仮訳中の用語が日本の関係法令上の用語と同一だとしても その定義は必ずしも一致するとは限らない 2018JEGS バージョン 1.1 日本環境管理基準 国防省 日本環境管理基準 2018 年 4 月 バージョン 1.1 ( 改訂 :2018 年 12 月 )

新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画の策定に向けた提言~「多次元横断(クロス・ドメイン)防衛構想」の実現に向けて~

ヨーロッパ正面 陸軍 海軍 空軍 海兵隊 約3.5万人 約0.6万人 約3.0万人 約0.1万人 米軍の総兵力 陸軍 海軍 空軍 海兵隊 総計 約7.2万人 1987年総計約35.4万人 DIGEST 米 国 概 1 観 約53.5万人 約31.3万人 約32.9万人 約19.6万人 総計 約137

はじめに 全国防衛協会連合会は かって調査研究として 日本の防衛 Q&Aよくわかる国の守り を取り纏め 会員を中心に参考資料として配布したところでありますが その後 10 年近くが経過し 近年の内外情勢の変化 特にわが国周辺における安全保障環境の厳しさを受け わが国防衛政策にも大きな変化が生じていま

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縦軸)我が国 国民に関する事項ための活動を実施可能に(国際社会に関する事項 平和安全法制 の主要事項の関係 在外邦人等輸送 ( 現行 ) 自衛隊法 在外邦人等の保護措置 ( 新設 ) 自衛隊の武器等防護 ( 現行 ) 自衛隊法 米軍等の部隊の武器等防護 ( 新設 ) 平時における米軍に対する物品役

NSS-summary

( 別紙 ) 平成 26 年度以降に係る防衛計画の大綱 Ⅰ 策定の趣旨我が国を取り巻く新たな安全保障環境の下 今後の我が国の防衛の在り方について 平成 25 年度の防衛力整備等について ( 平成 25 年 1 月 2 5 日安全保障会議及び閣議決定 ) に基づき 国家安全保障戦略について ( 平成

普天間飛行場代替施設の建設は 2014 年までの完成が目標とされる 普天間飛行場代替施設への移設は 同施設が完全に運用上の能力を備えた時に実施される 普天間飛行場の能力を代替することに関連する 航空自衛隊新田原基地及び築城基地の緊急 時の使用のための施設整備は 実地調査実施の後 普天間飛行場の返還の

( 別紙 ) 平成 31 年度以降に係る防衛計画の大綱 Ⅰ 策定の趣旨我が国は 戦後一貫して 平和国家としての道を歩んできた これは 平和主義の理念の下 先人達の不断の努力によって成し遂げられてきたものである 我が国政府の最も重大な責務は 我が国の平和と安全を維持し その存立を全うするとともに 国民

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第 4 回日豪外務 防衛閣僚協議 日本とオーストラリア : 平和と安定のための協力 共通のビジョンと目標 1. 玄葉光一郎日本国外務大臣, 森本敏日本国防衛大臣, ボブ カー オーストラリア外務大臣, スティーブン スミス オーストラリア国防大臣は,9 月 14 日にシドニーにおいて会談し, 地域的


実効的な抑止および対処 第 第1節 1 節 実効的な抑止および対処 財産と領土 領海 領空を確実に守り抜くために ともに 各種事態が発生した場合には 適切な時 は 総合的な防衛体制を構築して各種事態の抑止 期および海空域で海上優勢2 および航空優勢3 を確 に努めるとともに 事態の発生に際しては そ

防止策等の検討を開始いたしております 事案の詳細につきましては 現在 調査中であるため お答えは差し控えさせて頂きますが まずは 調査委員会による調査等によって 事実関係を明らかにすることが重要であると認識しております その上で 必要な再発防止等の対応について 検討していきたいと考えております Q:

Taro-合同委員会合意

そして戦後 米国を追随する核大国として新たにソ連が台頭し 米国の同盟国となった日本は アジア地域における対ソ抑止の要を担った 当時の日本に求められていた抑止アクターとしての具体的役割は ソ連の 海洋拒否能力 の無効化すなわち 有事に海峡の封鎖とシーレーン防衛を行うことでソ連軍の海洋活動を制約し米海軍


平成 31 年度防衛関係予算のポイント 平成 30 年 12 月 内野主計官

ンターの建設を 廃止 したほか 予算の縮減 等見直しを求めるものが 12 要求どおり 等が3 政治の判断を待つ が1 という結果となった 12 月 15 日 事業仕分けの結果等を踏まえ 予算編成の基本方針 が閣議決定された また 平成 21 年中に行われる見込みであった 防衛計画の大綱 ( 以下 防

前提 新任務付与に関する基本的な考え方 平成 28 年 11 月 15 日 内 閣 官 房 内 閣 府 外 務 省 防 衛 省 1 南スーダンにおける治安の維持については 原則として南スー ダン警察と南スーダン政府軍が責任を有しており これを UNMISS( 国連南スーダン共和国ミッション ) の部

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わが国周辺の安全保障環境 18( 平成 30) 年 6 月の米朝首脳会談の共同声明において 金正恩委員長が 朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を 改めて文書の形で 明確に約束した意義は大きいと考えていますが 今後 北朝鮮が核 ミサイルの廃棄に向けて具体的にどのような行動をとるのかをしっかり見極めてい

第4日米同盟の強化同盟強化の基盤となる取組 第 2 節 第 2 節 同盟強化の基盤となる取組 1 同盟強化の経緯 日米両国は 1960( 昭和 35) 年の日米安保条 約締結以来 民主主義の理想 人権の尊重 法の支配 そして共通の利益を基礎とした強固な同盟関係を築いてきた 1978( 昭和 53)

1 日目 日本の右翼活動家たちが 尖閣諸島の魚釣島に上陸し 日本の国旗を掲揚し YouTube で中国を挑発 日本政府が対応に追われる間 中国はただちに海警を送り込み 全員を逮捕 拘束する 2 日目 日本は周辺海域に護衛艦や戦闘機を展開 中国側も海軍艦艇を展開し 一瞬即発の状況になる 日本は 米国に

れにMINUSTAH 軍事部門司令部において行われる企画及び調整の分野並びに我が国のMINUSTAHに対する協力を円滑かつ効果的に行うための連絡調整の分野における国際平和協力業務を行わしめるとともに 自衛隊の部隊等により ハイチ地震の被災者の支援等の分野における国際平和協力業務を実施することとする

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102 エア パワー研究 ( 第 3 号 ) が 2010 年 5 月に発表した構想が原型となっている 7 その後 国防省は 2013 年 5 月 JOAC の下位構想として公式に策定した ASB を公表した 8 この国防省版 ASB と CSBA 版 ASB には相違点もあるが 相手 ( 特に相手

A: 最近の韓国での出来事だとか 日本での出来事などについて率直に意見交換をしたわけでございますが 私が感じたのは長官の話を通じて 韓国のこの平和と朝鮮半島の平和と安定 これは日本にとっても安全保障上 大変重要なことでございまして 韓国の防衛政策も伺えましたけど 非常にしっかりとしたものであります

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( 別紙 ) 中期防衛力整備計画 ( 平成 23 年度 ~ 平成 27 年度 ) Ⅰ 計画の方針平成 23 年度から平成 27 年度までの防衛力整備に当たっては 平成 23 年度以降に係る防衛計画の大綱 ( 平成 22 年 12 月 17 日安全保障会議及び閣議決定 ) に従い 即応性 機動性 柔軟

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平成 23 年度警察庁予算の概要 総額 ( 平成 22 年度当初予算額 245,104 百万円 270,543 百万円 ) ( 単位 : 百万円 ) 区 分 22 年度予算額 23 年度予算額 増 減額 主な内容 第 1治安水準の更なる向上のための総合対策の推進 1犯罪が起きにくい社会づくりの推進

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1. 韓国哨戒艦沈没問題 (1) 事件の背景に対する見方は分かれている本件に関し ある外交専門家の見方が大変興味深かったので以下の通り紹介する 今回の事件は金正日総書記の訪中 (4 月 19~21 日 ) 前の 3 月 26 日に起きた この時点ではすでに金正日総書記の訪中スケジュールは決まっていた

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Transcription:

2010 年 10 月 6 日 ( 水 ) http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100929/216432/?p=1 私が考える新防衛大綱 自衛隊の布陣を南西にシフトせよ 今ある危機 は中国と北朝鮮の軍事力強化 川上高司 プロフィール 2009 年 9 月の政権交代のため 民主党政権は 防衛計画の大綱 ( 防衛大綱 ) を 1 年間先送りし 今年末に発表する この間 日本を取り巻く戦略環境はたいへん厳しくなった 北朝鮮の体制変革は目前だ 中国の急激な軍事力増強と尖閣諸島をはじめとする東シナ海への進出が起こっている こういったわが国の直面する 今ある危機 に対応するかのように オバマ政権は後期に入り その対中政策を 関与 から ヘッジ ( 強硬姿勢 ) へと次第にグレビティ ( 重心 ) を移しつつある そのようななか政府は 2010 年度の防衛関連予算は現在の戦略環境は考慮に入れず 2004 年 12 月に閣議決定した 16 大綱 ( 注 : 16 は平成 16 年の意 ) に基づいて編成した そこで政府は 防衛省が求めた約 3500 人の自衛隊員の増員や PAC3 ( 地対空誘導弾 ) の追加配備を見送った そして 防衛関連予算を前年度比 0.2% 減 (4 兆 7668 億円 ) とした 8 年連続の減額である いっぽう 今ある危機 は着々と大きくなっている 中国の国防費は 21 年連続で 2 けたの伸びであり わが国の中国の脅威への対処はそろそろ限界点に達し始めている それを見据えたように起こったのが 9 月 11 日の海上保安庁と中国漁船との衝突事件とそれに伴う中国側の強硬姿勢である

わが国の次期大綱では そういった戦略環境の大きなランドスライド ( 地滑り ) にともない 第 1 に基盤的防衛力構想から脱却した 日本の戦略の根底的見直し 第 2 に 今ある危機 への対処のための 南西シフト に言及しなければならない 基盤的防衛力構想からの脱却 - 日本の戦略の根底的見直し 日本の戦略の見直し について 新防衛大綱の策定に向けた政府の有識者懇談会 新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会 ( 新安防懇 ) の報告書 (2010 年 8 月発表 ) が既に 基盤的防衛力構想の見直しをすべしという点を指摘している 基盤的防衛力構想は 半世紀にわたり日本の防衛力整備の指針であったが 現在の日本を取り巻く戦略環境では国を守りきれないため 脱却が必要である 米国は冷戦後の戦略環境の変化に応じて 何が 脅威 かを定め それに基づいて国防予算を策定してきた 冷戦終了後はイラクと北朝鮮といった国家を 脅威 の主な対象とし 脅威基盤戦略 (Threat-Based Strategy) を取った 具体的には Base Force (1993 年 1 月 ) Bottom Up Review (1993 年 9 月 ) QDR1997 (1997 年 5 月 )( 注 :QDR は Quadrennial Defense Review の略 4 年ごとの国防計画の見直し ) を策定した また 米国同時多発テロ (9.11 テロ ) 以後は非国家主体であるテロリストを主な 脅威 とした能力基盤戦略 (Capable-Based Strategy) を取り QDR2001 (2001 年 10 月 ) QDR2006 (2006 年 2 月 ) QDR2010 (2010 年 2 月 ) で国防戦略を発表している いっぽう 現在のわが国の防衛の基礎となっている 2004 年に策定された防衛大綱 (16 大綱 ) は 基盤的防衛力構想をその根幹に持つ この構想は 脅威 の存在を前提とせず 自らが力の空白となってわが国周辺地域における不安定要因とならないよう 独立国として必要最小限の基盤的な防衛力を保有する というもの 政府はこれを基に 防衛力の所与の見積もりをしてきた 基盤的防衛力構想に基づく現状は 冷戦期の防衛体制 米軍を 鉾 自衛隊を 盾 という役割分担で抑止力が担保できた であると言えよう しかしながら 今ある危機 に対しては効力がなく 日本の防衛は立ちゆかなくなっている状況にある そのために 基盤的防衛力構想を改め 脅威 を明確化し それを前提とした抜本的な戦略の見直しのうえに新大綱を策定しなければならない 今ある危機 への対処- 自衛隊の 南西シフト わが国に対する 脅威 は冷戦時代はソ連であったが 現在では 北朝鮮と中国に 転換した 北朝鮮に関しては 核 弾道ミサイルの開発を続け瀬戸際外交を繰り返し

ている また北朝鮮は体制の移行期にあり その崩壊を含む不安定化も脅威の一端を占める いっぽう 日本にとり中国は 冷戦時代のソ連とは異なり 単なる脅威とは言い難い 中国は わが国にとって経済的にはなくてはなら友好国であり 社会的にも文化的にも深い関係を持つ しかしながら 2 けた台の伸びで拡大する中国の軍事力の意図の不透明性や その弾道 巡航ミサイルや潜水艦 サイバー戦 高性能戦闘機 対衛星兵器などの分野での能力向上が懸念される さらに また 増強する海軍力とその活動は目に余るものがある 日本近海 特に 9 月 11 日の尖閣諸島沖の領海で起きた海上保安庁の巡視艇と中国漁船の衝突事件を巡る中国の過剰な対応は危機である 日米同盟が盤石でなければ 中国のわが国海域への新進出はますます頻繁となるであろう 中国軍は東シナ海から台湾を経て南シナ海にかかる 第 1 島嶼線 の内側 つまり 近海 における 海上優勢 の確保 そして 伊豆諸島からグアムを経てパプアニューギニアまで至る 第 2 島嶼線 まで展開可能なシー ディナイアル ( 敵が当該海域をコントロールすることを拒否する ) 能力の構築を狙う そして 第 1 島嶼線 内の海洋権益の確保を目的とした島嶼争奪戦において勝利を収めるために その一番のターゲットに尖閣諸島を位置づけている 中国は弾道 巡航ミサイルや潜水艦を強化し A2AD(Anti-Access/Area Denial の略 接近拒否 領域拒否 ) 能力を向上させることで 大陸から約 1500 キロメートルまでの海域を 聖域 として米軍のアクセスを遠ざける戦略的防衛態勢を確立する可能性がある そうなれば米軍の嘉手納 岩国 三沢 佐世保などの基地は中国からの先制攻撃の対象に含まれることになる 米国は前方展開の基地のグレビティー ( 重心 ) をそれよりも外側に移転することにより脆弱性を低める必要性が出てくる可能性もある 日本は地理的に中国に隣接し 中国が日本に対して軍事的脅威である以上 ヘッジ を怠ることはできない そういった一連の事態を考慮すれば 自衛隊の 南西シフト はわが国の防衛にとり喫緊で重要な課題である その一環として沖縄における米軍基地の共同使用を行うべきだろう 地位協定第 2 条 4 項 (a)*1 の第 2 条 4 項 (b)*2 への変更も求めることになるだろう しかしながら 言うまでもなく日本独自では中国の強大な軍事力には対抗できない 沖縄の嘉手納基地 ( 米空軍 ) と普天間飛行場 ( 海兵隊 ) をどう維持しながら米軍と一体となり 中国や北朝鮮に対する抑止力を確保することが課題となろう

そうであるならば 今ある危機 の最大のものである南西への自衛隊のシフトにともない 自衛隊の態勢や装備品やその調達を見直さなければならない まず態勢は 沖縄島嶼への部隊配置 防空態勢 海上優勢確保 島嶼への部隊展開が必要だ さらに 中国の A2AD に対処するために米軍が進めている Air-Sea Battle Concept(ASBC) と連携しなければならない ASBC は米国のシンクタンク Center for Strategic and Budgetary Assessments が発表した安全保障のコンセプト 中国が A2AD を実現しようする場合に取り得る手段と それに対する米国の対応策を分析している いっぽう 自衛隊の装備とその調達はどうであろうか 本来 装備調達は まず戦略環境の分析をし 次に今後の中長期見通しを行った上で戦略を立案する さらにはそれに加え 起こりうる紛争や戦争のシナリオを想定し それに基づいて CONPLAN( 概念計画 ) や OPLAN( 作戦計画 ) を決定する そして最終的に それに従い各種装備について 何を どれだけ いつまでに いくらで 調達するかを決定する ところが 16 大綱の別表はこうした手順を経て決定したものではないため 運用コストが膨大にかかっている さらに 装備間の兼ね合いが取れていないため統合運用がしにくい したがって 新大綱は戦略に基づく調達の方針を示すべきである *1: 日米地位協定 2 条 4 項 (a) 合衆国軍隊が施設及び区域を一時的に使用していないときは 日本国政府は 臨時にそのような施設及び区域をみずから使用し 又は日本国民に使用させることができる ただし この使用が 合衆国軍隊による当該施設及び区域の正規の使用の目的にとつて有害でないことが合同委員会を通じて両政府間に合意された場合に限る *2: 日米地位協定 2 条 4 項 (b) 合衆国軍隊が一定の期間を限つて使用すべき施設及び区域に関 しては 合同委員会は 当該施設及び区域に関する協定中に 適用があるこの協定の規定の 範囲を明記しなければならない スタビリティ インスタビリティ パラドックスへの対処 さらに将来 通常戦力で中国が米国にキャッチアップし かつ核戦略でもスタビリティ インスタビリティ パラドックス ( 戦略核レベルで相互脆弱性に基づく安定性が生じたため 通常兵器レベルで挑発的行為が起こりやすくなる状況 ) が米中間で生じた場合 中国軍の東シナ海での活動はいっそう活発化するであろう つまり 平時と戦時との間のグレーゾーンにおける危機的状況が増えることになろう この場合 新安防懇が提示した 動的抑止 が重要となる 動的抑止 は 平時から

警戒監視活動や領空侵犯対処などの能力を示すことで 他国の攻撃や侵略を防ぐ抑止力とすること 特に 米国は国防費の削減などの影響で南西諸島周辺の軍事態勢が手薄となっている 東シナ海において 航行の自由 というグローバル コモン ( 国際公共財 ) を守ることは重要だ 日米両国はこれを守る義務がある その海域の警戒監視を日本が分担するのは当然の流れであり大綱にも反映すべきである さらに スタビリティ インスタビリティ パラドックス状況の下では 動的抑止 が機能しないケースが起こる可能性がある この場合には 危機事態が発生した場合に有効に対処し 被害を極小化することが必要となる 危機は南西だけではない また 今ある危機 は南西の危機のみではない 特殊部隊 テロ サイバー攻撃 島嶼攻撃 海外の邦人救出 弾道 巡航ミサイル攻撃といった多様な脅威が同時発生したり これらの多様な危機が複合的に展開したりする 複合事態 の危機が十分考えられる それに効果的に対応できる能力ベースの防衛力を整備する必要性がある そのためには 人的戦闘力を含めたパワー プロジェクション能力 ( 注 : 戦力を投入する能力 ) ISR( 情報収集 警戒監視 偵察 ) 能力を強化しなければならない さらに 次期新大綱は 今後 5 年間の日本の防衛の指針となるものである 菅民主党政権は 今ある危機 に対して万全の備えを構築することに全力をつくすとともに 東シナ海が 中国の内海 化する事態や北朝鮮崩壊の可能性など 変化する将来の危機 への備えを至急取らねばならない 日本周辺の脅威は増大する一方であり 防衛力を着実かつ実効的に整備することは 政府の最重要の責務である そして その手段は 16 大綱も論じられたように わが国独自の対処 日米同盟 国際社会との協力がある しかしながら現状は アフガニスタンやパキスタンで多くのアセットを取られ国防費を削減するアメリカに依存するのみでは 十分な抑止力を確保できなくなってきている この点から 次期大綱は わが国独自対処の方策も探るべきであり それに応じた装備の調達も考えてしかるべきであろう そのように考えれば 日米同盟を能動的に強化し抑止力を担保するため 非核三原則の見直し 武器三原則の緩和 集団的自衛権の行使を認めることが必要となろう