被告人に殺害されることを承諾したような様子は一切ない むしろ, 被害者は, 本件直前に介護用品を選んだり, 散髪の予約をしたりしている 被告人も, 公判廷において, 被害者に心中することを話したことはないし, 上記転居後に, 被害者から死にたいとか, 殺してほしいと言われたことはなかった旨供述する

Similar documents
記サバイバルナイフで多数回突き刺すなどし, その頃, 同所において, 多発性胸部大動脈刺創による失血により死亡させた 第 3 同日午前 7 時 10 分頃, 同市 a 町 bd 番地所在のB 方離れ玄関付近において, 同人の母 Dに対し, その左背部等を前記サバイバルナイフで多数回突き刺すなどし,

った場合には被害者を殺害してしまおうと考えるに至り, インターネット通信販売で折りたたみ式ナイフ ( 平成 29 年押第 6 号の1) を購入した 被告人は, 同月 21 日, ライブ会場の最寄駅付近で被害者を待ち受け, やって来た被害者に 話できますか などと声を掛け, 被害者がこれを拒絶したにも

ター等 4 点 ( 時価合計約 8 万 2000 円相当 ) を窃取した ( 証拠の標目 ) ( 略 ) ( 判示第 3の事実認定に関する補足説明 ) 第 1 争点それぞれの弁護人は, 被告人 Aは窃盗の共同正犯が成立するにとどまり, 同 Cは無罪である旨主張しているので, 判示のとおり認定した理由

在は法律名が 医薬品, 医療機器等の品質, 有効性及び安全性の確保等に関する法律 と改正されており, 同法において同じ規制がされている )2 条 14 項に規定する薬物に指定された ( 以下 指定薬物 という ) ものである (2) 被告人は, 検察官調書 ( 原審乙 8) において, 任意提出当日

B1CA2AFD871ACBF449256CA800291D1

いずれも殺害するに至らなかった 証拠の標目 省略 争点に対する判断 被告人が, A 及び B を金属バットで殴打したことは争いがない 本件の争点は, 殺意の有無と責任能力である 1 殺意の有無 ⑴ A に対する殺意防犯カメラ映像 ( 甲 6 2,6 6 ) に見られる被告人の両手両足の位置や向き,

り死亡させて殺害し, 第 2 医療等の用途以外の用途に供するため, 同日頃から同月 18 日までの間に, 被告人方において, 指定薬物であるN-(1-アミノ-3-メチル-1-オキソブタン-2-イル )-1-(5-フルオロペンチル)-1H-インダゾール -3-カルボキサミド( 通称 5-Fluoro

( 証拠の標目 ) 略 ( 死体遺棄罪について免訴とした理由 ) 第 1 争点本件の争点は, 死体遺棄罪の公訴時効の完成の成否であり, その前提として, 本件死体遺棄行為の性質 ( 作為犯か不作為犯か ) や, 公訴時効の起算点がいつであるのかが問題となる 検察官は, 論告において, 被告人には殺害

被告人は, 平成 19 年 1 月ころ以降, 被告人方で, 当時 1 歳の被害者, 被害者の母親である元妻のC, 共犯者である弟のB 及び被告人の母親と5 人で暮らすようになったが,Cは, 同年 6 月ころ, 被告人の日常的な暴力に耐えられずに被告人方から逃げ出し, その後,Cと被告人は, 被害者の

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

せて不安定な状態とする, いわゆる 一枚壁 の状態にして解体作業を行っているのを現認したが, 被告人 Aにおいては, 解体工事施工技士の資格を有し, 一枚壁の状態にしたまま解体作業を継続すれば同壁が倒壊する危険性があることを熟知していたのであるから, その後に予定されていた本件壁の解体作業を被告人

Taro jtd

うものと推認することができる しかしながら, 被告人は, インターネットを通じて知り合ったAから金を借りようとしたところ, 金を貸すための条件として被害女児とわいせつな行為をしてこれを撮影し, その画像データを送信するように要求されて, 真実は金を得る目的だけであり, 自分の性欲を刺激興奮させるとか

主 文 被告人を死刑に処する 押収してあるペティナイフ 1 本 ( 平成 25 年押第 2 号の 1) を没収する 理 由 ( 罪となるべき事実 ) 第 1 被告人は, 平成 23 年 11 月頃に当時の妻と共に福島県会津若松市に移住した後, 実際には職に就くことはなかったのに, 妻には就職したと嘘

( 掲載省略 )) ( 争点に対する判断 ) 第 1 本件の争点 1 本件公訴事実の要旨は, 被告人が, 勝馬投票券 ( 以下 馬券 という ) の 払戻金による一時所得を除外した虚偽の所得税等の確定申告 ( 過少申告 ) をし, 平成 24 年分及び平成 26 年分の所得税額合計 60 万円余りを

方メートル ) のうち1 階店舗内板壁等表面積約 29 平方メートルを焼損した ( 証拠 ) 括弧内の甲乙の番号は検察官請求証拠の番号を示す 被告人の公判供述 証人 E, 同 F, 同 G, 同 C, 同 D 及び同 Hの各公判供述 I( 甲 51) 及びJ( 甲 52) の各警察官調書抄本 実況見

法律学入門12

CADA282057C15F6C49256C D

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

(1) 児童ポルノ該当性について所論は, 原判示第 3 及び第 6の動画は, 一般人を基準とすれば性欲を興奮させ又は刺激するものに当たらない旨主張する しかし, 被告人は, 原判示第 3については, 女児である被害児童のパンティ等を下ろして陰部を露出させる姿態をとらせ, これを撮影, 記録し, 同第

平成  年(あ)第  号

<4D F736F F D E9197BF A8DD994BB97E BD896694C5816A2E646F63>

最高裁○○第000100号

わらず, 平成 24 年 2 月 28 日, 前記 B 税務署において, 同税務署長に対し, 財務省令で定める電子情報処理組織を使用して行う方法により, 所得金額が104 万 4158 円で, これに対する法人税額が18 万 7500 円である旨の虚偽の法人税確定申告をし, そのまま法定納期限を徒過

平成  年(あ)第  号

本件当日 ( 平成 28 年 7 月 15 日 ),Gが, 事前の約束の上で被害者宅 ( エレベーターの設置されていないfビルのg 階に位置する ) を訪れたところ, 玄関付近で何者かに押し倒され,2 人の男が被害者宅に立ち入ってきたこと,2 2 人の男は, いずれもけん銃様のもの ( 後に述べると

平成 27 年 9 月 8 日宣告 平成 27 年 ( わ ) 第 161 号, 第 218 号, 第 467 号 主 文 被告人を懲役 2 年及び罰金 200 万円に処する 罰金を完納することができないときは, 金 1 万円を1 日に換算した期間被告人を労役場に留置する この裁判が確定した日から5

る なお, 前記写真は,M 号室前の廊下をビデオ撮影していたものを, 静止画として切り出したものであるから, 以下, 当該ビデオ撮影 ( 以下 本件ビデオ撮影 という ) の適法性について検討する 関係証拠によれば, 以下の事実が認められる すなわち, 捜査機関は, 委員会 ( 通称 派 以下 派

怨霊が乗り移ったことから本件犯行に至った旨供述していたところ, 原判決は, おおむね次のとおり説示して, 被告人の責任能力を肯定し, 量刑判断を示している ア責任能力を肯定した理由は, 次のとおりである 原審において被告人の精神鑑定をしたE 医師の鑑定意見によれば,1 被告人は, 犯行当時, 統合失

Microsoft Word - 00.表紙.doc

で被害者に暴行 ( その態様には争いがある ) を加えた結果, 被害者が椅子ごと転倒して床で頭部 ( 左右のどちらかについては争いがある ) を打ったことに争いはなく, このことはB 証人,C 証人及び被告人の供述によって容易に認められる また, 自宅内で遺体で発見された被害者を解剖した医師によれば

0EDFD E F1E000A0B9

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

平成 30 年 ( 受 ) 第 269 号損害賠償請求事件 平成 31 年 3 月 12 日第三小法廷判決 主 文 原判決中, 上告人敗訴部分を破棄する 前項の部分につき, 被上告人らの控訴を棄却する 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする 理 由 上告代理人成田茂ほかの上告受理申立て理由第

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

するためには, その行為が犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを要するとした昭和 45 年判例と相反する判断をしたと主張するので, この点について, 検討する (3) 昭和 45 年判例は, 被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで, 脅迫により畏怖してい

11総法不審第120号

裁判員制度 についてのアンケート < 調査概要 > 調査方法 : インサーチモニターを対象としたインターネット調査 分析対象者 : 札幌市内在住の20 歳以上男女 調査実施期間 : 2009 年 11 月 10 日 ( 火 )~11 月 11 日 ( 水 ) 有効回答者数 : N=450 全体 45

<4D F736F F D2094DB944690BF8B818C8892E BC96BC8F88979D8DCF82DD816A2E646F63>

Taro jtd

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

0E CE2EC CD7002A31A

平成年月日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

を申告せずに同検査場を通過しようとし, もって関税法上の輸入してはならない貨物である覚せい剤を輸入しようとしたが, 同支署税関職員に発見されたため, これを遂げることができず, 第 2 みだりに, 同日, 同検査場検査室において, 麻薬であるコカインを含有する粉末約 0.092グラム ( 略 ) 及

主 文 被告人を無期懲役に処する 未決勾留日数中 400 日をその刑に算入する 理 由 犯罪事実 被告人は, 仕事がなかなか見つからず, 自宅にいると母親から早く仕事を探すようにと小言を言われることから, 家を出て自転車で付近を徘徊して時間をつぶす生活をしていたが, そのことなどによる鬱積した気持ち

平成 31 年 4 月 19 日宣告東京高等裁判所第 3 刑事部判決 平成 30 年 1508 号住居侵入, 殺人, 死体遺棄被告事件 主 文 原判決を破棄する 5 本件を横浜地方裁判所に差し戻す 理 由 検察官の本件控訴の趣意は, 検察官山口英幸作成の控訴趣意書記載のとおりであ り ( 検察官は,

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

O-27567

平成  年(あ)第 号

4602B ED100238CD

- 2 - 第二編第二十二章の章名中 姦淫 を 強制性交等 に改める かんいん第百七十六条中 男女に を 者に に改める 第百七十七条の見出しを (強制性交等) に改め 同条中 暴行 を 十三歳以上の者に対し 暴行 に 十三歳以上の女子を姦淫した者は 強姦の罪とし 三年 を 性交 肛門性交又は口腔性

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

平成 24 年 ( わ ) 第 207 号道路交通法違反被告事件 平成 25 年 2 月 14 日宣告高知地方裁判所 主 文 被告人は無罪 理 由 1 本件公訴事実は, 被告人は, 平成 23 年 4 月 25 日午前 10 時 49 分頃, 高知市 a 町 b 番地先交差点 ( 以下 本件交差点

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

最高裁○○第000100号

として無罪を言い渡した 4(1) 原判決の上記判断は論理則経験則違反があるというほかなく, 破棄を免れない (2) 上記 3(2)1 被告人は本件犯行の被害品たる腕時計を四日市市内での被害発生 ( 平成 28 年 6 月 9 日午前 0 時頃から同日午前 6 時 30 分頃までの間 ) の約 1 日

諮問庁 : 国立大学法人長岡技術科学大学諮問日 : 平成 30 年 10 月 29 日 ( 平成 30 年 ( 独情 ) 諮問第 62 号 ) 答申日 : 平成 31 年 1 月 28 日 ( 平成 30 年度 ( 独情 ) 答申第 61 号 ) 事件名 : 特定期間に開催された特定学部教授会の音声

satsujinjiken_muki1

仲真紀子班 情状鑑定の現状と課題 城下裕二 ( 北海道大学大学院法学研究科 ) キーワード : 情状鑑定裁判員裁判量刑 1 これまでの状況 情状鑑定 とは 一般に 訴因事実以外の情状を対象とし 裁判所が刑の量定 すなわち被告人に対する処遇方法を決定するために必要な知識の提供を目的とする鑑定 1 であ

独立行政法人勤労者退職金共済機構役員退職金規程

平成19年(ネ受)第435号上告受理申立理由要旨抜粋

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

11総法不審第120号

<4D F736F F D2095DB8CEC96BD97DF905C97A78F F918EAE A2E646F63>

政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

平成 30 年 6 月 15 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 5939 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 5 月 9 日 判 決 5 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主 文 1 被告は, 別紙対象目録の 原告 欄記載の各原告に対し,

適用時期 5. 本実務対応報告は 公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する ただし 平成 28 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には 当該事業年度に本実務対応報告を適用することができる 議決 6. 本実務対応報告は 第 338 回企業会計

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

ともかく,Aが被害者の死体を積載したものと認められる また, 被害者不在の自宅から運び出されたことや, その物体の大きさ, 重さ, 黒いポリ袋等で覆われたその状態等に照らせば,Aにおいて, それが被害者の死体と認識していたこともまた明らかであって, 被害者の死体の自動車への積載や死体投棄現場までの運

6 女性への暴力やセクシュアル・ハラスメントの防止

13 条,14 条 1 項に違反するものとはいえない このように解すべきことは, 当裁判所の判例 ( 最高裁昭和 28 年 ( オ ) 第 389 号同 30 年 7 月 20 日大法廷判決 民集 9 巻 9 号 1122 頁, 最高裁昭和 37 年 ( オ ) 第 1472 号同 39 年 5 月

なお, 基本事件被告に対し, 訴状や上記移送決定の送達はされていない 2 関係法令の定め (1) 道路法ア道路管理者は, 他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については, その必要を生じた限度において, 他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一

Taro jtd

( 人が死亡する危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行ったか否か ) 及び2 強盗の犯意の有無である 第 2 殺意の有無 1 被害者の遺体を解剖した C 医師の証言を始めとする客観的な証拠によれば, 被害者の遺体の損傷状況等について, 以下の事実が認められる なお,C 医師は, 解剖医と

従業員 Aは, 平成 21 年から平成 22 年にかけて, 発注会社の課長の職にあり, 上記事業場内にある発注会社の事務所等で就労していた (2) 上告人は, 自社とその子会社である発注会社及び勤務先会社等とでグループ会社 ( 以下 本件グループ会社 という ) を構成する株式会社であり, 法令等の

satsujinjiken_murder2

A は 全ての遺産を社会福祉施設に寄付すると遺言に書き残し死亡した A には 配偶者 B と B との間の子 C と D がある C と D 以外にも A と B との子 E もいたが E は A が死亡する前にすでに死亡しており E の子 F が残されている また A には 内妻 G との子 (

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

009 立命館法学2014-5・6 論説 ( ) 本田氏.mcd

<4D F736F F D DD994BB88F590A C98AD682B782E98C9F93A289EF82C582CC817582A082B782CC89EF817682C682B582C482CC88D38CA981698DC48F4390B3816A5F E727466>

がなく, 違法の意識の可能性もなかったのに, 被告人の上記各行為がそれぞれ同条 1 項の私電磁的記録不正作出又は同条 3 項の同供用に該当すると認め, 各罪の故意も認定して, 上記全ての行為について被告人を有罪とした原判決には, 判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び同条の解釈適用を誤った法

日弁連総第 110 号 2016 年 ( 平成 28 年 )3 月 31 日 徳島刑務所長竹中晃平殿 日本弁護士連合会 会長村越 進 警告書 当連合会は,X 氏申立てに係る人権救済申立事件 (2014 年度第 6 号 ) につき, 貴所に対し, 以下のとおり警告する 第 1 警告の趣旨再審請求弁護人

員となって刑事裁判に参加しています 裁判員は具体的に何をするのか? 裁判員は 一つの公判に対し 6 名が選任され 3 名の職業裁判官と共に業務を行います 裁判員が行う業務は大きく三点あります 一点目が 公判に立ち会う事 です 公判とは刑事訴訟の手続きのうち 裁判官 検察官 被告人 ( 弁護人 ) が

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

理 由 罪となるべき事実 被告人 Aは, 大阪市 a 区 bc 丁目 d 番 e 号に本店を置き, インターネット ホームページの企画, 立案, 制作並びにインターネットでのサーバの設置及びその管理業務等を目的とし, アメリカ合衆国所在のC 社 ( 代表者 D) と共にインターネットサイト E を管

を運転し, 名神高速道路下り線 416.8キロポスト付近の第 1 車両通行帯を北方から南方に向かい進行するに当たり, 前方左右を注視し, 進路の安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り, 左手に持ったスマートフォンの画面に脇見し, アプリケーションソフトの閲覧や入力操作に気

により容易に認められる事実 ) (1) 当事者等ア原告は,Aの子である イ Aは, 大正 年 月 日生まれの男性であり, 厚生年金保険の被保険者であったが, 平成 年 月 日, 死亡した ( 甲 1) (2) 老齢通算年金の受給 Aは, 昭和 年 月に60 歳に達し, 国民年金の納付済期間である18

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

金融商品取引法の改正 ~ インサイダー取引規制に係る見直しについて 1. はじめに 2013 年 4 月 16 日に 金融商品取引法等の一部を改正する法律案 が第 183 回国会に提出され 同年 6 月 12 日に成立 同月 19 日に公布されました ( 平成 25 年法律第 45 号 以下 改正法

知的障害者の 責任能力 に関する一考察 63 論説 知的障害者の 責任能力 に関する一考察 最決平成 27 年 3 月 3 日 LEX/DB を契機として 田川靖紘 1 序論 2 知的障害と責任について 3 裁判例における責任能力判断 4 検討 5 結語 1 序論 1 はじめに本稿は

11総法不審第120号

原告が著作権を有し又はその肖像が写った写真を複製するなどして不特定多数に送信したものであるから, 同行為により原告の著作権 ( 複製権及び公衆送信権 ) 及び肖像権が侵害されたことは明らかであると主張して, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ( 以下 プ ロ

とは, 原告に対する名誉毀損に該当するものであると主張して, 不法行為に基づき400 万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日以降の日である平成 24 年 9 月 29 日から支払済みまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いがないか,

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

Transcription:

平成 29 年 11 月 20 日宣告 平成 28 年 ( わ ) 第 220 号殺人被告事件 主 文 被告人を懲役 3 年に処する 未決勾留日数中 300 日を上記刑に算入する この裁判が確定した日から 5 年間上記刑の執行を猶予する 理 由 ( 罪となるべき事実 ) 被告人は, 平成 6 年以降, 両下肢の機能が全廃した妻の介護をしてきたが, 同 21 年 1 0 月に大阪の施設に入居した頃から同人の精神状態が不安定になっていき, 同 25 年には同人が老年期精神病 ( 妄想状態 ) と診断された このような中で被告人は妻の病状や言動が原因で大阪の施設を転々とすることを余儀なくされた上, 同人から叱責を受けるなどして, 精神的に追い込まれていった 同 28 年 8 月 29 日, 妻の希望を受け入れ, 以前生活していた佐賀県鹿島市に戻り, 自宅での介護を始めたが, その後, 同人の言動が原因でショートステイの施設から受け入れに難色を示され, 自分が怪我をしたことなどで, 自らの前途を悲観すると共に, 介護を続ける自信を急速に失くし, 同人を介護できるのは自分しかいないのにこれが出来ないなどと思い悩み, 同人と心中しようと考えた 被告人は, 同年 9 月 8 日午前 2 時頃, 同市大字 ab 番地 cの被告人方において, 妻 ( 当時 71 歳 ) に対し, 殺意をもって, その頸部に延長コードを巻いて締め付け, よって, その頃, 同所において, 同人を絞頸による窒息により死亡させて殺害したものである ( 争点に対する判断 ) 1 本件の争点被害者が殺害されることを承諾していたか 本件犯行当時の被告人の責任能力の程度 ( 心神耗弱の状態にあったか ) 2 争点について関係各証拠によれば, 犯行時や平成 28 年 8 月の転居から犯行までの間に, 被害者が 1

被告人に殺害されることを承諾したような様子は一切ない むしろ, 被害者は, 本件直前に介護用品を選んだり, 散髪の予約をしたりしている 被告人も, 公判廷において, 被害者に心中することを話したことはないし, 上記転居後に, 被害者から死にたいとか, 殺してほしいと言われたことはなかった旨供述する これらによれば, 被害者が被告人に殺害されることを承諾していたとは認められない 弁護人は, 本件では被害者が抵抗した痕跡がなく, 被害者は抵抗できたのに抵抗していないから, 被害者は死を受け入れていた可能性があると主張する しかしながら, そもそも死を受け入れることと殺害されることを承諾することとは質的に異なっているというべきであり, 被害者が死を受け入れていたからといって, 殺害そのものを承諾したことにはならない また, 寝ているときに突然首を絞められるようなことをされれば, 事態が呑み込めずに何らかの抵抗を試みるはずである ただ, 被害者が咄嗟に恐怖で体を委縮させてもおかしくないし, 被害者は, 高齢で, 下肢の全廃だけでなく, 手の機能も相当低下していたから, 強く抵抗することが困難な状態にあったと考えられる そうすると, 本件では, 被害者が, 痕跡が残るほどの強さで抵抗しなかっただけとみるのが自然であり, 抵抗した痕跡がないからといって, 被害者が抵抗していないことにはならない したがって, 弁護人の主張は採用できない 3 ついて弁護人は, 本件犯行当時, 被告人は限定責任能力 ( 心神耗弱 ) の状態にあったと主張し, 検察官は, 被告人の責任能力は正常に保たれていたと主張する まず, 鑑定人のA 医師は, 本件犯行当時, 被告人は適応障害の状態にあり, 不安, 抑うつ等の情緒障害があったとした上で, 被告人は, 思考抑制 ( 考えることができない状態 ) や希死念慮 ( 死にたいという希望 ) を伴う抑うつ状態になり, 認知判断能力や集中力に支障を来たし, 被害者からの叱責も相まって追い詰められ, 自分でなければ被害者を介護できないという観念が修正できない確信となって心中を決意しており, 被告人の適応障害やその症状が本件犯行に与えた影響は大きかったとの所見を示している この専門的判断が信用できることは, 鑑定人の経歴や鑑定経過等を踏まえれば明らかである 2

以上を前提に, 本件犯行当時の被告人の責任能力の程度について検討する まず, 被告人は, 被害者の希望を受け入れ, 新たに自宅を購入するなど準備を整えて鹿島市に戻り, 自宅での介護を始めてから約 10 日で本件犯行に及んでいる ショートステイの施設から被害者の受け入れに一時難色を示されたが, 一応利用可能ということで落ち着いており, 被告人自身背中を痛める怪我をしたが, 姪ら親族の援助を受けられる状況であった そのような中で, 自らの前途を悲観すると共に, 介護を続ける自信を急速に失くし, 被害者を介護できるのは自分しかいないのにこれが出来ないなどと思い悩んだ末に心中することを決意するというのは, 犯行動機としてはかなりの飛躍があると思われる この動機の形成については, 鑑定人が指摘するように, 適応障害やその症状の影響が大きく, 被告人の事理弁識能力 ( 善悪を判断する能力 ) や行動制御能力 ( やってはだめとブレーキをかける能力 ) は相応に減退していたと認められる そこで, その減退の程度について検討するに, 本件犯行やその前後の被告人の言動等を踏まえれば, 被告人の事理弁識能力や行動制御能力は, 被告人の適応障害やその症状の影響に大きく障害されていたとまではいえず, 普通の人に比べて判断や制御がとても難しい状態に至っていたとまでは認められない すなわち, 弁護人は, 動機が理解不能だと主張するが, 長年の介護による精神的負担や大阪での介護生活の中で積み重なった疲弊, 自宅介護に希望や期待を寄せたものの, これがうまくいかないことや将来への不安など, 本件の経緯や被告人の心情を考えれば, 理解 ( 共感 ) できる部分が相当程度残されている また, 犯行時の被告人の言動からは, 被告人に罪の意識があったことも明らかである さらに, 被告人は, 犯行状況をICレコーダーで録音し, 犯行後には被害者の鼓動を確認したり, 犯行の1 日,2 日前には親族への手紙を書き, 犯行後には親戚に本件の謝罪の電話をしたりするなど, 冷静で合理的な行動をとってもいる 弁護人は,A 医師が, 適応障害自体は一般生活に支障を来すような判断能力を失う性質のものではなく, ある程度合理的な行動は可能である旨供述していることを指摘するが, むしろ, その供述を踏まえると, 適応障害は, 妄想等によって行動が支配されるような精神障害とは質的に異なっており, そのため, 本件犯行当時, 被告人に合理的な行動をとる思考力 3

や判断力が残されていたと考えられる これらによれば, 被告人が心中をしない選択をすることが普通の人に比べてとても難しい状態に至っていたとはいえない したがって, 本件犯行当時, 被告人が限定責任能力 ( 心神耗弱 ) の状態にあったとは認められない ( 適条 ) 1 罰条刑法 199 条 2 刑種の選択所定刑中有期懲役刑を選択 3 酌量減軽同法 66 条,71 条,68 条 3 号 4 宣告刑の決定懲役 3 年 5 未決勾留日数の本刑算入同法 21 条 ( 未決勾留日数中 300 日を上記刑に算入 ) 6 刑の執行猶予同法 25 条 1 項 ( この裁判が確定した日から5 年間上記刑の執行を猶予 ) 7 訴訟費用の不負担刑事訴訟法 181 条 1 項ただし書 ( 量刑の理由 ) 本件と同種の殺人の量刑傾向 ( 殺人, 単独犯, 動機が介護疲れ, 被告人から見た被害者の立場が配偶者 ( 内縁を含む ) を検索条件としたもの ) を確認し, そのうち半数以上が執行猶予となっていることを踏まえて量刑について検討した まず, 犯罪行為の内容についてみると, 殺人という行為が許されないことや, 被害者の尊い命が奪われた結果が重大であることはいうまでもない 被告人には援助をしてくれる姪ら親族がおり, これから施設の利用や公的支援等を受けられる状況にもあった しかし 4

ながら, これらは, 被告人の介護負担や不安を解消するには至らず, 被告人は孤立し, 自らの前途を悲観すると共に, 自分以外に被害者を介護できる人はいないと思い詰め, 心中を決意したものである その経緯や動機は, 一面では独りよがりで非難されるべきだが, 孤立しながら介護負担に苦しむ被告人のような介護者に対し, 適切な支援が行きわたるような医療や公的支援, 地域社会のより良いしくみがあれば, 本件犯行は避けられたと考えられる また, 前記のとおり, 動機の形成に被告人の精神障害やその症状が少なからず影響していることも考えると, 被告人を強く非難することはできない 被告人は,20 年以上の長きにわたって献身的に被害者の介護を続けてきものであり, 被害者も感謝の気持ちを持っていたものと考えられる 以上の点や前記の量刑傾向を踏まえると, 本件は被告人を直ちに実刑に処すことを相当とする事案とは認め難く, この種事犯の中では執行猶予を付すことを含む標準的な量刑傾向の範疇に属する事案と考えられる 更に, その他の事情についても検討した 被害者の遺族は被告人を許せないとする一方で被告人の介護自体には感謝の気持ちがあると述べている 被告人は, 本件を素直に認め, 生涯をかけて被害者を供養したいと述べるなど, 真摯に反省している また, 被告人は, これまで社会人として真面目に暮らしてきており, 親族が被告人の社会復帰後の支援を約してもいる これらの事情を踏まえ, 被告人に対しては, 酌量減軽した上で, 主文掲記の刑を定め, 5 年間刑の執行を猶予するのが相当と判断した ( 求刑懲役 5 年, 弁護人の科刑意見執行猶予付き判決 ) 平成 29 年 11 月 21 日佐賀地方裁判所刑事部 裁判長裁判官井広幸 5

裁判官杉原崇夫 裁判官石黒瑠璃 6