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た 観衆効果は技能レベルによって作用が異なっ 計測をした た 平均レベル以下の選手は観衆がいると成績が 下がったが, 平均以上の選手は観衆に見られると成績が上がった 興味深いことに, 観衆効果は観衆の数に比例してその効果を増すようである ネビルとキャン (Nevill and Cann, 1998)

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平行棒における 後方車輪から後方かかえこみ 2 回宙返り腕支持 ( ベーレ ) の腕支持局面に関するモルフォロギー的考察 The Morphological Study of Arm-Hang Phase on Belle in Parallel Bars. 1) 2) 1) 村田浩一郎 安田賢二 土屋純 Koichiro Murata 1), Kenji Yasuda 2), Jun Tsuchiya 1) 1) 早稲田大学スポーツ科学学術院 1) Faculty of Sport Sciences. Waseda University 2) 早稲田大学スポーツ科学部 2) School of Sport Sciences. Waseda University キーワード : 体操競技 平行棒 モルフォロギー Key Words: Gymnastics, Parallel Bars, Morphology 抄録体操競技において競技者は 技の 成立 / 不成立 を決定づける運動技術の習得後には 姿勢欠点に対する減点を回避するための運動技術を習得しなければならない 本研究では 後方車輪から後方かかえこみ2 回宙返り腕支持 ( ベーレ ) を対象とし 姿勢欠点や技術欠点なく腕支持に至るための運動技術について モルフォロギー的に考察することを目的とした 被検者は平行棒におけるベーレを習得している体操競技選手 5 名 ( 年齢 21±1 歳 身長 164.7± 3.1cm 体重 59.0±3.8kg 平均値 ± 標準偏差 ) であった 被検者は演技中と同様に倒立姿勢からベーレを実施し その間 被検者の左方向および前方向からの映像を デジタルビデオカメラ (Sony 社製 DCR-TRV900) を用いて毎秒 60フィールドで撮影した 得られた映像において 腕支持局面のみの静止画像を60フィールドごとに抽出し それらを時系列にそって並べることでベーレの連続写真を作成した さらに 被検者ごとに作成した連続写真を各被検者に示し 本人が意識している技術的ポイントについてインタビュー形式で調査した 結果として以下の点がベーレにおける余裕ある腕支持の実施にとって有効な技術的ポイントであることが考えられる 実施者は1 1/2 回宙返りが完了した時点でかかえこみ姿勢の解除を行うこと かかえこみ姿勢を解除した後 上体を反らないように股関節および膝関節を伸展させた伸身姿勢を示し 宙返りの回転速度の減少を最小限に抑えること 肩関節はわずかに外転させ バーとの接触をできるだけ遅らせるようにすること, 受付日 :2007 年 2 月 9 日, 受理日 :2007 年 7 月 7 日 51

連絡先 : 359-1192 埼玉県所沢市三ヶ島 2-579-15 mrt@aoni.waseda.jp Ⅰ. はじめに男子体操競技は6 種目 ( 床 鞍馬 つり輪 跳ならない姿勢から逸脱した姿勢を示した場合に馬 平行棒 鉄棒 ) からなり 跳馬を除く5 種目は 認められる減点項目である 例えば 伸身姿勢十数個の 技 で構成される 演技 として実施さが義務づけられている技において わずかでも股れる その勝敗は演技に対する審判員の採点に関節や膝関節が屈曲してしまった場合は姿勢欠よって決定される 審判員は採点規則をもとに 点として減点が課される 姿勢欠点の存在は 価値点 (A 得点 ) の算出と実施に対する10 点満正しい姿勢を保持する技術がないということに等点からの減点 (B 得点 ) を算出し その合計が競しい つまり 姿勢欠点は技術欠点に内包される技者の得点となる 1 ) と考えられる したがって 競技者は 成立 / 不 A 得点は実施した技の難度の合計によって決成立 を決定づける運動技術の習得後には 姿定される 競技者が高いA 得点を獲得するため勢欠点に対する減点を回避するための運動技には 高難度の技を数多く実施しなければならな術を習得しなければならない ベーレにおいてもい 難度は各技に対して一つずつ 最低 A 難度その運動技術は存在すると考えられる とりわけ ~ 最高 F 難度まで存在し それらはオリンピック開ベーレは終末局面である腕支持局面で伸身姿催後に見直される そのため 競技者は採点規勢を示し 明確な回転の終了を示さなければな則に伴って難度が変更されても 常に安定してらない 1 ) という特徴を有している そのため 腕支高難度に位置する技を習得しておくことが望まし持局面において姿勢欠点が発生しやすいと考えい 本研究で対象とする 後方車輪から後方かられる したがって競技者には かかえこみ姿勢かえこみ2 回宙返り腕支持 ( ベーレ : 動画 ) は過の解除後 余裕をもって腕支持に至るための運去 10 年間 E 難度に位置づけられており 国内外動技術が求められる また ベーレの 成立 / 不問わず実施者数が多い ベーレの運動技術に成立 を決定づける運動技術に関してはすでに ついて土屋ら (2006) 4 ) は ベーレ離手以前における関節トルクおよびパワーの変化を明らかにし さらに土屋ら (2004) 3 ) は宙返りの回転や高さに影響を及ぼす技術的ポイントを明らかにしている いうまでもなく 離手後の身体は投射体であるため 宙返り時の物理的余裕は離手以前の力発揮の大きさやタイミングの影響を受ける その力発揮の大きさやタイミングは ベーレそのものの 成立/ 不成立 を決定づける運動技術であるといえよう 一方 B 得点は審判員のシステマティックな減点によって決定される なかでも 姿勢欠点 に対する減点はほとんどの競技者について認められる 姿勢欠点とは 実施者が本来示さなくては 報告されているが 3) 4) 姿勢欠点に対する減点を回避するための運動技術に関しては報告がない 下の画像をクリックすると動画が出ます 52

そこで 本研究はその研究方法としてモルフォロギー的考察を取り上げることとした マイネル ( 金子訳 1981) は 運動モルフォロギーが運動全体性による自己の運動把握をもとに成立しているという特徴をもつことから スポーツ指導者にとって きわめて身近な 考察方法であると述べている 2) 運動モルフォロギーは スポーツ指導者の運動に対する自己知覚と他者観察から得られた知覚を照合することで行われる印象分析であるため 視覚で確認し難いことに関しては 科学的には条件付きでしか信頼されない 2) しかしながら 指導者による一瞬の判断は 現場においては実施者の上達にとって重要な役割を果たしていることも事実である このことは 本研究におけるベーレの腕支持局面に関するモルフォロギー的考察がベーレ指導の一考察となりうる可能性を示していると考えられる したがって 本研究は平行棒におけるベーレを対象とし 姿勢欠点や技術欠点なく腕支持に至るための運動技術について モルフォロギー的に考察することを目的とした Ⅱ. 方法被検者は平行棒における 後方車輪から後方かかえこみ2 回宙返り腕支持 ( ベーレ ) を習得している体操競技選手 5 名 ( 年齢 21±1 歳 身長 164.7±3.1cm 体重 59.0±3.8kg 平均値 ± 標準偏差 ) であり すべての被検者が全日本選手権大会出場経験をもつ 被検者は実験の内容に関して十分な説明を受け 実験の参加に同意した 演技内におけるベーレは 通常の場合 倒立から振り下ろし 懸垂姿勢を経過した後 後方 2 回宙返りを実施し腕支持に至る 被検者は演技中と同様に倒立姿勢からベーレを実施し 開始のタイミングは任意とした ベーレ実施の間 被検者の左方向および前方向からの映像を デジ タルビデオカメラ (Sony 社製 DCR-TRV900) を用いて毎秒 60フィールドで撮影した 被検者は実験中 普段の練習時の服装で動作を実施した なお 撮影区間は動作開始時である倒立から 終了時である腕支持までとした 得られた映像において 腕支持局面のみの静止画像を60フィールドごとに抽出し それらを時系列にそって並べることでベーレの連続写真を作成した さらに 被検者ごとに作成した連続写真をA4 紙面 1 頁にカラー印刷して各被検者に示し 各被検者が 減点されないベーレを実施するために運動中意識している技術的ポイント についてインタビュー形式で調査した これらを基礎的資料とし ベーレにおける腕支持に至る際の技術的ポイントについて考察した Ⅲ. 結果と論議各被検者の左方向および前方向における連続写真を図 2(A1~E2) に示した また 各被検者におけるベーレの腕支持局面で意識する技術的ポイントを表 1に示した さらに 図 1はかかえこみ姿勢解除時の姿勢および腕支持時の身体姿勢を各被検者の連続写真から抽出したものである A~Eは採点規則によって定められた減点項目に該当する項目が少ない実施であるものから順に並べた 以下 ベーレにおける腕支持の技術的ポイントになると考えられる現象について項目ごとに記述した 1. 実施者の意識についてベーレの腕支持局面の運動技術について 被検者それぞれで特徴的な技術ポイントを意識していた ( 表 1) 被検者 AとBは 腕支持局面において 上体は固定し膝だけを伸展する ことを共通に意識していた これは 上体を反らないようにすることで腕支持直前までできるだけ小さい姿勢を保持し 回転速度を減少させないように 53

表 1 各被検者における腕支持局面で意識する技術的ポイント 被検者 インタビュー結果 A B C D E 写真 A1-8~13 で上半身は固定しておき 膝のみを伸ばす 腕は基本的には横に開くが腕支持の瞬間に余裕が出るように写真 11~12 では腕を内旋しながら背中の方向に引く 写真 13~15 では胸に力を入れたままにし 慌ててバーをつかみにいかないようにする 写真 7 のように最後までかかえこむイメージ 回転しきってから下半身のみをほどく意識 写真 8 以降 腕は自然に横に出し 上半身はそのままにしておく かかえこみ姿勢から胸を突き出すようにして首を後屈し 腕は肘を屈曲させて上腕を外旋かつ外転させた状態 ( 肩甲骨を内側に寄せる意識 ) にし 上腕の内側で受けるイメージ 胸を開かずに腕支持する意識はあるが 恐怖感から実施できていない 結局は胸を開いて感覚的に腕支持している 回転後身体を開きにいく際 バーに対して足を真下に離す 上体は感覚的に開いている 努力していることを表現していると思われる 一方 被検者 Cは 上体を先行させる ことを意識していた 被検者 Cは他の被検者と比較して宙返りが高いため より大きい伸身姿勢を示すことが可能なはずであるが 実際は 上体を先行させる ことにより回転速度を減少させ 結果として膝関節が屈曲したままの腕支持となっている 膝関節が屈曲した状態での腕支持には 姿勢欠点としての減点が課されることから 被検者 C の場合 上体を先行させたとしてもかかえこみ姿勢の解除を遅くすることが必要である また Dと Eは意識していることが達成できていないことから ベーレを習得はしていても習熟はしていないと考えられる したがって 上記の技術的ポイントを踏まえたうえで腕支持を実施することが望ましい 2. かかえこみ姿勢を解除するタイミングについて すべての被検者はベーレの終末局面である腕支持に至る際 それまで膝をかかえていた手を離し 股関節を伸展させながら腕支持の準備をしていた この局面において 手を離した瞬間から腕支持の準備が開始されていると仮定して 以降本研究においては膝から手を離した瞬間をかかえこみ姿勢解除の瞬間とする 上記のとおり すべての被検者においてかかえこみ姿勢の解除が確認されたが 解除のタイミングは被検者によって異なり その差異が腕支持時の姿勢に影響を及ぼしているものと考えられる ( 図 1) かかえこみ姿勢を解除する目的は 主に 腕支持の実行を可能にするため と 伸身姿勢を示すことによる宙返りの明確な終了を示すため であると考えられる また かかえこみ姿勢を解除した結果としては 宙返りの回転速度の減少 といった現象の誘発が考えられる かかえこみ姿勢の解除が遅かった被検者はAとBであり いず 54

れも2 回宙返りのうちの1 1/2 宙返りを終了した時点でかかえこみ姿勢を解除していた (A1-9, B1-9) 一方 かかえこみ姿勢をもっとも早く解除したのは被検者 Cで 被検者 DとEもかかえこみ姿勢の解除が早く 1 1/2 宙返りの終了以前に実施していた (C1-7, D1-8, E1-7) 腕支持の瞬間に膝関節がもっとも伸展していたのは被検者 Aであり (A1-12) 以下はC B D Eの順で膝関節が屈曲していた (C1-11, B1-12, D1-12, E1-10) 被検者 Cはもっとも高い宙返りを実施していることがC1-1~11で確認できるが かかえこみ姿勢解除から腕支持までの間に膝関節が屈曲したままになっており これは姿勢欠点として減点が課されてしまう C1-6~9において 上体は回転しているものの下肢の回転がほとんどみられないことから 下肢においてその回転速度が減少していると考えられる この状態で膝を伸展させることは さらに下肢の回転速度を減少させることになるため 被検者 Cは回転速度の減少を抑えるために膝を屈曲してしまうものと思われる したがって 被検者 Cはかかえこみ姿勢の解除を遅らせることで 下肢の回転速度減少を抑制し 結果として姿勢欠点の減点を回避することができるものと考えられる また 被検者 Bは腕支持時にバーと身体が平行になるまで宙返りが回転しており バーとの接触は被検者 Aと同様に遅い しかしながら かかえこみ姿勢解除後直ちに膝関節の伸展を開始できていないため その点を改善点として挙げることができる 一方 DとEは早期からのかかえこみ姿勢解除のため 宙返りの回転速度が小さくなった結果 早期からバーに接触している その際 伸身姿勢を示すことができず多くの減点を課されてしまう これらのことから かかえこみ姿勢は1 1/2 宙返りを終了した時点で解除することが望ましいこと 解除のあと腕支持までに素早く股関節および膝 関節を伸展させた伸身姿勢を示すことが姿勢欠点の減点を回避する手段であると考えられる 3. かかえこみ姿勢を解除した後の上肢の動きについてかかえこみ姿勢を解除した後 腕支持に至る際 上肢は大きく分けて2パターンの動きを示していた 被検者 C DおよびEは 肩関節を約 90 度外転位にし かつ外旋位 ( 肘関節約 90 度 ) にて腕支持していた ( 図 1) 一方 被検者 AとBは 肩関節をわずかに外転させるのみで 外旋はさせていなかった ( 図 1) 肩関節の外転は早期からバーに接触する可能性を高めるため 回転速度の維持を妨げてしまうことから 不適切であると考えられる 通常の腕支持振動は肩関節を約 90 度外転位かつ手はバーを支持して実施されるため その姿勢への過剰な意識がこのような不適切な動作を引き起こしているものと予想される しかしながら かかえこみ姿勢の解除が遅れるほど腕支持までの時間が少なくなるため 上肢の動作は簡略化されなければならない そこで被検者 Aと Bは合理的な方法として 肩関節のわずかな外転を選択したものと考えられる さらにインタビュー形式で実施した調査の結果 腕支持の瞬間に被検者 Aは 肘関節を屈曲させたまま肩関節を内旋するように意識しているうえ 腕支持の瞬間にはわずかに肩関節を伸展するように意識していた これらの意識は バーへの接触を遅らせるための努力の表れととらえることができる また 肩関節を内旋する意識は被検者 A 特有の意識であり この意識により腕支持の瞬間にバーに接触する上腕の部位が他の被検者と異なるものと考えられる A1-11~12で肩関節を内旋した場合 被検者 A は上腕の外側 ( 解剖学的正位における外側 ) でバーに接触する 実際 被検者 Aは腕支持の瞬 55

間であるA1-12~14で前腕の位置がほとんど変化しないことから 腕支持後も肩関節の内旋が継続されていた可能性が考えられる 一方 他の被検者からは腕支持した直後にみられる前腕の動きから 肩関節が外旋していることが確認できる 先に述べたように 通常の腕支持振動は肩関節を約 90 度外転位にし かつ手はバーを支持することから 上腕のバーとの接触部位は内側となる このことから 実施者はベーレの腕支持は通常の腕支持振動とは技術が異なる可能性があることを認識しておく必要がある このように かかえこみ姿勢解除の後は肩関節の外転を極力抑えることにより バーとの接触を遅らせていたことが確認された バーとの接触が遅れるほど 宙返りの回転速度の減少が抑制されるため この技術は余裕のあるベーレの腕支持を遂行するにあたって有効な手段と考えられる また もっとも腕支持時に姿勢欠点による減点が少ない被検者 Aが腕支持時に上腕を内旋する特有の技術を用いていたことから ベーレにおける腕支持は通常の腕支持振動とは異なる技術を有する可能性が示唆された Ⅳ. まとめ本研究は平行棒における後方車輪から後方かかえこみ2 回宙返り腕支持 ( ベーレ ) において 姿勢欠点や技術欠点なく腕支持に至るための 運動技術についてモルフォロギー的に考察した その結果 以下の点がベーレにおける余裕ある腕支持の実施にとって有効な技術的ポイントであることが考えられる 実施者は1 1/2 回宙返りが完了した時点でかかえこみ姿勢の解除を行うこと かかえこみ姿勢を解除した後 上体を反らないように股関節および膝関節を伸展させた伸身姿勢を示し 宙返りの回転速度の減少を最小限に抑えること 肩関節はわずかに外転させ バーとの接触をできるだけ遅らせるようにすること 参考文献 1. 2006 年度版採点規則 (2006) 日本体操協会 2. クルト マイネル ( 著 ) 金子明友( 訳 ) (1981) マイネルスポーツ運動学 大修館書店 3. 土屋純 田中光 (2004) 平行棒における 懸垂前振り後方かかえこみ2 回宙返り腕支持 ( ベーレ ) の運動力学的分析 スポーツ科学研究 (1) 1-9 4. 土屋純 村田浩一郎 福永哲夫 (2006) 平行棒における 後方車輪から後方かかえこみ2 回宙返り腕支持 ( ベーレ ) 実施時に関節で発揮されるトルクとパワー トレーニング科学 18(4) 353-364 56

図 1 各被検者におけるかかえこみ姿勢解除時の姿勢と腕支持時の姿勢 57

図 2 (A1) 被検者 A のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 左方向 ) 図 2 (A2) 被検者 A のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 前方向 ) 58

図 2 (B1) 被検者 B のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 左方向 ) 図 2 (B2) 被検者 B のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 前方向 ) 59

図 2 (C1) 被検者 C のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 左方向 ) 図 2 (C2) 被検者 C のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 前方向 ) 60

図 2 (D1) 被検者 D のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 左方向 ) 図 2 (D2) 被検者 D のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 前方向 ) 61

図 2 (E1) 被検者 E のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 左方向 ) 1 図 2 (E2) 被検者 E のベーレ腕支持局面における連続写真 ( 前方向 ) 62