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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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生物時計の安定性の秘密を解明

教育・研究・資金の三位一体による

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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背景 これまで遺伝子治療には DNA が用いられてきましたが DNA は生体内 DNA への取り込みによる発がんの危険性や 導入に用いるウイルスベクターによる感染の危険性があり 実用化には至っていません そこで DNA に代わって登場してきたのが mrna( 注 1) です mrna は 遺伝子 D


( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

核内受容体遺伝子の分子生物学

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

イネは日の長さを測るための正確な体内時計を持っていた! - イネの精密な開花制御につながる成果 -


研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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遺伝子組み換えを使わない簡便な花粉管の遺伝子制御法の開発-育種や農業分野への応用に期待-

< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

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報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

研究成果報告書

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国際小児がん学会(International Society of Paediatric Oncology, SIOP)Schweisguth Prizeの受賞について

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するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

平成29年度大学スポーツ振興の推進事業の成果報告書

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

記 者 発 表(予 定)

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Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

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Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

Transcription:

がん細胞の増殖や転移を促進する分子だけを 狙って破壊する新しい光線力学治療法の開発 An anionic phthalocyanine decreases NRAS expression by breaking down its RNA G-quadruplex Keiko Kawauchi, Wataru Sugimoto, Takatoshi Yasui, Kohei Murata, Katsuhiko Itoh, Kazuki Takagi, Takaaki Tsuruoka, Kensuke Akamatsu, Hisae Tateishi-Karimata, Naoki Sugimoto, Daisuke Miyoshi Nature Communications, 9, Article number: 2271 (2018). < 本研究成果のポイント> 光線力学療法は身体的負担の少ないがん治療法として知られています 本研究では RNA が形成する特別な構造である四重らせん構造と選択的に結合し 光増感能を有する化合物を用いて 分子標的型光線力学療法を初めて可能にました がん細胞の生存や転移を促進する RAS タンパク質を狙った医薬品の開発は長年行われてきましたが いまだに臨床の場で使われているものがありません 今回の成果は RAS タンパク質をコードする RNA を分解することで RAS タンパク質の量を減少させることができる画期的な治療方法の開発に繋がります RAS タンパク質をコードする RNA に結合する分子光感受物質 (ZnAPC) を同定しました これに光を照射することで RNA を分解できました がん細胞に ZnAPC を導入し 光を照射することで 標的の RNA とそこから作り出されるタンパク質の量を大幅に減少させました さらに がん細胞をほぼ完全に死滅させることができました 本研究で開発した方法は RNA を標的とした分子標的型光線力学療法であり 選択性を向上させることが可能な新しい療法として注目されます また RNA の構造を標的にした医薬品は例がないことから 本成果をもとにして 新しい仕組みの医薬品開発が加速すると期待されます

研究の背景 RAS タンパク質の一種である NRAS タンパク質は 多くのがん細胞で活性化しており 細胞増殖や転移を促進し さらに細胞死を抑制する そのため NRAS タンパク質の働きを阻害する物質を開発できれば がん治療薬に直結する しかし NRAS タンパク質の構造はサッカーボールのように球状であり ( 図 1 右 ) 他の物質が結合できる部位がほとんどない そのため 医薬品が未だにない この問題は 最近の Nature 誌 (Nature, 520, p278, 2015) でも指摘されている 研究の戦略と目的 甲南大学フロンティアサイエンス学部 (FIRST) の三好大輔教授と川内敬子准教授の共同研究グループは NRAS 遺伝子から作られ NRAS タンパク質をコードする mrna( 伝達 RNA 図 1) に着目した NRAS mrna の配列には グアニンに富んだ領域が存在する この領域は 四重らせん構造 とよばれる特殊な構造を形成する ( 図 2) NRAS mrna が形成する四重らせん構造に結合し 切断できれば NRAS タンパク質の量を効率的に減少でき がん細胞の増殖や転移を強力に抑制できると期待できる この目的のために 我々の研究グループがこれまでに四重らせん構造と選択的に結合できることを報告してきた アニオン性フタロシアニン ( マイナスの電荷をもつフタロシアニン APC と略する ) に注目した APC はがん組織に選択的に取り込まれる さらに APC に亜鉛 (Zn) が結合した ZnAPC( 図 3) は光増感能を有していることから 光線力学療法 ( 注 4) において 光照射で活性酸素を産生し 周囲の生体物質を酸化 切断することができる 本研究では ZnAPC が 1NRAS mrna が形成する四重らせん構造と特異的に結合し 2 光照射によって NRAS mrna が形成する四重らせん構造を特異的に分解するか否かについて検討した さらに 3ZnAPC がヒトがん細胞内で NRAS mrna と NRAS タンパク質の量を減少させ 4 がん細胞の増殖を抑制し さらに死滅させることが可能かどうかを検討した 同時に 5 腫瘍中心部に見られる低酸素状態でも ZnAPC が機能するかを確認した 研究の結果 上述の目的に従って研究した結果の概要を示す 1 ZnAPC と NRAS mrna の四重らせん構造の結合 :ZnAPC は NRAS mrna が形成する四重らせん構造と強く結合した さらに 他のがん関連遺伝子の mrna が形成する四重らせん構造や mrna の大部分が形成する構造である二重らせん構造には結合しなかった 2 ZnAPC による NRAS mrna の四重らせん構造の光切断 :ZnAPC は NRAS mrna が形成する四重らせん構造を光照射で切断した 上記 1 と同様に ZnAPC は 他の配列が形成する四重らせん構造や二重らせん構造を切断しなかった 以上から ZnAPCによるNRAS mrna 四重らせん構造の認識と切断には 高い結合能力と識別能力の両方が備わっていることが分かった そこで ヒト乳がん由来の細胞 (MCF-7 細胞 ) 内におけるZnAPCの機能を検討した 3 ZnAPCによるNRAS mrnaとnrasタンパク質の発現量の減少 : ZnAPCの取り込んだがん細胞 ( 図 4a) に対して 毒性が低く 細胞や組織の透過性のある波長の長い近赤外光を照射した その結果 細胞内のNRAS mrnaとnrasタンパク質の発現量が減少した ( 図 4b)

4 がん細胞の増殖抑制 : がん細胞の増殖は ZnAPCの取り込みだけでは変化しなかった これは ZnAPCそのものの細胞毒性低いことを示している しかし ZnAPCを取り込み かつ光照射を行うことで ほとんどのがん細胞は死滅した ( 図 4c) 5 腫瘍の中心部は 十分な血管が発達しないことから 酸素が欠乏した低酸素状態となる ZnAPCは この低酸素状態においても NRAS mrnaの四重らせん構造を光切断できた さらに ZnAPCは 光照射で発生した活性酸素を除去した状況でもNRAS mrnaの四重らせん構造を切断することが示された 図表 図 1: セントラルドグマの模式図と NRAS 遺伝子 NRAS タンパク質の立体構造 図 2: グアニンを多く含む核酸 (DNA や RNA) が形成する四重らせん構造の模式図 ( 上 ) と 核酸の標準的な構造である二重らせん構造と 四重らせん構造の比較 ( 下 )

図 3: 亜鉛フタロシアニンの化学構造と 四重らせん構造を形成するグアニンの四量体の比較 ZnAPC の大きさが グアニン四量体と類似していることが分かる 図 4:(a)ZnAPC を導入した細胞の顕微鏡写真 ZnAPC は細胞に自発的に取り込まれる (b)znapc と光照射によって減少した NRAS タンパク質の量 図 5: 本研究のまとめ ( 右 ) がん細胞における NRAS タンパク質の生産 (b) 本研究で開発した分子標的型光線力学療法 NRAS mrna が形成する四重らせん構造に結合する ZnAPC に近赤外光を照射することで NRAS mrna の四重らせん構造のみを切断 NRAS タンパク質の発現が減少し がん細胞の増殖抑制と死滅が可能となった

掲載された新聞紙など * 神 新聞 : 特定タンパク質破壊でがん細胞の死滅成功甲南 https://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201806/0011344595.shtml * 産経新聞 : がん細胞だけ死滅させる医薬品を開発甲南 チーム https://www.sankei.com/west/news/180611/wst1806110063-n1.html * 毎 新聞 : がん細胞 い光で死滅薬剤 遺伝 狙い撃ち甲南 https://mainichi.jp/articles/20180612/k00/00m/040/152000c * 刊 業新聞 : がん転移分 のみ破壊甲南 負担軽い治療に期待 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00476939 * 時事通信 : がん増殖分 狙い撃ち = 光線療法 効果向上も 甲南 https://www.jiji.com/jc/article?k=2018061100859&g=soc * 共同通信 : 光照射でがん細胞狙い撃ち体外実験で死滅 甲南 https://rd.kyodo-d.info/np/2018061101002160?c=39546741839462401 * 本経済新聞 : 光を照射 がん狙い撃ち甲南 体外実験で死滅増殖 転移抑える治療に https://www.nikkei.com/article/dgkkzo31660760s8a610c1cr8000/ * 朝 新聞 : がんの増殖促す分 だけ破壊 光線 学療法 で新 法 https://www.asahi.com/articles/asl6c6thpl6cplbj003.html?iref=pc_ss_date *The Japan Times: Konan University team effectively curbs production of cancer-linked protein https://www.japantimes.co.jp/news/2018/06/18/national/science-health/konan-university-team-effectivelycurbs-production-cancer-linked-protein/#.wyyovaf7qux *The Japan News: Researchers curb cancer-linked protein http://the-japan-news.com/news/article/0004507480 北海道新聞 東奥 報 デーリー東北 秋 魁新報 河北新報 岩 報 福島 友 形新聞 新潟 報 上 新聞 下野新聞 東京新聞 神奈川新聞 梨 新聞 信州毎 新聞 岐 新聞 静岡新聞 中 新聞 北 本新聞 福井新聞 京都新聞 中国新聞 陽新聞 陽中央新報 本海新聞 四国新聞 徳島新聞 愛媛新聞 知新聞 本新聞 分合同新聞 佐賀新聞 宮崎 新聞 沖縄タイムス 琉球新聞の Web site 明鏡時報 由時報 新浪新聞の Web site