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国有林における生物多様性の定量化について 林野庁国有林野部経営企画課国有林野生態系保全室兼光修平 1 はじめに生物多様性保全に対する関心や期待の高まりの中 林野庁は平成 21 年 7 月に 森林における生物多様性の保全及び持続可能な利用の推進方策 をまとめ 森林計画策定プロセスの一層の透明化等の観点から 生物多様性の評価軸となる指標の設定を通じた科学的分析の必要性を示しました しかし 生物多様性の指標は 象徴的な生物種が生育 生息しているかといった定性的な指標は存在していますが 定量的な指標の設定は困難で 試行的な取組でさえほとんど行われていない状況でした そうした中で 国有林では 国有林野における生物多様性の状況を定量化 可視化出来る体制を構築するため 定量化手法の開発に取り組んできました 2 取組の経過 国有林における定量化手法の検証 開発については 平成 21 年度から行ってきましたが 全国共通で適用できる指標を組み合わせることは難しく 地域によって森林施業の効果の現れ方が異なる等課題がありました ( 図 1) そこで 平成 27 年度においては地域別に生物多様性の推定モデルを作成するとともに 森林計画担当職員が活用できるようマニュアルを整備したことで 実際の運用が始まりました ( 図 1) 定量化手法の検証 開発ロードマップ 3 留意点国有林における生物多様性の定量化において 特に3 点の留意点があります 1ミクロ視点ではなくマクロ視点 ( 森林計画区単位 ) で生物多様性の状況をみるものであること 2 過去の森林計画樹立時の森林調査簿等から算出するため 過去の時点 での生物多様性の変化傾向を把握 過去データの変化傾向から次期森林計画での施業 対策を検討するものであること 3 標高 国有林の面積やまとまり等地域により差があるために 他地域の森林計画区との直接的な比較は行えないものであること 4 概要説明 (1) 定量化指標 (x) について定量化に使うデータとしてまず 保護林や天然林の面積等の森林計画や 間伐や複層林面積等の森林施業内容といった人為的な働きかけを定量化指標 (x) として選択しました 森林調査簿 樹種別簿 国有林 GIS のポリゴンデータを活用して算出するもので 定量化指標 (x) は 間伐面積や複層林面積 林齢の分散等 17 指標あり 森林計画や森林施業の取組状況 結果を示すものです ( 図 2)

しかしながら この指標のみでは 現地の生物多様性への直接的な影響 結びつきを示すことが難し いという課題がありました 森林調査簿 樹種別簿 国有林 GIS のポリゴンデータから算出 ( 図 2) 定量化指標 (x) を算出するイメージ ( 図 3) 活用した森林生態系多様性基礎調査の調査項目 調査区分 調査項目 この課題を解決するため 現地の状況を 胸高直径 5cm~18cm 未満の樹種及び本数表す指標を組み合わせる事について様々 1 立木調査胸高直径 5cm 未満の樹種及び本数な検討を行いました 高さ0.8m~2.0mの植物による植被率 2 下層植生調査高さ0.8m 未満の植物による植被率その結果 現地の生物多様性を示すデー 12 出現する全ての維管束植物の種数 タとしては 林況 植生の状況が適切とされたため 林野庁が定期的に実施している 森林生態系多様性基礎調査における立木調査や下層植生調査での種数や本数 植被率のデータを使用す ることとしました ( 図 3) その上で 森林計画区レベルで生物多様性状況を見るため 景観的要素 ( 森林タイプや小班形状の複 雑さ等 ) と森林生態系多様性基礎調査のデータを組み合わせて生物多様性の推定モデルを作成しました また 地域毎の特性を踏まえた推定モデルとするために 全国を7つの地域に区分し 気候区分毎にモデルを作成しました ( 図 4) なお この気候区分は気候のみならず生態学的見地にも基づいた区分となっております また 伊豆 小笠原諸島 南西諸島については生物の分布に応じた気候区分が本土とは大きく異なるため 今回の計算対象区域から除外しています ( 図 4) 本事業で作成した気候区分図

(2) 生物多様性指標 (y) について生物多様性は 定量化指標 (x) と推定モデル式を使って導き出される5 項目の生物多様性指標 (y) で定量的に示されます ( 図 5) 森林生態系多様性基礎調査の現地情報をリンクさせることで 森林計画や施業内容といった人為的な働きかけが現地の生物多様性に与える影響を可視化したものが 生物多様性指標 (y) となり イメージとしては ( 生物多様性指標 (y))=(17 項目の定量化指標 (x) にそれぞれの係数をかけたものの合計 ) と表せます 生物多様性の推定モデル式を用いて 5 項目の生物多様性指標を算出 ( 図 5) 生物多様性指標 (y) を算出するイメージ (3) 計算結果について 第 5 気候区分 ( 関東 東海道地域 ) 森林計画区静岡比較期間 ( 樹立年 ) H21 H2 生物多様性指標 (y) 中層木の多様度指標 (y1) 生物多様性指標の変化 各定量化指標が定量化指標生物多様性指標影響の解釈施業 対策への提言 (x) に与える影響 ( 相対値 ) 多様な森林タイプ ( 林分構天然林や多様な林分構造の人造 ) となるような対策をする 工林があちこちに配置されてい施業の際には 集約化など散在度 (x1) るほど 中層木の多様性は高く小班の構造を単純化するこなる傾向にあるため プラスにとは避け 様々な施業を行う影響していると考えられる ことに留意する 若齢級林分が増えることが中層若齢級林分を増やす対策を若齢級林分面木の多様度指標にややプラスの する 施業の際は土壌を撹積の計 (x1) 影響を与えていると考えられ乱しないよう留意する る 生物多様性定量化の計算結果は ( 図 ) のように 中層木の多様度指標 下層木の多様度指標 下層木植被率指標 草本植被率指標 出現種数指標の5つの生物多様性指標 (y) の変化傾向が矢印で表現されます 下層木の多様度指標 (y2) パッチの密度 (x9) 天然林面積率 (x10) 林小班の数を増やす ( 今あ尾根や谷など多様な地形に応じる隣接した小班は残し 集た小班の形状が細かく存在する約化しない ) 対策をする 施ことが下層木の多様度指標にプ業の際には 地形や地域のラスに影響を与えていると考え履歴を活かした施業を行うこられる とに留意する 天然林の維持とその面積率が地域固有種の種子や遺伝下層木の多様度指標にややプ子の供給源となる機能を発ラスの影響を与えていると考え揮させるため 天然林面積られる 率を増やす 下層木植被率指標 (y3) 複層林面積の 計 (x12) 散在度 (x1) 複層林面積を増やす対策を複層林化により低木層の植被する 施業の際には 常緑率が増加することから下層木植針葉樹以外の樹種が生育被率指標にプラスの影響を与えできるように配慮し 水平方ていると考えられる 向に異なる林齢を配置してゆくことに留意する 多様な森林タイプ ( 林分構多様な林分構造をあちこちに維造 ) となるような対策をする 持することが下層木植被率指標施業の際には 集約化などにプラスの影響を与えていると小班の構造を単純化するこ考えられる とは避け 様々な施業を行うことに留意する 草本植被率指標 (y4) パッチの密度 (x9) 保護林面積の計 (x17) 林小班の数を増やす ( 今あ尾根や谷など多様な地形に応じる隣接した小班は残し 集た細かな小班形状の存在が草約化しない ) 対策をする 施本植被率指標にプラスの影響を業の際には 地形や地域の与えていると考えられる 履歴を活かした施業を行うことに留意する 保護林が多いほど草本植被率保護対象の森林生態系やが増加する傾向にあることから希少な野生生物の持続性を草本植被率指標にややプラスの確保するため 必要な対策影響を与えていると考えられを講じるる 出現種数指標 (y5) 若齢級林分面積の計 (x1) パッチの密度 (x9) 成長過程の明るい林が維持さ若齢級林分を増やす対策をれると林床植物が増えることかする 施業の際は土壌を撹ら出現種数指標にプラスの影響乱しないよう留意する を与えていると考えられる 多様な地形に応じた細かな小林小班の数を増やす ( 今あ班形状の存在が林床植物の生る隣接した小班は残し 集物多様性にプラスに効いている約化しない ) 対策をする 施ことから出現種数指標にややプ業の際には 地形や地域のラスの影響を与えていると考え履歴を活かした施業を行うこられる とに留意する 説明変数の貢献度 ( 係数 ) を相対的に表わす基準 プラスの影響 ややプラスの影響 ( 図 ) 静岡森林計画区での計算結果例

(4) 計算結果の見方について過去の2 時期の生物多様性指標 (y) の数値を比較して変化傾向をみることで 相対的に見て生物多様性がプラス傾向にあるのか マイナス傾向にあるのかが分かります ( 図 7) つまり 1 時期の数値を見て生物多様性が高い 低いを見るものではなく また 他地域の森林計画区との直接的な比較も行えません 生物多様性指標の解釈や評価は その森林計画区における指標の時系列変化を把握することで行います 1 時期の数値を見るものではない 27882.84 草本植被率指標 (y4) 傾向を見る 下層木の多様度指標 (y2) 27882.82 79.00 27882.80 27882.78 27882.7 27882.74 78.00 77.00 7.00 75.00 74.00 27882.72 H21 H2 73.00 H21 H2 ( 図 7) 生物多様性指標 (y) の変化グラフ (5) 計算結果の活用イメージ活用イメージとしては ( 図 8) のように過去の指標の変化傾向を読み取って 次の計画に活用します 例えば マイナス傾向にある生物多様性指標(y) を向上させる 次に 生物多様性指標(y) に与える影響の大きい定量化指標 (x) の数値を向上させる 次に 向上させるような施業 対策を次期計画で検討する という流れで活用できます ( 図 8) 生物多様性の定量化活用イメージ

中層木の多様度指標 y1 H21 H2 4 x1 若齢級林分面積の計 2 x02 多様度指数 (x2) (x1) 2 4 8 x12 複層林面積の計 (x12) 10 草本植被率指標 y4 H21 H2 1200 x17 保護林面積の計 1000 (x17) 800 00 x1 若齢級林分面積の 400 200 x05 分断度 (x5) 計 (x1) 200 x12 複層林面積の計 x08 パッチの平均面積 (x12) (x8) なお 5 つの生物多様性指標 (y) のパラメータ ーである定量化指標 (x) の変化傾向もレーダーチャートで把握する事が出来ます ( 図 9) 草本層の多様度指標 y2 出現種数指標 y5 x12 複層林面積の計 (x12) H21 H2 2 2 4 x02 多様度指数 (x2) x1 若齢級林分面積の計 (x1) H21 H2 0 50 40 30 20 x02 多様度指数 (x2) 8 10 12 x12 複層林面積の計 (x12) 10 10 x07 林齢の尖度 (x7) x08 パッチの平均面積 (x8) x08 パッチの平均面積 (x8) 下層木植被率指標 y3 H21 H2 5 x1 若齢級林分面積の計 (x1) 5 10 15 20 x12 複層林面積の計 (x12) 25 x08 パッチの平均面積 (x8) ( 図 9) 定量化指標 (x) の変化グラフ 5 読み取り例例として示した静岡計画区 ( 図 ) では5つの生物多様性指標の内 3つがプラス傾向 2つがマイナス傾向にあります 読み取り方としては 例えば マイナス傾向にある指標をプラスに変えることを考えるのであれば 中層木の多様度指標 (y1) と下層木の多様度指標 (y2) の2つについて検討します ( 図 10) 静岡森林計画区での計算結果例 中層木の多様度指標 (y1) と下層木の多様度指標 (y2) の2つを向上させるにはどうするか については 生物多様性指標 (y) に与える影響の大きい定量化指標 (x) の数値を向上させることを考えます ( 図 10) 1 中層木の多様度指標 (y1) を向上させる場合には 影響の大きい散在度 (x1) と若齢級林分面積の計 (x1) の数値を向上させる 2 下層木の多様度指標 (y2) を向上させる場合には 影響の大きいパッチの密度 (x9) と天然林面積率 (x10) の数値を向上させる

( 図 11) 静岡森林計画区での計算結果例 1 中層木の多様度指標 (y1) を向上させる場合には 影響の大きい散在度 (x1) と若齢級林分面積の計 (x1) の数値を向上させるとしますが 実際にはどのような施業対策を検討するかについては 例えば 散在度 (x1) に関して 多様な森林タイプとなるような対策をする すなわち複層林施業を通じた 針広混交林化等を検討することが考えられます 若齢級林分面積の計 (x1) に関して 若齢級林分を増やす すなわち皆伐等の主伐計画を検討することが考えられます ( 図 11) ( 図 12) 静岡森林計画区での計算結果例 2 下層木の多様度指標 (y2) を向上させる場合には 影響の大きいパッチの密度 (x9) と天然林面積率 (x10) の数値を向上させるとしますが 実際にどのような施業対策を検討するかについては 例えば パッチの密度 (x9) に関して 多様な森林タイプとなるような対策をする すなわち複層林施業を通じた 針広混交林化等を検討することが考えられます 天然林の面積率 (x10) に関して 天然林面積を増加させる対策をする すなわち主伐後の天然更新を検討することが考えられます ( 図 12) 1 2での対策を踏まえて 次期地域管理経営計画に 小面積皆伐等の主伐や複層林施業を通じた針広混交林化等を盛り込むことで 将来的に 中層木の多様度指標 (y1) 下層木の多様度指標(y2) の生物多様性指標の向上が期待できるといった読み取り方が考えられます なお 影響の解釈 と 施業 対策 は マニュアルで気候区分ごとに取りまとめたものでありますので 各森林管理局でそれぞれの実情に合わせて内容を検討していくと より良いものになると考えています 今後について地域の条件を付加する推定モデル式による新たな指標の整理と 現場での活用に資するマニュアルも整備したことで 国有林の調査簿やポリゴンデータ 森林生態系多様性基礎調査データ等を用いて 継続して生物多様性の状況を把握することが可能となりました 今後は 生物多様性のデータを定量的に把握 蓄積していくことで 各森林計画区での生物多様性の変化傾向をより明確に捉えることが可能となり 国有林野における生物多様性保全の取組のさらなる推進に繋がるものと考えています