平成24年7月x日

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研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

ヒト胎盤における

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

診療のガイドライン産科編2014(A4)/fujgs2014‐114(大扉)

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

平成14年度研究報告

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに


糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

研究成果報告書

スライド 1

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

検査項目情報 抗 SS-A 抗体 [CLEIA] anti Sjogren syndrome-a antibody 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5G076 分析物 抗 SS-A 抗体 Departme

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

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検査項目情報 1171 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090. トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブユニット ) トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブ

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

[ 別紙 1] 論文の内容の要旨 論文題目 NK 細胞受容体 NKG2 の発現解析および KIR (Killer cell Immunoglobulin-like receptor) の遺伝的多型解析より導き出せる 脱落膜 NK 細胞による母児免疫寛容機構の考察 指導教官 武谷雄二教授 東京大学大学

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

汎発性膿庖性乾癬の解明

( 報告様式 4) 16ek h0002 平成 29 年 5 月 22 日 平成 28 年度 委託研究開発成果報告書 I. 基本情報 事 業 名 : ( 日本語 ) 免疫アレルギー疾患等実用化研究事業 ( 免疫アレルギー疾患実用化研究分野 ) ( 英語 )Practical Resear

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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PowerPoint プレゼンテーション

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

著者 : 黒木喜美子 1, 三尾和弘 2, 高橋愛実 1, 松原永季 1, 笠井宣征 1, 間中幸絵 2, 吉川雅英 3, 浜田大三 4, 佐藤主税 5 1, 前仲勝実 ( 1 北海道大学大学院薬学研究院, 2 産総研 - 東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ, 3 東京大学大

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし


インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

検査項目情報 1174 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090.HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) HCGβ サブユニット (β-hcg) ( 遊離 ) Department of Clinical Lab

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

検査項目情報 トータルHCG-β ( インタクトHCG+ フリー HCG-βサブユニット ) ( 緊急検査室 ) chorionic gonadotropin 連絡先 : 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10)

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

Untitled

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

を確認しました 本装置を用いて 血栓形成には血液中のどのような成分 ( 白血球 赤血球 血小板など ) が関与しているかを調べ 血液の凝固を引き起こす トリガー が何であるかをレオロジー ( 流れと変形に関わるサイエンス ) 的および生化学的に明らかにすることとしました 2. 研究手法と成果 1)

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

Microsoft Word - 日本語解説.doc

Microsoft Word CREST中山(確定版)

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

生物時計の安定性の秘密を解明

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

長期/島本1

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

SNPs( スニップス ) について 個人差に関係があると考えられている SNPs 遺伝子に保存されている情報は A( アデニン ) T( チミン ) C( シトシン ) G( グアニン ) という 4 つの物質の並びによってつくられています この並びは人類でほとんど同じですが 個人で異なる部分もあ

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

論文の内容の要旨

Microsoft Word - HP用.doc

日産婦誌58巻9号研修コーナー


報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

情報提供の例

Transcription:

不育症や血栓症を引き起こす自己抗体の標的分子を解明 ~ 新たな診断薬 治療薬の開発に期待 ~ < キーワード > 自己免疫疾患 自己抗体 主要組織適合抗原 (MHC) 抗リン脂質抗体症候群 概要大阪大学免疫学フロンティア研究センター / 微生物病研究所の荒瀬尚教授 神戸大学大学院医学研究科谷村憲司講師らの研究グループは 不育症や血栓症を引き起こす抗リン脂質抗体症候群の原因である自己抗体の新たな認識機構と疾患発症メカニズムを解明しました 研究の背景と成果血栓症 不育症 妊娠合併症の中には抗リン脂質抗体症候群という自己免疫疾患によって引き起こされる疾患があります 抗リン脂質抗体症候群は 血清蛋白質に対する自己抗体が原因と考えられておりますが 自己抗体がどのように血清蛋白質を認識し 病気を引き起こすかは明らかでありませんでした 注 1) 本研究では いままでペプチド抗原を提示すると考えられてきた主要組織適合抗原 (MHC) に構造が変化した血清蛋白質 ( リポ蛋白質 ) が結合し それが抗リン脂質抗体症候群の自己抗体の標的になっていることを解明しました また MHC と結合した血清蛋白質を解析することで 従来の臨床検査法と比べて 非常に感度よく抗リン脂質抗体症候群の自己抗体を検出できることがわかりました さらに MHC に結合した血清蛋白質を発現する細胞が自己抗体に障害されることから この新たな自己抗体の認識機構が血栓症や不育症に関与していると考えられます ( 図 ) 他の自己免疫疾患でも同様な MHC に結合した蛋白質が発症に関与していると考えられ 本研究は不育症や血栓症を含めた多くの自己免疫疾患の治療薬や診断薬の開発に貢献すると期待されます 図 血管に炎症がおこると血管内皮細胞に主要組織適合抗原 (MHC) が発現し 構造が変化した血清蛋白質が結合します その結 果 構造が変化した血清蛋白質に自己抗体が結合するようになると 血管内皮細胞は傷害され 血栓症や不育症が引き起こされると いう新たな病態メカニズムが明らかになりました 1

特記事項 本研究成果は 米国の血液学会誌 Blood にオンライン掲載されました また 本研究は 大阪大学 神戸 大学 北海道大学 九州大学 京都大学 カリフォルニア大学との共同で行われたものです 掲載論文 雑誌 Kenji Tanimura, Hui Jin, Tadahiro Suenaga, Satoko Morikami, Noriko Arase, Kazuki Kishida, Kouyuki Hirayasu, Masako Kohyama, Yasuhiko Ebina, Shinsuke Yasuda, Tetsuya Horita, Kiyoshi Takasugi, Koichiro Ohmura, Ken Yamamoto, Ichiro Katayama, Takehiko Sasazuki, Lewis L. Lanier, Tatsuya Atsumi, Hideto Yamada & Hisashi Arase, 2-glycoprotein I / HLA class II complexes are novel autoantigens in antiphospholipid syndrome. Blood 2015 年 3 月 3 日 ( 火 ) オンライン掲載 ( 米国東部 : 3 月 2 日正午 ) 2

研究の詳細な説明 1. 背景 抗リン脂質抗体症候群は 抗リン脂質抗体注 2) を有する患者が 脳 肺 下肢などの血管に血栓症 妊娠することが出来ても何度も流産を繰り返す不育症や妊娠高血圧症候群 子宮内胎児発育不全などの妊娠合併症を発症する自己免疫疾患です 抗リン脂質抗体といっても その標的抗原は リン脂質ではなく リン脂質に結合した蛋白質であることが知られています その代表的なリン脂質結合蛋白が 2- グリコプロテイン Ⅰ です しかし この蛋白質は抗リン脂質抗体症候群患者にのみ認められるものではなく 健康な人の血液中にも存在し 全身を循環しています それでは 何故 誰しもがヒト 2- グリコプロテイン Ⅰ を持っているのに 全ての人がこの病気に罹らないのか? 同じ抗リン脂質抗体を持っているのに 血栓症を発症する人 妊娠合併症を発症する人というように患者ごとに違った症状を起こすのは何故か? については明らかではありません また 抗リン脂質症候群と診断するためには 抗リン脂質抗体を検出することが必須です この自己抗体の検出には 従来 酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA 法 ) が用いられますが 日常の臨床の現場では この疾患を強く疑わせる症状が存在するにも関わらず 抗リン脂質抗体が検出されないために診断できない患者に遭遇することがよくあります 一方 細胞内では正常蛋白質ばかりでなく うまく折りたためられなかった変性蛋白質も常に作られています そのような変性蛋白質は速やかに分解されてしまい細胞外に運ばれることはありません ところが これまでの我々の研究によって 細胞内の変性蛋白質が自己免疫疾患に感受性の主要組織適合抗原と会合すると 変性蛋白質が主要組織適合抗原によって細胞外に輸送され それが異物として自己抗体の標的になることが明らかになってきました 実際に 関節リウマチ患者の血液中に主要組織適合抗原によって輸送された変性蛋白質を認識する自己抗体が高頻度に存在します 従って この自己免疫疾患の発症に関わる新しいメカニズムが関節リウマチ以外の自己免疫疾患にも関与していることが考えられ 抗リン脂質抗体症候群において主要組織適合抗原の機能解析を進めました 2. 研究の手法と成果主要組織適合抗原クラス II が抗リン脂質抗体症候群患者の自己抗体の 2- グリコプロテイン Ⅰ の認識に関わっているかを調べるために ヒト 2- グリコプロテイン Ⅰ 遺伝子と共にヒト主要組織適合抗原クラス II をヒト細胞に遺伝子導入しました 2- グリコプロテイン Ⅰ は分泌蛋白なので 細胞表面にとどまることはありません ところが 主要組織適合抗原が存在すると 2- グリコプロテイン Ⅰ が主要組織適合抗原と結合して細胞表面に出現することが分かりました さらに 2- グリコプロテイン Ⅰ と主要組織適合抗原の複合体は抗リン脂質抗体症候群患者血液中の自己抗体に認識されることが判明しました ( 図 1) さらに 抗リン脂質抗体症候群と診断するためには 抗カルジオリピン抗体 抗 2- グリコプロテイン Ⅰ 抗体 ループスアンチコアグラントという検査のうち 少なくとも一つが陽性となる必要があります 今回 抗リン脂質抗体症候群患者の血液中に私たちが発見した新しい自己抗体があるかを調べてみると 抗カルジオリピン抗体や抗 2- グリコプロテイン Ⅰ 抗体では陽性とならなかった患者の約 50% で 新しい自己抗体が陽性になりました ( 図 2) したがって この新しい概念の自己抗体を使うと 効率よく抗リン脂質抗体症候群が診断出来る可能性が示されました ひょっとすると 症状はあるのに 検査で陽性とならないために抗リン脂質抗体症候群と診断出来なかった患者さんが 2- グリコプロテイン Ⅰ と主要組織適合抗原の複合体に対する抗体を調べることによって診断可能になるかもしれません 次に 2- グリコプロテイン Ⅰ/ 主要組織適合抗原複合体が抗リン脂質抗体症候群で流産してしまった初期の胎盤組織に存在するかを PLA 法注 3) で解析しました その結果 2- グリコプロテイン Ⅰ/ 主要組織適合抗原複合体が患者の脱落膜 ( 胎盤のうちで母親の子宮内膜に由来する部分 ) の血管内皮細胞に存在することが判明しました ( 図 3) 従って この複合体が抗リン脂質抗体症候群患者の脱落膜の血管内皮細胞で産生され 自己抗体の標的になって障害されることで流産してしまうと考えられました また 多くの自己免疫疾患の感受性 ( 病気の罹りやすさ ) は主要組織適合抗原クラス II の型 ( アリル ) によって決まることが知られています 例えば HLA-DR4 や HLA-DR7 というアレルを持っている人は 抗リン脂質抗体症候群に罹りやすいことが知られています しかし 何故 主要組織適合抗原クラス II アリルによって病気の罹りやすさが違うのか? は不明でした そこで 2- グリコプロテイン Ⅰ と色々なアリルの主要組織適合抗原クラス II との複合体に対する自己抗体の結合性を調べました その結果 抗リン脂質抗体症候群に罹りやすいアリルである HLA-DR4 と HLA-DR7 は 他のアリルよりも効率的に 2- グリコプロテイン Ⅰ を細胞表面に輸送するだけでなく 2- グリコプロテイン Ⅰ と HLA-DR4 もしくは HLA-DR7 の複合体は 他のアリルとの複合体よりもはるかに患者の自己抗体と結合しやすいことが判明しました この結果は HLA-DR4 と HLA-DR7 のアリルを持つ人が何故 この病気になりやすいか? の謎を解くカギになるかもし 3

れません 最後に 抗リン脂質抗体患者の自己抗体が 2- グリコプロテイン Ⅰ と主要組織適合抗原の複合体を発現した細胞を障害するかを調べました 抗リン脂質抗体症候群に罹りやすい HLA-DR7 と 2- グリコプロテイン Ⅰ の複合体を発現した細胞は 患者の自己抗体によって補体 ( 抗体や免疫細胞と力を合わせて 異常な細胞をやっつける働きをする蛋白質 ) が存在する条件下で障害されました ( 図 4) 過去の研究で 抗リン脂質抗体症候群の血栓形成や流産の発症に補体が関係していることが分かっており 私たちの実験結果は このことにも良く合致していました 炎症などにより 血管内皮細胞などの細胞表面に主要組織抗原クラス II が表れることが知られています 抗リン脂質抗体症候群に罹りやすい主要組織適合抗原を持っているヒトは 炎症によって血管内皮細胞表面に主要組織抗原クラス II が 2- グリコプロテイン Ⅰ と結合した形で発現すると 自己抗体に攻撃されます 従って 主要組織適合抗原細胞が脳 肺 下肢の血管に発現すれば血栓症を起こし 胎盤の血管に発現すれば不育症を引き起こと思われます 3. 今後の期待本研究により 構造が変化した 2- グリコプロテイン Ⅰ と主要組織適合抗原との分子複合体が自己抗体の標的として 抗リン脂質抗体症候の発症に関わっていることが明らかになりました 他の自己免疫疾患においても同様に構造が変化した変性蛋白質と主要組織適合抗原との複合体が自己抗体の標的になっていると思われます また 変性蛋白質 / 主要組織適合抗原複合体に特異的な自己抗体が産生されることから 主要組織適合抗原と変性蛋白質蛋白質複合体は自己抗体の検出にも有用であり 自己免疫疾患の診断にも役立ちます 今後 なぜ自己免疫疾患で変性蛋白質 / 主要組織適合抗原複合体が産生されるかの研究を進めることによって 自己免疫疾患のより詳細な発症機序の解明が期待されます また 自己免疫疾患で変性蛋白質 / 主要組織適合抗原複合体を阻害する薬剤を開発することによって 新たな自己免疫疾患の治療薬の開発も期待できます 用語解説注 1) 主要組織適合抗原 (Major Histocompatibility Complex, MHC; Human Leukocyte Antigen, HLA) 主要組織抗原は非常に多様性に富む分子であり 基本的に全てのヒトが異なる主要組織適合抗原を持っている T 細胞にペプチド抗原を提示することで 免疫応答の中心を担っている分子である クラス I とクラス II があり クラス II はヘルパー T 細胞に抗原を提示することで 抗体産生に関与していると考えられている ヒトのクラス II は HLA-DR とも呼ばれています 一方 主要組織適合抗原は 以前より自己免疫疾患の発症に最も関与した分子であることが知られており 最近の全ゲノム解析によっても 主要組織抗原が最も強く自己免疫疾患の感受性に関与した遺伝子であることが確認された しかし なぜ特定の主要組織適合抗原を持っていると特定の自己免疫疾患になりやすいかは 以前として明らかになっていませんでした 注 2) 注 3) 抗リン脂質抗体その名称とは異なり リン脂質自体を認識する抗体ではなく リン脂質の結合蛋白を認識する自己抗体であることが明らかになっている リン脂質結合蛋白の主なものは 2- グリコプロテイン Ⅰ である 抗リン脂質抗体のうちで抗カルジオリピン抗体や抗 2- グリコプロテイン Ⅰ 抗体は 酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA 法 ) によって測定され それぞれ リン脂質であるカルジオリピンか γ 線照射により酸化処理したプレートに結合することで構造変化を起した 2- グリコプロテイン Ⅰ と結合する自己抗体を検出するものである しかし 生体内で どのように 2- グリコプロテイン Ⅰ が自己抗体の認識に必要な構造変化を起しているかは明らかではない PLA 法 (Proximity Ligation Assay) 組織や細胞内での分子間相互作用を検出する方法 40nm 以下の分子間の近接を検出することができる 4

図と解説 図 1 抗リン脂質抗体症候群の自己抗体は主要組織適合抗原 (HLA-DR7) と結合した血清蛋白質 (β2gpi) を認識する 図 2 抗リン脂質抗体症候群の 80% 以上の患者において主要組織適合抗原 (HLA-DR7) と結合した血清蛋白質 (β2gpi) を認識する自己抗体が検出され 従来の臨床検査方法とくらべても陽性率が格段に高い 5

図 3 抗リン脂質抗体症候群で流産した患者さんの脱落膜には主要組織適合抗原 (HLA-DR) と結合した血清蛋白質 (β 2GPI) の複合体が Proximity ligation assay(pla) にて認められる 図 4 抗リン脂質抗体症候群の自己抗体は主要組織適合抗原 (HLA-DR) と結合した血清蛋白質 (β2gpi) を発現した細胞を傷害する 6