自校の教育課題の解決に向けた校内研修の在り方に関する研究研究指導主事 松島 馨 研究指導主事 佐瀬 一生 研究指導主事 根本 厚 Ⅰ 研究主題について近年, 教育や学校を巡る社会状況は大きく変化し, 教育基本法をはじめとする教育関係法令が改正された それに伴い, 学習指導要領の改訂も急ピッチで進められている 特に学力向上への取組は, 今後の学校教育に強く求められていることであり, 本県の重点課題でもある このような状況の中で, 学校現場には, 学力向上をはじめとして様々な今日的課題への早急な対応が求められている しかし, 学校教育推進の中心となる経験豊かな教員の大量退職と, それを補う経験の浅い若年層教員の急激な増加という教員の世代交代期を迎えており, 学校の教育力 学校力 の低下が懸念されている 学校の教育力向上のためには, 校内研修の充実が必須である 校内研修の実施に当たっては, 特に, 各学校が 自校の教育課題の解決に向けて, どのような方略 方策をとろうとしているか を明確にして, 意図的 計画的に実施していかなければならない 各学校が学校力を向上させ, 教育課題を解決していくための校内研修の在り方を明確にする必要がある そのために, まず明らかにすべきは校内研修の現状と課題である そこで, 県下各学校で行われている校内研修の実態と教員の研修に対する意識について調査し, その分析と考察を行うことが研究の一つ目の柱となる 次に, 教育センター等のかかわり方である 校内研修を個々の学校の力だけでより良いものにしていくには限界がある 教育センター等の機関が積極的にかかわり, 学校を支えていくことが求められる 各学校での校内研修の改善に資する教育センター等の機関の役割を明らかにする必要がある そこで校内研修に関する先行研究や, 各県 市教育センター等が行っている活動等について調査し, 分析していくことが, 二つ目の柱となる これら二つの調査研究の分析結果に基づき, 自校の教育課題の解決に向けた校内研修の在り方を提言し, 改善につなげたい Ⅱ 研究の目標県下各小 中学校における校内研修の現状や課題を, 学校実態調査及び教員意識調査のアンケートの実施と分析により明らかにするとともに, 教育センター等の先行研究やかかわり方について調査 分析し, 各校が自校の教育課題を解決し学校力を向上していくための校内研修の在り方及び方策について提言する Ⅲ 研究の実際 1 研究内容 方法 (1) 県下の小 中学校における校内研修に関する学校実態調査及び教員意識調査のアンケートの実施と分析 (2) 校内研修に関する先行研究や教育センター等のかかわり方についての調査 分析 (3) 効果的で特色ある校内研修の具体的実践事例の集積 (4) 校内研修ガイドブック ( 仮称 ) の作成 配布を通しての, 校内研修の在り方や方策の提言 (3)(4) は平成 20 年度に実施予定 1
2 研究の具体的内容 (1) 県下の小 中学校における校内研修についてのアンケートの実施と分析 考察アアンケートの内容と方法 ( ア ) 内容 ( 質問項目 ) a. 校内研修に関する 学校実態調査 学校の教育課題について 教育課題把握のための観点 自校の教育課題 教育課題の共通理解のための方法 学校の研究主題について 研究主題の内容 研究主題の立案者 研究主題決定の際の配慮事項 研究推進における参考資料 校内研修について ねらいとして重視した事項 推進上の問題点や課題 評価の方法 今後重点を置き, 取り組むべき内容 b. 校内研修に関する 教員意識調査 学校の教育課題の理解度 校内研修の必要感 校内研修実施の際の不足事項 望ましい校内研修 校内研修で取り組みたい内容 自身が困っていること 校内研修推進リーダーへの要望 校内研修推進における教育行政への要望 これからの自分にとって必要な研修 学校外の希望制研修 講座等への参加状況 ( イ ) 方法 ( 対象及び実施日 ) a. 学校実態調査小 中学校新任教務主任研修参加者 (197 名,10/18) b. 教員意識調査 管理職層 小 中学校新任校長研修参加者 (164 名,10/02) 小 中学校新任教頭研修参加者 (207 名,10/12) ベテラン層 小 中学校新任教務主任研修参加者 (197 名,11/13) 中期層 小 中学校中期層教員研修参加者 ( 69 名,10/23) 初期層 小 中学校 5 年経験者研修参加者 (149 名,11/13) イ県下の小 中学校における校内研修についてのアンケートの分析と考察 ( まとめ ) 調査用紙や調査結果等の詳細は Web で公開する予定 ( ア ) a. 学校実態調査 に関する分析と考察まず, 自校の教育課題は, 学校全体の約 8 割が 学力向上, 約 6 割が 心や体の育成 としている ( 図 1) また, 校内研修の重点は, 学校全体の約 7 割が 自校の問題解決,6 割強が 教師力の向上 としている そして, 本県の小 中学校の大部分が児童生徒の 学力向上 や 心や体の育成 を校内研修のテーマとしている ( 図 2) 学力向上 や 心や体の育成 を図るためには, 教員の授業力や生徒指導 教育相談等に関する能力など総合的な力量, つまり 教師力 の向上に取り組まなくてはならないと考えている 次に, 校内研修を推進する上での課題であるが, 学校全体の 8 割以上が 時間の確保 をあげている その他の課題では, 約 3 割が リーダー層の力量 教員の意識 外部指導者の確保や選定 をあげている これらの課題は, 学校での取組だけでなく, 教育行政等をも含めた取組に 2
より解決されるべき内容である 本調査により, 今後の校内研修の推進を考える上で, 学校におけるカリキュラムマネジメントや組織マネジメント及び教育センター等のサポート体制という三つの視点を持たなければならないことが明確になった 小学校 中学校 学力向上 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 心や体の育成生徒指導教職員の資質向上家庭や地域との連携その他 図 1 勤務している学校の教育課題は何か ( 複数選択 ) ( 学校実態調査 集計結果より 小学校 中学校 学力の向上 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 豊かな心の育成体力の向上キャリア教育特別支援教育その他 図 2 研究主題は何か ( 一つ選択 ) ( 学校実態 ( イ ) b. 教員意識調査 に関する分析と考察研修の必要性について 必ず実施すべき という積極的な意見は年齢が下がるほど低くなり, 初期層では 5 割を切っている 教員にとって望ましい校内研修 の調査結果では, 学校種別及び各年齢層とも上位 3 項目として 協力体制が整っている 成長を自覚できる 日常の教育活動に直接役立つ を選択している ( 図 3) また, 校内研修で取り組みたい内容として, 小 中学校ともに第一に 授業研究や教材研究 をあげている 今後の自分に必要な研修としては, 年齢層が若いほど上位から順に 授業力の向上 学級 学年 学校経営 人間関係作り 危機管理 を選択し, 年齢層が高くなると順序が逆になる傾向が見られる ( 図 4) これらは, 校内研修は全体の協力体制という協働の部分と, 各年齢層や個人のニーズに応じた内容という個別の部分を併せ持つことを示している したがって, 双方をマネジメントしながら推進することにより, 教員の研修に対する意欲の向上や, 積極的な参画を図る必要があると考えられる 3
さらに, 校内研修にかかわる悩み の調査結果では, 全体像がつかめない は年齢層が下がるほど選択している割合が多くなり, 初期層では 3 割を超えて他の年齢層との差が大きい 日常の教育実践に結び付けられない は小学校では年齢層別の差はないが, 中学校では年齢層が上がるほど割合が多くなっている また, 校内研修のリーダー的立場の教員に望むこととして 専門的な力量 多面的な意見に対応する柔軟性 教育への情熱と使命感 が多く, 教育行政に望むこととして 参考となる資料や情報の提供 サポート体制作り が多い 本調査により, 今後の校内研修では, 特に年齢層や個人のニーズの違いへの対応や教員の専門性の向上など, ライフステージに応じた研修の在り方を視野に入れて, 組織的な協働体制を確立する必要があることが分かった さらに, 学校が教育センター等に求めるのは前述のような研修を進める上での 学校のニーズに応じたサポート体制 の確立であることが分かった 小学校 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 中学校 協力体制が整っている 個性が発揮できる成長を自覚できる意見や要望が反映され改善される外部指導者による講話や資料配布最新の教育情報や知識の獲得自由に意見を言い合える日常の教育活動に直接役立つその他 図 3 どのような校内研修が望ましいと考えるか ( 複数選択 ) ( 教員意識調査 集計結果より ) 管理職ベテラン中期層初期層 授業力の向上 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 8 学級 学年 学校経営 生徒指導 人間関係作り 危機管理 部活動やクラブ活動 その他 図 4 小学校 これからの自分にとって必要な研修は何か ( 複数選択 ) 4 ( 教員意識調査 集計結果より )
(2) 校内研修に関する先行研究や教育センター等のかかわり方についての調査 分析 ここでは, 都道府県及び市町村の教育委員会や教育センター等における校内研修に関する研究や サポート活動に絞って調査し, その結果を分析した ア千葉県教育委員会 千葉県教育センター ( 千葉県総合教育センターの前身 ) の研究や手引書千葉県教育委員会では, 昭和 45 年に 研修の手引 を, 次いで昭和 56 年 3 月に 校内研修の手引 を発行している 特に後者の手引は, 校内研修の在り方について, 学校教育目標の具現化に関連した研究的研修, 教職員の指導力向上のための研修, 日常の研修, 校内研修の評価 の観点からQ&A 方式でまとめた冊子であり, 現在でも十分に活用できる内容が多い また, この手引の発行を受けて, 昭和 57 年 3 月には調査研究 校内研修の実態とその進め方に関する研究 が千葉県教育センターから報告されている これは, 抽出により県内小 中学校の学校調査 (231 校 ) と教員調査 (928 人 ) を実施し, 先の冊子の活用状況を含め, 当時の県内小 中学校における校内研修の実施状況や課題, 改善のための実践事例等を調査研究したものである その内容を見ると, 現在の学校事情にも通じる事柄が多い イ他の教育委員会 教育センター等における校内研修に関する研究やサポート活動校内研修にかかわる研究や校内研修サポート活動について, 当センターに集められている書籍 報告書やインターネット検索で調査した まず, 研究活動については, 校内研修の実態 状況調査研究や, よりよい校内研修につなげるための様々な視点からの研究が数多く行われている 例えば船橋市では, 平成 7 年度に校内研究を支えるセンター研修の視点から, 千葉市では平成 13 年度に新たな学校課題への対応の視点から, 宮城県では平成 15 年度に学力向上の視点から, 香川県では平成 17 18 年度にこれからの校内研修の在り方の視点から, 調査研究が行われている 特にここ数年は, 調査研究から校内研修等の手引類の冊子発行につなげている例が多い これは冊子発行を見通したうえで, 必要なデータ収集をする意味で調査研究をしたものである 校内研修の全てを網羅する冊子となると, かなり厚手のものとなってしまう また, 項目立てや内容も見づらいものになる傾向がある そのため, 冊子類に関しては, およそ二つの方向性で作成が行われている 一つは, テーマを絞りページ数を少なくして構成するものである テーマを絞ることで, 冊子のコンセプトが明確になり, 研修活動の具体的場面に適用させやすいという利点がある また, ページ数を少なくすることで, 使いやすさが向上するという利点もある ここでは二例を挙げる 香川県 RVとコーチングによる学校の活性化 というテーマによる 校内研修サポートブック~これからの校内研修の在り方 54 ページ, 平成 19 年 2 月 岩手県 校内授業研究の進め方 というテーマによる 校内授業研究の進め方ガイドブック 50 ページ, 平成 19 年 4 月もう一つは, 幅広いテーマのもと, 多くの内容をインターネットのホームページ内で構成し,Web 発信するものである 全体としては幅広いテーマであっても, 構成の仕方を工夫することにより, 一つ一つの項目はかなり具体的でわかりやすくなるという利点がある ダウンロードも容易であり, 必要な時に必要な分だけそこから取り出して活用するという自在さも利点である ここでは二例を挙げる 宮城県 計画 実践 評価 その他の研修会 の構成による 校内研修ガイドブック ~ 子供たちの学力向上を目指して ~ 約 90 ページ, 平成 16 年 3 月 高知県 校内研修 Q&A 編 実践事例編 ~ 小学校, 中学校, 小 中学校事務, 高等学校, 盲 聾 養護学校 の構成による 校内研修サポートブック ~ 指導力向上を目指して ~ 約 110 ページ, 平成 17 年 3 月 5
また, 校内研修に係る教育センター等のサポート活動も, 近年は各地で盛んに行われるようになってきている これは, 通常の研修講座だけでなく, 日常的な相談活動であったり, 夜間や休日に実施する希望制のサークル的活動や講座, 所員が学校の校内研修等に直接出向いていく出張研修 講座であったりする 当センターで本年度 6 月に開室したカリキュラムサポート室や, 昨年度から実施している休日開放講座, 本年度から実施している教師塾 ( あすなろ塾 授業の達人養成塾 リーダー養成塾 ) もこれに当たる 教育センター等によっては, サポート活動と調査研究, 冊子 (Web 発信を含む ) を連動している例もある 二例を挙げる 京都市 教育センターが立ち上げた フレッシュせんせい授業交流会 という若年層教員の自主的 主体的研修活動 ( 平成 16 年度開始 ) をもとにして, 理論編 ~ 授業力を高めるために, 学習指導案を作成する 実践編 ~ 授業力を高めるための具体的な取組 の構成による 授業力向上にむけて大切にしたい視点 の冊子 (39 ページ,Web 有り ), 及び 授業力 をつけるためのビデオセット (CD-ROM) を発行 横浜市 授業力向上 をテーマに, 平成 17 年度は 授業改善支援センター ( 通称 : ハマ アップ ) の開設と調査研究 授業力向上の鍵 を実施 連動させ, 平成 18 年度は ワークショップ型授業研究 をテーマに 授業力向上の鍵 2 の冊子 (16 ページ,Web 発信を含む ) を発行 さらに, 近年に発行された冊子類の多くに見られる特徴として, 非常に具体的 ビジュアル的で, わかりやすく読みやすいことがある この特徴は, 市販の教育関係の書籍や雑誌でも顕著である 内容以前の問題として, 細かい文字ばかりの冊子はそれだけで敬遠される傾向が強いためである この点で, 千葉県教育委員会の 校内研修の手引 ( 昭和 56 年 3 月 ) を見ると, 内容的には十分に活用できるものではあるが, 現在の教員には読まれにくいといえる 以上のことから, 当センターにおける各学校の校内研修への支援策としては, 次のような事柄が考えられる 1 千葉県教育委員会の 校内研修の手引 ( 昭和 56 年 3 月 ) や他で発行された冊子類を参考にしながら, 学校で活用しやすい 校内研修ガイドブック を発行する テーマを絞ってページ数を少なくする 幅広いテーマについてホームページ内で構成し,Web 発信する という二つの方向性をもとに, 明確なコンセプトをもって作成していく 2 日常的な校内研修サポート活動として, 当センターカリキュラムサポート室の活動を活性化させる 現在行っている日常的な相談活動と, サークル的要素を持った気軽に参加しやすい塾や講座等の実施に加え, 所員が学校に出向く研修 講座もさらに充実させていく また, それらのサポート活動の周知を図る Ⅳ 研究のまとめ ( 成果と課題 ) 1 アンケートの分析 考察から県内小 中学校における校内研修に関するアンケートにより明らかになった課題から, その課題を解決する校内研修の在り方についての方向性が見えてきた まず, 小 中を問わず学校では 学力向上 を中心的な課題であると認識し, 校内研修も 学力向上 をテーマとして, 授業研究を中心に行われている また, 豊かな心の育成 や生徒指導についても重視されている これらの課題解決の担い手は教員であるから, 教師力向上 も重要なものと認識されている このことは, 学校実態調査でも教員意識調査でも明らかである 学力向上 や 豊かな心の育成 を図るためには, 個々の事柄に対する具体的手立てを講じることはもちろん大切である しかしそれ以上に, 子ども丸ごとの人間としての力 人間力 を育てるという考え方が重要でなる したがって, 学校における子どもの活動全体をカリキュラムとしてとらえ, その工夫改善と管理運営をするという, カリキュラムマネジメントの問題として取り組む必要がある 一方, 校内研修実施上の問題点としては 研修 研究のための時間確保 が第一である 教員の 6
多忙さは, 様々な調査からも指摘されている しかし, 時間がないからこそ, どのような工夫をして学力向上 教師力向上につなげるか, が問われているのである 個々の教員が, 自己研修のためにその工夫や努力をすることは当然であるが, 日常業務に忙殺されている状況の中では, その工夫や努力にも限界がある そのため, 校内研修では内容 方法をより具体的 実践的にすることにより, 個々の教員の日常実践に効率的 効果的に結びつける必要がある 校内研修は 個々の教師力を結集したチームによる学校力向上の取組 であると同時に, 学校のチーム力を活用した個々の教員の教師力向上に向けた取組 という両面性を持つ 教員の世代交代期を迎え, 新規採用教員が増加している状況においては, 教員を育てる校内研修を軸にする必要がある そこでは, 学校組織の在り方が大きな鍵となってくる 校内研修において, 共感的 協働的なチームづくりを意識し, それを通して教員一人一人が育つように仕向けていくことが求められる また, そのためのリーダー育成も学校組織の中で重視されるべきことである つまり, 人を生かし, 人を育てる という組織マネジメントの問題として校内研修をとらえる, ということである 以上のことから, 校内研修においては, 子どもの人間力向上 と 教員の教師力向上 に係る, カリキュラムマネジメントと組織マネジメントの二面に重点を置いて計画 実施することが極めて大切であるといえる そしてこの取組は, 学校の持つ教育力である 学校力 そのものを向上させることでもある このような校内研修を実施していくためには, 教員個々, 学校全体の組織, 学校を支える教育行政 ( 教育委員会や教育センター等 ) という三つの立場から課題や解決の方向性を考えていく必要があろう ア個々の教員として平成 17 年 10 月の中央教育審議会答申 新しい時代の義務教育を創造する では, 優れた教師の条件について,1 教職に対する強い情熱,2 教育の専門家としての確かな力量,3 総合的な人間力, という三つの要素の重要性が示されている さらに平成 18 年 7 月の答申 今後の教員養成 免許制度のあり方について では これからの社会と教員に求められる資質能力 に関して, 教員に求められる資質能力を確実に身に付けることの重要性が高まっている 不断に最新の専門的知識や指導技術等を身に付けていくことが重要となっており, 学びの精神 がこれまで以上に強く求められている と述べられている 学びの精神 とは 自ら向上を求める姿勢 である 教員がその指導において児童生徒に求めている 生きる力 の獲得こそが, 今, 教員自身にも求められているといえる 一人一人が教育のプロフェッショナルとしての自覚を持ち, 教員としての力 教師力 の向上に主体的 自主的に努める上で重要なのは, セルフマネジメント能力である 具体的には, 自身の 教師力 の現状を正しく認識し, 向上の道筋を見出して実行することである アンケート結果からも, 多くの教員が 授業力を中心とした教師力を高めたい と願っていることがわかる しかし, ただ漫然と過ごしても力は高まるものではない 教員としてのライフステージの中でどう自分の力を高めるかという, 自身のキャリアデザインの設計が個々に求められる これまでの自分 今の自分 これからの自分を見つめ直し, その上で, 今何が必要か, どう身に付けていくかを具体的にするのである その際に, 独立行政法人教員研修センター 教員研修の手引き が参考となる そこには教員研修の目的として 1 知識 理念 概念等の理解,2 技術 スキル等の習得,3 問題解決能力の向上,4 行動 態度等の変容 の四つが示されている これを 教師力 向上における一つの指針として考えていくこともできるであろう したがって個々の教員は, 今後の方向性として次のような意識を持つことが大切である それは, 様々な教育課題を解決していくために, 教育のプロフェッショナルとしての自覚を持ち, 経 7
験や立場に応じて, 常にレベルアップを図ることと, 校内研修への参加意識を受動から能動へと転換することである つまり, 教育のプロフェッショナルとしてのキャリアアップという視点を持ち, 自身の教員としてのライフステージデザインを構築し, 主体的 計画的 実践的に校内研修に取り組むことである イ学校組織として校内研修は, 子どもの人間力向上 と 教員の教師力向上 に係るカリキュラムマネジメントと組織マネジメントの二面から 学校力向上 を図る取組である そこでは, 学校や子ども, 教員個々が置かれている状況やニーズを把握し, その改善や向上に向けて,PDCAサイクルを基本にして組織的 計画的に実施し, 課題解決していくことが大切である 校内研修の実施にあたっては, チームの在り方によってその成果が大きく変わってくる 共感的 協働的な人間関係を構築し, 教員個々が意欲や充実感, 自信等を持ちながら取り組めるチームにしたい アンケート結果からは, 現在行われている校内研修に対して, 教員はその必要性は認識しているものの, 日常に結びつけられない等の悩みを多く抱いている状況がわかる ここからは, 校内研修に対する教員のニーズと実際の内容との間にずれがあることや, 校内研修への教員の取組がまだトップダウン型に留まっている傾向が強いことが伺える 校内研修の改善のためには, 自分たちの問題意識を出発点に, 協働して課題解決に取り組むボトムアップ型の研修を積極的に取り入れる必要がある ボトムアップ型の校内研修の実施により, 個々の教員は所属感や協働意識を持ちながら意欲的 主体的に取り組み, 日常実践との関連や, 研修の有用感 満足感を実感し, 自身の取組や変容を振り返り, 自信を抱くことができるだろう 校内研究を中核とした計画研修では,PDCA の一連の過程において, 共通認識を軸として具体的 実践的 協働的に進めることが重要である 研究主任等の研修リーダーを中心としながらの, 一人一人の主体的 自主的なかかわりが鍵となる また, 計画研修の基盤は日常にある まず 日常の教育活動そのものが校内研修 という認識を共有することである そして日常的に, 互いのよさを学び合い, 悩みを相談し合い, 考えを出し合い, 高め合える関係作りを進めるのである 協働意識を醸成し, 井戸端会議 的なやり取りも含め, 日々授業を語り合える学校作りを進めることが肝要である 特に若年層 初期層にとっては, 日々の教育活動の中で他の教員から学べることが, 授業力を向上させ, 幅広い教師力を身に付けていく一番確かな道であるといえる また, 中期層 ベテラン層にとっても, 自らを振り返り改善に向ける絶好の機会となる 管理職も, 学校経営や教員育成の視点から, 校内研修を有効に活用するという意識が必要である カリキュラムマネジメントと組織マネジメントの両面から, 教員個々やチームがやる気を持ち, その力が発揮できるように環境を整えていくことが大きな役割となる 特に, 効果的な校内研修の実施を阻害する要因に対しては, 管理職を中心に学校全体で改善に取り組む必要がある 例えば時間確保の問題では, 学校の実態に応じてカリキュラムや組織の運営において, 統合 集約, スクラップアンドビルド等の観点でスリム化し, 効果的 効率的なものに工夫改善する方策を立て, 実施することである 今後の取組の中で留意すべき点は, 学力向上 への取組を最重要課題としつつも, 豊かな心の育成 や 生徒指導 等への対応の課題も多く見られることから, 道徳教育の充実を通して子どもの内面を育て, 社会のルールやマナーを大切にする心情や態度の育成を図ることである 学力向上 と 豊かな心の育成 のバランスのとれた 人間力向上 の教育を目指し, 学校教育活動全体を視野に入れたカリキュラムマネジメントを進めることが大切である 8
ウ教育行政として教育委員会や教育センター等の教育行政は, 各学校や教員が価値ある校内研修を進めるための支援をする役割がある その支援を通して, 学校や教員個々の校内研修に対する意欲が向上するのである そのためには, 学校や教員がどのような状況にあり, 何を求めているかを十分に認識した上で, 教育環境を整え, 必要な対策を講じることである 各学校とのパイプを太くし, 双方向のかかわり合いを進めていくとともに, 教員個々の状況やニーズに対応できる体制を作っていくことが大切である それは, 施設 設備等のハード面と, 具体的な人的支援等のソフト面の二面から整えることになる 特に教育センターは, 校内研修の内容面 方法面ともに直接的に対応すべき役割を担っており, 学校や教員が気軽に利用 活用でき, 実践的 具体的に向上が図れることを重視して方策を検討 実施していくことが求められる それは次のようなことである 1 教育センターで実施する研修講座について, 今まで以上に学校現場のニーズを把握し, 様々な教育課題を抱える学校や教員が, その課題を解決していけるように, より実践的に活用できる内容 方法を検討 実施すること 2 効果ある校内研修の実施につながる資料を整備 提供すること 特に, 現場の多様なニーズに対応できる具体的 実践的な内容に留意し, 活用しやすいものであること 3 日常的に学校や教員が相談 活用できる体制を整えること 来所や電話等による支援, センター所員が学校等に赴き直接的に研修にかかわる支援等, 多様な形態 内容 方法を工夫し, 実施すること また, そのためのアピールを積極的に行うこと また, 教育行政の役割としては, 学校改善や 教師力 向上に係る道筋を明確化して具体的に示すことも大切である 教員のライフステージにおいて, 身に付け発揮することが必要な事柄を分類整理して体系化し, 研修体制の中に組み込めるような方法を構築するということである さらに, 研修の動機付けとなる外部人材等の活用 事務負担の軽減 ICT 環境の整備等を進めることや, 常に有効な人材の発見 発掘を心がけ, 研修意欲の高い教員を適切に処遇するシステムを作ること等も検討する必要がある 2 先行研究や近年の各県等教育センターの活動状況から校内研修に関する先行研究や近年の各県等教育センターの活動状況調査から, 校内研修に対するサポート活動として, 以下の二点が明らかになった 一点目は, わかりやすく読みやすいことを重視した 校内研修ガイドブック の発行である それは例えば, 具体的内容, ビジュアル的構成, 大きい文字といった特徴がある 学校が校内研修を進めていく上で, その参考となる情報を収めたこの冊子は, 近年ではおよそ二つの方向性で作成されている 冊子のテーマを絞り, ページ数を少なくして構成するもの冊子のコンセプトを明確にし, 研修活動の具体的場面に適用しやすく手軽に使える 幅広いテーマのもと, 多くの内容を, インターネットのホームページ内で構成し,Web 発信するもの構成の仕方の工夫で, 一つ一つの項目を具体的でわかりやすくする 必要な時に必要な分だけホームページから引き出し, 印刷 活用できる 二点目は, 気軽に参加できるサポート活動の展開である 日常的な相談活動や, 休日等に実施する希望制のサークル的活動や講座, 所員が学校の校内研修等に直接出向く研修 講座等である また, この二点を連動させて, より活発な活動を展開している例もある 以上, 校内研修に関するアンケート及び先行研究や近年の各県等教育センターの活動状況について 分析 考察してきた そこで当センターにおいては, 次の二点を核として積極的に活動を展開する必 9
要がある 1 子どもの人間力向上 と 教員の教師力向上 につながるカリキュラムマネジメントと組織マネジメントを重視した 校内研修ガイドブック ( 仮称 ) の発行 2カリキュラムサポート室が行っている日常的な相談活動と, サークル的要素を持った気軽に参加しやすい塾や講座等の実施に加え, 所員が学校に出向く研修 講座の充実及びそれらサポート活動の周知 3 次年度の具体的な取組 (1) 校内研修ガイドブック ( 仮称 ) を, 学校の校内研修や個々の教員の教育実践に活用しやすいものにするために, 内容や作成方法等の検討を重ね, 発行に向けて取り組む (2) カリキュラムサポート室の活動内容を, より学校現場や個々の教員が活用しやすいものにするための工夫 改善に取り組む 主な参考文献 校内研修の手引 千葉県教育委員会 ( 昭和 56 研究紀要第 208 集 校内研修の実態とその進め方に関する研究 千葉県教育センター ( 昭和 57 年 3 月 ) 校内研究を支えるためのセンター研修の在り方 船橋市総合教育センター 研究集録第 7 集 ( 平成 7 年度 ) 学校の活性化を目指す教員研修に関する研究 福島県教育センター ( 平成 10 年度 ) 教職員研修に関する調査研究 千葉市教育センター 研究紀要 10 ( 平成 13 年度 ) 校内研修と校外研修の関連等に関する研究 秋田県総合教育センター ( 平成 15 年度 ) これからの校内研修の在り方 香川県教育センター ( 平成 17~18 年度 児童生徒の学力の向上を目指した校内研修の在り方 宮城県教育研修センター : 長期研修員研究 ( 平成 15 年度 ) 校内研修ガイドブック ~ 子供たちの学力向上を目指して ~ 宮城県教育研修センター : 長期研修員研究 ( 平成 15 年度 ) 校内研修サポートブック ~ 指導力向上を目指して ~ 高知県教育センター ( 平成 17 年 3 月 ) 校内研修サポートブック ~これからの校内研修の在り方 香川県教育センター ( 平成 19 年 2 月 ) 校内授業研究の進め方ガイドブック ( 試案 ) 岩手県立総合教育センター ( 平成 19 年 4 月 ) 授業力向上にむけて大切にしたい視点 京都市総合教育センター カリキュラム開発支援センター ( 平成 18 年 3 月 ) 授業力向上の鍵 授業力向上の鍵 2 横浜市教育センター ( 平成 17 18 年 授業改善支援センター ハマ アップ 資料 横浜市教育センター ( 平成 17 年 6 月 ~) 教員研修の手引き - 研修の企画 運営 講師のための知識 技術 独立行政法人教員研修センター ( 平成 18 年 4 月 ) 中学校 校内研修の進め方 深め方 渡部邦雄 中進士 唐澤勝敏編著 : 文教書院 ( 平成 4 年 ) 小学校 校内研究 研究の進め方 羽豆成二編著 : 文教書院 ( 平 学校力が上がる 教師力が伸びる 全国教育研究所連盟編 : 教育新聞社 ( 平成 19 年 ) 千葉教育 558 千葉県総合教育センタ 10