リリース先 大阪科学 大学記者クラブ 枚方市政クラブ 報道解禁日(日本時間) Web 11 月 20 日 金 午前 2 時 新聞 11 月 20 日 金 付朝刊 報道機関各位 2015 年 11 月 16 日 本学附属生命医学研究所 小早川研究員ら 恐怖を引き起こす 匂い を開発し 恐怖の制御メカニ

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

PRESS RELEASE (2016/11/22) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

学位論文の要約


2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

論文の内容の要旨

平成14年度研究報告

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

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現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

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報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

スライド 1

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

第6号-2/8)最前線(大矢)

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

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スライド 1

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

記 者 発 表(予 定)


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報道機関各位 2015 年 11 月 16 日 本学附属生命医学研究所 小早川研究員ら 恐怖を引き起こす 匂い を開発し 恐怖の制御メカニズムと制御細胞を発見 学校法人関西医科大学 概要 1928年創立の私立医科大学 学校法人 関西医科大学 大阪府枚方市 理事長 山下敏夫 学 長 友田幸一 以下 本学 附属生命医学研究所 小早川高研究員 山中智子研究員らのチー ムは 恐怖情報の統合制御を担う細胞をマウス脳内の恐怖中枢において初めて発見しました ま た ここで発見した細胞に対する研究から 先天的な恐怖情報は後天的な恐怖応答を抑制する という事実が判明 この細胞は扁桃体 脳領域の一部 内のセロトニン2A受容体が機能する場 所にあり 先天的及び後天的な恐怖情報を統合して先天的な恐怖応答を後天的なものより優先さ せるという 階層的な制御を担っていることが分かりました なお この研究成果は ネイチャー サイエンス と並んで世界三大科学誌として知られ る 米国 セル 誌で11月19日に発表されます (オンライン上では 11月12日 日本時間13 日午前) 発表論文 著者 Tomoko Isosaka, Tomohiko Matsuo, Takashi Yamaguchi, Kazuo Funabiki, Shigetada Nakanishi, Reiko Kobayakawa, Ko Kobayakawa 論文題目 Htr2a-expressing cells in the central amygdala control the hierarchy between innate and learned fear 扁桃体中心核セロトニン2A受容体による先天的と後天的な恐怖の階層性制御 論文雑誌 Cell 11 月 19 日号 1

発見の要旨 恐怖は行動を支配する強力な情動で ヒトや動物の正常な行動に加え精神疾患の症状に影響を 与えます これまで 脳がどのようにして恐怖情報を処理しているのかはよくわかっていません でした 関西医科大学の伊早坂智子 小早川高研究員らのチームは恐怖情報の統合制御を担う細 胞をマウスの脳内の恐怖中枢で初めて発見しました ここで発見した細胞によって 先天的な恐 怖情報は後天的な恐怖応答を抑制するという予想外の事実が明らかになりました この細胞は扁桃体と呼ばれる脳領域にあるセロトニン 2A 受容体が機能する細胞で 先天的と 後天的な恐怖情報を統合して 先天的な恐怖応答を後天的な恐怖応答より優先させるという階層 的な制御を担っていることが明らかになりました 先天的と後天的な恐怖応答はこの細胞によっ て逆方向へ制御されます 従って 後天的な恐怖を緩和する薬剤の投与が 意図に反して先天的 な恐怖を増強してしまう可能性があることが明らかになりました 今後は 精神疾患の原因を先 天的と後天的な側面に分解して診断し 適切な薬剤を投与するという新たな治療戦略が必要にな ることが示唆されます この成果は 世界3大科学誌セル ネイチャー サイエンスとして知ら れる 米国セル誌で 11 月 19 日に発表されます 2

研究の意義 1. マウスの先天的な恐怖情動を強力に誘発する 恐怖臭 が 開発された 恐怖臭は 恐怖情動の解明から強力な忌避剤の 開発まで広範に応用できる 2. 恐怖情動の新たな原則 恐怖の階層制御ルール を解明した このルールはヒトや動物の恐怖情動の理解と精神疾患の 治療法開発に新視点を与える 研究の背景 恐怖は行動に影響を与える強力な情動です 例えば 高いつり橋が風で揺れて足がすくんで動 けなくなった 子供のころ噛まれた記憶が忘れられず犬に近づけないなどのように さまざまな 場面で恐怖は行動を支配します また 恐怖はうつ 強迫性障害 恐怖症 心的外傷後ストレス 障害 PTSD などの精神疾患の発症や症状にも影響を与えると考えられています さらには 未来の生活に対して漠然とした恐怖を感じているような状況では 生活を豊かにする積極的な行 動や 社会を発展させる大胆なチャレンジに取り組むことも困難に感じるかもしれません この ように恐怖は日常的な行動から精神疾患までに影響を与えています 従って 脳が恐怖情報を処 理するメカニズムの解明は ヒトや動物の行動を支配する未知の原理の理解に加え 精神疾患の 診断や治療法を開発する上でも重要な意味を持ちます 恐怖情動は大きく分けて 先天的恐怖と後天的恐怖の2種類に分類できます 先天的恐怖とは ヒトや動物の生存を脅かす危険を避けるために進化の過程で獲得された情動です 高いところか ら転落することや 猛獣に襲われることは全ての個体にとって共通した危険です このような危 険な対象に対して恐怖を感じる能力を遺伝子に持つことは種の繁栄に有利に働くと思われます 一方で ある個体がある場所で危険な経験をすれば その場所に対して後天的に恐怖を感じるよ うになることがあります つまり 先天的恐怖は種全体に共有された恐怖であり 後天的恐怖は 特定の個体だけが持つ恐怖であると言えます 多くの野生動物は常に生存を脅かす危険と隣り合わせで生活しています 従って 恐怖を感じ るような危険な環境でも生き抜くために餌を求めて行動を続ける必要があります ヒトであって 3

も戦場や災害現場などに立たされれば同じように危険に囲まれて生き抜かざるを得なくなりま す もし 先天的と後天的な恐怖情報が同時に存在する場面でそれらの優先順位を決定しなけれ ばならないとしたら どのようにするのでしょうか 悩んでしまって 行動できなくなるのでし ょうか 私たちは このような究極の選択の場面で脳がどのように情報処理をして行動を選択す るのかという未解明の問題に 解剖学 分子生物学 生理学 行動学などの方法を駆使して挑戦 しました その結果 恐怖を司る細胞を脳の恐怖中枢で発見し さらに この細胞がどのように 行動を制御するのかを解明することにも成功しました 研究の結果 1 極めて強力な先天的恐怖を誘発する匂い分子の発見 マウスは天敵である肉食動物の匂いに対して先天的な恐怖を示すことを私たちは解明してき ました マウスがどの程度の恐怖を感じているのかはすくみ時間を指標に計測できます これま で知られていた天敵に由来する匂い分子では弱い恐怖しか引き起こせませんでしたが 私たちは 後天的な条件に匹敵する強力な先天的恐怖を誘発する匂い分子 恐怖臭 の開発に初めて成功し ました この成功によりこれまで困難であった先天的な恐怖の制御メカニズムを解明することが 可能になりました なお 後天的な恐怖はあらかじめ弱い電気ショックと関連学習させたスパイ スの匂いを嗅がせることで誘発しました 2 先天的恐怖が後天的恐怖を抑制することを発見 2つに分かれた通路の先端に餌が置いてあります 片側の通路には先天的恐怖の匂い もう一 方の通路には後天的恐怖の匂いが置いてあります しばらく絶食したマウスは餌を食べるために いずれかの通路に入らなければなりません どちらを選択するのでしょうか この実験を行うと マウスは先天的な恐怖の匂いを避けて 後天的な恐怖の匂いがある通路に入って餌を食べること が分かりました 次に 先天的と後天的な恐怖の匂いを連続してマウスに嗅がせる実験をしました 興味深いこ とに 先天的恐怖の匂いを後天的恐怖の匂いに先立って嗅がせると 後天的な恐怖行動が抑制さ れることが分かりました しかし 逆に後天的恐怖の匂いを先天的恐怖の匂いに先立って嗅がせ ても 先天的な恐怖行動には影響がありませんでした これらの結果を総合すると 先天的と後天的な恐怖情報が同時に存在すると 先天的恐怖が優 4

先されること また 先天的恐怖の刺激は後天的恐怖の行動を抑制することが分かりました つ まり 先天的と後天的な恐怖は階層的かつ拮抗的に制御されるということになります 3 先天的と後天的な恐怖の拮抗的で階層的な制御を司る細胞 分子を発見 先天的と後天的な恐怖反応が拮抗的な関係にあるという現象は ある種の分子の作用で説明で きるのでしょうか 多くの場合 このような未知の現象を担う分子を同定することは容易ではあ りません 私たちは 精神状態に影響を及ぼす作用を持つ様々な種類の向精神薬を投与した条件 で 先天的と後天的な恐怖応答への影響を解析しました その結果 リスペリドンという統合失 調症などの治療薬を投与すると後天的恐怖は緩和されるのですが 先天的恐怖は逆に増強される ことが分かりました リスペリドンの分子標的のひとつはセロトニン2A 受容体です 次に 先天的と後天的な恐怖の制御に関与する脳領域の探索を 全脳活性化マッピング法とい う技術を用いて行いました この技術ではある行動をしているマウスの全脳領域の神経活動を神 経活動マーカー遺伝子を指標にして解析できます この解析の結果 偏桃体の中心核と呼ばれる 領域が先天的と後天的な恐怖情報の統合に関与する候補領域の一つとなることが分かりました 続いて 扁桃体中心核のセロトニン2A 受容体陽性細胞が先天的と後天的な恐怖の制御に関与し ていることを以下の方法で確認しました 5 ある種類の遺伝子操作マウスを活用することで 扁桃体中心核のセロトニン2A 受容体陽性細 胞だけの神経活動の観察や操作をすることができるようになります この遺伝子操作マウスを使 って以下の一連の実験を行いました 麻酔や拘束をしない 自由に行動できる条件で脳の深部にある扁桃体の神経活動を観察するた めに 光ファイバーの束で作成した内視鏡を使いました この内視鏡は柔らかいためにマウスの 行動を妨げません 先天的な恐怖の匂いをかがせると 扁桃体中心核のセロトニン2A 受容体陽 性細胞の神経活動が低下しました 一方で 後天的な恐怖の匂いをかがせてもこのような変化は 認められませんでした 薬理遺伝学と光遺伝学の技術を活用して扁桃体中心核のセロトニン2A 受容体陽性細胞の神 経活動を人為的に制御した影響を調べました これらの方法で扁桃体中心核のセロトニン2A 受 容体陽性細胞の活動を人為的に抑制すると 後天的な恐怖行動が抑制されるとともに 先天的な 恐怖行動が増強されました

また 扁桃体中心核のセロトニン2A 受容体陽性細胞の活動を人為的に上昇させた条件では 通常のマウスでは観察された 先天的な恐怖刺激による後天的な恐怖応答の抑制が起こらず 逆 に 後天的な恐怖応答の増強が観察されました 以上の結果から 私たちは 扁桃体中心核のセロトニン2A 受容体陽性細胞は先天的と後天的 な恐怖の階層性の制御を司っていると結論付けました 研究組織 学校法人 関西医科大学 附属生命医学研究所 小早川高 研究責任者 小早川令子 山中智子 学校法人 関西医科大学 573-1010 大阪府枚方市新町 2 丁目 5 番 1 号 総務部広報課 同附属生命医学研究所 6 担当 小早川 高研究員 E-MAIL skobayak@me.com