Economic Trends    マクロ経済分析レポート

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エコノミスト便り

別紙2

タイトル

2030年のアジア

2017 年訪日外客数 ( 総数 ) 出典 : 日本政府観光局 (JNTO) 総数 2,295, ,035, ,205, ,578, ,294, ,346, ,681, ,477

平成28年版高齢社会白書(概要版)

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

図表 02 の 01 の 1 世界人口 地域別 年 図表 2-1-1A 世界人口 地域別 年 ( 実数 1000 人 ) 地域 国 世界全体 2,532,229 3,038,413 3,69

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

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2017年第3四半期 スマートフォンのグローバル販売動向 - GfK Japan

生産性 イノベーション関係指標の国際比較 平成 29 年 11 月 9 日 財務総合政策研究所酒巻哲朗 1

目 次 Ⅰ. 総括編 1. 世界各地域の人口, 面積, 人口密度の推移と予測およびGDP( 名目 ) の状況 ( 1) 2. 世界の自動車保有状況と予測 ( 5) 3. 世界の自動車販売状況と予測 ( 9) 4. 世界の自動車生産状況と予測 ( 12) 5. 自動車産業にとって将来魅力のある国々 (

我が国中小企業の課題と対応策

1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

第45回中期経済予測 要旨

参考資料 1 約束草案関連資料 中央環境審議会地球環境部会 2020 年以降の地球温暖化対策検討小委員会 産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会約束草案検討ワーキンググループ合同会合事務局 平成 27 年 4 月 30 日

平成27年版高齢社会白書(全体版)

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

1999

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

JNTO

IT 人材需給に関する調査 ( 概要 ) 平成 31 年 4 月経済産業省情報技術利用促進課 1. 調査の目的 実施体制 未来投資戦略 2017 ( 平成 29 年 6 月 9 日閣議決定 ) に基づき 第四次産業革命下で求められる人材の必要性やミスマッチの状況を明確化するため 経済産業省 厚生労働

住宅宿泊事業の宿泊実績について 令和元年 5 月 16 日観光庁 ( 平成 31 年 2-3 月分及び平成 30 年度累計値 : 住宅宿泊事業者からの定期報告の集計 ) 概要 住宅宿泊事業の宿泊実績について 住宅宿泊事業法第 14 条に基づく住宅宿泊事業者から の定期報告に基づき観光庁において集計

2. トピックス 中国 インドを除くアジア主要国の特徴について 中国やインドが高い成長を続けている中にあって 韓国 台湾 タイ インドネシアなどの東南アジアの国々の成長率は過去 7 年間を平均すると 4.3% と安定している しかし 成長率には国によって差があり フィリピン ベトナム インドネシアな

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【No

平成29年版高齢社会白書(全体版)

ITI-stat91

人口減少と将来の労働力不足について(資料編)

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

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IMF世界経済見通し 2015 年 4月 第 章 要旨

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

2017 電波産業調査統計

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(1月号)~輸出の好調続くも新型スマホ関連がピークアウトへ

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

表 1) また 従属人口指数 は 生産年齢 (15~64 歳 ) 人口 100 人で 年少者 (0~14 歳 ) と高齢者 (65 歳以上 ) を何名支えているのかを示す指数である 一般的に 従属人口指数 が低下する局面は 全人口に占める生産年齢人口の割合が高まり 人口構造が経済にプラスに作用すると

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輸入バイオマス燃料の状況 2019 年 10 月 株式会社 FT カーボン 目 次 1. 概要 PKS PKS の輸入動向 年の PKS の輸入動向 PKS の輸入単価 木質ペレット

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化


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各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

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2011 年度第 63 回日本人口学会 2011 年 6 月 12 日 カンボジアの職業別人口構造 総務省統計研修所西文彦 注 ) 本資料に記載されている内容は すべて個人の見解に基づくものである 1 本報告の目的 カンボジアの人材の状況に視点を置いて 持続的な経済成長の可能性を検証する 人口ボーナ

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Microsoft PowerPoint EU経済格差

図表 -6 図表 -7 労働力人口の増加は続く ASEAN の労働力人口 ( 億人 ) 年にかけて % 程度の成長を維持 ASEAN の潜在成長率 ( 前年比 %) 労働生産性の伸び労働力人口の伸び 資料 :ILO 国連 World Popula

訪日数 JNTO 日本政府観光局統計より〇 2 月の訪日外客数 138 万 7,000 人 ( 前年同月 157.6%) 〇中国が月間過去最高 史上初単月で 35 万 9 千人 (359,100 人前年同月 259.8%) 〇東アジア ( 中国 台湾 韓国 香港 ) だけで構成比が約 8 割 ( 前

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概要3

スライド 1

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Microsoft Word - 校了 11 統計 ①増田、田辺.doc

本日の主な内容 1.. 総論 主要国の GDP 成長率 人口伸び率 主要国の経済規模 2.. 日本経済の見通し 人口動態と労働力人口 潜在成長率と実質 GDP 成長率 GDP ギャップと物価上昇率 日本経済再生への処方箋 1

< 目次 > Ⅰ. 基準シナリオ : 経済成長持続ケース 1. 中間所得層 + 高所得層の推移 2. 中間所得層の推移 3. 高所得層の推移 Ⅱ. シナリオ2: 中国とインド経済が急激にダウンしたら? 1. 中間所得層 + 高所得層の推移 2. 中間所得層の推移 3. 高所得層の推移 Ⅲ. シナリオ

お知らせ 平成 27 年 2 月 2 日 公益財団法人京都文化交流コンベンションビューロー 平成 26 年 12 月外国人客宿泊状況調査 の発表について ( 公財 ) 京都文化交流コンベンションビューローでは 京都市内 25 ホテルの協力 を得て月別 国籍別宿泊外国人の状況調査を行っております 平成

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目次はじめに 1. 中国の少子高齢化 人口ボーナス論と中国経済 中国の人口ボーナスの課題 人口ボーナスと地域間経済格差 はじめに , demographic dividend 15 6

順調な拡大続くミャンマー携帯電話市場

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図 3 世界の GDP 成長率の実績と見通し ( 出所 ) Capital in the 21st century by Thomas Piketty ホームページ 図 4 世界の資本所得比率の実績と見通し ( 出所 ) Capital in the 21st century by Thomas P

経済トレンド

リサーチ Press Release 報道関係者各位 2015 年 7 月 29 日 アウンコンサルティング株式会社 世界 40 カ国 主要 OS 機種シェア状況 2015 年 6 月 ~ iphone 大国 日本 高い Apple シェア率 ~ アジア 8 拠点で SEM( 検索エンジンマーケティ

第4章 日系家電メーカーにおけるグローバル化の進展と分業再編成

特許庁工業所有権保護適正化対策事業

フィリピンだが 年とベトナムやネパールからの留学生による就労がとりわけ大幅に増加している ( 図表 3 4) 在留資格が留学であっても 滞在費を賄う等の目的で 平常は週 28 時間 夏季 冬季 春季休みの間は 1 日 8 時間まで働くことが可能であり 日本語学校で勉強しながら就労する留学

地域別世界のエアコン需要の推定について 年 月 一般社団法人 日本冷凍空調工業会 日本冷凍空調工業会ではこのほど 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果を まとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行 なっているもので 今回は 年から 年までの過去 ヵ年について主

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

親と同居の壮年未婚者 2014 年


金融調査研究会報告書 少子高齢化社会の進展と今後の経済成長を支える金融ビジネスのあり方

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近畿圏における電気機器の貿易動向 平成 24 年 10 月 22 日大阪税関調査統計課 貿易額推移 近畿圏における電気機器の貿易額は 2000 年に初めて輸出額が 3 兆円を突破し 輸入額が 1 兆円を突破しました 輸出額は 2001 年に一旦減尐しますが その後は右肩上がりで増加し 2005 年に

統計トピックスNo.120 我が国のこどもの数―「こどもの日」にちなんで―

Contents Section Chapter Part Part2 18 Chapter Part1 20 Part2 21 Part3 22 Chapter Part Part2

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GM OEM GM GM 24 GM 16 GM

先進国化する中国 東南アジアの大都市 ~ メガシティ ( 大都市 ) からメガリージョン ( 大都市圏 ) へ ~ 要 旨 調査部環太平洋戦略研究センター 主任研究員 大泉啓一郎 GDP 8,000 10,00

長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

2025年の住宅市場 ~新設住宅着工戸数、60万戸台の時代に~

年 年 に設定した 世界合計 の輸出金額は 年 3 兆 2,310 億ドルから 年 6 兆 1,930 億ドル 年 14 兆 6,520 億ドルと 4.5 倍に拡大した後 年秋のリーマンショックを契機として 2009 年には前年の約 3/4 に急激に落ち込み その後 徐々に回復が進み 年 16 兆

地域別世界のエアコン需要の推定について 2018 年 4 月一般社団法人日本冷凍空調工業会日本冷凍空調工業会ではこのほど 2017 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果をまとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行なっているもので 今回は 2012 年から 20

2007年12月10日 初稿

平成30年版高齢社会白書(概要版)

Transcription:

Economic Trends マクロ経済分析レポート テーマ : 世界の長期経済見通し 年 10 月 6 日 ( 火 ) ~ 世界経済は20 年代まで3% 弱の成長維持 有望なインド ASEAN 市場 ~ 第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト永濱利廣 (03-5221-4531) エコノミスト星野卓也 (03-5221-4547) ( 要旨 ) 人口動態が経済成長を長期的に左右する重要な要因となる中 企業のけん引役として期待されるのが外需 高成長国は人口増加率が高く 経済規模も大きいことから 将来において 世界経済におけるプレゼンスを一層高めるものと予測される 期には 豊かな労働力があり 従属人口を扶養する負担が軽いことから 人口構成が経済成長を押し上げる効果がある 逆に人口負担期には 人口構成が一人当たり経済成長を押し下げる効果がある 世界における期から人口負担期へと転換する時期をみると (1) 第一グループ (~2000 年代 ): 日 欧 米 (2) 第二グループ ( 年代 ): オセアニア アジアNIE s 等 (3) 第三グループ ( 年代 ):ASEAN 中南米 (4) 第四グループ ( 年代 ~): インド フィリピン 南アフリカ等の4つのグループに分けることができる 第一グループの中でも既に生産年齢人口がピークアウトしている ドイツ イタリアと 生産年齢人口が増え続ける米国 英国 フランスに分けることができる また 第二グループの中では生産年齢人口のピークアウトが予想される韓国 タイ と 生産年齢人口が増え続けるオーストラリア ベトナム シンガポール カナダに分けることができる 生産年齢人口伸び率 と に基づき 年までの経済成長率を推計すると 今後労働力人口の減少幅が縮小すると見込まれるは 成長率が1% 台に加速する 一方 や韓国は大幅低下が予想される これに対し 労働力人口の増加が継続し 労働投入の伸び率が 20 年代も引き続きプラスと見込まれるインド フィリピンについては高成長の持続が期待される 欧州は 10 年代 20 年代を通じ成長率が鈍化する見通し 北中南米 オセアニアでは 10 年代から 20 年代にかけて労働力人口は増加するが 特に北米とオセアニアで移民の流入により生産年齢人口が増加し 成長率も維持される見通し 世界経済の成長率は 年代まで3% 弱が維持され 世界全体に占めるシェアは 10 年時点で大きい順にアメリカ ドイツであったものが 30 年になるとアメリカ インド となる見込み 我が国のアジア戦略については インフラ輸出 自由貿易圏構築 海外人材の受け入れといった国としての大枠の議論にとどまっている 各企業が国境を越えて アジアと一体で経済圏を形成し 積極的な役割を担っていくことこそが 経済全体を活性化させる鍵となろう はじめに 世界では 東アジアの奇跡 と呼ばれた 1965~ 年のや 近年のなどが著しい経済成 長を遂げた国として注目されてきた その背景の一つには 生産年齢人口の総人口に占める割合が増

加する 期 が成長を後押ししたことが指摘されている しかし 19 年代以降 では出生率の低下が継続することにより 少子高齢化が進行するとともに 総人口に対する労働力人口の割合が減少することで これまでのような高成長を維持することは難しいと見込まれている 人口動態がの経済成長を長期的に左右する重要な要因となる中 経済のけん引役として期待されるのが外需である 先進国が成熟期に入り安定的な成長を続ける中で 東南アジアやインドがここ数年高い経済成長を遂げ注目されてきた これらの高成長国は人口規模が大きく 経済成長率も高いことから 将来において 世界経済におけるプレゼンスを一層高めるものと予測される このため 我が国経済を活性化していく上で重要な鍵となるのが 近年急速に一体化が進むアジア経済の活力をいかに取り込んでいくかということである そこで以下では 世界における人口動態と経済発展の関係について概観した後 今後の世界の成長率に対する人口動態の変化のインパクトを検討し 年までの長期展望を行う 人口と経済発展 (1) 期 オーナス期 の概念人口動態の変化による経済的 社会的影響のうち 特に経済成長にどのような影響を及ぼすかに焦点を当て より詳細にみてみよう まず 期とは ( 国の生産年齢人口 (15~64 歳 ) を従属人口 (14 歳以下と 65 歳以上 ) で割って算出 ) が上昇する時期と定義される そして期には 豊かな労働力があり 従属人口を扶養する負担が軽いことから 人口構成が経済成長を押し上げる効果がある 逆に人口負担期には 人口構成が一人当たり経済成長を押し下げる効果がある オーナス期は その時期が到来すれば オーナスがもたらされるというものではない 期に当たる時期が訪れたとしても 労働需要が不足していればその追い風をボーナスに転化することは難しい また は それだけで成長率を大きく加速させるものというよりは 持続的成長を後押しするものであり 高成長を遂げるためには 投資環境の整備や教育の普及等 その他の条件がそろうことが必要である 一方 人口オーナス期については ボーナス期にオーナス期の到来に備えて成長を高めるための努力をすることなどで 人口オーナス期の到来に伴うマイナスの影響を軽減することもできる 期は 人口構造転換までの比較的限られた期間であるが その後に到来する人口負担期は出生率の低下が続く限り また 出生率が上昇しても生産年齢人口にあたる 15 歳になるまでの最低 15 年間は継続する (2) 各国における 負担期の到来欧州先進国では 出生率の低下が 19 世紀前半からの長期にわたるものであったため人口構造の変化が緩やかであり ボーナス期に当たる時期が比較的長期間にわたった半面 の影響も緩やかなものであった 一方 アジアでは出生率が急速に低下したこともあり 期は短期間で終わり その影響は急激なものと予想されている 世界における期から人口負担期へと転換する時期をみると (1) 第一グループ (~ 2000 年代 ): 日 欧 米 (2) 第二グループ ( 年代 ): オセアニア アジアNIEs 等 (3) 第三グループ ( 年代 ):ASEAN 中南米 (4) 第四グループ ( 年代 ~):

インド フィリピン 南アフリカ等というように 4 つのグループに分けることができる ( 資料 1) 資料 1 : 年以降 段階的に低下に転換 第一グループ イタリア英国 ドイツフランス米国 韓国タイシンカ ホ ール豪州 第二グループベトナムカナダ 第三グループ ブラジル インドネシア マレーシア メキシコ 第四グループ 南アフリカ インド アルゼンチン フィリピン ( 出所 ) 国連 資料 2 生産年齢人口 : 同じグループでも二極化 = 第一グループ = 第二グループ ドイツ 韓国 ベトナム イタリア フランス タイ 豪州 英国 米国 カナダ シンカ ホ ール = 第三グループ = 第四グループ ブラジル マレーシア 南アフリカ インドネシア メキシコ アルゼンチンインドフィリピン ( 出所 ) 国連 一方 と生産年齢人口ピークの時機を見ると 第一グループの中でも既に生産年

齢人口がピークアウトしている ドイツ イタリアと 生産年齢人口が増え続ける米国 英国 フランスに分けることができる また 第二グループの中では生産年齢人口のピークアウトが予想される韓国 タイ と 生産年齢人口が増え続けるオーストラリア ベトナム シンガポール カナダに分けることができる ( 資料 2) 世界の長期経済見通し (1) 経済成長率と人口動態の関係続いて 国連データに基づく人口動態と経済成長率の関係を計測する 経済成長率についてはIM Fデータを用い アジア 欧米 中南米 オセアニアなど 37 か国と世界の 2000~ 年の平均成長率を用いた 推計は 実質経済成長率を被説明変数として 生産年齢 (15~64 歳 ) 人口伸び率 と (15~64 歳人口 /(0~14 歳人口 +65 歳以上人口 )) の2 種類の人口指標を説明変数としてパネルデータ分析を行った 推計結果を資料 3に示す t 値が絶対値で2 以上あれば 推計結果は有意であると判断できる また 生産年齢人口変化率 とも水準が高まれば経済成長率が上昇するとみられることから 係数やt 値の符号は正となる 一方 自由度調整済み決定係数は 推計式の説明力の高さを表しており 推計式と被説明変数が完全に一致する場合 決定係数は1となる このため 推計結果からは 2 種類の人口指標が経済成長率に与える影響は有意であることがわかる すなわち 人口動態は明らかに経済成長率に影響を与えている また 自由度調整済み決定係数の大きさからは 少なくとも推計期間の経済成長率の 91.9% は人口動態の変化で説明できると判断される 資料 3 人口動態の変化が経済成長率に及ぼす影響 被説明変数 定数項 生産年齢人口 自由度調整済 サンプル数 変化率 (%) ( 倍 ) み決定係数 経済成長率 (%) -0.581 (-0.54) 0.145 (6.33) 73 (4) 0.919 114 * 固定効果モデルにて推計 ( ) はt 値 以上の結果から 今後の世界では高齢化 人口減少の問題が顕在化するとみられ 主要新興国の経済成長も遠からず減速すると予想される 世界経済の長期的な動向を見通すに当たり 人口減少が各国の経済成長にどの程度の影響を与えるのかという点を分析しておくことは極めて重要である そこで以下では 少子高齢化や人口減少がどの程度各国の経済成長を押し下げるのかを定量的に示すことにする また あわせて世界の中で経済が今後どのような位置を占めていくのかを展望する (2) 推計結果こうした前提の下 国連の人口予測をもとに 年までの経済成長率を推計すると 世界各国の成長率は のピークアウトや生産年齢人口の伸びが鈍化することなどにより これまでの伸びに比べて総じて鈍化することが分かる ( 資料 4) 推計によれば アジア主要国 地域では成長率の鈍化はみられるものの その他主要国に比べて高い成長率が続く見通しとなっている ただし アジアの中でも早い時期に経済発展を遂げるものの

韓国 タイ シンカ ホ ール マレーシア インドネシア インド フィリピン ベトナム 世界 米国 カナダ 豪州 ドイツ フランス 英国 イタリア ブラジル メキシコ 南アフリカ アルゼンチン 今後労働力人口の減少幅が縮小すると見込まれるは 成長率が1% 台を維持する 一方 韓国のように成長率の大幅低下が予想されるケースもある 生産年齢人口は では 2000 年代からすでにマイナスであったが 韓国 タイでも 10 年代にマイナスに転じる見通しである その結果 の経済成長率の低下幅は大きいであろう なお ベトナム マレーシア インドネシアは 労働力人口の増加は継続するが その伸び率の低下により成長率への寄与が低下するため 20 年代以降の成長率はやや低下する見通しである これに対し 労働力人口の増加が継続し 労働投入の伸び率が 20 年代も引き続きプラスと見込まれるインド フィリピンについては 高成長が維持される見通しとなっている その他の地域では ヨーロッパで 10 年代 20 年代を通じ成長率が鈍化する見通しである 特に 10 年代以降 労働力人口の減少が深刻化するフランス ドイツでは成長率が0% 台に低下し イタリアでは 20 年代に成長率の伸び率がマイナスに転じる見通しである 北中南米 オセアニアでは 10 年代から 20 年代にかけて労働力人口は増加するが 特に北米 オセアニアでは移民の流入により労働力人口が増加し 成長率も維持される見通しである ちなみに は 年代以降にはのマイナス幅が縮小し 経済成長率の下押し圧力が軽減することが想定される 資料 4 主要国の経済成長率見通し (%) 2011-10 2016-8 2021-2026- 6 4 2 0-2 -4 (%) 10 8 6 4 2 0-2 -4 2011-2016- 2021-2026- 韓国 タイ シンカ ホ ール マレーシア インドネシアインド フィリピン ベトナム 世界 1981-1985 4.3 10.8 9.4 5.4 6.9 5.2 4.7 5.2-1.1 7.0 2.9 1986-19 5.0 7.9 10.5 10.4 8.7 6.9 6.3 6.0 4.7 4.8 3.8 1991-1995 12.3 8.4 8.5 8.7 9.5 7.4 5.1 8.2 2.7 1996-2000 0.9 8.6 5.7 0.6 5.7 5.0 6.0 3.6 7.0 3.8 2001-9.8 4.7 5.1 4.9 4.7 4.7 6.8 4.6 7.3 3.9 2006-0.4 1 4.1 3.6 6.9 4.5 6.1 8.3 5.0 6.3 3.9 2011-0.8 7.8 3.1 4.0 5.3 5.6 6.6 6.1 5.8 3.6 2016-0.9 5.0 1.7 2.9 4.6 4.6 5.8 5.6 4.4 2.9 2021-1.1 4.6 1.9 4.2 4.4 5.6 5.4 4.2 2.9 2026-0.9 3.9 1.7 2.1 4.1 4.1 5.4 5.3 4.0 米国 カナダ 豪州 ドイツ フランス 英国 イタリア ブラジル メキシコ 南アフリカ アルゼンチン 1981-1985 3.4 3.1 1.7-1986-19 3.4 2.9 3.5 3.5 3.4 3.5 3.1 2.1 1.7-0.1 1991-1995 1.7 2.7 1.3 1.7 1.3 1.9 0.9 6.0 1996-2000 4.3 4.0 4.1 1.9 2.9 3.1 1.9 5.1 2.7 2001-2.5 2.5 3.4 0.5 1.7 2.9 0.9 2.9 1.7 3.8 2006-0.8 1.3 2.7 1.3 0.8 0.6-0.3 4.5 3.1 5.8 2011-2.3 2.3 1.5 0.8-0.8 1.5 2.9 2016-1.7 2.3 0.6 0.3 2.3 2.1 3.2 2021-1.7 2.3 0.9 0.6 1.5 0.2 1.9 1.9 3.2 2026-2.3 0.6 0.6 1.3-0.1 1.7 1.7 2.7 3.1 ( 出所 ) 国連 第一生命経済研究所

また 推計結果を基に市場レートベースでドル換算したGDP 規模の変化をみると 高い成長率を背景にアジアのGDPシェア増加が際立っている アジア全体のGDPが世界全体に占めるシェアは 年時点で約 25% だったものが 30 年には約 33% へ拡大する 中でもインドは 10 年に % だったものが 30 年には 4.6% まで急拡大する見通しである 他方で を始めとする先進国のGDP 規模は緩やかに拡大するが 全体に占めるシェアは軒並み減少が予想される 世界経済全体の成長率は 20 年代以降も3% 弱の成長が維持され 世界全体に占めるシェアは 10 年時点で大きい順にアメリカ ドイツであったものが 30 年になるとアメリカ インド となる見込みである ( 資料 6) 資料 5 世界 GDP( 市場レートベース ) の見通し 1 ( 出所 ) 内閣府 総務省資料等より第一生命経済研究所予測 資料 6 世界 GDP( 市場レートベース ) の見通し 2 世界 GDP シェア ( 年 ) 5.6% 世界 GDP シェア ( 年 ) 4.3% オーストラリア + 南ア 2.1% メキシコ + フ ラシ ル + カナタ 6.4% その他 24.1% 独仏英伊 14.2% 15.0% アメリカ 24.3% イント 3.1% ASEAN5+ シンカ ホ ール + 韓国 5.2% オーストラリア + 南ア % その他 28.1% 独仏英伊 10.5% メキシコ + フ ラシ ル + カナタ 5.5% アメリカ 20.7% 19.0% イント 4.6% ASEAN5+ シンカ ホ ール + 韓国 5.3% ( 出所 ) 内閣府 総務省資料等より第一生命経済研究所予測 ただし 以上の結果については インドや東南アジア等 足元で高い経済成長を実現している国においては 資本ストックや全要素生産性の伸びが高い傾向にあり そのトレンドが将来も続くという前提に立っている これら諸国においては 先進国同様に将来の労働力人口の伸びの鈍化 減少が予想されているものの 労働投入以外の要因による高い成長トレンドに支えられて GDP 成長率が先

進国に比べて高くなっているケースが多い したがって 将来 投資や全要素生産性の伸びが今回の推計の前提を下回った場合 実際のGDP 成長率は 今回の推計結果を下回る可能性がある 逆に や欧州等 足元で低い成長率にとどまっている国においては 資本ストックや全要素生産性の伸びが低い傾向にあり そのトレンドが将来も続くという前提に立っている これら諸国においても 将来の労働力人口の伸びの鈍化 減少が予想されているものの 労働投入以外の要因による低い成長トレンドの影響を受けて GDP 成長率が低く計測されているケースが多い したがって 将来 投資や全要素生産性の伸びが今回の推計の前提を上回った場合 実際のGDP 成長率は 今回の推計結果を上回る可能性があることが指摘できる 持続的経済成長に向けた戦略世界の主要国 地域の経済を長期展望すると アジア 北米 中南米 オセアニア アフリカ各国では今後も生産年齢人口増加が成長率を押し上げていくと予想される 特にインド 東南アジアでは 投資や全要素生産性が過去の高いトレンドで今後も伸びていく限りにおいて 高い経済成長が続く見通しとなっており 今後インドや東南アジアの存在感はますます高まっていくものとみられる 一方で 東アジアやヨーロッパについては これらのような高い成長率は期待できず 労働力人口減少の影響も拡大するとみられることから 一国の経済成長を持続させていくためには 長期的な視点に立った成長戦略の策定及びその早期実行が求められる 労働力人口の伸びが鈍化 減少していく中では 他の条件が一定であれば経済全体としての成長率も鈍化せざるを得ない しかし 具体的にどの程度の成長を期待することができるかは 労働力率の動向 国内の貯蓄率や海外からの投資の利用可能性 全要素生産性の動向等多くの要因に依存し 高齢化 人口減少が経済成長に及ぼす影響は決して確定的なものではない 具体的にどのような戦略を採れば成長率の低下を防ぐことができるのかは 国によって異なるが 我が国では 近年 人 モノ 金の流れにおいて急速に一体化が進むアジア経済の活力をいかに取り込んでいくかが重要であろう 我が国のアジア戦略については 政府が掲げる 再興戦略 にも盛り込まれてはいるものの その内容はインフラ輸出 自由貿易圏構築 海外人材の受け入れといった国としての大枠の議論にとどまっている 各企業が国境を越えて アジアと一体で経済圏を形成し 積極的な役割を担っていくことこそが 経済全体を活性化させる鍵となろう 労働生産性の上昇のプラスの寄与が就業者数の減少のマイナスの寄与を上回れば 人口減少の下でも全体としてプラスの経済成長を維持することは可能である 高齢化 人口減少の下でどの程度の経済成長を達成できるかは 今後の政策努力によるところが大きいといえる