HACCP システム ( 総合衛生管理製造過程 ) と PDCA 東海大学海洋学部水産学科客員教授 公益社団法人日本食品衛生協会学術顧問 荒木惠美子 1
今日の内容 1. PDCAサイクルの定義 2. HACCP 適用の7 原則 12 手順 3. 総合衛生管理製造過程 4. HACCP 運用のポイント 5. HACCPとPDCAサイクル 2
PDCA サイクル Plan-Do-Check-Act Plan: システムおよびそのプロセスの目標を設定し, 顧客要求事項および組織の方針に沿った結果を出すために必要な資源を用意し, リスクおよび機会を特定し, かつ, それらに取り組む. Do: 計画されたことを実行する. Check: 方針, 目標, 要求事項および計画した活動に照らして, プロセス並びにその結果としての製品およびサービスを監視 ( モニタリング ) し,( 該当する場合には ) 測定し, その結果を報告する Act: 必要に応じて, パフォーマンスを改善するための処置をとる. 出典 :ISO 9001:2015,0.3.1 3
システム 相互に関連する又は相互に作用する要素 の集まり出典 :ISO 9000:2015, 3.5.1 プロセス インプットを使用して意図した結果を生み出す, 相互に関連する又は相互に作用す る一連の活動出典 :ISO 9000:2015, 3.4.1 I/P Process O/P 4
監視 (monitoring) システム (3.5.1), プロセス (3.4.1), 製品, サービス又は活動の状況を確定すること. 注記 1 状況の確定のために, 点検, 監督又は注意深い観察が必要な場合もあり得る. 注記 2 監視は, 通常, 異なる時間において行われる, 対象の状況の確定である. 出典 :ISO 9000:2015, 3.11.3 5
Codex HACCP 適用の 7 原則 12 手順 1. チーム編成 2. 製品の記述 3. 用途の記述 4. フローダイアグラムの作成 5. フローダイアグラムの現場確認 I/P Process O/P 6. ハザード分析の実施 7. CCPs の決定 8. 管理基準の設定 9. モニタリング手順の設定 10. 改善措置の設定 11. 検証手順の設定 12. 記録のつけ方と保管の手順の設定 6
HACCP の原点 : 製品安全のパラメータを, 製品の 100% を対象にモニタリングする パラメータ ( 例 : 温度 時間 ) のモニタリング 1 番目の製品 管理基準 (CL) 改善措置 ( 安全でない可能性のある製品 ) n 番目 定期的 必要に応じて検証する 7
定義 (CAC/RCP 1-1969, Rev.4-2003) 妥当性確認 (Validation): HACCP プランの要素が効果的であることの証拠の収集 検証 (Verification): HACCP プランに従っていることを決定するために, モニタリングに加えて適用する, 方法, 手順, 試験およびその他の評価 8
定義 (CAC/RCP 1-1969, Rev.4-2003) モニター (Monitor): CCP が管理下にあるか否かを評価するために管理のパラメータを観察する又は測定する, 計画された一連の活動. モニタリング (Monitoring): モニターし, 将来の検証に用いるための正確な記録を作ることをモニタリングといい,HACCP プランにはモニタリングの方法を記述する 9
なぜ,HACCP が世界標準なのか 重要な食品安全ハザードに焦点を当てている 監査可能 (auditable) である ( すなわち検証可能 ) 監査 (audit) の定義 監査基準が満たされている程度を判定するために, 客観的証拠を収集し, それを客観的に評価するための, 体系的で, 独立し, 文書化したプロセス出典 :ISO 9000:2015, 3.13.1 10
検証の必要性 HACCP プランが有効であることを確認するため (validation) HACCP システムが適切かつ効果的に機能していることを確認するため (verification) 定期的な検証の結果から, 自身の HACCP システムの弱点を認識することにより,HACCP プランを修正し, より優れたものにするため 11
検証の種類 1. HACCP プランの妥当性確認 (Validation) 2. HACCP プランごとの検証 (Verification) モニタリングに用いる測定装置の校正 目標を定めたサンプリングおよび検査 記録の見直し 3. HACCP システム全体の検証 消費者からの苦情, 違反事例の確認 HACCP システムの内部検証 ( 監査 ) 最終製品の試験検査 4. 規制当局の検証 ( 監視 監査 ) 12
HACCP システムと PDCA サイクル 0. まずハザード分析 1-1. HACCPプランの作成 1-2. 必須の一般衛生管理プログラム (PRP) の文書化 2. HACCPプランとPRPの運用 3. 定期的に 必要に応じて検証 4. 必要に応じてHACCPプランとPRPの更新 Plan Act Do Check 13
妥当性確認の目的と頻度 目的 : HACCP プランを適切に実行するとき, ハザードが効果的に管理できるかどうかを判断するために, 科学的 技術的情報を収集し, 評価することに焦点を合わせた検証の要素 : 科学的原理およびデータの利用 専門家の意見に頼る 工場内の観察または試験 検査の実施頻度 : HACCP プランの実施前 必要に応じて 14
3(3) 検証の実施 承認制度実施要領 営業者は, 作成した総合衛生管理製造過程を試行し, 食品衛生上の危害の発生が適切に防止されていることを検証する HACCP プランを含む総合衛生管理製造過程の妥当性確認 (Validation) 総合衛生管理製造過程承認制度実施要領 ( 平成 12 年 11 月 6 日生衛発第 1634 号 平成 16 年 2 月 27 日食安発第 0227009 号改定 ) 15
承認制度実施要領別表第 1 承認基準 (10) 管理体制 : 次の要件を満たすものであること 総合衛生管理製造過程の実施に当たり, 従業員への指導, 実施状況の検証結果に基づく評価, 外部査察への適切な対応等について HACCP チームが行う体制が整っていること 危害の発生を防止するための措置 から 記録 (HACCP プランと一般的衛生管理 ) に掲げる業務について, 当該業務に係る責任者が置かれており, かつ, 当該責任者がその業務の内容に応じて, あらかじめ当該業務を行う者を定めていること 業務には 検証 活動が含まれる 検証 (Verification) 16
製品の総合衛生管理製造過程の大要 ( 総括表 ) 原材料, 工程ごとの危害原因物質, 危害発生要因, 防止措置及びその判断 (CCP,PRP の区分 ), 管理基準, モニタリング方法 ( 頻度, 担当者を含む ), 改善措置 ( 担当者を含む ), 検証方法, 記録文書名を一覧表とする 承認基準によれば, CCP は, 管理基準, モニタリング方法, 改善措置, 検証方法, 記録文書 ( すなわち HACCP プラン ) PRP には, 検証方法, 記録文書 ( すなわち衛生管理の方法 ) 17
総括表例 No. 原料 工程 1 受入 潜在的ハザ l ド 重要か Y N 根拠 防止措置 C C P か Y N 腸ビ Y 原料加熱 N ヒスタミン 金属片 管理基準 (CL) Y 原料検査 CCP1 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 Y 原料金探 N 2 解凍汚染 N PP N 〇〇〇〇 3 選別汚染 N PP N 〇〇〇〇 4 加熱腸ビ Y 原料確実に CCP2 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 5 金探 金属片 Y 原料確実に CCP3 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 6 包装ブ菌 N PP N 〇〇〇〇 モニタリング 改善措置 検証 18 記録文書
衛生管理の方法 ア施行規則第 13 条第 4 号又は乳等省令別表三の ( 四 ) に規定する衛生管理の方法は, 次の事項について, 作業内容, 実施頻度, 実施担当者並びに実施状況の確認及び記録の方法を定めていること ( ア ) 施設設備の衛生管理 ;( イ ) 従事者の衛生教育 ;( ウ ) 施設設備及び機械器具の保守点検 ;( エ ) そ族昆虫の防除 ;( オ ) 使用水の衛生管理 ;( カ ) 排水及び廃棄物の衛生管理 ;( キ ) 従事者の衛生管理 ;( ク ) 食品等の衛生的取扱い ;( ケ ) 製品の回収方法 ;( コ ) 製品等の試験検査に用いる機械器具の保守点検 19
衛生管理の方法は, 次の事項について, 定めていること 1 作業内容, 2 実施頻度, 3 実施担当者並びに, 4 実施状況の確認および記録の方法 求められているのは, モニタリング ( 実施状況の確認 ) と, その記録 20
HACCP についての相当程度の知識を持つと認められる者の要件 1/2 1. HACCP による衛生管理の特徴を理解し 当該施設内の従事者に対し 説明できる 2. HACCP チームのメンバー 従事者を支援する 3. 複数施設のフローダイアグラム 施設の図面が作成できる 4. 必要な情報を収集しハザード分析を行って 危害要因リストを作成できる 5. ハザード分析に当たって 潜在的なハザードを管理する前提条件プログラムを特定できる 21
HACCP についての相当程度の知識を持つと認められる者の要件 2/2 6. ハザード分析によって CCP で管理すべき重要なハザードを特定できる 7. CCP ごとの HACCP プランを作成できる 8. 適切に検証を行い 当該結果に基づき 必要に応じ HACCP プランを修正できる?? 9. HACCP 実施の前提となる一般的衛生管理の方法を記載した文書を 適切に作成できる 10. その他非常事態に対して対応できる能力を有する 22
HACCP システムの内部検証 ( 監査 ) 1. 現場の確認 (walk through) 2. 記録の確認 モニタリングに用いる測定装置の校正 目標を定めたサンプリングおよび検査 HACCP 記録および PRP 記録 ( 抽出 ) 3. HACCP システム全体の検証 消費者からの苦情, 違反事例の確認 最終製品の試験検査 必要なときに検証 更新の実施 23
システム維持 改善の急所 ~ 必要なときを知っているか?~ HACCP システム全体の検証を定期的に実施しているか 必要なときに実施しているか 重要なハザードを知っているか 必要なとき 製品 用途の変更 製品仕様の変更 : 配合 包装 賞味期限等 加工方法, 工程設備の変更 管理手段の変更 クレーム 人員配置やそのレベル ハザードに大きく影響する PRP の変更 新たな情報等 24
HACCP のゴール 重要なハザードが管理されていること 記録に不正がないこと 逸脱を見逃さないこと ただし,HACCP は単独では機能しない 25
HACCP システムと PDCA サイクル 7 原則 12 手順に従って, 1. Plan: HACCPプランとPRPはモニタリングプラン 2. Do: HACCPプランとPRPどおり運用 3. Check: 定期的に 必要に応じて検証 4. Act: 必要に応じてHACCPプランとPRPの更新 施設基準 管理運営基準 一般衛生管理の実施状況の確認 記録 HACCP 製品回収プログラム 試験検査の品質管理 (LQC) 26
HACCP を形骸化させないために 科学的 合理的根拠に基づく HACCP プラン PDCA サイクルとプロセスアプローチを活用 : 妥当性確認 モニタリング 検証 再妥当性確認 マネジメントシステムは人 ( 当事者 ) が作る第三者の検証 ( 監査 ) の前に内部検証 ( 監査 ) を実施 Trust what you can verify! I/P Process O/P 27
ご清聴ありがとうございました Plan Act Do Check 28