【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

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PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

非磁性原子を置換することで磁性・誘電特性の制御に成功

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

マスコミへの訃報送信における注意事項

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

平成22年11月15日

2 磁性薄膜を用いたデバイスを動作させるには ( 磁気記録装置 (HDD) を例に ) コイルに電流を流すことで発生する磁界を用いて 薄膜の磁化方向を制御している

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

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互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

受付番号:

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

マスコミへの訃報送信における注意事項

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

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ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

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背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

平成18年2月24日

金属酸化物からなる光相転移材料の創製

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特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

4. 発表内容 : 1 研究の背景と経緯 電子は一つ一つが スピン角運動量と軌道角運動量の二つの成分からなる小さな磁石 ( 磁 気モーメント ) としての性質をもちます 物質中に無数に含まれる磁気モーメントが秩序だって整列すると物質全体が磁石としての性質を帯び モーターやハードディスクなど様々な用途

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

Microsoft PowerPoint - 物質の磁性090918配布


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磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

実験題吊  「加速度センサーを作ってみよう《

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03マイクロ波による光速の測定

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電磁気学 A 練習問題 ( 改 ) 計 5 ページ ( 以下の問題およびその類題から 3 題程度を定期試験の問題として出題します ) 以下の設問で特に断らない限り真空中であることが仮定されているものとする 1. 以下の量を 3 次元極座標 r,, ベクトル e, e, e r 用いて表せ (1) g

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

Microsoft Word - 9章(分子物性).doc

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有機4-有機分析03回配布用

図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

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重希土類元素ジスプロシウムを使わない高保磁力ネオジム磁石

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平成**年*月**日

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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カイラル秩序をもつ磁性体のスピンダイナミクス

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

: (a) ( ) A (b) B ( ) A B 11.: (a) x,y (b) r,θ (c) A (x) V A B (x + dx) ( ) ( 11.(a)) dv dt = 0 (11.6) r= θ =

スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

第 2 種電気主任技術者資格認定科 ( 平成 12 年度以降入学 ) 区分 学 科 1 年 2 年 3 年 年 5 年 区 分 別 修 得 科 単 位 1 電気磁気学 単位中 1 単位修得すればよいが次の科 電 必 電気計測 2 は必ず修得しなければならない 電気磁気学 電気工学序論

⑧差替え2_新技術説明会_神戸大_川南

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

スライド 1

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論文の内容の要旨

Microsoft Word - 01.doc

第 4 週コンボリューションその 2, 正弦波による分解 教科書 p. 16~ 目標コンボリューションの演習. 正弦波による信号の分解の考え方の理解. 正弦波の複素表現を学ぶ. 演習問題 問 1. 以下の図にならって,1 と 2 の δ 関数を図示せよ δ (t) 2

1 薄膜 BOX-SOI (SOTB) を用いた 2M ビット SRAM の超低電圧 0.37V 動作を実証 大規模集積化に成功 超低電圧 超低電力 LSI 実現に目処 独立行政法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 ( 理事長古川一夫 / 以下 NEDOと略記 ) 超低電圧デバイス技術研究組合(

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発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

Microsoft PowerPoint - machida0206

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

ACモーター入門編 サンプルテキスト

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平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

昆虫と自然 2010年12月号 (立ち読み)

Microsoft PowerPoint - 第5回電磁気学I 

 

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2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

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2014 年電子情報通信学会総合大会ネットワークシステム B DNS ラウンドロビンと OpenFlow スイッチを用いた省電力法 Electric Power Reduc8on by DNS round- robin with OpenFlow switches 池田賢斗, 後藤滋樹

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平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

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B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

Transcription:

未来の磁気メモリー材料開発につながる新たな電気分極成分を発見 1. 発表者 : 徳永将史 ( 東京大学物性研究所准教授 ) 赤木暢 ( 東京大学物性研究所 PD: 現在大阪大学理学研究科助教 ) 伊藤利充 ( 産業技術総合研究所電子光技術研究部門上級主任研究員 ) 宮原慎 ( 福岡大学理学部准教授 ) 三宅厚志 ( 東京大学物性研究所助教 ) 桑原英樹 ( 上智大学理工学部教授 ) 古川信夫 ( 青山学院大学理工学部教授 ) 2. 発表のポイント : ビスマスフェライトという物質において磁場で制御できる新たな電気分極成分を発見し この新しい成分が室温で示す不揮発性メモリー効果を観測しました ビスマスフェライトにおいてこれまで見つかっていなかった上記の性質を 瞬間的に発生可能な世界屈指のパルス強磁場を用いた精密実験で初めて明らかにしました 磁場で電気分極成分を制御できる性質は 消費電力が少なく磁石を近づけても情報が消えない磁気メモリー材料といった応用技術の発展につながると期待されます 3. 発表概要 : コンピューターメモリーの高密度化は これまでメモリーをより狭い領域に作り込む微細加工技術の進展に支えられてきましたが その延長による高密度化はほぼ限界を迎えています そこで原子レベルでメモリーとして機能する物質を開発することへの期待が高まっています その有力な候補物質として磁性体であり強誘電体でもあるビスマスフェライト ( 注 1) という物質が注目されてきました 東京大学物性研究所の徳永将史准教授らの研究グループは 産業技術総合研究所 福岡大学 上智大学 青山学院大学と協力して 瞬間的に大きな磁場を発生できるパルスマグネット ( 注 2) を用いた精密な実験の結果 ビスマスフェライトでこれまで知られていなかった新たな方向の電気分極 ( 注 3) を発見し その電気分極が磁場によって制御できることを示しました この電気分極は一度磁場を加えると元と異なる状態に変化し 磁場を除いた後でも変化後の状態を保持し続けます 電気分極の向きで情報を記録するメモリーとしての使用を考えると 今回観測された効果は特定の状態を保持するのにエネルギーを必要としない不揮発性メモリー効果であり その効果は室温でも観測されています この成果から期待される 電場による磁気状態の制御を使うと 消費電力が少なく 磁石を近づけても情報が乱されない磁気メモリー材料に応用できると期待できます 1

4. 発表内容 : 磁性と強誘電性が共存するマルチフェロイック ( 注 4) 物質は 将来の省電力メモリーデバイスの候補として盛んに研究されてきました しかしこれまでに見つかったマルチフェロイック物質のほとんどは マイナス 200 以下の温度でしかその特性を示さず それが実用化に向けた大きな障壁となっていました その中で唯一 室温でマルチフェロイック特性を示す物質がビスマスフェライトです この物質が室温でマルチフェロイック状態にあることは広く知られていましたが 実用上は磁性と誘電性の片方を変化させたときにもう片方も変化するという性質が重要です 今回 この磁性と電気分極との結合について これまで認識されていなかった新たな現象が発見されました 東京大学物性研究所の徳永将史准教授らの研究グループは 産業技術総合研究所で最近作製に成功したビスマスフェライトの良質な単結晶試料に対し 東京大学物性研究所の国際超強磁場科学研究施設で強磁場下における磁気的および電気的応答を精密に調べました この精密測定に必要な試料の整形は上智大学の装置を用いて行いました その結果 これまで知られていた結晶の c 軸と平行な電気分極の他に これと垂直な電気分極が存在すること そしてこの新たな電気分極成分が磁場によって制御可能であることがわかりました ビスマスフェライトでは図 1 に示すように 結晶中のある方向 (Q) に向かって磁気モーメントの向きが連続的に変化するらせん磁気秩序を起こしています 今回の研究では この Q を図 1の中で X 方向に向けた時 Y 方向 ( 正負は不明 ) に電気分極が生じることを示しました 福岡大学と青山学院大学の理論グループは この Q と垂直方向に生じる電気分極の微視的な説明に成功しており 今後の関連物質の物質設計にも新しい指針となることが期待されます ビスマスフェライトでは安定な三つの磁気構造があります ( 図 2 左 ) 磁場を加えると 磁場と垂直方向を向いた Q をもつ状態が安定になるため この三つの状態のうち一つを選択的に実現できます ( 図 2 右 ) それにともなって磁気秩序に付随する電気分極も 120 度ずつ回転した三つの状態のうち 一つを選択することができます 一度磁場を加えて状態を変えると 磁場を取り除いた後でも変化後の状態が続くため ( 図 3) 不揮発性メモリーとしての性質を備えています 今回発見した新しい電気分極を使ったメモリー効果は 将来の磁気メモリー ( かつ強誘電メモリー ) としての使用が期待できます 実用的なメモリー材料として考えた時 この物質の利点として以下の三つの特徴が挙げられます 1 動作環境ビスマスフェライトのマルチフェロイック状態は 300 以上まで続くことが知られており 今回のメモリー効果は少なくとも室温 (27 ) までは観測されています ( 図 3 挿入図 ) またこれまでの磁気メモリーでは磁石を近づけると情報が消えてしまうという問題がありましたが ビスマスフェライトの電気分極は 最強の永久磁石による磁場 (1 テスラ ) 程度ではほとんど変化しておらず ( 図 3) 日常生活における磁場範囲では安定です 2 3 値のメモリーこの物質で安定ならせん磁気秩序の方向 それに付随した電気分極の方向は三つあります この三つの状態を使うと これまでの 0 と 1 の 2 値メモリーではなく 3 値のメモリーになります N 個のビットで現せる状態が これまでの 2 N 個から 3 N 個に増えるため より高密度の情報記録にも応用できる可能性があります 2

3 作製の容易性物質自身がメモリーとしての機能を保有しているため特殊な構造を作る必要がなく 高密度記録に必要な微細化が容易です また比較的単純な構造を持ち かつ使用元素の種類が少ない点も 将来の量産化に向けたメリットとなります 今回の研究では 磁場による電気分極の制御を示しましたが 省電力メモリーとしての実用化には電場による状態の制御が必要です その実証は今後の課題ですが これまでのビスマスフェライトに対する報告を今回の成果に照らして考えると 電場による制御は十分可能であると予想されます 今後 実際のメモリーとしての動作に必要な電場による磁気秩序 電気分極の制御とその直接観測を目指して研究を発展させる予定です この研究成果は科学研究費補助金 ( 補助金番号 23340096, 25287088, 25610087, 25800189) および公益財団法人三菱財団の助成により得られたものです 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Nature Communications 論文タイトル :Magnetic control of transverse electric polarisation in BiFeO3 著者 : Masashi Tokunaga*, Mitsuru Akaki, Toshimitsu Ito, Shin Miyahara, Atsushi Miyake, Hideki Kuwahara, and Nobuo Furukawa DOI 番号 :10.1038/ncomms6878 アブストラクト URL:http://www.nature.com/naturecommunications 6. 注意事項 : 日本時間 :1 月 9 日 ( 金 ) 午後 7 時英時間 :1 月 9 日 ( 金 ) 午前 10 時以前の公表は禁じられています 7. 問い合わせ先 : 東京大学物性研究所准教授徳永将史 ( とくながまさし ) E-mail: tokunaga@issp.u-tokyo.ac.jp 電話 04-7136-5322 8. 用語解説 : ( 注 1) ビスマスフェライトフェライトの一種であり BiFeO3(Bi: ビスマス Fe: 鉄 O: 酸素 ) の化学式で表される 代表的な強誘電体であるチタン酸バリウムや超巨大磁気抵抗で知られるマンガン酸化物と同様のペロフスカイト構造を基本とした結晶構造を持つ 鉛の含まれない強誘電体として大きな自発電気分極を持ち 室温で強誘電性と磁性が共存する特徴を持つ ( 注 2) パルスマグネット瞬間的にしか発生できない極限的磁場を発生するために開発された電磁石 本研究で使われたマグネットは 8 ミリ秒の時間内に最大 56 テスラまでの磁場を発生することができる 高速な磁場変化を利用して磁場化における磁化や電気分極のわずかな変化も敏感に計測することができる 3

( 注 3) 電気分極物質の中で正電荷と負電荷の分布の偏りによって生じる電気的な分極 ( 注 4) マルチフェロイック広義には強磁性 強誘電 強弾性など 複数の強的秩序が共存する状態 狭義には強誘電体であり 同時に磁気秩序も示す物質を意味する 通常磁性と強誘電性は排他的であるが 磁気メモリーへの応用などに向けて研究が進み この約 10 年の間に多数のマルチフェロイック物質が発見されている 4

9. 添付資料 : Z Q Y X 図 1 模式的に示した磁気モーメントと新規電気分極成分の関係 X, Z 方向はそれぞれ結晶の a, c 軸と平行である Q 2 Z Y Q 1 X H Y Q 2 P T Z Y X Q 3 0" Y 図 2 ビスマスフェライトの結晶における分極配向の模式図 図の Y 方向に磁場を印加すると左図にある 3 つの Q 方向 (Q 1, Q 2, Q 3) で表される磁気構造のうち Q 2 の構造が安定になり ( 右図 ) Y 方向に正味の電気分極が生じる 5

図 3 電気分極の磁場依存性 初期に磁場を加えた過程 ( 破線 ) と 2 回目以降に磁場を加えた過程 ( 実線 ) の差がメモリー効果を表す 挿入図は 27 (300K) の温度で観測された電気分極の非可逆成分 不揮発性メモリー効果が室温で実現していることを表している 図 4 模式的に表した 3 値メモリー 図 2 に示した 3 方向の Q のうち一つを磁場または電場で 選択することで 電気分極方向が 120 度異なる 3 つの状態を表現できる 6