Microsoft Word - 別紙2【研究成果のリリース文】太田邦史【最終版】

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

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Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

生物の形質改良を加速する新しいゲノム改良技術の発明 大規模ゲノムシャフリング技術 TAQing システム 1. 発表者 : 小田有沙 ( 東京大学大学院総合文化研究科特任助教 ) 中村隆宏 ( 東京大学大学院総合文化研究科助教 ) 太田邦史 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授東京大学生

Microsoft Word - 【リリース】アリの子育ては不眠不休【最終版】HP用

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

生物時計の安定性の秘密を解明

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

脂質が消化管ホルモンの分泌を促進する仕組み 1. 発表者 : 原田一貴 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程 2 年 ) 北口哲也 ( 早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所主任研究員 ( 研究当時 )) 神谷泰智 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程 2 年 (

2017 年 2 月 6 日 アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに ~ 光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり ~ 研究の概要 神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師 鳥取大学農学部の上中弘典准教授 三浦千裕研究員 千葉大学教育学部の

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

長期/島本1

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

Microsoft Word - 熊本大学プレスリリース_final

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

平成14年度研究報告

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

1. 背景ヒトの染色体は 父親と母親由来の染色体が対になっており 通常 両方の染色体の遺伝子が発現して機能しています しかし ある特定の遺伝子では 父親由来あるいは母親由来の遺伝子だけが機能し もう片方が不活化した 遺伝子刷り込み (genomic imprinting) 6 が起きています 例えば

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

学報_台紙20まで

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx


今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

図 1 ヘテロクロマチン化および遺伝子発現不活性化に関わる因子ヘテロクロマチン化および遺伝子発現不活性化に関わる DNA RNA タンパク質 翻訳後修飾などを示した ヘテロクロマチンとして分裂酵母セントロメアヘテロクロマチンと哺乳類不活性 X 染色体を 遺伝子発現不活性化として E2F-Rb で制御

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

人工知能補足_池村

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

論文の内容の要旨

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

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なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. 発表者 : 山田泰広 ( 東京大学医科学研究所システム疾患モテ ル研究センター先進病態モテ ル研究分野教授 ) 河村真吾 ( 研究当時 : 京都大学 ips 細胞研究所 / 岐阜大学

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スライド 1

Microsoft Word - 研究報告書(崇城大-岡).doc

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

平成 25 年 10 月 7 日 (3303: 上皮管腔組織形成 ) 菊池章殿 生物系委員会主査 平成 25 年度科学研究費補助金 新学術領域研究 ( 研究領域提案型 ) の 中間評価結果について 平成 25 年 9 月 5 日に実施した生物系委員会における中間評価の結果 あなたを領域代表者とする研

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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博士学位論文審査報告書

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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共同研究報告書


第6号-2/8)最前線(大矢)

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

資料110-4-1 核置換(ヒト胚核移植胚)に関する規制の状況について

いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

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カブトムシなどの昆虫の武器の大きさが環境に応じて変化するしくみ 細胞の記憶システムであるエピゲノムが関与 1. 発表者 : 小澤高嶺 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻特任研究員 ) 岡田泰和 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻助教 ) 太田邦史 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授 ) 2. 発表のポイント : カブトムシやクワガタなどの昆虫の 武器 は 生育時の栄養によって大きさが顕著に変 わることが知られています 今回 その個体差が生まれるしくみを明らかにしました 武器の大きさは DNA 配列だけによらず環境に応じて書き換え可能な細胞メモリー機構 である エピゲノム によって とくに環境に影響を受けやすいことがわかりました 本研究により 生物がエピゲノムを介して環境に適応し 多様な姿をとる仕組みが明らかにされ 大型の角 アゴを持つカブトムシ クワガタの育成や 同様な機構で人が発症す る生活習慣病の克服などに結びつく可能性があります 3. 発表概要 : 昆虫などの動物では 同じ DNA をもっていても 環境に応じてその姿を様々な形に変化さ せることができます たとえば 個体の密度によって姿を変えるサバクトビバッタや 幼虫期 の栄養でその生涯 ( 女王か働き蜂 ) が大きく変わるミツバチなどが知られています 武器甲虫 であるカブトムシの角やクワガタの大アゴも 幼虫期の栄養条件によって著しく大きさが変化 します 面白いことに この性質は人間の疾患などにも関与することが最近わかってきました このような個体の差を生み出すしくみの一つとして 同一ゲノム情報を持つ細胞にさまざま な個性を与える エピゲノム ( 注 1) という機構が注目されています しかし エピゲノムと 表現型可塑性の関係については不明な点が多く残されていました そこで 本研究では武器をもつ甲虫 オオツノコクヌストモドキ をモデルとして用い 幼 虫時の栄養によって大きく影響を受ける大アゴのサイズが エピゲノムに関わる因子によって どのように制御されているかを調べました まず この昆虫で機能しているエピゲノム関連遺 伝子を超高速 DNA 配列解析装置によって網羅的に探し出し RNA 干渉 ( 注 2) という方法で 片端からそれらの働きを一つ一つ弱める実験を行うことで どの因子が重要な働きをしている かを明らかにしました その結果 ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC 注 3) の働きにより とくに武器サイズが幼虫期の栄養状態に応じて変化しやすくなっていることがわかりました 興味深いことに HDAC の働きに影響を与えた時に 大アゴとハネの大きさが逆方向に変化す ることも明らかになりました 以上の結果から 環境に応じてサイズが変化しやすい武器は エピゲノムによって発生初期に予め特別な調節がおこなわれていることが はじめてわかりま した 4. 発表内容 : 背景生物はたとえ同じ DNA をもっていても 環境に応じてその姿を様々な形に変化させることができます ( 表現型の可塑性 という ) たとえば 集団密度に依存してハネの長さを変える

サバクトビバッタや ローヤルゼリーの給餌によって幼虫期に階級が決定 ( 女王あるいは働き 蜂 ) するミツバチは その好例です ヒトにおいても 胎児期や成長期の栄養環境は成長後の 体質に様々な影響を与えています 表現型可塑性のなかでもとりわけ顕著なのは カブトムシやシカの角 クジャクの羽根など 動物が持つ武器や装飾器官です これらは成長期の栄養環境によって著しい個体変異を示しま す 武器や装飾器官は 配偶相手を巡るオス同士の闘争や 異性へのアピールのため進化して きたと考えられています ( 性選択 ) 武器は生存そのものには必須ではありません そのため 充分な栄養を得られなかった個体は 武器への投資を 節約 して小さくします 一方 栄養 条件の良い個体は資源を大いに武器に投資して巨大化させ 配偶相手の獲得を有利にします このような性選択形質の著しい変異性は 多くの動物に広くみられる普遍的な性質です 近年 生物の複雑で精巧な作りを支える仕組みとして エピゲノム という DNA 配列によ らない細胞記憶機構が注目されています 一つの受精卵に由来する細胞は 発生が進むにつれ て 心臓や目などのさまざまな組織や器官に分化します このとき DNA や それを取り巻く ヒストンというタンパク質に メチル基などの官能基が結合する エピゲノム制御 が細胞の 個性化を運命付けます ips 細胞技術では この細胞の記憶を人工的に喪失させることで いろいろな細胞に変化する能力を生み出します また 細胞は発生時の環境を記憶し それに応 じてさまざまな状態変化をもたらすと考えられています これにより たとえば胎生期の影響 状態により 胎児の生涯の疾患リスクが変化することも知られています 内容 本研究では 武器をもつ甲虫 オオツノコクヌストモドキ を用いて 闘争に用いる大アゴ のサイズ ( 栄養によって大きく影響を受ける ) が エピゲノムに関わる因子によってどのよう に制御されているかを調べました 具体的には 超高速並列 DNA 配列解析装置を用いて本種 の主要なエピゲノム制御因子の遺伝子配列を決定し RNA 干渉によってエピゲノム制御遺伝 子を網羅的に不活性化しました その結果 エピゲノムを制御する因子の一種 ヒストン脱ア セチル化酵素 (HDAC) の一部が オオツノコクヌストモドキの大アゴ発達に特異的に影響を もたらしていることが明らかになりました HDAC の不活性化は大アゴに強い影響を持つ一方で 他の器官への発生の影響は軽微でした この結果から 環境に応じて影響を受けやすい器 官ほど エピゲノム制御因子による支配が強いことがわかりました 本研究では 武器サイズ の著しい変異性と エピゲノム制御の関連をはじめて明らかにしました 影響 波及効果発生 発達過程での環境がいかにして個体のその後の性質や疾患リスクに影響するかは ゲノム医科学や細胞生物学 遺伝学 再生医学 行動学 生態学 進化学など 現代の多くの生物学分野にとって中心的な課題です 細胞の可塑性と形態発生の可塑性に共通性を見出した本研究は 将来的には基礎から応用まで幅広い分野への波及効果が期待されます 本研究は生態発生学を専門とする岡田泰和 ( 東京大学助教 ) および分子生物学を専門と する太田邦史 ( 東京大学教授 ) らによる分野横断的な共同研究として実施されたものです また 本研究の一部は 山田科学振興財団および 創薬等ライフサイエンス研究支援基 盤事業 生命動態拠点研究費 科学研究費補助金 ( 新学術領域研究費 挑戦的萌芽研究費 ) により 文部科学省と日本医療研究開発機構を通して助成されました

5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Proceedings of National Academy of Science USA Early Edition ( 米国科学アカデミー紀要 ) ( オンライン速報版 2016 年 12 月 12 日掲載予定 ) 論文タイトル :Histone deacetylases control module-specific phenotypic plasticity in beetle weapons 著者 :Takane Ozawa, Tomoko Mizuhara, Masataka Arata, Masakazu Shimada, Teruyuki, Niimi, Kensuke Okada, Yasukazu Okada, and Kunihiro Ohta DOI 番号 :doi/10.1073/pnas.1615688114 アブストラクト URL:http://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1615688114 6. 問い合わせ先 : 東京大学総合文化研究科助教岡田泰和 ( おかだやすかず ) 153-8505 東京都目黒区駒場 3-8-1 Tel:03-5454-6794 / 090-1386-2555 okayasukazu@gmail.com 東京大学総合文化研究科教授太田邦史 ( おおたくにひろ ) 153-8505 東京都目黒区駒場 3-8-1 Tel:03-5465-8834 Fax:03-5465-8834 kohta@bio.c.u-tokyo.ac.jp 7. 用語解説 : ( 注 1) エピゲノム 環境に応じて柔軟に変化可能な細胞の記憶のしくみ ソフトな遺伝 DNA に結合するクロマ チンや DNA そのものに対するメチル基などの結合によって 後天的な記憶のためのマークが入ることによって維持される ( 注 2)RNA 干渉 短い二本鎖の RNA を細胞内に導入すると 同じ配列を持つ遺伝子だけが発現を抑制され 機 能が制限される現象 これを用いることで 特定の遺伝子の機能を効率的に解析できる ( 注 3) ヒストン脱アセチル化酵素 エピゲノムを制御する因子の一つ ヒストンに結合したアセチル基を外す酵素で 遺伝子発現 の制御に関与する 抗癌剤や抗てんかん薬の一種はこの酵素の働きを抑制する

8. 添付資料 : ノコギリクワガタ オオツノコクヌストモドキ 幼虫期の栄養貧 富 貧栄養 富栄養 図 1: 甲虫の武器形態の栄養依存性クワガタの大アゴなどの武器は 幼虫期の栄養状態が悪いと 相対的なサイズが小さくなり 逆に栄養が良い時は 極端に大型化する Ozawa et al., PNAS, 2016, doi/10.1073/pnas.1615688114 より一部改変 )

図 2:HDAC の機能阻害をしたオオツノコクヌストモドキの頭部 ( 走査型電子顕微鏡像 ) HDAC1 を阻害すると大顎が小型化し HDAC3 を阻害すると逆に肥大化する (HDAC の機能を阻害した際の大アゴ部分を 画像上で着色してあります ) Ozawa et al., PNAS, 2016, doi/10.1073/pnas.1615688114) 表現型の可塑性の調節 図 3 大顎とハネにだけ HDAC 阻害の影響が強く出る 両者の変化の方向は逆である Ozawa et al., PNAS, 2016, doi/10.1073/pnas.1615688114 より一部改変 )