カンキツの土づくりと樹勢回復対策 近年高品質果実生産のために カンキツ類のマルチ栽培や完熟栽培など樹体にストレスをかける栽培法が多くなっています それにより樹体への負担が大きく 樹勢が低下している園地が増えています カンキツ類を生産するうえで樹が適正な状態であることが 収量の安定とともに高品質生産の

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新梢では窒素や燐酸より吸収割合が約 2 分の1にまで低下している カルシウム : 窒素, 燐酸, カリとは異なり葉が52% で最も多く, ついで果実の22% で, 他の部位は著しく少ない マグネシウム : カルシウムと同様に葉が最も多く, ついで果実, 根の順で, 他の成分に比べて根の吸収割合が高い

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強い乾燥をうけるとこはん症の発生原因となりますので例年こはん症が発生する園では土壌改良をします ⑴土壌pHの改良土壌の最適pHは5.5~6.5です 苦土石灰施用後数年経過すると酸性になりますので何年も施用していない園では本年は施用しましょう 葉の縁がチョコレート色の斑点が発

目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り

コシヒカリの上手な施肥

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取組の詳細 作期の異なる品種導入による作期分散 記載例 品種名や収穫時期等について 26 年度に比べ作期が分散することが確認できるよう記載 主食用米について 新たに導入する品種 継続使用する品種全てを記載 26 年度と 27 年度の品種ごとの作付面積を記載し 下に合計作付面積を記載 ( 行が足りない

から1月下旬から2月上旬です 収穫が遅くなると陽光面が回青して淡黄色くなることから遅れないようにします 収穫後は4%程度の予措をした後 中晩柑の貯蔵管理をします 3 土壌管理1月から2月は土壌改良を実施する時期です 土壌条件が悪く夏季に強い乾燥をうけると虎班症の発生原因とな

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2 地温 : 15~25 の温度帯に緩効性効果が一番高い 30 を超えると ウレアーゼ抑制材の分解が加速する上 微生物の繁殖も速くなり 微生物の活性を抑える効果が低くなる 3 土壌 ph: 弱酸性土壌 (ph5.5) からアルカリ性土壌 (ph8.0) まで土壌 ph が高いほど緩効性効果も高くなる

(1) 泥炭 ( ピート ) 泥炭は 土壌の膨軟化や保水性の改善を用途とした土壌改良資材である これは 泥炭が土壌中での分解が遅く有機物の蓄積性が高いことと 重量に対して10~30 倍の水分を保持できるためである また 分解 ( 腐植化 ) が進むにつれてCEC を増大させるため 土壌の保肥力を高め


VII

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930,000 6,000 7,170 55, , ,903 71,314 1,007,217 8,363 47,543 47,543 39,180 3,000 42,180 5,363 3,000 3, , ,594 63,

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手順 5.0g( 乾燥重量 ) のイシクラゲをシャーレに入れ毎日 30ml の純水を与え, 人工気象器に2 週間入れたのち乾燥重量を計測する またもう一つ同じ量のイシクラゲのシャーレを用意し, 窒素系肥料であるハイポネックス (2000 倍に希釈したものを使用 ) を純水の代わりに与え, その乾燥重



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梢の発生が期待できるよう9月には必ず仕上げ摘果を徹底し 適正葉果比に仕上げましょう 着果量が中庸以上の樹では早生温州では9月中 普通温州では10 月上旬までに行いましょう(表2) ⑴着果過多樹着果量が多く肥大が悪い樹は 商品性の低い小玉果や傷果 病害虫被害果を中心に早急に

スプレーストック採花時期 採花物調査の結果を表 2 に示した スプレーストックは主軸だけでなく 主軸の下部から発生する側枝も採花できるため 主軸と側枝を分けて調査を行った 主軸と側枝では 側枝の方が先に採花が始まった 側枝について 1 区は春彼岸前に採花が終了した 3 区 4 区は春彼岸の期間中に採

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S1:Chl-a 濃度 18.6μg/L S1:Chl-a 濃度 15.4μg/L B3:Chl-a 濃度 19.5μg/L B3:Chl-a 濃度 11.0μg/L B2:Chl-a 濃度実測値 33.7μg/L 現況 注 ) 調整池は現況の計算対象外である S1:Chl-a 濃度 16.6μg/

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作業別の留意事項 ここに紹介します留意事項は りんごを栽培する際に特に留意すべき内容を列記したものです また 栽培方法によっては該当しない内容も含まれます 実際の栽培にあたっては 地域の普及指導センターや JA 等に問い合わせいただき 園地条件や品種に適した施肥設計 栽培方法等に基づき栽培してくださ

写真1 自立登はんタイプの緑化 写真2 自立下垂タイプの緑化 写真3 ワイヤー補助資材使用の緑化 写真4 金網補助資材使用の緑化 写真5 フェンス使用の緑化 写真6 ネットを使用した緑のカーテン 写真7 ヤシマット併用金網補助資材と防風 写真8 ヤシマット併用金網補助資材を使用 パネルを使用したヘデ

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2 3

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保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用

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様式第 1 ( 裏面 ) 第 5 条第 3 項関係 有害物質使用特定施設又は有害物質貯蔵指定施設の別 有害物質使用特定施設又は有害物質貯蔵指定施設の構造 有害物質使用特定施設又は有害物質貯蔵指定施設の設備 有害物質使用特定施設又は有害物質貯蔵指定施設の使用の方法 施設において製造され 使用され 若し

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注 ) 材料の種類 名称及び使用量 については 硝酸化成抑制材 効果発現促進材 摂取防止材 組成均一化促進材又は着色材を使用した場合のみ記載が必要になり 他の材料については記載する必要はありません また 配合に当たって原料として使用した肥料に使用された組成均一化促進材又は着色材についても記載を省略す

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Transcription:

カンキツの土づくりと樹勢回復対策 近年高品質果実生産のために カンキツ類のマルチ栽培や完熟栽培など樹体にストレスをかける栽培法が多くなっています それにより樹体への負担が大きく 樹勢が低下している園地が増えています カンキツ類を生産するうえで樹が適正な状態であることが 収量の安定とともに高品質生産の基礎となります 樹勢の維持 強化のためには 樹体を支え 必要な養水分を吸収する健全な根を増やすことが重要です 特に今年は 7~8 月の長雨 日照不足により樹体内の養分も低下していることが予測されます この時期にしっかりと土づくりを行い 根の確保と樹勢の回復に努めてください < 根が伸びやすい土をつくる > 最近は温暖化による過乾燥や除草剤の使用などにより 土壌が固く締まりミカンの根が伸びにくい土壌が多い傾向にあります カンキツの根は酸素要求量が多く 土の中で活発に呼吸を行っています 呼吸量が多く 根活性が高まると養水分の吸収も多くなります 根活性の高い健全な根を増やすには土壌を柔らかく 水はけが良好でかつ過乾燥になりにくい状態 ( 団粒構造が発達した状態 ) に保つことが大切です また 土壌の ph も根の伸長にとって影響が大きく 土壌の酸性化が進むと根の伸長は急激に低下します 本県では雨が多いため養分が流れやすく 現在 ph が低い園も多く見受けられますので 定期的な調査と対応をお願いします 第 1 表は連年安定して高品質ミカンが生産される優良園と それ以外の園の根量を比較しています 優良園では根量が多く とくに表層の細根が多い状況でした この時の優良園の土壌はその他の園に比べ 表層土壌の孔げき率が高く 膨潤で空気を含んでいたため 根の伸長にとってよい条件が整っていたと考えられます ( 第 2 表 ) 表層の細根が増えると土壌を乾燥させた時の水分ストレスがかかり易くなるため マルチの効果も安定させるためにも 土づくりにより表層の細根を確保しましょう < 定期的な土壌診断 > 根が伸びやすい土壌をつくるため 対策を行う前に土壌診断を行い自園の土壌の課題を把握して対策を行う上での方向性を決めましょう まずは樹冠付近の土壌表層をスコップで軽く掘って 白く勢いのある細かい根がたくさんあるか ミミズやダンゴ虫のような生物がいるかどうか ( 土壌生物性 ) を確認してみてください さらに スコップで 10~20cm 程度掘ってみて土壌の硬さや黒色をしている腐植層があるか ( 土壌物理性 ) などを確認してみてください 土壌の硬さは掘った土壌の垂直面を指で押してみて 指が土中に入っていかず 押し返されるようであれば土壌硬度の改善が必要です また 土壌の化学性については ph( 土壌酸度 ) 有効態リン酸 CEC( 陽イオン交換容量 ) などを調査してください ph は比較的簡易に測定できるので毎年調査し石灰資材の散布量の参考にしましょう 他の

項目については 2 年に一度程度のチェックを行い 必要な改善対策を実施してください 健全な根を増やすためには 前項に挙げたように物理性が良好で 化学性が適切で 加えて生物性に富むという 3 要素が揃った地力の高い土壌が必要ですので 以降に挙げる対策を参考にして土づくりを実践してください 実際の対策 < 有機物の施用 > 有機物を施用すると 腐植が補給されることで土壌の団粒構造が促進され 膨潤な状態に維持されるため 根が活動しやすい状態になります 近年は夏秋期の高温 乾燥により有機物の分解が激しいと考えられますので 積極的に施用しましょう 有機物には多くの種類があり期待される効果が違いますので 園地にあった資材を使用してください 例えば 土壌が固くなっているようであれば 比較的分解の遅いバーク堆肥やピートモス またはもみ殻燻炭などをスポット的に土と混和することで 物理性の改善とその維持され 細根が増加します ( 第 1 図 ) ただし ピートモスを使用する場合は ph が低い資材ですので ph を確認し ph 調整されたものを使用するか 石灰資材と混ぜて使用してください また 家畜糞堆肥を使用する場合は糞尿の臭いがしたり 水蒸気が出ている場合は未熟で施用すると根を傷める可能性がありますので 完熟したものを使用してください さらに 家畜糞堆肥は家畜の種類で成分含量や期待される効果が異なります 樹への影響が大きい窒素の無機化については 鶏糞は分解が早く比較的即効性なので 肥料としての性質が強く 土づくりの効果は低いです 牛糞は分解が緩やかで肥効も緩効的ですが 有機物が土壌中に残るので 腐植が増加し土壌改善効果が高いです 豚糞の成分量と効果は 鶏糞と牛糞の中間的な性質です 多くのカンキツ園では腐植の増加などによる土壌改善効果を狙って牛糞堆肥が主に施用されています 牛糞堆肥の場合 施用量は窒素の遅効きによる着色遅延や浮皮の発生を考慮して 10a 当たり 2~3 トン程度をめやすとしています その際 樹幹下に数か所スポット施用することで 施用効果が高まります ( 第 2 図 ) また せん定枝葉をチッパー処理したもののスポット施用は 細根増加の効果が著しく高まりますので 焼却せずに有効利用を図ってください < 石灰施用 > 土壌の酸性化が進んだ園地では 石灰資材を施用し ph を適正な値に改善する必要があります さらに カンキツ類は葉に多くのカルシウムが含まれ石灰植物といわれています 過去の試験では石灰含量の多い樹では他の樹に比べて結実が良好になったり 石灰飽和度の高い土壌では果皮の生理障害が抑制される傾向がみられていますので 不足しないように石灰は必ず施用しましょう 第 3 表には施用量のめやすを載せていますので参考にしてください 石灰資材の効果を高めるには 散布後に土と混ぜることが重要です 特に酸性が

強くなっている園では必ず中耕して土と混ぜてください また 近年では比較的浸透しやすいクエン酸カルシウムの資材も販売されていますので利用を検討してください < 客土 > 今年は夏季の多雨のため 傾斜地園では土壌の流亡が多い園も多かったのではないでしょうか 土壌表層域の土壌流亡が激しく岩礫や太根などが露出している場合は樹勢が低下しやすくなりますので客土を行って下さい 客土に用いる土は自分の園地と性質の異なる土壌を選択すると効果が増します 例えば 自分の園地が砂質土壌で 保水力や保肥力が低いなら 粘土質の多い土壌を利用してください 客土の厚さは 2~3cm を目安にして 年次計画を立てて樹冠下から徐々に行って下さい < 中耕 > 中耕による適度な断根は新たな根の発生を促します その際 石灰資材や有機物を混ぜ込むことで資材の施用効果が高まります ただし 過剰な中耕は断根の悪影響が懸念されるため 2~3 年計画で園地全体の作業を終えるようにしてください また 機械中耕できない場合でも樹幹下数か所をスコップでたこつぼ状に資材と混和することで同じような効果が期待できます その他の対策 < 園地整備排水対策 間伐など > 今年度は夏季の長雨により 特に極早生温州ではマルチ園でも十分に糖度が上がらなかった園地も多かったのではないでしょうか マルチの効果を高めるには土壌乾燥をスムーズに進行させるため 園内の雨水の流入や停滞がないように園地を整備する必要があります 停滞水が見られた園地では断根の影響が少ない 1~2 月末に溝きりなどの排水対策を行ってください また 園外からの流入が見られる園地でも圃場の周囲に排水溝を整備してください 具体的には樹間や園地の周囲に溝を掘り水を流したい方向に傾斜をつけます さらに マルチ被覆前の時期には雨水が沁みないように溝をビニールマルチで覆って下さい 全面マルチで被覆した後はマルチの端を溝に垂らし降った雨が溝からスムーズに排出されるようにします ( 第 3 図 ) マルチ被覆をしているにも関わらず長年品質の上がってない園では樹体水分ストレスが十分にかかっていないと考えられますので ぜひ実施をお願いします また 樹が大きくなり密植となっている園では栄養競合おこったり 日当たりが悪くなるため 果実品質が上がりにくかったり 樹勢が低下してしまう可能性があります 計画的に縮伐や間伐を行って下さい 加えて 防風樹の刈込や園地周辺の雑木の伐採もこの時期に行い 日照不足による発芽遅延や結実不良が起こりにくい環境を整えてください

< 葉面散布 > 10 月号でも紹介しましたが 窒素の葉面散布は樹勢の回復に効果的ですので 実施をお願いします 収穫後に 300 倍程度の尿素液を 10 日置きに 3 回程度散布することで葉中窒素を高めることができます ただ 極端に樹勢が低下した樹に 300 倍の尿素液を葉面散布すると 落葉などを助長することもありますので その場合は 500 倍以下の低濃度の尿素液か 市販の窒素主体の葉面散布剤を使用してください 散布される際は 0 前後の低温時また寒波襲来前の散布は避け 温暖な日に実施して下さい 土づくりは剪定や摘果に比べて効果が見えにくく また労力もかかるため後回しになりがちな管理です しかし 毎年継続して行っていくことで 表層の根量の増加など徐々に変化が現れ 連年結実と果実品質向上させられる樹体が作られていきますので 年次計画を立てて着実に進めていってください

第 1 表マルチ栽栽培園における細根の垂直分布 ( 佐賀果試 H.7) 層位 0~5cm 5~10cm 10~30cm 30~50cm 総計 g (%) g (%) g (%) g (%) g マルチ優良園マルチ対照園 6.83 (42.6) 2.91 4.92 (40.0) 1.72 (18.2) 4.33 (14.0) 4.40 (27.0) 1.96 (12.2) (35.7) 1.28 (10.3) 16.03 12.31 品種 : 大津 4 号 ( ) 内の数値は全体の根量量に対する割合 調査日 :9/14 第 2 表マルチ栽培園における土壌の物理性 マルチ栽培園 層位固相率 気相率 液相相率 含水率 優良良園 1 2 40.3 42.8 % 33.1 22.5 % 26.6 34.8 % 19.7 23.0 % 3 43.9 15.0 41.1 25.4 対照照園 1 42.1 28.1 29.8 20.6 2 43.9 19.9 36.3 22.5 3 46.8 15.3 37.9 22.4 1 層 :5~10cm 2 層 :25~30cm 3 層 :45~50cm 第 2 図スポット施施用の例 第 1 図有機物のスポット施用用による根の生育促促進効果 第 3 表土壌の ph および土土質ごとの石石灰施用量の目安 第 3 図マルチ併用のみぞきり栽培