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度条件毎に出力電流が定常になったとみなせる 30 分後の値を低湿度側から測定していった 電極間距離 d=31μm 各 NaCl 塩付着量における出力電流と相対湿度 RH との関係を図 4 に示す 0.1nA をしきい値としたときの臨界湿度は 付着 NaCl なしのとき約 75% であるが 同 0.15mg/cm 2 のとき約 45% と大きく低下する 出力電流に及ぼす電極間距離 d の影響を図 5 に示した 相対湿度が 65 56% と低下してくると出力電流の d 依存性が現れるようになり d が小さいほど大きい出力が得られる 2b) 被膜下に埋め込んだセンサの挙動 Fe/Cu 異種金属対露出面に 直ちに腐食を開始しうるための条件として 0.15 mg/cm 2 の NaCl 塩を付着させたのち 25 の恒温恒湿槽内に入れ相対湿度 70% の環境中で 比較的耐水性に劣るアクリル系クリヤー塗料 ( 大日本塗料社 オートアクローゼスーパー ) をアプリケータを用いてδ=21μm の厚さ塗布し そのまま乾燥させた このようなセンサを 1mol/l NaCl 水溶液中に浸漬し 10h 後の出力電流を電極間距離 (d) に対して整理した結果を図 6 に示す 測定値は非常にばらつくが d が小さいほどばらつきは小さく かつ下限値は大きいことがわかる この下限値について 浸漬時間 2 および 5h 後のデータを併せて 電極間距離 (d) 毎に出力電流の経時変化を整理して図 7 に示した 電流は浸漬時間 5h でほぼ定常値に達しており その値は d が小さいものほど大きい d を 200μm から 40μm にすることにより電流出力を約 2 桁大きくできている 塗膜が健全な場合の下地での腐食機構 10) は図 8 の (a) (b) の二つに大別できる 腐食電流 16

は (a) では 2 度塗膜を貫通するが (b) では塗膜 / 下地界面を通り塗膜貫通はしない 出力電流のうち電極間距離に依存する成分は (b) に示す機構によるものと思われる 3. 高出力化センサの試み従来型サイズのセンサでの検討において 電極間距離 (d) を短縮してゆくことがセンサの出力を上げる効果をもつことがわかった 2 の方式では 31μm までが限度であったので これ以上の短縮は別の方法によらねばならない 図 9 に示す 2 つの方法を考えた 図 9(a) は MA Mc 金属を平面的にくし形に配置するもので 対抗距離 (d) をμm オーダまで短縮す る 制作した Al/Al- 同種金属対を図 10 に示す 100μm 厚の Si 基板上に 0.5μm 厚の SiO 2 層を介し 5μm 幅 1μm 厚の Al を図 9(a) のようにくし形 に配置する 一枚の基板上に約 3 mm 3 mmの 4 つのセンサ SP 1,3,10 及び 30 を配置した 10 (c) の付表に示すように それぞれの対向距離 (d) は 1,3,10 及び 30μm である このセンサの両極間に 400mV を印加して出力を測定する 無塗装のまま 室温の 3%NaCl 水溶液中に浸漬して出力を 90 分間測定した 図 11 に示すように 時間 τ i の後電流が観察され 以降変化の激しい挙動を示した 結果は 総電気量 (Q) を求め これを時間 t(=90-τ i ) とみかけのセンサ面積 S(=3 3 mm 2 ) とで除した平均電流密度 ( i ) で評価することにした 各濃度の NaCl 水溶液で測定した電極間距 17

離 (d) と 腐食開始時間 (τ i ) との関係を図 12 に 平均電流密度 ( i ) との関係を図 13 に示す 電極間距離 (d) が小さいほど腐食開始時間 (τ i ) は短く 平均電流密度 ( i ) は大きい このことは d を小さくするほど腐食を早期に検知し かつ大きい出力を得ることを示唆する 電極間距離 10μm の SP10 センサにおける腐食状況を図 14 に示した 5μm 幅の Al アノードが欠落している個所が溶解部分である 図 9(b) に示したセンサは Sereda のものに類似で 図 15 に示すように 与えられたアノード金属 MA( 図では Fe) の上に絶縁層を介してカソード金 属 Mc( 図では Cu) を付与することで構成する MA として任意のものを選ぶことができるのが第一の長所である また 絶縁層厚さ (d) 平面的配置型センサの対向距離に相当する を数 μm と薄く塗装しさえすれば d の短縮がはかれ その他の寸法は 100μm オーダーと比較的大きくとることができる ただし これを塗膜 ( 厚さδ) 下に埋め込む場合には 絶縁層厚さ (d) とカソード金属の厚さ (D) との合計がδに比し十分小さいようにとるのがよいであろう この意味で D も d と共になるべく薄くしうるよう工夫すべきである 18

水溶液中に完全に浸漬された ( 没水部の ) 金属から大気 室内環境の金属の腐食へと 対象が移ると測定 評価の手法が途端に少なくなる 特に実時間的に腐食情報をとれる手法が少なくなる この意味で ACM 型センサは有力である 有機 無機の薄膜によって金属材料を保護する必要は増している 外部からでなく自らを膜下に挺身して情報を送るという健全な役割を果たせるのも 本センサの長所である 最近にも 潤滑油 グリース等の腐食抑制能力の評価 11) に応用されて 新法 とよばれて発表されているのをみても このセンサはまだ広くは知られておらず もっと広い応用対象があるものと思われる ACM 型センサは 異種金属接触腐食というよく知られた腐食形態の反面であって その力は電極サイズを小さくしていっても衰えることのないものである 3 で述べたようなサイズのマイクロ化は高出力化の他にも興味ある情報をもたらすかもしれない ただし リソグラフィー手法など最近進歩の著しいパターン形成技術に詳しい専門家のご教授が必要である 19

文献 1) P.J.Sereda:ASTM Bulletin No.228, p.53 (1958); ibid.,no.238, p.61 (1958); ibid.,no.246, p.47 (1960). 2) W.H.Vernon:J.Transactions, Faraday Society, 27, 265 (1931); Faraday Society, 31, 1668 (1935). 3) N.D.Tomashov: Theory of Corrosion and Protection of Metals, MacMillan, New York, p.367 (1966). 4) V.Kučera and E.Mattsson: Corrosion in Natural Environment, ASTM STP 558, p.239 (1974). 5) S.E.Haagenrud: Werks. u. Korros., 31, 543 (1980). 6) 鈴木一郎 : 防食技術, 30, 639 (1981). 7) F.Mansfeld and J.V.Kenkel: Corrosion, 33, 13 (1977). 8) F.Mansfeld: Werks. u. Korros., 30, 38 (1979). 9) 延壽寺政昭, 辻川茂男 : 豊田研究報告, 第四十報告,57 (1987). 10) 諸住高 : 金属表面技術,31,692 (1980). 11) P.J.Kennedy, M.S.Ruzansky and V.S.Agarwala: Corrosion 88, Paper No.379 (1988). 本稿は ( 社 ) 日本防錆技術協会の第 8 回防錆防食技術発表大会 (1988 年 7 月 ) 講演予稿集 p.27 に記載されているもので 同協会の神尾和男専務理事 齊藤宏事務局長のご好意により当センターニュースに再録することができました センターでは ACM 型腐食センサの普及をはかるため市販されるセンサの機能検定を実施してきており 下図にその状況を示すようにようやく広く利用されるようになってきました 遅まきながら次号からセンサの利用方法を中心にその紹介記事を掲載してゆきます ACMセンサの検定状況 3000 合格不合格検査合計 2500 格 2000 不 1500 合格(1000 枚)500 0 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 検査合計(枚)合 検定年度 ( 各 4 月 ~ 翌年 3 月 ) 20