SPARQ を使用したフィクスチャの S パラメータ抽出 TECHNICAL BRIEF 伊藤渉 Feb 3, 2014 概要 SMA や K コネクタ等ではない非同軸タイプのコネクタを使用する DUT をオシロスコープで測定するにはコネクタの変換の為にフィクスチャを使用します このフィクスチャの伝送特性を差し引き DUT のみの特性を求めたい場合 フィクスチャの伝送特性を抽出することは通常では困難です Teledyne LeCroy のネットワークアナライザ SPARQ の peeling アルゴリズムを使用した Time Domain Gating 機能を用いることで実際に使用するフィクスチャの測定値からフィクスチャのみの S パラメータを抽出することが可能になります フィクスチャの例非同軸タイプの DUT には例えば SATA 規格のドライブがあります HDD の SATA 信号を測定するには SMA コネクタに変換する以下の様なフィクスチャを使用します 図 1: TF-SATA-C このアプリケーションノートでは TF-SATA-C の伝送特性 (S パラメータ ) を抽出する方法を例に解説します 図 2: 対向側フィクスチャを含んだ TF-SATA-C-KIT フィクスチャの S パラメータを抽出する S パラメータを測定するにはネットワークアナライザを使用します 測定には K コネクタや SMA コネクタ等の同軸タイプの接続が必要です TF- SATA-C-KIT を使用すると SATA コネクタの対向側フィクスチャが付属しており 両端を SMA コネクタとして S パラメータを測定することができます 図 3: TF-SATA-C-KIT 図 4: TF-SATA-C-KIT 測定例 Teledyne LeCroy Japan SPARQ を使用したフィクスチャの S パラメータ抽出 page 1 of 8
こうして両側を SMA コネクタにし 4 ポートのネットワークアナライザを使用することで S パラメータの測定が可能ですが 得られる S パラメータには本来不要な対向側フィクスチャの特性も含んでいます 対向側のフィクスチャ特性を差し引いて TF-SATA-C のみの S パラメータを抽出する必要があります 対向側フィクスチャを含んだ S パラメータを半分に分割する?~ 高周波シミュレータによるモデリング両側フィクスチャを含んだ S パラメータが得られた後 これを半分に分割することは出来るでしょうか もし高周波シミュレータを駆使して両側フィクスチャをモデリングし実測 S パラメータを再現できれば 不要な部分を取り除いた S パラメータを抽出できる可能性があります しかしこの方法にはシミュレーションのテクニックが必要で熟練を要します まずは簡単に S パラメータを数式的に半分に割ることは可能かどうかを考えます 例えば ある周波数 1 ポイントでの S パラメータ (B 点 ) を考えます スミスチャートの中心 A 点 (50Ω) から高インピーダンス側にずれた B 点に至るには無数の可能性があります 図 5 では 2 つの可能性を示しました パス 1 ではシリーズに入ったインダクタンスと 50Ω 線路の組み合わせです パス 2 はシリーズに入った抵抗です 両パスの中点のインピーダンスは全く異なる事に注意してください 図 5: スミスチャート上の 1 点に至る複数のパス その他にもひとつまたは複数の抵抗 インダクタ キャパシタのパラレル シリアルそれぞれの接続を組み合わせることにより無数の組み合わせが存在します 従って解析的に一意にパスを決定することは出来ません またもしこの周波数で 1 つのパスを仮定しても 他の周波数ではどうでしょうか 高周波シミュレータを使用したフィクスチャの S パラメータ抽出の為には実際の伝送線路で想定される各コンポーネントのジオメトリを完全に予測して広帯域で正確なモデリングをすることが必要ですが これは至難の技です 以下に TF-SATA-C-KIT の両側フィクスチャを含んだシングルエンド S パラメータの S11,S21 のプロットを示します 高周波シミュレータのモデリングによるディエンベットを行うには S11, S21, S12, S22, S33, S43, S34, S44,S41,S14,S32,S23... それぞれの振幅と位相が必要な帯域全域で実測にあうモデルを作成する必要があります 図 6:TF-SATA-C-KIT の S11(DC~20GHz) 図 7: TF-SATA-C-KIT の S21(DC~20GHz) Teledyne LeCroy Japan SPARQ を使用したフィクスチャの S パラメータ抽出 page 2 of 8
SPARQ による Time Domain Gating を使用した方法 Teledyne LeCroy のシグナルインテグリティ ネットワークアナライザ SPARQ シリーズを用いてまず全体の S パラメータを測定します SATA コネクタ部分では差動線路としてカップリングしているため 差動ポート設定を行って測定を行います 図 8: TF-SATA-C-KIT 差動 S パラメータ実測値 (DC~20GHz) 差動インピーダンスを表示して両フィクスチャの中点を同定する TF-SATA-C-KIT は両側フィクスチャの伝送路がほぼ対称なジオメトリで設計されており容易に SATA コネクタ接続点を推測することが出来ます まず差動ポート 1 側から見たインピーダンスプロファイルをみてみます 図 9: 差動ポート 1 側から見たインピーダンス プロファイル (Z(SDD11) 図 10: 実際のジオメトリと対応関係 (1) Teledyne LeCroy Japan SPARQ を使用したフィクスチャの S パラメータ抽出 page 3 of 8
図 11: 差動ポート 2 側から見たインピーダンス プロファイル (Z(SDD22)) 図 12: 実際のジオメトリと対応関係 (2) 両側からのインピーダンス プロファイルを重ねて表示すると分かりやすくなります 対向側フィクスチャの SATA コネクタ基板接続点のインピーダンスの乱れが大きいですが その他はほぼ対称に出来ているのがわかります ここから SATA コネクタ中点を約 400ps の位置と見積もれます 図 13: 両側差動インピーダンス表示を重書きする Teledyne LeCroy Japan SPARQ を使用したフィクスチャの S パラメータ抽出 page 4 of 8
Gating 機能を使用して両側フィクスチャの特性を差し引く先に求めた SATA コネクタ中点の時間位置約 400ps を正確に決定するために Gating 機能を用いて両側から 400ps 差し引きます もし完全に両側のフィクスチャの伝送特性を差し引くことが出来たら SDD21 の振幅 =1 (0dB) 位相 =0 となります この際 Peeling を ON にするのを忘れないでください また Peeling 機能は一般に用いられている Port Extension とは異なる事に注意してください Port Extension では理想的な 50Ω( 差動線路では 100Ω) を仮定して位相だけを回します Peeling アルゴリズムでは途中のインピーダンスを考慮するため正確なディエンベットが可能になります 以下に両側から 400ps 差し引いた結果を示します 振幅 位相とも若干予想した値からずれています 図 14: 両側から 400ps Gating で差し引く 微調整を行い Delay を 393ps, Loss を 150mdB(/GHz/ns) とするとほぼ 12GHz まで SDD21 の振幅 =1 位相 =0 となり, インピーダンス プロファイルも計算誤差程度の小さな凹凸を除きほぼフラットとなりました 図 15: 微調整後の結果 Teledyne LeCroy Japan SPARQ を使用したフィクスチャの S パラメータ抽出 page 5 of 8
TF-SATA-C のみの特性にするために 対向側のみ Gating を ON にします 図 16: 対向側フィクスチャを差し引いた結果 差動ポート 1 側は TF-SATA-C 側です SDD11 のインピーダンス プロファイルをみると SMA コネクタ端から始まり SATA コネクタ中点以降ではプロファイルがフラットになっているのがわかります 逆に差動ポート 2 側は対向フィクスチャ側です SDD22 のインピーダンス プロファイルは SATA コネクタ中点からはじまるのがわかります シングル エンド S パラメータへの変換ここで対向側フィクスチャを差し引いた S パラメータは差動 S パラメータ (Mixed mode S パラメータ ) となっています オシロスコープ上のディエンベット機能に使用したり PC 上のシミュレータで使用するために一般的なシングルエンド S パラメータ (S4P 形式 ) に変換します その為には SPARQ ソフトウェアのモード変換機能を用います 一旦差動 S パラメータ (Mixed mode S- parameter) の形式で保存し 再度 Sparameter Import で呼び出し Sparameter Convert 機能でシングルエンド形式に変換します 図 17: 差動 S パラメータの読み込みと変換 Teledyne LeCroy Japan SPARQ を使用したフィクスチャの S パラメータ抽出 page 6 of 8
図 18: 差動 S パラメータからシングルエンド S パラメータへの変換設定 変換結果 S パラメータ変換機能を用いてシングルエンド S パラメータが得られました 図 19: 抽出された TF-SATA-C フィクスチャのシングルエンド S パラメータ こうして得られたフィクスチャの S パラメータを用いる事で非同軸タイプのケーブルのケーブルのみの伝送特性を求めたり 実測波形データからオシロスコープのディエンベット機能を用いてフィクスチャの影響を取り除いた波形として Eye やジッタの解析を行うことが可能になります Teledyne LeCroy Japan SPARQ を使用したフィクスチャの S パラメータ抽出 page 7 of 8
サマリー 非同軸タイプの DUT を測定する場合に使用するフィクスチャの伝送特性を抽出する場合 高周波シミュレータを駆使して必要な全帯域において実測 S パラメータにあうモデリングをすることは高度なシミュレーション技術を要し困難です Teledyne LeCroy のネットワークアナライザ SPARQ の peeling アルゴリズムを使用した Time Domain Gating 機能を用いることで実際に使用するフィクスチャの測定値から必要なフィクスチャのみの S パラメータを迅速に抽出することが可能になります Teledyne LeCroy Japan SPARQ を使用したフィクスチャの S パラメータ抽出 page 8 of 8