マスコミへの訃報送信における注意事項

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と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

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平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

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4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

論文の内容の要旨

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互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

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令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注


< 研究の背景 内容 > 金属は電気を伝える媒体として利用されますが その過程で電気抵抗によりエネルギー損失が起こります 超伝導体は電気抵抗を持たないためエネルギー損失なく電気を運ぶことが可能で そのためできるだけ高い温度で超伝導になる物質の開発が急務とされています 多くの超伝導体は原子を構成単位と

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スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

PRESS RELEASE 平成 29 年 3 月 3 日 酸化グラフェンの形成メカニズムを解明 - 反応中の状態をリアルタイムで観察することに成功 - 岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは 黒鉛 1 から酸 化グラフェン 2 を合成する過程を追跡し 黒鉛が酸化されて剥が

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

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鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生


高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

平成**年*月**日

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記者発表資料

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背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

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C-2 NiS A, NSRRC B, SL C, D, E, F A, B, Yen-Fa Liao B, Ku-Ding Tsuei B, C, C, D, D, E, F, A NiS 260 K V 2 O 3 MIT [1] MIT MIT NiS MIT NiS Ni 3 S 2 Ni

4. 発表内容 : 超伝導とは 低温で電子がクーパー対と呼ばれる対状態を形成することで金属の電気抵抗がゼロになる現象です これを室温で実現することができれば エネルギー損失のない送電や蓄電が可能になる等 工業的な応用の観点からも重要視され これまで盛んに研究されてきました 超伝導発現のメカニズム す

マスコミへの訃報送信における注意事項

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超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

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報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

予定 (川口担当分)

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

研究成果の詳細 ( 背景 ) 3) 金属や半導体のゼーベック効果注によって温度差を直接電気に変換できる熱電変換は, 工場や火力発電所, 自動車などの廃熱を直接電気エネルギーに変換する, クリーンなエネルギー変換技術として注目されています この熱電変換技術に利用できる半導体 (= 熱電変換材料 ) の

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

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報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

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京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより

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放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

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トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

平成18年2月24日

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報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

平成22年11月15日

報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

「セメントを金属に変身させることに成功」

る現象 ( 注 4) が確認されています しかし グラフェンでは本質的に電子間の電気 磁気的 な相互作用自体が弱く このため ディラック物質における電子社会の多様性については 実 験的にまだ十分に理解が進んでいないのが現状です 今回 仏グルノーブル国立科学研究センターの平田倫啓博士 ( 日本学術振興

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平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー A 電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー 第 9 回 品質技術兼原龍二 前回の第 8 回目では FIB(Focused Ion Beam:FIB) のデメリットの一つであるGaイ

材料科学専攻 500 結晶制御工学特論 材料ナノ表面解析特論 組織設計学特論 強度設計学特論 高温腐食防食学特論 溶液腐食防食学特論 環境材料学特論 エコプロセス特論 * ノーベルプロセシング工学特論 2

エネルギー ついて説明します 2. 研究手法 成果上で述べたような熱輻射パワーの高速変化を実現するためには 物体から熱輻射が生じる過程をミクロな視点から考える必要があります 一般に 物体の温度を上昇させると 物体内の電子の動きが活発になり 光 ( 電磁波 ) を放出するようになります こうして電子か

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

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に資する十分な成果が得られたと判断される 1. 研究プロジェクトの設定および運営 1-1. プロジェクトの全体構想本研究プロジェクトは 半導体結晶を構成する原子の核スピンに関わる新たな物性を調べ 量子情報処理等への応用可能性を探索するものである 半導体物性との関連における核スピンの研究は 1980

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原子層レベルの厚さの超伝導体における量子状態を解明 乱れのない 2 次元超伝導体の本質理解とナノエレクトロニクス開発の礎 1. 発表者 : 斎藤優 ( 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程 1 年 ) 笠原裕一 ( 京都大学大学院理学研究科物理学 宇宙物理学専攻准教授 ) 叶劍挺 (Groningen 大学 Zernike 先端物質科学研究所准教授 ) 岩佐義宏 ( 東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 物理工学専攻教授 / 理化学研究所創発物性科学研究センター創発デバイス研究チームチームリーダー ) 野島勉 ( 東北大学金属材料研究所准教授 ) 2. 発表のポイント : 電界効果によって半導体表面で原子層の厚さ程度の 究極の 2 次元超伝導体 を実現 乱れが極めて少ない 2 次元超伝導体に普遍的と考えられる 磁場下における金属状 態 を観測し これが量子ゆらぎによって起こることを解明 超伝導体を用いた 次世代のナノエレクトロニクス材料開発への礎 となることが期待 3. 発表概要 : 超伝導体はリニアモーターカーや核磁気共鳴 (NMR) などに用いられる先端的な材料とし て 世界中で応用研究が盛んに行われていますが 特に近年のナノエレクトロニクスの発展に 伴い ナノ材料としての超伝導体の側面を持つ超伝導薄膜や超伝導細線の研究が注目を集めて います このうち超伝導薄膜の研究は 1970 年代から続いていますが その対象物質はビス マス薄膜などの非晶質 または不純物や欠陥などの乱れを多く含む金属蒸着膜であったため 乱れのない理想的な 2 次元超伝導体が本来持つ性質は未だに明らかになっていませんでした 東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 物理工学専攻の 岩佐義宏教授 ( 理化学研究所創発物性科学研究センター創発デバイス研究チームチームリ ーダー兼任 ) 同研究科物理工学専攻の斎藤優大学院生らの研究グループは 京都大学大学院笠原裕一准教授 オランダのフローニンゲン (Groningen) 大学叶劍挺准教授 東北大学 金属材料研究所野島勉准教授らと共同で セラミック半導体の一種でかつ原子膜材料 ( 注 1) で ある層状窒化物 塩化窒化ジルコニウム (ZrNCl) 高品質単結晶をスコッチテープで劈開する 方法を用いて不純物の極めて少ない薄膜を作製し さらにイオン液体を絶縁層として用いる電 気二重層トランジスタ (EDLT) 構造 ( 注 2) を形成することにより ZrNCl 表面に原子層レベ ルの厚みを持ち 乱れの極めて少ない究極の 2 次元超伝導が発現することを見出しました さらに磁場下における超伝導の性質を詳細に調べた結果 乱れが極めて少ない超高品質の 2 次元超伝導体は 磁場下において極低温であっても量子ゆらぎによってその超伝導状態 ( 電気 抵抗ゼロの状態 ) を維持できないことが明らかになりました これらの研究成果は 今後 2 次元超伝導体の本質的な性質を解明していく上での礎となるだけでなく 次世代のナノエレク トロニクス材料の研究 開発をしていく上で重要な知見を与えるものと期待されます 本研究成果は 米国科学雑誌 Science のオンライン速報版 (ScienceXpress 平成 27 年 10 月 1 日版 ) に掲載されました

4. 発表内容 : 背景 電子デバイスの高度集積化が進む現代社会においては 物質のナノエレクトロニクスデバ イスとしての側面に注目が集まっています 特に超伝導体の集積化は 超伝導量子ビットなど 次世代のコンピューティングシステムで非常に重要な役割を担うはずです したがって こう した超伝導体の集積化において重要な超伝導細線や超伝導薄膜の基礎的物性を解明することが 広く求められています しかし このうち 1970 年代から続けられてきた超伝導薄膜の研究は 薄膜作製の際に意図せずして含まれてしまう不純物や欠陥 非晶質性といった乱れのため 理 想的な ( 乱れが極めて少ない ) 超伝導薄膜が本来持つ性質は明らかになっていませんでした とりわけ 理想的な 2 次元超伝導体は磁場中で本当に超伝導性を維持できるのか という 疑問は物性物理学において長年の問題でした 本研究では高品質単結晶表面に電界効果によっ て超伝導を誘起するという手法を用いて この問題に挑戦しました 研究内容 本研究グループは セラミック半導体の一種である層状窒化物 塩化窒化ジルコニウム (ZrNCl) の高品質な単結晶をスコッチテープ法により劈開し 厚さ 20 ナノメートルほどに薄 膜化した後 その表面に電界効果トランジスタの一種である EDLT 構造 ( 図 1) を作製しま した ゲート電圧印加による電気抵抗の温度依存性の変化の様子を図 2A に示します ゲート 電圧なしでは ZrNCl は 温度の低下とともに抵抗値が増加する絶縁体的な振る舞いを示して いるのに対し ゲート電圧の印加後はその上昇に伴って 電子が ZrNCl の表面に蓄積される ため 抵抗値が減少して金属的になり さらには低温で超伝導体へと変化することを確認しま した ( 図 2A) この EDLT 構造では 電界によって電子が ZrNCl の単結晶表面に蓄積して いるため 蒸着等の従来の方法によって作製される超伝導薄膜に比べ 乱れの影響が極限まで 少ない超極薄の超伝導状態が人工的に実現可能です 本研究では 臨界磁場 ( 超伝導状態と常 伝導状態の境界の磁場 ) の温度依存性を磁場下での詳細な温度 - 抵抗特性より測定し ZrNCl 表面に蓄積される電子の集団が およそ原子層 2 層分に相当する 2 ナノメートル程度の厚みしかない究極の 2 次元超伝導体になることを実証しました ( 図 2B) さらに その磁場下に おける抵抗の振る舞い ( 図 3A) を解析し 精密な磁束相図 ( 磁場 - 温度相図 ) を作成するこ とに成功しました ( 図 3B) この磁束相図より 本研究手法で作製できる 2 次元超伝導体で は 磁場下において超伝導状態は維持されず 代わりに量子ゆらぎによる磁束のトンネル運動 によって記述される金属的状態が出現することが分かりました これは 乱れの少ない 2 次 元超伝導に普遍的な現象であると考えられます 今後の展望 本研究により 乱れが極めて少ない原子層程度の厚さを持つ 2 次元超伝導体は 磁場下に おいてその状態を維持できないという普遍的な性質が明らかになりました この結果は 先に 述べた問いに対して 乱れのない理想的な 2 次元超伝導体では磁場下において超伝導は実現 しない という 1 つの答えを提示しています 今後 この研究成果は 2 次元超伝導体の本質的な性質を解明していく上で礎となるだけでなく 次世代のナノエレクトロニクスの材料の 研究 開発していく上で重要な知見になることが期待されます

5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Science (ScienceXpress(Science オンライン速報版 ) 平成 27 年 10 月 1 日版 ) 論文タイトル : Metallic ground state in an ion-gated two-dimensional superconductor 著者 :Yu Saito, Yuichi Kasahara, Jianting Ye, Yoshihiro Iwasa* and Tsutomu Nojima* DOI 番号 :10.1126/science.1259440 6. 用語解説 : 注 1 原子膜材料 2010 年のノーベル物理学賞で有名となったグラフェンなどの 2 次元物質として注目されている 原子層 1 層あるいは数層で形成される材料 これらの物質の多くはスコッチテープ法で劈開し ナノメートルスケールの厚さの薄膜を容易に作製できるため ナノデバイスへの応用の期待が高まっている 注 2 電気二重層トランジスタ (EDLT) 日常生活至る所に使われている電化製品の中核を担う電界効果トランジスタ (FET) の絶縁層をイオン液体と呼ばれる特殊な塩 ( えん ) で構成される液体に置き換えたトランジ スタ ( 図 1 参照 ) 液体の塩あるいは塩を溶かした液体の中に 2 つの固体電極を入れ 電極間に電圧を印加した時に液体と固体の界面にできる帯電層は電気二重層 (electricdouble-layer; EDL) と呼ぶ この電気二重層では 塩を構成している陽イオン ( 正の電 荷を持つ ) と陰イオン ( 負の電荷を持つ ) はそれぞれ負と正の電圧が印加されている電極 に引き寄せられ 最終的に電極界面に整列し 同時に電極内では イオンとは反対の符号 を持つ電荷が界面に引き寄せられている

9. 添付資料 : 図 1: 塩化窒化ジルコニウム ZrNCl を用いた電気二重層トランジスタ構造 ZrNCl 薄膜をトランジスタのチャネルに用いた電気二重層トランジスタ (EDLT) のデバイス構造 今回の実験で用いた ZrNCl 薄膜の厚さは約 20 nm 正の電圧を印加することで ZrNCl の表面にのみ電子が蓄積する 図 2: 電界効果による ZrNCl の絶縁体 - 超伝導転移 (A) と超伝導層の厚さ (B) ゲート電圧を印加していない状態では試料本来の絶縁体的な温度依存性 ( 黒線 ) を示すが ゲート電圧を大きくするに従って抵抗値が減少 ( 茶線 ) し さらに低温では超伝導転移が観測された ( 赤 オレンジ線 ) 超伝導転移温度は約 15 K ほどであった また 解析の結果 超伝導状態になっているのは表面から約 2 nm つまり ZrNCl の約 2 層分であることが分かった

図 3:ZrNCl-EDLT における面直磁場下における抵抗 - 温度特性 (A) との磁束相図 (B) 図 3A は 様々な面直磁場下における ZrNCl-EDLT の抵抗温度特性である 0.05T という微弱な磁場を印加するだけで超伝導状態が壊れている ( 赤線の左のオレンジ線のデータ ) 電気抵抗の詳細な解析を行い この様子をまとめたものが図 3B の温度 - 磁場相図 ( 磁束相図 ) である 超伝導転移温度以下であるにも関わらず 磁場下においては磁束の運動によってほとんどすべての領域で金属状態が実現している オレンジの領域は熱ゆらぎ由来の金属領域で青の領域は量子ゆらぎ由来の金属領域である