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パイプの溶接 ( その 2) JFE エンジニアリング株式会社勝木誠 6. 配管 導管の溶接法プラント配管溶接では できるだけ仮設工場におけるプレファブ溶接によるスプール比率を上げる努力が進められており その比率が 80% 以上に達する例も認められている プレファブ溶接では管を回転して施工することが可能であるため 下向きの溶接を採用でき さらに半自動および自動による溶接施工も容易となることなどから 様々な溶接方法の適用が可能であり 効率的な生産が実現で きる 一方前報 1) で説明したように 配管 導管の現地溶接は固定管の全姿勢溶接が要求されるも のが多く 溶接方法も限定される 6-1. パイプ溶接施工上の要点 1) パイプ溶接の特殊性について前報で記述したが 施工上の要点を整理すると次のようになる 1 パイプの溶接は 大部分が外面から施工され 片面裏波溶接が要求される 2 現地工事では固定管の全姿勢溶接による溶接施工技術が要求される 3 現地工事では 手溶接による溶接施工が中心となる 4 管および配管部品 ( フランジ エルボなど ) は それぞれの外径 内径および板厚に寸法許容差がある 特に固定管の全姿勢溶接について 以下にその特徴を述べる パイプを回転することのできない水平固定管の溶接では 溶接の進行とともに溶融金属の形状が変化する 溶融金属の形状はそれを支える表面張力とそれに対する重力やアーク力の影響を受けるからである 重力は常に下向きに作用するが 表面張力やアーク力は重力に対してベクトルの向きが異なり そのバランスが常に変化する また表面張力の大きさや向きは 溶接位置だけでなく開先形状や積層状態によっても変化する 凝固後の表面や裏面のビード形状は溶接品質に大きな影響を及ぼす 通常裏面の形状は凸ビードが求められ いわゆる凹みビードは認められないが 上向き姿勢では裏面が凹みやすくなる 一方表面ビードは次層を考えると ほど良い凹みビードが望ましいが 特に初層の上向き溶接では 表面ビードをほど良く凹みビードにすると 表面張力も下向きに働くため裏面が凹になりやすい このような現象を考慮し 水平固定管の全姿勢溶接では 下向きから立向下進溶接では相対的に高電流 高速度で溶接を行い 上向きから立向上進溶接では相対的に低電流 低速度で溶接を行うことが一般的である また全姿勢溶接では下進側は溶融金属の被りが速く 1 層毎の積層厚は薄くならざるを得ず 一方上進側は溶融金属をゆっくりとアークに追従させながら溶接を行うため 1 層毎の積 1

層厚を比較的厚くつけることができる 6-2. 固定管の全姿勢溶接法 現地工事での固定管全姿勢溶接法を列挙すると図 1 に示すようになる この中には開発中の技術 も含まれているが いずれも片面の全姿勢溶接が可能な溶接方法である ガス溶接 被覆アーク溶接 ティグ溶接 アーク溶接 ガスシールドアーク溶接 ( マグ溶接 ミグ溶接 ) パイプの溶接 セルフシールドアーク溶接 プラズマアーク溶接 圧接 拡散接合 高エネルギ密度溶接 フラッシュ溶接磁気駆動アークバット溶接電子ビーム溶接レーザ溶接 図 1 パイプの溶接法 6-3. 一般に実用化されている溶接法溶接品質の安定性 現地での適応性 機動性および品質保証として非破壊検査が可能な技術として 国内で広く使われている溶接方法を紹介する (1) 被覆アーク溶接パイプの溶接は1 箇所あたりの溶着量が比較的少なく また配管溶接などでは多鋼種 多口径のパイプを溶接すること および他の配管などが近接していることも多く 機動性に富んだ被覆アーク溶接が広く使用されている 初層裏波溶接に関しては 海外では高セルローズ系の下進溶接が使用されていたが 国内では 1963 年に裏波専用棒が開発されるまで 被覆アーク溶接部の溶込み不良は技術的に避けられなかった とくに 1960 年以前までは 裏波が内部流体の流れに対して抵抗になるとの考え方もあり ルート間隔をとらずに施工することも多かった 1963 年に開発された低水素系の裏波専用棒は改良が重ねられ 1972 年に現在とほぼ同じ作業性の溶接棒が開発されると 図 2 に示すように溶接品質は飛躍的に向上し 補修率は大幅に減少した しかしながらこの被覆アークによる裏波溶接は高い技量が必要となるため 全姿勢で欠陥無く初層裏波溶接をできる溶接士が少なくなったこともあり ティグ溶接に置き換わる傾向にある 2

1 類 2 類 3 類 4 類 図 2 溶接不良率の推移 (2) ティグ溶接ティグ溶接は母材への入熱に対して 溶加材を独立に制御できるので 原理的にも裏波溶接に最適な方法で 現在は広く適用されている また多鋼種に対応できることから 裏波溶接にとどまらず 積層溶接にも使用されている 小径管の溶接やステンレスやアルニウムの溶接などでは 初層から仕上げ層までティグ溶接で施工する例も多い 一方 ティグ溶接は被覆アーク溶接などの他の一般的な溶接法に比べて能率が劣るため 比較的大径厚肉の炭素鋼パイプの溶接などでは 初層 ( もしくは2 層目まで ) だけティグ溶接で施工し 次層以降の積層を被覆アーク溶接やガスメタルアーク溶接で施工する例も多い 小径管のステンレス配管などでは ノンフィラーの自動溶接機も広く利用されている ここで注意しなくてはならないのは ティグ溶接は母材の微量な元素の影響を強く受けるということである 特にノンフィラーの溶接では溶融した母材で溶接金属が形成されるため 特にこの傾向が強い また 活性フラックスや微量な酸素を加えてティグ溶接の溶け込みを画期的に改善する方法も 全姿勢溶接になると溶接姿勢によっては微量に発生するスラグに溶融金属が引っ張られるなどの現象が発生し 結果として蛇行ビードが形成されたりすることがあるので 注意が必要である (3) ガスメタルアーク溶接ガスメタルアーク溶接はソリッドワイヤのマグ溶接 フラックスコアードワイヤのマグ溶接 (FCAW) およびアルミニウムで使用されるミグ溶接に分類される 近年ガスメタルアーク溶接の溶接材料比率が国内では 70% 近くに達しているが パイプの溶接での適用率は比較的低い ソリッドワイヤによるマグ溶接は ガス導管などで自動溶接として広く使用されている 自動溶接の詳細は次回に述べるが 0.9mmΦ 程度の細径ワイヤでアルゴンと炭酸ガスの混合ガスを使用して施工している 自動溶接の場合 初層から自動溶接を行う場合と 初層 ( もしくは2 層目まで ) はティグ溶接を用い残層からマグ自動溶接で施工する場合がある 初層からマグ自動溶接 3

を行う場合は インターナルクランプに溝付き銅板を全周にわたって装着し 裏波溶接を実施している 高圧ガス導管の施工では近年ほとんどの溶接施工が自動マグ溶接で行われており 自動化率はかなり高い FCAW は配管の分野で徐々に適用が広まりつつある プラント配管の分野では過去に溶接欠陥が多発したり 経年劣化で溶接部に問題が発生した事例があり 適用に慎重な傾向があるが 高能率であることからプレファブ溶接を中心に適用が増えつつある とくにステンレス配管ではシールドガスが炭酸ガス 100% でも比較的安定して施工できることから 今後の適用拡大が期待できる 現地工事では 裏当て金付き水道配管の溶接で FCAW が一般的な溶接として定着している 6-4. その他の溶接法パイプの溶接として 過去に適用された溶接法 一部で適用されている溶接法および現在開発中の溶接法を参考のため紹介する (1) ガス溶接最も古い片面裏波溶接方法であり ティグ溶接が普及する以前にはよく使用されていた ティグ溶接に比べ熱エネルギの集中性 制御性で劣るため ティグ溶接機器の普及とともにほとんど使用されなくなった (2) セルフシールドアーク溶接裏波溶接性はかなり良好で 欧米では使用実績が多いが 国内での使用実績は少ない 耐風性に優れる一方 溶接金属の靭性に対する懸念が払拭されていないこと またワイヤが高価であることやヒュームの多いことが難点となっている (3) プラズマアーク溶接プラズマアーク溶接は ガスメタルアーク溶接の約 10 倍のエネルギー密度を持ち キーホール溶接で裏波を形成する方法で厚板溶接が可能であり 古くから開発が進められている パイプラインや配管への取組みも行われ 国内でも装置として製品化されたものもある しかし キーホール溶接のため全姿勢溶接では安定性にやや欠けること 1 パス溶接での板厚が実用的には炭素鋼で 6mm 程度であり 溶接速度も期待するほど高速化されていないことなどの理由から 適用範囲は限られている (4) フラッシュ溶接海外ではパイプライン溶接にフラッシュ溶接も適用されている シベリアなどの寒冷地では凍土の溶け出す夏には施工が出来ないので 氷点下数十度の冬季にパイプライン施工を実施する ガスの調達が難しいことや 気温が余りにも低いので 例えば炭酸ガスなどは気化しないためにガスシールドアーク溶接が適用できない例があり フラッシュ溶接が適用されている 適用状況を図 3 に示す 2) フラッシュ溶接は高能率であり また開先の準備が比較的ラフでも良いという特徴を有しているが 原理的に溶接中央部の靭性が低い この低靭性の問題 装置が大型であることおよび適当な非破壊検査方法が無いことなどの理由により 国内のパイプラインでの適用見込は低いと思われる 4

図 3 フラッシュ溶接の現地施工状況 (5) 磁気駆動アークバット溶接磁気駆動アークバット溶接技術は 1980 年代前半に国内でも開発が進められ パイプの溶接技術としてかなりの施工実績がある 溶接時間が 5 秒 ~30 秒程度しかかからない高能率溶接方法である利点がある一方 装置が大型であること 適当な非破壊検査方法が無いことおよびパイプの接合では圧接時に食い違いが助長される傾向にあることなどのため 現場適用は中断していた 溶接の状況を図 4に示す 近年海外でこの技術が再評価され 管径 450A までのパイプへの適用が検討され また小径管の装置が販売され 再び脚光をあびつつある 図 4 磁気駆動アーク溶接の溶接状況 (6) 拡散接合 1990 年代に 低融点アモルファス金属をインサート材として使用したアモルファス接合技術 が炭素鋼管 ステンレス鋼管 Cr-Mo 鋼管向けに開発され一部で実用化された その後一時期開 5

発が停滞したものの 2000 年代になって大気雰囲気での高周波ろう付け圧接技術が開発され 設備配管への適用が検討された この技術は高周波誘導加熱により ろう付けと圧接を組み合わせて接合する工法であり 母材同士の強固な固相接合が可能となる この技術は接合強度が母材強度以上であり 作業能率も良く 省技能化が図れる工法であり 今後の展開が期待される (7) 電子ビーム溶接 1 パスでの厚板溶接を期待し 1970 年代から開発が進められていたが 近年パイプライン施工の分野へも応用範囲が広がってきている 海外では海底管の鉛直継手を対象として 板厚 38mm のパイプを局部減圧電子ビーム溶接で施工する技術が開発されたが 一部溶接スペックを満たすことが出来ず未適用となった 国内ではパイプ内面に電子ビーム銃のある装置を挿入し パイプ内外面の比較的狭い範囲を真空にすることにより 現場での電子ビーム溶接施工を可能にした技術が開発された 溶接時間は管径 600A 管厚 15mm の鋼管で約 10 分と速く 溶接品質の確認も完了し技術的には完成の域にあったが 装置の低廉化と装置価格に見合う現地施工能率の確保が障害となり実用化には至っていない (8) レーザ溶接近年レーザ溶接装置の高出力化 ファイバーレーザやディスクレーザの出現によるレーザ発信器の小型化により パイプ溶接として現実味を帯びてきた ファイバーレーザやディスクレーザは 発信器が小型なだけでなくビーム品質にも優れ 光ファイバ伝送が可能である そのため発信器やその制御装置と溶接箇所を 200m 以上離すことが可能であり パイプ溶接施工そのものを変革する可能性も秘めている 海外ではレーザとマグアークのハイブリッド溶接を現地溶接に適用し 溶接能率を飛躍的に向上させた報告がなされており 国内でも小径管の全姿勢溶接としてプラント配管では既に一部で実用化されている 今後は装置の低廉化が進み 周辺機器が整備されてくれば パイプ溶接の分野でもアーク溶接に代替する技術としての期待は大きい ( 次号へ続く ) 参考文献 1) WE-COM マガジン,Vol.5(2012 年 7 月号 ) 2) Komizo Yu-ichi:Overview of Recent Welding Technology Relating to Pipeline Construction,Transactions of JWRI, Vol.37.No.1(2008) 6