PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

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氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

Microsoft PowerPoint _トポロジー理工学_海住2-upload用.pptx

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

背景 現代社会を支えるコンピューティングや光通信では, 情報の担い手として, 電子の電荷と, その電荷を変換して生成した光 ( 光電変換 ) を利用しています このような通常の情報処理に用いる電荷以外に, 電子にはスピンという状態があります このスピンの集団は磁石の性質を持ち, 情報の保持に電力が不

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

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マスコミへの訃報送信における注意事項

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

< 研究の背景と経緯 > ここ数十年に渡る半導体素子 回路 ソフトウェア技術の目覚ましい進展により 様々なモノがセンサー 情報処理端末を介してインターネットに接続される IoT(Internet of Things) 社会が到来しています 今後その適用先は一層増加し 私たちの日常生活においてより多く

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

令和元年 6 月 4 日 科学技術振興機構 (JST) 北 海 道 大 学 名 古 屋 大 学 東 京 理 科 大 学 電力使用量を調整する経済的価値を明らかに ~ 発電コストの時間変動に着目した解析 制御技術を開発 ~ ポイント 電力需要ピーク時に電力使用量を調整するデマンドレスポンスは その経済

PRESS RELEASE (2017/7/28) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

非磁性原子を置換することで磁性・誘電特性の制御に成功

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

Microsoft Word - Web掲載用_171002_非散逸電流スイッチ_確定r - コピー.docx

平成**年*月**日

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

イン版 (2 月 22 日付け : 日本時間 2 月 23 日 ) に掲載されます 注 )R. Yoshimi, K. Yasuda, A. Tsukazaki, K.S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura, Quantum Hall

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

研究成果報告書

記者発表資料

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

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平成18年2月24日

Microsoft PowerPoint - 物質の磁性090918配布

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受付番号:

16K14278 研究成果報告書

マスコミへの訃報送信における注意事項

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発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

論文の内容の要旨

京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより

Microsoft PowerPoint - 物構研シンポ

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

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2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

2 磁性薄膜を用いたデバイスを動作させるには ( 磁気記録装置 (HDD) を例に ) コイルに電流を流すことで発生する磁界を用いて 薄膜の磁化方向を制御している

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

研究成果報告書

図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

磁気ディスク装置

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

マスコミへの訃報送信における注意事項

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

Microsoft PowerPoint - 基礎電気理論 07回目 11月30日

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

磁性工学特論 第6回 磁気と電気伝導

ロナ放電を発生させました これによって 環状シロキサンが分解してプラスに帯電した SiO 2 ナノ微粒子となり 対向する電極側に堆積して SiO 2 フィルムが形成されるという コロナ放電堆積法 を開発しました 多くの化学気相堆積法 (CVD) によるフィルム作製法には 真空 ガス装置が必要とされて

Microsoft Word - 01.doc

diode_revise

COMSOL Multiphysics Ver.5.2 専門モジュールイントロダクション AC/DCモジュール (3Dインダクタ)

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

背景 金ナノ微粒子は通常の物質とは異なり, サイズによって色が赤や黄などに変化します この現象は局在プラズモンと呼ばれ, あまり聞き慣れない言葉ですが, 実はステンドグラスはこの局在プラズモンを利用してガラスを発色させています 局在プラズモンは, 光が金ナノ微粒子に当たると微粒子表面の電子が光と共鳴

予定 (川口担当分)

New Color Chemosensors for Monosaccharides Based on Azo Dyes

( 様式 4) 二国間交流事業共同研究報告書 平成 29 年 4 月 27 日 独立行政法人日本学術振興会理事長殿 共同研究代表者所属 部局 日本大学 理工学部 ( ふりがな ) なかはらあきお職 氏名教授 中原明生 1. 事 業 名相手国 ( ハンガリー ) との共同研究 振興会対応機関 ( HA

< 研究の背景と経緯 > 互いに鏡に写した関係にある鏡像異性体 ( 図 1) は 化学的な性質は似ていますが 医薬品として利用する場合 両者の効き目が全く異なることが知られています 一方の鏡像異性体が優れた効果を示し 他方が重篤な副作用を起こすリスクもあるため 有用な鏡像異性体だけを選択的に化学合成

 

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

スライド 1

03マイクロ波による光速の測定

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スピントランジスタの基本技術を開発   ― 高速・低消費電力、メモリにもなる次世代半導体 ―

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

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電磁気学 A 練習問題 ( 改 ) 計 5 ページ ( 以下の問題およびその類題から 3 題程度を定期試験の問題として出題します ) 以下の設問で特に断らない限り真空中であることが仮定されているものとする 1. 以下の量を 3 次元極座標 r,, ベクトル e, e, e r 用いて表せ (1) g

PRESS RELEASE 2018/5/21 シャコガイ殻に残された台風の痕跡 ~ 新たに発見過去の台風の復元指標 ~ ポイント 台風を経験したシャコガイの殻の化学組成や成長線の幅に特徴的な変化が生じることを発見 沖ノ鳥島のシャコガイに刻まれた日輪を数えると化学分析結果の正確な日付がわかることが判

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PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 060-0808 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL 011-706-2610 FAX 011-706-2092 E-mail: kouhou@jimu.hokudai.ac.jp URL: http://www.hokudai.ac.jp 室温巨大磁気キャパシタンス効果の観測にはじめて成功 研究成果のポイント 強磁性トンネル接合において, 世界最高のトンネル磁気キャパシタンス比を達成 デバイ-フレーリッヒモデルを用いた新たな理論計算により, トンネル磁気キャパシタンス効果のメカニズムを解明 理論計算によれば, 室温にて 1000% を超えるトンネル磁気キャパシタンス比が期待 研究成果の概要北海道大学電子科学研究所 ( 所長西井準治教授 ) 附属グリーンナノテクノロジー研究センターの海住英生准教授, 西井準治教授, 同大学大学院工学研究院の長浜太郎准教授らは, ブラウン大学物理学科の萧鋼 (Xiao, Gang) 教授と共同で, 強磁性体 / 絶縁体 / 強磁性体から構成される強磁性トンネル接合 1 において, 室温にて世界最高のトンネル磁気キャパシタンス ( 電気容量 ) 比 (=155%) の観測に成功しました また, これまで解明されていなかったトンネル磁気キャパシタンス効果 2 のメカニズムが, デバイ-フレーリッヒモデル 3 による新たな理論計算により, 初めて明らかになりました さらに, この理論計算によると, 室温にて 1000% を超えるトンネル磁気キャパシタンス比も期待できることが明らかになりました この研究成果は, 交流スピンダイナミクスに関する新たな学術的知見を提供するとともに, 次世代革新的超高性能 低消費電力メモリ素子や超高感度磁気センサーの創製に向けた新たな設計指針を導くと期待できます 本研究は, 科学研究費補助金基盤研究 (B)No.15H03981, 及びブラウン大学 National Science Foundation through Grant No.DMR-1307056 の支援を受けて実施されました 論文発表の概要研究論文名 :Large magnetocapacitance effect in magnetic tunnel junctions based on Debye-Fröhlich model( デバイ-フレーリッヒモデルに基づく強磁性トンネル接合における巨大磁気キャパシタンス効果 ) 著者 : 海住英生 1, 武井将志 1, 三澤貴浩 1, 長浜太郎 2, 西井準治 1, 萧鋼 (Xiao, Gang) 3 ( 1 北海道大学電子科学研究所, 2 北海道大学大学院工学研究院, 3 ブラウン大学物理学科 ) 公表雑誌 :Applied Physics Letters 公表日 : 米国東部時間 2015 年 9 月 29 日 ( 火 ) ( オンライン公開 )

研究成果の概要 ( 背景 ) 電子の電荷とスピンの 2 つの自由度を利用する スピントロニクス は, 現代のエレクトロニクスを凌駕する次世代技術として期待され, 近年大きな注目を集めています 中でも, 強磁性体 / 絶縁体 / 強磁性体から構成される強磁性トンネル接合は室温にて巨大なトンネル磁気抵抗効果 4 を示すことから, 世界中で盛んに研究が進められてきました 現在では室温にて 600% を超える巨大なトンネル磁気抵抗比が得られています 一方で, 強磁性トンネル接合は, 室温にてトンネル磁気キャパシタンス効果も示します しかしながら, トンネル磁気キャパシタンス比は 50% 程度にとどまっています また, そのメカニズムも明らかにされていませんでした ( 研究手法 成果 ) 今回の研究では, はじめに, 強磁性トンネル接合におけるトンネル磁気キャパシタンス効果のメカニズムを明らかにするため, デバイ-フレーリッヒモデルを用いた新たな理論を考案しました その結果, トンネル磁気キャパシタンス比は, ある特徴的な周波数において最大値を示し, その値はトンネル磁気抵抗比よりも大きくなることがわかりました そこで, この理論を実証するために, 実験的に超高真空マグネトロンスパッタ装置を用いて, コバルト鉄ボロン (CoFeB)/ 酸化マグネシウム (MgO) / コバルト鉄ボロン (CoFeB) から構成される強磁性トンネル接合を作製し, トンネル磁気キャパシタンス効果の周波数特性を詳細に調べました その結果, ある特徴的な周波数において, 室温にて巨大なトンネル磁気キャパシタンス効果を観測することに, はじめて成功しました ( 図 1 左 ) ここでのトンネル磁気キャパシタンス比は, これまでに報告された値 (= 約 50%) を大きく超える 155% を示しました また, この強磁性トンネル接合でのトンネル磁気抵抗比は 108% であることから, トンネル磁気キャパシタンス比はトンネル磁気抵抗比よりも大きいこともわかりました ( 図 1 右 ) さらに, トンネル磁気キャパシタンス効果の周波数特性は, 上述の理論による計算結果と極めて良い一致を示すことも明らかになりました ( 図 2) すなわち, 強磁性体であるコバルト鉄ボロン層の磁化が互いに平行であるときは, 絶縁体である酸化マグネシウム内のキャリア ( 電子や正孔など電気の担い手 ) は高い透過確率でトンネルするため, キャリアの緩和時間は短くなります そのため, 外部の交流電場に対してキャリアは追従することができます これによって酸化マグネシウム層における誘電分極が大きくなり, キャパシタンスが大きくなります ( 図 3 左 ) 一方で, コバルト鉄ボロン層の磁化が反平行であるときは, 上述とは逆で, 酸化マグネシウム内のキャリアは低い透過確率でトンネルするため, キャリアの緩和時間は長くなります そのため, 酸化マグネシウム層における誘電分極が小さくなり, キャパシタンスが小さくなります ( 図 3 右 ) これが今回明らかになったトンネル磁気キャパシタンス効果のメカニズムです さらに,600% 以上のトンネル磁気抵抗比をもつ強磁性トンネル接合では,1000% を超えるトンネル磁気キャパシタンス比の観測も期待できることが, 上述の理論計算により明らかになりました ( 今後への期待 ) 磁場によりキャパシタンスが変化する磁気キャパシタンス効果は, 強磁性トンネル接合のみならず, 近年盛んに研究が行われているマルチフェロイック材料においても発見されています 最近では, 絶縁体中にナノ粒子を分散させたナノグラニュラー材料や強磁性層と強磁性層の間に分子を挟んだ分子スピントロニクス素子においても発見されており, 磁気キャパシタンス効果をキーワードとした

当該研究分野が急速に発展しています このような観点から他の様々な材料 物質 デバイスにおいても室温巨大磁気キャパシタンス効果が発見される可能性は極めて高く, 学術的に広く展開していくものと期待できます さらに, 将来的には, 磁気キャパシタンス効果の特徴を活かした革新的低ノイズ 低消費電力メモリ素子の創製のみならず, 磁気抵抗効果と組み合わせることで, 従来にない多値磁気メモリ素子の創製も期待でき, 応用工学的な観点からも極めて大きな意義をもつものと考えられます お問い合わせ先所属 職 氏名 : 北海道大学電子科学研究所准教授海住英生 ( かいじゅうひでお ) TEL:011-706-9349 FAX:011-706-9346 E-mail:kaiju@es.hokudai.ac.jp ホームページ :http://nanostructure.es.hokudai.ac.jp/ 参考図 図 1 強磁性トンネル接合におけるトンネル磁気キャパシタンス効果 ( 左図 ) とトンネル磁気抵抗効果 ( 右図 ) 黒矢印は磁場の挿引方向を示す 200 ヘルツの周波数において, 室温にて 155% の巨大なトンネル磁気キャパシタンス比を観測した 一方で, この強磁性トンネル接合のトンネル磁気抵抗比は 108% を示す これよりトンネル磁気キャパシタンス比はトンネル磁気抵抗比よりも大きいことがわかる

図 2 トンネル磁気キャパシタンス比 ( 青丸 ) とトンネル磁気抵抗比 ( 赤四角 ) の周波数特性 実線はデバイ-フレーリッヒモデルを用いた理論計算結果 実験結果と計算結果は良い一致を示す 図 3 トンネル磁気キャパシタンス効果のメカニズム 強磁性体であるコバルト鉄ボロン層の磁化が互いに平行であるときは, 絶縁体である酸化マグネシウム内のキャリアは高い透過確率でトンネルするため, キャリアの緩和時間は短くなる そのため, 外部の交流電場に対してキャリアは追従することができる これによって, 酸化マグネシウム層における誘電分極が大きくなり, キャパシタンスが大きくなる ( 左図 ) 一方で, コバルト鉄ボロン層の磁化が反平行であるときは, その逆で, 酸化マグネシウム内のキャリアは低い透過確率でトンネルするため, キャリアの緩和時間は長くなる そのため, 酸化マグネシウム層における誘電分極が小さくなり, キャパシタンスが小さくなる ( 右図 ) これらの磁化平行 反平行状態が磁場によって制御できるため, 磁気キャパシタンス効果が発現する

用語説明 1 強磁性トンネル接合 : 2 層の強磁性体の間に極薄の絶縁体が挟まれた接合 絶縁体の厚さがナノメートル程度と薄い場合, 量子力学的な効果 ( トンネル効果 ) により電流が流れる この薄い絶縁体が強磁性体により挟まれていることから, 強磁性トンネル接合と呼ばれる 2 トンネル磁気キャパシタンス効果 : 強磁性トンネル接合において, 両強磁性層の磁化が平行であるときキャパシタンスが大きくなり, 反平行であるときキャパシタンスが小さくなる現象 一般に, 磁気キャパシタンス効果には 2 つのタイプがあり,1 つはマルチフェロイック材料において, もう 1 つは強磁性トンネル接合に代表されるスピントロニクスデバイスにおいて, 発見されている (Scientific Reports 5, 13704 (2015)) 3 デバイ-フレーリッヒモデル : 動的な誘電率の算出に極めて有効な理論モデル 昨年, 絶縁体中に磁性ナノ粒子が分散された系でその定量的理解に成功している (Nature Communications 5, 4417(2014)) 4 トンネル磁気抵抗効果 : 強磁性トンネル接合において, 両強磁性層の磁化が平行であるとき抵抗が小さくなり, 反平行であるとき抵抗が大きくなる現象 スピントロニクス研究分野における代表的な現象の一つ すでにハードディスクドライブの読み取り用磁気ヘッドや磁気センサーに応用されている