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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

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平成14年度研究報告

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論文の内容の要旨

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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報道機関各位 平成 30 年 11 月 8 日 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 東京工業大学生命理工学院 第 5 回生命理工オープンイノベーションハブ (LiHub) フォーラム バイオマトリックス : 生命科学 材料工学から健康 医療 美容への架け橋 のご案内 東京工業大学生命理工学院は

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4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

学位論文の要約

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

ダー大王の時代に遡り 進化論のダーウィンが晩年 草分け的な膨大な観察研究を行いました 昨年度ノーベル生理学医学賞の受賞対象となった生物時計は 18 世紀に 植物の就眠運動から発見されました このように 就眠運動は 太古の昔から人類の知的好奇心を刺激し 重要な科学的発見をもたらしました しかし その分

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クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

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受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

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生物時計の安定性の秘密を解明

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

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平成24年7月x日

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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2019 年 1 月 21 日 自然科学研究機構基礎生物学研究所東北大学大学院生命科学研究科産業技術総合研究所 サンゴがもつ緑色蛍光タンパク質の働きが明らかに ~ 蛍光による共生パートナーの誘引 ~ サンゴ礁を形作り 南の海の生態系の維持に不可欠な存在であるサンゴは その多くが紫外線や青色光を受ける

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前側と後側のバランスを後ろ寄りにすると鰭の付け根の骨は1 本に変化 概要 東京工業大学大学院生命理工学研究科の田中幹子准教授と鬼丸洸元大学院生 ( 現 CRG 博士研究員 ) らの研究グループは スペイン CRG( 用語 1) のジェームズ シャープ (James Sharpe) 教授らと共同で 鰭 ( ひれ ) から四肢への進化をもたらした要因の解明に成功した 軟骨魚類ハナカケトラザメ (Scyliorhinus canicula: 以下 サメ ) の鰭を解析し サメ胚 ( 個体発生の初期段階 ) の胸鰭は 付け根の部分が3つの骨からなる原始的な鰭の特徴を持つが 鰭から四肢への進化の過程で 前側と後側の位置価 ( 用語 2) をもつ領域のバランスが 後側寄りにシフトすることがわかった 位置価のシフトの原因は 四肢の原基 ( 用語 3) の前側で発現する Gli3 遺伝子 ( 用語 4) が サメの胸鰭原基では後側で強く発現しているためであることが考えられた さらに Gli3 遺伝子の発現を変化させた原因となったゲノム配列を同定した そこで サメ胚の鰭の位置価を人為的に後側寄りにシフトさせると 陸にあがる直前のティクターリク (Tiktaalik 用語 5) の胸鰭のように 付け根の部分の骨が1つに融合し 先端の骨の数が減少していることがわかった このことから 鰭から四肢への進化の過程では Gli3 遺伝子の発現が変化したことで 前側と後側の位置価をもつ領域のバランスが 後側寄りにシフトすることが重要な原因のひとつであることが示された 研究成果は 8 月 18 日に国際科学誌 elife ( 用語 6) で公開された

研究の背景私たちの四肢は 原始的な魚類の鰭から進化したものである 原始的な魚類の鰭は 鰭の付け根の部分が3つまたはそれ以上の骨からなっており この特徴を備えている鰭をもつ現存の生物としては 軟骨魚類があげられる ( 図 1a) 一方 四肢の場合は 付け根の部分は1つの骨からなっている ( 図 1a) そこで 東京工業大学の田中准教授と鬼丸洸元大学院生らは軟骨魚類サメ胚を題材に 鰭が四肢へと進化したメカニズムを調べることにした 研究成果四肢の原基では 前側 ( 親指側 ) と後側の領域で様々な形態形成に関わる遺伝子が発現している ( 図 1b) 軟骨魚類サメ胚の胸鰭の原基において これらの遺伝子の発現パターンを調べてみると 前側と後側の領域のバランスが 四肢の原基よりも後側寄りになっていることがわかった ( 図 1b) これは 鰭から四肢への進化の過程で 前側と後側の位置価をもつ領域のバランスがシフトしたことを意味している 四肢の形成過程では 前側と後側の位置価をもつ領域のバランスは 四肢の原基の前側の広い領域で発現している Gli3 という遺伝子によって制御されている そこで サメ胚の胸鰭の原基において Gli3 遺伝子の発現を調べたところ サメの鰭では Gli3 遺伝子が 四肢の原基とは異なり 後側で強く発現していることがわかった この特徴は 軟骨魚類全頭類 ( 用語 7) のゾウギンザメ胚の鰭でも確認されたことから 軟骨魚類の鰭で保存されている特徴と考えられた さらに Gli3 遺伝子の発現パターンの変化の原因について解析したところ 軟骨魚類から四肢動物への進化の過程において Gli3 遺伝子の発現を制御するゲノム配列が変化していることに起因していることを明らかにした これらの結果は Gli3 遺伝子の発現パターンが変化したことにより 前側と後側の位置価をもつ領域のバランスがシフトして 鰭が四肢へと進化した可能性を示唆していた そこで サメの胸鰭の前側と後側の領域のバランスを人為的な方法 ( レチノイン酸という物質で処理する手法 ) でシフトさせ 後側化させることで 鰭を四肢へと変化させることができるか検証した その結果 後側化させたサメの胸鰭は 絶滅した肉鰭類 Tiktaalik でみられるような付け根に1つの骨をもつ四肢様の鰭に形を変化させることがわかった ( 図 2) これらの結果から 鰭から四肢への進化の過程では Gli3 遺伝子の発現パターンの変化により 前側と後側の位置価のバランスが少しずつシフトしていくことが 付け根の部分に1つの骨をもち 先端には5 本の指をもつ四肢へと進化していく上で重要な要因の一つであったと考えられた ( 図 3)

今後の展開サメを題材にした今回の研究によって 鰭から四肢への進化が 前側と後側のバランスのシフトが一因となっていることを初めて示すことに成功した Gli3 遺伝子の発現を制御するゲノム配列の変化が鍵であることを示したが 実際には Gli3 とあわせて複数の因子が前側と後側のバランスのシフトに関わっていたと思われる また 鰭から四肢への進化の過程では なぜ 5 本指になったのか ( 原始的な両生類は 7-8 本指あったと考えられている ) などの問題は解明されていない 今後もサメを題材に 鰭から四肢への進化の過程で働く Gli3 以外の因子や その作用機序を明らかにしていくことで 鰭から四肢への進化の謎に迫りたい 用語説明 [1]CRG:Center for Genomic Regulation スペイン バルセロナにある生命科学の研究所 [2] 位置価 : 個々の細胞に与えられる分子的な番地表示のことで 体の中での相対的位置を示す 遺伝子発現レベルなどによって与えられる [3] 原基 : 将来ある器官になることに予定されてはいるが, まだ形態的 機能的には未分化の状態にある部分 [4]Gli3 遺伝子 : 四肢では 前側と後側領域のバランスを決める鍵となる遺伝子 [5] ティクターリク (Tiktaalik):3 億年以上前に生息した絶滅肉鰭類で 四肢動物と多くの共通点を持つ [6] elife : 生命科学 生命医学分野の一流の成果が発表されるオープンアクセス誌である ( インパクトファクター 9.322) [7] 全頭類 : 軟骨魚類の現生種は板鰓類と全頭類に大きくわけられる ハナカケトラザメ ( 文中の サメ ) は板鰓類で ゾウギンザメは全頭類 論文情報掲載誌 :elife 論文タイトル :A shift in anterior-posterior positional information underlies the fin-to-limb evolution. 著者 : Koh Onimaru, Shigehiro Kuraku, Wataru Takagi, Susumu Hyodo, James Sharpe and Mikiko Tanaka DOI: http://dx.doi.org/10.7554/elife.07048 Cite as: elife 2015;4:e07048.

研究グループ東京工業大学 Center for Genomic Regulation (CRG) 理化学研究所 東京大学 研究サポート本成果は 文部科学省科学研究費補助金基盤研究 (B) 東京工業大学グローバル COE プログラム 生命時空間ネットワーク 日本学術振興会日本 オーストラリア二国間交流事業 稲盛財団研究助成金 CREA 及び CRG のサポートを受けて得られた 問合せ先 東京工業大学大学院生命理工学研究科生体システム専攻准教授田中幹子 Email: mitanaka@bio.titech.ac.jp Tel: 045-924-5722 取材申し込み先 東京工業大学広報センター Email: media@jim.titech.ac.jp Tel: 03-5734-2975 Fax: 03-5734-3661

図 1 軟骨魚類ハナカケトラザメ (S. canicula) の胸鰭とマウスの前肢 (a) 骨格パターン サメの鰭は付け根の部分は3つの骨があり 体幹に付着している 一方 マウスの前肢は ほかの四肢動物でもみられるように付け根の部分には1つの骨があり 体幹に付着している (b) 遺伝子発現パターン 前側 ( 親指側 ) の遺伝子 (Alx4, Pax9 ) の発現している領域と後側の遺伝子 (Hand2) の発現している領域のバランスがシフトしているのがわかる

図 2 サメの鰭を人為的に後側化させた実験の結果 コントロールの鰭 ( 左 ) では Hand2 遺伝子は後側の限局された場所に発現しており 付け根には3つの骨 (ppr, pmr, pmt) がある 一方 人為的に後側化させたサメの鰭 ( 右 ) では Hand2 遺伝子の発現が前側に広がっている ( 矢尻 ) 後側化させた鰭の中でも最もシビアな表現型を示した骨格をみると 付け根の骨は1 本になり 先端の骨の数も減少している 興味深いことに 魚類と四肢動物の中間的な形態的特徴をもつとされる絶滅した肉鰭類の Tiktaalik でも 付け根の骨 (humerus) は1 本になっていた

図 3 鰭から四肢への進化のモデル 前側 ( 緑 ) と後側 ( 青 ) の位置価をもつ領域のバランスがシフトすることが 鰭から四肢への進化を引き起こす引き金になったのかもしれない