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国立環境研究所 2015 公開シンポジウム 多媒体モデルを用いて 放射性物質の動きを予測する 今泉圭隆 環境リスク研究センター

皆さんに質問です ある化学物質が 将来 環境中でどのくらいの濃度になるか 予測することはできますか? 2

本日の話題 1. 環境中の化学物質の動きをどのように予測するか 1.1 多媒体モデルと環境モデル 1.2 多媒体モデル G-CIEMS の紹介 2. 原発事故由来の放射性セシウムの動きを多媒体モデルで予測する 2.1 国立環境研究所での取り組みの紹介 2.2 G-CIEMS を用いた予測 3

1. 環境中の化学物質の 動きをどのように予測するか 4

多媒体モデルとは 化学物質が存在する場を媒体と呼ぶ ( 大気や海 川 土など ) 1.1 環境モデルと多媒体モデル 多媒体モデルは それら複数の媒体を扱う 環境モデルの中のひとつのグループ 例えば ベンゼン ( ガソリンのにおい成分のひとつ ) は 東京の 10km 四方においてどのくらいの濃度で存在するか? を解くための道具 5

環境モデルとは 1.1 環境モデルと多媒体モデル コンピュータ上に 環境 (= 身の回りの空間 ) を模擬的に構築することで 化学物質の環境中での動きを計算するモノ コンピュータを使わずに 関連する方程式を立て それを解くことで環境中での動きを計算する場合もある 6

1.1 環境モデルと多媒体モデル 様々な環境モデルが存在する 対象とする化学物質の特徴 目的や計算する場所によって最適な環境モデルが決まる 例えば 煙突から出た物質がどこまで到達するか? ある地点から流された物質はどのように広がっていくか? 7

1.1 環境モデルと多媒体モデル 多媒体モデルが生まれた背景 何万種類という化学物質を正しく管理するためには 環境中に長く留まる化学物質を把握する必要がある つまり どういう媒体に留まりやすいか 存在しやすいかを捉えることが大切になる それぞれの媒体を箱に見立てて 箱の外側との化学物質の出入りと 箱の中での動きを計算する 大気 海 川 湖 砂 泥 土 8

一般的な多媒体モデル 1.1 環境モデルと多媒体モデル 同じ媒体でも箱を細かくすることで 空間的な広がりを計算することが可能になる 大気 大気 海 川 湖 土 海 川 湖 砂 泥 例 1: 各媒体を細分化 砂 泥 例 2: 多媒体を入れ子状に 土 9

1.1 環境モデルと多媒体モデル 多媒体モデルを構築する上でのポイント 1 それぞれの媒体間や媒体内でどのようなプロセス ( 化学物質や媒体の動き ) を考えるか 2 それぞれの媒体 ( 箱 ) をどのように分割するか 3 時間の経過をどのように考慮するか ( 考慮しない場合もある ) 10

多媒体モデル G-CIEMS Grid-Catchment Integrated Environmental Modeling System (G-CIEMS) 我々が作っている多媒体モデルの一つ 実際の地形情報 ( 標高データ ) から集水域 ( 雨が降った時に 河川 の 1 地点に流入する地域の範囲 ) を計算し 地表の媒体の 箱 を設定することでより正確に環境を再現する ( 後ほど詳しく説明します ) 日本全国を約 3 万 8 千の集水域に分割 1.2 多媒体モデル G-CIEMS の紹介 計算結果例 ( 大気中のベンゼン濃度 ) 赤棒は観測値 11

1.2 多媒体モデルG-CIEMSの紹介水田農薬への適用例 河川中の除草剤 ( プレチラクロール ) 濃度 ( 春から秋までの予測結果 ) 春先の使用時期に濃 度上昇 その後 低下 高 除草剤使用量や水田 の密度の違いが反映 されている 低 12

放射性セシウムの計算結果例 北関東 + 福島県中通り 浜通り地方 1.2 多媒体モデル G-CIEMS の紹介 陸地のひとつの 箱 (= 集水域 ) の大きさは平均 9km 2 ( 地形などに依存して箱の大きさは変わる 次のスライドで説明 ) 137 Cs kbq/m 2 0-30 30-100 100-300 300-1000 1000-137 Cs kbq/m 3 0-3 3-10 10-30 30-100 100-300 地表 河川底質 事故後 3 年経過時点 (2014 年 3 月 31 日時点 ) 13

地理データの作成 ~ 河川 + 集水域 ~ 地理情報システム (GIS: 位置や空間に関する情報をコンピュータで解析するシステム ) を利用する 1 河川を線分ごとにバラバラにする ( それを河道と名付ける ) 2 標高データから傾斜方向を計算する 3 それぞれの河道に流れ込む範囲 ( 集水域 ) をグループ化する別途 河道の相互関係 ( ネットワーク関係 ) をデータ化する 14 1.2 多媒体モデル G-CIEMS の紹介 1 2 3 一辺約 10m

地理データの作成 ~ 河川 + 集水域 + 大気 ~ (A) 集水域のデータを作成 ( 前スライドで説明 ) (B) 大気メッシュを作成 (B ) 大気との重なり面積を計算して データ化 擬似的な陸域空間をコンピュータ上に再現 1.2 多媒体モデル G-CIEMS の紹介 平均約 9km 2 (A) (B) 15

土地利用区分 1.2 多媒体モデル G-CIEMS の紹介 各集水域では 土地利用区分ごとに化学物質の動きを計算 沈着 森林植生 流出過程 拡散輸送 落葉過程 土壌 ( 土地利用 6 区分 ) 土壌 ( 森林 ) 16

2. 原発事故由来の 放射性セシウムの動きを 多媒体モデルで予測する 17

福島第一原発事故 2.1 国環研での取り組み 福島第一原発の事故により 放射性セシウムは他の核種と共に風に乗って運ばれた 環境中での残留性などから 中長期ではセシウム 137 の動きの把握が重要である 文部科学省及び米国エネルギー省航空機による航空機モニタリングの測定結果について ( 平成 23 年 5 月 6 日 ) より 18

環境中での放射性セシウムの動きを再現 予測するには 多媒体モデル G-CIEMS は 環境全体 を大きく捉えることは得意だが 風や雨 海流など時々刻々と変化するプロセス自体を再現することは苦手 風や雨を再現することが大切な大気は大気モデル 海流やそれで運ばれる砂を再現することが大切な沿岸海域は 沿岸海域モデル 2.1 国環研での取り組み 19

国立環境研究所の 3 つの 2.1 国環研での取り組み モデリング研究グループが協力 沈着 陸域のモデル ( 多媒体モデル G-CIEMS) 大気のモデル 流出 沈着 沿岸海域のモデル 20

2.1 国環研での取り組み 大気モデルによる再現計算 1 セシウム 137 の大気濃度 セシウム 137 の積算沈着量 21

2.1 国環研での取り組み 大気モデルによる再現計算 2 福島第一原発事故にともなうセシウム 137 の地表への沈着量 観測値 ( 航空機モニタリング ) Aircraft monitoring モデル計算値 Model (STD) 40 40 39 39 高沈着量 38 38 地域を 良好に再現 37 36 35 Cs-137 (kbq/m 2 ) 3000 < 1000-3000 600-1000 300-600 100-300 60-100 30-60 10-30 0.5-10 37 36 35 138 139 140 141 142 143 138 139 140 141 142 143 22

2.1 国環研での取り組み 沿岸海域モデルによる再現計算 1 200 m 500 m 1000 m 2000 m 4000 m 福島第一原発 福島第一原発 4000 m 海水表層セシウム 137 濃度 (Bq/L) 海底土表層セシウム 137 濃度 (Bq/kg)

沿岸海域モデルによる再現計算 2 福島第一原発 200 m 海底土表層セシウム 137 濃度 (Bq/kg) 2.1 国環研での取り組み 水深 50m より浅い海域 波や風の影響で徐々に減少 水深 50m~100m の海域 集積しやすい ホットスポットを再現できた なお 2011 年 7 月以降に福島第一原発から直接流れ出たセシウム 137 は計算に含まれていない 他の核種を含めて 廃炉作業等による環境中への放射性物質の排出については引き続き監視していく必要がある 海底に堆積したセシウム 137 の分布 (2011 年 12 月 ) 国環研 HP 災害環境研究サマリー 2014 より 24

2.2 G-CIEMS での予測 G-CIEMS による計算 考えるべきこと 陸域での放射性セシウムの挙動として 最終的に何を知るべきか? 陸域の放射性セシウムについて どこに どの程度 いつまで残留するか 中長期 ( 数年 ~ 数十年 ) の将来予測をしたい 25

2.2 G-CIEMS での予測 水の流れとセシウム 137 の挙動 表面からの流出現象が重要 降雨 セシウム 137 土壌粒子 水の動き 表面流 + 土壌粒子 & 吸着セシウム 137 浸透 表面流 + 溶存セシウム 137 26

2.2 G-CIEMS での予測 G-CIEMS による計算 詳細に場所ごとの地表面での残留量 ( 左図 ) や河川底質中濃度 ( 右図 ) などを計算 137 Cs kbq/m 2 0-30 30-100 100-300 300-1000 1000-137 Cs kbq/m 3 0-3 3-10 10-30 30-100 100-300 地表 河川底質 事故後 3 年経過時点 (2014 年 3 月 31 日時点 ) 27

2.2 G-CIEMS での予測 地表のセシウム 137 残留量の経年変化 初期 地表セシウム 137 総量 ( 10 15 Bq) 2.0 1.5 1.0 0.5 0 水田 畑地 低木等 森林 荒地 市街地 その他 物理崩壊のみ 約 7 割は森林に沈着 中長期 物理崩壊のみ より やや早く減少する 割合 はあまり変わらず 長期間にわたり地表面 に残留する なお 除染の影響は加味していない 28

モデル計算だけでなく実態調査も実施 宇多川上流森林域でのセシウム 137 の流出量調査 森林からの流出は 主に降雨時の雨水流出とともに起きる 流出土砂由来のセシウム 137 森林域からのセシウムの年間流出割合 = 流出量 / 事故での沈着量 = 0.22kBq/m 2 170kBq/m 2 セシウム 137 の流出状況 = 0.13% 物理崩壊分 (2.3%/ 年 半減期 30 年 ) に比べて少ない しかし 下流域でセシウム137の蓄積量が増えている湖やため池などもある 29

3 まとめ わかったこと 放射性セシウムに関する モデル研究のまとめ 事故直後の大気中の動き その後の海域での動きをよく再現することができた 陸域ではセシウム 137 の 7 割が森林に存在し 中長期間残留することがわかった 今後必要なこと ( 陸域のモデル研究として ) 降雨による流出をより正確に再現する 森林域をより詳細に予測する 30

冒頭の質問への私なりの回答 3 まとめ 質問 : ある化学物質が 将来 環境中でどのくらいの濃度になるか予測することはできますか? 回答 : むずかしい しかし 化学物質の特性や環境中に出てくる量がわかれば 環境モデルを使って 大雑把に予測することは可能です 大雑把な予測をより正確な予測にするために日々研究しています もちろん 危険性を把握するためにヒトや生態系への影響を評価することや より正確に知るために環境を観測することも必要です さらに難しいのは 大雑把な予測しか得られない状況で どのように化学物質を管理していくべきか という問いです その問いに答えることが私の ( そして 我々の ) 目標です 31