平成 28 年 1 月 26 日 エルニーニョ現象と 世界 日本の天候 安田珠幾 エルニーニョ情報管理官気象庁地球環境 海洋部気候情報課
はじめに 1
はじめに 現在 1997-98 年のエルニーニョ現象以来の強いエルニーニョ現象が発生中 エルニーニョ現象は世界の異常気象を引き起こし 日本には 冷夏 暖冬 をもたらすと言われる エルニーニョ現象はなぜ世界の広い範囲の天候に影響を及ぼすのか? そもそもエルニーニョ現象とは? 内容 エルニーニョ現象とは? エルニーニョ現象と世界の天候 エルニーニョ現象と日本の天候 エルニーニョ現象の影響を受けた 2015 年の天候 2
2015 年 :1997-98 年以来の強いエルニーニョ現象 2015 年のエルニーニョ現象に関する報道例 ジャワ島少雨 2015.7.6 アンタラ通信 Super El Nino ( スーパーエルニーニョ ) 2015.7.27 Washington Post Godzilla El Nino ( ゴジラエルニーニョ ) 2015.8.21 Los Angeles Times インドネシア少雨 2015.10.15 NHK 2015 年 12 月海面水温平年との差 エルニーニョ 史上最大級 2015.11.18 産経新聞 農業への影響 2015.12.21 日本農業新聞 スキー場オープンできず 2016.1.18 ブルームバーグ コロンビア少雨 2016.1.19 共闘通信 3
2015 年 : 熱帯を中心とした異常気象 2015 年に発生した主な異常気象と気象災害 アジア南部 南米北部などで高温 少雨の異常気象 エルニーニョ現象の影響? 平成 27 年 12 月 21 日気象庁報道発表資料を更新 4
2015 年 : 日本冷夏? 暖冬? 日本の地域平均気温の平年差の時間変化 ( ) 夏エルニーニョ現象の影響? 冬 5
2015 年 : 世界の年平均気温の記録更新 世界の年平均気温の変化 2015 年 0.40 エルニーニョ現象の影響? 6
エルニーニョ現象 とは? 太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で海面水温が平年に比べて高くなり その状態が 1 年程度続く現象 7
エルニーニョ現象に伴う海洋の変化 海面水温の変動 (1995-2005 年 ) 西部太平洋赤道域で最も高い 東部太平洋赤道域は低い 1 年周期の季節変化が顕著 熱帯太平洋では 数年に 1 度 西部の暖かい水が東に広がる 次に 1 年周期の季節変化を取り除く ( ) 8
エルニーニョ現象に伴う海洋の変化 1981-2010 年の平均的な季節変化を取り除いた海面水温変動 ( 平年との差 ) 偏差 エルニーニョ監視海域 5 S-5 N, 150-90 W ( ) 東部で高くなり 西部で低くなる年がある 逆のパターンも見られる 次に エルニーニョ監視海域での海面水温の時間変動を示す 9
エルニーニョ現象とラニーニャ現象の期間 エルニーニョ監視海域の海面水温の変動 ( ) ( 前年までの 30 年平均値との差 ) エルニーニョ期 ラニーニャ期 1972-73 6~18 か月程度持続 概ね 2~7 年の間隔 1982-83 4 大エルニーニョ現象 1997-98 1997-98 1982-83 2014-1972-73 2014- 細線 : 月平均値太線 :5 か月平均値 10
エルニーニョ現象とラニーニャ現象 エルニーニョ期 ラニーニャ期 海面水温 ( ) 1997 年 11 月 1998 年 12 月 海面水温の平年との差 ( ) 太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸 11
エルニーニョ現象に伴う大気の変化 数年程度の間隔で 赤道太平洋の海面水温が変動 エルニーニョ / ラニーニャ現象 大気にも同様の時間規模の変動が存在 平均的な 12 月の海上風 ( 矢印 ) と海面気圧 ( カラー ) (1981-2010 年平均 ) 貿易風 ( 東風 ) (m/s) (hpa) 12
エルニーニョ現象に伴う大気の変化 (5 S-5 N, 160 E-130 W) 中部太平洋赤道域の東西風 ( カラー m/s) とエルニーニョ監視海域の海面水温の変化 ( 黒線 ) 平年 (1981-2010 年 ) との差 エルニーニョ監視海域海面水温 : 高エルニーニョ現象 貿易風弱い エルニーニョ監視海域海面水温 : 低ラニーニャ現象 貿易風強い 貿易風が弱い時 海面水温が高い ( エルニーニョ現象 ) 貿易風が強い時 海面水温が低い ( ラニーニャ現象 ) 貿易風 ( 大気 ) と海面水温 ( 海洋 ) には密接な関係がある 13
エルニーニョ現象の概念図 大気と海洋が結合して発達 平常時 貿易風が弱い 暖かい水が東へ移動 対流活発域も東へ移動 貿易風が弱まる エルニーニョ現象時 通常より暖かい 弱い貿易風 貿易風 ラニーニャ現象時 強い貿易風 貿易風によって西部に暖かい水が蓄積東部では冷たい水が湧昇西部の暖水上で対流活発 上昇気流 降雨 貿易風は上昇流の場所に吹き込む 通常より冷たい 14
現在発生中の エルニーニョ現象 15
現在発生中のエルニーニョ現象 海面水温 : 平年 (1981-2010 年平均 ) との差 2015 年 12 月 1997 年 11 月 エルニーニョ監視海域 エルニーニョ監視海域海面水温エルニーニョ発生期間中の最大値 4 大エルニーニョ現象 (1950 年以降 ) 1997-98 : +3.6 C 1982-83 : +3.3 C 2014- : +3.0 C 1972-73 : +2.7 C 16
2014 年夏に発生 2015 年に発達 2015 年末に最盛期 海面水温平年からの差 ( ) 表層 300m 平均水温 ( ) 大気の対流活動 ( 大気上端外向き長波放射 ) 平年からの差 (W/m 2 ) エルニーニョ現象発生 エルニーニョ現象発達 エルニーニョ現象最盛期 エルニーニョ発達対流不活発対流活発 17
エルニーニョ現象と 世界の天候 18
2015 年の世界の天候 2015 年に発生した世界の異常気象 5 月以降 アジア南部 南米北部などで高温 少雨 平成 27 年 12 月 21 日気象庁報道発表資料を更新 19
気温 ( ) 2015 年の世界の天候 マナド ( インドネシア ) における気温と降水量の変化 最高気温 平均気温 最低気温 降水量 ( 白抜きは平年値 ) 降水量 (mm) 2015 年北半球夏から秋にかけて高温 少雨 20
エルニーニョ現象に伴う大気海洋の変化 エルニーニョ現象時 大気は平年との違いを表す 対流不活発 対流活発 対流不活発 対流圏上層気圧 地上気圧 インド洋太平洋大西洋 300m 赤道水温断面 Webster and Chang (1988) に加筆 21
エルニーニョ現象と 日本の天候 22
エルニーニョ現象と日本の天候の関係 夏の気温 夏の降水量 低温傾向 ( 全てではない ) 冬の気温 冬の降水量 高温傾向 ( 全てではない ) 23
平年の北半球夏の大気循環場 対流活発 偏西風 チベット高気圧 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 大気循環場へのエルニーニョ現象による影響 世界や日本の天候の変化 アジアモンスーン 太平洋高気圧 貿易風 海面気圧と海上風 24
エルニーニョ現象の大気への影響 ( 北半球夏 ) 図は平年との差を表す 偏西風南偏 対流不活発 対流活発 チベット高気圧 低 インド洋太平洋大西洋 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : チベット高気圧の弱まり偏西風の南偏 低温 日本付近 : 偏西風の季節的な北上の遅れ太平洋高気圧の北への張り出し弱い 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 太平洋高気圧低高 対流圏下層の大気循環 (850hPa 流線関数 ) 25
熱帯の対流活動 ( 活発 ) と偏西風の蛇行 発散風 北へ蛇行 対流活発域の北西側で偏西風は北へ蛇行 対流活発域 ( 上昇流 ) 赤道での活発な対流活動に応答した大気循環場の応答 26
熱帯対流活動 ( 活発 ) に対する大気の応答 対流圏上層縮む 高気圧循環 対流圏下層伸びる 低気圧循環 横から見た図 上から見た図熱源自転なし 対流圏上層対流圏下層 高低 高低 現実 対流圏上層対流圏下層 海洋 暖水 熱源と同じ場所 熱源の北西側自転 地球が球ロスビー波 27
エルニーニョ現象の大気への影響 ( 北半球夏 ) 図は平年との差を表す 偏西風南偏 対流不活発 対流活発 チベット高気圧 低 インド洋太平洋大西洋 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : チベット高気圧の弱まり偏西風の南偏 低温 日本付近 : 偏西風の季節的な北上の遅れ太平洋高気圧の北への張り出し弱い 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 太平洋高気圧低高 対流圏下層の大気循環 (850hPa 流線関数 ) 28
平年の北半球冬の大気循環場 対流活発 偏西風 インド洋太平洋大西洋 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 大気循環場へのエルニーニョ現象による影響 世界や日本の天候の変化 シベリア高気圧 アリューシャン低気圧亜熱帯高気圧 海面気圧 29
エルニーニョ現象の大気への影響 ( 北半球冬 ) 図は平年との差を表す 偏西風蛇行 対流不活発 対流活発 低 高 低 インド洋太平洋大西洋 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : 日本の西で低気圧 東で高気圧偏西風の蛇行 高温 日本付近 : 冬型の気圧配置の弱まり南からの暖かい空気の流れ込み低気圧が通りやすい 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) シベリア高気圧 高 アリューシャン低気圧 高 海面気圧 低 30
2015 年夏と 2015/16 年冬の 日本の天候 31
2015 年の日本の天候 日本の地域平均気温の平年差の時間変化 ( ) 夏 冬 32
2015 年夏 (6-8 月平均 ) の日本の天候 エルニーニョ現象の影響 夏 : 西日本の低温 多雨 寡照 8 月中旬から 9 月上旬 : 東日本 西日本の低温 多雨 寡照 33
2015 年夏のエルニーニョ現象の影響 偏西風南偏 線 : 実況カラー : 平年との差 活発 低 不活発 対流活動 ( 大気上端外向き長波放射 ) 高 太平洋高気圧低 対流圏下層の大気循環 (850hPa 流線関数 ) 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : チベット高気圧の弱まり偏西風の南偏 日本付近 : 太平洋高気圧の北への張り出し弱い 34
2015/16 年冬の日本の天候 (12/1-1/24 平均 ) エルニーニョ現象の影響 11 月 : 西日本を中心とした高温 多雨 寡照 12 月以降 : 東日本以西の高温 多雨 35
2015/16 年冬のエルニーニョ現象の影響 インド洋太平洋大西洋 偏西風蛇行 (12/1-1/23 平均 ) 線 : 実況カラー : 平年との差 活発低高 低 不活発 対流活動 ( 大気上端外向き長波放射 ) アリューシャン低気圧 高高 低 海面気圧 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : 日本の西で低気圧 東で高気圧偏西風の蛇行 日本付近 : 冬型の気圧配置の弱まり南からの暖かい空気の流れ込み低気圧通過多い 36
日本の天候とエルニーニョ現象 2014 年夏以降 エルニーニョ現象の影響があったと考えられる日本の天候の特徴 エルニーニョ現象発生 2014 年夏 : 西日本の低温 多雨 2014 年夏後半から秋前半 : 西日本の低温 2014/15 年冬 ~2015 年春 : 明瞭な影響見られずエルニーニョ現象再発達 2015 年夏 : 西日本の低温 多雨 寡照 2015 年 8 月中旬から 9 月上旬 : 東日本 西日本の低温 多雨 寡照 2015 年 9 月 : 東日本 西日本の低温 2015 年 10 月 : 東日本 西日本の少雨 多照 2015 年 11 月 : 西日本を中心とした高温 多雨 寡照 2015 年 12 月 : 東日本以西の高温 多雨 37
エルニーニョ現象と 世界平均気温の上昇 38
2015 年 世界の年平均気温の記録更新 世界の年平均気温の変化 偏差 1972,73 1997,98 2014,15 16(?) 1986,87 2009,10 エルニーニョ現象に伴い 世界平均気温が上昇 2015 年の記録更新 : 地球温暖化 + エルニーニョ現象 39
相関係数 世界の平均気温はエルニーニョ現象から遅れて上昇 エルニーニョ監視海域の海面水温との関係 世界平均気温 ( 赤 ) 世界陸上平均気温 ( 緑 ) 石原 ( 私信 ) エルニーニョ監視海域の海面水温からの遅れ ( か月 ) エルニーニョ現象 (3 か月 ) 世界平均気温 ( 世界陸上平均気温は 4~7 か月遅れ ) 40
世界平均気温の上昇の加速 停滞 世界の年平均気温の変化 加速 停滞 加速 停滞 加速? 気温上昇の加速 停滞今回のエルニーニョ現象で変化? 41
おわりに 42
おわりに エルニーニョ現象とは 赤道太平洋赤道域における大気と海洋が結合して変動する その影響は熱帯太平洋のみならず 世界の大気海洋に及ぶ 現在のエルニーニョ現象 1950 年以降で 4 つの強いエルニーニョ現象のひとつである 2014 年夏に発生 2015 年 11 月から 12 月にかけて最盛期となった エルニーニョ現象と世界 日本の天候 世界では アジア南部 南米北部で高温 少雨が発生しやすい 2015 年もその特徴が表れた 日本では夏に低温傾向 冬に高温傾向になりやすい 2015 年は 夏の西日本の低温や冬の東日本以西の高温などが エルニーニョの影響と考えられる ( 日本の天候は 季節内振動や中高緯度大気独自の変動の影響も受けるため 全てエルニーニョの影響で決まるというわけではない ) 2015 年の世界平均気温の記録更新には 地球温暖化に加えてエルニーニョ現象の影響が大きいと考えられる 43
エルニーニョ現象は 夏までに平常の状態に 2016 年 1 月 12 日発表気象庁エルニーニョ監視速報 No.280 エルニーニョ現象は 2015 年 11 月から 12 月にかけて最盛期となった 今後エルニーニョ現象は弱まり 夏までに平常の状態になる可能性が高い 気象庁エルニーニョ予測モデルによる予測結果 エルニーニョ現象 通常 ラニーニャ現象 冬から春にかけてはエルニーニョ現象が続く見込み 44