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2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

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電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

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(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

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図 1 COBE-SST のオリジナル格子から JCDAS の格子に変換を行う際に用いられている海陸マスク 緑色は陸域 青色は海域 赤色は内海を表す 内海では気候値 (COBE-SST 作成時に用いられている 1951~2 年の平均値 ) が利用されている (a) (b) SST (K) SST a

気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

9 報道発表資料平成 29 年 12 月 21 日気象庁 2017 年 ( 平成 29 年 ) の日本の天候 ( 速報 ) 2017 年 ( 平成 29 年 ) の日本の天候の特徴 : 梅雨の時期 (6~7 月 ) は 平成 29 年 7 月九州北部豪雨 など記録的な大雨となる所があった梅雨の時期

目次 要旨 第 1 章序論 研究背景 1-2 研究目的 第 2 章海洋と大気の気候偏差パターン エルニーニョ / ラニーニャ現象 2-2 エルニーニョ 南方振動 (ENSO) 2-3 PNA (Pacific / North American) パターン 第 3

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Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

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報道発表資料

報道発表資料平成 28 年 1 月 4 日気象庁 2015 年 ( 平成 27 年 ) の日本の天候 2015 年 ( 平成 27 年 ) の日本の天候の特徴 : 年平均気温は全国的に高く 北日本と沖縄 奄美ではかなり高い ただし 西日本は2 年連続の冷夏 夏から秋の一時期を除き 全国的に高温傾向が

今年 (2018 年 ) の夏の顕著な現象 平成 30 年 7 月豪雨 記録的な高温 本から東海地 を中 に 広い範囲で記録的な大雨となった 東 本から 本を中 に 各地で記録的な高温となった 2

Multivariate MJO (RMM) 指数 ( Wheeler and Hendon, 2004) を用いた 西日本の気温偏差データは気象庁ウェブページから取得し用いた すべての変数について, 解析には DJF 平均したものを用い, 解析期間は 1979/80~2011/12 の 33 冬と

2.1 の気温の長期変化 の 6 地点の 1890~2010 年の 121 年間における年平均気温平年 差の推移を図 2.1-2に示す の年平均気温は 100 年あたり1. 2 ( 統計期間 1890~2010 年 ) の割合で 統計的に有意に上昇している 長期変化傾向を除くと 1900 年代後半と

日本の海氷 降雪 積雪と温暖化 高野清治 気象庁地球環境 海洋部 気候情報課

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III

講義:アジアモンスーン

( 表紙の図 ) 表面海水中の水素イオン濃度指数 (ph) の分布図 赤いほど ph が低いことを示す (p.10 図 Ⅳ.2)

資料 1 平成 30 年 7 月豪雨 に関する大気循環場の特徴 平成 30 年 8 月 10 日 気象庁気候情報課 1

資料6 (気象庁提出資料)


平成14年4月 日

種にふくまれているものは何か 2001,6,5(火) 4校時

天気の科学ー8

2018 年 12 月の天候 ( 福島県 ) 月の特徴 4 日の最高気温が記録的に高い 下旬後半の会津と中通り北部の大雪 平成 31 年 1 月 8 日福島地方気象台 1 天候経過 概況この期間 会津では低気圧や寒気の影響で曇りや雪または雨の日が多かった 中通りと浜通りでは天気は数日の周期で変わった

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4. ロスビー波と 1.5 層モデル見延庄士郎 ( 海洋気候物理学研究室 ) 予習ビデオ : NASA JPL の海面高度偏差でエルニーニョを見るページ. 赤道ケルビン波が見えるか? の動画 ht

図 (a)2 月 (b)5 月 (c)8 月 (d)11 月における日本近海の海面水温の平年値 ( 左 ) と標準偏差 ( 右 ) 平年値は 1981~2010 年の 30 年平均値 単位 : 148

三重県の気象概況 ( 平成 30 年 9 月 ) 表紙 目次気象概況 1P 旬別気象表 2P 気象経過図 5P 気象分布図 8P 資料の説明 9P 情報の閲覧 検索のご案内 10P 津地方気象台 2018 年本資料は津地方気象台ホームページ利用規約 (

平成 30 年 2 月の気象概況 2 月は 中旬まで冬型の気圧配置が多く 強い寒気の影響を受け雪や雨の日があった 下旬は短い周期で天気が変化した 県内アメタ スの月降水量は 18.5~88.5 ミリ ( 平年比 29~106%) で 大分 佐賀関 臼杵 竹田 県南部で平年並の他は少ないかかなり少なか

IPCC 第1作業部会 第5次評価報告書 政策決定者のためのサマリー

1. 水温分布 ( 図 1) 7 月沖合定線海洋観測結果 平成 26 年 7 月 14 日 岩手県水産技術センター TEL: FAX: 全域で表面水温は高め 県南部に北上暖水が流入 1) 本県沿岸

い水が海面近くに湧き上っている 図 (a) をみると 太平洋赤道域の海面水温は西部で高く 東部で低くなっていることがわかる また 北半球 ( 南半球 ) の大陸の西岸付近では 岸に沿って南向き ( 北向き ) の風が吹くと 海面付近の暖かい海水は風の方向に力を受けるとともに 地球自転に

2.1 の気温の長期変化 の年平均気温平年差の推 移を図 に示す の年平均気温は 100 年あ たり 1.3 の割合で上昇している 長 期変化傾向を除くと 1900 年代後半 と 1920 年代半ばから 1940 年代半ば までは低温の時期が続いた 1960 年 頃に高温の時期があり 1

運動方程式の基本 座標系と変数を導入 (u,v) ニュートンの第一法則 力 = 質量 加速度 大気や海洋に加わる力を, 思いつくだけ挙げてみよう 重力, 圧力傾度力, コリオリ力, 摩擦力 水平方向に働く力に下線をつけよう. したがって水平方向の運動方程式は 質量 水平加速度 = コリオリ力 + 圧

7 渦度方程式 総観規模あるいは全球規模の大気の運動を考える このような大きな空間スケールでの大気の運動においては 鉛直方向の運動よりも水平方向の運動のほうがずっと大きい しかも 水平方向の運動の中でも 収束 発散成分は相対的に小さく 低気圧や高気圧などで見られるような渦 つまり回転成分のほうが卓越

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Wx Files Vol 年2月14日~15日の南岸低気圧による大雪

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過去約 130 年の年平均気温の変化傾向 (1891~2017 年 ) 図 緯度経度 5 度の格子ごとに見た年平均気温の長期変化傾向 (1891~2017 年 ) 図中の丸印は 5 5 格子で平均した 1891~2017 年の長期変化傾向 (10 年あたりの変化量 ) を示す 灰色は長期

データ同化 観測データ 解析値 数値モデル オーストラリア気象局より 気象庁 HP より 数値シミュレーションに観測データを取り組む - 陸上 船舶 航空機 衛星などによる観測 - 気圧 気温 湿度など観測情報 再解析データによる現象の再現性を向上させる -JRA-55(JMA),ERA-Inter

第 41 巻 21 号 大分県農業気象速報令和元年 7 月下旬 大分県大分地方気象台令和元年 8 月 1 日

2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 横浜地方気象台月別累年順位更新表 横浜地方気象台冬日 夏日 真夏

平成 24 年度卒業論文 成層圏突然昇温とその前後の対流圏循環との連関 Tropospheric Circulation before and after the Stratospheric Sudden Warming 三重大学生物資源学部共生環境学科自然環境システム学講座地球環境気候学 5093

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北太平洋にみられる十年規模の海洋変動の診断 成井昭夫 ( 気象庁気候情報課 ) 福田義和 ( 気象庁海洋気象課 ) 1. はじめには表層水温が有効である 表層水温や表層貯 1970 年代半ばに北太平洋の海洋と大気の気熱量についても長周期変動の研究が行われ 候状態が大きく変化したことが1980 年代に

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( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

運動方程式の基本 ニュートンの第一法則 力 = 質量 加速度 大気や海洋に加わる力を, 思いつくだけ挙げてみよう 重力, 圧力傾度力, コリオリ力, 摩擦力 水平方向に働く力に下線をつけよう. したがって水平方向の運動方程式は 質量 水平加速度 = コリオリ力 + 圧力傾度力 + 摩擦力 流体の運動

4. ロスビー波と 1.5 層モデル見延庄士郎 ( 海洋気候物理学研究室 ) 予習ビデオ : NASA JPL の海面高度偏差でエルニーニョを見るページ. 赤道ケルビン波が見えるか? の動画 ht

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また 積雪をより定量的に把握するため 14 日 6 時から 17 日 0 時にかけて 積雪の深さは と質 問し 定規で測っていただきました 全国 6,911 人の回答から アメダスの観測機器のある都市だけで なく 他にも局地的に積雪しているところがあることがわかりました 図 2 太平洋側の広い範囲で

1. 気温と産業の関係 2. 気温と販売数の関係の分析 過去の気温データをダウンロードする 時系列グラフを描く 気温と販売の関係を調べる 散布図を描く 定量的な関係を求める 気温から販売数を推定する 2 週間先の気温予測を取得し 活用する 気温以外の要素の影響 3. 予報精度 過去の 1 か月予報

高解像度 MRI-AGCM アンサンブル実験を用いた日本域の 10 年規模の気温変動に関する要因分析 今田由紀子 ( 気象研 ) 前田修平 ( 気象研 ) 渡部雅浩 ( 東大 AORI) 塩竈秀夫 ( 国環研 ) 水田亮 ( 気象研 ) 石井正好 ( 気象研 ) 木本昌秀 ( 東大 AORI) 1.

IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書概要 ( 気象庁訳 ) 正誤表 (2015 年 12 月 1 日修正 ) 第 10 章気候変動の検出と原因特定 : 地球全体から地域まで 41 ページ気候システムの特性第 1 パラグラフ 15 行目 ( 誤 ) 平衡気候感度が 1 以下である可能性

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An ensemble downscaling prediction experiment of summertime cool weather caused by Yamase

第2章 気候に関連する海洋の変動 北太平洋の海面水温 表層水温 図 a 2 月 b 5 月 c 8 月 d 1 1 月 に お け る 海 面 水 温 の 月 別 平 均 値 単位 2 海面水温 表層水温の季節変動 北西太平洋中緯度では東西に延びる等温線が 込み合った構造が季節によら

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( 第 1 章異常気象と気候変動の実態 ) 2 図 ~2013 年に発生した世界の主な気象災害表 に示した気象災害のうち 特に規模の大きいものを示した 大雨 洪水 台風 ハリケーン ( 緑 ) 干ばつ ( 黄 ) 熱波 ( 紫 ) 寒波 ( 青 ) などの災害が報じら

風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

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【WNI】第二回花粉飛散傾向2018

2 / 5 エルニーニョ現象とは 南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で 海面水温が平年より1~5 度高くなる状況が1 年から1 年半続く現象である エルニーニョ現象が発生すると 地球全体の大気の流れが変わり 世界的に異常気象になる傾向がある 近年では 2015 夏から 2016 年春に

正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

あら

本日の内容 6. 海洋風成循環と海面高度 見延庄士郎 ( 海洋気候物理学研究室 ) 予習課題 : 下のニュースに目を通しておくこと. 温暖化進めば今世紀半ばまで年 4 兆円支出米政府監査院 ( 朝日新聞 2017/11/25)

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佐賀県気象月報 平成 29 年 (2017 年 )6 月 佐賀地方気象台

接している場所を前線という 前線面では暖かい空気が上昇し雲が発生しやすい 温帯低気圧は 暖気と寒気がぶつかり合う中緯度で発生する低気圧で しばしば前線を伴う 一般に 温帯低気圧は偏西風に乗って西から東へ移動する 温帯低気圧の典型的なライフサイクルは図のようになっている 温帯低気圧は停滞前線上で発生す

時に関する用語 平年 ( 値 ) 平均的な気候状態を表すときの用語で 気象庁では 30 年間の平均値を用 い 西暦年の1 位の数字が1になる 10 年ごとに更新している 例年 いつもの年 用例 例年だとこの季節には 天気は数日の周 天気は3~4 日の周期的に変わると予想されること 期で変わる 天気が

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第 41 巻 13 号 大分県農業気象速報令和元年 5 月上旬 大分県大分地方気象台令和元年 5 月 1 3 日

2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 平成 21 年 (2009 年 ) の月別累年順位更新表 ( 横浜 ) 23

石川県白山自然保護センター研究報告第27集

諏訪 気象と黒潮の和歌山県沿岸海域への影響 ついて用意した 水温 塩分分布 本県沿岸における水温 塩分の分布特性を把握するため 各定点各層の水温 塩分について 月毎の 平均値を 12 ヶ月で除した平年値 付表 1 2 を求め これを基に平年分布図を作成した 第 2 3 図 水温-気温 水温-黒潮 塩

4

2016 年 5 月 17 日第 9 回気象庁数値モデル研究会 第 45 回メソ気象研究会第 2 回観測システム 予測可能性研究連絡会 気象庁週間アンサンブル予報 システムの現状と展望 気象庁予報部数値予報課 太田洋一郎 1

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長野県農業気象速報(旬報) 平成27年9月上旬

黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 日数 8~ 年度において長崎 松江 富山で観測された気象台黄砂日は合計で延べ 53 日である これらの日におけるの頻度分布を図 6- に示している が.4 以下は全体の約 5% であり.6 以上の

太平洋全域における海表面二酸化炭素フラックス変動および海洋酸性化の評価 I_1287 図 -3 CO 2 F CO2 CO 2 図 -4 F CO2 24 El Niño La Niña 2006 SST SSS CO 2 SOCAT public domain 表 -1 CO 2 ph CO 2

マルチRCMによる日本域における 力学的ダウンスケーリング

go.jp/wdcgg_i.html CD-ROM , IPCC, , ppm 32 / / 17 / / IPCC

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平成 28 年 1 月 26 日 エルニーニョ現象と 世界 日本の天候 安田珠幾 エルニーニョ情報管理官気象庁地球環境 海洋部気候情報課

はじめに 1

はじめに 現在 1997-98 年のエルニーニョ現象以来の強いエルニーニョ現象が発生中 エルニーニョ現象は世界の異常気象を引き起こし 日本には 冷夏 暖冬 をもたらすと言われる エルニーニョ現象はなぜ世界の広い範囲の天候に影響を及ぼすのか? そもそもエルニーニョ現象とは? 内容 エルニーニョ現象とは? エルニーニョ現象と世界の天候 エルニーニョ現象と日本の天候 エルニーニョ現象の影響を受けた 2015 年の天候 2

2015 年 :1997-98 年以来の強いエルニーニョ現象 2015 年のエルニーニョ現象に関する報道例 ジャワ島少雨 2015.7.6 アンタラ通信 Super El Nino ( スーパーエルニーニョ ) 2015.7.27 Washington Post Godzilla El Nino ( ゴジラエルニーニョ ) 2015.8.21 Los Angeles Times インドネシア少雨 2015.10.15 NHK 2015 年 12 月海面水温平年との差 エルニーニョ 史上最大級 2015.11.18 産経新聞 農業への影響 2015.12.21 日本農業新聞 スキー場オープンできず 2016.1.18 ブルームバーグ コロンビア少雨 2016.1.19 共闘通信 3

2015 年 : 熱帯を中心とした異常気象 2015 年に発生した主な異常気象と気象災害 アジア南部 南米北部などで高温 少雨の異常気象 エルニーニョ現象の影響? 平成 27 年 12 月 21 日気象庁報道発表資料を更新 4

2015 年 : 日本冷夏? 暖冬? 日本の地域平均気温の平年差の時間変化 ( ) 夏エルニーニョ現象の影響? 冬 5

2015 年 : 世界の年平均気温の記録更新 世界の年平均気温の変化 2015 年 0.40 エルニーニョ現象の影響? 6

エルニーニョ現象 とは? 太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で海面水温が平年に比べて高くなり その状態が 1 年程度続く現象 7

エルニーニョ現象に伴う海洋の変化 海面水温の変動 (1995-2005 年 ) 西部太平洋赤道域で最も高い 東部太平洋赤道域は低い 1 年周期の季節変化が顕著 熱帯太平洋では 数年に 1 度 西部の暖かい水が東に広がる 次に 1 年周期の季節変化を取り除く ( ) 8

エルニーニョ現象に伴う海洋の変化 1981-2010 年の平均的な季節変化を取り除いた海面水温変動 ( 平年との差 ) 偏差 エルニーニョ監視海域 5 S-5 N, 150-90 W ( ) 東部で高くなり 西部で低くなる年がある 逆のパターンも見られる 次に エルニーニョ監視海域での海面水温の時間変動を示す 9

エルニーニョ現象とラニーニャ現象の期間 エルニーニョ監視海域の海面水温の変動 ( ) ( 前年までの 30 年平均値との差 ) エルニーニョ期 ラニーニャ期 1972-73 6~18 か月程度持続 概ね 2~7 年の間隔 1982-83 4 大エルニーニョ現象 1997-98 1997-98 1982-83 2014-1972-73 2014- 細線 : 月平均値太線 :5 か月平均値 10

エルニーニョ現象とラニーニャ現象 エルニーニョ期 ラニーニャ期 海面水温 ( ) 1997 年 11 月 1998 年 12 月 海面水温の平年との差 ( ) 太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸 11

エルニーニョ現象に伴う大気の変化 数年程度の間隔で 赤道太平洋の海面水温が変動 エルニーニョ / ラニーニャ現象 大気にも同様の時間規模の変動が存在 平均的な 12 月の海上風 ( 矢印 ) と海面気圧 ( カラー ) (1981-2010 年平均 ) 貿易風 ( 東風 ) (m/s) (hpa) 12

エルニーニョ現象に伴う大気の変化 (5 S-5 N, 160 E-130 W) 中部太平洋赤道域の東西風 ( カラー m/s) とエルニーニョ監視海域の海面水温の変化 ( 黒線 ) 平年 (1981-2010 年 ) との差 エルニーニョ監視海域海面水温 : 高エルニーニョ現象 貿易風弱い エルニーニョ監視海域海面水温 : 低ラニーニャ現象 貿易風強い 貿易風が弱い時 海面水温が高い ( エルニーニョ現象 ) 貿易風が強い時 海面水温が低い ( ラニーニャ現象 ) 貿易風 ( 大気 ) と海面水温 ( 海洋 ) には密接な関係がある 13

エルニーニョ現象の概念図 大気と海洋が結合して発達 平常時 貿易風が弱い 暖かい水が東へ移動 対流活発域も東へ移動 貿易風が弱まる エルニーニョ現象時 通常より暖かい 弱い貿易風 貿易風 ラニーニャ現象時 強い貿易風 貿易風によって西部に暖かい水が蓄積東部では冷たい水が湧昇西部の暖水上で対流活発 上昇気流 降雨 貿易風は上昇流の場所に吹き込む 通常より冷たい 14

現在発生中の エルニーニョ現象 15

現在発生中のエルニーニョ現象 海面水温 : 平年 (1981-2010 年平均 ) との差 2015 年 12 月 1997 年 11 月 エルニーニョ監視海域 エルニーニョ監視海域海面水温エルニーニョ発生期間中の最大値 4 大エルニーニョ現象 (1950 年以降 ) 1997-98 : +3.6 C 1982-83 : +3.3 C 2014- : +3.0 C 1972-73 : +2.7 C 16

2014 年夏に発生 2015 年に発達 2015 年末に最盛期 海面水温平年からの差 ( ) 表層 300m 平均水温 ( ) 大気の対流活動 ( 大気上端外向き長波放射 ) 平年からの差 (W/m 2 ) エルニーニョ現象発生 エルニーニョ現象発達 エルニーニョ現象最盛期 エルニーニョ発達対流不活発対流活発 17

エルニーニョ現象と 世界の天候 18

2015 年の世界の天候 2015 年に発生した世界の異常気象 5 月以降 アジア南部 南米北部などで高温 少雨 平成 27 年 12 月 21 日気象庁報道発表資料を更新 19

気温 ( ) 2015 年の世界の天候 マナド ( インドネシア ) における気温と降水量の変化 最高気温 平均気温 最低気温 降水量 ( 白抜きは平年値 ) 降水量 (mm) 2015 年北半球夏から秋にかけて高温 少雨 20

エルニーニョ現象に伴う大気海洋の変化 エルニーニョ現象時 大気は平年との違いを表す 対流不活発 対流活発 対流不活発 対流圏上層気圧 地上気圧 インド洋太平洋大西洋 300m 赤道水温断面 Webster and Chang (1988) に加筆 21

エルニーニョ現象と 日本の天候 22

エルニーニョ現象と日本の天候の関係 夏の気温 夏の降水量 低温傾向 ( 全てではない ) 冬の気温 冬の降水量 高温傾向 ( 全てではない ) 23

平年の北半球夏の大気循環場 対流活発 偏西風 チベット高気圧 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 大気循環場へのエルニーニョ現象による影響 世界や日本の天候の変化 アジアモンスーン 太平洋高気圧 貿易風 海面気圧と海上風 24

エルニーニョ現象の大気への影響 ( 北半球夏 ) 図は平年との差を表す 偏西風南偏 対流不活発 対流活発 チベット高気圧 低 インド洋太平洋大西洋 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : チベット高気圧の弱まり偏西風の南偏 低温 日本付近 : 偏西風の季節的な北上の遅れ太平洋高気圧の北への張り出し弱い 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 太平洋高気圧低高 対流圏下層の大気循環 (850hPa 流線関数 ) 25

熱帯の対流活動 ( 活発 ) と偏西風の蛇行 発散風 北へ蛇行 対流活発域の北西側で偏西風は北へ蛇行 対流活発域 ( 上昇流 ) 赤道での活発な対流活動に応答した大気循環場の応答 26

熱帯対流活動 ( 活発 ) に対する大気の応答 対流圏上層縮む 高気圧循環 対流圏下層伸びる 低気圧循環 横から見た図 上から見た図熱源自転なし 対流圏上層対流圏下層 高低 高低 現実 対流圏上層対流圏下層 海洋 暖水 熱源と同じ場所 熱源の北西側自転 地球が球ロスビー波 27

エルニーニョ現象の大気への影響 ( 北半球夏 ) 図は平年との差を表す 偏西風南偏 対流不活発 対流活発 チベット高気圧 低 インド洋太平洋大西洋 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : チベット高気圧の弱まり偏西風の南偏 低温 日本付近 : 偏西風の季節的な北上の遅れ太平洋高気圧の北への張り出し弱い 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 太平洋高気圧低高 対流圏下層の大気循環 (850hPa 流線関数 ) 28

平年の北半球冬の大気循環場 対流活発 偏西風 インド洋太平洋大西洋 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 大気循環場へのエルニーニョ現象による影響 世界や日本の天候の変化 シベリア高気圧 アリューシャン低気圧亜熱帯高気圧 海面気圧 29

エルニーニョ現象の大気への影響 ( 北半球冬 ) 図は平年との差を表す 偏西風蛇行 対流不活発 対流活発 低 高 低 インド洋太平洋大西洋 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : 日本の西で低気圧 東で高気圧偏西風の蛇行 高温 日本付近 : 冬型の気圧配置の弱まり南からの暖かい空気の流れ込み低気圧が通りやすい 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) シベリア高気圧 高 アリューシャン低気圧 高 海面気圧 低 30

2015 年夏と 2015/16 年冬の 日本の天候 31

2015 年の日本の天候 日本の地域平均気温の平年差の時間変化 ( ) 夏 冬 32

2015 年夏 (6-8 月平均 ) の日本の天候 エルニーニョ現象の影響 夏 : 西日本の低温 多雨 寡照 8 月中旬から 9 月上旬 : 東日本 西日本の低温 多雨 寡照 33

2015 年夏のエルニーニョ現象の影響 偏西風南偏 線 : 実況カラー : 平年との差 活発 低 不活発 対流活動 ( 大気上端外向き長波放射 ) 高 太平洋高気圧低 対流圏下層の大気循環 (850hPa 流線関数 ) 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : チベット高気圧の弱まり偏西風の南偏 日本付近 : 太平洋高気圧の北への張り出し弱い 34

2015/16 年冬の日本の天候 (12/1-1/24 平均 ) エルニーニョ現象の影響 11 月 : 西日本を中心とした高温 多雨 寡照 12 月以降 : 東日本以西の高温 多雨 35

2015/16 年冬のエルニーニョ現象の影響 インド洋太平洋大西洋 偏西風蛇行 (12/1-1/23 平均 ) 線 : 実況カラー : 平年との差 活発低高 低 不活発 対流活動 ( 大気上端外向き長波放射 ) アリューシャン低気圧 高高 低 海面気圧 対流圏上層の大気循環 (200hPa 流線関数 ) 対流活発域の東への移動 西部太平洋赤道域で対流不活発 北半球中緯度 : 日本の西で低気圧 東で高気圧偏西風の蛇行 日本付近 : 冬型の気圧配置の弱まり南からの暖かい空気の流れ込み低気圧通過多い 36

日本の天候とエルニーニョ現象 2014 年夏以降 エルニーニョ現象の影響があったと考えられる日本の天候の特徴 エルニーニョ現象発生 2014 年夏 : 西日本の低温 多雨 2014 年夏後半から秋前半 : 西日本の低温 2014/15 年冬 ~2015 年春 : 明瞭な影響見られずエルニーニョ現象再発達 2015 年夏 : 西日本の低温 多雨 寡照 2015 年 8 月中旬から 9 月上旬 : 東日本 西日本の低温 多雨 寡照 2015 年 9 月 : 東日本 西日本の低温 2015 年 10 月 : 東日本 西日本の少雨 多照 2015 年 11 月 : 西日本を中心とした高温 多雨 寡照 2015 年 12 月 : 東日本以西の高温 多雨 37

エルニーニョ現象と 世界平均気温の上昇 38

2015 年 世界の年平均気温の記録更新 世界の年平均気温の変化 偏差 1972,73 1997,98 2014,15 16(?) 1986,87 2009,10 エルニーニョ現象に伴い 世界平均気温が上昇 2015 年の記録更新 : 地球温暖化 + エルニーニョ現象 39

相関係数 世界の平均気温はエルニーニョ現象から遅れて上昇 エルニーニョ監視海域の海面水温との関係 世界平均気温 ( 赤 ) 世界陸上平均気温 ( 緑 ) 石原 ( 私信 ) エルニーニョ監視海域の海面水温からの遅れ ( か月 ) エルニーニョ現象 (3 か月 ) 世界平均気温 ( 世界陸上平均気温は 4~7 か月遅れ ) 40

世界平均気温の上昇の加速 停滞 世界の年平均気温の変化 加速 停滞 加速 停滞 加速? 気温上昇の加速 停滞今回のエルニーニョ現象で変化? 41

おわりに 42

おわりに エルニーニョ現象とは 赤道太平洋赤道域における大気と海洋が結合して変動する その影響は熱帯太平洋のみならず 世界の大気海洋に及ぶ 現在のエルニーニョ現象 1950 年以降で 4 つの強いエルニーニョ現象のひとつである 2014 年夏に発生 2015 年 11 月から 12 月にかけて最盛期となった エルニーニョ現象と世界 日本の天候 世界では アジア南部 南米北部で高温 少雨が発生しやすい 2015 年もその特徴が表れた 日本では夏に低温傾向 冬に高温傾向になりやすい 2015 年は 夏の西日本の低温や冬の東日本以西の高温などが エルニーニョの影響と考えられる ( 日本の天候は 季節内振動や中高緯度大気独自の変動の影響も受けるため 全てエルニーニョの影響で決まるというわけではない ) 2015 年の世界平均気温の記録更新には 地球温暖化に加えてエルニーニョ現象の影響が大きいと考えられる 43

エルニーニョ現象は 夏までに平常の状態に 2016 年 1 月 12 日発表気象庁エルニーニョ監視速報 No.280 エルニーニョ現象は 2015 年 11 月から 12 月にかけて最盛期となった 今後エルニーニョ現象は弱まり 夏までに平常の状態になる可能性が高い 気象庁エルニーニョ予測モデルによる予測結果 エルニーニョ現象 通常 ラニーニャ現象 冬から春にかけてはエルニーニョ現象が続く見込み 44