特集 : 税効果会計の見直しについて 企業会計基準適用指針第 26 号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針 の公表について PwCあらた監査法人第 3 製造 流通 サービス部パートナー加藤達也 はじめに 2015 年 12 月 28 日 企業会計基準委員会 ( 以下 ASBJ という ) より

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第 298 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (2)-4 DT 年 10 月 23 日 プロジェクト 項目 税効果会計 今後の検討の進め方 本資料の目的 1. 本資料は 繰延税金資産の回収可能性に関わるグループ 2 の検討状況を踏まえ 今 後の検討の進め方につ

四半期決算の会計処理に関する留意事項

解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱い 35 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い 36 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い 37 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い 38 退職給付に係る負債に関する一時差異の取扱い 43 繰延ヘッジ損益に係る一時差

各項目における一時差異の取扱い 35 解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱い 35 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い 36 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い 37 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い 38 退職給付に係る負債に関する一時差異の取

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固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い 36 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い 37 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い 38 退職給付に係る負債に関する一時差異の取扱い 43 繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い 46 繰越外国税額控除に係る繰延税金資産 47

設例 [ 設例 1] 法定実効税率の算定方法 [ 設例 2] 改正地方税法等が決算日以前に成立し 当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日に成立していない場合の法定実効税率の算定 本適用指針の公表による他の会計基準等についての修正 -2-

改正法人税法により平成 24 年 4 月 1 日以後に開始する事業年度については法人税率が 30% から 25.5% に引き下げられ また 復興財源確保法により平成 24 年 4 月 1 日から平成 27 年 3 月 31 日までの間に開始する事業年度については基準法人税額の 10% が復興特別法人

税効果会計シリーズ(7)_「個別財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負債の計上」

ことが見込まれる当期末に存在する将来加算 ( 減算 ) 一時差異の額 ( 及び該当する場合は 当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額 ) を除いた額のことです ( 下記図表 1 参照 ) 例えば 図表 1 の X2 期の場合 将来の事業年度における課税所得

IFRS基礎講座 IAS第12号 法人所得税

平成29年3月決算の会計処理に関する留意事項

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受取利息及び受取配当金等に課される源泉所得税 35 外国法人税 36 適用時期等 38-2-

税されるときは 給与等課税事由が生じた日 ( 権利行使日 ) に 法人において 当該役務提供に係る費用の額が損金に算入されますので ( 法人税法第 54 条第 1 項 ) ストック オプションの付与時において将来減算一時差異に該当し 税効果会計の対象となります Q3: 削除 Ⅱ 中間財務諸表等におけ

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法人税 住民税及び事業税等に関する会計基準 ( 案 ) について PwC あらた有限責任監査法人第 3 製造 流通 サービス部パートナー市原順二 はじめに 2016 年 11 月 9 日 企業会計基準委員会は企業会計基準公開草案第 59 号 法人税 住民税及び事業税等に関する会計基準 ( 案 )(

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平成28年3月決算の会計処理に関する留意事項

図表 1 将来減算一時差異とは 課税所得の計算上 差異が生じたときに加算され 将来解消するときに減算されるものです 税効果会計の適用において最も取り扱う機会が多いのが将来減算一時差異です 貸倒引当金の損金算入限度超過額 賞与引当金及び退職給付引当金の額 減価償却費の損金算入限度超過額 棚卸資産等に係

【H 改正】株主資本等変動計算書.docx

IFRS基礎講座 IFRS第1号 初度適用

適用時期 5. 本実務対応報告は 公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する ただし 平成 28 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には 当該事業年度に本実務対応報告を適用することができる 議決 6. 本実務対応報告は 第 338 回企業会計

参考 企業会計基準第 25 号 ( 平成 22 年 6 月 ) からの改正点 平成 24 年 6 月 29 日 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 の設例 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 平成 22 年 6 月 30 日 ) の設例を次のように改正

用者の予測とは大きく異なった内容で突然開示されることがあり 繰延税金資産の回収可能性について事前に予測を行う観点からは 現行の税効果会計基準における繰延税金資産に関して開示されている情報では不十分である (3) 回収可能性に係る監査の指針を会計の指針に移管することから 会計処理だけでなく 開示につい

3. 改正の内容 法人税における収益認識等について 収益認識時の価額及び収益の認識時期について法令上明確化される 返品調整引当金制度及び延払基準 ( 長期割賦販売等 ) が廃止となる 内容改正前改正後 収益認識時の価額をそれぞれ以下とする ( 資産の販売若しくは譲渡時の価額 ) 原則として資産の引渡

包括利益の表示に関する会計基準第 1 回 : 包括利益の定義 目的 ( 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 以下 会計基準 ) が平成 22 年 6 月 30 日に

会計処理 29 当事業年度の所得等に対する法人税 住民税及び事業税等 29 更正等による追徴及び還付 30 追徴税額について課税を不服として法的手段を取る場合の取扱い 34 開示 36 当事業年度の所得等に対する法人税 住民税及び事業税等 37 受取利息及び受取配当金等に課される源泉所得税 38 外

企業結合ステップ2に関連するJICPA実務指針等の改正について⑦・連結税効果実務指針(その2)

貸借対照表 (2019 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 科目 金額 科目 金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 3,784,729 流動負債 244,841 現金及び預金 3,621,845 リース債務 94,106 前払費用 156,652 未払金 18,745

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平成30年公認会計士試験

Report

平成 19年 10月 29日

有形固定資産シリーズ(7)_資産除去債務②

日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

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変更の内容 変更の理由 原則的な遡及適用の場合 原則的な遡及適用が実務上不可能な場合 変更の内容 変更の理由 変更による影響額 ( 注 1) 変更による影響額 ( 注 2) 原則的な遡及適用が実務上不可能な理由 会計方針の変更の適用方法 会計方針の変更の適用開始時期 ( 注 1) 原則的な遡及適用に

具体的な組替調整額の内容は以下のとおりです その他の包括利益その他有価証券評価差額金繰延ヘッジ損益為替換算調整勘定 組替調整額 その他有価証券の売却及び減損に伴って当期に計上された売却損益及び評価損等 当期純利益に含められた金額 ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金

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平成28年3月期決算の留意事項

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その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の

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計 算 書 類

実務対応報告第 7 号 連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い ( その 2) 平成 15 年 2 月 6 日改正平成 22 年 6 月 30 日最終改正平成 27 年 1 月 16 日企業会計基準委員会 目的 実務対応報告第 5 号 連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関す

第4期電子公告(東京)

085 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 新株予約権 少数株主持分を株主資本に計上しない理由重要度 新株予約権を株主資本に計上しない理由 非支配株主持分を株主資本に計上しない理由 Keyword 株主とは異なる新株予約権者 返済義務 新株予約権は 返済義務のある負債ではない したがって

業結合ステップ2に関連するJICPA実務指針等の改正について⑧・連結税効果実務指針(その3)

第 3 期決算公告 (2018 年 6 月 29 日開示 ) 東京都江東区木場一丁目 5 番 65 号 りそなアセットマネジメント株式会社 代表取締役西岡明彦 貸借対照表 (2018 年 3 月 31 日現在 ) 科目金額科目金額 ( 単位 : 円 ) 資産の部 流動資産 負債の部 流動負債 預金

新旧対照表(計算書類及び連結計算書類)

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貸借対照表 平成 28 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 千円 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 資産の部 負債の部 流動資産 (63,628,517) 流動負債 (72,772,267) 現金及び預金 33,016,731 買掛金 379,893 売掛金 426,495 未払金 38,59

目的 1. 本会計基準は 企業会計審議会が平成 10 年 10 月に公表した 税効果会計に係る会計基準 ( 以下 税効果会計基準 という ) 及び 税効果会計に係る会計基準注解 ( 以下 税効果会計基準注解 という ) のうち開示に関する事項を改正することを目的とする 会計基準 開示表示 2. 税効

粉飾決算と過年度損益修正 1. 概要 経営上の諸般の事情により やむを得ず粉飾して架空売上や架空在庫を計上する場合があります 前期以前の 過年度の決算が間違っていた場合は 会計上は当期の期首で修正できます ただし 過年度の損失を当期に損金算入すれば その事業年度に損金計上すべきであり 過年度の損失は

第 314 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (4)-1 DT 年 6 月 29 日 プロジェクト 項目 税効果会計 検討の進め方について 本資料の目的 1. 企業会計基準委員会及び税効果会計専門委員会 ( 以下 専門委員会 という ) では 日本公認会計士協

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従って IFRSにおいては これらの減価償却計算の構成要素について どこまで どのように厳密に見積りを行うかについて下記の 減価償却とIFRS についての説明で述べるような論点が生じます なお 無形固定資産の償却については 日本基準では一般に税法に準拠して定額法によることが多いですが IFRSにおい

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2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

3. 基本財産及び特定資産の財源等の内訳 基本財産及び特定資産の財源等の内訳は 次のとおりです 科目当期末残高 ( うち指定正味財産からの充当額 ) ( うち一般正味財産からの充当額 ) ( うち負債に対応する額 ) 基本財産投資有価証券 800,000,000 (662,334,000) (137

公開草案なお 重要性が乏しい場合には当該注記を省略できる 現行 適用時期等 平成 XX 年改正の本適用指針 ( 以下 平成 XX 年改正適用指針 という ) は 公表日以後適用する 適用時期等 結論の背景経緯 平成 24 年 1 月 31 日付で 厚生労働省通知 厚生年金基金

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法人による完全支配関係下の寄附金 1.100% グループ内の法人間の寄附 ( 法法 372) 現行税制上では 寄附金は支出法人では損金計上限度額を超える部分が損金不算入 受領法人では益金算入です 平成 22 年度税制改正により 100% グループ内での支出法人では寄附金全額を損金不算入とし 受領法人

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に相当する金額を反映して分割対価が低くなっているはずですが 分割法人において移転する資産及び負債の譲渡損益は計上されませんので 分割法人において この退職給付債務に相当する金額を損金の額とする余地はないこととなります (2) 分割承継法人適格分割によって退職給付債務を移転する場合には 分割法人の負債



第11期決算公告

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科目 期別 損益計算書 平成 29 年 3 月期自平成 28 年 4 月 1 日至平成 29 年 3 月 31 日 平成 30 年 3 月期自平成 29 年 4 月 1 日至平成 30 年 3 月 31 日 ( 単位 : 百万円 ) 営業収益 35,918 39,599 収入保証料 35,765 3

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2. 減損損失の計上過程 [1] 資産のグルーピング 減損会計は 企業が投資をした固定資産 ( 有形固定資産のほか のれん等の無形固定資産なども含む ) を適用対象としますが 通常 固定資産は他の固定資産と相互に関連して収益やキャッシュ フロー ( 以下 CF) を生み出すものと考えられます こうし


旭情報サービス (9799) 平成 29 年 3 月期第 2 四半期決算短信 ( 非連結 ) 添付資料の目次 1. 当四半期決算に関する定性的情報 2 (1) 経営成績に関する説明 2 (2) 財政状態に関する説明 2 (3) 業績予想などの将来予測情報に関する説明 2 2. サマリー情報 ( 注記

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日本基準基礎講座 資本会計

Transcription:

企業会計基準適用指針第 26 号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針 の公表について PwCあらた監査法人第 3 製造 流通 サービス部パートナー加藤達也 はじめに 2015 年 12 月 28 日 企業会計基準委員会 ( 以下 ASBJ という ) より企業会計基準適用指針第 26 号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針 ( 以下 回収可能性適用指針 という ) が公表されました 本適用指針は 従来 繰延税金資産の回収可能性の判定を行うに当たって実質的な拠り所になっていました日本公認会計士協会監査委員会報告第 66 号 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い ( 以下 監査委員会報告第 66 号 という ) や同第 70 号 その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取り扱い ( 以下 監査委員会報告第 70 号 という ) 等をベースとして 会計基準として新たに開発したものです 本稿では 回収可能性適用指針の公表に至る経緯 回収可能性適用指針の主要な内容を監査委員会報告第 66 号等と比較をしながら解説します なお 本文中の意見に関する部分は筆者の私見であり 法人としての見解ではないことをあらかじめ申し添えます 1 改正の経緯 2013 年 12 月 基準諮問会議より企業会計基準委員会に対して 日本公認会計士協会が公表する税効果会計に関する会計上の実務指針および監査上の実務指針 ( 会計処理に関する部分 ) を移管し新たな適用指針作成の要否を審議することが提言され これを受けて 企業会計基準委員会では 税効果会計専門委員会を設置し 2014 年 2 月から審議を開始しました 税効果会計については 冒頭でも紹介した繰延税金資産の回収可能性の判断を定めた監査委員会報告第 66 号に対する問題意識が高いことから 他の論点に先行して 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針を開発することとしました 具体的な課題として 監査委員会報告第 66 号は企業会計の実務に既に定着してはいるものの その適用が画一的 硬直的であり 過去の事象が重視されすぎていて 結果 企業の実態を適切に表していない場合も生じているのではないかという指摘や 監査委員会報告第 66 号のなかでも整合性が図られていない部分があるのではないかという指摘 さらには 監査委員会報告第 66 号が国際財務報告基準との会計基準間差異をもたらしているのではないか という指摘が挙げられ これらの課題認識を踏まえ議論が行われました その結果 繰延税金資産の回収可能性については 監査委員会報告第 66 号 監査委員会報告第 70 号の他 日本公認会計士協会会計制度委員会報告第 6 号 連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針 同第 7 号 個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針 日本公認会計士協会会計制度委員会 税効果会計に関するQ&A などにも定めがあることから これらを引き継いだ上で 必要と考えられる見直しを行い 2015 年 12 月に回収可能性適用指針として公表されました これを受けて2016 年 1 月に監査委員会報告第 66 号や監査委員会報告第 70 号は廃止されました 今後 その他の税 11

効果会計に関する実務指針については 継続して審議の上 企業会計基準適用指針として公表されることが予定されています 2 適用指針の対象 回収可能性適用指針は 企業会計審議会 税効果会計に係る会計基準 ( 以下 税効果会計基準 という ) が適用される連結財務諸表および個別財務諸表について適用されます ( 回収可能性適用指針 2 項 ) 3 主な改正点 1. 用語の整理回収可能性適用指針で用いられている用語は 基本的に税効果会計基準や各種実務指針の用語をそのまま踏襲していますが 一部 その意味が複数に解釈されていた用語について整理しました 具体的には 個別税効果実務指針などにおいて 課税所得 という用語は 当期末に存在する一時差異の額を加減算する前の金額として使用している場合と 全ての項目について加減算した後の金額として使用されている場合がそれぞれ存在していましたので 回収可能性適用指針では これを明確に区別し 課税所得と 一時差異等加減算前課税所得 を分けて定義しています ( 回収可能性適用指針 3 項 ( 7) ( 9 )) 2. 企業の分類監査委員会報告第 66 号では 企業における繰延税金資産の回収可能性を その過去の実績等から 例示区分 として五つのグループに分け それぞれのグループの属性に応じて回収可能性のルールを定めていました 回収可能性適用指針では この考え方を踏襲し ( 分類 1) から ( 分類 5) の五つのグループに区分して回収可能性の判断を行うこととしていますが 五つのグループに区分する際の具体的な要件等については 監査委員会報告第 66 号のルールを一部変更しました なお これらの要件をいずれも満たさない企業は 各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類することとしています ( 回収可能性適用指針 16 項 ) 具体的には表 1で示すように その表現は異なるものの おおむね監査委員会報告第 66 号の例示区分の考え方を踏襲しています 以下に特徴的な変更点を列挙します (1) 判断に用いる指標の統一監査委員会報告第 66 号においては 例示区分 2の判定および例示区分 3の判定に当たって 経常的な利益 ( 損益 ) すなわち企業会計上の利益 ( 損益 ) を要件に含めていましたが 他の分類要件との整合性を図る観点から 繰延税金資産の回収可能性の判断は収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得に基づくこととしたことを踏まえ 課税所得 に基づく要件に統一しました ( 回収可能性適用指針 69 項 ) (2)( 分類 2)( 分類 3) における要件の追加 ( 分類 2)( 分類 3) においては 過去 ( 3 年 ) および当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていないことを分類の要件として追加しました これは ( 分類 4) に係る分類の要件との重複を回避するための追加です ( 回収可能性適用指針 72 項 80 頁 ) (3)( 分類 4)( 分類 5) における繰越欠損金残高要件の削除監査委員会報告第 66 号では 例示区分 4では期末における重要な繰越欠損金の存在等 例示区分 5においては 債務超過の状況または資本の欠損の状況を分類判断に当たっての要件に含めていましたが このような残高ベースでの分類要件を含めると他の区分との連続性が失われる恐れがあるため 回収可能性適用指針では このような残高ベースの判定要件を削除しました ( 回収可能性適用指針 86 項 94 項 ) (4)( 例示区分 4) 但し書きの見直し監査委員会報告第 66 号においては 例示区分 4に該当する場合であっても 例えば事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したものを除けば課税所得を毎期計上している会社に該当する場合には 一般的に 例示区分 4 但し書き という例外的な例示区分として回収可能性を判断することとしていました 回収可能性適用指針においても 過去 ( 3 年 ) または当期において重要な税務上の欠損金が生じたことにより ( 分類 4) に該当するとしながらも 例外的に繰延税金資産の回収が見込まれる場合の定めを置いています 具体的には 重要な税務上の欠損金が生じた原因 中長期計画 過去における中長期計画の達成状況 過去および当期の課税所得または税務中の欠損金の推移等を勘案して 将来の一時差異等加減算前課税所得の十分性を企業が合理的な根拠をもって説明する場合には その見積もった期間に基づき ( 分類 2) または ( 分類 3) に該当するものとする取り扱いを設けました ( 回収可能性適用指針 88 項から92 項 ) 12

表 1( 例示区分 / 分類 ) の判断要件 監査委員会報告第 66 号回収可能性適用指針 ( 例示区分 1) ( 分類 1) 期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会次の要件をいずれも満たす企業社等 過去( 3 年 ) 及び当期のすべての事業年度において 期末における将来減算一 期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期( 当期及びお時差異を十分に上回る課税所得が生じている おむね過去 3 年以上 ) 計上している 当期末において 近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない その経営環境に著しい変化がない場合 ( 回収可能性適用指針 17 項 ) ( 例示区分 2) ( 分類 2) 業績が安定しているが 期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの次の要件をいずれも満たす企業課税所得がない会社等 過去( 3 年 ) 及び当期のすべての事業年度において 臨時的な原因により生じ 当期及び過去( おおむね 3 年以上 ) 連続してある程度の経常的な利益を計上したものを除いた課税所得が 期末における将来減算一時差異を下回るものの ている 安定的に生じている 当期末において 近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない 過去( 3 年 ) 及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の繰越欠損金が生じていない ( 回収可能性適用指針 19 項 ) ( 例示区分 3) ( 分類 3) 業績が不安定であり 期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課次の要件をいずれも満たす企業税所得がない会社等 過去( 3 年 ) 及び当期において 臨時的な原因により生じたものを除いた課税 過去の業績が不安定 すなわち 経常的な損益が大きく増減している 所得又は税務上の欠損金が大きく増減している 過去( 3 年 ) 及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない ただし 以下の要件に該当する場合を除く (a) 過去 ( 3 年 ) において 重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある (b) 当期末において 重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる ( 回収可能性適用指針 22 項 ) ( 例示区分 4) ( 分類 4)( 原則 ) 通常 将来の課税所得の発生を合理的に見積ることが困難と判断される 以下以下 ( a) から ( c) のいずれかに該当し かつ 翌期において一時差異等加減算のいずれかに該当するような会社前課税所得が生じることが見込まれる企業 期末において重要な税務上の繰越欠損金が存在する ( a) 過去 ( 3 年 ) または当期において 重要な税務上の欠損金が生じている 過去( おおむね 3 年以内 ) に重要な税務上の繰越欠損金の繰越期限切れとなっ (b) 過去 ( 3 年 ) において 重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実た事実がある がある 当期末において重要な税務上の繰越欠損金の期限切れが見込まれる (c ) 当期末において 重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる 過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が期末に存在し ( 回収可能性適用指針 26 項 ) かつ 翌期末において重要な繰越欠損金の発生が見込まれる (( 分類 4) だが ( 分類 2) または ( 分類 3) として取り扱う場合 ) 但し 上記の分類の要件に該当する場合で 以下に該当する会社は 取り扱上記の分類の要件 ( 原則 ) に該当する場合であっても 以下を勘案して 将来いが異なる の一時差異等加減算前課税所得の十分性を合理的な根拠をもって企業が説明 重要な税務上の繰越欠損金や過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減する場合には 一時差異等加減算前課税所得が生じると考えられる期間に基づ算一時差異が 例えば 事業のリストラクチャリングや法令等の改正などにき ( 分類 2) または ( 分類 3) として取扱う よる非経常的な特別の原因により発生したものであり それを除けば課税所 重要な繰越欠損金が生じた原因得を毎期計上している会社 中長期計画 過去における中長期計画の達成状況 過去(3 年 ) 及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移 等 ( 回収可能性適用指針 28 項 29 項 ) ( 例示区分 5) ( 分類 5) 通常 将来の課税所得の発生を合理的に見積ることができないと判断される 次の要件をいずれも満たす企業 以下のいずれかに該当するような会社 過去( おおむね 3 年以上 ) 連続して重要な税務上の欠損金を計上し かつ 当期も重要な税務上の欠損金の計上が見込まれる 債務超過の状況にある または資本の欠損の状況が長期にわたっており かつ 短期間に当該状況の解消が見込まれない (a) 過去 ( 3 年 ) および当期のすべての事業年度において 重要な税務上の欠損金が生じている (b) 翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる ( 回収可能性適用指針 30 項 ) 3. 回収可能性判断の基本的な考え方上記 2で示した ( 分類 1) から ( 分類 5) までの回収可能性判断については 表 2に掲げるとおりであり 基本的な考え方としては監査委員会報告第 66 号を踏襲しつつも 部分的に見直しを行っています 以下 特徴的な見直し事項を列挙します (1)( 分類 3) における5 年超の見積可能期間における回収可能性の定めの新設監査委員会報告第 66 号では 例示区分 3に該当する場合 には 将来の合理的な見積可能期間 ( おおむね5 年 ) 以内の課税所得の見積額を限度として繰延税金資産の回収可能性を認めてきましたが 一律に 5 年を限度とする取り扱いは企業の実態を適切に反映しない場合があるとの意見を踏まえ 5 年超の見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする取り扱いを設けています ( 回収可能性適用指針 82 項から 85 項 ) 13

表 2( 例示区分 / 分類 ) ごとの回収可能性判断 監査委員会報告第 66 号回収可能性適用指針 ( 例示区分 1) ( 分類 1) 一般的に 繰延税金資産の全額について その回収可能性があると判断できる 繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする ( 回収可能性適用指針 18 項 ) ( 例示区分 2) ( 分類 2) 一時差異等のスケジューリングの結果に基づき それに係る繰延税金資産は回一時差異等のスケジューリングの結果に基づく繰延税金資産について回収可能収可能性があるものと判断できる 性があるものとする ( 回収可能性適用指針 20 項 ) ( 例示区分 3) ( 分類 3) 将来の合理的な見積可能期間 ( おおむね5 年 ) 内の課税所得の見積額を限度と将来の合理的な見積可能期間 ( おおむね5 年 ) 以内の一時差異等加減算前課税して 当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき それに係所得の見積額に基づいて 当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングる繰延税金資産を計上している場合には 回収可能性があるものと判断できる の結果 繰延税金資産を見積る場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする ( 回収可能性適用指針 23 項 ) 5 年超の見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする ( 回収可能性適用指針 24 項 ) ( 例示区分 4) ( 分類 4) 原則として 翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる場合で かつ その範翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて 翌期の一時差異等の囲内で翌期の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき それに係る繰延スケジューリングの結果 繰延税金資産を見積る場合には 回収可能性がある税金資産を計上している場合には 回収可能性があると判断できるものとする ものとする ( 回収可能性適用指針 27 項 ) 但し書きの会社については 将来の合理的な見積可能期間 ( おおむね 5 年 ) 内の (( 分類 4) だが ( 分類 2) または ( 分類 3) として取り扱う場合 ) 課税所得の見積額を限度として 当該期間内の一時差異等のスケジューリング 将来において5 年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じるの結果に基づき それに係る繰延税金資産を計上している場合には回収可能性ことを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 ( 分類 2) に該当するものがあるものと判断できる として取り扱う 将来においておおむね3 年から5 年程度は一時差異加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 ( 分類 3) に該当するものとして取り扱う ( 回収可能性適用指針 27 項 28 項 ) 原則として回収可能性はない ( 分類 5) 原則として回収可能性はない ( 回収可能性適用指針 31 項 ) (2)( 分類 4) だが ( 分類 2) または ( 分類 3) として取り扱う場合の定めの新設上記 2に記載のとおり 監査委員会報告第 66 号における例示区分 例示区分 4 但し書き に代わるものとして ( 分類 4) に該当するが 重要な税務上の欠損金が発生した原因や中長期計画等を総合的に勘案して繰延税金資産の回収が見込まれると判断される場合の定めが新設されています 一定の要件を満たす場合にはそれぞれ ( 分類 2) もしくは ( 分類 3) に該当するものとして取り扱うこととなりますので それぞれの分類に応じた回収可能性判定がなされることとなります なお この定めに従い ( 分類 3) に該当するものとする場合 5 年超の期間においても繰延税金資産を計上できるものとする上記 (1) の定めは適用できないこととしています ( 回収可能性適用指針 89 項 ) 4. 各項目における一時差異 (1) スケジューリング不能な将来減算一時差異の取り扱いスケジューリング不能な将来減算一時差異については 監査委員会報告第 66 号の考え方を基本的に踏襲しており 回収可能性適用指針の適用における ( 分類 1) においては繰延税金資産の回収可能性はあるとしながらも ( 分類 2) か ら ( 分類 5) においては原則として繰延税金資産の回収可能性はないものとしています ただし ( 分類 2) に属する企業においては 企業の実態を回収可能性の判断により反映させるため スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち 税務上の損金の算入時期を個別に特定できなくても 当該将来の税務上の損金の算入時点における課税所得が当該スケジューリング不能な将来減算一時差異の額を上回る見込みが高いことにより 企業が合理的な根拠をもって回収可能であることを説明する場合は回収可能性があるものとする定めが新たに設けられています ( 回収可能性適用指針 21 項 ) (2) 回収可能見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取り扱い回収可能見込年度が長期にわたる将来減算一時差異 具体的には退職給付引当金や減価償却超過額については 監査委員会報告第 66 号において その企業の例示区分ごとに回収可能性の考え方が定められていました 回収可能性適用指針においては 監査委員会報告第 66 号の考え方を踏襲しています ( 回収可能性適用指針 35 項 ) 14

表 3 会計方針の変更に関する注記の記載事項 過年度遡及会計基準で求められる影響額注記 影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額 1 株当たり情報に対する影響額 表示されている財務諸表のうち 最も古い期間の期首の純資産の額に反映された 表示期間より前の期間に関する会計方針の変更による遡及適用の累積的影響額 本適用指針で求められる影響額注記 期首における以下への影響額 1 繰延税金資産 2 利益剰余金 3 その他の包括利益累計額 ( 評価 換算差額等 ) 出所 : 筆者作成 4 適用時期等 1. 適用時期回収可能性適用指針は 2016 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度および事業年度から適用されることとしていますが ( 回収可能性適用指針 49 項 ( 1)) 一方で 2016 年 3 月 31 日以後終了する連結会計年度および事業年度からの早期適用を選択することが認められています 早期適用を行う場合には 適用初年度となる年度の四半期決算 中間決算では新適用指針の適用はできませんので 年度末の決算から その事業年度の期首に遡って新適用指針を適用することになります ( 回収可能性適用指針 49 項 ( 2)) そのため 早期適用を行うと 翌期の四半期財務諸表作成過程においては 回収可能性適用指針が期首から適用されていたと仮定した場合に作成される比較情報 ( 2. に記載の ( 1) ( 3 ) を反映したもの ) としての四半期財務諸表を別途作成する必要が生じるものと考えられます 2. 経過的な取り扱い ( 適用初年度 ) 回収可能性適用指針は 従来の監査委員会報告第 66 号の考え方を踏襲しながら表現を変更している部分と 取り扱いそのものを変更している部分が混在しています その点で この回収可能性適用指針の適用による影響を 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 ととらえるか 会計上の見積もりの変更 ととらえるか複数の見方があり それによって新規適用による影響についての会計上の取り扱いが異なります この問題を解消するために 回収可能性適用指針では 会計方針の変更 といえる部分の範囲を限定しています 具体的には 以下に関連する変更は 会計方針の変更 として扱うこととしています ( 回収可能性適用指針 49 項 (3)) ( 1)( 分類 2) に該当する企業において スケジューリング不能な将来減算一時差異について回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 (Ⅳ4( 1) 但し書きに該当する場合 ) ( 2)( 分類 3) に該当する企業において おおむね5 年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングさ れた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であること を企業が合理的な根拠をもって説明する場合 (3(1) に該 当する場合 ) ( 3)( 分類 4) の要件に該当する企業であっても 将来に おいて 5 年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定 的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場 合 (3(2) の ( 分類 2) として取り扱う場合 ) 回収可能性適用指針適用による影響のうち 上記以外の影 響は 会計基準等の変更による会計方針の変更 としては取 り扱わず 会計上の見積方法の変更 として 適用初年度の 損益としてその影響を反映させることとなります なお 上記 ( 1)( 2)( 3) による影響額であっても その他 の包括利益累計額に関連する繰延税金資産および繰延税金 負債に関連する影響額の場合は その差額は 期首剰余金 を調整するのではなく 期首時点のその他の包括利益累計 額 ( 評価 換算差額等 ) を調整することになります 3. 適用初年度における会計方針の変更の注記 企業会計基準第 24 号 会計上の変更及び誤謬の修正に関 する会計基準 ( 以下 過年度遡及会計基準 という ) では 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の際に 所定の注 記を求めています ( 表 3 参照 ) しかしながら 改正前の監査委員会報告第 66 号に代えて 改正後の回収可能性適用指針を適用した場合の影響額を網 羅的に把握することが困難であることを考慮し 適用指針 では 注記すべき 影響額 を限定しています ( 回収可能性 適用指針 49 項 (5)) 加藤達也 ( かとうたつや ) PwCあらた監査法人第 3 製造 流通 サービス部パートナー 1993 年公認会計士登録 2006 年 9 月あらた監査法人 ( 現 PwCあらた監査法人 ) 入所 2009 年 7 月パートナー就任 主として製造業 サービス業の監査業務を担当 日本公認会計士協会常務理事として 監査 保証実務委員会を担当 財務会計基準機構基準諮問会議委員 ( 現任 ) 企業会計基準委員会税効果会計専門委員会専門委員 ( 現任 ) 著書に 減損会計基準の適用実態と実務対応のすべて ( 共著 税務研究会出版局 ) など メールアドレス :tatsuya.kato@jp.pwc.com 15