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(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

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表 2-2 北海道地方における年平均風速データベース作成に関する仕様 計算領域計算期間水平解像度時間解像度 20 年間 365 日 水平解像度 500m 1991 年 ~2010 年 24 時間 =175,200 メッシュ以下の詳北海道電力供給管内の詳細メッシュの時間分のデータを細メッシュの風況風況

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正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

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資料 1 平成 30 年 7 月豪雨 に関する大気循環場の特徴 平成 30 年 8 月 10 日 気象庁気候情報課 1

平成 30 年 7 月豪雨 及び 7 月中旬以降の記録的高温 に関連すると思われる現象一覧 地球温暖化 気温上昇 水蒸気量増 2014 2015 2016 2017 2018 7 月 北海道長雨 平成 30 年 7 月豪雨 水蒸気収束大きい ( 主 : 日本の南 + 南西から + 日本海側からの寄与も ) 瀬戸内海付近の上昇流持続 関東甲信早い梅雨明け ( 速報値 ) 7 月中旬以降の高温 台風第 12 号日本付近で西進 オホーツク海 H 発達 太平洋 H 発達 ( 日本の南東 日本上空 ) シルクロート T (6 月下旬以降 5 回 ) 寒帯前線 J 沿い波束 ( シ ェット蛇行 ) 朝鮮半島付近トラフ 砕波 (H 増幅 高 Q の南への流込と上昇流励起 ) 北半球中 高緯度層厚換算温度高い シ ェット北偏 夏 AO 正 PJ ハ ターン IPOC? 北太平洋 ITCZ 北偏 夏季アシ ア M 活発 東シナ海 中国華中対流活発 ( 大気中水蒸気量増 ) MJO 明瞭 BSISO 明瞭 ( フィリヒ ン付近 6 月上旬 7 月中旬対流活発 ) イント 洋 IOBW 負? イント 洋 IOD 正? 対流圏海面付近の上昇流増 北太平洋熱帯域 SST 正偏差 + 南太平洋熱帯域 SST 負偏差 ( 赤道挟んで南北非対象 ) WES フィート ハ ック 南シナ海 東シナ海 SST 負偏差 フィリヒ ン東方沖日本東方沖 SST 正偏差 エルニーニョ (2014 夏 ~2016 春 ) ラニーニャ (2017 秋 ~2018 春 ) エルニーニョもどき? 2

( 一連の中で ) 最も注目するものは? V200 偏差 (30N-50N 平均 5 日移動平均 ) T 帯状平均 (7 月 ) ( 地球温暖化 ) U 帯状平均 (7 月 ) OLR 偏差 (7 月 ) SST 偏差 (7 月 ) 3

大雨の特徴 1 総降水量 :7 月の月降水量平年値の 2~4 倍の大雨となったところがあった 10 日ごと ( 旬 ) の統計 :2018 年 7 月上旬 (7/1~10) の全国総降水量 ( 約 20 万ミリ ; アメタ ス ) は 過去と比べて最も大きい値 (1982 年 1 月上旬以降 ) 平成 30 年 7 月豪雨 の降水分布 ( 期間 :2018/6/28~7/8) (mm) 降水量の総和 (mm) 全国のアメダス地点 ( 比較可能な966 地点 ) で観測された降水量の総和 (1982 年 1 月上旬 ~2018 年 7 月上旬における各旬の値の度数分布 ) 4

(mm) 大雨の特徴 2( 西日本で豪雨となった 7/5~8) 全国のアメタ ス地点 ( 比較可能な 966 地点 ) で観測された 3 日間降水量の総和の順位 (1982/1/~2018/7/10) 観測史上 1 位更新 :122 地点 順位 1 2 3 全国 九州北部四国中国近畿東海 西日本から東海地方にかけてのアメダスにおける 72 時間降水量の期間最大値 ( 期間 :2018/6/28~7/8) 200 100 0 1988/4 2018/7 173mm (2018 年 7 月 7 日の 72 時間降水量 ) 平成 30 年 7 月豪雨 解析雨量における 72 時間降水量の陸上格子の平均値時系列 ( 期間 :1988 年 4 月 ~2018 年 7 月 ) 5

地上天気図 (6/28~7/3) 台風第 7 号発生 前線は徐々に北上 6/29 頃台風関東甲信第 7 号梅雨明け 6/28/9 時 6/29/9 時 ( 速報値 ) 6/30/9 時 オホーツク海高気圧 7/1/9 時 7/2/9 時 7/3/9 時 6

地上天気図 (7/4~7/9) 前線が北海道付近に停滞 & 台風第 7 号が日本海を北東進 その後 前線が本州付近に停滞 台風第 8 号発生 台風 7/4/9 時 7/5/9 時第 8 号 7/6/9 時 メソ α スケールの低気圧 7/7/9 時 7/8/9 時 7/9/9 時 7

地上天気図 7/4 7/5 時間間隔細かく 台風第7号が日本海を東進 温低化 その後 大陸で顕在化していた前線が東に延びる形 で 西日本付近に前線が顕在化 台風第7号 温低化 7/4/12時 7/4/15時 7/5/3時 7/5/6時 7/4/21時 7/5/9時 8

豪雨をもたらした要因 ( 案 ) 9 (A) 多量の水蒸気を含む 2 つの気流が西日本付近で持続的に合流 (B) 梅雨前線の停滞 強化などによる持続的な上昇流の形成 (C) 局地的な線状降水帯の形成 ( ア ) 太平洋高気圧の日本の南東側へ張り出し ( イ ) オホーツク海高気圧が日本の西側で非常に発達 ( ウ ) 朝鮮半島付近の上空の気圧の谷 ( エ ) 東シナ海付近の積雲対流活動が平年より活発 1 上層の亜熱帯シ ェット気流が大きく蛇行して持続 ( シルクロート テレコネクション ( シルクロート ハ ターン )) 2 上層の寒帯前線ジェット気流が大きく蛇行して持続 3 夏季モンスーンに伴う ( 下層の ) 西風が大きく蛇行 長期的には 極端な大雨の強さが増大する傾向 地球温暖化に伴う大気中の水蒸気量の長期的な増加傾向

西日本を中心とした記録的な大雨 (7 月 5 日から8 日 ) をもたらした大規模な大気の流れ1 ( 案 ) (B) 上空の気圧の谷がゆっくり南東へ進み 西日本付近で上昇流を励起 (B) 下層の冷たい空気が流れ込み 前線強化 オホーツク海高気圧 梅雨前線 (A) 東シナ海において 積雲対流活動が活発 (B) 持続的な湿った空気の集中と上昇流により記録的な大雨 (C) 局地的に線状降水帯形成 太平洋高気圧 ( 破線は平年の位置 ) (A) 中層 下層の湿った空気の流れ (A) 太平洋高気圧の縁に沿った 下層の湿った空気の流れ 10

西日本を中心とした記録的な大雨 (7 月 5 日から8 日 ) をもたらした大規模な大気の流れ2 80 N 上層で高気圧が平年より強い 2 上層の寒帯前線ジェット気流の大きな蛇行 ( 案 ) 1 上層の亜熱帯ジェット気流の大きな蛇行 ( シルクロードテレコネクション ) 40 N オホーツク海高気圧 上空の気圧の谷 20 N 上層のチベット高気圧 ( 破線は平年の位置 ) 太平洋高気圧 ( 破線は平年の位置 ) 3 夏季モンスーンに伴う下層の西風の大きな蛇行 積雲対流活動が平年より活発 赤道 60 E 80 E 100 E 120 E 140 E 160 E 180 160 W 11

2018/7/5-7 平均 多量の水蒸気を含む2つの気流が西日本付近で持続的に合流 鉛直積算水蒸気フラックス 2018 年平年値 1958~ 2017 年の各年 北向きの水蒸気の流れは 過去と比べても大きい事例であった 水蒸気フラックス収束発散の鉛直積算 2018 年平年値 1958~ 2017 年の各年 顕著 西日本付近で鉛直積算した水蒸気収束の持続の強さは 1958 年以降で最も強かった 12

オホーツク海高気圧の過去に見られない発達 SLP/ 規格化偏差 (7 日間平均 ) 地上気圧の日別時系列 ( 通年, 7 日移動平均 ) 黒線 : 1958~2017 年の各年赤線 : 2018 年緑線 : 平年値 (hpa) 2018 年は梅雨末期 ( 例年より早い ) としては過去に見られない強さ ( 補足 ) 1970 年 7 月 7 日ごろ当時は梅雨末期ではないため今回の豪雨のように太平洋高気圧が強くない ( 補足 ) 2003 年 7 月 23 日ごろ梅雨前線が本州上 や南岸に停滞し 記録的な冷夏となった年 九州地方を中心として大雨発生 今回の豪雨でのオホーツク海高気圧は例年の位置より西偏しているため 単純な強化というより西偏に近い 45-55N,130-140E での領域平均 顕著 7 月 6 日ごろの オホーツク海付近 ( 今回の豪雨での西偏位置 ) での海面気圧の強さは 太平洋高気圧が強化される梅雨末期としては 1958 年以降で最も強かった ( 補足 ) 1985 年 6 月 11 日ごろ当時は梅雨末期ではないため今回の豪雨のように太平洋高気圧が強くない ( 補足 ) 1976 年 6 月 29 日ごろ当時は梅雨末期ではないため今回の豪雨のように太平洋高気圧が強くない 13

オホーツク海高気圧による冷たい空気の南下 南西 - 北東方向の質量フラックス ( 赤枠域で領域平均 ) X この領域で解析 ( 東北大学岩崎委員提供のツールに基づく ) 300K 面以下の質量フラックスの日別時系列 黒線 : 1981~2017 年の各年赤線 : 2018 年緑線 : 平年値 強い質量フラックス 南西向き 7/5-7 ( 気象大学校北畠教授資料 ) 7/5-7に南西向きフラックスのピークが見られる 最大水準ではないが 梅雨期降水量の極大の直後にあたる7/5-7 頃としてはかなり強い 南北温度勾配が強化され 梅雨前線が強化された 下層で冷たい空気の流れ込み 南北温度勾配の強化 梅雨前線の強化 下層 850hPa 面 ( 上空約 1500m) の気温 ( 赤線 ) 同じ高度の風による気温変化 ( カラー /6hr) ジオポテンシャル高度 ( 黒線 m) 14

特に議論いただきたいポイント (1) 太平洋高気圧の強化に寄与したシ ェット気流の蛇行 (2) 上空の気圧の谷と上昇流 (3) 東シナ海の対流活発と 夏季モンスーンに伴う ( 下層の ) 西風の大きな蛇行 (4) 線状降水帯による総降水量に対する寄与 (5) 地球温暖化との関係 15

(1) 太平洋高気圧の強化に寄与したシ ェット気流の蛇行 1 V200 偏差 (30N-50N 平均 5 日移動平均 ) PSI200 偏差 (5 日平均 ) 2018/6/28-7/3 2018/6/30-7/4 2018/7/2-7/6 2018/7/4-7/8 m/s 西日本付近の豪雨 (7/5~8 付近 ) の日本の東の上層高気圧偏差の強化 : シルクロート テレコネクションで強化の後 寒帯前線 J 沿いの波束伝播で強化 16

(1) 太平洋高気圧の強化に寄与したシ ェット気流の蛇行 2 2018/6/28-7/3 2018/6/30-7/4 2018/7/4-7/8 2018/7/2-7/6 2018/7/4-7/8 Z500 SLP PSI300, WAF300 17

(2)上空の気圧の谷と上昇流 等温位面渦位 350K面 500hPa Q-ベクトル とその収束発散 7/5 7/5 7/6 7/6 7/7 メソαスケールの 低気圧にも影響 7/7 18

(3)東シナ海の対流活発と 夏季モンスーンに伴う 下層の 西風の大きな蛇行 PSI850 風850 7/4 8平年値 PSI850 風850 2018/7/4 8平均 値 7/4 7/5 7/6 7/7 線 PSI850偏差 陰影 OLR偏差 矢印 WAF850 19

(4) 線状降水帯による総降水量に対する寄与 1 線状降水帯の抽出方法 平成 30 年 7 月豪雨 の期間中の 7 月 5 日 0 時から 9 日 0 時までの 4 日間について 解析雨量のデータ ( 統計処理のため 5km メッシュに平滑化したもの ) から 1 3 時間積算降水量が 80 ミリ以上の分布域が線状 ( 長軸対短軸の比が 2 以上 ) 2 その面積が 500km 2 以上 3 1 の領域内の 3 時間積算降水量の最大値が 100 ミリ以上 の 3 つの条件を満たすものを線状降水帯と定義して 抽出した 7 月 5 日 0 時から 9 日 0 時までの 4 日間に抽出された 15 個の線状降水帯の分布 ( 範囲と番号 ) 線状降水帯の範囲が重なる場合には異なる色を用いて示している この際 線状降水帯の出現位置が時刻によって変わっても 連続性が高いと判断した場合には同一のものとみなした 20

(4) 線状降水帯による総降水量に対する寄与 2 線状降水帯の寄与 30% 50% の等値線が主にみられる 線状降水帯の寄与 70% の等値線がみられる 解析雨量による総降水量と総降水量に対する線状降水帯による寄与 平成 30 年 7 月豪雨 (7 月 5 日から 8 日 ) ( 左図 ) と 平成 29 年 7 月九州北部豪雨 (7 月 5 日から 6 日 ) ( 右図 ) 陰影は解析雨量による総降水量 ( カラーバーを参照 ) 等値線は総降水量に対する線状降水帯による寄与の割合で 青色 (30%) 黒色 (5 0%) 紫色 (70%) を示す 21

(5) 地球温暖化との関係 1 過去 30 年で約 10% の長期的な上昇傾向 全国の年最大 72 時間降水量の基準値との比の経年変化 ( 期間 :1976~2018 年 ) 棒グラフは全国のアメダス地点のうち1976~2018 年の期間で観測が継続している地点 (685 地点 ) の基準値との比 (%) を平均した値 2018 年の値は8/1までのデータに基づく 直線 ( 赤 ) は長期変化傾向 ( 信頼度水準 90% で統計的に有意 ) 基準値は1981~2010 年の平均値 < 備考 > は観測の時間間隔を変更した年 (2003 年より前は1 時間間隔 以後は10 分間隔 ) 22

(5) 地球温暖化との関係 2 長期的には極端な大雨の強さが増大する傾向 の背景要因として 地球温暖化による気温の長期的な上昇傾向とともに 大気中の水蒸気量も長期的に増加傾向にあることが考えられる 稚内 札幌 秋田 輪島 館野 八丈島 潮岬 福岡 鹿児島 名瀬 石垣島 南大東島 父島の国内 13 高層観測地点 日本域における 7 月の 850hPa の月平均比湿の基準値との比の経年変化 (1981~2018 年 ) 細線 ( 黒 ) は国内 13 高層気象観測地点 の平年比 (%) を平均した値 太線 ( 青 ) は 5 年移動平均値 直線 ( 赤 ) は長期変化傾向 ( 信頼度水準 99% で統計的に有意 ) 基準値は 1981 年から 2010 年の平均値 < 備考 > は測器の変更のあった年を示しており 両 間では相対的にやや値が高めになっている可能性がある 23

特に議論いただきたいポイント ( 再掲 ) (1) 太平洋高気圧の強化に寄与したシ ェット気流の蛇行 (2) 上空の気圧の谷と上昇流 (3) 東シナ海の対流活発と 夏季モンスーンに伴う ( 下層の ) 西風の大きな蛇行 (4) 線状降水帯による総降水量に対する寄与 (5) 地球温暖化との関係 24