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政治的混乱や領海紛争がガイアナ沖合の探鉱 開発を阻害する恐れ 更新日 :2019/1/17 調査部 : 舩木弥和子 (Platts Oilgram News International Oil Daily Business News Americas Business Monitor International 他 ) 〇 ExxonMobil は ガイアナ沖合 Stabroek 鉱区で 2015 年から 2018 年末までの 4 年弱の間に 10 の油田を発見した ExxonMobil は 同鉱区の可採埋蔵量を 50 億 boe とし 2025 年までに原油 75 万 b/d 以上を生産できる可能性があるとしている 2017 年 6 月には同鉱区内の Liza 油田の開発第 1 フェーズの最終投資決定がなされ 2020 年には生産が開始される計画である ExxonMobil 以外にも Total 等の企業が Stabroek 鉱区の周辺鉱区に参入し 探鉱を進めつつある 〇順調に進展していると思われていたガイアナ沖合の探鉱 開発だが 2018 年 12 月に国会で内閣不信任が決議され 探鉱 開発を推進する政策をとってきた Granger 政権が交代する可能性が出てきた また Stabroek 鉱区の北西側 ベネズエラ寄りの海域で地震探鉱を行っていた船舶にベネズエラ海軍の軍艦が接近し 作業を停止させるという事件も発生し ガイアナ ベネズエラ間の領土や領海をめぐる争いが激化する恐れも出てきた 1. ガイアナ沖合での探鉱 開発状況 1-1. Stabroek 鉱区での探鉱 開発状況 ExxonMobil は 1999 年に取得したガイアナ沖合 Stabroek 鉱区 ( 総面積 26,800km2) で 2013 年より地震探鉱を実施 2015 年 3 月より Liza-1 号井の掘削を開始し 5 月に Liza 油田を発見した ExxonMobil はその後も同鉱区での探鉱を継続し 2018 年末までに同鉱区内で 10 の油田を発見した 同社は 油田発見に伴い 2017 年 6 月に 20 億 ~25 億 boe 7 月に 22.5 億 ~27.5 億 boe 2018 年 1 月に 32 億 boe 以上 6 月に 40 億 boe 以上 12 月に 50 億 boe 以上と同鉱区の可採埋蔵量の上方修正を重ねてきた 2019 年 1 月に入っても 同鉱区内の水深 1,800m の海域でドリルシップ Stena Carron を用いて Haimara-1 号井 水深 1,940m の海域でドリルシップ Noble Tom Madden を用いて Tilapia-1 号井の掘削を開始しており さらに油田の発見が続く可能性がある 1

表 1.Stabroek 鉱区での油田発見状況 ( 水深 掘削長の単位 :m) 坑井 掘削時期 水深 掘削長 発見油田 結果等 Liza-1 2015/3~5 1,743 5,433 Liza 90mの砂岩の油層を確認 油田は大規模と発表 Liza-3 2016/9~10 1,829 5,709 Liza Deep Liza 油田の可採埋蔵量は以前発表された8~14 億 bblの上限に近い数字であると推測 Payara-1 2016/11~12 2,030 5,512 Payara 29m 以上の油層を確認 Snoek-1 2017/2~3 1,563 5,175 Snoek 25mの油層を確認 Turbot-1 2017/8~9 1,802 5,622 Turbot 23mの砂岩の油層を確認 Ranger-1 2017/11~ 2018/1 1,743 6,450 Ranger 70mの油層を確認 同鉱区の 埋蔵量を32 億 boe 以上に引き 上げ Pacora-1 2018/1~2 2,067 5,597 Pacora 20mの砂岩の油層を確認 Longtail-1 2018/5~6 1,940 5,504 Longtail 78mの砂岩の油層を確認 Hammerhead-1 2018/7~8 1,150 4,225 Hammerhead 60mの砂岩の油層を確認 Pluma-1 2018/11~12 1,018 5,013 Pluma 37mの砂岩の油層を確認 同鉱区の可採埋蔵量を50 億 boe に上方修正 ( 各種資料を基に作成 ) ExxonMobil は 2017 年 6 月 16 日に Stabroek 鉱区 (Liza 油田 ) の開発第 1 フェーズの最終投資決定を行 ったと発表した 第 1 フェーズの投資額は 44 億ドルで 生産井 8 坑 水圧入井 6 坑 ガス圧入井 3 坑の合計 17 坑を掘削し FPSO(Floating Production, Storage and Offloading system 生産能力 12 万 b/d SBM Offshore が建造 )Liza Destiny によって 2020 年までに生産を開始 原油 4 億 5,000 万 bbl を開発する計画で あるという さらに 同鉱区開発の第 2 フェーズでは生産能力 22 万 b/d の FPSO の導入を検討 Liza 油田を 中心に開発を行い 2022 年の生産開始を 第 3 フェーズでは生産能力 18 万 b/d の FPSO の導入を検討 Payara 油田を中心に開発し 2023 年の生産開始を予定しており 第 2 第 3 フェーズにより 同鉱区の生産 量を 50 万 b/d に引き上げる計画であるとしている ExxonMobil はすでに第 4 フェーズ 第 5 フェーズの開発 も計画しているとされ 2025 年までに 5 基の FPSO を用いて原油 75 万 b/d 以上を生産するポテンシャルが あるとしている なお 同鉱区の権益保有比率はオペレーターの ExxonMobil 45% Hess30% Nexen25% と なっている なお 2018 年 9 月には ExxonMobil が Stabroek 鉱区とガイアナの Demerara 川の東の海岸線間の幅 2

500m 長さ 120 マイルの海域について測量 調査を実施することで Fugro と契約を締結 天然ガスパイ プラインの敷設を検討していることが明らかになった ExxonMobil は当初 ガスは再圧入 フレアする計 画だったが 政府と協議の結果 陸上にガス処理プラントを建設することで作業チームが立ち上げられ たという Liza 油田の天然ガス生産量は 165MMcf/d となる見通しである ガイアナ政府によると パイプ ラインの送ガス能力はまだ決定はされていないが 少なくとも 30MM~50MMcf/d とされており 敷設コス トは約 4 億ドルと見込まれている 政府は 200 メガワットの発電所の建設も計画している 表 2.Stabroek 鉱区の開発計画 フェーズ FID 生産開始 FPSO 生産能力 開発対象の主な油田 1 2017 年 6 月 2020 年初 12 万 b/d Liza 2 2019 年第 1 四半期 2022 年中ごろ 22 万 b/d Liza 3 2019 年 2023 年 18 万 b/d Paraya ( 各種資料を基に作成 ) 図 1. ガイアナ スリナム主要鉱区図 ( 各種資料を基に作成 ) 3

1-2. その他の鉱区の状況 ExxonMobil が Stabroek 鉱区での探鉱を進め始めた頃より Stabroek 鉱区の周辺鉱区への参入やこれらの鉱区での活動も活発になっている 2016 年には ExxonMobil が Stabroek 鉱区の北側に隣接する Kaieteur 鉱区の権益 50% をイスラエルの Ratio Oil Exploration より取得 2018 年 4 月には Hess が同鉱区の権益 15% を ExxonMobil より取得し それぞれファームインした 2018 年は Kaieteur 鉱区の既存の 3D 地震探鉱のデータ解析を実施し 掘削について検討が行われたという 2018 年 2 月には Total がカナダの JHI Associates とガイアナの Mid-Atlantic Oil & Gas から沖合 Canje 鉱区 ( 水深 1,700~3,000m) の権益 35% を取得した Total はまた Kanuku 鉱区 ( 水深 70~100m) の権益 25% を Repsol より取得した さらに Total は 2017 年 9 月にカナダの Eco Atlantic より Orinduik 鉱区 ( 面積 1,835 km2) の権益 25% を 1,250 万ドルで取得するオプションを保有するという内容の協定を締結 2018 年 9 月にその権利を行使し 同鉱区の権益を取得した Total が権益を取得したこれら 3 鉱区は Liza 等 ExxonMobil が発見した一連の油田を取り囲むような形で位置している Orinduik 鉱区ではすでに Amatuk Iatuk 等複数の構造が確認されており オペレーターの Tullow は 2019 年下半期に 2 坑を掘削する等 2019 年は同鉱区での探鉱を進める計画である 2018 年 12 月には カナダの Frontera Energy が Corentyne Demerara 両鉱区の権益 33.33% を同じくカナダの CGX Energy よりサインボーナス 3,330 万ドルと掘削等の費用を支払うことで 取得した Corentyne 鉱区では 2022 年末までに探鉱井 1 坑を掘削することとなっているが CGX Energy は 2019 年末までにこれを掘削するとしている 4

表 3. ガイアナでの探鉱 開発状況 鉱区 権益保有状況 探鉱 開発状況 Stabroek 1999 年にExxonMobilが権益 100% 取得 2009 年と2012 年にShell が権益の25% ずつを取得したが 2014 年に売却 現在の権益保有比率はExxonMobil 45% Hess 30% Nexen 25% オペレーターはExxonMobil 2013 年に3D 地震探鉱を実施 2015 年 3 月よりLiza-1 号井掘削 2017 年 6 月 Liza 油田開発第 1フェーズ最終投資決定 2020 年生産開始予定 Kaieteur 2014 年 Ratio Oil Explorationが権益 100% を取得 2016 年 ExxonMobilが権益 50% を取得 2018 年に HessがExxonMobilより権益 15% を取得 オペレーターはExxonMobil Canje JHI Mid-Atlantic Oil & Gasが2015 年に権益取得 ExxonMobilがファームインし オペレーターとなる 2018 年にTotal がファームイン 現在の権益保有比率はExxonMobil35% Total35% JHIとMid-Atlantic Oil & Gas 各 15% オペレーターはExxonMobil Kanuku Repsolは2013 年 5 月に同鉱区のライセンスを取得 同年 7 月にTullowが 2018 年にTotal がファームイン 現在の権益保有比率はRepsol 37.5% Tullow37.5% Total25% オペレーターはRepsol Orinduik 2016 年 1 月にTullow (60%) Eco Atlantic (40%) が同鉱区の権益を取得 2018 年 Total がEco Atlanticより権益 25% を取得 オペレーターはTullow Corentyne 1998 年にCGX Energyが権益 100% を取得 2017 年末に政府に権益 25% をファームダウン 2018 年末に Frontera Energyが権益 33.33% をCGX Energyより取得 オペレーターはCGX Energy Demerara 2001 年にCGX Energyが権益 100% を取得 2013 年探鉱ライセンス更新 2017 年末に政府に権益 25% をファームダウン 2018 年末にFrontera Energyが権益 33.33% を取得 オペレーターはCGX Energy ExxonMobil 参入時にBlock Bより名称を変更 2018 年は既存の3D 地震探鉱のデータ解析を実施 掘削について検討 2D 地震探鉱 3D 地震探鉱を実施 2014 年に 2D 地震探鉱 3D 地震探鉱実施 2017 年に2D 地震探鉱 3D 地震探鉱を実施 複数の構造を確認済 2019 年下半期に2 坑を掘削予定 2000 年にHorseshoe West 井 2012 年にEagle 井を掘削したが 出油 ガスはなし 2022 年末までに探鉱井 1 坑を掘削する計画 3D 地震探鉱と探鉱井掘削を実施予定 Roraima 2012 年 Anadarko が権益 100% を取得 2013~14 年に2D 地震探鉱を計画 したが ベネズエラとの国境紛争の ため延期 Berbice Mahaica 2003 年にCGX Energyとそのガイアナ子会社 ON Energyが権益を取得 2013 年探鉱ライセンス更新 オペレーターはON Energy 2012 年 ガイアナの Nabi Oil & Gasが権益 100% を取得 2005 年に 3 坑を掘削するもドライ 2D 地震探鉱 100km2 等を実施する計画 ( 各種資料を基に作成 ) 5

2. 国内外からリスク出現 2-1. 国会で内閣不信任を決議 2018 年 12 月 21 日 ガイアナの野党 人民進歩党 / シビック (People s Progressive Party/Civic:PPP/C) が提出した内閣不信任案が国会で決議された ガイアナ国会は定数が 65 議席で このうち 33 議席を与 党 国民統一のためのパートナーシップ及び変化のための同盟 (A Partnership for National Unity + Alliance for Change:APNU+AFC) が占めているが AFC の Charrandas Persaud 議員が不信任票を投じ たことで 内閣不信任案が成立した ガイアナ憲法は 不信任投票後にとられる手続きについて明確に 規定していないが 一般的には 90 日以内に選挙が行われるべきだとされている しかし APNU+AFC の Granger 政権は カナダ国籍を保持している Persaud 議員は二重国籍のため国会議員となる資格が なく 投票は無効である と主張し 内閣総辞職も 総選挙の日程設定も拒んでいる 一方 PPP/C は早 期の総選挙実施を希望している PPP/C は 2018 年 11 月の地方選挙で 61% の票を獲得しており 選挙が 実施されれば政権が交代する可能性が高いとみられている ガイアナでは 1966 年の独立前から インド系とアフリカ系の対立が続いており それを背景にインド 系政党とアフリカ系を支持基盤とする政党が対立してきた しかし 2015 年の総選挙では過半数をめざし 支持基盤を拡大するためには 多人種的政党として臨む方が有利であるとの考えが浸透するようになり 一概にインド系政党 アフリカ系政党と断じることはできない状況となっている しかし PPP/C 政権時代 に インド系住民が不均衡に利益を得 腐敗が進んだとの見方をする向きがあり PPP/C 政権が再度成 立すれば 石油により得られる歳入を国家の発展のために使わず 再び汚職がはびこるのではないか とアフリカ系住民は懸念しているという 表 4. ガイアナのインド系住民とアフリカ系住民の状況 民族 人口に占める割合 政権担当時期 現在の主な政党 主な勢力範囲 インド系 40% 1992~2015 PPP/C 官僚 経済界 アフリカ系 29% 1968~1992 2015~ APNU+AFC 警察 国防軍 (GDF) 6 ( 各種資料を基に作成 ) また PPP/C は Granger 政権の石油政策や ExxonMobil との間に結ばれている契約の条件を厳しく 批判してきた ガイアナでは石油会社との間に PS 契約が結ばれているが ロイヤルティ コスト回収 利 益原油の配分等その内容は政府と石油会社の交渉に基づき定められている 政府と ExxonMobil は 1999 年 6 月に締結した Stabroek 鉱区の PS 契約を見直し 2016 年 6 月 27 日に新たな契約を締結した 変更 された契約内容では サインボーナスは 1,800 万ドル 政府は利益原油の 50% を取得するとされている

政府はこの契約見直しで ロイヤルティを 0% から 2% に トレーニングフィーを 4.5 万ドルから 30 万ドルに引き上げ 加えて社会的責務 環境支援費用として 30 万ドルを徴収することが可能となった ExxonMobil は トレーニングフィーの支払いにより 資機材輸入関税を免除される 探鉱期間は 2016 年から 4 年で 3 年 2 回の延長が可能 生産期間は 10 年で こちらも延長が可能である 契約期間延長時には鉱区の 20% を放棄するとされている このように これまでよりもガイアナに有利な内容に契約変更がなされたものの 2018 年 4 月には 国際通貨基金 (IMF) が ExxonMobil との契約は標準的な契約に比べ 同社にとって有利なものになっていると指摘 将来の契約では 政府の取り分を多くすべきだとコメントしている PPP/C 政権に交代することになれば 今後の契約条件は石油会社にとって現在の契約よりも厳しい内容となる可能性が高まると見られている なお Granger 大統領はがんの治療中で 2020 年に引退予定とされており いずれにせよ次期政権は現在よりも契約条件を厳しくする可能性があるとの見方もなされている これまで Granger 大統領は制度の整備を最優先課題とし 世銀 IMF 等から支援を受けながらこれを進めようとしているものの 法制度の整備や石油産業を管理する国家機関の設立に遅れが生じており ExxonMobil 等によるプロジェクトに影響が出る可能性が指摘されてきた 例えば Granger 大統領は 2018 年初めに石油産業を天然資源省の管轄から外し エネルギー省を創設 2020 年をめどに石油開発を担当する省が設立されるまでの間 エネルギー省に石油産業を管轄させることとした しかし これにより混乱が生じ 新たな石油プロジェクトの決定に影響が及んだと言われている また Granger 大統領他閣僚の意見が食い違うことが多く そのために遅延を招くこともあるという このような状況から 2018 年末までに実施予定の Stabroek 鉱区 (Liza 油田 ) の開発第 2 フェーズの最終投資決定が 2019 年に遅れてしまった ExxonMobil はこの最終投資決定の遅れが 2022 年の第 2 フェーズの生産開始に影響を及ぼすことはないとしているものの 今後 政治的な混乱が加わることで さらに状況が悪化することが懸念される 2-2.Stabroek 鉱区での地震探鉱をベネズエラが妨害内閣不信任が決議された翌日の 12 月 22 日 ExxonMobil が Stabroek 鉱区の北西側で Petroleum Geo-Services(PGS) の船舶 Ramform Atlas と Ramform Tethys を用いて 3D 地震探鉱を実施していたところ ベネズエラ海軍艦艇から停止させられたため 作業を中止し 同鉱区の東側に移動した ガイアナは 本件を主権と領土を侵害するものと非難するとともに 国連に報告の上 ベネズエラ政府 7

にも正式に書簡で抗議するとした 一方 ベネズエラ側は同国の領海内で起きた出来事で 国際的な慣例に従って適切な対応を取ったと主張している ExxonMobil は 地震探鉱はガイアナの排他的経済水域で実施されていたと主張 地震探鉱を中止したものの Stabroek 鉱区の東側で実施している掘削や開発には影響はなく 地震探鉱も Stabroek 鉱区の東側で集中して行うとしている 19 世紀以来 ベネズエラは ガイアナの Essequibo 川が両国の国境であり Essequibo 川の西側のすべての土地及び関連する沖合の海域 すなわち ガイアナの領土のおよそ 3 分の 2 は自国の領土だと主張してきた 2013 年に Stabroek 鉱区の北西に位置する Roraima 鉱区で Anadarko が地震探鉱を行おうとした際にも 違法にベネズエラ海域で操業を行っているとして ベネズエラ海軍に止められたという経緯がある 両国の国境をめぐる問題については 2018 年 2 月に Antonio Guterres 国連事務総長が国際司法裁判所 (International Court Justice: ICJ) に提起 ガイアナはこれを支持したものの ICJ は当該地域の事実上の支配とベネズエラの国際社会での劣位な立場を考慮してガイアナに優勢な決定をすると予想されたことから ベネズエラからは棄却された 本件が武力紛争に発展することはないとの見方がなされているが Maduro 大統領が 悪化した政治 経済 社会状況から国民の関心をそらそうとの考えや石油収入の分け前に与かろうとの考えから強硬策を取る可能性があるのではないかと見る向きもある おわりにガイアナ沖合 Stabroek 鉱区での探鉱 開発の進展が伝えられており その周辺鉱区には ExxonMobil 以外にも Total 等の企業が参入し探鉱を進めつつある このような状況から ガイアナの石油生産量が ベネズエラやメキシコのそれを上回るようになるのではないかと見る向きもある しかし 上記のような政治的な混乱や国境をめぐる紛争はガイアナの探鉱 開発の進捗に大きな影響を及ぼす恐れがあり 探鉱 開発状況とともに今後の政治動向 外交関係を注視していく必要があろう 以上 8