( 別刷 ) 中年期女性のジェネラティヴィティと達成動機 相良順子伊藤裕子 生涯学習研究 聖徳大学生涯学習研究所紀要 第 16 号別冊 2018 年 3 月

Similar documents
論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

Microsoft Word - 209J4009.doc

論文内容の要旨

表紙.indd

<4D F736F F F696E74202D B835E89F090CD89898F4B81408F6489F18B4195AA90CD A E707074>

(Microsoft Word

Microsoft Word - manuscript_kiire_summary.docx

件法 (1: 中学卒業 ~5: 大学院卒業 ) で 収入については 父親 母親それぞれについて 12 件法 (0: わからない 収入なし~ 11:1200 万以上 ) でたずねた 本稿では 3 時点目の両親の収入を分析に用いた 表出語彙種類数幼児期の言語的発達の状態を測定するために 3 時点目でマッ

Microsoft Word - 04章 テレビ視聴.doc

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

発達教育10_087_古池.indd


過去の習慣が現在の習慣に与える影響 インターネットの利用習慣の持ち越し 松岡大暉 ( 東北大学教育学部 ) 1 問題関心本研究の目的は, インターネットの利用の習慣について, 過去のインターネットの利用習慣が現在のインターネットの利用の習慣に影響を与えるかを検証することである. まず, 本研究の中心

表 1 全国調査の標準版性別尺度平均と標準偏差 (SD) 男性 女性 合計 標準版の尺度 人数平均 SD 人数平均 SD 人数平均 SD t 検定 仕事の負担 仕事の量的負担 *** 仕事の質的負担

続・女性のライフコースの理想と現実-人気の「両立コース」の実現には本人の資質より周囲の影響が大

Microsoft Word - SPSS2007s5.doc

Microsoft Word - notes①1210(的場).docx

(Microsoft Word \227F\210\344\226\203\227R\216q\227v\216|9\214\216\221\262.doc)

多変量解析 ~ 重回帰分析 ~ 2006 年 4 月 21 日 ( 金 ) 南慶典

簿記教育における習熟度別クラス編成 簿記教育における習熟度別クラス編成 濱田峰子 要旨 近年 学生の多様化に伴い きめ細やかな個別対応や対話型授業が可能な少人数の習熟度別クラス編成の重要性が増している そのため 本学では入学時にプレイスメントテストを実施し 国語 数学 英語の 3 教科については習熟

ブック 1.indb

スライド 1

参考 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに 家

man2

 

養護教諭を志望する 学生のアイデンティティ と特徴 森恭子 後藤和史 後藤多知子 ( 愛知みずほ大学 )

.A...ren

1. 多変量解析の基本的な概念 1. 多変量解析の基本的な概念 1.1 多変量解析の目的 人間のデータは多変量データが多いので多変量解析が有用 特性概括評価特性概括評価 症 例 主 治 医 の 主 観 症 例 主 治 医 の 主 観 単変量解析 客観的規準のある要約多変量解析 要約値 客観的規準のな

自己愛人格目録は 以下 7 因子が抽出された 誇大感 (α=.877) 自己愛憤怒 (α=.867) 他者支配欲求 (α=.768) 賞賛欲求 (α=.702) 他者回避 (α=.789) 他者評価への恐れ (α=.843) 対人過敏 (α=.782) 情動的共感性は 以下 5 因子が抽出された 感

Microsoft Word - mstattext02.docx

調査レポート

スライド 1

中カテゴリー 77 小カテゴリーが抽出された この6 大カテゴリーを 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーの構成概念とした Ⅲ. 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーリストの開発 ( 研究 2) 1. 研究目的研究 1の構成概念をもとに 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーリストを

Microsoft Word - 12_田中知恵.doc

lee1

<4D F736F F F696E74202D AAE90AC94C5817A835F C581698FE39E8A90E690B6816A2E >

Microsoft Word 今村三千代(論文要旨).docx

参考 1 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

主成分分析 -因子分析との比較-

ビジネス統計 統計基礎とエクセル分析 正誤表

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

調査研究方法論レポート

修士論文 ( 要旨 ) 2017 年 1 月 攻撃行動に対する表出形態を考慮した心理的ストレッサーと攻撃性の関連 指導小関俊祐先生 心理学研究科臨床心理学専攻 215J4010 立花美紀

コーチング心理学におけるメソッド開発の試み 東北大学大学院 徳吉陽河

<4D F736F F D E996D88CF68C5B B93638EFC93F181458FAC938796ED90B62E646F63>

ヘルメスの翼に

Microsoft Word - 210J4061.docx

( ウ ) 年齢別 年齢が高くなるほど 十分に反映されている まあまあ反映されている の割合が高くなる傾向があり 2 0 歳代 では 十分に反映されている まあまあ反映されている の合計が17.3% ですが 70 歳以上 では40.6% となっています

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

Microsoft Word - 00.表紙.doc

<4D F736F F D F4B875488C097A790E690B C78AAE90AC838C837C815B FC92E889FC92E894C5>

kenkyujo_kiyo_09.ren

3 調査項目一覧 分類問調査項目 属性 1 男女平等意識 F 基本属性 ( 性別 年齢 雇用形態 未既婚 配偶者の雇用形態 家族構成 居住地 ) 12 年調査 比較分析 17 年調査 22 年調査 (1) 男女の平等感 (2) 男女平等になるために重要なこと (3) 男女の役割分担意

1. 職場愛着度 現在働いている勤務先にどの程度愛着を感じているかについて とても愛着がある を 10 点 どちらでもない を 5 点 まったく愛着がない を 0 点とすると 何点くらいになるか尋ねた 回答の分布は 5 点 ( どちらでもない ) と回答した人が 26.9% で最も多かった 次いで

Microsoft PowerPoint - 資料04 重回帰分析.ppt

Microsoft Word - notes①1301(小谷).docx

子供・若者の意識に関する調査(平成28年度)

切片 ( 定数項 ) ダミー 以下の単回帰モデルを考えよう これは賃金と就業年数の関係を分析している : ( 賃金関数 ) ここで Y i = α + β X i + u i, i =1,, n, u i ~ i.i.d. N(0, σ 2 ) Y i : 賃金の対数値, X i : 就業年数. (


The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 12, No 1, pp 49 59, 2008 資料 看護師におけるメンタリングとキャリア結果の関連 Relationship between M

PowerPoint プレゼンテーション

CW6_A3657D13.indd

(Microsoft Word - \222\206\220\354\221\361\227v\216|)

経営戦略研究_1.indb

<4D F736F F D DE97C78CA78F418BC B28DB895F18D908F DC58F49817A2E646F63>

0_____目次.indd

EBNと疫学

資料2(コラム)

(1) 神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要第 5 巻第 1 号 2011 Bulletin of Graduate School of Human Development and Environment Kobe University, Vol5 No 研究論文 新たな親密性

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

Microsoft PowerPoint ⑤静岡発表 [互換モード]

調査実施の背景 わが国では今 女性活躍を推進し 誰もが仕事に対する意欲と能力を高めつつワークライフバランスのとれた働き方を実現するため 長時間労働を是正し 労働時間の上限規制や年次有給休暇の取得促進策など労働時間制度の改革が行なわれています 年次有給休暇の取得率 ( 付与日数に占める取得日数の割合

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

(Microsoft Word - \211\211\217K\207T\225\361\215\220\217\221[1].doc)

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

タイトル

研究成果報告書

Microsoft PowerPoint - 統計科学研究所_R_重回帰分析_変数選択_2.ppt

Microsoft PowerPoint - 審査会_林.ppt

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

Microsoft PowerPoint - 統計科学研究所_R_主成分分析.ppt

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

01表紙福島

Microsoft Word 年度入学時調査報告.docx

PowerPoint プレゼンテーション

平成26年度「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書(全体版)

フトを用いて 質問項目間の相関関係に着目し 分析することにした 2 研究目的 全国学力 学習状況調査結果の分析を通して 本県の児童生徒の国語及び算数 数学の学習 に対する関心 意欲の傾向を考察する 3 研究方法平成 25 年度全国学力 学習状況調査の児童生徒質問紙のうち 国語及び算数 数学の学習に対

Microsoft Word - 概要3.doc

Unknown

平成24年度 団塊の世代の意識に関する調査 日常生活に関する事項

調査の概要 少子高齢化が進む中 わが国経済の持続的発展のために今 国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれています このまま女性正社員の継続就業が進むと 今後 男性同様 女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれます 現状では 60 代前半の離職者のうち 定年 を理由として離職する男

研究報告用MS-Wordテンプレートファイル

図表 2-1から 最も多い回答は 子どもが望む職業についてほしい (9%) であり 以下 職業に役立つ何らかの資格を取ってほしい (82.7%) 安定した職業についてほしい (82.3%) と続いていることが分かる これらの結果から 親が自分の子どもの職業に望むこととして 最も一般的な感じ方は何より

順天堂大学スポーツ健康科学研究第 7 号 (2003) external feedback) といった内的標準を利用した情報処理活動を促進することを意図したものであった. 上記のように, 運動学習におけるフィードバックの研究は, フィードバックそのもののみに焦点が当てられてきた. そこで, 学習場面

雑貨・インテリア店の利用に関する 調査結果

8 A B B B B B B B B B 175

体の 6 割 (60.3%) にとどまり 101 人以上の中 大規模企業の割合が多くなっている 図表 Ⅱ 従業員数 1001~ 人以下 31~50 人 51~100 人 101~300 人 301~500 人 501~1000 人人 5000 人以上不明 度数

228102法政大学_体育スポーツ研究センター_紀要.indb

第2回「離婚したくなる亭主の仕事」調査

Transcription:

( 別刷 ) 相良順子伊藤裕子 生涯学習研究 聖徳大学生涯学習研究所紀要 第 16 号別冊 2018 年 3 月

就業形態による差異 要旨 本研究は,40 代と 50 代の中年期の女性を対象として, 就業形態によるジェネラティヴィティにおける差異および達成動機との関連における差異を検討した ジェネラティヴィティを構成する世代性意識と社会貢献の意志の 2 つの下位尺度についてフルタイム, パート, 無職の3つの就業形態別の差を検討したところ, 世代性意識はフルタイムがパートや無職の場合よりも高く, フルタイムにおいて, 世代性意識と達成動機との関連が強かった 社会貢献の意志は無職がパートやフルタイムより高かった しかし, これらの差異よりも, 達成動機との強い関連が示され, ジェネラティヴィティにおける内的な動機づけの重要性が示唆された ジェネラティヴィティ (generativity) とは,Erikson (1950) によって 次世代を確立させ導くことへの関心 と定義され, 心理 社会的発達段階のうちの中年期の課題とされている 近年, 中年期は 30 代から 50 代くらいまでのおよそ 30 年間という長い期間となり, 親として社会人として多様な社会的役割を持つ時期である 生涯発達の視点では, 中年期は, 次世代を育成しつつ, 社会的な役割を果たしながらいかに自己を成長させるか, 他者との関係性をつくっていくかが重要となる時期といえる McAdams & de St. Aubin (1992) は, ジェネラティヴィティを構成する概念モデルを提唱し, そのモデルにおいては, 人は自己を向上させようとする自己発展的な内的希求 (inner desire) と社会的役割を通じて期待される文化的要請 (cultural demand) に動機づけられ, ジェネラティヴィティへの関心を高め, 行動へと向かうとされる 文化的要請という観点から中年期の人々について考えてみると, 男女で大きく異なる わが国では今日なお男性は家族を養う者として仕事をもつことが強く期待されている一方で, 女性は, 仕事だけでなく, 子育てや家事の責任を持つことも期待されている 相良 伊藤 (2017) は,40 代, 50 代のジェネラティヴィティが 世代性意識 と 社会貢献の意志 の2 因子構造であることを示し, 男性は 世代性意識 が女性より強く, 社会貢献の意志 は女性の方が強いという男女差があることを報告している 世代性意 識 は, たくさんの人に影響を与えていると感じる 人に教えてあげたいような経験やコツがある というように社会における自己の存在意義を, 社会貢献の意志 とは, 募金やボランティアをするという社会へ貢献したいという意志を表している しかし, 相良 伊藤 (2017) の結果が示すジェネラティヴィティのジェンダー差がジェンダーの何を指しているのかは明らかではない たとえば, わが国の男性と女性は, その就業形態が大きく異なる 男性の多くがフルタイムで働いている一方で女性の就業形態は様々である 特に, 子育てを終えた中年期の女性の就業形態は多様である 専業主婦として成人期以降を過ごしたり, 子どもから手が離れるころに家庭の外の仕事についたり, さらに子育てと両立しながら仕事を継続する者もいる その多様な就業形態に対し社会的な役割期待が異なるため, ジェネラティヴィティにおける差が生じることが予想される たとえば, フルタイムで働く女性には, 仕事上での役割が期待され, 専業主婦の女性には, 子育てを終了した年代として, 地域社会的な活動などが期待されるだろう それによって, ジェネラティヴィティも異なることが予想される このように, 女性が多様な就業形態をもつ現在の社会において, ジェネラティヴィティにおけるジェンダー差の意味を検討することは意義のあることと考える そこで本研究では, 多様な社会的役割をもつ中年期の女性に絞り, ジェネラティヴィ 1

ティの個人差に, 就業形態の違いがどう寄与するのかを検討したい ところで, ジェネラティヴィティへのもう一つの動機づけである内的希求については,McAdams & de St. Aubin (1992) によれば, 個体性への欲求と関係性への欲求から成るとされている 本研究では, 中年期の既婚女性で子育てを終えた人を対象としているため, 関係性への欲求はある程度充足されていると考え, 個体性への欲求に注目する その場合, ジェネラティヴィティは, 個体性という自己発展的な欲求の強さが影響するのか, それとも就業形態のような社会的役割を通して期待されることの影響か, あるいは両者の交互作用なのかこの点を明確にする必要があると考える たとえば, わが国の中年期の専業主婦とフルタイムの女性を比較してみると, フルタイムの女性は, そもそも個体性への欲求がより強いために, フルタイムの仕事を選んだことが考えられる つまり, 個人が持っているもともとの個体性への欲求の強さによって職業選択がなされている可能性が考えられ, 社会的役割そのもの, あるいはその役割を通じて期待される効果があるのか否か, この点を明確にする必要があると考える 本研究では, 個体性への欲求として, 堀野 森 (1991) の充実的達成動機を指標とする 充実的動機とは, 社会的に価値が不明とされていても, 個々人においては重要な価値をもつものに対し, 達成しようとする人間の根源的な欲求であり ( 堀野,1994), 中年期のジェネラティヴィティという自己発展的な性質を含む概念とほぼ同じ概念とみなすことができる 以上の点から本研究は, 相良 伊藤 (2017) の 40 代 50 代の中年期のデータのうち, 女性のみを対象にしてその就業形態によるジェネラティヴィティの違いを達成動機との関係と合わせて検討することを目的とする 方法調査対象と方法 本研究は, 相良 伊藤 (2017) の研究で使われた 40 代, 50 代の中年期の男女データから女性のみ 362 名を本研究の対象者とした 調査は 2013 年 6 月と 10 ~ 11 月に実施された 分析対象者の属性年齢は 40 50 代で, 平均年齢は 48.5 歳 (SD 4.2), 就業形態は, 最も多いのはパート アルバイト ( 以下, パート ) の 53.6%, 次いでフルタイム 23.2%, 無職 専業主婦 ( 以下, 無職 )19.6% であった 有職者の職種は, 専門 技術 職 29.8%, 販売 サービス職 28.5%, 事務 営業職 22.0%, 技能 労務職 17.7%, 管理職が1% であった なお, 本研究での分析対象者は, 就業形態がフルタイム, パート アルバイト, 無職と分類できる計 332 名とした なお, 人数は欠損値のため分析によって異なった 分析の測度ジェネラティヴィティ相良 伊藤 (2017) が田渕 中川 権藤 小森 (2012) の尺度を因子分析した結果, 世代性意識 社会貢献の意志 の 2 因子が抽出されている 世代性意識 は, たくさんの人に影響を与えていると感じる 人に教えてあげたいような経験やコツがある というように社会における自己の存在意義を, 社会貢献の意志 とは, 募金やボランティアをするという社会へ貢献したいという意志を表している 達成動機堀野 森 (1991) による 自己充実的達成動機 13 項目のうち負荷量の低い1 項目を除いた 12 項目 (5 件法 ) を用いた 結果 本研究での分析は, 基本的に SPSS 22 を用いた ジェネラティヴィティ尺度欠損値のない 315 名を対象に相良 伊藤 (2017) の因子構造にもとづき確認的因子分析を行ったところ,GFI =.846,GFI =.849,REMSEA =.086 であり, 受容できる水準にあると考えられた 達成動機尺度の検討堀野 森 (1991) は大学生を対象としているので, 本研究ではあらためて 自己充実的達成動機 12 項目について, 主成分分析を行った その結果, 人に勝つことより, 自分なりに一生懸命やることが大事だと思う の負荷量が 0.4 であったが, それ以外は 0.6 以上であり, 全分散 50.3% で 1 成分にまとまることが示された したがって, この項目を削除した 11 項目の合計を達成動機得点とした α 係数は.900 と十分高かった ジェネラティヴィティと達成動機の就業形態別平均と SD ジェネラティヴィティの2 因子 世代性意識 と 社会貢献の意志 に属する項目の合計をそれぞれの下位尺度得点とし, 達成動機とあわせて就業形態別の平均値と標準偏差を Table1 に示した 次に, 就業形態での差異を検討するため, ジェネラティヴィティの下位尺度に対し, 分散分析を行った結果, ジェネラティヴィティの 世代性意識 において, 就業形態で差異が有意にみられ ( F(2,312)= 6.12,p<.01),Tukey 法による下位検定の結果, フルタイ 2

Table1 就業形態別ジェネラティヴィティの下位尺度および達成動機の平均値 (SD ) フルタイム ( n=77) パート ( n=190) 無職 ( n=65) 世代性意識 3.21(0.63) 2.97(0.60) 2.80(0.74) 社会貢献の意志 3.65(0.59) 3.63(0.58) 3.70(0.65) 達成動機 3.83(0.49) 3.79(0.59) 3.64(0.72) ムの得点が, パートと無職よりも有意に高かった 社会貢献の意志 では就業形態による差はみられなかった ジェネラティヴィティと達成動機との関連ジェネラティヴィティと達成動機との相関係数を算出したところ, 世代性意識 と自己充実的達成動機は.556 ( p<.001), 社会貢献の意志 とでは,.573( p<.001) と高い相関が得られた ジェネラティヴィティの階層的重回帰分析次に, ジェネラティヴィティの下位尺度を目的変数とする階層的重回帰分析を行った まず,step1 で年齢, 学歴, 家計収入の3つのデモグラフィック要因を投入,step2 で達成動機と 3 種類の就業形態のうちフルタイムを1, パートタイムを1とするダミー変数を投入し,step3 ではダミー変数と達成動機との交互作用項を投入した結果を Table2 に示す 世代性意識 においては,step2 で達成動機とフルタイムが,step3 で年齢および達成動機とフルタイムに加えて, フルタイムと達成動機との交互作用の弱いが有意な係数が得られた このことから, ジェネラティヴィは, 無職やパートタイムよりフルタイムという就業形態において, 達成動機が高い者ほど 世代性意識 が高くなるということが示された 一方, 社会貢献の意志 については, step3 で達成動機には正の, フルタイムとパートに負の有意な係数が得られたが, 交互作用はみられなかった 以上の結果から, ジェネラティヴィティの 世代性意識 および 社会貢献の意志 の両方について, 達成動機を統制しても就業形態により規定される部分があることが明らかになった 考察 本研究では,40 代 50 代の中年期女性を対象に, その就業形態によりジェネラティヴィティが異なるのかを検討した McAdams & de St. Aubin (1992) のジェネラティヴィティへの関心のモデルにもとづき, ジェネラティヴィティは, 文化的要請と内的欲求との相互作用であるという観点から, 内的欲求として, 達成動機を取り上げた 分析としては, 従属変数をジェネラティヴィティの 世代性意識 と 社会貢献の意志 とし, 独立変数を就業形態として検討した その結果, ジェネラティヴィティの 世代性意識 は, パートや無職よりフルタイムが高いことが示された一方, 社会貢献の意志 は就業形態による明確な差異は見られなかった この結果から, まず, 相良 伊藤 (2017) の研究で報告されている 世代性意識 が男性の方が女性より高く, 社会貢献の意志 は女性が高いというジェンダー差は, 少なくとも 世代性意識 ではフルタイムで働く者の男女比率の違いである可能性が考えられる つまり, フルタイムで働く者はジェンダーにかかわらず 世代性意識 が高いと考えらえる 一般的にフルタイムの場合は, 職場で自己の存在意義を認識する機会が多いのかもしれない 第 2 点は, 本研究での 世代性意識 は, フルタイムで働く者の達成動機の高さに反応しやすい測度であるという点である これは, 尺度の特徴ともいえる また, 階層的重回帰分析では, 世代性意識 においては, フルタイムと達成動機との交互作用がみられた これ Table 2 ジェネラティヴィティの階層的重回帰分析結果 世代性意識 社会貢献の意志 step1 step2 step3 step1 step2 step3 年齢.083.089.095*.032.003.004 学歴 -.011 -.029 -.034 -.047 -.051 -.053 家計収入.086.019.024.068.025.026 達成動機.565***.459***.588***.551*** フルタイム.193***.191** -.135* -.135* パート.094.105 -.133* -.130* フル 達成動機.138*.03 パート 達成動機.067.004 R 2.016.367.379.007.338.351 R 2.351***.012*.343***.001 注 ) 数値は標準偏回帰係数 p<.10 *p<.05,**p<.01 ***p<.001 3

は, フルタイムにおいては, 達成動機の強さがより 世代性意識 の高さに反映されるということを意味している 一方, 社会貢献の意志 については, 就業形態と達成動機の交互作用はみられず, 達成動機の影響が就業形態により異なることは見出されなかった 以上から,McAdams & de St. Aubin (1992) のモデルの用語を使えば, 達成動機としての内的希求は, 個人の社会的役割を反映した方向へ向くともいえるだろう つまり, フルタイムで働く中年期の女性の内的希求は仕事を通じて世代性への関心を高めているといえる しかしながら, 就業形態自体は, ジェネラティヴィティを規定する要因としては小さく, 自己充実的達成動機ほど強いものではなかった したがって, ジェネラティヴィティにおける個人差は, 社会的役割の影響よりも, 自己成長への欲求すなわち自己の目標を達成しようとする達成動機という欲求によって規定される部分が大きいことが示唆された 今後の課題として, ジェネラティヴィティの尺度は, 数多くあり, その質問の仕方もさまざまであることから, 他の尺度により就業形態の違いを検討することで本稿の結果が一般的にいえるのかどうかさらに吟味する必要があるだろう また, 女性の家庭外の役割として就業形態に加え, 仕事以外の社会的活動によるジェネラティヴィティの関連も検討する必要があると考える さらに, 本研究は, 既婚女性で子どもをもつ女性が対象であったため, 個体性への欲求 をとりあげたが, もう一つの欲求である 関係性の欲求 についても, 幅広い立場の女性を対象として検討することが必要となろう ヴィティの構造とジェンダー差パーソナリティ研究,26, 92-94. 田渕恵 中川威 権藤恭之 小森昌彦 (2012). 高齢者における短縮版 Generativity 尺度の作成と信頼性 妥当性の検討厚生の指標,59, 1-7. 引用文献 Erikson,E.H. (1950).Childhood and society. NY : W. W. Norton & Company( エリクソン,E.H. 仁科弥生 ( 訳 ) (1977). 幼児期と社会 Ⅰ みすず書房 ) 堀野緑 (1994). 達成動機の心理学的考察風間書房 pp.1-19. 堀野緑 森和代 (1991). 抑うつとソーシャルサポートとの関連に介在する達成動機の要因教育心理学研究,39, 308-315. McAdams, D.P., & de St. Aubin, E. (1992).A theory of generativity and its assessment through self-report, behavioral acts and narrative themes in autobiography. Journal of Personality and Social Psychology, 62, 1003-1005. (2017). 中年期におけるジェネラティ 4