長野県環境保全研究所研究報告 4:87-91(2008) 資料 長野県環境保全研究所飯綱庁舎敷地の鳥類相 1 堀田昌伸 1996 年から 2007 年にかけて, 長野県環境保全研究所飯綱庁舎の敷地で 163 日, 鳥類相を調査し,26 科 74 種の鳥類を確認した. 繁殖のために夏鳥が渡来する 4

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第1章 高病原性鳥インフルエンザ発生の概要

ヌギ, イヌシデなどの落葉広葉樹に, スギなどの針葉樹が混じっている. 林床は一部が公園化されているため, アズマネザサなどに覆われた地域はおよそ半分ほどである. 成顕寺の森は, 流山市駒木にある社寺林であり, 面積は約 1haである. シラカシを中心とする常緑広葉樹とサクラ, ケヤキなどの落葉広葉

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万博公園探鳥会2012年度の記録

2.6 動物 調査手法別鳥類確認種一覧 表任意観察調査によって確認された種一覧 (1) 渡り 目名科名種名学名生活型区分 任意観察調査 第 3 期区域 開発済区域 周辺区域 冬季春季夏季秋季冬季春季夏季秋季冬季春季夏季秋季 1 キジ キジ ヤマドリ Syrmaticus soemmerr

柳町 邦光 図 1. 調査地および拡大図 繁殖期を過ぎた夏季および積雪で餌の少なくなる冬季には, これらが減少する傾向にある ( 例えば柳町, 2011). これらの諸点を踏まえ, 本研究では秋季と春季に行った. 秋季は夏鳥が南の地域への渡去を始める 9 月から, 冬鳥が渡来して里山に定着する12

(7) 鳥類 調査は 6 月 9~10 月 1 月に実施した 調査は 対象地区の面積 地形を考慮して決定した定量 的観察 ( ルートセンサスまたは定点観察 ) と 調査範囲を任意に踏査して出現種を記録する任意観察の2 手法によって出現種の把握に努めた また 調査実施時には 主に植生の違いを考慮した環

第5章 調査方法

福井県総合グリーンセンター公園における鳥類相

SG A-16013

2002年度

表 1 竜西地区で観察された鳥類種 番号 RDB 観察種名 個体数観察回数 番号 RDB 観察種名個体数観察回数 1 アオゲラ シメ アオサギ ジュウイチ アカゲラ スズメ アカハラ

1 ほ乳類 浅間山の動物 南アルプスの ニホンジカ (1) ニホンカモシカ ウシ科 ( 離山 ) 人を見ても逃げなくなっている ( 南アルプス北沢峠 ) 日本固有のカモシカで 本州 四国 九州の山地にのみ分布しています 主に標高 1000m 以上の山林に暮らし

中宮展示館周辺で観察された鳥類の記録

技術発表 (2) FS センターに飛来する野鳥の種類 - 果樹園での自然共生型の鳥害対策を目指して - 農学部高橋是成

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目科種類発見月日発見場所備考 タカ目ブッポウソウ目 タカ科カワセミ科 イヌワシ Aquila chrysaetos アカショウビン Halcyon coromanda カワセミ Alcedo atthis 7 月 9 日 雷鳥沢上空 目撃 5 月 30 日 山崎カール 羽毛採取 5 月 14 日 室

札幌大学総合論叢第35号

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プレスリリース 独立行政法人国立科学博物館 公益財団法人山階鳥類研究所 平成 26 年 6 月 24 日 日本産鳥類の種数が分類学上大幅に増加する可能性を示唆 - 日本繁殖鳥類 234 種の DNA バーコーディングが完成し データベースが公開されました - この度 日本繁殖鳥類の DNA バーコー

26 アカハラスズメ目ヒタキ科本土部伊豆諸島日中日露種アカハラの亜種 27 アカハラダカタカ目タカ科 1998 年版目録に記載なし 28 アカハラツバメスズメ目ツバメ科伊豆諸島日米日豪日中日露種ツバメの亜種 29 アカマシコスズメ目アトリ科伊豆諸島日中種アカマシコの亜種 30 アカモズスズメ目モズ科

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トヨタ自動車新研究開発施設に係る 環境調査報告書 ( 平成 28 年次版その 2) 資料編 目 次 1 鳥類の月別確認状況 鳥類のセンサス結果 昆虫類確認種リスト 底生動物確認種リスト クモ類確認種リスト 植物確認種リスト.

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目 科 種類 発見月日 発見場所 備考 6 月 22 日 エンマ台 目撃 7 月 2 日 ミドリガ池上空 目撃 7 月 11 日 祓堂上空 目撃 7 月 12 日 浄土山上空 目撃 7 月 13 日 大谷上空 2 羽 目撃 7 月 14 日 室堂平上空 2 羽 目撃 7 月 18 日 国見岳上空 2

吉田裕樹・石川康裕・佐藤友哉・馬場好一郎・藤吉正明:秦野市弘法山公園において2006年から2008年までに観察された鳥類

見られた種一覧 1 / 5 ページ 6 調査データ集計 1 平成 26 年度調査で見られた種 208 種 ( 野生化した外来種 4 種を含む ) 分類 掲載順は日本鳥類目録改訂第 7 版に準拠する ( リストIDも同目録で付与されたもの ) レッドリスト 目 科 種 学名 リスト ID 環境省第 4

H30 秋第 2 号平成 30 年 10 月 16 日現在 10/14( 日 ) 風もなく穏やかな一日 個体数は少なく 鳥がいないが ウグイス アオジ アトリ オオルリ キビタキなどは増えた カラフトムジセッカも複数いるようだ キマユムシクイ 1 ムギマキ 5(2 の畑 ) コホオアカ 2 オジロビ

Strix Vol. 27, pp , 2011 Journal of Field Ornithology Wild Bird Society of Japan 41 繁殖期において同所的に観察されやすい森林性鳥類種の組み合せ 福井晶子 1 安田雅俊 2 1 金井裕 1. 日本野鳥の会自

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岡久雄二 佐々木礼佳 大久保香苗 東郷なりさ 小峰浩隆 高木憲太郎 森本元 Ⅱ 方法 1 調査地調査は山梨県南都留郡にある富士山原始林に設定した約 80ha の調査地 ( N E 標高約 1140m) で行った 調査地の植生は常緑針葉樹林と落葉広葉樹林の二つに明瞭に区分され

最初にオスが羽化して、続いてメスが羽化する

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14. ツグミ - スズメ目ツグミ科冬鳥学名 :Turdus naumanni ムクドリほどの大きさの冬鳥である 体の上面は褐色で 腹部は白で多数の黒い斑紋がある 顔は黒褐色で眉斑と喉から首筋にかけての線が白い ( 写真 -24) ロシアなどから秋に冬鳥として日本全国に渡ってくる 比較的開けた草地や

日緑工誌,J. Jpn. Soc. Reveget. Tech., 42(1),62-67,(2016) 論論文文 ORIGINAL ARTICLE 広域的視点による都市および近郊農業地の土地利用状況と鳥類との関係 濱田梓 *1) 福井亘 1) 水島真 2) 瀬古祥子 1) 1) 京都府立大学大学院

BWG NO.: 遠江の鳥バードウォッチングガイド静岡県西部の身近な探鳥地 の探鳥地番号です 御前崎海岸探鳥会 ( 御前崎市 ) 9/11( 日 ) 難易度 BWG No.40 御前崎海岸大海原を望みながらの探鳥会です 沢山のシギ チドリが見られるでしょう クロサギ オオミズナギドリに出会えるといい

鹿児島県立博物館研究報告 ( 第 30 号 ):59 64,2011 奄美諸島喜界島の鳥類相 * 濱尾章二 ** 鳥飼久裕 *** The avifouna of Kikai-jima Island of the Amami Islands* Shoji HAMAO** and Hisahiro T

2015 年度横浜自然観察の森 調査報告 21 ( 公財 ) 日本野鳥の会

モニタリングサイト 1000 陸生鳥類調査情報 2018 年 9 月号 Vol. 10 No. 1 日本の国土は 亜寒帯から亜熱帯にまたがる大小の島々からなり そこには屈曲に富んだ海岸線と起伏の多い山岳など変化に富んだ地形や各地の気候風土に育まれた多様な動植物相が見られます モニタリングサイト 10

平成25年度

目 黒 区 の 環 境 目 黒 区 全 域 に 広 がる 住 宅 地 には 大 小 さまざまな 緑 地 が 見 られます 庭 木 として 多 種 の 樹 木 が 植 えら れた 植 え 込 み 花 壇 や 菜 園 草 地 のほか 地 面 の 乾 湿 や 日 照 の 差 異 など 身 近 な 生 物

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シジュウカラ第89号

表紙の写真メダイチドリとトウネン (2015 年 5 月藤前干潟 ) 写真提供東海 稲永ネットワーク

表紙の写真メダイチドリとトウネン (2015 年 5 月藤前干潟 ) 写真提供東海 稲永ネットワーク

出現率 ( %) モニタリングサイト 1000 陸生鳥類調査情報 Vol. 6 No ウグイス シジュウカラ ヤマガラ コゲラ 図 1. 各種鳥類の出現率の順位の年変動 て示してい

地熱部会補足説明資料目次 1. 硫化水素の予測評価について 3 2. 地盤変動について 4 3. 事前調査結果を踏まえた現存植生図について 6 4. 生態系の注目種の選定について 生態系の評価について

1. 特別保護地区の概要 (1) 特別保護地区の名称 やんばる ( 安田 ) 特別保護地区 (2) 特別保護地区の区域 沖縄県国頭郡国頭村所在国有林安田事業区 40 林班 41 林班に小班及び 4 5 林班い小班の区域 (3) 特別保護地区の存続期間 平成 21 年 11 月 1 日から平成 41

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121022資料1さっぽろビジョン(素案)

2002年度

50 名古屋の野鳥

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2002年度

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我孫子市鳥の博物館調査研究報告 表 1. Vol.21 No ヒガラ シジュウカラが虫こぶの採食をしていた観察記録. Table 1. Observations coal tit and japanese tit feed on the leaf galls. 図 1. シロダモの

八王子市犬目の野鳥 20 年間の観察記録 (1989 年 9 月 ~2009 年 12 月 ) 吉邨隆資 1. はじめに犬目は 八王子市の北方に位置した丘陵地帯です この地での野鳥調査は 1975 年工学院大学自然科学研究部の活動として始めました 途中長期に活動を中断していましたが 1989 年より

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長崎県の鳥類 40 長崎県産鳥類の年間生息状況 種名 チゴモズ モズ アカモズ タカサゴモズ オオモズ オオカラモズ 亜種名 1 月 上旬 72 中旬 39 下旬 月 上旬 31 1 中旬 下旬 23 3 月 上旬 21 中旬 29 下旬 36 4 月 上旬 9 中旬 1

平成18年度

近岡勝夫さんにぎ 12 月のそうか公園は相変わらず水鳥達で賑わいを見せているが 目当ての野鳥 ( キクイタダキ オ ジロビタキ ルリビタキ雄など ) 今年も未だ見られず そんな状況なので仲間との雑談の時間が多くなっめったてしまう それを察してか? ある日 この時季滅多に姿を見せないウグイス ( 写真

(様式2)

ようこそ! 近郊自然歩道へ 歩き始める前に 周囲を山に囲まれ 街中にも緑あふれる盛岡市 市内の丘陵地や郊外の低山へ足を運ぶと 新緑 紅葉 花や鳥のさえずりを楽しむのに最適な散歩道が随所にあります 近郊自然歩道は そのような中から盛岡市が昭和 (1) 年にコース設定を行い 市民の方々が気軽に散策できる

奈良県森技セ研報 No.42 (2013) 11 自動撮影カメラで確認された吉野郡黒滝村赤滝の森林の哺乳類相と鳥類 若山学 田中正臣 吉野郡黒滝村赤滝の森林において 自動撮影カメラを用いて哺乳類相と鳥類の調査を行った 調査期間内に撮影された哺乳類は タヌキ ツキノワグマ テン アナグマ イノシシ ニ

Microsoft Word _☆●鳥類

40 周年誌支部報索引 タイトル執筆 ( 撮影 ) 掲載年月 [1] 巻頭言 提言に相当する記事 巻頭言 新年のごあいさつ 丸山健司 巻頭言 お久し振り 成田和彦 津山市の風力発電施設建設について 丸山健司 岡山市の鳥 タンチョウ推薦への動きを考える 丸山健

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バードウォッチングへの誘い27 ( 夏休み企画 Ver) 高らかに宣言しよう! 恐竜は鳥も同然である! と! シソチョウ 鳥の祖先は恐竜であるという仮説が提唱され 近年発見された化石から羽毛が見つかったことで恐竜から鳥への進化は定説となりました Raptor は猛禽類と恐竜を表すラテン語であることに

平成 25 年度東京都内湾水生生物調査 6 月鳥類調査速報 実施状況 平成 25 年 6 月 10 日に鳥類調査を実施した 天気は曇 気温 24.0~25.3 東南東 ~ 南南西の 風 風速 1.9~2.9m/s であった 当日は大潮で 潮位は 11 時 58 分干潮 (18cm) 18 時 26

< 目次 > 1 はじめに 今回の熊本県における発生及び防疫対応の概要 ) 疑似患畜の確認 ) ウイルスの同定 ) 防疫対応 ) 発生状況及び清浄性の確認調査 ) 関係機関との連携 民間団体等の協力 ) 国際獣疫事

スタジアム通り第 2 エリア 神宮外苑の鳥類相 朝 6 分間のバードウォッチングから 47 至新国立競技場 ( 建設中 ) 日本青年館 神宮球場 國學院高等学校 第 3 エリア 校庭 都立青山高校 P TEPIA 秩父宮ラグビー場 外苑前駅出口 至イチョウ並木青山一丁目 第 1 エリア 青山通り 至

平成 28 年度 北海道横断自動車道 ( 音別阿寒間 ) における工事前 ~ 供用後の猛禽類生息状況評価 別紙 2 釧路開発建設部釧路道路事務所計画課 山田友也片井浩太谷内敬功 北海道横断自動車道 ( 音別 ~ 阿寒間 ) では 路線周辺に生息するクマタカ オジロワシ等に配慮を行いながら工事を実施し

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巴川流域

図 Ⅳ-1 コマドリ調査ルート 100m 100m 100m コマドリ調査ルート 図 Ⅳ-2 スズタケ調査メッシュ設定イメージ 17

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スライド 1

スライド 1

同窓生の軌跡 四季の野鳥 第 2 回 機械工学科第 1 期生 崖登司之 今回は 夏の野鳥 について紹介しますが 最初に野鳥の渡りについて簡単に紹介し 次に野鳥にと って最大の活動期となる春 ~ 夏の繁殖期の様子 ( さえずり 夏羽 求愛ダンス 求愛給餌 巣作り 抱卵 巣立ち ) を紹介 そして この

資料 1 五智公園自然環境保全地域 の概要 ( 案 ) 1 自然環境保全地域の名称 五智公園自然環境保全地域 2 自然環境保全地域に含まれる土地の区域 五智公園一帯約 22 ヘクタール 3 自然環境保全地域の指定の理由 五智公園は 上越市街地の北西部に位置する日本海に近い里山を利用した公園である 公

(11) 主要機器 計測及びデータ作成に使用した機器は下表のとおりである 表 Ⅱ-5-(11)-1 主要機器一覧 作業工程 名称 数量 計測 撮影用固定翼機レーザ測距装置 GPS/IMU 装置 セスナ社製 208 型 LeicaGeosystems 社 ALS70 LeicaGeosystems 社

変化に伴って植生がどのように変化してきたのか. また, 現在の植生にどのように影響を与えているのかを知ることが二次林の適切な保全対策を考える上で重要であると考えられる. 本研究では,1) こんぶくろ池周辺における過去の森林の取り扱いの履歴を復元し, それが現在の森林構造にどのように反映しているのかを

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Ⅵ-1写真集_鳥類_

1 朝 霞 市 緑 化 推 進 条 例 朝 霞 市 緑 化 推 進 条 例 昭 和 64 年 1 月 6 日 条 例 第 3 号 ( 目 的 ) 第 1 条 この 条 例 は 市 内 の 緑 地 の 保 護 及 び 緑 化 の 推 進 に 関 し 必 要 な 事 項 を 定 めることにより 市 民

(1) (2) (3) (4) (5) 2.1 ( ) 2

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長野県環境保全研究所研究報告 4:87-91(2008) 資料 長野県環境保全研究所飯綱庁舎敷地の鳥類相 1 堀田昌伸 1996 年から 2007 年にかけて, 長野県環境保全研究所飯綱庁舎の敷地で 163 日, 鳥類相を調査し,26 科 74 種の鳥類を確認した. 繁殖のために夏鳥が渡来する 4 月 6 月に種数は増加したが, 冬季の種数は低かった. キーワード : 鳥類相, 敷地, 飯綱高原, 環境保全研究所, 長野市 1. はじめに長野県環境保全研究所飯綱庁舎の敷地 ( 約 15ha) には自然観察路が整備され, 開設以来, 研究所が主催する観察会や環境学習の場として利用されている. その基礎資料や研究対象として, 敷地に生息 生育する生物相のインベントリー 1), 2) やモニタリ 3), 4) ング, 森林構造の解析などがおこなわれている. それらの一環として敷地の鳥類相について調査したので, その結果について報告する. 2. 調査地の概要と調査方法敷地は, 長野市北西部, 飯縄山 ( 標高 1,917m) 南東麓の標高 970 1150m の緩斜面にあり, 飯綱高原の一部に位置する ( 図 1). 気候は冬季降水量の多い日本海型を示し, 年平均気温 8.4 (2003 年 12 月 2004 年 1 月 ), 最大積雪深は 146cm(2002 年 3 月 13 日 ) である 5).1950 年代の拡大造林などにより 40 50 年生のカラマツ Larix kaempferi の植林が卓越している. 林内には湧水や小さな沢が多くあり, 谷部ではハンノキ Alnus japonica やオニグルミ Juglans ailanthifolia, ヤチダモ Fraxinus mandshurica を主とする湿地林, 尾根上や谷の斜面ではミズナラ Quercus mongolica var. grosseserrata やコナラ Q. serrata, シラカバ Betula platyphylla var. japonica 等の落葉広葉樹二次林などが, カラマツ植林地にモザイク状に入り込み, 鳥類の生息にとって多様な環境が形成されている. 旧長野県自然保護研究所 ( 現長野県環境保全研究所飯綱庁舎 ) が開所した 1996 年から 2007 年までの 11 年間に 163 日, 敷地の観察路や飯綱庁舎の窓から, 双眼鏡や望遠鏡で鳥を見たり, 鳥の囀りや地鳴きを聞くことで, 出現した鳥を記録した. これらの結果をもとに, 敷地の鳥類相についてその目録を作成するとともに, その特徴について考察した. 図 1 調査地 ( 実線枠内 ) 1 長野県環境保全研究所自然環境部 381-0075 長野市北郷 2054-120 87

Bull. Nagano Environ. Conserv. Res. Inst. No.4 (2008) 図 2 鳥類による敷地の利用様式と鳥類種数の季節変化各月の ( ) 内の数字は, 調査回数をを示す. 敷地の利用様式から鳥類を下記の 6 タイプに分類した. RB (Resident Breeder): 一年中敷地に生息し繁殖する種, SB (Summer Breeder): 夏季, 敷地に渡来し繁殖する種, SV (Summer Visitor): 夏季, 繁殖以外の目的で敷地に渡来する種, WV (Winter Visitor): 敷地で越冬する種, PV (Passage Visitor): 渡りの途中などで一時的に敷地を利用する種, UN (Unknown): 不明. 化や種数は当地における鳥類の生息実態を反映した 3. 結果および考察 ものであると考えられる. 年間を通じて最も出現率の高かった種は, ヒガ 研究所飯綱庁舎の敷地では, 年間を通して 26 科 74 種の鳥類が観察された ( 図 2, 附表 1). 最も多 く観察されたのは, 夏季敷地に渡来して繁殖する 鳥 23 種 (31.1%) であり, 次いで留鳥として敷地 で繁殖する鳥 20 種 (27.0%) であった. 越冬のた めに敷地に渡来する鳥は 10 種 (13.5%) と少なかっ た ( 附表 1). この傾向を反映して, 最も多くの鳥 類種が観察されたのは 5 月の 50 種で, 以下順に 4 月の 46 種,6 月の 41 種であった ( 図 2). その他 の季節で種数が多かったのは, 渡り鳥が一時的に敷 地を利用する 11 月で 36 種であった ( 図 2). 各月 の観察日数と観察された種数の間には, 有意な正の 相関が見られた (R 2 =0.797, p < 0.001). そのため, 観察された季節変化は調査努力量を反映した結果と も考えられる. しかし, 中村浩志氏らが 1989 年 1990 年に飯綱高原全域の鳥類相を調査した結果 6), 中 村公義氏が 1980 年 1981 年, 町田喜彦氏が 1985 年 1990 年, 戸隠の森林植物園や奥社参道で鳥類の センサス調査をした結果 7) についても 4 月 6 月 の繁殖期に鳥類の種数が多くなる傾向が見られて 6) いる. また, 前述の飯綱高原全域の鳥類相の調査 では,1 年間の調査で 82 種の鳥類を確認している. その中で, 敷地にはない環境であるため池など開放 水面を利用するガンカモ類 (11 種 ) が多く確認さ ラ Parus ater (56.1%) であり, 次いで出現率の高い順から, コガラ P. montanus (51.6 %), シジュウカラ P. major (45.6%), ウグイス Cettia diphone (44.6%), コゲラ Dendrocopos kizuki (44.3%), ホオジロ Emberiza cioides (40.4%), ヒヨドリ Hypsipetes amaurotis (40.1%) の計 7 種が出現率 40% 以上を記録した. これらは二次林や人工林で比較的よく見られる種である. 繁殖期には, 上記以外の種では, キセキレイ Motacilla cinerea やクロツグミ Turdus cardis, キビタキ Ficedula narcissina, ノジコ E. sulphurata, クロジ E. variabilis などがよく観察された. この中でホオジロ科 Emberizidae の 2 種は生息環境が異なり, ノジコが湿地のハンノキ林など疎林や林縁を好むのに対し, 森林性のクロジはササなど林床植物の密な落葉広葉樹林や針広混交林を好むことが知られている 8). そのほか, 年間を通じて出現率の高かった林縁性のホオジロも生息しているなど, ホオジロ科の生息状況から見て, 敷地には多様な環境があると考えられる. 一方, 越冬期にはオオマシコ Carpodacus roseus の出現率が高かった. これは, 飯綱庁舎や駐車場の周りに植栽したハギの実をオオマシコが食べに来るためであると考えられる. れている. それらを除けば,71 種であり, 今回敷 地で確認された種数,74 種と同程度であった. 調 査地域や調査方法, 調査期間に違いがあるため単純 に比較はできないが, 今回観察された種数の季節変 4. おわりに 今回, 旧長野県自然保護研究所が開所されて以来 88

長野県環境保全研究所研究報告 4 号 (2008) の飯綱庁舎の敷地における鳥類の観察記録の中で, 現在手元に存在するものすべてをまとめてみた. 調査方法などを統一するなどして, 今後も調査を継続するとともに, 繁殖のモニタリングなどを加え鳥類相の変遷をフォローしていきたいと考えている. また, 今回の資料が敷地の観察会など, 多くの方に利用されることを期待したい. 文献 1) 藤原睦夫 (1999) 植物野外観察資料 : 長野県自然保護研究所周辺の植物相. 長野県自然保護研究所紀要 2: 123-127. 2) 大塚孝一 永井茂富 尾関雅章 ( 投稿中 ) 長野県環境保全研究所飯綱庁舎自然観察路沿いの植物相. 長野県環境保全研究所研究報告 4: 3) 井田秀行 井上雅仁 (1998) 飯縄山におけるハンノキ林の森林構造. 長野県自然保護研究所 1: 1-6. 4) 尾関雅章 大塚孝一 浜田崇 (2003) 長野市飯綱高原のカラマツ人工林の森林構造. 長野県環境保全研究所紀要 6: 45-48. 5) 浜田崇 北野聡 富樫均 (2005)2002 年 2004 年の飯綱高原における気象観測結果. 長野県環境保全研究所研究報告 2: 57-61. 6) 長野市飯綱高原自然復元基本調査委員会 ( 編 ) (1993) 長野市飯綱高原の豊かな自然復元基本調査報告書.421pp, 長野市, 長野. 7) 中村浩志 ( 編著 )(1991) 戸隠の自然.228pp, 信濃毎日新聞社, 長野. 8) 中村登流 中村雅彦 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 ( 陸鳥編 ).301pp, 保育社, 東京. Avifauna on the premises of Nagano Environmental Conservation Research Institute in Iizuna Heights, Nagano City Masanobu HOTTA Nagano Environmental Conservation Research Institute, Natural Environmental Division, 2054-120 Kitago Nagano, 381-0075 Japan Abstracts Avifauna on the premises of Nagano Environmental Conservation Research Institute was studied on 163 days, from 1996 to 2007. Seventy four bird species in 26 families were observed. The number of bird species were increased from April to June, because summer breeders visited. Key words:avifauna, Iizuna Heights, Nagano Environmental Conservation Research Institute, Nagano 89

Bull. Nagano Environ. Conserv. Res. Inst. No.4 (2008) 附表 1 環境保全研究所飯綱庁舎の敷地で観察された鳥類と各月の出現率 *(1996 年 2007 年 ) 科名 種名 月 ( 観察日数 ) 1 (19) 2 (13) 3 (24) 4 (68) 5 (48) 6 (20) 7 (15) 8 (15) 9 (15) 10 (11) 11 (28) 12 (11) 計 (287) 利用様式 ** サギ アオサギ 5.0 0.3 PV タカ ハチクマ 26.7 1.4 PV トビ 2.9 6.7 13.3 1.7 PV オオタカ 14.7 14.6 10.0 20.0 6.7 8.0 SB ハイタカ 3.6 0.3 UN ノスリ 7.7 4.4 4.2 10.0 20.0 13.3 9.1 3.6 9.1 5.6 RB サシバ 6.7 0.3 PV イヌワシ 6.7 0.3 PV キジ ヤマドリ 5.3 2.1 0.7 UN キジ 7.4 4.2 2.4 SB シギ アオシギ 7.7 0.3 WV ハト キジバト 5.3 20.8 26.5 25.0 25.0 6.7 13.3 15.3 RB アオバト 9.1 0.3 UN カッコウ ジュウイチ 12.5 5.0 2.4 SB カッコウ 20.8 35.0 5.9 SB ツツドリ 5.9 25.0 40.0 8.4 SB ホトトギス 27.1 75.0 46.7 13.3 12.9 SB フクロウ フクロウ 4.2 2.9 1.0 RB ヨタカ ヨタカ 18.8 20.0 13.3 13.3 5.9 SB アマツバメ アマツバメ 6.7 0.3 PV キツツキ アオゲラ 15.4 4.2 10.3 16.7 10.0 6.7 13.3 6.7 10.7 9.1 9.8 RB アカゲラ 5.3 7.7 37.5 51.5 33.3 30.0 6.7 13.3 9.1 14.3 26.5 RB オオアカゲラ 2.1 0.3 UN コゲラ 26.3 23.1 50.0 58.8 45.8 45.0 33.3 33.3 33.3 54.5 39.3 36.4 44.3 RB ツバメ ツバメ 4.2 5.0 6.7 13.3 2.1 SV イワツバメ 1.5 6.7 0.7 SV セキレイ キセキレイ 4.2 63.2 60.4 35.0 60.0 6.7 1.4 SB ハクセキレイ 5.3 6.7 13.3 0.3 PV セグロセキレイ 3.6 0.3 PV ビンズイ 9.1 0.3 PV サンショウクイ サンショウクイ 7.4 27.1 20.0 6.7 20.0 26.7 10.5 SB ヒヨドリ ヒヨドリ 15.8 30.8 12.5 38.2 66.7 65.0 33.3 53.3 26.7 27.3 46.4 9.1 40.1 RB モズ モズ 7.4 10.4 10.0 4.2 SB ミソサザイ ミソサザイ 10.5 7.7 33.8 16.7 10.0 9.1 3.6 9.1 13.6 RB ツグミ コルリ 52.1 25.0 13.3 6.7 11.5 SB ルリビタキ 1.5 21.4 2.4 PV ジョウビタキ 21.1 7.7 17.9 3.5 WV トラツグミ 2.1 0.3 UN クロツグミ 30.9 66.7 35.0 80.0 40.0 27.2 SB 90

長野県環境保全研究所研究報告 4 号 (2008) 附表 1 ( つづき ) 科名 種名 月 ( 観察日数 ) 計 (287) 利用様式 ** 1 (19) 2 (13) 3 (24) 4 (68) 5 (48) 6 (20) 7 (15) 8 (15) 9 (15) 10 (11) 11 (28) 12 (11) アカハラ 2.1 9.1 3.6 1.0 PV シロハラ 3.6 0.3 WV ツグミ 15.8 4.2 7.4 46.4 36.4 9.1 WV ウグイス ヤブサメ 11.8 35.4 50.0 12.2 SB ウグイス 73.5 72.9 60.0 60.0 40.0 26.7 27.3 32.1 44.6 SB メボソムシクイ 2.1 5.0 0.7 PV センダイムシクイ 10.4 5.0 2.1 SB キクイタダキ 5.3 2.9 3.6 18.2 2.1 RB ヒタキ キビタキ 5.9 47.9 55.0 33.3 15.0 SB オオルリ 2.9 31.3 10.0 6.6 SB サメビタキ 6.7 3.6 0.7 PV コサメビタキ 10.4 6.7 6.7 2.4 SB エナガ エナガ 21.1 30.8 58.3 54.4 22.9 6.7 6.7 26.7 18.2 53.6 18.2 33.1 RB シジュウカラ コガラ 31.6 30.8 66.7 69.1 58.3 30.0 6.7 26.7 53.3 54.5 67.9 36.4 51.6 RB ヒガラ 26.3 38.5 75.0 80.9 68.8 65.0 40.0 40.0 20.0 9.1 42.9 36.4 56.1 RB ヤマガラ 5.3 7.7 25.0 42.6 35.4 15.0 26.7 46.7 13.3 18.2 32.1 9.1 28.6 RB シジュウカラ 5.3 7.7 58.3 58.8 56.3 55.0 20.0 40.0 53.3 54.5 39.3 27.3 45.6 RB ゴジュウカラ ゴジュウカラ 15.8 30.8 41.7 54.4 35.4 25.0 6.7 26.7 40.0 18.2 35.7 18.2 35.2 RB キバシリ キバシリ 4.2 9.1 1.0 UN メジロ メジロ 17.6 35.4 35.0 6.7 40.0 13.3 18.2 25.0 18.8 SB ホオジロ ホオジロ 45.8 54.4 39.6 45.0 53.3 40.0 33.3 18.2 53.6 36.4 40.4 RB カシラダカ 17.6 21.4 18.2 7.0 WV ノジコ 8.8 60.4 70.0 40.0 6.7 19.5 SB アオジ 4.4 6.3 5.0 3.6 2.8 SB クロジ 5.9 29.2 40.0 26.7 26.7 7.1 12.5 SB アトリ アトリ 5.3 8.3 19.1 6.3 9.1 10.7 8.0 WV カワラヒワ 5.3 7.7 8.3 1.5 6.3 10.0 6.7 10.7 4.9 RB マヒワ 10.5 7.7 7.4 4.2 10.7 27.3 5.6 WV オオマシコ 63.2 53.8 25.0 17.6 3.6 36.4 14.6 WV ベニマシコ 8.3 5.9 14.3 18.2 4.2 WV ウソ 5.3 7.7 4.4 25.0 9.1 4.5 WV イカル 4.2 42.6 60.4 40.0 33.3 60.0 6.7 10.7 29.6 RB ハタオリドリ ニュウナイスズメ 4.2 25.0 43.8 25.0 6.7 15.7 SB カラス カケス 15.8 15.4 37.5 48.5 37.5 30.0 13.3 13.3 45.5 64.3 9.1 34.5 RB ハシブトガラス 10.5 7.7 20.8 42.6 18.8 15.0 13.3 13.3 18.2 46.4 45.5 25.4 RB 種数 23 20 23 46 50 41 32 29 24 20 36 22 74 *: 種の出現率は,(( 各月でその種を観察した日数 )X 100 )/ ( 各月の総観察日数 ) により算出 **: 敷地の利用の仕方により, 留鳥として一年中敷地に生息する鳥類 (RB), 夏季, 繁殖のために敷地に渡来する種 (SB), 夏季, 繁殖以外の 目的で渡来する種 (RV), 越冬のために渡来する種 (WV), 一時的に通過する種 (PV), 利用の仕方が不明な種 (UN) の 6 タイプに分けた. 91