第 1 章新しい数値予報モデル構成とプロダクト 1.1 モデル構成 1 数値予報課では 2006 年 3 月のスーパーコンピュータシステムの更新時に メソ数値予報モデルの解像度を水平格子間隔 10km から 5km に また 鉛直層数を 40 から 50 に向上させ また 週間アンサンブル予報モデル

Similar documents
<4D F736F F D20375F D835F834E836782C6947A904D B838B2E646F63>

予報時間を39時間に延長したMSMの初期時刻別統計検証

風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

付録B 統計的検証で利用される代表的な指標

.. 9 (NAPS9) NAPS km, km, 3 km, 8 (GSM) 64 : / 64 : / 64 : / (UTC) (UTC) (, UTC) 3 : 3 / 3 : 3 / 3 : / (, 6, 8UTC) (, 6, 8UTC) (6, 8UTC) 4 km,

天気予報 防災情報への機械学習 の利 ( 概要 ) 2

Microsoft PowerPoint nakagawa.ppt [互換モード]

2016 年 5 月 17 日第 9 回気象庁数値モデル研究会 第 45 回メソ気象研究会第 2 回観測システム 予測可能性研究連絡会 気象庁週間アンサンブル予報 システムの現状と展望 気象庁予報部数値予報課 太田洋一郎 1

Microsoft PowerPoint _HARU_Keisoku_LETKF.ppt [互換モード]

An ensemble downscaling prediction experiment of summertime cool weather caused by Yamase

第3章 アプリケーション

平成14年4月 日

気象庁数値予報の現状と展望 再生可能エネルギー発電導入のための気象データ活用 ワークショップ 2014 年 3 月 25 日 気象庁予報部数値予報課数値予報モデル開発推進官多田英夫 1

専門.indd

講演の内容 概要部内試験運用中のメソアンサンブル予報システムの概要及び予測事例 検証結果を紹介するとともに今後の開発について紹介する 内容 1. メソアンサンブル予報システムの概要 2. アンサンブルメンバーの予測特性 3. 検証 4. まとめと今後の開発 参考文献 数値予報課報告 別冊第 62 号

< B8C608EAE B835E947A904D88EA C2E786C7378>

Microsoft Word - 2.4_メソ予報GSM境界事例_成田_PDF01).doc

< F2D81798B438FDB817A95BD90AC E93788EC090D1955D89BF>

数値予報とは 2

気象庁の現業数値予報システム一覧 数値予報システム ( 略称 ) 局地モデル (LFM) メソモデル (MSM) 全球モデル (GSM) 全球アンサンブル予報システム 全球アンサンブル予報システム 季節アンサンブル予報システム 水平分解能 2km 5km 約 20km 約 40km 約 40km(1

再生可能エネルギーとは 国際エネルギー機関 (IEA) 再生可能エネルギーは 絶えず補充される自然のプロセス由来のエネルギーであり 太陽 風力 バイオマス 地熱 水力 海洋資源から生成されるエネルギー 再生可能起源の水素が含まれる と規定されています エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利

平成 29 年度 融雪期の積雪分布推定と流入量予測の精度向上に向けた検討について 札幌開発建設部豊平川ダム統合管理事務所管理課 高橋和政窪田政浩宮原雅幸 融雪期のダム管理では 気象予報と積雪水量から流入量予測を行うことで融雪出水に備えているが 現状用いるデータは広範囲な気象予報と一部の地点での積雪観

気象庁 札幌管区気象台 資料 -6 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 平成 29 年度防災気象情報の改善 5 日先までの 警報級の可能性 について 危険度を色分けした時系列で分かりやすく提供 大雨警報 ( 浸水害 )

Microsoft Word - 0_0_表紙.doc

<4D F736F F D20322E325F8BF388E68E E9197BF81698DC58F498D65816A2E646F63>

スライド 1

JMA Numerical Analysis Systems

図 1 COBE-SST のオリジナル格子から JCDAS の格子に変換を行う際に用いられている海陸マスク 緑色は陸域 青色は海域 赤色は内海を表す 内海では気候値 (COBE-SST 作成時に用いられている 1951~2 年の平均値 ) が利用されている (a) (b) SST (K) SST a

橡Ⅰ.企業の天候リスクマネジメントと中長期気象情

PowerPoint Presentation

平成 2 7 年度第 1 回気象予報士試験 ( 実技 1 ) 2 XX 年 5 月 15 日から 17 日にかけての日本付近における気象の解析と予想に関する以下の問いに答えよ 予想図の初期時刻は図 12 を除き, いずれも 5 月 15 日 9 時 (00UTC) である 問 1 図 1 は地上天気

Microsoft Word - 正誤表_yoshi.doc

マルチRCMによる日本域における 力学的ダウンスケーリング

Microsoft PowerPoint メソ気象研究会2017年春

PowerPoint プレゼンテーション

布 ) の提供を開始するとともに 国民に対し分かりやすい説明を行い普及に努めること 図った 複数地震の同時発生時においても緊急地震速報の精度を維持するための手法を導入するとともに 緊急地震速報の迅速化を進める 特に 日本海溝沿いで発生する地震については 緊急地震速報 ( 予報 ) の第 1 報を発表

Microsoft Word - cap5-2013torikumi

データ同化 観測データ 解析値 数値モデル オーストラリア気象局より 気象庁 HP より 数値シミュレーションに観測データを取り組む - 陸上 船舶 航空機 衛星などによる観測 - 気圧 気温 湿度など観測情報 再解析データによる現象の再現性を向上させる -JRA-55(JMA),ERA-Inter

平成 29 年 7 月 20 日滝川タイムライン検討会気象台資料 気象庁札幌管区気象台 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 大雨警報 ( 浸水害 ) 洪水警報の基準改正 表面雨量指数の活用による大雨警報 ( 浸水害 )

<8D B837D E786C73>

目次 1. はじめに 料金 価格表 最低利用料金 キャンペーン料金プラン プラン一覧 ( 月額 ) 注意事項 支払方法 提供機能一覧 (pt


(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )


<4D F736F F D20312D D D8F8A95F15F8B438FDB92A18BC7926E975C95F B B835E5F8BF896D896EC82EA82A282DF82A29

Microsoft Word - 0_0_表紙.doc

WTENK4-1_982.pdf

新居浜消防殿向け 気象+雨量,web

表.. RSMとkmGSMの初期値 下部境界条件の比較 モデル 領域モデル (RSM) 高解像度全球モデル (kmgsm) 大気の初期値 領域大気解析 高解像度全球大気解析 海面の境界条件高解像度 (.5 ) 全球日別海面水温解析高解像度 (. ) 海氷分布解析 ( 予報期間中は変化しない ) 土壌

目次 1 降雨時に土砂災害の危険性を知りたい 土砂災害危険度メッシュ図を見る 5 スネークライン図を見る 6 土砂災害危険度判定図を見る 7 雨量解析値を見る 8 土砂災害警戒情報の発表状況を見る 9 2 土砂災害のおそれが高い地域 ( 土砂災害危険箇所 ) を調べたい 土砂災害危険箇所情報を見る

1

PowerPoint プレゼンテーション

背景 ヤマセと海洋の関係 図 1: 親潮の流れ ( 気象庁 HP より ) 図 2:02 年 7 月上旬の深さ 100m の水温図 ( )( 気象庁 HP より ) 黒潮続流域 親潮の貫入 ヤマセは混合域の影響を強く受ける現象 ヤマセの気温や鉛直構造に沿岸の海面水温 (SST) や親潮フロントの影響

(1) 継続的な観測 監視 研究調査の推進及び情報や知見の集積〇気候変動の進行状況の継続的な監視体制 気象庁では WMO の枠組みの中で 気象要素と各種大気質の観測を行っている 1 現場で観測をしっかりと行っている 2 データの標準化をしっかりと行っている 3 データは公開 提供している 気象庁気象

Microsoft PowerPoint _H30_ALISお知らせ【Java】++

Microsoft PowerPoint 集い横田.ppt [互換モード]

JRA-55 プロダクト利用手引書 1.25 度緯度 / 経度格子データ編 気象庁地球環境 海洋部気候情報課 平成 25 年 9 月

鳥取県にかけて東西に分布している. また, ほぼ同じ領域で CONV が正 ( 収束域 ) となっており,dLFC と EL よりもシャープな線状の分布をしている.21 時には, 上記の dlfc EL CONV の領域が南下しており, 東側の一部が岡山県にかかっている.19 日 18 時と 21

Microsoft PowerPoint - 【XML気象データ】VLEDご紹介資料 ppt [互換モード]

kouenyoushi_kyoshida

台風解析の技術 平成 21 年 10 月 29 日気象庁予報部

WTENK8-6_30027.pdf

改版履歴 発行年月日版数適用 平成 29 年 2 月 24 日初版初版として発行

内湾流動に及ぼす大気の影響 名古屋大学村上智一

資料6 (気象庁提出資料)

Microsoft PowerPoint - 発表II-3原稿r02.ppt [互換モード]

< F2D81798B438FDB817A95BD90AC E93788EC090D1955D89BF>

2008 年 7 月 28 日に神戸市付近で発生した局地的大雨の観測システムシミュレーション実験 * 前島康光 ( 理研 計算科学研究機構 / JST CREST) 国井勝 ( 気象研究所 / 理研 計算科学研究機構 ) 瀬古弘 ( 気象研究所 ) 前田亮太 ( 明星電気株式会社 ) 佐藤香枝 (

Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

(00)顕著速報(表紙).xls

黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 日数 8~ 年度において長崎 松江 富山で観測された気象台黄砂日は合計で延べ 53 日である これらの日におけるの頻度分布を図 6- に示している が.4 以下は全体の約 5% であり.6 以上の

Microsoft Word - 修正資料の解説_ _.doc

No < 本号の目次 > CAVOK 通信とは ( 発刊にあたってご挨拶 ) 1 業務紹介 ( 福岡航空地方気象台の業務概要 ) 2 悪天事例報告 ( 福岡空港のマイクロバーストアラート事例の報告 ) 用語集 3-6 CAVOK 通信とは 福岡航空地方気象台では 航空機

はじめに 東京の観測値 として使われる気温などは 千代田区大手町 ( 気象庁本庁の構内 ) で観測 気象庁本庁の移転計画に伴い 今年 12 月に露場 ( 観測施設 ) を北の丸公園へ移転予定 天気予報で目にする 東京 の気温などの傾 向が変わるため 利 者へ 分な解説が必要 北の丸公園露場 大手町露

PowerPoint プレゼンテーション

スライド 1

る計画である ( 表示例を第 3.1. 図に示 す ) (2) と (3) に示した警報級の可能性 については新たなプロダクトである 本 章では 警報級の可能性 プロダクトに ついて 第 3.2 節でプロダクトの概要を 第 3.3 節以降でプロダクト作成に用いる ガイダンスの特性とその利用について解

報道発表資料

<4D F736F F D2091E E8FDB C588ECE926E816A2E646F63>

数値計算で学ぶ物理学 4 放物運動と惑星運動 地上のように下向きに重力がはたらいているような場においては 物体を投げると放物運動をする 一方 中心星のまわりの重力場中では 惑星は 円 だ円 放物線または双曲線を描きながら運動する ここでは 放物運動と惑星運動を 運動方程式を導出したうえで 数値シミュ

平成14年度数値予報研修テキスト

格子点データの解析 1 月平均全球客観解析データの解析 客観解析データや衛星観測データのような格子点データは バイナリ形式のデータファイルに記録されていることが多いです バイナリ形式のデータファイルは テキスト形式の場合とは異なり 直接中身を見ることができません プログラムを書いてデータを読み出して

GrADS の使い方 GrADS(Grid Analysis and Display System) は おもに 客観解析データのような格子点データを地図上に作図するために使われるアプリケーションです 全球スケールの気象を扱う分野で広く使われています GrADS は Unix 系の OS 上でよく利

ダムの運用改善の対応状況 資料 5-1 近畿地方整備局 平成 24 年度の取り組み 風屋ダム 池原ダム 電源開発 ( 株 ) は 学識者及び河川管理者からなる ダム操作に関する技術検討会 を設置し ダム運用の改善策を検討 平成 9 年に設定した目安水位 ( 自主運用 ) の低下を図り ダムの空き容量

4

<4D F736F F F696E74202D2091E63289F18C9F93A289EF90E096BE8E9197BF288AF2958C926E95FB8B438FDB91E4292D312E >

土砂災害警戒情報って何? 土砂災害警戒情報とは 大雨警報が発表されている状況でさらに土砂災害の危険性が高まったときに, 市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の方々が自主避難をする際の参考となるよう, 宮城県と仙台管区気象台が共同で発表する防災情報です 気象庁 HP より :

技術資料 JARI Research Journal OpenFOAM を用いた沿道大気質モデルの開発 Development of a Roadside Air Quality Model with OpenFOAM 木村真 *1 Shin KIMURA 伊藤晃佳 *2 Akiy

3.3 導入ポテンシャルの簡易シミュレーション シミュレーションの流れ導入ポテンシャルの簡易シミュレーションは 河川上の任意の水路 100m セグメント地点で取水し 導水管を任意の箇所に設定して 任意の放水地点に発電施設を設置して発電する場合の導入ポテンシャル値 ( 設備容量 ) 及び概

三重県の気象概況 ( 平成 30 年 9 月 ) 表紙 目次気象概況 1P 旬別気象表 2P 気象経過図 5P 気象分布図 8P 資料の説明 9P 情報の閲覧 検索のご案内 10P 津地方気象台 2018 年本資料は津地方気象台ホームページ利用規約 (

WTENK8-4_65289.pdf

0 21 カラー反射率 slope aspect 図 2.9: 復元結果例 2.4 画像生成技術としての計算フォトグラフィ 3 次元情報を復元することにより, 画像生成 ( レンダリング ) に応用することが可能である. 近年, コンピュータにより, カメラで直接得られない画像を生成する技術分野が生

<4D F736F F D BF382CC82B582A882E D58E9E8D E DC58F4994C5816A>

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D E93788CA48B8694AD955C89EF5F4E6F30325F D AC48E8B8CA48B865F53438FBC

PowerPoint プレゼンテーション

MySQL とは SQL 言語でのデータ格納 検索が可能なリレーショナルデータベースソフトウェアの一つである.SQL 言語はプログラム言語の一つであるが, 容易に理解することができ, これを用いることでプログラムの作成に馴染みのない職員であっても簡単に自らデータベースにアクセスすることができる. さ

技術基準改訂による付着検討・付着割裂破壊検討の取り扱いについてわかりやすく解説

TK01G005-17_25758.pdf

Transcription:

第 章新しい数値予報モデル構成とプロダクト. モデル構成 数値予報課では 2006 年 3 月のスーパーコンピュータシステムの更新時に メソ数値予報モデルの解像度を水平格子間隔 0km から 5km に また 鉛直層数を 40 から 50 に向上させ また 週間アンサンブル予報モデルのメンバー数を 25 から 5 に増やした これに引き続き 2007 年中には表.. のモデル構成とすることを予定している ここでの主要な変更点は次の 4 つである () 全球モデルの高解像度化と領域モデル 台風モデルの廃止全球モデルの解像度を現在の TL39L40( 水平格子間隔 0.5625 [ 約 60km] 鉛直層数 40 ) から TL959L60( 水平格子間隔 0.875 [ 約 20km] 鉛直層数 60) に向上させ これまで運用してきた領域モデル 台風モデルを廃止する 合わせて全球解析で用いている 4 次元変分法のインナーモデル 2 の解像度を T06L40( 水平格子間隔.25 [ 約 20km] 鉛直層数 40) から T59L60( 水平格子間隔 0.75 [ 約 80km] 鉛直層数 60) に変更し 領域解析は廃止する これまで目的別に 3 つのモデルを使い分けていたものを単一のモデルで対応するようになることで 天気予報の基礎資料として一貫したシナリオを提供することができるようになるとともに モデルの維持 改良のための人的資源 計算機資源を効率的に投入できるようになる また 台風の予報については 従来の台風モデルが運用上の制約により 2 つまでの台風についてしか実行できなかったのに対し 3 個以上の台風についても解像度の高いモデルによる 84 時間予報を提供できるようになる しかしその一方で 高解像度全球モデルは従来の全球モデル 領域モデル 台風モデルのいずれに対しても同等またはそれ以上の性能であることが求められるので 注意深く性能を比較する必要がある 高解像度全球モデルについては第 2 章で詳しく述べる (2) 週間アンサンブル予報モデルの高解像度化週間アンサンブル予報に用いる全球モデルの解像度を TL59L40( 水平格子間隔.25 [ 約 20km] 鉛直層数 40) から TL39L60( 水平格子間隔 0.5625 [ 約 60km] 鉛直層数 60) に変更する メンバー数は従来通り 5 である 解像度の変更とともに 摂動の作成手法を誤差成長の大きな摂動を効率的に生成できる特異ベクトル法 (SV 法 ) に変更する 解像度を上げることで 特に地形から受ける影響が重要な意味を持つような事例についての精度向上が期待できる 詳細については第 3. 節に記載する (3) 台風アンサンブル予報システムの導入台風アンサンブル予報は今回新しく開始するもので 台風が存在しているときに TL39L60 の全球モデルによる メンバーのアンサンブル予報を 日 4 回行うというものである 目的は台風進路予報の不確定性を見積もり 確率的な情報を与えることにある 台風アンサンブル予報の初期摂動作成については 台風進路予報が適切にばらつくような摂動であることが望ましい 週間アンサンブル予報でこれまで使われてきた成長モード育成法は モデルを継続的に動かす必要があり 台風が存在するときのみ実行される台風アンサンブル予報には適用しにくいという 2 つの理由から SV 法を採用することとした 詳細は第 3.2 節に述べる (4) メソ数値予報モデルの予報時間延長 日 8 回のメソ予報のうち 全球モデルによる境界値更新 ( 日 4 回 ) の直後にあたる 03,09,5,2UTC 初期値の予報時間を 5 時間から 33 時間に延長する これにより 常時 24 時間先までの防災情報の作成を支援することができるようになるとともに 飛行場予報について TAF-S TAF-L ともに単一のモデルに基づく予報を作成することができるようになる 従来の 2 倍以上の予報時間での運用となることから 導入にあたっては 安定して動作することや予報時間後半での急激な精度低下がないことなどを確認する必要がある あわせて 物理過程を中心にモデルの改良を行うこととした メソ数値予報モデルの変更については第 4 章に詳述する なお 以上の変更点を含めた今後の開発課題については 平成 7 年度数値予報研修テキスト ( 竹内 2005) にも記述されているので適宜参照いただきたい 参考文献竹内義明 2005: 将来の開発課題. 平成 7 年度数値予報研修テキスト, 気象庁予報部, 4-9. 小泉耕 2 解析値を作成する際に第一推定値に対する修正量を求め るためのモデル

全球モデル (GSM) 週間アンサンブル予報モデル台風アンサンブル予報モデルメソ数値予報モデル (MSM) 表.. 2007 年度に導入される予定のモデル構成 諸元 変更前の諸元 ( 参考 ) 用途 水平解像度 : 0.875 (TL959 3 ) 0.5625 (TL39) 短期予報 量的予報 航空予報 鉛直層数 : 60 層 ( 地上 ~0.hPa) 40 層 ( 地上 ~0.4hPa) 週間予報の支援 初期時刻 : 00, 06, 2, 8 UTC 台風進路 強度予報の支援 予報時間 : 84 時間 (00, 06, 8 UTC) 90 時間 (00 UTC) メソ数値予報モデルの側面境界 26 時間 (2 UTC) 36 時間 (06, 8 UTC) 条件 26 時間 (2 UTC) 波浪モデル 海氷モデル 有害 物質拡散予測モデル 火山灰拡 初期値解析 :4 次元変分法 散予測モデル 漂流予測モデル ( インナーモデル諸元 ) の入力データ 水平解像度 : 0.750 (T59).25 (T06) 鉛直層数 : 60 層 ( 地上 ~0.hPa) 40 層 ( 地上 ~0.4hPa) 水平解像度 : 0.5625 (TL39).25 (TL59) 週間天気予報の支援 鉛直層数 : 60 層 ( 地上 ~0.hPa) 40 層 ( 地上 ~0.4hPa) 初期時刻 : 2 UTC 予報時間 : 26 時間 摂動作成手法 : 特異ベクトル法 BGM 法 メンバー数 : 5 水平解像度 : 0.5625 (TL39) ( 新規 ) 台風進路予報の支援 確率情報 鉛直層数 : 60 層 ( 地上 ~0.hPa) の提供 初期時刻 : 00, 06, 2, 8 UTC 予報時間 : 84 時間 摂動作成手法 : 特異ベクトル法 メンバー数 : 水平解像度 : 5km 防災気象情報の支援 鉛直層数 : 50 層 ( 地上 ~2800m) 航空予報の支援 初期時刻 :00,03,06,09,2,5,8,2UTC 降水短時間予報 高潮モデルの 予報時間 :5 時間 (00, 06, 2, 8 UTC) 5 時間 ( 全初期時刻 ) 入力データ 33 時間 (03, 09, 5, 2 UTC) 初期値解析 :4 次元変分法 ( 静力 MSM) 3 T は三角形波数切断の意味で数字は切断波数を表す L は線形格子を使用すること示す 数値予報課では慣用的に線形格子の場合に L をつける (L が無い場合は二次格子 ) という表記法を採っているが 国際的には必ずしも統一はとれていないようである ( たとえば ECMWF では線形格子を採用していても L は付けていない ) 2

.2 プロダクト 数値予報モデルの予報結果およびモデルの予想を統計処理して作成するガイダンスは ファックス図 格子点値 (GPV) 地点あるいは予報区毎の予想値としてアデスに送られる 数値予報モデルの構成が変わっても ファックス図の表示内容に変更は無い予定である 数値予報モデルの格子点値については第.2. 項で ガイダンスについては第.2.2 項で解説する.2. 数値予報 GPV 2007 年に計画している数値予報モデルの構成変更に伴い アデスに配信する GPV も変更する 全球モデル 週間アンサンブル予報システムが高解像度化し メソ数値予報モデルは予報時間を延長するので 対応する GPV も相応に拡充する 同時に 現在配信している要素のうち使用頻度の低いものを削除するなどの見直しも行う これらの GPV は東日本の各気象官署では統合ビューワで画像として端末上に表示できる なお 西日本アデス向けの GPV の内容はこれまでと同じである ただし RSM の予報値を使って作成していた資料は 高解像度全球モデル (20kmGSM) の予報値から同等のものを作成する 表.2. にモデルの構成を変更した後の 東日本アデス用数値予報 GPV の仕様を示す ただし 細部については今後見直しがありうる 図.2. に 全球 北半球を除く配信領域の範囲を示す 現在アデスに配信している内容からの変更点は次のとおり () メソ数値予報 03, 09, 5, 2UTC 初期値分は 33 時間予報まで配信する 航空用 GPV に 鉛直速度 (W) 積乱雲雲頂高度 (Z,P) を追加する (2) RSM に代わる 20kmGSM によるアジア域 GPV 日 2 回 5 時間予報までだったものを 00, 06, 8UTC 初期値分は 84 時間予報まで 2UTC 初期値分は 92 時間予報まで配信する 要素から可降水量 (TPW) を削除する 70~0hPa 面を削除し 975hPa 面を追加する RSM の予報値から作成していた航空用 GPV は 領域を北太平洋域に広げ 要素や配信回数を大幅に拡充する (3) 20kmGSM による全球 GPV 格子間隔を.25 度から 度に変更する 6 時間間隔だったものを 初期値から 84 時間予報までは 3 時間間隔に変更する 50~hPa 面を削除し 975hPa 面を追加する (4) 週間アンサンブル予報 格子間隔が 0.5625 度 日本域の GPV を新たに配信する ( 地上要素のみ ) アジア域の GPV に 00hPa 面を追加する 北半球の GPV に 925, 00hPa 面を追加する 湿数 (TTD) を削除し 相対湿度 (RH) を追加する 図.2. 数値予報 GPV の配信領域 ~6 は 表.2. の 領域 に対応する 全球 北半球の範囲は示していない.2. 保谷信親.2.2 林久美 3

表.2. 数値予報モデルの構成変更後 東日本アデス用に送信する数値予報 GPV GPV 格子間隔 東西 南北 ( 領域 ) 予報時間 / 時間間隔 ( 単位 : 時間 ) MSM 一般用 0.0625 0.05 0~5 / 0.5 8 ( 地上 ) (20-50E, 6~33 / 0.5 4 MSM 一般用 22.4-47.6N) 0~5 / 8 2 6~33 / 4 MSM 航空用 Polar Stereo 40km 0~5 / 8 6~33 / 4 GSM アジア域 0~84 / 4 0.25 0.2 ( 地上 ) 87~92 / 3 (05-60E, 7.6-60N) 4 GSM アジア域 0~84 / 3 90~92 / 6 4 GSM 全球 0~84 / 3 4 ( 地上 ).0.0 90~92 / 6 ( 全球 ) GSM 全球 GSM 北太平洋域航空用 GSM 全球航空用 週間アンサンブル日本域 週間アンサンブルアジア域 週間アンサンブル北半球 ( 地上 ) 週間アンサンブル北半球 0.5 0.5 (00E-0W, 0-65N) 6.25.25 ( 全球 ) 0.5625 0.5625 (9.825-50.875E, 9.6875-50.0625N) 3.25.25 (00-60E, 0-60N) 5 2.5 2.5 ( 北半球 0-357.5E, 0-90N) 領域 ~6 は 図.2. に示す範囲に対応する 回 / 日 0~84 / 3 4 90~92 / 6 0~24 / 3 4 0~36 / 6 4 0~26 / 6 (5 メンバー ) 0~26 / 2 (5 メンバー ) 要素 [ 面 ] U,V,T,RH,TPW,CLA,CLL,CLM,CLH,Psea,Ps, RAIN,RRH,SMQR,SMQS,SMQH[ 地上 ] U,V,OMG,T,RH,Z,CVR[*PL6] VOR [850, 700, 500hPa] Ps, U,V, T,RH,RAIN,Csig[ 地上 ] U,V, W,T,RH,TURB,CWMR[*FL28] Z,P[ 積乱雲雲頂 ], P[ 圏界面 ] U,V,T,RH,Ps,Psea,RAIN,RRH,CLA,CLL,CL M,CLH[ 地上 ] Z,U,V,T,RH,OMG,CWC,CVR [*PL6] VOR [850, 700, 500hPa] Ps,Psea,U,V,T,RH,CLA,CLL,CLM,CLH,RAIN [ 地上 ] Z,U,V,T,RH,OMG,CWC,CVR[*PL6, 70hPa] VOR[850,700,500hPa],CHI,PSI[850,200hPa] Psea,RAIN,U,V,T,RH,CLA,CLL,CLM,CLH[ 地上 ], Z[ 積乱雲雲頂 ], Z,U,V,T[ 圏界面 ], P,Z,U,V,T[ 最大風速面 ] U,V,T,RH,OMG,VWS[*FL28] VWS [700,600,500,400,300,250,200,50,00 hpa] Z[ 積乱雲雲頂 ], Z,U,V,T[ 最大風速面, 圏界面 ] Psea,U,V,T,RH,RAIN,CLA,CLL,CLM,CLH [ 地上 ] Ps,Psea,U,V,T,RH,CLA,RAIN[ 地上 ] Z,U,V,T,RH,OMG,CWC,CVR[000,925,850,70 0,500,300,200,00hPa] Psea,U,V,T,RH,RAIN,CLA,CLL,CLM,CLH [ 地上 ] Z,U,V,T,RH,OMG,CWC,CVR[925,850,700,500,300,200,00hPa], Ps[ 地上 ] VOR[850,700,500hPa],CHI,PSI[850,200hPa] 面の略記 *PL6:[000, 975, 950, 925, 900, 850, 800, 700, 600, 500, 400, 300,250,200,50,00 hpa] *FL28:[FL00 ~ FL550 / 20 毎 ] (FL: 飛行高度 ) [ 977, 908, 843, 782, 724, 670, 69, 572, 527, 485, 446, 40, 376, 344, 35, 287, 262, 238, 27, 97, 79, 62, 47, 34, 22,, 00, 9 hpa ] に相当する 要素の略記 CHI: 速度ポテンシャル, CLA: 全雲量, CLH: 上層雲量, CLL: 下層雲量, CLM: 中層雲量 Csig: 雲量 ( 積乱雲, 中層, 下層 ), CVR: 雲量, CWC: 雲水量, CWMR: 雲水混合比, OMG: 鉛直 P 速度 Ps: 地上気圧, Psea: 海面更正気圧, PSI: 流線関数, RAIN: 予報初期時刻からの積算降水量, RH: 相対湿度 RRH: 前 時間降水量, SMQH: 降霰量, SMQR: 降雨量, SMQS: 降雪量, T: 気温, TPW: 可降水量 TURB: 乱気流指数, U: 風速の X 軸成分, V: 風速の Y 軸成分, VOR: 渦度, VWS: 鉛直シヤー W: 鉛直速度, Z: ジオポテンシャル高度 4

.2.2 ガイダンスモデル更新後に出力されるガイダンスの種類はほとんど変更がない ただし メソ数値予報モデル ( 以下 MSM) を中心とした降水系のガイダンス 航空ガイダンスに若干の変更が生じる 以下 各ガイダンスの仕様を述べる 現在のガイダンスは 使用する数値予報モデルの仕様変更にすみやかに対応できるように学習型となっているため 数値予報モデルの精度が保障されていればガイダンスの精度のみが落ちることはない また カルマンフィルターのみを用いて地点ごとに算出している気温 風ガイダンスについては モデルの精度は向上しているので GSM の慣熟運用期間中に十分な学習が行われれば 精度の向上が期待される 降水系 天気ガイダンス等は第 2 章で詳しく述べられているように GSM は RSM と比較して弱い雨が出やすく 強い雨の頻度が押さえられるなど特性が異なるため ガイダンスの特性も変わる可能性がある () RSM GSM ガイダンス 領域モデル ( 以下 RSM) が廃止され 20km 高解像度全球モデル (20kmGSM) に統一される その 際のガイダンスは RSM ガイダンス GSM ガイダンス共に 20kmGSM を利用することになる 現在も RSM GSM ガイダンスの算出手法は予報要素ごとに統一されており モデルが統一化されることによる手法の変更はない GSM は RSM と異なり 日 4 回計算されているが ガイダンスの運用は予報作業に密接にかかわっており 予報作業支援システムを用いた予報作業の形態に大きな変更がないようにする このため 電文として配信する際には 電文の形式と回数は現在と同じになるようにする予定である 具体的には 20kmGSM で統一して計算を行い ガイダンスとして出力される段階で現行どおり GSM RSM ガイダンスとして 日 2 回配信する 表.2.2 に RSM GSM ガイダンスの一覧を示す 表には目的のガイダンスを作成するために現時点で直接アデスには配信されていない中間のプロダクトも掲載している 尚 分布予報用気温ガイダンスは 地点ガイダンスとして配信された予報値が 予報作業支援システム上で格子点に内挿されている GSM ガイダンスの 日 4 回化については検証を行いながら 順次開発する予定である 表.2.2 RSM GSM を利用して計算されるガイダンス一覧 ( アデスに配信していない中間製品を含む :GSM 更新時はすべて 20kmGSM を使用 ) ガイダンス名予報要素対象領域予報時間 ( 予報間隔 ) 風ガイダンス 気温ガイダンス 定時風 最大風 アメダス地点 FT=3~84(3h) 時系列アメダス地点 FT =3~72(h) 最高 最低気温 アメダス地点 明日 ~ 明後日 2UCT 初期値は 3 日先まで 天気ガイダンス天気カテゴリー 20km 格子点 FT =6~5(3h) FT =57~75(6h) 最小湿度ガイダンス日最小湿度アメダス地点当日 ~ 明後日 発雷確率ガイダンス 3 時間に発雷のある確率二次細分区域 FT=6~5(3h) 大雨確率ガイダンス基準以上の雨が降る確率二次細分区域 FT=6~75(3h) 最大降水量ガイダンス 平均降水量ガイダンス 3 時間平均降水量 時間最大降水量 3 時間最大降水量 24 時間平均降水量 24 時間最大降水量 二次細分区域 FT=6~75(3h) FT=27~75(3h) 3 時間平均降水量 20km 格子点 FT=6~75(3h) 6 時間平均降水量 FT=57~75(6h) 降水確率ガイダンス 6 時間降水確率 20km 格子点 FT=9~75(6h) 雪水比ガイダンス 3 時間雪水比 20km 格子点 FT=6~5(3h) 降雪量ガイダンス 2 時間降雪量アメダス地点 FT=2~72(2h) 更新当初は初期値は 00,2UTC のみ 5

(2) 航空用ガイダンス航空用の TAF( 飛行場予報 ) ガイダンスについては MSM33 時間化後は TAF-S( 短距離飛行場予報 ) TAF-L( 長距離飛行場予報 ) ともに MSM を利用して作成されるようになり モデルの違いによる予報の流れの不連続が解消される 表.2.3 に TAF ガイ ダンスの一覧を示す TAF-L に関しては 現在 日 2 回のガイダンスから 日 4 回 33 時間先までの TAF ガイダンスとなる また TAF ガイダンスはこれまで通りの電文形式の国内 2 進形式とファイル形式の XML 形式とを並行して作成するが 将来は XML 形式に一本化する予定である 表.2.3 MSM33 時間化後の TAF ガイダンス ( 使用モデルはすべて MSM) ガイダンス名 予報要素 対象領域 予報時間 ( 予報間隔 ) TAF 00,06,2,8UTC TAF 03,09,5,2UTC 視程 ( 視程確率を含む ) 気温 ( 時系列 最高 最低気温 ) 風 ( 定時風 最大風 ) 雲 ( 雲底高度 雲量 ) 天気 76 空港 FT=2~5(h) FT=3~33(h) 初期値数 日 4 回 日 4 回 (3) 防災情報用 MSM ガイダンス MSM を用いたガイダンスについては 日 8 回のうち 4 回 (03,09,5,2UTC) は 33 時間予報となる これにより予報作業支援システムへの MSM を利用した置き換えガイダンス ( 最大降水量ガイダンス 最大風ガイダンス ) の予報時間が長くなる また 33 時間化により MSM のみを利用した 24 時間最 大降水量ガイダンスの作成が可能となるため 新たに作成する 表.2.4 に MSM を用いたガイダンスの一覧を現在開発中のものを含めて示す その他の要素のガイダンスについても順次開発する予定である 表.2.4 MSM を利用して計算するガイダンス一覧 ガイダンス名 予報要素 対象領域 予報時間 ( 予報間隔 ) MSM 降水量 3 時間平均降水量 20km 格子 FT=3~33(3h) MSM 降水確率 6 時間降水確率 20km 格子 FT=6~30(6h) MSM 最大降水量 MSM/ 降水短時間予報 ( 降水量 ) MSM/ 降水短時間予報 ( 最大降水量 ) 3 時間平均降水量 時間最大降水量 3 時間最大降水量 24 時間平均降水量 24 時間最大降水量 2 次細分区域 3 時間平均降水量 20km 格子 3 時間最大降水量 3 次細分区域 時間最大降水量 24 時間最大降水量 FT=3~33(3h) FT=24~33(3h) FT=3~33(3h) 初期値数 日 8 回 3 時間毎 日 48 回 30 分毎 MSM 最大風 3 時間最大風 アメダス地点 FT=3~33(3h) 日 8 回 3 時間毎 利用モデル等 MSM MSM ガイダンス解析雨量降水短時間予報 MSM ゴシックが新規要素 ( 開発中のものを含む ) 日 4 回は 5 時間までだが最長の時間を示す 03,09,5,2UTC 初期値は 33 時間 00,06,2,8UTC 初期値はすべて 5 時間先までとなる 6