一般的リスク評価と なぜ今 TTC に 注目するのか 国立医薬品食品衛生研究所安全情報部 畝山智香子

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特定できるものではありませんでした そのため 個人の体質や体調による影響が大きく影響したものであると判断しました よって 当該製品が原因と考えられる健康被害の発生は 確認されませんでした ただし 届出の製品と喫食実績で調査対象とした製品でルテイン量に違いがありましたので 既存情報から喫食経験および安


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参考1中酪(H23.11)

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目次 頁 審議の経緯... 3 食品安全委員会委員名簿... 3 食品安全委員会添加物専門調査会専門委員名簿... 4 第 1 章総則... 5 第 1 指針作成に至る背景... 5 第 2 定義... 5 第 3 目的... 7 第 4 添加物の食品健康影響評価に際しての考え方... 7 第 5

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保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用

スライド 1

Transcription:

一般的リスク評価と なぜ今 TTC に 注目するのか 国立医薬品食品衛生研究所安全情報部 畝山智香子

はじめに : 共通の目標 食 医療 経済 世界の人々の健 康と福祉の向上

食品にはもともと膨大なハザードがある 汚染物質 微生物学リスク 食品添加物 残留農薬 食品そのものに含まれる天然化学物質 流通 加工段階の異物混入

食品安全リスク分析 (Food Safety Risk Analysis) 食品を媒介とする疾病を低減し 食品安全システムを強化するための鍵となる 包括的科学的評価 幅広い関係者の参加 プロセスの透明性 各種ハザードの一貫した取り扱い及び体系的な意志決定を促進する 各国が調和のとれたリスク分析を採用することにより食品貿易の促進につながる

リスク分析の三要素 リスクコミュニケーション リスク評価 リスク管理

リスク評価 ハザードの同定 ハザードの性質決定 暴露評価 リスクキャラクタリゼーション

食品添加物や残留農薬 意図的に使われるものなので比較的規制が簡単だった 申請データに基づき安全であることを確認して認可するという形をとっている 実質的にゼロリスクを指向している

残留農薬や食品添加物の評価の例生体影響無毒性量 1/100 (ADI:1 日許容摂取量 ) 概念図 無毒性量 (NOAEL) 実際の暴露量 暴露量 ( 投与量 )

残留農薬や食品添加物の評価の課題 実際には安全な用量を決めているのであって厳密な意味での リスク を評価しているわけではない 重金属など環境中に人為的でなく存在する物質の リスク評価 にはそのままあてはめられない より確率論的に扱う試み NOAEL から BMDL へ 暴露評価についても同様 有害影響 の定義と解釈 ヒトへの外挿 エンドポイントが病理組織学的な変化から体重の増加抑制や酵素活性の抑制など多様であり安全係数もそれに応じて変えられているが必ずしも一致した見解があるわけではない

微生物の場合 ALOP:Appropriate Level of Protection ( 適切な衛生健康保護水準 ) 疫学データやリスク評価の結果として推定される単位人口当たりの年間発症数等として表現される 例えばリステリア症の発症を年間 10 万人あたり 0.25 人に抑える それを達成するために摂食時安全目標値 Food Safety Objective (FSO) を設定する例えば L. monocytogenes は調理済み食品の摂食時に 100/g を超えないこと FSO 達成のためにフードチェーンのそれぞれの段階で許容される最大の汚染頻度と ( あるいは ) 濃度である達成目標値 Performance Objective (PO) を定める ゼロリスクを指向してはいないことが明確

費用対効果の分析 現に被害が発生している微生物による食中毒の場合 いくつか考えられる対策とそれによる被害者の削減 そのために必要な費用などを試算して最も費用対効果の高い対策が優先的に進められるべき 指標としては Cost per DALY などが使われる

遺伝毒性発がん物質の問題 閾値のないモデル : 暴露量がゼロでなければリスクがゼロとは言えない ALARA(As Low As Reasonably Achievable: 合理的に達成可能な範囲でできる限り低く食品中の汚染物質の濃度を設定すること ) の原則 アフラトキシン アクリルアミド 多環芳香族炭化水素 ニトロソアミンなど どれが重要性や緊急性が高いのかわからない

リスクランキングによる優先順位付け 異なる要因によるリスクを比較して優先順位をつける DALY(disability-adjusted life year: 障害調整生命年 ) 早死による生命損失年数 (Years of Life Lost : YLL) と障害による相当損失年数 (Years Lived with a Disability : YLD) の和 疾患負荷の指標 MOE(Margin of exposure: 暴露マージン ) 無毒性量などの閾値 (NOAEL や BMDL) と摂取量の大きさの違いを数的に示す指標 NOAEL/ 暴露量 大きいほど安全側に余裕がある

各種発がん物質の MOE 物質 MOE 条件 機関 年度 ベンゾ (a) ピレン 130,000-7,000,000 食品由来 COT, 2007 6 価クロム 9,100-90,000 食品由来 COT, 2007 クロム 770,000-5,500,000 飲料水 COT, 2007 1,2-ジクロロエタン 4,000,000-192,000,000 飲料水 COT, 2007 ベンゾ (a) ピレン 17,000,000-1,600,000,000 飲料水 COT, 2007 1,2-ジクロロエタン 355,000-48,000,000 室内空気 COT, 2007 ベンゾ (a) ピレン 17,900 平均的摂取群 EFSA, 2008 ベンゾ (a) ピレン 10,800 高摂取群 EFSA, 2008 PAH2 15,900 平均的摂取群 EFSA, 2008 PAH4 17,500 平均的摂取群 EFSA, 2008 PAH8 17,000 平均的摂取群 EFSA, 2008 カルバミン酸エチル 18,000 アルコール以外 EFSA, 2007 カルバミン酸エチル >600 ブランデーとテキーラを飲む人 EFSA, 2007 アクリルアミド 300 ラット乳腺腫瘍を指標 平均的摂取群 JECFA, 2005 アクリルアミド 75 ラット乳腺腫瘍を指標 高摂取群 JECFA, 2005 アクリルアミド 200 非発がん影響 ( 神経形態 ) 高摂取群 JECFA, 2005 アクリルアミド 50 非発がん影響 ( 神経形態 ) 平均的摂取群 JECFA, 2005 カルバミン酸エチル 20,000 平均的摂取群 JECFA, 2005 カルバミン酸エチル 3,800 高摂取群 JECFA, 2005 PAH8: ベンゾ (a) ピレン ベンズ [a] アントラセン ベンゾ [b] フルオランテン ベンゾ [k] フルオランテン ベンゾ [ghi] ペリレン クリセン ジベンズ [a,h] アントラセン及びインデノ [1,2,3-cd] ピレン

安全性評価の考え方が変化してきた例 安全性試験で発がん性が認められたものは どんな添加物でも安全とはみなせない という考え方 ( デラニー条項 (1958 年 ) ラットで発がん性があるという結果が出たため サッカリンナトリウムの安全性試験にサルを使った ( アフリカミドリザル アカゲザル カニクイザル合計 36 頭を 24 年間飼育 ) 現実的ではない 実際にはこの実験の結果が出る前にサッカリンのヒトでの発がん性については メカニズムから考えて ないということで合意されている 1970 年代に FDA が 10-6 を essentially zero とみなすとしている その後各機関で閾値無しのモデルでのリスク 10-4 から 10-6 を目標レベルに設定している ( おおむね 10-5 ) 科学は常に進歩している

再び遺伝毒性発がん物質について 遺伝毒性発がん物質であっても現実的には閾値は存在するであろう しかし閾値を決めるための 確立された方法がない FDA による食品中に存在する毒性未知の化合物の閾値 1.5 microg/ 人 / 日は 1 つの目安 そもそも閾値 ( つまりリスクがゼロと見なせる用量 ) を決める必要があるのかどうか - 一定以下のリスクであれば問題にしないという方法もある 遺伝毒性のある放射線

ALOP の例 : 放射線防護における線量限度の概念 Unacceptable 受け容れ不能 Tolerable 進んで受け容れることはできないが耐えることはできる 高線量 線量限度 : 死亡確率 10-3 ( 作業者 ) 一般人については 10-4 Acceptable 受け容れることができる 低線量 国際放射線防護委員会 International Commission on Radiological Protection (ICRP) による

日常生活におけるリスク

職業別死亡リスク 10-3 ライン 7 業種平均 1.4E-4

リスクの大きさとリソース配分 リスク ゼロリスクレベル いわゆる健康食品 普通の食品成分 食品中化学物質の分野では 大きなリスクといっても日常生活のリスクの中では比較的小さい リスクの大きさとリソースの配分はあまり関係がない 食品添加物や残留農薬 香料

リービッヒの最小律 Law of the Minimum - Liebig's Law 10-8 よりはるかに小さい : 食品中合成化学物質食品添加物や残留農薬で日本人一人でも死亡することなど絶対許されないという水準 10-7 程度 : 微生物による食中毒 10-5 程度 : 日常生活 10-4 程度 : 職業暴露 医療被曝等 From avocadosource.com 制限栄養素の説明によく使われる図 リスク許容度のアナロジー

今後の展望 本来 ALOP は関係者で合意の上設定する必要がある TTC であっても実質的ゼロリスクを目指していることに変わりはない TTC をきっかけにさらに合理的現実的なリスク評価へ