コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

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体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

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スライド 1

4. 発表内容 : 1 研究の背景と経緯 電子は一つ一つが スピン角運動量と軌道角運動量の二つの成分からなる小さな磁石 ( 磁 気モーメント ) としての性質をもちます 物質中に無数に含まれる磁気モーメントが秩序だって整列すると物質全体が磁石としての性質を帯び モーターやハードディスクなど様々な用途

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

平成18年2月24日

 

スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

マスコミへの訃報送信における注意事項

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

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高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

平成22年11月15日

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

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報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

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詳細な説明 < 背景 > 日本において急速に進む少子高齢化に関わる諸問題の解決のために 超スマート社会の実現が希求されています そのため 超スマート社会の技術インフ ラとして 超高感度センサーや超高速デバイスなどの開発に加えて それらのデバイス同士やそれらのデバイスと人をつなぐ超高速情報通信技術の研

平成**年*月**日

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

マスコミへの訃報送信における注意事項

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

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振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

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論文の内容の要旨

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報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

有機4-有機分析03回配布用

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

記 者 発 表(予 定)

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報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

開発の社会的背景 リチウムイオン電池用正極材料として広く用いられているマンガン酸リチウム (LiMn 2 O 4 ) やコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) などは 電気自動車や定置型蓄電システムなどの大型用途には充放電容量などの性能が不十分であり また 低コスト化や充放電繰り返し特性の高性能化

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 15 日 独立行政法人理化学研究所 モット先生 (1977 年ノーベル物理学賞受賞 ) の謎を解明 - 酸化ニッケルはなぜ金属ではないのか? - 銀白色の金属として知られるニッケルは 耐食性が高くステンレス鋼や硬貨などの原料として広く利用されてい

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

03マイクロ波による光速の測定

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化学結合が推定できる表面分析 X線光電子分光法

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鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

しかし これまでの研究では物質と光電場共に 1 次元的に取り扱っており 3 次元の自由度 を有する試料と 2 次元の偏光状態を有する光電場の相互作用を記述するには不十分でした < 研究内容 > 物性研の板谷研究室で開発した波長が 5 ミクロンの高強度中赤外レーザーを セレン化ガ リウム結晶に集光する

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共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

スライド 1

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

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第 3 章 まぐねのふしぎに迫る 他の国 たとえば半導体の国からまぐねの国に来て戸惑うのは 磁性体は初期状態では磁気を帯びておらず いったん強い磁界を受けると 磁気を帯びた状態になること さらに 逆向きの磁気を帯びさせためにはある閾値以上の逆向き磁界を加えなければいけない ことです この章では この

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

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報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

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PRESS RELEASE 平成 29 年 3 月 3 日 酸化グラフェンの形成メカニズムを解明 - 反応中の状態をリアルタイムで観察することに成功 - 岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは 黒鉛 1 から酸 化グラフェン 2 を合成する過程を追跡し 黒鉛が酸化されて剥が

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有機化合物の磁気キラル二色性を初めて観測! - 生命のホモキラリティー起源の候補の一つを有機化合物で初めて実証 - 1 東京大学生産技術研究所第 4 部物質 環境系部門 2 東京大学先端科学技術センター 1 石井和之 1 北川裕一 2 瀬川浩司

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報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

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エネルギー ついて説明します 2. 研究手法 成果上で述べたような熱輻射パワーの高速変化を実現するためには 物体から熱輻射が生じる過程をミクロな視点から考える必要があります 一般に 物体の温度を上昇させると 物体内の電子の動きが活発になり 光 ( 電磁波 ) を放出するようになります こうして電子か

背景 現代社会を支えるコンピューティングや光通信では, 情報の担い手として, 電子の電荷と, その電荷を変換して生成した光 ( 光電変換 ) を利用しています このような通常の情報処理に用いる電荷以外に, 電子にはスピンという状態があります このスピンの集団は磁石の性質を持ち, 情報の保持に電力が不

色素増感太陽電池の色素吸着構造を分子レベルで解明

平成 30 年 0 2 月 0 9 日国立大学法人京都大学国立大学法人東京大学国立大学法人熊本大学国立大学法人大分大学公立大学法人首都大学東京公益財団法人高輝度光科学研究センター (JASRI) 自動車排ガス浄化触媒における貴金属成分の酸化還元挙動の解明 高輝度放射光を用いた触媒のリアルタイムモニタ

スライド 1

ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

2 磁性薄膜を用いたデバイスを動作させるには ( 磁気記録装置 (HDD) を例に ) コイルに電流を流すことで発生する磁界を用いて 薄膜の磁化方向を制御している

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詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

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コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂夫 ( 東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所教授 ) 2. 発表のポイント : 薄膜のコバルト層とパラジウム層の界面にて 薄膜の面に垂直な方向に磁石の向きが揃うメカニズムを明らかにしました 薄膜界面のコバルトとパラジウムの電子軌道の形を 放射光を用いた磁気分光法 (X 線磁気円二色性 ) による元素別スペクトルの計測と理論計算から明らかにしました 特に 2 つの元素に関して同条件で測定できる方法により 精密な測定に成功しました コバルトとパラジウムの界面でのスピンと軌道の相互作用から垂直に磁化が揃うことを実証しました 本結果は界面原子の中の電子スピンと電子軌道を利用したスピン軌道工学 ( スピンオービトロニクス ) の新しい研究に繋がることが期待されます 3. 発表概要 : 東京大学大学院理学系研究科の岡林潤准教授 物質材料研究機構の三浦良雄独立研究者 東京工業大学の宗片比呂夫教授による研究チームは コバルト (Co) とパラジウム (Pd) の薄膜界面に膜垂直方向に磁石の性質が生じるメカニズムについて 放射光 ( 注 1) を用いた X 線磁気円二色性 (XMCD 注 2) と第一原理計算 ( 注 3) により明らかにしました 特に Co と Pd 原子内の電子軌道の形を明確にし 元素によって異なる役割を担っていることを実証しました 得られた結果は 磁性体と非磁性体が接合した界面に誘起される磁性に関する基礎物理学の理解を進展させるのみでなく スピンを操作して低消費電力にて動作するスピントロニクス素子の設計においても重要な役割を果たすことが期待されます Co と Pd の界面では 両元素の磁気的な相互作用により 膜面に垂直方向に磁化が揃うことが知られています また 膜に垂直方向に磁化する材料は大容量の磁気記録デバイスには不可欠なものとして スピントロニクス分野では研究されています 研究チームは Co と Pd の接する界面原子中の電子軌道の形を明確にし Co では外殻 3d 電子軌道の異方性が支配的であり Pd では外殻 4d 電子軌道には異方性がなく 3d 系とは異なる四極子相互作用の形をとっていることが判りました これを調べるためには 元素別に磁気状態を調べる必要があり 放射光を用いた元素選択的な磁性の検出手法が不可欠です 愛知県岡崎市にある分子科学研究所極端紫外光研究施設 (UVSOR) のビームライン BL4B にて

XMCD の測定を行いました また 実験の一部は茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構放射光施設 ( フォトンファクトリー ) において 東京大学大学院理学系研究科スペクトル化学研究センターが所有するビームライン (BL-7A) にて測定を行うことにより Co と Pd の軌道の異方性を明確にできました 実験結果は 第一原理に基づく理論計算とも一致し 界面に誘起される新しい磁性材料の創出に繋がることが期待されます 本成果は 2018 年 5 月 29 日 ( 英国夏時間午前 10 時 ) に 英国科学雑誌 Scientific Reports のオンライン版に掲載されます なお 本研究は科研費基盤研究 (S) 界面スピン軌道結合の微視的解明と巨大垂直磁気異方性デバイスの創製, 科研費基盤研究 (B) 外場摂動印加時の磁気分光を用いた軌道磁気モーメントの操作に関する研究 の助成を受けて実施されました 4. 発表内容 : 強磁性体と非磁性体を交互に堆積した構造 ( 磁気接合 ) は 磁気メモリーなどの記録素子やハードディスク内の磁気センサーとして広く用いられています 特に 薄膜の面に垂直方向に磁化の向きを揃えて磁気記録を行う技術は 高記録密度を達成するために重要です これらの素子の最適化を進めることは スピントロニクスの研究分野におけるデバイス開発では最も重要なことの一つです 磁石は本来 膜に平行方向に磁化が揃うことでエネルギーが低くなり安定します 一方 膜に垂直方向に揃う方が安定する Co/Pd 界面のような特殊な物質も存在します Co/Pd 界面は Co の磁石としての性質 Pd の重い元素としての性質が合わさって垂直磁化を示します しかし 強磁性体 Co と非磁性体 Pd が接合した界面にて磁化が垂直方向に誘起される電子論的なメカニズムについて 今まで明確ではありませんでした 特に Pd のスピン軌道相互作用が重要な役割を果たすとされてきましたが 軌道の役割については詳細については調べられていませんでした 研究チームは 電子軌道が作る磁気モーメントを調べられる XMCD に着目しました 特に Co と Pd を 1 回の測定にて 同条件で比較できる特徴があることに着目し 軌道の異方性を詳細に調べました 方位に依存した軌道磁気モーメントの分布をそれぞれの元素について調べ Co では異方的な分布をしており Pd では等方的な分布であることが判りました この解釈は XMCD のみでなく 第一原理計算により明らかになりました 特に 界面の Co と Pd 原子中の電子の軌道混成により Co の軌道磁気モーメントが膜垂直方向に大きくなることを見出しました また Pd 原子中の電子では スピンが反転した状態が四極子のように分布していることが安定であることを見出しました これらのことは Fe や Co などの磁石の性質を持つ 3d 元素と Pd, Pt などの貴金属の元素の性質が合わさって出現する垂直磁化の起源に迫るものであり 今後のデバイス設計に向けた界面の電子状態の理解に指針を与えるものとなります 本研究は 磁気記録やスピントロニクスの研究にて広く用いられている CoPd を用いた材

料設計 素子設計を行う上で 極めて重要な指針を与えるものです また 近年注目を集めている界面でのトポロジカルな性質の観測 操作にも有用な研究基盤になりうるものです 垂直磁化を用いた高記録密度を可能にする素子設計 近接効果がもたらす界面での誘起磁性に関する研究の進展が期待されます 今後 界面のスピンと軌道状態を人工的に設計することができ 今までにない新しい磁石の性質の操作に関する研究が拓けるものと期待されます 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Scientific Reports 論文タイトル :Anatomy of interfacial spin-orbit coupling in Co/Pd multilayers using X-ray magnetic circular dichroism and first-principles calculations 著者 : 岡林潤 三浦良雄 宗片比呂夫 6. 注意事項 : 日本時間 5 月 29 日 ( 火 ) 午後 6 時 ( 現地英国夏時間 5 月 29 日 ( 火 ) 午前 10 時 ) 以前の公表は禁じられています 7. 問い合わせ先 : ( 研究に関すること ) 東京大学大学院理学系研究科スペクトル化学研究センター准教授岡林潤 ( おかばやしじゅん ) TEL:03-5841-4418 E-mail:jun@chem.s.u-tokyo.ac.jp 海外出張中のため メールでご連絡ください ( 報道に関すること ) 東京大学大学院理学系研究科 理学部広報室 TEL:03-5841-0654 E-mail:kouhou.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp 東京工業大学広報 社会連携本部広報 地域連携部門 TEL:03-5734-2975 E-mail: media@jim.titech.ac.jp

8. 用語解説 : 注 1 放射光電子を光とほぼ等しい速度まで加速し 電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する 指向性が高く強力な電磁波のこと 遠赤外から可視光線 軟 X 線を経て硬 X 線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため 原子核の研究からナノテクノロジー バイオテクノロジー 産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている タンパク質の結晶構造解析の分野でも大きな成果をあげている 注 2 X 線磁気円二色性 (XMCD:X-ray Magnetic Circular Dichroism) 放射光から出る左右円偏光により元素の内殻から遷移する吸収スペクトルを測定する 左右円偏光による各元素の吸収強度の違いが XMCD である これにより 元素別の磁気状態について知ることができる 注 3 第一原理計算物質を構成する基本粒子である原子核と電子の運動 及びその間に働く相互作用のみを入力パラメータとして物質の性質を探る物理計算手法 実験とは独立して近似の範囲内では非常に高精度に 物質の物性を計算することができる

9. 添付資料 : 図 1 (a) 設計した構造の模式図 Co と Pd 層が原子レベルで堆積している (b)co, Pd の各元素における円偏光による X 線吸収スペクトル ( 上段 ) と X 線磁気円二色性スペクトル ( 下段 ) 赤 ( 実線 ) と青 ( 点線 ) は左右円偏光の違いに相当する (c)xmcd および第一原理計算から得られた界面近傍の Co と Pd 原子の軌道状態の模式図