ミカンの隔年結果 (alternate bearing) 4 回生毛利 1. 隔年結果とは果樹において 一年おきに豊作不作を繰り返す現象のこと 果樹農家の経営を圧迫する要因になっている 果樹のうちでも リンゴ カキ ミカンなどのように開花期から収穫期までの期間の長い種類でこの習性が強いと言われる また 同じ果実でも品種によって強さが異なる ( 温州ミカンでは 普通温州の方が早生温州より強い ) さらに 隔年結果の強さは樹齢によっても異なり 若い時は弱く 老齢になるに従って次第に強くなる傾向がある 2. 階層木 1 本 1 本のレベル ( 個体レベル ) 園のレベル 日本のレベルでも隔年結果が起きている ( 個体レベルなどといった表現は一般に使われているものでなく ここで勝手に使っている ) 1
収穫量 (kg) 神奈川県のミカン園 3000 2500 2440 2240 2000 1500 1840 1660 1000 500 0 18 19 20 21 平成 3. 原因原因についてはまだ分かっていないこともあるが ここでは調べたり 考えた結果 推定される原因を述べる 個体レベル大ざっぱに言うと 表年に木が実をつくりすぎて 負担がかかり その翌年に休むため起こる このように 隔年結果の原因は 果実がなると 翌年のための花芽の形成が阻止される ためであるが この作用が起こる理由は以下のようなものが考えられる 1 養分競合果実を発育 成熟させるためには大量の養分が必要であるが 果実が多すぎると樹体内の養分 ( 特に炭水化物と窒素 ) が欠乏し 翌年のための花芽の形成がおこなわれにくくなる また 収穫を遅らせると 貯蔵養分の減少が花芽の分化と発達を制限するため 翌春の着花量は減少し 収量が減る ( この傾向は晩生品種ほど強い ) 2 植物ホルモン樹体内のジベレリンの濃度の変化も隔年結果の関わっていると考えられている 過剰な着花や着果は樹体のジベレリンの濃度の上昇を招き花芽分化を抑制する 一般には 発育中の種子によって生産されるジベレリンが樹体に移行する 単為結果の温州ミカンでは 花器や幼果などの急速に発育する生殖器官でもジベレリンの生産が行なわれ 枝梢 樹体のジベレリン濃度が上昇する また 着果負担の大きい枝では アブシジン酸のレベルが高く 花芽分化を抑制する原因になっている可能性がある 1 2 の原因はそれだけで 花芽の形成を完全にコントロールするものでない すなわち 1 において 果実が無いだけで花芽の形成が行われる訳でないし 植物ホルモンが多いだ けで 花芽の形成が全く行われない訳ではない 2
この作用により ミカンは隔年結果を起こしやすいが ある年が表になるか裏になるかは 何らかのきっかけが必要になる 以下では ある年が表年になる隔年結果になるのか ある年が裏年になる隔年結果になるのかを 表裏になるのか 裏表になるのかと表現する 個体のレベルにおいて 隔年結果が起きやすい理由は難しいので これ以上考えないことにして 個体レベルの隔年結果性を受け入れ 園レベルでの隔年結果について考察する 園レベル個体レベルでは上記の理由で隔年結果が起こるが もしその個体レベルの隔年結果が 木ごとに ( 表裏で起こるか 裏表で起こるかが ) 全くランダムなら 園レベルでは隔年結果はなくなると考えられる ところが 園レベルでも隔年結果が見られることから 園のほとんど木の隔年結果が同じ原因から誘発される事が分かる その原因には 開花から着果期の高温による異常落果 ( その年が裏に ) 夏秋期の乾燥による樹勢の低下 ( その年が裏に ) 凍害による落葉に伴う花数の減少 ( その冬の次の収穫時が裏 ) 台風 潮風害 ( その年が裏に ) 梅雤期の長雤による日照不足と低温 ( その年が裏に ) などがあり これらのきっかけである年が表か裏か決まると その後は隔年結果の振幅が個体レベルの作用でさらに拡大していく 木同士の相互作用はない?( 個人的にあって欲しいw) 日本レベル 3
4. 対策 A. 個々の木に 連年均一に着果させる方法 摘果 摘花 摘蕾表年に 果実を成長する前に間引いて 負担を軽くする事で 翌年の裏年の程度を軽くする その年の気象条件の変動による木の生長への影響も考慮する必要がある 摘果の程度は 20~25 葉に1 果を残す程度 摘果の時期は早いほど効果が大きい 収穫木に負担をかけないような収穫時期の設定をする 収穫時期が遅れると 翌年の着花数が少なくなるので 収穫時期を遅らせないことが隔年結果の対策になる 具体的には 表年には早めに収穫すべき 剪定 施肥剪定の程度 施肥の管理を行なって 着果量を適正に保つ 具体的には 剪定は表年のあとには結果枝を 裏年のあとには発育枝を多く間引く ( 果実を直接担う枝を結果枝といい 花や果実をつけない枝を発育枝という 果実を収穫した後の結果枝には翌年に花がつかなで発育枝のみが発生する 一方 発育枝からは 果実を担う結果枝が発生する ) 剪定は花芽数を減らせるが 葉数も減少させる欠点がある 施肥は 表年の春に窒素を 秋にリン酸 カリを多く施す 裏年には反対に施肥の量を減らす 樹間 木の間の距離を十分広く保つ B. 木 or 枝別に隔年に着果させ 園地単位で収穫量の安定化を図る 青島の例 隔年結果性の強い温州ミカンの晩生品種を あえて木 or 枝別に隔年に着果させ 園地単位で収穫量の安定化を図っている 5. 隔年結果についての考察隔年結果は果実のみで起こり 野菜等にはない これは 野菜が一年を周期に子供を作っているため 自分の身を賭けてでもその年に必ず子孫を残さないといけないのに対して 果実は木なので 何十年の間に総合的にたくさんの子孫を残せばよいという違いがあるからである しかし 木だからといって 隔年結果であってもいいが 隔年結果である必要はない よって なんらかの理由で隔年結果で子孫を残したほうが有利だから 隔年結果になっていると考えられる 4
温度 ( ) 6. 省農薬ミカン園省農薬ミカン園の品種は温州ミカンの興津早生で 1973 年に植えられた 特徴として 以下の点が挙げられる 他の園より 隔年が激しい 調査区域の方が 下の園より隔年結果が激しい まず 木のほとんどが今の隔年結果の裏表をとるようになったきっかけとしては 木が若いときの 1970 年代になんらかの原因があったと思われる たとえば 1970 年代の気温のデータは以下のようになっている 1.5 日本の平均気温 1 0.5 0 1970 年 -0.5-1 1972 年 1974 年 1976 年 1978 年 1980 年 1982 年 1984 年 1986 年 1988 年 1990 年 年 1992 年 1994 年 1996 年 1998 年 2000 年 2002 年 2004 年 2006 年 2008 年 2010 年 省農薬ミカン園の隔年結果の振れ幅が大きい理由 対策 収穫が遅くなっているから? 調査木が多い上の園は農薬ゼミが収穫の関係で 下の園より収穫が遅め? したがって 隔年結果が強くなっている? 対策としては早く収穫する これから 世代交代のため 新しい木を植えることが多い 新しい木を逆隔年にできるなら 園全体として 隔年を抑えられる 5
追記: 出た意見等 今年( 表年 ) は収穫を早めてみる 土壌の深さは隔年と関係がないのか 青島のように園単位で隔年を抑えるにはどのようにしたらよいのか? 隔年結果は他の木にはないのか? 花粉は隔年になったりしてないか? 植物ホルモンとか使って 木同士が相互作用したりしてないか? 栄養の競合で木同士の相互作用が起こってないか? 早生なのに収穫が遅いと 隔年結果がひどくなったりしないか? 植えてから いつくらいに表裏 or 裏表がきまるか? 参考文献 農林水産省/ 作況調査 ( 果樹 ), http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kazyu/index.html 猪崎政敏, 果樹園芸 わかりやすい栽培の理論と実際, 地球社, 昭和 61 年 水谷房雄他, 最新果樹園芸学, 朝倉書店, 2002 北川博敏 岩垣功 福田博之, 園芸の世紀 3 果物をつくる, 八坂書房, 1995 wikipedia 気象庁, http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/list/an_jpn.html 農林中金研究所, http://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0208re1.pdf 6