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談会提供 : サノフィ株式会社 これからの日本人の脂質代謝異常症の治療戦略を考える ~ 家族性高コレステロール血症を見逃さないために ~ ROUND TABLE DISCUSSION 座席者東京女子医科大学医学部循環器内科講師出座長 寺本民生先生帝京大学臨床研究センターセンター長 Alberico L. Catapano 先生 President of EAS, University of Milan, Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences 池脇克則先生防衛医科大学神経 抗加齢血管内科教授 佐藤加代子先生 SAJP.ALI.15.08.2325

FH を見逃さないためにはどうすればよいのか 寺本本座談会では家族性高コレステロール血症 (FH) の診断と治療について話し合っていきます FHでは動脈硬化が進展しやすく 若年時から心血管イベントの発症リスクが高い病態です しかしながらその診断率は著しく低い寺本民生先生のが国際的にも大きな課題であり 日常診療のなかでFHを見逃さないことが重要です まず池脇先生に FHの診断について解説していただきましょう 池脇 FHの診断率を高めるためには FHが疑われる患者が多い集団を対象にスクリーニングを行うのが効率的です 例えば心筋梗塞を発症し LDL-Cが高値の症例ではFHを疑い 腱黄色腫の有無を確認し 診断に必要な検査や問診を行うとよいでしょう プライマリケアでは 未治療時のLDL-C180mg/dL 以上で 他に FHを疑う所見があれば 専門医に紹介してほしいと思います また FHを小児のうちに見つけ出すためには 小児のワクチン接種のときに LDL-Cを測定するのがよいと考えています 寺本池脇先生は先日 欧米の先生方とFHに関して議論する機会があったそうですね 池脇はい 欧米の専門医とFHの診断と治療に関する意見交換をしてきました 欧米では 臨床診断基準 (Dutch Lipid Clinic Networks Diagnosis) を基本として 遺伝子診断が利用可能ならば 積極的に遺伝子検査を行う時代になりつつあります 日本では臨床診断が中心で 臨床診断基準もシンプルです 未治療時のLDL-C180mg/dL 以上 腱黄色腫 FHまたは早発性冠動脈疾患の家族歴のうち 2つ以上を満たせばFHと診断できます 1) また FHのなかでも重症例 つまり冠動脈疾患の発症リスクが高い 2

集団をどのように考えるかという質問には 最大限のLDL-C 低下療法を行っても LDL-Cが管理目標値よりも50% 以上高い患者 という意見が多くを占めました 寺本わが国のFHのLDL-C 管理目標値は100mg/dL 未満ですから 50% 以上高いということは LDL-Cが180 200mg/dL 以上だと重症例ということになりますね そうした患者は少なくないと思います 池脇また 欧米の専門医の先生方は小児に対するスタチン使用について肯 Alberico L. Catapano 先生 定的で 治療開始年齢は家族歴やリスク因子の保有状況から判断すべきであり 他のリスク因子がない場合に治療開始時期を遅らせるという考えが多く 小児の場合 LDL-C 管理目標値は130mg/dL 未満とし 管理目標値を達成できるスタチン 用量を選択するという意見が多数を占めました 動脈硬化の進展度を評価する画像検査については 成人の全 FH 患者に対して行う リスク因子の保有例に対して行う という意見が半々でした 寺本欧州では遺伝子診断は高額ですか Catapano それほど高額ではありませんし 保険でカバーできる国もあります しかし 費用よりも遺伝子検査を誰が行うのかの方が大きな問題です 欧州ではFH 患者をレジストリに登録し 三次医療機関で遺伝子検査を行うことになり イタリアでは動脈硬化学会がレジストリを立ち上げました 検査費用も補助がありますから 安く済みます この方法であれば 遺伝子診断されたFH 患者をレジストリに多数登録することができます 寺本プライマリケアでは FHの疑い例をどのようにスクリーニングしているのですか 3

Catapano 欧州の診断基準は複雑ですから 簡便なスクリーニング法を推奨しています LDL-Cが高かったら 家族歴を聞き取り 角膜輪と腱黄色腫の有無を調べるようにお願いしています これならプライマリケアの診療の中で短時間に行えます 寺本日本のFH 診断基準とほとんど同じですね 他には患者の病歴聴取も重要で 早発性冠動脈疾患の既往があればFHが強く疑われます 佐藤先生は循環器内科でFHの頻度を調べられたそうですね 佐藤加代子先生 佐藤はい Preliminaryな結果ですが 当院で2013 年以降心血管疾患または動脈疾患で入院した連続患者 553 例を対象にFHの有無を調べたところ 驚くべきことに 37 例 (6.7%) がヘテロ接合体 FHと診断されました 心血管疾患既往患者で約 10 例に1 例に近い症例がヘテロ接合体 FHということになります もう1 つ驚いたことは ヘテロ接合体 FHと診断された患者のうち 脂質低下療法を受けていたのはわずか 27% だったことです 寺本対象は心筋梗塞や急性冠症候群 (ACS) の患者ですよね 佐藤 ACSや安定狭心症で入院された方が対象です 循環器内科では今まで以上にFHという疾患について啓発が必要だと感じました 寺本そして 心血管疾患患者にはFHが多いことを知ってもらう必要がありますね 4

欧州動脈硬化学会による FH 診療のコンセンサスレポート Catapano 欧州動脈硬化学会では FH 診療に関するコンセンサスレポートを作成しました 2) このレポートは将来のガイドラインのベースになるもので 作成には日本も含めて多くの国の医師に参加してもらいました その要点は FHは遺伝性の疾患であること 患者には腱黄色腫や角膜輪など特徴的な症状が現われること ヘテロ接合体とホモ接合体のLDL-C 値の分布には重複があることなどです 診断のポイントは家族歴です また FH 患者は胎内にいるときから LDL-Cが高く それが心血管疾患のリスクを上昇させます LDL-C180~190mg/dLと同程度であっても 中年以降に高 LDL-C 血症を発症した場合とは 動脈に及ぼす影響が全く異なります FH 患者では生まれる前から一生涯にわたり LDL-C 高値に曝露され続けた状態にあるのです そのため FH 患者を見つけたら 直ちに積極的にLDL-C 低下療法を行う必要があります 40 歳でFHと診断された方は すでに 40 年間 LDL-C 高値に曝露されてきたのですから 寺本 FHの診断率はどうなっていますか Catapano FHの頻度を500 例に1 例と仮定してFH 患者数を推定し 診断されている患者数の割合 ( 診断率 ) を調べたところ オランダでは 71% と良好でしたが 10% 未満の国がほとんどで 1% 未満の国が約半数を占め イタリアも日本もそこに含まれます ( 図 1) 2) しかし イタリアでは FHレジストリが 1 年前に開始され 遺伝子診断でFHと診断された登録例は当初の1000 例から4000 例に増えました 組織だった調査を行えば FHの診断率は高まっていくと期待しています 5

図 1 世界 200 の国および地域における FH 診断率 FH の頻度を 500 例に 1 例と仮定したときの推定患者数に対する FH 推定診断例数の割合 FH 推定患者数 FH 推定診断例数 33,300 9,900 600 15,600 123,600 92,200 22,200 10,900 11,100 100,000 45,000 14,100 130,900 46,300 121,000 5,700 621,200 68,600 254,800 34,300 381,500 214,900 オランダノルウェーアイスランドスイス英国スペインベルギースロバキアデンマーク南アフリカオーストラリア香港フランス台湾イタリアオマーン米国カナダ日本チリブラジルメキシコ 71% 43% 19% 13% 12% 6% 4% 4% 4% 3% 1% 1% 1% 数値は Livingston, Descamps, Humphries の報告に基づく 0 25 50 75 100(%) B.G. Nordestgaard et al, Familial hypercholesterolaemia is underdiagnosed and undertreated in the general population: guidance for clinicians to prevent coronary heart disease, Eur Heart J, 2013, Dec; 34(45): 3478-90a, by permission of Oxford University Press on behalf of the European Society of Cardiology. 6

Catapano もう一つ重要な点は FH 患者の総数です 全世界では3400 万人のFH 患者がいると推定されており この数値は単一遺伝子疾患としては最も多いものです 寺本 FH 患者をスクリーニングする方法も提示されていますね Catapano プライマリケア医の協力が何よりも重要です 同様に 循環器内科 心臓リハビリテーション 職場健診などもFHをスクリーニングするよい機会になるでしょう 特に循環器内科には未診断の FH 患者が数多くいると推定されます 我々のリコメンデーションは極めてシンプルです LDL-Cを測定し 病歴と家族歴を聞き取り 腱黄色腫と動脈硬化の有無など6 項目を調べます ( 図 2) 2) 該当する項目があれば FHの可能性は高いと考え 専門医に紹介すればよいのです 寺本 FHにおける脂質低下療法のエビデンスについても紹介していただけますか Catapano オランダではスタチン導入前後で FH 患者のイベント発生率が検討されていますが スタチン導入後には著しく低下したことが報告されています ( 図 3) 3) 南アフリカからの報告では未治療のホモ接合体 FH 患者は38 歳までに死亡しますが スタチンやエゼチミブを用いた脂質低下療法が導入された後には 生存期間は約 20 年延長し 70 歳まで生存した患者もいました 4) それでも生存期間中央値は約 40 年ですから まだまだ改善が必要だと思います こうした知見を基に 我々はコンセンサスレポートの中で治療アルゴリズムを提示しました 7

図 2 欧州動脈硬化学会が推奨する FH スクリーニングの 6 項目 小児 成人 FH 患者の家族でスクリーニングすべき項目 FH 家族歴 血清総コレステロール値 ( 成人 ) 310mg/dL 血清総コレステロール値 ( 小児 ) 230mg/dL 早発性冠動脈疾患 腱黄色腫 突然の早発性心臓死 Whom to screen: how do we recognize index cases? より作図 8

1.0 生存率(%1.0 生存率(%図 3 ホモ接合体 FH 患者において脂質低下療法性が予後に及ぼす影響 0.8 0.6 0.4 脂質低下療法非施行例 エンドポイント : 死亡 脂質低下療法施行例 0.2 0.0 0 )10 20 30 40 50 60 70 年齢 ( 歳 ) 0.8 0.6 0.4 脂質低下療法非施行例 エンドポイント : 主要有害心イベント 脂質低下療法施行例 0.2 0.0 0 )10 20 30 40 50 60 年齢 ( 歳 ) Frederick J. Raal et al, Reduction in Mortality in Subjects With Homozygous Familial Hypercholesterolemia Associated With Advances in Lipid-Lowering Therapy, Circulation. 2011 Nov 15;124(20):2202-7, 2011 American Heart Association, Inc. permission from Wolters Kluwer Health, Inc. 9

FH 患者の心血管イベントを抑制するために 池脇日本では小児にスタチンの使用には慎重です 安全性についてはどのようにお考えですか Catapano 小児に対するスタチンの使用経験についてはオランダで積極的池脇克則先生に検討されており 5 歳以上であれば安全性に問題はないとしています 佐藤 20 歳前後のFH 患者を数例診療しています LDL-Cは100mg/dL 未満または100~130mg/dL で管理していますが 頸動脈内膜中膜肥厚 (IMT) はすでに進展していました 脂質低下療法を強化すべきでしょうか Catapano FHでもハイリスク例では LDL-Cは70mg/dL 未満に管理したほうがよいと思います 佐藤プラークが認められた場合にはどうされますか Catapano プラークが存在すれば スタチンの使用を検討します 池脇画像検査を行いますか Catapano ルーチンでは行っていません しかし 超音波法でアキレス腱を調べるのはそれほど難しいことではありません 腱黄色腫が認められなくても 超音波検査で肥厚が確認できることがあります 寺本腱が肥厚している画像を患者に見てもらうと分かりやすいですからね 佐藤先生は若年の女性 FH 患者をどのように治療していますか 10

佐藤第一選択薬はレジンです 寺本最近ではエゼチミブも使用できるようになりました 私自身は 男児は 10 歳以上からスタチンを低用量で使用してもよいと考えていますが 女児や女性については妊娠希望があると判断は難しいと思います 池脇日本では妊娠の可能性のある女性にはスタチンは使用しないのが一般的です Catapano 動脈硬化の進展リスクを抑制するためには 早期からスタチンを投与し 妊娠希望があれば休薬期間を設ければよいと考えています 寺本出産を終えた女性では 積極的に治療することができると思います Catapano 先生は ハイリスクのFH 患者ではLDL-Cを70mg/dL 未満に厳格に低下させる必要があるとおっしゃいました FH 患者の LDL-C 値は通常 180mg/dLを超えていますが LDL-C 低下率はストロングスタチンで約 50% ストロングスタチンとエゼチミブを併用しても約 60% です これでは 70mg/dL 未満を達成することはできません Catapano スタチンやエゼチミブとは作用機序の異なる新しい脂質低下薬が必要だと思います 他にも ACS 患者などのハイリスク例でも 新しい治療の選択肢が必要だと思います ACS 患者のLDL-Cは一般にそれほど高くありませんが 既存の脂質低下薬では管理目標値が達成できない患者はいると思います そして LDL-Cは低ければ低いほど冠動脈疾患の発症リスクは低下しますから 70mg/dLは最低限達成しなくてはならない値だと考えています 佐藤 LDL-Cと冠動脈疾患の関連性は the lower, the better ですからね 寺本わが国では現在 小児 FHの診断基準 治療ガイドラインを作成中です こうした指針を提示することで FH 患者を早期に発見し 安全にLDL-Cを管理し 心血管イベントの発症を予防できるようになると思います 本日は活発な討論をありがとうございました 11

文献 1) 日本動脈硬化学会 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版 2)Nordestgaard BG, et al. Familial hypercholesterolaemia is underdiagnosed and undertreated in the general population: guidance for clinicians to prevent coronary heart disease: consensus statement of the European Atherosclerosis Society. Eur Heart J. 2013; 34: 3478-3490 3)Versmissen J, et al: Efficacy of statins in familial hypercholesterolaemia: a long term cohort study. BMJ 2008; 337: a2423 4)Raal FJ, et al. Reduction in mortality in subjects with homozygous familial hypercholesterolemia associated with advances in lipid-lowering therapy. Circulation. 2011; 124: 2202-2207 12