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北日本病虫研報 66( 別号 ):S1S6 Ann. Rept. Plant Prot. North Japan(Suppl.) 水稲品種 ひとめぼれ における薬剤茎葉散布による穂いもち防除効果 菅広和 1 冨永朋之 2 Efficacy of Foliar Fungicide Applications for Panicle Blast Control in Rice Cultivar Hitomebore Hirokazu KAN 1 and Tomoyuki TOMINAGA 2 2013,2014 年にプロベナゾール箱粒剤施用後, いもち病罹病株を接種源として設置し, 葉いもち発生量を変えた水稲品種 ひとめぼれ の栽培圃場で, 穂いもち防除 ( フェリムゾン フサライド水和剤茎葉散布 ) の有無と葉いもち 穂いもちの発生量および収量との関係を検討した. その結果, 出穂期の上位 3 葉での葉いもちの発生量が多くなると, 穂いもち防除を行っても十分な効果は得られず, 出穂期以降断続的に降雨日があった 2014 年は 2013 年に比べ, 穂いもちの防除効果は低かった. 収量 ( 精玄米重 ) は穂いもち被害度 ( 以下, 被害度 )10 未満の収量に比べ, 穂いもち防除の有無に関わらず被害度 20 で約 5%, 同 30 で約 10% 減収した. 穂いもち無防除では, 出穂期の上位 3 葉の病斑数が約 0.08 個 / 株および約 0.14 個 / 株の時, 被害度が 20 および 30 となった. Key words: control efficacy, foliar fungicide, Hitomebore, panicle blast, rice 水稲品種 ひとめぼれ は, 岩手県内において約 70% の作付比率を占める主要な品種である. 本品種はイネいもち病 ( 完全世代 :Magnaporthe oryzae, 不完全世代 :Pyricularia oryzae) に対する圃場抵抗性が葉いもち やや弱, 穂いもち 中 であり, 生産現場においては箱施用剤による葉いもち防除および水面施用粒剤による穂いもち防除を行う体系が普及している. 近年では葉いもちの発生が減少し, 一部の生産現場では穂いもち防除を省略している事例もみられている. 穂いもちの発生量と水稲収量の関係については, 勝部ら (4) の詳細な報告があるが, 現在の主力品種である ひとめぼれ について, 穂いもち防除を省略した場合の穂いもち発生量および収量に対する影響に関しては知見が少ない. 著者らは,2013 年に ひとめぼれ について, 葉いもち発生程度の異なる条件下で, 茎葉散布剤による穂いもち防除の有無と穂いもちの発生量の関係および収量 品質への影響を解析し, 本品種は穂いもち防除の省略により, 葉いもちが少発生でも穂いもちが多発する場合があること, 穂いもち被害度の増大に伴い収量 品質が低下することを報告した (3) が,2014 年も同様の試験を実施した. ここでは 2 カ年のデータを用いて葉いもち発生量の異なる条件下での穂いもち防除の有無と穂いもち発生量の関係および収量への影響について検討し, 葉いもち 穂いもち発生量の関係および穂いもち防除の効果について,2 カ年の違いを比較したので, その結果を報告する. 材料および方法試験は 2013 年および 2014 年に岩手県農業研究センター場内圃場 (4 圃場 ) で ひとめぼれ を栽培して実施した.2 カ年の試験圃場の耕種概要は第 1 表のとおりである. 施肥は,2 カ年とも基肥の N,P 2 O 5,K 2 O 施用量 (10a あたり ) を 6kg,9kg,9kg とした. また, 追肥 1) 岩手県農業研究センター Iwate Agricultural Research Center, Narita, Kitakami, Iwate, 024-0003 Japan 2) 岩手県農業研究センター現在 : 宮古農業改良普及センター岩泉普及サブセンター受理日 :2015 年 8 月 26 日 (Accepted: August 26, 2015) 注 ) 本稿は, 会報第 66 号 p.18 22 に掲載された同名の報文について, 誤植等があったため, 修正 再掲したものです. S1

は幼穂形成期に行い,N,P 2 O 5,K 2 O 施用量 (10a あたり ) を 2kg,0kg,2kg とした.10a あたりの移植箱数はおよそ 22 箱とした. 2013 年は各圃場を 8 試験区 (1 試験区の面積は 80 90m 2 程度 ),2014 年は各圃場を 6 試験区 (1 試験区の面積は 72 120m 2 程度 ) に分割して, 各試験区内の対角線上 5 カ所 20 株 (10 株 2 条 ), 計 100 株を対象に発病調査を行った. また, 各試験区の葉いもち発生量を調節するため, いもち病罹病苗 ( 岩手県農業研究センター保有菌株 ( レース 037.1) を噴霧接種, 設置時葉齢 4.0 前後,1 カ所あたりの病斑数が 5 10 個になるよう罹病苗の本数を調整 ) を各試験区内の調査対象株 (20 株 5 カ所 ) の中心に設置し, 接種した. 接種回数は 0 回,1 回,2 回とし, 第 1 図のように試験区を配置した.2013 年の接種日は,1 回区が 7 月 3 日,2 回区が 6 月 19 日と 7 月 4 日に,2014 年の同日は接種 1 回区が 7 月 4 日,2 回区が 6 月 19 日と 7 月 3 日であった ( 第 1 表, 第 1 図 ). 2カ年とも, 種子消毒にはイプコナゾール 銅水和剤 (200 倍,24 時間浸漬処理 ) を用いた. 葉いもち防除と して全区にプロベナゾール剤を処理し, 穂いもち防除としてフェリムゾン フサライド水和剤 ( 1,000 倍, 150L/10a) を出穂直前および穂揃期に動力噴霧器を用いて茎葉散布した ( 第 1 表 ). 調査は以下のとおり行った. 葉いもちについては, 2013 年は 8 月 8 日,2014 年は 7 月 30 31 日に調査対象全株 ( 一部,50 株または 25 株 ) について上位 3 葉の葉いもち病斑数を調査した. また, 穂いもちについては, 2013 年は 9 月 11 14 日に調査対象全株について,2014 年は 9 月 10 11 日に調査対象株の半数の 50 株 ( 一部, 25 株 ) について, 穂いもち程度別 ( 穂首, 枝梗 1/3 以上, 同 1/3 未満 ) 発病穂数を調査し, 穂いもち被害度 ( 穂首発病穂率 + 枝梗 1/3 以上発病穂率 0.66+ 枝梗 1/3 未満発病穂率 0.26) を算出した. 収量 品質に対する影響については,2013 年は 9 月 20 日に,2014 年は 9 月 17 日に各試験区の調査対象全株を刈り取り, 乾燥 調整後に精玄米重 (1.9mm 篩調製 ) および収量構成要素 ( 穂数, 一穂籾数, 登熟歩合, 千粒重 ) を調査した. S2

気象条件といもち病発生量の関係の解析には, 岩手県北上の AMeDAS データを用いた. 結果 1. 葉いもちと穂いもちの発生量の関係 2カ年の出穂期の葉いもち発生量 ( 上位 3 葉株あたり病斑数 ) と収穫期の穂いもち発生量 ( 穂いもち被害度 ) の関係を第 2 図に示した. 穂いもち無防除区では,2 カ 年とも出穂期の上位葉における病斑数が多いほど穂いもち被害度が高くなり, 葉いもち上位 3 葉株あたり病斑数 (x) の自然対数値と穂いもち被害度 (y) の間に統計的に有意な正の相関関係が認められた ( 第 2 表 ). 一方, 穂いもち防除区では,2013 年は葉いもち上位 3 葉株あたり病斑数 (x) と穂いもち被害度 (y) の関係が 1 次式に近似される正の相関関係であったのに対し,2014 年は穂いもち無防除区と同様に病斑数の自然対数値と穂 S3

いもち被害度の間に正の相関関係が認められた ( 第 3 表 ). また,2 カ年とも葉いもち発生量の少ない条件下では, 穂いもち防除により穂いもち発生量が抑制されたが, 葉いもち上位 3 葉株あたり病斑数が 0.40 個以上では穂いもち防除を実施しても, 穂いもち被害度が 20 を超える試験区が認められた ( 第 2 図 ). 2. 穂いもち発生量と収量の関係 2 カ年の穂いもち発生量 ( 穂いもち被害度 ) と精玄米重 (1.9mm 篩調製 ) の関係を第 3 図に示した. 穂いもち被害度 (x) と精玄米重 (y) の間には, 有意な負の相関関係が認められた. また, 穂いもち被害度と収量構成要素の関係では, 被害度の増大に伴い登熟歩合の低下および屑米重歩合の増加が認められた ( 第 4,5 図 ). S4

考察本試験における穂いもち防除の有無と葉いもちおよび穂いもち発生量の関係について見ると, 葉いもち発生量の少ない条件下では, 穂いもち防除の実施により穂いもちの発生量が抑制される傾向が認められたが, 葉いもち発生量が多くなると穂いもち防除 ( 出穂直前および穂揃 期の茎葉散布 ) を実施しても, 穂いもちの防除効果が十分得られなかった ( 第 2 図 ). すなわち, ひとめぼれ のようにいもち病圃場抵抗性が高くない品種のいもち病防除においては, 葉いもち防除が重要であることが示され, このことは, 既報の太田ら (7) や早坂 (1) および岩舘ら (2) の解析結果と一致した. S5

さらに, 試験を実施した 2013 年と 2014 年の葉いもち 穂いもちの発生量および穂いもち防除の関係を比較すると,2 カ年とも葉いもち発生量が多い条件下では, 穂いもち防除の効果が十分得られなかったが, 特に 2014 年は葉いもち発生量と穂いもち発生量の関係が, 穂いもち防除の有無に関わらず対数関数に近似される相関関係を示し,2013 年の結果と比較して穂いもち防除の効果がより低かった. この原因は,2 カ年の出穂期以降の降雨日数の多少によるものと考えられる. すなわち,2013 年は出穂前 7 月第 6 半旬 8 月第 1 半旬にかけて降雨日が続いたものの, 出穂 2 週間後まで降雨日が少なかったのに対し,2014 年は出穂期間中の降雨は少ないものの, 出穂 3 週間後まで断続的に降雨日があったため, 穂いもちの後期感染に適した気象条件 (5) であったと考えられる ( 第 6 図 ). 本試験では,2 カ年とも穂いもち発生量が増加するほど登熟歩合が低下し, 屑米重歩合が増加して収量が低下した. このことは佐久間らの山形県における はなの舞 および ササニシキ についての報告 (8) や向畠らの富山県における コシヒカリ についての報告 (6) と類似した結果となった. 本試験における穂いもち被害度と減収程度の関係を解析した. 穂いもち被害度が低い条件では穂いもち被害以外の要因が収量に影響していることも考えられるため, ここでは穂いもち被害度 10 未満の試験区の精玄米重の平均値を基準収量とした. すなわち, 各年における基準収量 ( 2013:564kg/10a, 2014:577kg/10a) に対して,5% 減収となるときの穂いもち被害度が 2013,2014 年でそれぞれ 21,17 であり, 10% 減収となるときの被害度が 33,27 であった. この結果から, ひとめぼれ では概ね穂いもち被害度 20 で 5%, 被害度 30 で 10% の減収となることが明らかになった. また, 穂いもち無防除区の葉いもち発生量と穂いもち発生量の関係から, 穂いもち被害度 20 に達するときの葉いもち発生量 ( 上位 3 葉株あたり病斑数 ) は 2013, 2014 年でそれぞれ 0.079 個 / 株,0.083 個 / 株であり, 穂 いもち被害度 30 に達するのは 0.139 個 / 株,0.144 個 / 株であった. すなわち, 穂いもち防除を実施しない場合, 出穂期の上位 3 葉に葉いもち病斑が約 0.08 個 / 株あると穂いもち被害度 20 に達し, 約 0.14 個 / 株で被害度 30 に達すると考えられ, 上位葉に葉いもちがわずかでも発生していれば減収被害に至る可能性が示された. 引用文献 1) 早坂剛 (2003) 山形県庄内地域における過去 31 年間 (1971 年 2001 年 ) のいもち病発生の特徴. 北日本病虫研報 54:7-11. 2) 岩舘康哉 千葉克彦 佐々木直子 冨永朋之 (2004)2003 年の岩手県における穂いもちの多発生と防除薬剤による抑制効果. 北日本病虫研報 55:11-15. 3) 菅広和 (2014) 水稲品種 ひとめぼれ における葉いもち発生量と穂いもち防除の効果および収量 品質との関係. 北日本病虫研報 65:191( 講要 ). 4) 勝部利弘 越水幸男 (1970) いもち病による水稲の被害機構に関する研究第 1 報穂いもちの罹病率と収量構成要素ならびに玄米品質との関係. 東北農試報告 39:55-96. 5) 古賀博則 小林尚志 吉野嶺一 (1988) 自然感染による穂いもち発生と気象要因. 北陸病虫研報 36:1-5. 6) 向畠専行 安岡陽子 守川俊幸 関原順子 (2009) イネのいもち病と紋枯病が米の収量と外観品質および食味に及ぼす影響, 富山県農総セ農研研報 1:11-18. 7) 大田義雄 越水幸男 (1968) 穂いもち防除効果と葉いもち防除との関連. 北日本病虫研報 19:14. 8) 佐久間比路子, 田中孝, 横山克至, 遠藤秀一, 斎藤隆, 藤田靖久 (1992)1991 年の山形県におけるいもち病の発生様相と収量品質への影響 北日本病虫研報 43:24-26. S6