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[ ここに入力 ] 本件リリース先 2019 年 6 月 21 日文部科学記者会 科学記者会 名古屋教育記者会九州大学記者クラブ大学プレスセンター 共同通信 PR ワイヤー 2019 年 6 月 21 日立正大学九州大学国立研究開発法人海洋研究開発機構名古屋大学 立正大 九州大 海洋研究開発機構 名

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2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

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されており 日本国内の低気圧に伴う降雪を扱った本研究でも整合的な結果が 得られました 3 月 27 日の大雪においても閉塞段階の南岸低気圧とその西側で発達した低気圧が関東の南東海上を通過しており これら二つの低気圧に伴う雲が一体化し 閉塞段階の低気圧の特徴を持つ雲システムが那須に大雪をもたらしていま

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大規模アンサンブルシミュレーションによる熱帯低気圧の将来変化 吉田康平, 杉正人, 水田亮, 石井正好 ( 気象研究所 ) 村上裕之 ( プリンストン大学, 米国地球流体力学研究所 ) 1. はじめに地球温暖化の熱帯低気圧 ( 以下 台風と表記 ) への影響は 科学的重要性に加え その社会的な影響から大きな関心を集める話題である 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第五次評価報告書では 温暖化の進行とともに地球全体での台風の発生数が減少または実質的に変化しないことと 個々の台風の最大風速や降水量が強まる可能性が高いことが示されている 一方 猛烈な台風の数の変化については 一部の海域で増加する可能性があるとしているものの 台風の強度の再現の難しさ データのサンプル数の不十分さ 海面水温分布予測の不確実性などにより 不確実性が大きいと考えられている そこで本研究は高解像度全球モデルによる将来の海面水温の不確実性を取り込んだ大規模アンサンブルシミュレーションデータセット 地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース ( 以下 d4pdf; http://www.mirocgcm.jp/~pub/d4pdf/) を用いて熱帯低気圧の詳細な将来変化とその不確実性の評価を行うことを目的とする アンサンブルを行い 将来実験については 第 5 次結合モデル相互比較プロジェクト (CMIP5) の RCP8.5 シナリオ実験に参加した 6 種の大気海洋結合モデルの海面水温上昇の気候値を長期トレンドを除去した過去実験の海面水温に与えて 2090 年相当の環境で 60 年間の 90 メンバーアンサンブルを行った これらの海面水温は産業革命前 (1850 年相当 ) に対して 全球平均地表気温が約 4 上昇になるようにスケーリングされている より詳細な実験設定については Mizuta et al. (2017) に記載されている 本研究では衛星観測との整合性から 1979-2010 年と将来実験の最後の 32 年間を使用した 台風のベストトラックデータとして Unisys Weather のデータを用いた シミュレーション結果からの台風の抽出は Murakami et al. (2012) の手法を用いた 台風の風速強度の再現性の難しさから 本研究ではシミュレーションの台風の風速強度の累積確率を観測と比較し補正する手法 (Sugi et al., 2016) を用いた ここでは海域と緯度幅 5 度ごとにシミュレーションと観測の累積確率を比較し補正している 2. 実験方法及びデータ 解析手法 d4pdf で使用したモデルは気象研究所 60km 格子全球大気モデル MRI-AGCM3.2H である 現在実験 (1951-2010 年 ) については 海面水温 海氷データに COBE-SST2 (Hirahara et al., 2014) をベースに時空間的に摂動を加えたものを用いて 100 メンバー 3. 結果現在実験と将来実験で台風の年間発生数の確率分布を図 1に示す 観測の場合は限られた年数 ( 本研究では 32 年間 ) のデータしかないため 凸凹の大きい粗い確率分布になる (Yoshida et al., 2017) 一方 d4pdf の現在実験では観測の 100 倍程度のデータ

があるため非常に詳細で滑らかな確率分布を描くことができる 将来実験の確率分布についても同様である 全メンバー実験の結果に比べ少ないアンサンブルメンバーでは確率分布の推定誤差が大きく ( 緑 黄の陰影 ) メンバーが増加するごとに小さくなっているのがわかる 結果として 将来気候では台風の地球全体の発生数が現在気候より 33% 程度減少する 他の台風の指標に関しては 全球の猛烈な台風 ( 地表最大風速 59m/s 以上 ) の数は 13% 程度減少し これまでの多くの研究が支持する結果とは異なる 生涯最大地表風速強度は 9% 程度増加 ピーク時の台風中心から 200km 以内の降水量は 28% 程度増加する 注意すべき点として IPCC 第 5 次評価報告書の結果は主に本研究で用いている RCP8.5 シナリオよりも温暖化の程度が小さい SRES-A1B シナリオを用いていることがある 温暖化レベルの違いは台風各指標の変化率に影響を与え 猛烈な台風の増減の符号も変えている可能性がある (Yoshida et al., 2017) そして海域ごとでも猛烈な台風の発生数が統計的に有意な変化をしていることもわかる ( 図 2) これらの変化の幅には各々の気候モデルで予測された将来の海面水温上昇分布の不確実性が主に影響し 特に北東太平洋と北大西洋の変化率は値が大きくばらつくことが示され 海域ごとの台風の変化を評価するには将来の海面水温上昇の不確実性を考慮することが重要であることも示された (Yoshida et al., 2017) 全ての台風の地点ごとの存在頻度は熱帯北西太平洋など台風が多い熱帯を中心に全球的に減少し 過去の研究と同様にハワイ周辺で増加する ( 図 3) 猛烈な台風はフィ リピン海などを中心に全体として減少するが 日本の南海上からハワイ周辺 メキシコの西海上にかけての幅広い領域で増加する (Yoshida et al., 2017) 猛烈な熱帯低気圧の存在頻度の変化について熱帯低気圧の維持発達に影響する環境場の変化から考察する ( 図 4) 猛烈な台風が増加する領域において 海面水温は 2-3 度上昇し 27 度以上の領域に覆われる ( 図 4b) 鉛直流は上昇流偏差を示し 水平風鉛直シアーは弱化した ( 図 4c,d) これらは全て猛烈な熱帯低気圧の頻度増加と整合的な変化をしていることがわかる (Yoshida et al., 2017) 4. まとめ本研究では大規模アンサンブルシミュレーションデータセット d4pdf を用いて台風の将来変化について調べた その結果 RCP8.5 シナリオの 21 世紀末相当の気候状態において 全球の全ての台風と猛烈な台風はそれぞれ 33% 13% 程度減少し ピーク時の最大地表風速と降水は 9% 28% 程度強化された 海域別に見た猛烈な台風の数の変化は北東太平洋 北大西洋で海面水温昇温パターンに由来する不確実性が大きく 海域別の台風の将来変化は様々な海面水温上昇パターンを考慮する必要があることが示された 地点ごとの猛烈な台風の存在頻度はフィリピン海付近を中心として全球的に減少するが 日本の南海上からハワイ付近 メキシコの西海上にかけて増加することが明らかになり 海面水温や大気循環などの環境場の変化が頻度増加に整合的な変化をしていることが明らかになった 今回の結果は これまでない大量アンサンブル実験による結果を用いている点は重要だが

単独のモデル結果であることに注意が必要である 今後は多数のモデルによる相互比較によって妥当性を検証していく必要がある また本研究の猛烈な台風が減るという結果と 過去の温暖化台風研究の増加するという結果との関係を明らかにすべく 温暖化の程度と台風の変化の関係について調べていく必要がある 謝辞本研究は国立研究開発法人海洋研究開発機構の 地球シミュレータ特別推進課題 の一つとして実施し 文部科学省の統合的気候モデル高度化研究プログラムならびに地球情報統融合プログラム MEXT/JSPS 科研費 15H05816 の協力を得た 参考文献 Hirahara, S., M. Ishii, and Y. Fukuda (2014), Centennial-scale sea surface temperature analysis and its uncertainty, J. Clim., 27(1), 57 75, doi:10.1175/jcli-d-12-00837.1. Mizuta, R. et al., 2017: Over 5000 years of ensemble future climate simulations by 60 km global and 20 km regional atmospheric models. Bull. Amer. Meteor. Soc., doi: 10.1175/BAMS-D-16-0099.1. Murakami, H., R. Mizuta, and E. Shindo (2012), Future changes in tropical cyclone activity projected by multi-physics and multi-sst ensemble experiments using the 60-km-mesh MRI-AGCM, Clim. Dyn., 39(9 10), 2569 2584, doi:10.1007/s00382-011-1223-x. Sugi, M., H. Murakami, and K. Yoshida (2016), Projection of future changes in the frequency of intense tropical cyclones, Clim. Dyn., 1 14, doi:10.1007/s00382-016-3361-7. Yoshida, K., M. Sugi, R. Mizuta, H. Murakami, and M. Ishii, 2017: Future changes in tropical cyclone activity in high-resolution largeensemble simulations, Geophys. Res. Lett., 44, 9910-9917, doi:10.1002/2017gl075058.

図 1 現在実験と将来実験 ベストトラックデータにおける地球全体での熱帯低気圧 ( 台風 ) の年間 発生数の相対確率分布 陰影は 3 メンバーと 30 メンバーによる確率分布の不確実性 縦の破線はそ れぞれ現在と将来実験の平均年間発生数 図 2 海域別に見た猛烈な台風の発生数の将来変化率を図 3 下段の存在頻度マップ上に示している 各々の横実線とグラフ下側の数値は現在実験と将来実験の期間平均 アンサンブル平均した変化率を示す グラフ左上の数値は現在実験における 1 年あたりの猛烈な台風発生数を示す 青 緑 赤のエラーバーは将来変化率の幅を 灰色は現在実験の変動の大きさを示している

図 3 緯度経度 2.25 度 2.25 度格子で見た熱帯低気圧の存在頻度の将来変化で統計的に有意な変化 をしている領域のみ描いている ( 上段 ) すべての強度の台風 ( 下段 ) 地表最大風速が 59 m/s を超え る猛烈な台風 図 4 台風の維持発達に影響する環境場の変化 (a) 猛烈な台風の存在頻度変化 ( 図 3 下段と同様 )(b)( 等値線 ) 将来気候の海面水温 ( 色 ) 現在気候からの差 (c)500hpa 高度における鉛直流の変化 (d) 水平風の鉛直シアーの変化で 850hPa と 200hPa の水平風の差で計算 全ての図で北太平洋の猛烈な台風の増加域を囲っている