知識工学 II ( 第 2 回 ) 二宮崇 ( ) 論理的エージェント (7 章 ) 論理による推論 命題論理 述語論理 ブール関数 ( 論理回路 )+ 推論 ブール関数 +( 述語 限量子 ( ) 変数 関数 定数 等号 )+ 推論 7.1 知識

Similar documents
融合規則 ( もっとも簡単な形, 選言的三段論法 ) ll mm ll mm これについては (ll mm) mmが推論の前提部になり mmであるから mmは常に偽となることがわかり ll mmはllと等しくなることがわかる 機械的には 分配則より (ll mm) mm (ll mm) 0 ll m

離散数学

論理学補足文書 7. 恒真命題 恒偽命題 1. 恒真 恒偽 偶然的 それ以上分割できない命題が 要素命題, 要素命題から 否定 連言 選言 条件文 双 条件文 の論理演算で作られた命題が 複合命題 である 複合命題は, 命題記号と論理記号を 使って, 論理式で表現できる 複合命題の真偽は, 要素命題

数理言語

スライド 1

Microsoft PowerPoint - logic ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - design-theory-6.pptx

Microsoft PowerPoint - logic.pptx

1 ICT Foundation 命題論理の基礎 Copyright 2010, IT Gatekeeper Project Ohiw a Lab. All rights reserved.

PowerPoint プレゼンテーション

Taro-Basicの基礎・条件分岐(公

31 33

Microsoft PowerPoint - fol.ppt

Microsoft PowerPoint - HITproplogic.ppt

計算機基礎論

Microsoft PowerPoint - logic ppt [互換モード]

U であるから, {, 5, 7, 9} である よって, {, 9} となり, U ( ) {,, 4, 5, 6, 7, 8} {, 4, 5, 7, 8} であるから, {,, 4, 5, 7, 8, 9} ( 注 )(4) では, ド モルガンの法則 を使って求めてもよい 問題 6 ( 前問

ソフトウェア基礎技術研修

Handsout3.ppt

授業のあとで 情報処理工学 : 第 3 回 10 進数を 16 進数に変換する方法と 16 進数を 10 進数に変換する方法は 標準的な方法でも良いですか? 履修申告は済みましたか? 割り算 方法 ) 54 余り 6 16 ) 3 余り 3 ) 0 第 4 回へ 201

プログラミングA

(Microsoft Word - \230_\227\235\201i6\224N7\214\2167\223\372\201j\202\273\202\3141.doc)

Microsoft Word - 19-d代 試é¨fi 解ç�fl.docx

Microsoft PowerPoint - 説明3_if文switch文(C_guide3)【2015新教材対応確認済み】.pptx

プログラミングA

Microsoft PowerPoint - LogicCircuits01.pptx

(Microsoft PowerPoint - 1\226\275\221\350\202\306\217\330\226\276.pptx)

レイアウト 1

P1.\..

10_11p01(Ł\”ƒ)

P1.\..

Q34Q35 2

オートマトン 形式言語及び演習 1. 有限オートマトンとは 酒井正彦 形式言語 言語とは : 文字列の集合例 : 偶数個の 1 の後に 0 を持つ列からなる集合 {0, 110, 11110,

Microsoft PowerPoint - class04.ppt

Q E Q T a k Q Q Q T Q =

Microsoft PowerPoint - 4.CMOSLogic.ppt

プログラミング入門1

Microsoft Word - 実験4_FPGA実験2_2015

ボルツマンマシンの高速化

オートマトン 形式言語及び演習 3. 正規表現 酒井正彦 正規表現とは 正規表現 ( 正則表現, Regular Expression) オートマトン : 言語を定義する機械正規表現 : 言語

スライド 1

4 分岐処理と繰返し処理 ( 教科書 P.32) プログラムの基本的処理は三つある. (1) 順次処理 : 上から下に順番に処理する ぶんきそろ (2) 分岐処理 : 条件が揃えば, 処理する はんぷく (3) 反復処理 : 条件が揃うまで処理を繰り返す 全てのプログラムは (1) から (3) の

nlp1-04a.key

書式に示すように表示したい文字列をダブルクォーテーション (") の間に書けば良い ダブルクォーテーションで囲まれた文字列は 文字列リテラル と呼ばれる プログラム中では以下のように用いる プログラム例 1 printf(" 情報処理基礎 "); printf("c 言語の練習 "); printf

2-1 / 語問題 項書換え系 4.0. 準備 (3.1. 項 代入 等価性 ) 定義 3.1.1: - シグネチャ (signature): 関数記号の集合 (Σ と書く ) - それぞれの関数記号は アリティ (arity) と呼ばれる自然数が定められている - Σ (n) : アリ

スライド 1

スライド 1

Microsoft PowerPoint - LogicCircuits09note.ppt [互換モード]

第 4 週コンボリューションその 2, 正弦波による分解 教科書 p. 16~ 目標コンボリューションの演習. 正弦波による信号の分解の考え方の理解. 正弦波の複素表現を学ぶ. 演習問題 問 1. 以下の図にならって,1 と 2 の δ 関数を図示せよ δ (t) 2

DSP工法.pdf


広報うちなだ2002年6月号

13

1 2

平成28年度第1回高等学校卒業程度認定試験問題(科学と人間生活)

01-02.{.....o.E.N..


break 文 switch ブロック内の実行中の処理を強制的に終了し ブロックから抜けます switch(i) 強制終了 ソースコード例ソースファイル名 :Sample7_1.java // 入力値の判定 import java.io.*; class Sample7_1 public stati

Scilab 勉強会 ( 第 3 回 ) 高橋一馬, 十文字俊裕, 柏倉守 平成 17 年 11 月 15 日 関数 ファイルはエディタを用いて作成する.Scilab にはエディタ SciPad が附属している.SciPad では なく他のエディタを利用してもよい. 作成した関数は Scilab に

プログラミング基礎

帰納法個々の事象から, 事象間の本質的な因果関係を推論し, 結論として一般的原理を導く方法 演繹法一般的原理から論理的推論により, 結論として個々の事象を導く方法アリストテレスは, 大前提 小前提 結論 という 3 つの命題の組み合わせによる推論規則として 三段論法 を考えたが, これは演繹法である

Microsoft PowerPoint - 2.ppt [互換モード]

ギリシャ文字の読み方を教えてください

<4D F736F F D20438CBE8CEA8D758DC F0939A82C282AB2E646F63>

紀要_第8号-表紙

構造化プログラミングと データ抽象

HW-Slides-04.ppt

VLSI工学

Microsoft Word - no11.docx

A Constructive Approach to Gene Expression Dynamics

Java プログラミング Ⅰ 7 回目 switch 文と論理演算子 今日の講義講義で学ぶ内容 switch 文 論理演算子 条件演算子 条件判断文 3 switch 文 switch 文 式が case のラベルと一致する場所から直後の break; まで処理しますどれにも一致致しない場合 def

1999年度 センター試験・数学ⅡB

1

広報さっぽろ 2016年8月号 厚別区

Microsoft PowerPoint - Prog05.ppt

スライド 1

Microsoft PowerPoint - enshu4.ppt [äº™æ‘łã…¢ã…¼ã…›]


PowerPoint プレゼンテーション

0226_ぱどMD表1-ol前

Microsoft PowerPoint - 10.pptx




Microsoft PowerPoint slide2forWeb.ppt [互換モード]

構造化プログラミングと データ抽象


PowerPoint Presentation

応用数学特論.dvi

ソフトウェア基礎 Ⅰ Report#2 提出日 : 2009 年 8 月 11 日 所属 : 工学部情報工学科 学籍番号 : K 氏名 : 當銘孔太

人間石川馨と品質管理



JavaプログラミングⅠ

ファイナンスのための数学基礎 第1回 オリエンテーション、ベクトル

周波数割り当て表

コンピュータリテラシ 第 6 回表計算 2 このスライド 例題 /reidai6.xlsx /reidai6a.xlsx 課題 12 /reidai6b.xlsx /table12_13.xlsx

ポインタ変数

橡ボーダーライン.PDF

千葉大学 ゲーム論II

Transcription:

知識工学 II ( 第 回 ) 二宮崇 ( ninomiya@cs.ehime-u.ac.jp ) 論理的エージェント (7 章 ) 論理による推論 命題論理 述語論理 ブール関数 ( 論理回路 )+ 推論 ブール関数 +( 述語 限量子 ( ) 変数 関数 定数 等号 )+ 推論 7. 知識に基づくエージェント知識ベース (knowledge base, KB): 文 の集合 他の 文 から導出されない 文 は公理(axiom) と呼ばれる TELL と ASK: 知識ベースに対する操作 TELL は新しい 文 を知識ベースに加える ( 知識を増やす ) ASK は知識ベースに質問を投げかける いずれもその操作に推論 (inference) を伴う コンピュータ 質問 (ASK) 人間またはエージェント 回答 知識ベース 知識 (TELL)

7. ワンパス ワールド (Wumpus World) 論理による推論ゲーム 黄金 環境 : x のマスから成る洞窟 エージェントは [,] からスタート どこかのマスに ワンパス 黄金がある いくつかのマスにはがある ワンパスがいるマスやがあるマスにはいるとエージェントは死んでしまう ワンパスの周囲には があって のまわりには が吹いている 目的 : この洞窟のどこかにある黄金をみつけてそれを拾ってこの洞窟から脱出する 動作 : エージェントは マスを一つずつ動くことができる 一度だけ矢をうつことができる 矢はまっすぐすすんでワンパスにあたればワンパスを倒せる [,] に来ればこの洞窟から脱出できる 黄金のマスで黄金をつかむことができる センサー : ワンパスの周りでは を感じ の周りでは を感じる 壁にぶつかれば 衝撃 を感じる 黄金をみつければ 輝き を感じる ワンパスが死ねば うめき声 が聞こえる エージェントは最初は [,] の状況しかわからないが 移動することによって 他のマスの状況がわかるようになる 得られた知識から あるマスにがあるのかないのか あるマスにワンパスがいるのかいないのか推論することができる

例 () エージェント A は [,] からスタート やがないので [,] や [,] は安全とわかる (),,,,,,,,,,,,, A,,, () 続いてエージェント A は [,] に移動してみる? A? [,] ではを感じるので [,] か [,] のどちらか もしくは両方にがあることがわかる () 続いて エージェント A は [,] に移動してみる A すると を感じるが を感じない を感じないので [,] にはがないことがわかる よって [,] にがあることがわかる [,] にいたときを感じなかったので [,] にワンパスはいないことがわかる 従って [,] にワンパスがいることがわかる

() 次にエージェント A は [,] に移動して ( その結果 [,] も ということがわかるので )[,] に移 動する A 黄金 ここで 黄金がみつかったので 黄金を拾って [,] に帰れば このミッションは成功ということに なる 7. 命題論理 命題論理 = 論理式 ( ブール関数 ) + 推論 ( つまり 命題論理はブール関数 (= 論理回路 ) に推論が加わった体系といえる ) 論理式 ( ブール関数 ) 論理式 = ブール関数 = 論理回路 命題記号 (proposition symbol): 真 (tttttttt) か偽 (ffffffffff) の値をもつ記号 PP, QQ, RRなどの大文字を使って表現する ttttttttはttまたはと書くこともある ffffffffffはffまたは0と書くこともある 論理結合子 (logical connective) : NOT, 否定, ~ではない : AND, 連言, かつ : OR, 選言, または : 含意, ならば 本によっては や が使われることもある PP QQは PP QQと等しい

: 同値, であるとき またそのときにかぎり (if and only if) PP QQ は (PP QQ) (QQ PP) と等しい 含意記号 および同値記号 は 連言記号 と同じブール関数の一種であることに注意 論理結合子の優先順序 :,,,, 例えば PP QQ RR SS は (( PP) ( QQ RR)) SS と解釈する モデル : 各命題記号に対する真理値の割り当て 例えば 命題記号 PP, PP, PP を含む文に対し モデルの一つはmm = {PP = ffffffffff, PP = ffffffffff, PP = tttttttt} となる モデルが与えられれば 論理式の真理値が決定される 真理値表 : すべての可能なモデルに対する論理式の真理値を表にして並べたもの PP QQ PP PP QQ PP QQ PP QQ PP QQ ffffffffff ffffffffff tttttttt ffffffffff ffffffffff tttttttt tttttttt ffffffffff tttttttt tttttttt ffffffffff tttttttt tttttttt ffffffffff tttttttt ffffffffff ffffffffff ffffffffff tttttttt ffffffffff ffffffffff tttttttt tttttttt ffffffffff tttttttt tttttttt tttttttt tttttttt 命題論理における推論では論理式の同値関係は非常に重要な概念となる 真理値表の入力 ( 命題記号 ) と出力 ( 論理式 ) が等しい論理式は同値関係となる PP QQは PP QQと等しく PP QQは (PP QQ) (QQ PP) と等しい PP QQ PP PP QQ PP QQ ffffffffff ffffffffff tttttttt tttttttt tttttttt ffffffffff tttttttt tttttttt tttttttt tttttttt tttttttt ffffffffff ffffffffff ffffffffff ffffffffff tttttttt tttttttt ffffffffff tttttttt tttttttt 5

PP QQ PP QQ QQ PP (PP QQ) (QQ PP) PP QQ ffffffffff ffffffffff tttttttt tttttttt tttttttt tttttttt ffffffffff tttttttt tttttttt ffffffffff ffffffffff ffffffffff tttttttt ffffffffff ffffffffff tttttttt ffffffffff ffffffffff tttttttt tttttttt tttttttt tttttttt tttttttt tttttttt 混乱しやすい論理結合子 : とXORの違い PP QQはPPかQQがttttttttならばttttttttとなるが PP XOR QQはPP とQQのどちらかのみがttttttttのときttttttttとなり PPとQQが同時にttttttttのときはffffffffffとなる 直感的には または といったとき 両方ともttttttttで良いのか 良くないのか考えないといけない 混乱しやすい論理結合子 : PP QQはPPがttttttttでQQがttttttttならば全体もttttttttとなる しかし 5 が奇数ならば 東京は日本の首都である という文は直感的にはおかしいと思うが 論理的には正しい ということになる もう一つ PPがffffffffffであれば全体が常にttttttttとなる点がややこしい 例えば 5 が偶数ならば 太郎は賢い という文は太郎が賢いかどうかにかかわらずttttttttである これについては PP QQは PPがttttttttであるとき 私はQQであると主張する そうでなければ私は何も主張しない と解釈すればよい また PP QQは PP QQと等価であるため 選言的複合文と解釈することができ この解釈も直感的には難しい 例えば 西の空が明るい ならば 明日は晴れる ということと 西の空が明るくない または 明日は晴れる が等しい命題であることを理解するには時間がかかる みかんならば柑橘類である と みかんでない または 柑橘類である が等しい命題と解釈するにはかなりの論理的な思考作業が必要となる 混乱しやすい論理結合子 : PP QQかPP QQか そのときに限って と条件がつくときに PP QQ を使う ワンパス ワールドで を感じたとき がその周囲にある という知識は BB, PP, PP, ただし BB ii,jj は [i,j] において を感じる場合 ttttttttとなり 感じない場合 ffffffffffとなる命題記号であり PP ii,jj は [i,j] にがある場合にttttttttとなり ない場合にはffffffffffとなる命題記号である を感じる場合には [,] か [,] にがある となっており 一見これでよさそうにみえるが これではうまくいかない BB, がffffffffffであるとき PP, がttttttttとなるモデルを排除できていない つまり が吹いていないときは まわりにがない という知識が表現できていないことになる 従って BB, PP, PP, 6

とするのが良い 命題論理を用いた知識ベース ( 知識ベースにおける文 ) = ( 命題論理の論理式 ) 知識ベースは文の連言 : TTTTTTTT(KKKK, SS ) TTTTTTTT(KKKK, SS nn ) を行った場合 KKKK = SS SS nn となる R : PP, R : R : BB, PP, PP, BB, PP, PP, PP, R : BB, R 5 : BB, KKKK = RR RR RR RR RR 5 7