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高強度定常負荷運動時の音楽刺激が 運動継続時間, 呼吸循環応答, 自覚的運動強度に与える影響 15m Endurance Shuttle Walking and Run Test を用いて 川満愛理 田渕優衣 宮崎成美 [ 目的 ]15m Endurance Shuttle Walking and Run Test( 以下 15mESWRT) を用いた高強度定常負荷運 動時の音楽刺激が運動継続時間, 呼吸循環応答および自覚的運動強度に与える影響について性 別で比較検討することである [ 対象と方法 ] 若年健常者 20 名 ( 男性 9 名, 女性 11 名 ) を対象に, 15mESWRT を音楽刺激有り ( 以下音楽群 ) と無し ( 以下コントロール群 ) の 2 回を無作為化にて実施 した 運動中は, 呼気ガス分析装置を用い呼吸循環応答と呼吸困難, 下肢疲労感を測定した 運動 終了時に運動継続時間, 到達距離, 楽しさを評価した [ 結果 ] 音楽群とコントロール群の 2 群間で運 動継続時間, 到達距離, 下肢疲労感は有意差を認めなかったが, 楽しさは音楽群で有意に高かっ た 呼吸循環応答は, 音楽群で分時換気量と呼吸数が有意に高値を示した 呼吸困難は女性の音 楽群のみ有意に低かった [ 結語 ] 高強度定常運動時の音楽刺激は, 女性のみ呼吸困難を軽減し, 楽しく運動できることが示唆された はじめに我が国では, 高齢化の進展や疾病構造の変化に伴い, 健康づくりや疾病予防を積極的に推進するための環境整備が求められている 平成 23 年の日本国民健康 栄養調査報告 1) では, 日常生活の中で抱えている悩みや不安として, 自分の健康について と答える人の割合が男女ともに最も高く, 健康への関心が高まっている 平成 25 年の健康づくりのための身体活動基準 2) によると, 日常の身体活動量を増やすことで, 循環器疾患, 生活習慣病の発症や生活機能低下をきたすリスクを下げることができ, さらに運動習慣をもつことで, これらの疾病等に対する効果を高めることが期待できると述べられている アメリカスポーツ医学会とアメリカ心臓協会は, 成人の一般的な健康目的の身体活動の指針 において, 健康の維持 促進のために, 中強度有酸素性活動 30 分を 5 日 / 週以上, または高強度有酸素性活動 20 分を 3 日 / 週以上, あるいは両者を混ぜて行う必要がある と記し, 日常的な活動に加えて 20~30 分の運動を行うことを推奨している さらに, 運動は継続期間が長いほど効 果が大きいことが示されており, 運動継続の重要性を示唆している 3) また, 運動強度は高いほど, 生理学的変化は大きいと言われている 4) しかし, 運動強度が高くなると意欲は低下し, 運動を継続することは困難となる 5) 近年, 街中やフィットネスクラブにおいて音楽を併用し運動を実施している人をよく見かける 高強度運動時に音楽を併用した先行研究では, 音楽を聴くことによって, 自覚的運動強度の低下や運動時間の延長などの効果があると報告している 6)7) しかし, これらの先行研究は, エルゴメーターやトレッドミルを用いた研究が多く, 我々の身近な運動様式である歩行やランニングで検証した報告は少ない 新貝らは, 再現性が高いフィールドウォーキングテストである 10m Incremental Shuttle Walking Test 8)9) の定常負荷法として 1999 年に Revill らによって開発された 10m Endurance Shuttle Walking Test 10) ( 以下 ESWT) を用いて, 低強度運動時に音楽を併用することで, 呼吸困難と下肢疲労感が軽減し, 楽しさが得られたと報告している 11) 以上のことから, 高強度定常負荷運動時に音楽を併用することで, 運動継続時間の延長や自 -23-

覚的運動強度の低下, 楽しさなどの効果が得られるのではないかという仮説を立てた 本研究の目的は, 15m Endurance Shuttle Walking and Run Test( 以下 15mESWRT) を用いて高強度定常負荷運動時の音楽併用の有無が運動継続時間, 呼吸循環応答, 自覚的運動強度に与える影響を検証することである 対象と方法対象は, 若年健常者 26 名 ( 男性 12 名, 女性 14 名 ) 年齢, 身長, 体重は平均で 213±18 歳, 1652±86 cm,579±120 kgであった 対象者には本研究の目的およびリスクについて説明し, 同意を得た上で安全面を重視して測定を行った 本研究は, 長崎大学倫理委員会の承認後実施した ( 承認番号 14072224) 方法は,3 セッションで構成されるクロスオーバー比較試験とした セッション 1 は, 対象が若年健常者であるため 10mSWT ではなく, 三川ら 12) が提唱する中高年を対象とした 15m Incremental Shuttle Walking and Run Test( 以下 15mISWRT) を実施し, 最大酸素摂取量 ( 以下 peak VO 2 ) を算出した 15mISWRT は最大 12 分間で, 走行速度は 1 分毎に増加するものである また, 事前評価として, 身長, 体重, 日常的な運動の有無, 好みの音楽についての調査した セッション 2 3 では, セッション 1 の結果をもとに定常負荷試験である ESWT を従来の 10m から 15m に距離を伸ばした 15mESWRT を音楽刺激の有無で 2 回実施した 15mESWRT は最大 20 分間で, 走行速度は一定である レベル設定については,Mikawa etal 13) の先行研究で報告されている ISWRT の到達距 離から peak VO 2 を算出する予測式を参考とした 15mISWRT の最高到達レベルから 2 段階レベル を下げた時の peak VO 2 は高強度負荷の値となることが予想されたため, これを 15mESWRT に適応することとした 音楽刺激有り群 ( 以下音楽群 ) と音楽刺激無し ( 以下コントロール群 ) は NtRand 法にて無作為に分類した 各セッションは,2 日以上の間隔をあけ,2 週間以内に実施した 全セッションにおいて, 急な方向転換を避けるため 15m の直線コースの両端から 05m 手前に 目印のポールを設置した 15mESWRT は, 事前練習として, 実施レベルの走行速度で被験者と検査者が 1 往復を並行して走り, 練習を行った 被験者がテストの走行速度を確認できたら休憩し, 状態が安定したところから安静座位を 3 分間後に, 運動を開始した これらの運動は音楽プレイヤーから流れる発信音に合わせてポールの間を歩行または走行する 運動終了後には 5 分間安静座位をとる 中止基準は, 発信音までに目印に 2 回連続で到達できなかった場合や被験者自身の呼吸困難, 下肢疲労感が強く生じた場合, 心拍数 ( 以下 HR), 経皮的酸素飽和度 ( 以下 SpO 2 ) がアンダーソン 土肥の中止基準に達した場合とした 評価項目は, 運動実施中は呼気ガス分析装置 ( エアロソニック AT-1100Ver301 アニマ社 ) を装 着し, 体重当たりの酸素消費量 ( 以下 VO 2 /W), 分時換気量 ( 以下 V E ), 呼吸数 ( 以下 f) を, パルスオキシメーターを用い,HR,SpO 2 を継時的に測定した 加えて, 修正 Borg scale を用いて 1 分毎に呼吸困難や下肢疲労感, 運動終了時に数値評価スケール ( 以下 NRS) を用いて楽しさを評価した 統計処理は, 呼気ガス分析装置の結果を 9 呼 吸の移動平均より算出した peak VO 2 は, 15mISWRT での運動終了前 30 秒の平均値を用 いた 平均 VO 2 /W は,15mESWRT での運動開始 3 分後から運動終了時までの平均値を用いた 正規性の検定には Shapiro-Wilk 検定を用い, 正規性がある場合は対応のある t 検定, 正規性がないものについては Wilcoxon の符号付順位検定にて比較 検討した また, 統計ソフトは SPSS version21 を使用し, 危険率 5% 未満を有意とした 結果 15mISWRT を完遂した者 (2 名 ), データ測定困難者 (1 名 ), データ欠損者 (3 名 ) を除外した 最終的な研究対象者は, 若年健常者 20 名 ( 男性 9 名, 女性 11 名 ) であり, 平均年齢は 214±17 歳, 平均身長は 1649±94cm, 平均体重は 582±134kg であった 15mISWRT の結果は, 平 -24-

均到達レベル 102±13, 平均 peak VO 2 は 418±81ml/min/kg, 平均最大運動強度 ( 以 下 %HRRmax) は 80±13% であった 15mESWRT の音楽群, コントロール群の 2 群 の比較では, 運動継続時間, 走行距離に有意差 は認められなかった ( 図 1,2) 呼吸困難, 下肢疲労感についても有意差は みられなかったが, 音楽群がコントロール群に比 べて低い値を示す傾向がみられた ( 図 3,4) ( 図 3) 運動中の呼吸困難の推移 ( 図 1) 運動継続時間 ( 図 3) 運動中の呼吸困難感の推移 ( 図 2) 走行距離 ( 図 4) 運動中の下肢疲労感の推移 -25-

呼吸循環応答に関して, V E ( p<005 ), f (p<001) において音楽群が有意に高値を示した 男女別で比較した結果, 女性の音楽群において V E (p<005),f(p<001) が, 男性の音楽群の f (p<005) のみが有意に高値を示した ( 図 5,6) また, 運動後の呼吸困難が女性で有意に低値を示した (p<001) NRS は, 音楽群がコントロール群に比べて有意に高値を示した (p<001)( 図 7) ( 図 7) 音楽の有無による楽しさの比較 考察 ( 図 5)V E ( 図 6)f 15mESWRT を用いた高強度定常負荷運動中の音楽刺激が運動継続時間, 呼吸循環応答, 自覚的運動強度および楽しさに与える影響について検討した 運動継続時間や到達距離, 自覚的運動強度に有意な差は認められず,V E,f は音楽群で有意に高値を示した この結果は低強度運動時に音楽を併用した先行研究 11) とは異なり, 高強度運動時に音楽を聴くことにより楽しみは得られるが, 生理学的運動強度は高くなることを示唆している 運動中の音楽の効果機序は, 感覚領域の感覚信号の強さと, その感覚に対する興味の強さの組み合わせで感覚を認識すると言われている 感覚注意の焦点が, 運動疲労よりも興味の強い音楽を優先的に選択したならば, より少ない疲労感として知覚される 14) すなわち, 我々の研究は高強度運動であったため, 感覚注意の焦点が運動疲労よりも興味の強い音楽を優先的に選択する効果を弱めたと考えられる ( 図 8) -26-

まとめ ( 図 8) 高強度時への音楽の併用一方, 楽しみについては音楽群で有意に高い値を示した 本研究では, 先行研究と同様に, 被験者の好みの音楽を選択していたため, 音楽刺激に対する興味の強さは高かったと考えられる また, 女性の音楽群で運動終了後の呼吸困難が有意に低値を示した その理由として, 音楽が人間の気分に与える影響は, 変化の方向性は同じだが, その量において, 女性のほうが大きい傾向がある 15) と報告されている 本研究においても, 同様の結果が得られた 高強度定常負荷運動時に音楽を併用することで, 楽しく運動することができると示唆された また, 女性でのみ運動後の呼吸困難は有意に低値を示したことから, 音楽の効果には少なからず性差があることが示唆された しかし, 運動継続時間や到達距離, 自覚的運動強度に音楽の効果は認められなかったが,V E や f が有意に増加するといった呼吸循環応答への影響が確認された 今後は, 対象者数及び対象範囲を年齢や疾病等を考慮して拡大し, 検討していく必要がある 謝辞本研究を進めるにあたり, ご指導, ご尽力を賜りました千住秀明教授ならびに長崎大学院医歯薬学総合研究科の諸先生方に厚く御礼申し上げます 参考文献 1) 厚生労働省ホームページ国民健康 栄養調査報告平成 23 年度版 http://wwwmhlwgojp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h23-houkokupdf (2014 年 12 月 26 日引用 ) 2) 厚生労働省ホームページ健康づくりのための身体運動基準 2013 http://wwwmhlwgojp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpqtpdf(2014 年 12 月 26 日引用 ) 3) William L, I-Min Lee, et al: Physical Activity and Public Health: Updated Recommendation for Adults from the American College of Sports Medicine and the American Heart Association MEDICINE & SCIENCE IN SPORTS & EXERCISE 2007; 39: 1423-1434 4) 日本呼吸ケアリハビリテーション学会呼吸リハビリテーション委員会ワーキンググループ : 呼吸リハビ リテーションマニュアル - 運動療法 -( 第 2 版 ) 2012 5) 山本哲史, 山崎元 : 運動処方の最近の考え方 慶應義塾大学スポーツ医学研究センター紀要 1999; 1: 34-35 6) Peter C Terry, CI Karageorghis, et al: Effects of synchronous music on tredmill running among elite triathetes Journal of Science and Medicine in Sport, 2012; 5,: 52 57 7) CIKarageorghis,DAMouzourides,et al:psychophysical and ergogenic effects of synchronous music during treadmill walking Journal of Sport & Exercise Psychology, 2009; 31: 18 36 8) 有薗信一, 北川知佳, 他 : 慢性閉塞性肺疾患患者の運動耐容能評価法としての漸増シャトルウォ ーキングテストの妥当性 日呼吸管理会誌, 2002; 11: 414-9 -27-

9) Singh SJ, Morgan MD, et al:development of a shuttle walking test of disability in patients with chronic airways obstruction Thorax, 1992; 47: 1019 24 10) Revill SM, Morgan MD, et al:the endurance shuttle walk;a new field test for the assessment of endurance capacity in chronic obstructive pulmonary disease Thorax, 1999; 54: 213-22 11) 新貝和也, 金崎雅史, 他 : 運動中の音楽が呼吸困難感と下肢疲労感に与える影響 理学療法科学ジャーナル, 2011; 26: 353-357 12) 三川浩太郎, 北川知佳, 他 : 新しい運動負荷試験 15m shuttle walk and run test による運動耐容能の評価の試み 理学療法科学 2005; 20: 7-12 13) Mikawa K, Senjyu H:Development of a field test for evaluating aerobic fitness in middle-aged adults: Validity of a15m Incremental Shuttle Walk and Run test Journal of Sports Science and Medicine, 2011; 10: 712-717 14) Costas I Karageorghis, David-Lee Priest:Music in the exercise domain:a review and synthesis(part Ⅰ) International Review of Sport and Exercise Psychology 2012; 5: 44-66 15) 沖野成紀, 高橋瑞恵, 他 : 音楽聴取による気分変化の POMS 測定 - 性差と音楽のタイプによる違いについて- 東海大学紀要教養学部, 2004; 34: 189-206 ( 指導教員千住秀明, 田中貴子 ) -28-