Microsoft Word - A_200810XX_インドネシア経済事情.doc

Similar documents
Microsoft Word - A_ _タイ経済事情.doc

○ユーロ

Economic Indicators   定例経済指標レポート

3_2

<4D F736F F F696E74202D E835A838B94C5817A837D815B B834A E738FEA816A2E >

Microsoft Word - 20_2

スライド タイトルなし

スライド 1

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(1月号)~輸出の好調続くも新型スマホ関連がピークアウトへ

Microsoft Word - A_ _韓国経済事情.doc

リンギ安進むマレーシア~原油安による経済への影響~

中国、財新サービス業PMIは4ヶ月ぶりの低水準に(Asia Weekly(3/4~3/8)) | 第一生命経済研究所 西濵徹

【No

[000]目次.indd

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化

○ユーロ

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

中国:なぜ経常収支は赤字に転落したのか

Microsoft Word - 15_2

Microsoft Word - 18_2

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(10月号)~輸出はスマホ用電子部品を中心に高水準を維持

○ユーロ

untitled

2018 年は激動の年 年初来 トルコ株式指数はトルコリラベースで最大で約 24% 下落し トルコリラは日本円に対して最大で約 45% 下落しました トルコ株式 * の推移 ( トルコリラベース ) /12 18/03 18/06 18

< E97708AC28BAB82C982C282A282C42E786C73>

Currency201207

<4D F736F F D20819A819A8DC58F49835A C C8E816A2E646F63>

第1章

untitled

2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

GSS1505_P indd

現代資本主義論

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

【ロシア最新経済金融週報】

中国におけるインフレの行方 中国経済は減速しているものの 過熱の解消にはまだ至っていない 年 9 月のリーマン ショックを受けて 中国は輸出が大幅に落ち込み 景気後退を余儀なくされたが 兆元に上る内需拡大策や 金利と預金準備率の大幅な引き下げをはじめとする拡張的財政 金融政策が実施されたことを受けて

経済変動論 0

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

<4D F736F F F696E74202D E835A838B94C5817A837D815B B834A E738FEA816A2E >

PowerPoint プレゼンテーション

経済・物価情勢の展望(2017年7月)

マーケット フォーカス経済 : 中国 2019/ 5/9 投資情報部シニアエコノミスト呂福明 4 月製造業 PMI は 2 ヵ月連続 50 を超えたが やや低下 4 月 30 日 中国政府が発表した4 月製造業購買担当者指数 (PMI) は前月比 0.4ポイントの 50.1となり 伸び率がやや鈍化し

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

低インフレ 乏しい利上げ観測労働市場に目を向けると 8 月の失業率は約 年ぶりの低水準となる5.3% に低下した 雇用者数も伸びており 一部では技術者不足の声も聞かれる RBAは今後数年 失業率は自然失業率とされる5.% を目指して低下が続くとの見方を示している ただ 賃金の上昇率は ~ 月期が前年

Microsoft Word - A_ アジアマンスリー.doc

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

平成14年1月20日

中国:PMI が示唆する生産・輸出の底打ち時期

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

untitled

中国、家計消費の伸びは歴史的低水準に | 第一生命経済研究所 西濵徹

< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

Invesco Premia Plus Fund

PowerPoint プレゼンテーション

経済学でわかる金融・証券市場の話③

Microsoft PowerPoint - 15kiso-macro10.pptx

nichigingaiyo

ecuador

サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

Microsoft Word ECB利下げ.doc

タイトル

(Microsoft Word \214\216\215\206_\203g\203s\203b\203N1\201i2010\224N\223x\214o\215\317\214\251\222\312\202\265\201j.doc)

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

株式市場 米国株 トランプ氏の政策への期待感後退で調整も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました 11 月 8 日 ( 現地 ) に行われた大統領選挙でトランプ氏が当選し 減税やインフラ投資の拡大などの同氏の政策に注目が集まりました 債券市場では金利が上

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

米国を巡る国際マネーフローの動向

Microsoft Word - 59_2

米国の利上げ見送りと日本の長期化した金融緩和

金融政策決定会合における主な意見

Microsoft Word - 20年度資産運用状況.doc

<4D F736F F F696E74202D20837D815B B834A E738FEA816A2E B8CDD8AB B83685D>

2015 年 3 月 9 日 対外 対内証券投資の動向 (2015 年 2 月分 ) 投資信託委託会社等による対外証券投資が大幅増加 財務省の 対外及び対内証券売買契約等の状況 ( 指定報告機関ベース ) によると 2 月の対外証券投資は +2 兆 6,754 億円の取得超となり 前月の +2 兆

13_2

CW6_A3657D14.indd

定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

中国 資金流出入の現状と当局による対応

平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

短期均衡(2) IS-LMモデル

4月CPI~物価は横ばいの推移 耐久財の特殊要因を背景に、市場予想を上回る3 ヶ月連続の上昇

Microsoft PowerPoint - MXN120417

【アジア新興経済レビュー】韓国・台湾・マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン・インド 韓国と台湾、内需に違い

ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

PowerPoint プレゼンテーション

別紙2

Economic Indicators   定例経済指標レポート

ASEAN との経済関係が再び強まる韓国 ASEAN ASEAN ASEAN ASEAN ASEAN1 16 RCEP 1. ほぼピークに達した対中輸出依存度 (1) 上昇傾向にある対 ASEAN 輸出依存度 ASEAN 2 WTO 21 RIM 213 Vol.13 No.49

1

28 GCC UAE GCC (2) 大きく上昇した食料価格と住居費 GCC GCC GCC 図表 2 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価上昇率 (28 年 ) 図表 3 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価指数に占める食料品と住居費の割合

金融市場2018年12月号

株式市場 米国株 景気 企業業績は依然として堅調 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 貿易摩擦への懸念から下落米国株式市場は下落しました トランプ米大統領が鉄鋼やアルミニウムの輸入を制限する方針を表明したことから 世界的な貿易摩擦への懸念が高まり下落して始まりました その後 貿

12月CPI

Microsoft Word - N_ _2030年の各国GDP.doc

PowerPoint プレゼンテーション

当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

Transcription:

Asia Trends マクロ経済分析レポート インドネシア経済事情 : 内需鈍化基調もインフレ牽制姿勢を強化 ~ 内需に鈍化の兆し 外需に不透明感が増す中 金融政策はインフレ抑制を至上命題とし続ける ~ 発表日 : 年 月 日 ( 水 ) 1/ 第一生命経済研究所経済調査部担当副主任エコノミスト西濵徹 (3-1-) ( 要旨 ) 7 日 インドネシア銀行は金融政策委員会を開催し 政策金利をbp 引き上げて9.% とする決定を行った 足元では 米国発の世界金融不安から新興国に流入した投資資金が逆流するなどの影響が出始めているものの 来年に控える大統領選及び総選挙に向けてインフレ抑制姿勢を明確にしたとみられる 7 月半ばをピークに原油価格は調整しているものの 同国の輸入財であるコメ価格は高止まりが続いており 9 月のインフレ率は1.1% と高水準で推移し 金融引き締めを進める材料となったとみられる インフレと金利高という悪材料にも拘らず 直近では イスラム国 という特色に依存する投資資金の流入で需要は底堅く推移し 一次産品に対する世界需要の堅さが外需を支えている しかし 世界金融不安が実体経済に影響を及ぼす過程でこれらの需要が下押しされ 内需 外需双方に減速基調が強まると考えられる 足元では 原油やコメなどの輸入財価格の高止まりが国際収支構造の脆弱性を露呈させ ファンダメンタルズの悪化を材料に海外投資家による売り圧力が強まっている 先行きもインフレ圧力が当面残存すると予想される中 今回の金融引き締めも相俟って内需はさらなる減速基調を強めると予想される さらに 世界的な金融不安から世界経済が減速 同国の輸出環境は悪化を余儀なくされ外需も鈍化 内外需双方の減速から景気そのものも減速基調を強めるであろう なお 日本との間では7 月にEPAが締結されるなど 経済的結びつきの強化が期待されるものの 制度面及び政治面での投資環境整備が今後の課題となる ラマダン明けの需要増大からインフレが高進 さらなる金融引き締めの強化でインフレ抑制を志向 7 日 インドネシア銀行は金融政策委員会を開催し 政策金利である BI レートを bp 引き上げて 9.% とする決定を行った ( 図 1) 同国では年明け以降 原油や穀物価格の高騰を発端としてインフレが高進しており 同行ではその抑制のために今年 月に約 年半ぶりに利上げによる金融引き締め姿勢に転じている 今回で ヶ月連続での利上げが実施されることとなり これまでの利上げ幅は計 bp と急激な引き締めを行っているが その要因としては 足元のインフレ率が 桁台に突入している中で 来年には大統領選挙と総選挙が予定されており インフレを放置することで選挙結果が現政権に大きなダメージを与える可能性が高まっていることに対応していると考えられる 9 月の消費者物価は 対前年同月比 +1.1% と前月 ( 同 +11.%) から依然として加速しており ( 図 ) 前月比ベースでも+.97% と前月 ( 同 +.1%) から加速し 約 年ぶりの高水準で推移している 原油や穀物価格はピークを過ぎて足元では調整が続いているものの 依然として高止まりが続いていることで食料品やエネルギー価格が押し上げられていることに加えて 世界最多のイスラム教徒を抱える同国にとって 9 月末はラマダン明けに向けた需要が増大したことで価格が上昇した さらに 足元では通貨ルピアが減価基調を強めていることで輸入物価の押し上げに繋がっており インフレ率の上昇に繋がっている 先月中旬の米国大手証券の破綻を発端とする世界的な金融不安が拡大する中 インフレと金利高で内需が疲弊したアジアの新興国では 中国や台湾などのように利下げに踏み切る国が出始めている しかし インドネシアではインフレの高進が続いていることもあり 当面は引き締め姿勢が継続されるものと考えられる

/ 図 1 政策金利の推移図 消費者物価の推移 ( 前年比 ) 1 19 その他 SBI 3 日物 BI Rate 運輸 通信等 17 13 住居 食料品 1 13 CPI 11 11 9. 9 9 7 3 7 1-1 3 7 3 7 対外資金の流入で底堅さを保つものの インフレと金利高は少しずつ内需に下押し圧力を掛けている 同国では年明け以降のインフレの高進に加えて 金融当局がインフレ抑制に向けて引き締め姿勢を強めていることによる金利高が共存しているものの 同国は世界最多のイスラム教徒を抱える イスラム国家 としてイスラム金融の普及を推進していることで 隣国シンガポールなどから投資資金の流入が起こっている その結果 同国の金融市場にはマネーが依然として高い伸びを示しており ( 図 3) 需要の押し上げが起こっていると考えられる したがって インフレと金利高による内需の下押し圧力が掛かっているにも拘らず - 月期の実質 GDP は 対前年同期比 +.39% と前期 ( 同 +.3%) から若干加速するなど底堅い成長が続いている ( 図 ) さらに 同国には石炭やパーム油 ゴムなどの資源が存在し これらの資源に対する世界需要が底堅く推移したことで 成長に占める輸出の依存度は高まる傾向にある 依然として GDP 統計上は底堅い成長が持続しているものの 足元ではインフレの高止まりと金融引き締めに伴う金利高によって個人消費に下押し圧力が掛かっており 小売売上は足元では伸びが鈍化している ( 図 ) 内訳を見ると原油価格の高止まりを反映する形で自動車の伸びが大きく減速しているのに対して建設資材については高い伸びが続いているが これを正しく判断するには資材価格上昇の影響を加味する必要がある 代表的な建設資材であるセメントの売上は足元で大きく減速しており ( 図 ) 景気の底堅さを保ってはいるものの 消費自体には減速基調が強まっていることが見て取れる さらに 世界的な景気減速懸念が強まる中 資源以外の輸出品である電子機器類に対する需要が減少する中で鉱工業生産は足元で鈍化している ( 図 7) 先行きは 米国発の世界的な金融不安が実体経済をさらに下押しする懸念が強まっており その上 金利高によって設備資金などの投入が見込みにくくなる中では同国の生産にも下押し圧力が強まると考えられる このことは 足元で電力消費量の伸びが鈍化していることにも現れている ( 図 ) 図 3 マネーサプライの推移 ( 前年比 ) 図 実質 GDP 成長率の推移 ( 前年比 ) 1 1 1 1 - - 3 7 個人消費 政府消費 資本形成 在庫投資 純輸出 不突合 GDP 3 7

3/ 図 小売売上の推移 ( 前年比 ) 図 セメント消費量の推移 ( 前年比 ) 小売売上建設資材自動車 3 - - - - -3 3 7 3 7 図 7 鉱工業生産の推移 ( 前年比 ) 図 電力消費量の推移 ( 前年比 ) 3 3 3 - - - - 3 7 3 7 輸出の鈍化と輸入の高進で国際収支の構造は脆弱に 外国人投資家からの売り材料が足元で露呈する 対外面では同国はかつては一大産油国として知られ アジアで唯一の OPEC 加盟国であった しかし スハルト元大統領による長期独裁政権の下で欧米石油メジャーが撤退するなど 十分な石油開発投資がなされなかったことから産油量は年々低下し 年には純輸入国に転落 今年 月には OPEC からの脱退を決めた 現在も石炭や天然ガス パーム油 天然ゴムなどの採掘が盛んであり これらに対する世界的な需要の底堅さが続く中で貿易収支は依然黒字を保っている ( 図 9) しかし 年明け以降の原油価格の急騰に加えて 同国が世界最大の輸入国となっているコメの国際価格も急上昇したことで 輸入の伸びが輸出の伸びを上回る状態が続いており 貿易黒字幅は縮小基調が強まっている 7 月半ばをピークに原油価格や主要穀物価格は調整しており さらに 米国発の世界金融不安による世界的な景気減速懸念から調整速度は速まっているものの コメは市場規模の問題から値下がり幅が小さく ( 図 ) 輸入の高止まりが続くとみられる また 同国内の資源関連産業は 多くが海外からの直接投資によって開発されており とりわけ日本のプレゼンスは高い こうしたことから 利益及び配当の海外送金に伴い所得収支は大幅なマイナスとなっている その上 貿易収支の黒字幅が縮小基調を強めていることで 経常収支は足元で赤字に転落する事態に陥っている ( 図 11) さらに 米国サブプライムローン問題の発覚以降は 海外投資家のリスク許容度低下により新興国向け投資が先細り傾向が強まる中 9 月の米国大手証券の破綻を発端とする世界金融不安によって投資資金の流れはリスク資産からの逃避に向かっている 同国ではインフレの高止まりが続く上 経常収支も赤字に陥るなど マクロ経済のファンダメンタルズの悪化が鮮明となる中で海外投資家を中心に売り圧力を強めており 外貨準備の増減を示す総合収支はゼロ近傍まで圧縮されている ( 図 1) 年明け以降の外国人投資家による証券投資額は 依然として 月 7 日時点で.3 億ドルの買い越し状態にある ( 翌 日には ジャカルタ総合指数が % 以上下落したことでサーキットブレーカーが発動する事態となっているが ) しかし 米国発の世界金融不安を発端に世界経済の悪化懸念が強まる中で 同国の主要輸出財に対する需要にも先行き下押し圧力が掛かり 結果として国の景気も減速するとの見通しから 足元では同国の通貨 株式 国債に売り圧力が掛かっている ( 図 13,1,) 通貨ルピアは 同国の 資源国 という特色が市場で好感 悲観入り混じる中 年明け以降は売り圧力と買い圧力が交互に行き来する展

開が続いているものの 先月以来の世界金融危機の中では売り圧力に伴う減価基調が強まっており 金融当局はインフレ抑制と為替安定のためにルピア買い ( ドル売り ) 介入を行っているとみられ 外貨準備が減少する要因の一つとなっている とはいえ 為替はフロート制を採用する中では 為替介入は安定化以外の目的で実施することはなく 外貨準備は足元で減少基調にあるものの 9 月末時点で 71 億ドルと今年の月平均輸入額の.3 ヶ月分と短期的に外貨準備に問題が起こるとは考えにくいレベルにある ( 図 1) 図 9 輸出入の推移 ( 前年比 ) 図 コメ国際価格の推移 ( タイ穀物取引所 ) - -1 3 7 ( 出所 )CEIC ( 出所 )bloomberg - - 図 11 経常収支の推移 財 サ 所得収支 移転収支 経常収支 図 1 国際収支の推移 - 7 7 - 収支尻 ( 右 ) 輸出 輸入 図 13 為替相場の推移 (USD/IDR) 9,7 3, 9,, 9,, 9, 為替安,, 9,3, 9, 為替高 1, 9, 1, 9, /1 / /3 / / / /7 / /9 / 1, ( 出所 )bloomberg ( 出所 )bloomberg 図 国債利回りの推移 ( バーツ / トン ) 7,, 3, 1, 19, 17,, 13, 11, 9, 7, 1. 13. 13. 1. 1. 11. 11. 3. 3. 9. /1 / /3 / / / /7 / /9 / ( 出所 )bloomberg ( 出所 )CEIC 3 1 - - 3 7 直接投資 証券投資 その他 経常収支 総合収支 図 1 株式相場の推移 /1 / /3 / / / /7 / /9 / 図 1 外貨準備高の推移 3 7 / インフレと金利高の共存が内需をさらに下押し 世界経済の減速で底堅かった外需にも陰りが出る懸念 先行きのインドネシア経済を占う中で極めて重要となるのはインフレの見通しである 7 月半ばをピークに原油価格は調整しているものの 米国発の世界金融不安により先行きの不透明感は一層高まっていると考え

/ られる しかしながら インフレの一番のウェイトを占める食料品については 特にコメ価格が足元で調整しつつも高止まりが続いており 当面のところインフレ圧力は継続するとみられる 今年 月の石油価格の引き上げ以降にインフレが大きく押し上げられたことで金融当局は引き締め姿勢を強めているが 世界金融不安から世界的な景気減速が懸念される中で利上げを実施したことで 足元で減速基調にある内需にさらなる下押し圧力が掛かるとみられる 足元の同国経済は外需への依存度を高めつつあるが 主要輸出品の石炭は市場取引外で価格決定がなされることから 先行きも底堅さが持続する可能性が高い とはいえ 世界経済全体が減速基調を強めれば 一次産品に対する需要が減少することになり 世界経済の動向に左右される状況に陥るとみられる インドネシアでは来年に大統領選と総選挙が予定されており 年度の補正予算においてインフラ対策向けに歳出拡大を行う方針を打ち出しており 当初予算ベースで約 3 割も財政赤字が増大するなど 財政拡張路線へ舵を切っている さらに 9 年度予算では選挙対策向けとして 貧困対策や福祉向上を目指して公務員給与を % 引き上げ 環境対策として総額 兆ルピアの公共投資を実施するなどの施策が組み込まれている さらに 月に石油製品の値上げ見合いで削減されたはずの補助金については 新たな補助金財源として充当されるなど 全体的な補助金財政の整理統合は行われていない 一方の歳入面では 底堅い成長が続いていることと税制改革により歳入が拡大しており 全体的な財政改革は歳入拡大に負っているものと考えられる ( 図 17) 先行きを考えれば 過度な補助金財政によって市場の価格メカニズムを歪ませる方策は財政の自由度を失わせるのみならず 年明け以降の輸入財価格が上昇している局面では 過剰需要によるファンダメンタルズの悪化のみならず 交易条件の悪化による富の流出をもたらすことになる ( 図 1) したがって 短期的には景気下支えが期待される一方で需要インフレ懸念の材料となるため 改善が求められる 同国は今年 7 月に日本との EPA が発効し さらに 日本からの投資額が ASEAN の中で最大である上 円借款などの政府開発援助 (ODA) でも供与額が最大と経済的な関係が深い EPA の発効により日本から資源関連 とりわけこれまで投資が遅れてきた原油 天然ガス関連での開発が進むことが期待され 中期的な成長のエンジンとなることが期待される 特に 天然ガスは昨年末時点で世界埋蔵量の 3% が埋蔵するなど 依然成長源として期待される分野である こうした機会を大きく活かすためにも 外資からの投資が認められない分野に定められている部門の解放や ASEAN 全体を見据えたバランスある産業政策が求められる 当社の 月時点における同国の経済成長率の見通しは インフレと金利高の共存から個人消費及び資本投資に下押し圧力がかかる一方 外需は当面底堅さが持続することで 年は前年比 +.7% その後 9 年前半に掛けて世界経済減速の前提から外需も下押しされ 9 年は同 +.% としている 図 17 財政動向の推移 ( 前年比 ) 図 1 交易条件の推移 ( 兆ルピア ) 1 1 財政収支 歳出 歳入 - - - - - - 3 7 輸入物価 輸出物価 交易条件指数 ( 右 ) 3-3 7 1 99 97 9 93 91 9 7 以上