脂質異常症 ~ 動脈硬化性疾患予防 GL より ~ 山口県立総合医療センターへき地医療支援部 宮野馨
参考資料 ➀ 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017 年版 (➁ 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス ) (3 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド 2013 年版 ) 脂質異常症だけのものではないのですが 今日はそこに絞ります
脂質異常症に出会ったら 53 歳女性 健診でコレステロールが高いと言われました T-chol 240mg/dl, HDL-C 45, TG 180mg/dl, LDL-C 159mg/dl 医師 じゃあ スタチンという薬を飲みましょうか 2 ヶ月後 T-chol 180mg/dl, HDL-C 42mg/dl, TG 165mg/dl, LDL-C( 間接法 ) 105mg/dl 医師 下がりましたね 良かったですね 女性 そうですか じゃあ 薬をやめてもいいですか? 医師 いや
痛くもかゆくもない ( 無症状 ) のに どうして治療しなければいけないんですか? 薬を飲んだら大丈夫なんですか??
大事なこと ( 患者と共有すべきこと ) ゴールはどこにある? 目的 目標 動脈硬化性疾患を予防する! コレステロールの数値だけで判断するのではないリスクは総合的に評価し 包括的にアプローチを! まずは 患者 ( あるいは家族 ) と治療の意義や目標を 共有 する
~ 脂質異常症の治療意義 ~ 脂質異常症に対するスタチン治療の 26 試験 17 万人のメタ解析 全死亡及び主要血管イベントを有意に抑制 (Cholesterol Treatment Trialists (CTT) Collaboration et al:lancet ;376(9753):1670-81, 2010 より引用 )
2017 年のガイドライン改訂のポイント 吹田スコアを用いた冠動脈疾患発症予測モデル
診断 <ガイドライン2017の変更点 > non HDL-Cが診断基準に明記高 non HDL-C 170mg/dl 以上境界域高 non HDL-C 150~169mg/dl LDL-C は直接法でも可以前は精度の問題で計算法だったが 現在は臨床的には問題にならない ( エビデンスはほぼ計算法だけど ) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012
吹田スコア を用いたフローチャート
➀ スクリーニング 問診 ( 自覚症状 生活習慣 既往歴 家族歴など ) 身体所見 (BMI ウエスト長 バイタル 理学所見など ) 臨床検査 (CBC 検尿 肝腎機能 DM 甲状腺機能など ) 生理検査 (ECG) 画像検査 ( 胸部 Xp) PAC/PRA 比 ( 原発性アルドステロン症を疑う場合 ) 尿蛋白 /Cr 比 ( 検尿で異常があった場合 ) 必要に応じて 頸動脈エコー 心エコー ABI 高脂血症としては続発性脂質異常症の鑑別も 専門医への紹介は必要?
主な続発性脂質異常症 甲状腺機能低下症 ネフローゼ症候群 腎不全 尿毒症 原発性胆汁性肝硬変 閉塞性黄疸 糖尿病 クッシング症候群 肥満 アルコール 自己免疫疾患 (SLE など ) 薬剤性 ( 利尿薬 β 遮断薬 ステロイド エストロゲンなど ) 妊娠
一次予防なら
< 冠動脈疾患絶対リスク評価チャート ( 吹田スコア )> 吹田スコア に基づく 10 年以内の冠動脈疾患発症確率でリスク分類 Web 版 スマホアプリを利用可能 順に入力すれば 低 ~ 高リスクを判定脂質管理目標値を表示 やってみよう!
管理目標値の設定
実は 一次予防の治療目標値には明確な根拠がない 数値が低いと低リスク は 数値を下げれば低リスク とは違う! MEGA study Lancet (London, England). 2006 Sep30;368(9542);1155-63.> 日本人の低 中リスクの一次予防にプラバスタチンを使ったら 約 5 年間で 冠動脈疾患発症率 2.5% 1.7% と優位に減少だけど NNT 119 人 ( 心筋梗塞に限れば NNT 255 人 心血管死 総死亡は有意差なし ) 一次予防は生活習慣改善のみで 原則薬物療法不要 ( 絶対処方しません と喧嘩はしないでください ) ただし 高リスク (DM 合併やリスク重積 ) は 薬物療法した方がよい
二次予防なら なかでも 家族性高コレステロール血症 急性冠症候群 DM+α 非心原性脳梗塞末梢動脈疾患 (PAD) 慢性腎臓病メタボリックシンドローム主要危険因子の重複喫煙 さらにハイリスクであるため厳格な LDL-C 管理を!
家族性高コレステロール血症 (FH) 常染色体優性遺伝 1 著名な高 LDL-C 血症 ( 二次性除外 180mg/dl 以上 ) 2 腱 皮膚結節性黄色腫 ➂ 家族歴 FH or 早発性冠動脈疾患 ( 男性 55 歳未満 女性 65 歳未満 ) ホモ接合体約 100 万人に1 人 ヘテロ接合体日本で約 30 万人 ( 約 500 人に1 人 ) 約 70% が心臓死 より厳格なLDL-Cの管理を!
管理目標値の設定
二次予防でも どこまで下げればいいのかの 明確な根拠はない
少なくとも二次予防では真だろう IMPROVE-IT 試験 ACS 後の患者 ( 二次予防 ) にスタチン+エゼミチブ VS スタチン もともとLDL-Cが正常でも LDL-Cを50mg/dl 程度まで下げたらイベント発生率に有意差があった! ( 参考 )N Engl J Med 2015; 372:2448-2450 そもそも管理目標値は必要なの? ACC/AHA ガイドラインでは設定せず とりあえず ハイリスクならスタチン内服
6 治療 ( 生活指導 ) 絶対 禁煙! 受動喫煙防止! 肥満であれば減量 食生活の改善魚 ( 青魚 ) 大豆 野菜 果物 玄米 海藻などを多めに 運動習慣の改善 3 メッツ以上の有酸素運動を 1 日 30 分以上 週 3 日以上 ( できれば毎日 ) ただし最初はゆっくり
7 治療 ( 薬物療法 ) 一次予防 低リスク群 ( 若年者 閉経前女性 ) に安易な薬物療法は控える 生活習慣の改善でもダメなら考慮してもよいが LDL-C 180mg/dl 以上が続くなら家族性高コレステロール血症も疑う 一方 二次予防 ハイリスク群は積極的に LDL-C 低下 ( スタチン ) を TG のみ ( 高 LDL を伴わない ) を対象とした薬物治療はエビデンスに乏しい 現実的には 高 TG 単独なら 500mg/dl 以上が続けば膵炎予防で検討?
具体的には 高 LDL ➀ スタチン ➁ エゼチミブ 3EPA
薬物治療の注意点 ➀ 代表的なスタチンの副作用肝機能障害 ( 高度なものは1% 前後 ) 用量依存的であり 減量 or 他剤 ( スタチン含む ) へ変更ミオパチー (5% 前後 ) 有症状やCK 基準値 10 倍以上なら一旦中止必要なら隔日投与や他剤 ( スタチン含む ) へ変更をtry 横紋筋融解症 ( 定義が曖昧だが0.1~0.5%) スタチンは不可 スタチンとフィブラートの併用横紋筋融解症のリスク のため慎重投与 妊婦は禁
薬物治療の注意点 ➁ スタンダードスタチン ( 弱 ) とストロングスタチン ( 強 ) スタンダード ( 先発品 ) ストロング ( 先発品 ) プラバスタチン ( メバロチン ) アトルバスタチン ( リピトール ) シンバスタチン ( リポバス ) ロスバスタチン ( クレストール ) フルバスタチン ( ローコール ) ピタバスタチン ( リバロ ) ストロング間 スタンダード間に効果 副作用に明らかな優劣はないプラバスタチン フルバスタチンがやや筋毒性を起こしにくい? クレストールは最大 20 mg (2.5mg 錠を 8 錠 ) までで増減可能ではあるただし 酸化 Mg 等の同時内服で効果が落ちる 夕食後と就寝前に分ける 採用の有無 ジェネリックの有無 使用経験の有無など 使いやさで OK
新薬の可能性 <PCSK9 阻害薬 > レパーサ皮下注 ( エボロクマブ ) プラルエント皮下注( アリロクマブ ) 肝臓のLDL 受容体を分解するPCSK9に対する抗体 血中のLDL-Cの肝臓への取り込みを促進する 尚 スタチンと併用が保健適応の条件 <MTP 阻害薬 > ジャクスタピッド Cap( ロミタピド ) 日本での適応は FH ホモ接合体患者に限定
高齢者へのアプローチ 高齢者はそれだけで中 ~ 高リスク 一次予防では 喫煙や高血圧などリスク重積すれば薬物療法も考慮 後期高齢者は一次予防の意義は明らかでない 主治医の判断で個々に対応たとえ二次予防でも認知症や寝たきりの場合は? 食事制限 フレイル助長? 運動療法 心疾患 呼吸器疾患 整形疾患などに注意
フォローアップ 生活指導のみで経過観察とする場合 2~3 ヶ月生活改善を促し 再検査 OK なら年 1 回の健診 +α を本人と相談 患者 医師双方にモチベーションがあれば 最初は 1 ヶ月ごと再診で生活指導もありかも 薬物治療を開始する場合 ( 必要なら投与前にベースラインの肝機能や CK を check) 1 ヶ月以内に 肝障害 ミオパチー等の副作用 check 2~3 ヶ月後に効果判定 忍容性があれば 3~4 カ月に 1 回程度の脂質 肝機能 ミオパチーの有無等を確認 (CK をルーチンで測定する意義は乏しい )
~ 実臨床での所感 ( 私見 )~ 脂質異常症は 薬物治療の効果が出やすく 薬剤の選択肢もそれほど多くない 高血圧や高血糖と違い それだけでは死なない 薬を始める前にその必要性を吟味 数値に反射で処方は 1 次予防においては コレステロール以外の要因 ( 血圧 禁煙など ) の方が重要だったり = 薬を飲めば OK ではない! むしろ 脂質異常症を健康増進のきっかけにしよう! 超高齢者が内服が困難になったりしたとき 最低限必要な薬に含めるか リスクや ADL 次第かな あくまでもガイドライン されどガイドライン! 大きく逸脱することなく 患者にとって ( 社会にとって )better な治療を主治医が考える!
おさらい 最初の方は 診断 : 高 LDL 高 TG 問診 その他の健診データ 診察から わずかな耐糖能異常以外は リスク因子無し 二次性を積極的に疑う症状 所見なし 薬はわりと好きな方
まとめ 包括的な介入の一つとして臨む 治療の入り口で 患者と目的の共有を 二次性高脂血症を忘れずに 一次予防は 基本は薬は使わず生活指導で 二次予防 DM ハイリスク群は LDLをしっかり下げましょう ガイドライン2017 年版は一度は ( 要約だけでも ) 目を通しましょう お疲れ様でした