高脂血症

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(2-3)脂質異常症 ポスター H

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

脂質異常症 治療の目標値は?

スライド 1

EBM と臨床 ( その 2)

本書の読み方 使い方 ~ 各項目の基本構成 ~ * 本書は主に外来の日常診療で頻用される治療薬を取り上げています ❶ 特徴 01 HMG-CoA 代表的薬剤ピタバスタチン同種同効薬アトルバスタチン, ロスバスタチン HMG-CoA 還元酵素阻害薬は主に高 LDL コレステロール血症の治療目的で使 用

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

1 ししつ脂質 いじょうしょう へ 高脂血症から 脂質脂質異常症 医療法人将優会クリニックうしたに 理事長 院長牛谷義秀 脂質異常症とは 血液中に含まれる LDL( 悪玉 ) コレステロールと中性脂肪中性脂肪のどちらか一方 あるいは両方が過剰の状態 または HDL( 善玉 ) コレステロールが少ない

2

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

調査の概要 本調査は 788 組合を対象に平成 24 年度の特定健診の 問診回答 (22 項目 ) の状況について前年度の比較から調査したものです 対象データの概要 ( 全体 ) 年度 被保険区分 加入者 ( 人 ) 健診対象者数 ( 人 ) 健診受診者数 ( 人 ) 健診受診率 (%) 評価対象者

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

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目次 1. はじめに P2 2. 本剤の特徴 作用機序 P3 3. 臨床成績 P4 4. 施設について P9 5. 投与対象となる患者 P11 6. 投与に際して留意すべき事項 P13 1

座談会 Round Table Discussion 末梢動脈疾患におけるこれからの脂質低下療法を考える PAD に対しては, 脚の病変部分だけでなく, 冠動脈疾患や脳血管障害の予防を見据えた治療対策を常に考慮しておく必要があります 中村正人 ( 座長 ) 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

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山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

心房細動1章[ ].indd

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262 原発性高カイロミクロン血症

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患者向医薬品ガイド

肥満症の認知状況関する アンケート調査 ~速報~

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

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保医発 0331 第 9 号 平成 29 年 3 月 31 日 地方厚生 ( 支 ) 局医療課長都道府県民生主管部 ( 局 ) 国民健康保険主管課 ( 部 ) 長都道府県後期高齢者医療主管部 ( 局 ) 後期高齢者医療主管課 ( 部 ) 長 殿 厚生労働省保険局医療課長 ( 公印省略 ) 抗 PCS

Microsoft PowerPoint - 2.医療費プロファイル 平成25年度(長野県・・

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

各位 2016 年 1 月 22 日 会社名アステラス製薬株式会社 代 表 者代表取締役社長畑中好彦 コード番号 4503 (URL 東 証 ( 第 一 部 ) 決 算 期 3 月 問合わせ先広報部長 臼井政明 Tel:(03)

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

平成26年患者調査 新旧対照表(案)

患者向医薬品ガイド

カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

平成 30 年 8 月 10 日 リポバス錠 5, 10, 20 アトーゼット配合錠 LD, MSD 株式会社 HD 競合品目 1 クレストール錠 クレストールOD 錠 アストラゼネカ 競合品目 2 リピトール錠 アステラス製薬 競合品目 3 リバロ錠 リバロOD 錠 興和 自社製品を除いた同効品で

患者向医薬品ガイド

コレステロールは体内で細胞膜や胆汁酸 ( 消化液 ) 副腎皮質ホルモンや性ホルモン( 男性ホルモン 女性ホルモンなど ) ビタミンDの原料となります 人体を維持するのに無くてはならない構成成分です コレステロールには悪玉の LDL コレステロール (LDL) と善玉の HDL コレステロール (HD

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習


(検3)5.構成員資料1.寺本班基本資料 特定健診検討会(脂質)寺本班(案)ver2

301121_課_薬生薬審発1121第1号_アリロクマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインの一部改正について

平成 27 年 10 月 6 日第 2 回健康増進 予防サービス プラットフォーム資料 協会けんぽ広島支部の取り組み ~ ヘルスケア通信簿について ~ 平成 27 年 10 月全国健康保険協会広島支部 協会けんぽ 支部長向井一誠

Q2 はどのような構造ですか? A2 LDL の主要構造蛋白はアポ B であり LDL1 粒子につき1 分子存在します 一方 (sd LDL) の構造上の特徴はコレステロール含有量の減少です 粒子径を規定する脂質のコレステロールが少ないため小さく また1 分子のアポ B に対してコレステロールが相対

患者向医薬品ガイド

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

ACS患者の最適な脂質低下療法を考える

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

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1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

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日本スポーツ栄養研究誌 vol 目次 総説 原著 11 短報 19 実践報告 資料 45 抄録

プラバスタチンNa錠5mg/10mg「MED」201703

(6/5 19:00修正)資料3 標準的な健診・保健指導プログラム改定のポイント (2) (2)

保医発 1121 第 3 号 平成 30 年 11 月 21 日 地方厚生 ( 支 ) 局医療課長都道府県民生主管部 ( 局 ) 国民健康保険主管課 ( 部 ) 長都道府県後期高齢者医療主管部 ( 局 ) 後期高齢者医療主管課 ( 部 ) 長 殿 厚生労働省保険局医療課長 ( 公印省略 ) 抗 PC

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1 疾患別医療費札幌市国保の総医療費に占める入院医療費では 悪性新生物が 21.2% 循環器疾患が 18.6% となっており 循環器疾患では 虚血性心疾患が 4.5% 脳梗塞が 2.8% を占めています 外来医療費では 糖尿病が 7.8% 高血圧症が 6.6% 脂質異常症が 4.3% となっています

提供 : サノフィ株式会社 座談会 心血管二次予防における LDL コレステロール管理 : Treat to Target vs. Fire and Forget 出席者 座長 木村一雄先生 伊苅裕二先生 横浜市立大学付属市民総合医療センター心臓血管センター教授 東海大学医学部内科学系循環器内科教授

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この薬を使う前に 確認すべきことは? 次の人は この薬を使用することはできません 過去に NikP に含まれる成分で過敏症のあった人 妊婦または妊娠している可能性のある人および授乳中の人 次の人は 慎重に使う必要があります 使い始める前に医師または薬剤師にその旨を告げてください 肝臓に重篤な障害のあ

この薬を使う前に 確認すべきことは? 次の人は この薬を使用することはできません 過去に アメル に含まれる成分で過敏な反応を経験したことがある人 妊婦または妊娠している可能性のある人および授乳中の人 次の人は 原則として この薬を使用することはできません 腎臓の機能に関する臨床検査値に異常が認めら

自動車運送事業者における 心臓疾患大血管疾患 対策ガイドライン 概要版 本ガイドラインのポイント 実践 業者が実施スクリーニング検査事医療機関が実施事業者が実施知識 健康起因事故の原因となる心臓疾患 大血管疾患 疾患の原因と予防 ( 参考 ) 関係法令について 心臓疾患 大血管疾患の早期発見と発症予

NEW版下_健診べんり2016_01-12

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第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

談会提供 : サノフィ株式会社 これからの日本人の脂質代謝異常症の治療戦略を考える ~ 家族性高コレステロール血症を見逃さないために ~ ROUND TABLE DISCUSSION 座席者東京女子医科大学医学部循環器内科講師出座長 寺本民生先生帝京大学臨床研究センターセンター長 Alberico

し重症化すると黄色い塊 ( 黄色腫 ) が体のあちこちにできたり 血管が詰まって脳梗塞や心筋 梗塞を引き起こしたりする恐ろしい病気です それでは脂質異常症とはいったい何でしょう か? (1) 脂質異常症の原因 ( 食生活の乱れ 運動不足 ) 脂質異常症は 血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールが異常に

平成28年度地域包括診療加算・地域包括診療料に係る かかりつけ医研修会

Microsoft Word 高尿酸血症痛風の治療ガイドライン第3版主な変更点_最終

患者向医薬品ガイド

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この薬を使う前に 確認すべきことは? 次の人は この薬を使用することはできません 過去に TCK に含まれる成分で過敏症のあった人 妊婦または妊娠している可能性のある人および授乳中の人 次の人は 原則として この薬を使用することはできません 腎臓の機能に関する臨床検査値に異常が認められる人でフィブラ

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301128_課_薬生薬審発1128第1号_ニボルマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインの一部改正について

1.HMG-CoA 還元酵素阻害薬 : スタチン高 LDL 血症に対する第 1 選択薬はスタチンであり, 心血管イベントの二次予防において, スタチンによる脂質介入の有益性は多くの大規模臨床試験によって確立されたものとなっている.1994 年に発表された 4S 試験では, シンバスタチンにより LD

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

骨粗しょう症調査

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修正済_プラバスタチンNa塩錠5mg, 10mg「タナベ」)

パルモディア錠 0.1mg に係る医薬品リスク管理計画書 (RMP) の概要 販売名 パルモディア錠 0.1mg 有効成分 ペマフィブラート 製造販売業者 興和株式会社 薬効分類 提出年月 平成 30 年 11 月 1.1 安全性検討事項 重要な特定されたリスク 頁 重要な潜在的リスク


高脂血症とは? 高脂血症とは 血液中の脂質 具体的にはコレステロールや中性脂肪 ( 代表的なものはトリグリセリド ) が 多過ぎる病気のことです 血液中にはコレステロール 中性脂肪 リン脂質 遊離脂肪酸の4 種類の脂質がとけこんでいます ところが 血液中の脂肪が異常に増えても 普通自覚症状はないため

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

死亡率 我が国における疾病構造 生活習慣病は死亡割合の約 6 割を占めている 我が国の疾病構造は感染症から生活習慣病へと変化 死因別死亡割合 ( 平成 24 年 ) 生活習

日本内科学会雑誌第98巻第12号

「長寿のためのコレステロール ガイドライン2010 年版」に対する声明

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この薬を使う前に 確認すべきことは? 次の人は この薬を使用することはできません 過去にプラバスタチン Na 錠に含まれる成分で過敏症のあった人 妊婦または妊娠している可能性のある人および授乳中の人 次の人は 慎重に使う必要があります 使い始める前に医師または薬剤師にその旨を告げてください 肝臓に重

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

-3- Ⅰ 市町村国保の状況 1 特定健康診査受診者の状況 平成 23 年度は 市町村国保 (41 保険者 )98,439 人の特定健康診査データの集計を行った 市町村国保の診者数は男性 女性ともに 歳の割合が多く 次いで 歳 歳の順となっている 男性 女性 総数

医療連携ガイドライン改

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

脂質異常症について

Transcription:

脂質異常症 ~ 動脈硬化性疾患予防 GL より ~ 山口県立総合医療センターへき地医療支援部 宮野馨

参考資料 ➀ 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017 年版 (➁ 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス ) (3 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド 2013 年版 ) 脂質異常症だけのものではないのですが 今日はそこに絞ります

脂質異常症に出会ったら 53 歳女性 健診でコレステロールが高いと言われました T-chol 240mg/dl, HDL-C 45, TG 180mg/dl, LDL-C 159mg/dl 医師 じゃあ スタチンという薬を飲みましょうか 2 ヶ月後 T-chol 180mg/dl, HDL-C 42mg/dl, TG 165mg/dl, LDL-C( 間接法 ) 105mg/dl 医師 下がりましたね 良かったですね 女性 そうですか じゃあ 薬をやめてもいいですか? 医師 いや

痛くもかゆくもない ( 無症状 ) のに どうして治療しなければいけないんですか? 薬を飲んだら大丈夫なんですか??

大事なこと ( 患者と共有すべきこと ) ゴールはどこにある? 目的 目標 動脈硬化性疾患を予防する! コレステロールの数値だけで判断するのではないリスクは総合的に評価し 包括的にアプローチを! まずは 患者 ( あるいは家族 ) と治療の意義や目標を 共有 する

~ 脂質異常症の治療意義 ~ 脂質異常症に対するスタチン治療の 26 試験 17 万人のメタ解析 全死亡及び主要血管イベントを有意に抑制 (Cholesterol Treatment Trialists (CTT) Collaboration et al:lancet ;376(9753):1670-81, 2010 より引用 )

2017 年のガイドライン改訂のポイント 吹田スコアを用いた冠動脈疾患発症予測モデル

診断 <ガイドライン2017の変更点 > non HDL-Cが診断基準に明記高 non HDL-C 170mg/dl 以上境界域高 non HDL-C 150~169mg/dl LDL-C は直接法でも可以前は精度の問題で計算法だったが 現在は臨床的には問題にならない ( エビデンスはほぼ計算法だけど ) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012

吹田スコア を用いたフローチャート

➀ スクリーニング 問診 ( 自覚症状 生活習慣 既往歴 家族歴など ) 身体所見 (BMI ウエスト長 バイタル 理学所見など ) 臨床検査 (CBC 検尿 肝腎機能 DM 甲状腺機能など ) 生理検査 (ECG) 画像検査 ( 胸部 Xp) PAC/PRA 比 ( 原発性アルドステロン症を疑う場合 ) 尿蛋白 /Cr 比 ( 検尿で異常があった場合 ) 必要に応じて 頸動脈エコー 心エコー ABI 高脂血症としては続発性脂質異常症の鑑別も 専門医への紹介は必要?

主な続発性脂質異常症 甲状腺機能低下症 ネフローゼ症候群 腎不全 尿毒症 原発性胆汁性肝硬変 閉塞性黄疸 糖尿病 クッシング症候群 肥満 アルコール 自己免疫疾患 (SLE など ) 薬剤性 ( 利尿薬 β 遮断薬 ステロイド エストロゲンなど ) 妊娠

一次予防なら

< 冠動脈疾患絶対リスク評価チャート ( 吹田スコア )> 吹田スコア に基づく 10 年以内の冠動脈疾患発症確率でリスク分類 Web 版 スマホアプリを利用可能 順に入力すれば 低 ~ 高リスクを判定脂質管理目標値を表示 やってみよう!

管理目標値の設定

実は 一次予防の治療目標値には明確な根拠がない 数値が低いと低リスク は 数値を下げれば低リスク とは違う! MEGA study Lancet (London, England). 2006 Sep30;368(9542);1155-63.> 日本人の低 中リスクの一次予防にプラバスタチンを使ったら 約 5 年間で 冠動脈疾患発症率 2.5% 1.7% と優位に減少だけど NNT 119 人 ( 心筋梗塞に限れば NNT 255 人 心血管死 総死亡は有意差なし ) 一次予防は生活習慣改善のみで 原則薬物療法不要 ( 絶対処方しません と喧嘩はしないでください ) ただし 高リスク (DM 合併やリスク重積 ) は 薬物療法した方がよい

二次予防なら なかでも 家族性高コレステロール血症 急性冠症候群 DM+α 非心原性脳梗塞末梢動脈疾患 (PAD) 慢性腎臓病メタボリックシンドローム主要危険因子の重複喫煙 さらにハイリスクであるため厳格な LDL-C 管理を!

家族性高コレステロール血症 (FH) 常染色体優性遺伝 1 著名な高 LDL-C 血症 ( 二次性除外 180mg/dl 以上 ) 2 腱 皮膚結節性黄色腫 ➂ 家族歴 FH or 早発性冠動脈疾患 ( 男性 55 歳未満 女性 65 歳未満 ) ホモ接合体約 100 万人に1 人 ヘテロ接合体日本で約 30 万人 ( 約 500 人に1 人 ) 約 70% が心臓死 より厳格なLDL-Cの管理を!

管理目標値の設定

二次予防でも どこまで下げればいいのかの 明確な根拠はない

少なくとも二次予防では真だろう IMPROVE-IT 試験 ACS 後の患者 ( 二次予防 ) にスタチン+エゼミチブ VS スタチン もともとLDL-Cが正常でも LDL-Cを50mg/dl 程度まで下げたらイベント発生率に有意差があった! ( 参考 )N Engl J Med 2015; 372:2448-2450 そもそも管理目標値は必要なの? ACC/AHA ガイドラインでは設定せず とりあえず ハイリスクならスタチン内服

6 治療 ( 生活指導 ) 絶対 禁煙! 受動喫煙防止! 肥満であれば減量 食生活の改善魚 ( 青魚 ) 大豆 野菜 果物 玄米 海藻などを多めに 運動習慣の改善 3 メッツ以上の有酸素運動を 1 日 30 分以上 週 3 日以上 ( できれば毎日 ) ただし最初はゆっくり

7 治療 ( 薬物療法 ) 一次予防 低リスク群 ( 若年者 閉経前女性 ) に安易な薬物療法は控える 生活習慣の改善でもダメなら考慮してもよいが LDL-C 180mg/dl 以上が続くなら家族性高コレステロール血症も疑う 一方 二次予防 ハイリスク群は積極的に LDL-C 低下 ( スタチン ) を TG のみ ( 高 LDL を伴わない ) を対象とした薬物治療はエビデンスに乏しい 現実的には 高 TG 単独なら 500mg/dl 以上が続けば膵炎予防で検討?

具体的には 高 LDL ➀ スタチン ➁ エゼチミブ 3EPA

薬物治療の注意点 ➀ 代表的なスタチンの副作用肝機能障害 ( 高度なものは1% 前後 ) 用量依存的であり 減量 or 他剤 ( スタチン含む ) へ変更ミオパチー (5% 前後 ) 有症状やCK 基準値 10 倍以上なら一旦中止必要なら隔日投与や他剤 ( スタチン含む ) へ変更をtry 横紋筋融解症 ( 定義が曖昧だが0.1~0.5%) スタチンは不可 スタチンとフィブラートの併用横紋筋融解症のリスク のため慎重投与 妊婦は禁

薬物治療の注意点 ➁ スタンダードスタチン ( 弱 ) とストロングスタチン ( 強 ) スタンダード ( 先発品 ) ストロング ( 先発品 ) プラバスタチン ( メバロチン ) アトルバスタチン ( リピトール ) シンバスタチン ( リポバス ) ロスバスタチン ( クレストール ) フルバスタチン ( ローコール ) ピタバスタチン ( リバロ ) ストロング間 スタンダード間に効果 副作用に明らかな優劣はないプラバスタチン フルバスタチンがやや筋毒性を起こしにくい? クレストールは最大 20 mg (2.5mg 錠を 8 錠 ) までで増減可能ではあるただし 酸化 Mg 等の同時内服で効果が落ちる 夕食後と就寝前に分ける 採用の有無 ジェネリックの有無 使用経験の有無など 使いやさで OK

新薬の可能性 <PCSK9 阻害薬 > レパーサ皮下注 ( エボロクマブ ) プラルエント皮下注( アリロクマブ ) 肝臓のLDL 受容体を分解するPCSK9に対する抗体 血中のLDL-Cの肝臓への取り込みを促進する 尚 スタチンと併用が保健適応の条件 <MTP 阻害薬 > ジャクスタピッド Cap( ロミタピド ) 日本での適応は FH ホモ接合体患者に限定

高齢者へのアプローチ 高齢者はそれだけで中 ~ 高リスク 一次予防では 喫煙や高血圧などリスク重積すれば薬物療法も考慮 後期高齢者は一次予防の意義は明らかでない 主治医の判断で個々に対応たとえ二次予防でも認知症や寝たきりの場合は? 食事制限 フレイル助長? 運動療法 心疾患 呼吸器疾患 整形疾患などに注意

フォローアップ 生活指導のみで経過観察とする場合 2~3 ヶ月生活改善を促し 再検査 OK なら年 1 回の健診 +α を本人と相談 患者 医師双方にモチベーションがあれば 最初は 1 ヶ月ごと再診で生活指導もありかも 薬物治療を開始する場合 ( 必要なら投与前にベースラインの肝機能や CK を check) 1 ヶ月以内に 肝障害 ミオパチー等の副作用 check 2~3 ヶ月後に効果判定 忍容性があれば 3~4 カ月に 1 回程度の脂質 肝機能 ミオパチーの有無等を確認 (CK をルーチンで測定する意義は乏しい )

~ 実臨床での所感 ( 私見 )~ 脂質異常症は 薬物治療の効果が出やすく 薬剤の選択肢もそれほど多くない 高血圧や高血糖と違い それだけでは死なない 薬を始める前にその必要性を吟味 数値に反射で処方は 1 次予防においては コレステロール以外の要因 ( 血圧 禁煙など ) の方が重要だったり = 薬を飲めば OK ではない! むしろ 脂質異常症を健康増進のきっかけにしよう! 超高齢者が内服が困難になったりしたとき 最低限必要な薬に含めるか リスクや ADL 次第かな あくまでもガイドライン されどガイドライン! 大きく逸脱することなく 患者にとって ( 社会にとって )better な治療を主治医が考える!

おさらい 最初の方は 診断 : 高 LDL 高 TG 問診 その他の健診データ 診察から わずかな耐糖能異常以外は リスク因子無し 二次性を積極的に疑う症状 所見なし 薬はわりと好きな方

まとめ 包括的な介入の一つとして臨む 治療の入り口で 患者と目的の共有を 二次性高脂血症を忘れずに 一次予防は 基本は薬は使わず生活指導で 二次予防 DM ハイリスク群は LDLをしっかり下げましょう ガイドライン2017 年版は一度は ( 要約だけでも ) 目を通しましょう お疲れ様でした