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第 4 章トピックス 4.1 Metop-A 衛星搭載のサウンダ利用 1 4.1.1 Metop-A について Metop-A は欧州初の現業極軌道気象衛星である 欧州気象衛星開発機構 (EUMETSAT) によって 2006 年 10 月 19 日に打ち上げられ 2007 年 5 月 15 日に正式運用が開始された Metop-A には 従来数値予報に貢献してきた極軌道衛星 NOAA と同様に ATOVS が搭載されている ATOVS とは 鉛直方向の気温や水蒸気の情報を取得する測器の総称であり マイクロ波域で気温の情報を観測する AMSU-A 水蒸気の情報を観測する AMSU-B(NOAA-15 から NOAA-17 に搭載 ) または MHS ( NOAA-18 と Metop-A に搭載 ) 赤外域で気温や水蒸気の情報を観測する HIRS で構成されている AMSU-B と MHS は観測周波数など一部異なるものの ほぼ同種の測器と考えてよい Metop-A にはこの他 赤外の超高波数分解能のチャンネルで気温や水蒸気の情報を観測する IASI 海上風を観測する ASCAT GPS 掩蔽観測の GRAS など 新型の測器も搭載されている 現在運用中の全ての NOAA 衛星に搭載されている AMSU-A は 数値予報で非常に重要とされている測器であるが NOAA-17 については 2003 年 10 月に発生した測器の故障により データを得ることができなくなっている このため 数値予報で使用する AMSU-A のデータ分布には 長い間隙間が生じていた しかし NOAA-17 とほぼ同じ軌道を持つ Metop-A の運用に伴い この隙間が埋められ 全球的な AMSU-A の情報を数値予報で利用することができ 図 4.1.1 全球速報解析で利用可能な AMSU-A データの分布 2008 年 5 月 29 日 12UTC の例 衛星毎に軌道の色を分けて描画 オレンジ色が Metop-A の軌道を表す 1 大和田浩美 るようになった Bormann et al.(2007) は 欧州中期予報センター (ECMWF) では Metop-A の利用により AMSU-A の隙間が埋められ 南半球の予報精度が大きく改善したと報告している 図 4.1.1 は 全球速報解析で利用可能な AMSU-A のデータ分布の例であるが Metop-A が他衛星の観測しない領域をカバーしていることがわかる また NOAA 衛星と比較して Metop-A データの入電は早く 安定している 本節では 2007 年度に開始した全球解析とメソ解析における Metop-A の利用について 簡単に紹介する 4.1.2 全球解析におけるMetop-Aの利用全球解析では 2007 年 11 月 21 日にMetop-Aの AMSU-AとMHSの輝度温度データの利用を開始した NOAA 衛星搭載のAMSU-AとMHSについては Metop-Aの利用以前から全球解析で利用している ( 岡本 2007a) Metop-AのAMSU-AとMHSのデータは 2007 年 2 月 7 日から気象庁へ入電している 入電開始直後からデータの品質調査を実施し これらのデータの品質はNOAA 衛星搭載の同測器と比較して 同程度かそれ以上に良いことがわかった ルーチンに近い仕様の低解像度のシステムを使い Metop-AのAMSU-A MHSの利用に関するインパクト実験 (1ヶ月強のサイクル実験) を2つの期間について実施したので紹介する 1つは2007 年 7 月 20 日から9 月 9 日まで ( 検証する予報は2007 年 8 月 1 日から31 日の12UTCの31 事例 ) もう1つは2007 年 12 月 20 日から2008 年 2 月 9 日まで ( 同様に2008 年 1 月 1 日から31 日の31 事例 ) である それぞれを夏実験 冬実験と呼び Metop-AのAMSU-AとMHSを利用しない実験をCNTL 利用した実験をTESTとする データ処理手法については 岡本 (2007b) を参照されたい 図 4.1.2は 0hPa 高度の48 時間予報について CNTL TESTともに初期値を真値としたときの平方根平均二乗誤差 (RMSE) をとり 各格子点の RMSEの差 (CNTL-TEST) を描画したものである 左図が夏実験 右図が冬実験であり TESTのRMSE がCNTLのそれより小さい ( 図では赤色 ) ならば TESTのほうがCNTLより予報成績が良い 両実験とも南半球を中心に正領域のほうが負領域より広く Metop-Aを利用することによって予報精度が改善することが確認できた なお 0hPa 高度場以外の主要要素についても 予報初期を中心に概ねTESTのほうがCNTLより予報成績が良く ( 図略 ) Metop-A の利用の効果が示された 101

図 4.1.2 0hPa 高度の 48 時間予報における対初期値 RMSE の差 (CNTL-TEST) Metop-A の AMSU-A と MHS データを利用しない実験を CNTL 利用した実験を TEST とする 左図は夏実験 (2007 年 8 月 1 日から 31 日までの 12UTC の予報 31 事例 ) 右図は冬実験 (2008 年 1 月 1 日から 31 日までの 12UTC の予報 31 事例 ) 赤色の領域は TEST が CNTL より改善していることを表す 4.1.2 メソ解析における Metop-A の利用メソ解析では 2008 年 1 月 15 日に Metop-A の ATOVS リトリーブデータの利用を開始した リトリーブデータとは 観測された輝度温度から推定 ( リトリーブ ) された 気温や水蒸気の鉛直分布といった物理量データのことである 今までメソ解析では 米国環境衛星資料情報局 (NESDIS) や気象衛星センター (MSC) が作成 配信している NOAA 衛星の ATOVS リトリーブデータのうち 気温データを利用してきた NESDIS と MSC ではリトリーブデータの算出処理で使用する ATOVS の測器が異なり NESDIS では AMSU-A と HIRS を使用しているが MSC では HIRS のみである このため AMSU-A が故障している NOAA-17 については NESDIS からの 配信はなく MSCからのデータのみである ( 大和田 2007) Metop-AのATOVSリトリーブデータはNESDIS で作成 配信されているものであり 2007 年 6 月 22 日から気象庁へ入電している NESDISによる NOAA 衛星のATOVSリトリーブデータは 観測点で推定される雲量 ( 通報値は8 分雲量 ) が0% のもののみ報じられているが Metop-Aについてはこれに加え 雲量が13% のものも併せて報じられている データの品質を調査したところ 雲量 13% のデータの品質は雲量 0% のデータのそれにやや劣ることを確認したので 雲量 0% のデータのみ利用している 図 4.1.3はメソ解析におけるATOVSリトリーブデータの分布例である Metop-AはMSCから配信されているNOAA-17と同じ解析時刻に入電することが多い もともとNOAA-17のデータ数が多いため 重複した領域においてはMetop-Aのインパクトは大きくないかもしれないが データ分布の拡充に寄与していると言える 図 4.1.3 メソ解析で使用された ATOVS リトリーブデータ (8hPa の気温 ) の分布 2008 年 5 月 26 日 15UTC の例 衛星毎に色を分けて描画 15UTC の解析時刻に入電するのは 主に NOAA-17( 青色 ) と Metop-A ( オレンジ色 ) 4.1.3 まとめと今後の課題全球解析とメソ解析において Metop-A の ATOVS データの利用を 2007 年度に開始した 第 4.1.1 項でも記したとおり Metop-A には ATOVS 以外にも新型の測器が搭載されている 現在 数値予報課ではルーチン利用に向けこれらのデータを取得し 品質調査やデータのインパクト実験を行っている最中である 例えば ECMWF では IASI の利用により 0hPa 高度の予報精度の改善が得られている (Collard 2008) が これらの新規データの利用は今後の数値予報の精度向上の鍵となることは間違いなく 早期の利用開始に向けて開発を継続していきたい 102

参考文献大和田浩美, 2007: ATOVS リトリーブデータの同化. 数値予報課報告 別冊第 53 号, 気象庁予報部, 71-74. 岡本幸三, 2007a: 衛星データ同化の最近の開発. 平成 19 年度数値予報研修テキスト, 気象庁予報部, 104-106. 岡本幸三, 2007b: ATOVS 直接同化. 数値予報課報告 別冊第 53 号, 気象庁予報部, 58-70. Bormann, N., B. Krzeminski, F. Karbou, and J.-N. Thepaut, 2007: Recent Developments in the Use of ATOVS Data at ECMWF. Proceedings of Joint 2007 EUMETSAT Meteorological Satellite Conference and the 15th Satellite Meteorology & Oceanography Conference of the American Meteorological Society, Amsterdam, The Netherlands, 24-28 September 2007, 7pp. [Available from http://www.eumetsat.int/home /Main/Publications/Conference_and_Workshop _Proceedings/groups/cps/documents/document/ pdf_conf_p_s2_04_bormann_v.pdf] Collard, A., 2008: Assimilation of AIRS and IASI at ECMWF. Proceedings of ECMWF Seminar on Recent Developments in the Use of Satellite Observations in Numerical Weather Prediction, Reading, United Kingdom, 3-7 September 2007, 127-1. 103

4.2 全球数値予報モデルの国際比較 1 4.2.1 はじめに気象庁の全球モデル (GSM) の成績について 世界の主要数値予報センターと比較しつつ過去 10 数年の改善状況を振り返ってみる 全球モデルの性能の評価は目的に応じて適切な指標を選んで行う必要があるが ここでは国際的な比較によく用いられる 0hPa 高度と台風進路の予報誤差を取り上げる 0hPa 高度予報誤差は中 高緯度の大規模な大気の流れの予報精度を示す指標である 世界の数値予報センターは 世界気象機関 (WMO) が定めた標準検証方法に従って自センターの全球モデルによる予報を検証し その結果を月毎に交換している また 台風は大きな災害をもたらす重要な現象であることから 気象庁数値予報課では世界の主要な全球モデルの台風進路予報誤差の国際検証 比較を担当し その結果を世界気候研究計画 (WCRP) と WMO/ 大気科学委員会 (CAS) により設立された数値実験作業部会 (WGNE) に毎年報告している 4.2.2 0hPa 高度予報予報成績の良い 3 つの数値予報センター ( 欧州中期予報センター ECMWF 英国気象局 UKMO 米国環境予測センター NCEP) と気象庁 JMA の全球モデルの 1995 年以降の成績を示す 北半球 (20 N- 90 N) と南半球 (20 S-90 S) それぞれの 2 日予報と 5 日予報について 前 12 ヶ月平均した 0hPa 高度予報誤差 ( 平方根平均二乗誤差 (RMSE)) を図 4.2.1 に示す (1) 2 日予報気象庁の 2 日予報の成績は 北半球 南半球ともに 1995 年 1998-1999 年及び 2001 年に改善が見られない時期があったが 2002 年後半から着実に改善が図られている ( 図 4.2.1.a,b) 2001 年 9 月に同化手法を最適内挿法から 3 次元変分法に更新した直後は成績が一時的に悪化したが 翌年 4 月にかけてなされた改良に伴い成績が改善した 変分法への移行を受けて 2003 年から衛星観測輝度温度の直接同化の開始や新たな衛星データの利用が進み着実な予報誤差減少が図られた 2003 年以降の主な衛星データの利用状況を表 4.2.1 に示す その後 2005 年 2 月には 4 次元変分法に移行した 他センターとの比較では 北半球では 2005 年に 南半球では 2007 年に NCEP の成績に追いついた 世界のトップをいく ECMWF とは開きはあるものの 1 佐藤清富 30 28 26 24 22 20 18 16 14 a. 2008 年 5 月までの北半球 0hPa 高度予報誤差 (2 日予報 ) 12 45 40 35 30 25 20 b. 2008 年 5 月までの南半球 0hPa 高度予報誤差 (2 日予報 ) 15 70 65 60 55 45 c. 2008 年 5 月までの北半球 0hPa 高度予報誤差 (5 日間予報 ) 40 95 90 85 80 75 70 65 60 55 d. 2008 年 5 月までの南半球 0hPa 高度予報誤差 (5 日予報 ) 図 4.2.1 0hPa 高度の平方根平均二乗誤差 (m) の経年 変化 ( 前 12 ヶ月移動平均 ) 上から順に a. 北半球の 2 日予報 b. 南半球の 2 日予報 c. 北半球の 5 日予報 d. 南半球の 5 日予報の結果 104

2002 年頃に拡大していた差を縮めている (2) 5 日予報北半球 南半球ともに 1995 年 -1999 年の 5 年間 改善の停滞や一時的に改悪することがあったが 2000 年以降は着実に予報誤差を減少させている ( 図 4.2.1.c,d) 1999 年以降の全球予報モデルの主な改良を表 4.2.2 に示す 1999 年の改良は北半球の成績向上に大きく寄与した 2004-2005 年の成績向上には 予報モデルの改良に加えて衛星データ同化処理の改良の効果も大きい 2007 年 11 月のモデル更新は北半球の成績改善に寄与しているが 南半球ではこれまでのところ明瞭な成績改善が見られない 他センターとの比較では 北半球では 2005 年に NCEP と UKMO に追いついたが その後両センターほどの改善が見られない 南半球も 2007 年に NCEP の成績に追いついたがその後の改善が停滞している 表 4.2.1 主な衛星データの利用状況 (2003 年以降 ) 2003 年 5 月 QuikSCAT/SeaWinds 散乱計データ ( 新規 ) 2003 年 5 月 NOAA/ATOVS 輝度温度 ( 新規 ) 2004 年 5 月北極域でのMODIS 衛星風 ( 新規 ) 2004 年 9 月南極域でのMODIS 衛星風 ( 新規 ) 2004 年 12 月 NOAA/ATOVS 輝度温度 ( 改良 ) 2005 年 3 月 Aqua/AMSU-A 輝度温度 ( 新規 ) 2006 年 5 月 SSM/I TMI AMSR-E 輝度温度 ( 新規 ) 2006 年 8 月 NOAA/ATOVS 輝度温度同化 ( 改良 ) 2006 年 10 月静止気象衛星の大気追跡風同化 ( 改良 ) 2007 年 3 月 GPS 掩蔽データ ( 新規 ) 2007 年 6 月 MTSAT 晴天輝度温度 ( 新規 ) 2007 年 11 月 Metop/ATOVS 輝度温度 ( 新規 ) ( 注 ) 南極域での MODIS 衛星風は精度悪化により 2007 年 10 月に利用を中断 GPS 掩蔽データと MTSAT 晴天輝度温度は 2007 年 11 月の全球モデル更新時に利用を一時中断 晴天輝度温度は 2008 年 8 月に利用再開 表 4.2.2 全球予報モデルの主な改良 (1999 年以降 ) 1999 年 12 月雲水量の予報変数化 積雲対流スキーム改良他 2001 年 3 月鉛直層解像度 積雲対流スキーム 放射スキームの改良他 2003 年 5 月積雲対流スキーム改良 2004 年 7 月海洋性層積雲パラメタリゼーション導入他 2004 年 12 月新長波放射スキーム導入他 2005 年 2 月セミラグランジュ移流スキーム導入他 2005 年 7 月雲放射スキームの改良 2007 年 11 月水平 / 鉛直解像度増 積雲対流トリガー関数導入他 4.2.3 台風進路予報本項では 前述の4つの数値予報センターの全球モデルの台風進路予報誤差を示す 誤差は 解析と予報間の台風中心位置の差 ( 距離 ) である 海域ごとに比較がなされており ここでは日本に関係する北西太平洋 (100-180 E 0-60 N) の成績を示す 図 4.2.2は 2 日予報と5 日予報の年平均進路予報誤差の3 年移動平均である 検証に使用した台風は各センター共通である 2 日予報では 1996 年頃から気象庁の台風予報精度が世界のトップレベルに並び その座を現在も維持している 1996 年には計算機の更新に合わせて水平 / 鉛直解像度を増やすとともに 台風予報に重要な積雲対流スキームをはじめ 放射スキーム 同化処理などで改善が図られた 1998-1999 年に予報誤差が一時的に大きい時期があったものの 着実な減少傾向が明瞭である 5 日予報も予報誤差を年々縮小し 2002 年にはトップのECMWFに並んだ 2005 年以降はECMWFに少し離されているものの引き続き誤差を減少させている 予報誤差 (km) 予報誤差 (km) 4 400 3 300 2 200 1 100 0 1200 1000 800 600 400 200 0 台風進路予報誤差 (2 日予報 ) 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 台風進路予報誤差 (5 日予報 ) 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 図 4.2.2 北西太平洋の台風進路予報誤差 (km) の経年変化 (3 年移動平均 ) 上段は2 日予報 下段は5 日予報 105

4.2.4 まとめ 気象庁の過去 10 数年の全球モデルの成績改善について 0hPa 高度予報誤差と台風進路予報誤差の 2 つの指標をもとに外国の主要センターと比較しつつ概観した 気象庁の全球モデルの 0hPa 高度予報については 1995 年から 2000 年にかけて顕著な改善が見られない時期があったが その後は概ね着実に改善している この間 データ同化手法の改良 衛星観測データを主とする観測データ利用の拡充 予報モデルの改良を着実に積み重ねてきた成果が現れている ECMWF を初めとする外国の主要数値予報センターも着実に改良を進めているため それらを上回ることは容易でないが 2002-2003 年に拡大していた差は最近ではかなり縮まっている 台風進路予報誤差 ( 北西太平洋 ) については 着実に誤差を縮小し 世界トップの ECMWF とも肩を並べる成績を確保している この予報精度向上を背景として 来年度から台風 5 日予報の実施が予定されている 昨年 11 月の全球モデルの更新に伴い 北半球では成績の改善が見られるが 南半球 (5 日予報 ) の改善は停滞気味である 更新後の全球モデルは計算機資源の使用量が非常に大きいため 新規開発項目の導入前の試験の機会が限られるなどの制約があるが 今後高分解能化に対応した観測データ利用の見直しや新規観測データの利用 またモデルの物理過程の改良等によりその性能を十分に発揮していきたいと考えている 106